月から聖杯戦争の勝者が来るそうですよ?(未完) 作:sahala
トントンお寺の
釣鐘下ろして 身を隠し
安珍清姫
今より千年以上の昔。
清姫は真砂の長者の一人娘として生まれた。清姫自身に特別な過去なんて無い。長者の娘として蝶よ花よと愛でられ、衣食住に何一つ不自由なく過ごしてきた。綺麗な着物も、美味しい食事も欲しいと思えば与えられた清姫に生活の不満は無かった。
強いて不満を上げるなら、外の世界を知る事が出来なかったこと。両親が清姫を大切に思うあまり、清姫が屋敷の敷地から出された事は無かった。
そんな箱入り娘として育てられた清姫が、屋敷の外の世界を見てみたいと思うのは当然の成り行きだろう。とはいえ、所詮は子供の憧れ。いずれは歳と共に消えていくだろう。彼女はやがて夫を迎え、子を成して次の世代へと繋ぐ。ただそれだけの存在だった。
―――そう。彼女の前に安珍が現れるまでは。
それは彼女が物心ついた頃からだろうか。彼女の屋敷に安珍という修行僧が毎年に一度、熊野への参拝の行きと帰りに一夜の宿を求めて訪れてきた。この珍客に清姫は大層興味を持ち、安珍が訪れる日には彼と話しをするのが日課だった。山伏として各地を巡った彼の話は、清姫にとって初めて聞くものばかりで、話上手だった安珍のお陰で実際にその場に行った様な気分になれた。
そんな安珍に心惹かれるまで時間はいらなかった。箱入り娘の清姫にとって家族や使用人以外で唯一の異性であったし、顔立ちの整った聡明な安珍は清姫でなくても魅力的な男性だった。
しかし、相手は仏道に身を捧げた修行僧。清姫は真砂の長者の娘。身分が釣り合わないと、清姫の父が許しはしないだろう。父にこの恋心を知られれば、父は安珍を二度と屋敷に招きはしない。そう思った清姫は誰にも―――安珍にすらも―――知られない様に恋心を押し殺した。安珍に会えない日が千年の時に思えても、安珍と話す時間が矢の様に過ぎていくのを感じても、自らの想いを抑えて、抑えて、抑えて抑えて抑えて抑えて抑えて抑えて抑えて抑えて抑えて抑えて抑えて抑えて抑えて。
そして、破綻した。
それは清姫が成人の儀を済ませた年の事だった。父から縁談を持ち掛けられた。相手は遠方の貴族で、朝廷にも覚えがめでたい家柄だという。清姫とは一度も会った事はないが、清姫の美しさを評判に聞いた貴族は、ならば是非と父に縁談を持ち掛けたそうだ。その話を聞いた時、清姫の心は揺れた。
何故? 何故一度も会った事のない相手と結婚しなくてはならないのか? 自分が庶民の様に好きな相手と結婚出来ないとは分かってはいる。しかし、どうして自分の外見しか見ないで結婚を決める様な相手と結婚しなくてはならないのか?
これで一族は安泰だ、と笑う父親の声が、どこか遠く聞こえた・・・・・・・・・。
「そして私は、その年に訪ねてきた安珍様に想いを告げたのです」
“貴方の事を愛しています。どうか私を抱いて下さい。もうじきこの身は知らない男の物になります。こうして貴方と会う事も叶わなくなりましょう。それを哀れと思うなら、どうか私を抱いて下さい。貴方の物にして下さい”
「安珍様は最初は驚いた顔をしましたが、すぐに優しい顔で私を諭しました」
“貴方の様な高貴な方がそんな事を言ってはなりません。自分は仏に仕える身。妻は娶らぬのです”
“それに日々、旅をして全国を巡る生活。いつ野で朽ちるかも分からぬ身です。その様な旅に、貴方を同行するわけにいきませぬ”
「それでも・・・・・・・・・私は、安珍様と添い遂げたかったのです」
そうして一晩中、首を横に振らない清姫にとうとう安珍は目をつぶって静かに頷いた。
“・・・・・・・・・分かりました。ならば、私は参拝の帰りに貴方を迎えに行きましょう。その時に改めて夫婦の契りを結びましょう”
「嬉しかった・・・・・・・・・安珍様が私を愛していて下さったていた。夫婦になろうと誓ってくれた。・・・・・・それなのに・・・・・・・・・!」
安珍は、迎えに来なかった。いつもなら参拝を終えて再び清姫の屋敷を訪ねる日になっても、一向に姿を現さなかった。そうして一日が過ぎ、また一日が過ぎ・・・・・・・・・三日が過ぎても安珍は清姫の前に現れなかったのだ。
「心配しました。病を患って歩けないんじゃないか? 道中で野盗に襲われんじゃないか? そう思うと、不安で不安で・・・・・・・・・」
そして清姫は屋敷を抜け出した。湧き出る不安を抑えきれず、父や使用人達の目を盗んで屋敷を抜け出したのだ。初めて出る外の世界は、清姫が知識でしか知り得ない景色に溢れていた。しかし、清姫はそんなものに眼中をくれずにひたすら歩く。
“きっと安珍様は近くにいる。ワケがあって歩けないのかもしれない。だから私が迎えに行かないと・・・・・・・・・!”
その想いを胸に、清姫はひたすら歩いた。運動もまともにやった事のない清姫は少し歩いただけでも足が痛くなったが、それでも清姫は歩いた。目指すは紀州の熊野神社。そこに行けば、参拝した安珍の足取りを掴めるだろう。そう思った清姫は通りがかかった行商人に熊野神社までの道を聞いた。一目で高い身分と分かる着物姿の清姫に驚きながらも、行商人は丁寧に熊野神社までの道筋を教えた。
“しかし娘さん、アンタの様なやんごとなき方が熊野のお宮に何の御用だい? 見たところ、お供もお連れしてない様だが・・・・・・・・・”
“人を探しているのです。安珍という僧なのですが、ご存知ありませんか?”
“安珍・・・・・・・・・? おお、思い出した! あのお顔が綺麗な坊様か! しかし、それならお宮に行くのは無駄でしょうな”
“え? それはどういう―――”
“その坊様は既に山を降りられた。つい先日、麓でお会いしましてな。これから奥州へ迎われると言ってましたぞ”
瞬間。清姫は頭を鈍器で殴られた様な衝撃に襲われた。
“・・・・・・・・・・・・・・・・・・え? 嘘。嘘ですよね?”
“嘘なもんか。長旅になるから、と色々と買っていかれたのですから”
お陰でこちらは儲かりましたがな、と行商人は呵々大笑していたが、清姫はもう聞いていなかった。行商人が言っていた事が理解できなかった。
(だって、安珍様は私を迎えに来てくれる筈で、今まで来なかったのは何か理由があった筈で、夫婦になると誓ってくれた筈で―――)
しかし、この行商人によると清姫の屋敷に立ち寄る事なく山を降りた。行商人が嘘をついている様子はない。それは、つまり。
(――――――嘘をついたのですね)
行商人に礼を言って、その場を立ち去る。清姫は胸の内に炎が灯るのを感じていた。今まで安珍と過ごしてきた時間が脳裏に浮かぶ。旅先の話をする安珍の横顔、自分の手を握ってくれた安珍の手、安珍の目、安珍の首筋、安珍、安珍、安珍、安珍安珍安珍安珍安珍安珍安珍安珍安珍安珍安珍安珍安珍安珍安珍安珍安珍安珍――――――!
“嘘をついて私を騙したのですね―――!”
その時から。清姫の心に、燃える様な
「それからどうやって安珍様を追い掛けたか・・・・・・・・・あまり、覚えていません。とにかく、安珍様が話していた街道や景色を思い出しながら、必死に駆け巡りました」
それは想像を絶する程の道程だったのだろう。13歳の少女が話に聞いた景色だけを頼りに、現代の様に舗装などされていない道を行く。普通なら途中で心が折れそうだ。しかし、清姫には苦にならなかった。安珍を追い掛ける。その事だけしか頭になかった清姫は、疲労も空腹も忘れて野を駆けた。途中、清姫を見かけた人間はいたが、鬼気迫る顔で走る清姫を恐れて誰も声をかけなかった。
「私は、ただ安珍様に聞きたかった。どうして嘘をつかれたのですか、と理由を聞きたかったのです」
それだけを胸に走り続け―――とうとう安珍に追いついた。河の岸部で渡し舟に乗ろうとする後ろ姿は、まさしく―――
“安珍様!”
清姫が叫ぶ。振り向いた安珍は、ギョッとした顔になり、慌てて渡し守に舟を出させた。
“待って! 行かないで、安珍様!”
上等な絹で織られた着物は過酷な旅でボロボロになっていた。草履は途中で落とし、裸足の足からは血が滲んでいた。それでも清姫は安珍を追い続け、岸部に辿り着く。舟は既に岸を離れ、泳ぎなど習った事の無い清姫はそこで足を止めざる得なかった。それでもせめて安珍の真意を知りたい、と清姫は大声で安珍に叫ぶ。
“どうして!? どうして私を迎えに来てくれなかったのですか!? どうして嘘などついたのですか!?”
安珍は―――ボロボロの着物姿で、夜叉の様な鬼気迫る顔の清姫に怯え―――大声で叫び返した。
“人違いです! 私は安珍などではありません!”
それだけ言い残し、安珍を乗せた舟は離れていく。とうとう清姫は膝をつき、その場に倒れ伏してしまった。清姫の背後から馬の蹄の音が聞こえて来る。いなくなった事に気付いた父が放った追っ手だろうか。しかし、清姫にはどうでも良かった。
“裏切られた――――――”
あれは間違いなく安珍だった。必死の思いで追い付いたというのに、また安珍は嘘をついた。
“安珍様は・・・・・・・・・あの人は、私の恋心を踏みにじった・・・・・・・・・!”
好きでないなら、はっきりと拒絶して欲しかった。期待などさせないで欲しかった。嘘をついた理由を言ってくれれば、まだ許せた。
“おのれ・・・・・・・・・おのれ・・・・・・・・・”
だが安珍はまた嘘をついた。理由すら告げず、逃げ出した。あの日、清姫に夫婦となる約束をした時の全てが嘘で塗り固めたものだったのだ。もしかしたら、と期待して追った清姫の全てが無駄になった。清姫の心に、どす黒い怨念の炎が燃え出す。
“オノレ、安珍―――!”
そして清姫の人間としての生が終わる。
“オオオオオオオオッ”
地獄から響く様な低い唸り声と共に清姫の姿が変わる。振り乱した髪は白く染まり、血走った目は完全に赤く染まる。
“オオオオオオオオッ!”
バキバキッと音を立てながら、清姫の身体が膨れ上がった。着物を突き破り、歪な形になった両手から鉤爪が、長く伸びた胴から全身へ蛇の様な鱗が覆い始めた。溢れ出る怨念は清姫を相応しい姿へと変えていく。
憤怒の炎で燃え上がる、巨大な蛇龍に。
“シャアアアアアアアアアアアアッ!!”
※
「それからの事は・・・・・・・・・伝説にある通りです。龍となった私は安珍様を再び追いかけ―――最後は、この手で殺めました」
曰わく。見るも恐ろしい姿となった清姫に安珍は必死で逃げ、道成寺の鐘の中に身を隠した。清姫は燃え盛る蛇身のまま鐘に巻きつき、安珍を焼き殺した。そして愛した男を手にかけた罪の意識に耐えかねたのか、はたまた今世で結ばれなくなった恋に絶望したのか―――清姫は、安珍の後を追う様に入水自殺した。
「これが、私の過去。後生の人に安珍・清姫伝説として語り継がれた、私の一生です」
そう言って、清姫は口を閉じた。華々しい活躍もなく、手に汗握る戦いもない。ただ恋に破れて妖怪変化しただけの英霊―――清姫の物語が幕を閉じた。
「・・・・・・・・・」
静かに聞き入っていた耀は、長い溜め息をついた。清姫の部屋に訪ねてから時計の針はあまり進んでいないというのに、随分と長く話を聞いていた気がする。
「そっか・・・・・・・・・バーサーカーは、あの清姫だったんだ」
その名前は耀にも聞き覚えがあった。昔―――まだ耀が歩けず、病院のベッドが世界の全てだった頃。父がお見舞い品に持ってきた絵本の中にその名はあった。
『安珍・清姫伝説』
古くは今昔物語集に書かれ、現代でも子供向けの絵本の他に能で演じられるなど、時代を通して幅広い層に読まれた物語。その主要人物が、いま耀の目の前にいる少女だった。
同時に耀の中で納得がいく事があった。バーサーカー―――清姫の精神性は、今まで耀が出会った超常の存在達と比べてずっと幼い。圧倒的な力と共に年季や風格を漂わせていた彼等に比べて、清姫にはそういう風格を全く感じなかった。しかし、それは当然だったのだ。何故なら清姫は、わずか13歳でこの世を去った少女だったのだから。そしてその時から彼女の中で時計の針は動いていない。
「死して、こうして英霊となった後でも・・・・・・・・・私には分かりません。安珍様は、どうして嘘をついたのか? 私の事が嫌いなら嫌い、と一言仰ってくれれば良かったのに・・・・・・・・・」
「それは―――」
耀は口を開きかけて、そこで考えてしまう。
指摘して良いのだろうか? 当事者ではない自分が言うのは、余計な御世話ではないだろうか?
でも、と耀は思い直す。ここで何も言わないのは、ただの逃避ではないか? 清姫に過去を話して欲しい、と言ったのは耀自身だ。その上で何も言わないのは不誠実だろう。それに―――真剣に悩んでいる事に対して、的確でなくてもアドバイスをするのは友達の役目だ。
「・・・・・・・・・きっと、安珍は清姫を傷つけたくなかったのだと思う」
「傷つけたくない? 私は嘘をつかれて悲しかったのに?」
「うん。そこは安珍が悪い。でも―――清姫の事を憎からずに思っていたと思う。だって清姫の事を考えていないなら、安珍は君を抱いてそのまま逃げていたと思う」
しかし、安珍ははっきりと拒絶した。情欲のまま、清姫の身体を好きに出来たのに、きっぱりと断って清姫を諭そうとしたのだ。それでも清姫が折れなかった為に、安珍は嘘をついて清姫の元を去ったのだ。
「私は安珍様になら、全てを差し上げても良かったのに・・・・・・・・・」
「だからさ、それが安珍には出来なかったんだと思う。清姫の事は好きだった。でもそれは、歳の離れた友人として。清姫に全部を捨てさせてまで、愛を受け止める事は出来なかったんじゃないかな?」
もしも、安珍が清姫の想いに応えていればどうなっていたか。残念ながら、幸せな夫婦生活とはならないだろう。まず清姫の父は旅の修行僧を夫に迎えるなど許しはしないし、駆け落ちしたとしても二人を草の根を分けても探し出す。そうしてお尋ね者となり、迂闊に人里に寄る事も出来ない逃亡生活は、箱入り娘だった清姫には酷なものとなるだろう。耀にもそのくらい簡単に予想できた。
「安珍が嘘をついたのは許されない事だとは思う。でも清姫の事が嫌いだから嘘をついたんじゃなくて、清姫に辛い思いをさせたくなかったから嘘をついて立ち去るつもりだったと思うよ。だから清姫、安珍は貴方が嫌いじゃなかったんだよ」
どうかな? と耀は清姫に問う。本当の事を言うと、自信がない。耀の推測は清姫の話を元にした物でしかないし、安珍がどう考えていたかは安珍自身しか知り得ない。しかし、それでも耀は自分の推測を信じたかった。だって安珍が清姫の事を何とも思っていなかった、という結末は悲しすぎるし、目の前の少女に救いがない。
耀がじっと見つめる中、清姫は目を閉じて静かに考え―――やがて、首を横に振った。
「やっぱり・・・・・・・・・分かりません。それでも私は、正直な気持ちが知りたかったのですから」
でも、と清姫は目を開ける。少しだけ。ほんの少しだけ、正気に戻った瞳で耀の方を向く。
「・・・・・・・・・せめて、安珍様をお怨みするのは止めようと思います。いつまでも怨まれたままでは、あの方も成仏できないでしょうから」
過去は覆らない。安珍は清姫を愛せずに嘘をついて逃げ出し、清姫は安珍に愛される事なく殺した事は不変の事実だ。
でも―――たとえ、愛されてなかったとしても。そして、自分の手で殺めたとしても。かつて愛した男の冥福を祈る事くらいは赦されたい。清姫にとって、燃える様な愛を抱いた初恋の相手だったのだから。
「・・・・・・・・・うん、そうだね」
耀は頷き―――少しして、意を決した様に口を開いた。
「ねえ、清姫。貴方はまだ安珍の事を探しているの?」
「それは・・・・・・・・・多分、違うと思います。安珍様じゃなく、でも安珍様と同じくらい大切な人を探していたと思います」
「―――その人の事だけど。私、もしかしたら知っているかもしれない」
耀の言葉に、清姫の目が大きく見開かれた。
※
―――“アンダーウッド”・???・地下室
ゴポゴポ、と水が煮え立つ音がする。ランプに照らされた薄暗い部屋の中、サウナの様な熱気が支配していた。
“・・・・・・・・・ブクダッタ・・・・・・・・・エタッタ・・・・・・・・・”
部屋の中から何やら呪文の様な言葉が聞こえてくる。部屋の奥、ゴウゴウと燃える竈の上には大きな鍋が置かれていた。鍋の中ではグツグツと液体が煮込まれ、湯気を立てている。鍋の大きさも相まって、魔女が秘薬の調合をしている様な光景だった。事実、鍋の前には魔法使いの様な格好をした人物が、
「泡立った~♪ 煮え立った~♪ 煮えたかどうか~混ぜてみよ~♪」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんとも調子外れの音程で歌っていた。
「うんうん、いい感じ。流石はあたしよね♪」
魔法使いの―――もっと有り体に言うと魔女っ娘の様な服装をしたエリザベートは、目の前で煮え立つ鍋に満足気に頷いた。
「今回のライブのテーマは、真夜中のハロウィンパーティー♪ ステージ衣装もバッチリ決まったし、後はシチューを作るだけね!」
上機嫌に鼻歌を歌いながら、エリザベートは買ってきた材料を次々と袋から取り出した。
「ちょっとアクシデントがあったけど、ちょうど真夜中の時間帯にライブをするなんてピッタリじゃない。それにお腹を空かすだろう
上機嫌に尻尾を振るエリザベート。ところで、ステージ衣装のまま料理を作る意味があるか? というもっともな
「ええと。料理の基本は砂糖、塩、酢、醤油、味噌よね?」
口に出した材料を手にして、少し考え―――
「ま、基本なら全部入れれば良いわよね」
分量を計らずに全て鍋に放り込んだ。
「次は野菜ね! 確かこの前に八百屋のおじ様から貰ったジャガイモが・・・・・・・・・何これ? 芽が出ているじゃない。ま、良いわよね。芽にも栄養がありそうだもの。人参は・・・・・・・・・何で人型? ええと、マンドラ・・・・・・コラ? 新種の人参かしら? ま、刻んで入れれば全部同じだから良いか。後は・・・・・・・・・そうそう、ペリュドンの肉があったわよね! 内臓もレバーと言うくらいだから、入れた方が美味しいわよね!」
(※ジャガイモの芽にはソラニン、チャコニンという天然毒素が含まれています。絶対に取り除きましょう)
バキッ、ザクッ、ドガッ!
何故か料理をしているとは思えない効果音を出しながら、エリザベートの調理は進んでいく。やがて、鍋の中身が暗褐色になり始めた。
「・・・・・・・・・なんか色が気に入らなーい」
不満そうな顔で鍋料理を見ていたエリザベートだが、すぐに手をパンと叩いた。
「そうだわ! 唐辛子を混ぜれば良いじゃない!」
そして買ってきた唐辛子の袋を全て鍋の中に入れて掻き回す。鍋の中身は今度は真っ赤に染まった。
「出来たわ! これぞ、“エリちゃんスペシャルシチュー”、アンダーウッド風よ!」
わー、パチパチと自分に拍手を送って料理(?)の完成を喜ぶエリザベート。しかし、すぐに悩ましげな顔になった。
「でも少し地味ね。なんかもうちょっと変わった料理に出来ないかしら?」
うーん、とエリザベートはしばらく考え込み―――
「あ、そうだ!」
※
「サラー、いるー? ちょっと借りたい物のが・・・・・・・・・って、何よ。いないじゃない。ま、良いわ。確か、この辺に・・・・・・・・・あれ? 鍵が開いてる? うーん・・・・・・・・・ま、いいか! 後で返せば問題ないわよね! サラにもシチューをご馳走してあげれば、むしろ誉めてくれるわね。きっと!」
指摘を受けたので、一部文章を差し替え。