月から聖杯戦争の勝者が来るそうですよ?(未完)   作:sahala

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 今回は説明回とでも言うべきですかね。

 それではどうぞ。


第2話「黒ウサギと追いかけっこですよ?」

 “サウザンドアイズ”の店内を抜けると、そこは見慣れたぺリベッド通りではなくなっていた。いつの間にやら支店は高台の上に移動し、その眼下からは見たことの無い街を一望できた。飛鳥は熱い風を大きく吸い込み、感嘆の声を上げる。

 

「赤壁と炎と・・・・・・ガラスの街・・・・・・!?」

 

 ―――そう。東と北を区切る、天を衝く様な巨大な赤壁。あれが境界壁だろう。

 その境界壁から削り出したであろう、朱色の石材で出来たゴシック調の尖塔群と巨大な凱旋門。街の中では色彩豊かなカットガラスの歩廊を、二足歩行のペンダントランプやキャンドルスタンドが闊歩して街を暖かな色で染め上げていた。

 ガラスと炎で彩られた煉瓦造りの街。それが箱庭都市の北側だった。

 

「へえ・・・・・・! 980000kmも離れているだけあって、東側と文化様式が異なるんだな!」

「ああ、なんと美しい街か! 余の創作意欲をくすぐられるものばかりではないか!」

 

 高台から見える絶景に、十六夜とセイバーが感嘆の声を上げていた。自分もまた、初めて見る街に胸の鼓動が高まっていく。煉瓦造りの建築物はアリーナやサクラ迷宮で見たことがあるけど、ゆっくりと散策する暇は無かったしな。

 

「ねえ! あの歩廊に行ってみましょう! 良いでしょう、白夜叉?」

 

 まるで遊園地に来た子供の様に目を輝かせる飛鳥に、白夜叉は苦笑しながら頷く。

 

「ああ、構わんよ。話の続きは夜にでも―――」

 

「見ぃつけたのですよおおおぉぉぉっ!!」

 

 ズドォン!! とドップラー効果のついた絶叫と爆撃の様な着地。

 慌てて振り返ると、そこには緋色の髪の毛を戦慄かせ、怒りのオーラを纏った黒ウサギがいた。

 

「フ、フフフフフフ・・・・・・!」

 

 怒りのあまりに脳内で変な麻薬が出ているのか、頬を引きつらせながら笑い出した。様子がおかしく黒ウサギから後ずさりしながら、隣にいる十六夜に問い詰める。

 

「おい、十六夜。黒ウサギに何をしたんだ? いつになく激怒してるみたいだけど」

「いや、な。“火龍誕生祭”の事を俺達に黙っていた罰として、置き手紙にコミュニティの脱退を仄めかしたんだけどな」

「・・・・・・それは悪質だな」

「あ、ついでにお前達の名前も書いといたから」

「はぁ!?」

 

 思わず目を剥く。何をして下さりますか、この問題児様は!?

 

「覚悟は良いですね、問題児様方・・・・・・!」

 

 ユラリと、こちらを見る黒ウサギ。確か帝釈天の眷属だったはずだけど、あれでは仁王そのものだ。

 

「ま、待った! 俺達は別に―――」

「逃げるぞっ!!」

 

 自分の弁明より先に、十六夜が動いていた。隣にいた自分と飛鳥を肩に担ぐと、あっという間に展望台から飛び降りた。

 

「お、俺は無実だあぁぁぁぁっ!!」

 

 ドップラー効果のついた絶叫を残しながら、十六夜に担がれて街へと飛び込んで行った。

 

 

 

「・・・・・・いないか?」

「ええ。多分」

「とりあえず大通りに出ようよ」

 

 黒ウサギから逃げた十六夜が身を隠したのは、高台から見えていたガラスの歩廊だった。店と店の間の隙間に身を隠し、周囲を伺う。黒ウサギの姿が無い事を確認して、自分達は大通りへと出る。

 

「それにしても、脱退を仄めかすのは良くないな。冗談にしてもやり過ぎだよ」

「う・・・・・・悪かったとは思っているわよ。でも黒ウサギだって私達に大祭の事を黙っていたから、ちょっとした意趣返しのつもりよ」

「まあ、悪戯にしては度が過ぎたとは思っている。こういう悪戯は、後で笑って謝れるくらいの冗談でないとな」

「まったく・・・・・・後で黒ウサギに謝っておけよ?」

 

 溜め息をつきながら服の埃を払う。十六夜に引きずり回されて随分と汚れたな。

 勝手に騒動に巻き込んだ事に思う所が無いわけではない。でもセイバーも退屈そうにしていたから、ある意味ちょうど良かったのかもな。

 

「それじゃ、黒ウサギに見つかるまで散策しましょう」

「コラコラ。人の話を聞いてた?」

「もちろん聞いていたわよ。今から店に戻っても、黒ウサギとは行き違いになる可能性が高いでしょう? それなら見つかりやすい様に大通りを散策した方が得策じゃない?」

 

 悪戯っぽい笑みを浮かべる飛鳥に、肩をすくめる。まあ、せっかく街へ繰り出したのだ。黒ウサギには悪いけど、散策してから帰っても良いだろう。自分とセイバーは、もともと無実だし。

 

「エスコートをお願い出来るかしら? 紳士のお二人さん」

「俺は以前、野蛮人と呼ばれた気がするけどな」

「あら? 細かい事を気にしていると素敵な紳士になれなくてよ?」

 

 違いない、と哄笑する十六夜。お互いに笑い合いながら、自分達は商店街を目指していった。

 

 

 

―――Interlude

 

 “サウザンドアイズ”支店内で耀と白夜叉、そしてセイバーは並んで縁側に腰掛けていた。主である白夜叉の趣味に合わせてか、縁側からは純和風の庭園を眺める事が出来た。

 十六夜達より逃げ遅れた耀は黒ウサギに捕まり、白野を追いかけようとしたセイバーは黒ウサギに「マサカ、逃ゲルツモリハアリマセンヨネエ?」と怒りのオーラをあてられて逃げ出すタイミングを失ってしまった。

 後にセイバーは、「あの時の黒ウサギなら覚者すら退けられたであろう」と語ったとか。

 「後デタップリトオ説教デスヨ」と言い残し、黒ウサギは街へと跳んで行った。今頃は血眼になって十六夜達を探しているのだろう。

 

「ふむう。事の経緯は分かったが、脱退とは穏やかではないのう」

「まったくだ。関係ない余達まで巻き込まれてしまったではないか」

「それは……悪かったと思っている。だ、だけど、黒ウサギ達だって悪い。お金が無い事を相談してくれれば、こんな強硬手段は取らなかった」

 

 そう言って耀は拗ねた様に顔を背けた。耀からすれば、友人である黒ウサギに隠し事をされたのが面白くなかったのだろう。

 そんな耀を、白夜叉は年の離れた孫娘を見るような優しい目で見ていた。

 

「ところで大きなギフトゲームがあると聞いたけど、本当?」

「おお、本当だとも。御主には是非とも参加して欲しいゲームもある」

 

 そう言って、白夜叉は懐から一枚のチラシを取り出した。そこには―――

 

 

『ギフトゲーム名“造物主達の決闘”』

 

・参加資格、及び概要

 

 ・参加者は創作系のギフトを所持。

 ・サポートとして、一名までの同伴を許可。

 ・決闘内容はその都度変化。

 ・ギフト保持者は創作系のギフト以外の使用を禁ずる。

 

・授与される恩恵に関して

 

 ・“階級支配者”の火龍にプレイヤーが希望する恩恵を進言できる。

  

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、両コミュニティはギフトゲームを開催します。

                           “サウザンドアイズ”印

                             “サラマンドラ”印』

 

「創作系のギフト?」

「うむ。北では、過酷な環境に耐え忍ぶ為に恒久的に使える創作系のギフトが重宝されておってな。その技術や美術を競い合うためのゲームがしばしば行われるのだ。そこでおんしが持つギフト、”生命の目録(ゲノム・ツリー)”は技術・美術共に優れておる。展示会に出しても良かったのだが、そちらは出場期限がきれておるしの。おんしの持つギフトであれば、力試しのゲームも勝ち抜けると思っての提案だ」

「白夜叉よ、何故それを早く言わなかった! もう少し早く余の耳に入っていれば、余の力作を展示会に出せたものを………!」

 

 悔しそうに歯噛みするセイバーに、耀は目を逸らした。セイバーが来てからというものの、暇を見付けては彼女が彫刻や絵画に精を出しているのは知っている。しかし、セイバーの芸術は、その………色々と前衛的過ぎるのだ。果たして展示会に出展しても優勝できたか。いやいや、それ以前に出展させて貰えたのだろうか? 

 その事を知ってか知らずか、白夜叉は苦笑しながら続ける。

 

「まあ、セイバー殿にはまたの機会にして頂くとして………どうじゃ? 参加してみんか?」

 

 う~ん、とあまり気乗りしないように小首を左右に振る耀。龍に興味があっても、ゲームそのものには興味が無いらしい―――が、ふっと思い立ったように質問する。

 

「ね、白夜叉」

「なにかな?」

「その恩恵で、黒ウサギと仲直りできるかな?」

 

 幼くも端正な顔を、小動物の様に小首を傾げる耀。

 それを見て驚いた様に目を見開く白夜叉。しかし次の瞬間に、温かい笑みで頷いた。

 

「ああ、出来るとも。おんしにそのつもりがあるならの」

「そっか。それなら、やってみる」

「そういう事なら余も参加するぞ」

 

 契約書類(ギアスロール)を一読していたセイバーが横から口を挟んだ。

 

「このゲーム、サポートとして一名の参加が許される様だな………。喜ぶが良い、余が参加すれば我等の優勝は確実だ」

「えっと、今回は私一人で………」

「いやいや、遠慮することはないぞ! もちろん余をサポートに付けるよな。 んん?」

「………いいえ」

「いやいや、遠慮することはないぞ! もちろん余をサポートに付けるよな。 んん?」

「………いいえ」

「いやいや、遠慮することはないぞ! もちろん余をサポートに付けるよな。 んん?」

(む、無限ループ………!)

 

 セイバーと耀が国民的RPGの様なやり取りをする中、外は日が登りきって昼を回り始めていた。

 

―――Interlude out

 

 

 

 商店街で一頻りウィンドウショッピングを楽しんだ自分達は、龍のモニュメントがある広場の前で休憩していた。体力的にはまだ疲れていないが、ゆっくりと街を見たくなったのだ。

 立ち止まって休憩している自分と飛鳥とは対照的に、十六夜は大きな翠色のガラスで作られた龍のモニュメントを珍しそうに眺めていた。やがて感心した様に十六夜は静かに呟く。

 

「驚いたな………こんな大きなテクタイト結晶、初めて見た」

「テクタイト結晶? ガラスではなくて?」

「いや、テクタイト結晶は隕石の衝突で生まれたエネルギーと熱で生成された希少鉱石だ。天然のガラスだな」

「隕石で生まれた鉱石………? それって、セイバーが持っている剣のこと?」

「あれは隕鉄。鉄とニッケル合金から出来た隕石そのものだ。こっちは地表の石や砂が急冷して固まったものだな」

 

 十六夜達の会話を耳に挟みながら、セイバーの剣を思い出す。

 余談だがセイバー曰く、「黄金劇場(ドムス・アウレア)を建造した時に空から大岩が降ってきて、余のインスピレーションにピンと来た。天から献上された鉄ならば余の剣にも相応しかろうと思ったのだ」とのことだ。

 

「それにしても、箱庭にも隕石は降るんだな」

「そいつだけどな………」

 

 しげしげとモニュメントを眺める自分に、十六夜が台座を指差す。そこを見ると、この像がサラという人が制作した霊造のテクタイト結晶の彫刻である事を示していた。

 

「霊造って………人為的に作ったのか? 隕石のエネルギーと熱が必要な鉱石を?」

「そういう事らしいな。皇帝様もどうせなら、これくらいの彫刻が出来ればいいんだけどな」

 

 何とも言えずに明後日の方向に視線をずらしてみる。セイバーの前衛芸術は今に始まった事ではない。月の聖杯戦争で出会った時から派手で豪華な装飾を好んでいた。問題は、それが極端すぎてけばけばしい物になりがちな事だった。

 

 

「ま、まあセイバーの芸術も時々すごいものを作るよ。その………二十回に一回くらいは」

「………それ、時々って確率か?」

「そういえば岸波くん、セイバーと協力して工芸品を作ろうとしてなかったかしら?」

「ああ、礼装のこと?」

 

 飛鳥に聞かれ、ずらしていた視線を戻す。

 “ペルセウス”のゲームの後、自分のギフトを把握する為に色々な物にコード・キャストをかける等と試行錯誤してみた。その過程でコード・キャストをその場で発動させずに、道具や場所に留めておける特性を発見したのだ。

 試しに呪文(コード)を少し変えて術式(プログラム)を展開したところ、コード:heal()はセットした地面へ踏み込んだ者に回復効果を与える魔術(キャスト)へと変化した。

 この特性を活かして道具に呪文をセットして、自分がかつて使っていた礼装を作ろうとしたのだが………。

 

「あれは結局、上手くいかなかったよ。道具にしようとすると、どうしても術式に耐え切れない」

「あら、どうして? “ペルセウス”のゲームの時に、ただの地面に展開できたと聞いたけど?」

「あれは任意の発動条件を満たした時に作動するトラップだからだよ。もう一つ言うと、一回きりの使い捨てだからさ。道具として作る以上、何回も使える物じゃないと意味ないだろ?」

 

 そう。それが礼装作りに直面した問題なのだ。礼装にする以上、半永久的に使える道具で無ければならない。しかし、その場で発動させる術式(プログラム)と何度も発動できる様に構築する術式とでは呪文(コード)の量が段違いだ。その為に、礼装として作った道具が入力された呪文に耐え切れずに自壊してしまう。ただの石や布では、呪文を恒久的に維持する素材にはならないのだ。

 

「素材を強化すればいいと思って、セイバーに魔力の籠った鉱石とかを加工して貰ったけど………“ノーネーム”の倉庫にそういった素材がとても少ない上に、質の良い物はほとんど残っていなかったよ」

ソフトウェア(コード・キャスト)の性能に、ハードウェア(礼装)が追い付かないってわけか。物になりそうなヤツは数が少なくて量産は出来ない、と」

「そ、そふ………? はーど………?」

 

 十六夜の喩えが分からないのか、頭に疑問符を浮かべる飛鳥。

 しかし十六夜の言う通りだ。礼装を量産できれば、“サウザンドアイズ”程に無いにしても“ノーネーム”の商業になると考えていた。現状では、それも夢物語だ。

 そういえばジンくんにこの事を相談をした時、彼はアテが無いわけじゃないと言っていたな。しかし現在の“ノーネーム”では、そのアテも期待できないらしい。

 

「十六夜君の言ってる、はーどとかは理解できないけど………先日にもらったギフトは数少ない成功例って事かしら」

 

 飛鳥が自身のギフトカードを手で弄びながら質問してきた。セイバーが飛鳥への友好の証と言って、とある礼装を協力して作成したのは事実だ。

 

「そういう事。セイバーによると素材は八百年物の霊木らしいし、我ながら上出来と言える一作だよ」

「ふふふ、期待してるわ。でもどうせなら、もう少し装飾の凝った物が良かったのだけれど………」

「いや、凝らせるとトンデモ物体になるよ? あれでもセイバーには抑えて貰ったデザインだし」

 

 術式(プログラム)は自分で構築できるものの、肝心の礼装の方はセイバーに作って貰うしかない。先程の十六夜の例で言うならソフトウェア作成は自分が担当し、ハードウェア作成はセイバーが担当している様なものだ。なので、あんまりな出来でない限りはセイバーの作成方針に口を出さないつもりだが………その、あんまりな出来を好むのがセイバーだったのだ。

 

「そ、そう。それはありがとう………」

「何にせよ、素材の流通ルートを確保しないと話にならないわけだろ」

 

 十六夜は足元を歩いていたキャンドルスタンドをつまみ上げながら話し出した。

 

「この北側は工業が発展してるみたいだし、ギフトゲームに勝って流通ルートを構築できるんじゃねえか?」

「それはいい考えだな。それだけでも北側に来る意味はあったな」

「だろ? 感謝していいぜ」

「冗談。もともとは黒ウサギにちょっかいを出したのが原因だろ」

 

 十六夜と軽口を叩きながら、自分達は観光を再開した。

 礼装のデザインは聖杯戦争時の物があるけど、どうせ作るなら違う形にしても良いかもしれない。今度、セイバーに彫刻を習ってみるのも良いな。

 そう考えながら、煉瓦とカットガラスで彩られた歩廊へと歩き出した。

 

 

 

 




白野、礼装を作るの巻。

コード・キャストの設定や例え方は、筆者の独自解釈が多分に含まれています。
飛鳥に送ったギフトは、次あたりに紹介できると良いなあ・・・。

それでは次回もお楽しみに!

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