月から聖杯戦争の勝者が来るそうですよ?(未完) 作:sahala
そんな気持ちで出来た第1話です。
追記
*一部キャラ崩壊注意
第1話「岸波白野は記憶が無いそうですよ?」
気付いたら、そこは上空4000メートルだった。
いきなり何を言ってるかと思われるだろうが、それが事実だから仕方ない。
そして最も重要なのが……いま地上に向かって落下してる最中だという事だ。
「~~~~っ!!」
驚きの余り、声にならない絶叫が口から洩れる。耳元ではびゅうびゅうと風の音がする。
確か、重力加速度が9.8m/s^2だから、自分が地面に叩きつけられる時の衝撃は……。
そこまで考えて止めた。どの道、人間が無事に着地できる高さじゃない。
訳が分からない状況なのに、自分でもイヤに落ち着いている。
その理由は、考えるまでもなく目の前の少年のお陰だろう。
「ヤハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!」
学ランを着てヘッドホンをした自分と同世代くらいの少年は、今が人生で最高の瞬間だと言わんばかりに大笑していた。
他にも育ちの良さそうなお嬢様、三毛猫を抱いた大人しそうな女の子が二人、自分の様に地面めがけて落下していた。とはいえ、その二人は突然の出来事に驚愕した表情を浮かべており、この状況を心底楽しんでいるのは少年だけだ。
人間、目の前で奇妙な事をしている人がいると逆に冷静になるものだなあ、と悠長に考えていた時――ボチャン、と湖に着水していた。
予想よりも遥かに軽い衝撃だった事に違和感を感じながらも岸部に向かって泳ぐ。
途中で溺れていた三毛猫を助けて水から上がると、目の前には三毛猫を抱いていた女の子がいた。
「三毛猫を助けてくれてありがとう」
どういたしまして。君も怪我は無い?
「ううん、私は平気。三毛猫は?」
すると三毛猫は大丈夫だと言わんばかりにニャアと鳴いた。
「良かった……」
ほう、と安堵を漏らす女の子。
2人(1人と1匹?)に怪我が無い様なので安心していると、離れた場所で後の2人が罵詈雑言を吐いていた。
「信じられないわ! 問答無用で引きずり込んだ挙句、空に放り出すなんて!」
「右に同じだ、クソッタレ。石の中にでも呼び出された方がまだマシだ」
お嬢様風の女の子とさっきの少年はそう言いながら、濡れた服を絞っていた。
あと石の中に出たら動けないですよ?
「俺は問題ない」
さいですか。不敵に笑う学ランの少年から目を離し、自分もたっぷりと水を吸ったブレザーを脱ぐ。
「ここは何処なんだろう?」
三毛猫を抱いていた女の子が、ノースリーブのジャケットを絞りながら呟いた。
「さあな。落ちてる最中に世界の果てっぽいのが見えたし、どこぞの大亀の背中じゃねえか?
一つ確認したいんだが、お前達にも変な手紙が来たか?」
手紙? 一体、何のことだろう?
そう思ったのは自分だけの様で、他の2人は当然とばかりに頷いた。
「そうだけど、"お前"は止めて。私の名前は久遠飛鳥よ。そっちの猫を抱いてる貴女は?」
「……春日部耀。以下同文」
「よろしく、春日部さん。そっちの貴方は?」
そう言って、お嬢様――久遠さんは俺の事を指差す。
俺は岸波白野。よろしく、久遠さんと春日部さん。
「ええ、よろしく岸波くん。最後に、野蛮で凶暴そうなそこの貴方は?
「見たまんま野蛮で凶暴そうな
粗野え凶悪で快楽主義と三拍子揃った駄目人間なので、
用法と用量を守った適切な態度で接してくれお嬢様」
「そう。取扱説明書をくれたら考えてあげるわ、十六夜くん」
久遠さんの対応に、ケラケラと笑いながら応じる十六夜。
そして我関せずと無関心そうな春日部さん。
うん、何だかすごく濃い人達と一緒に厄介事に巻き込まれたみたいだ。
―――Interlude
(うわあ……1人を除いて問題児ばかりみたいですねえ……)
湖に落ちてきた4人をずっと見ていた少女は、茂みに隠れながら溜息をついていた。
少女の名前は黒ウサギ。外見は扇情的なミニスカートとガーダーソックスを身に纏った可愛らしい少女だが、『箱庭の貴族』と呼ばれる強力な一族の末裔だ。何を隠そう、彼女こそが岸波達を箱庭に招いた張本人である。
(でも、我がコミュニティの為にもここで引くわけにいきません)
現在、黒ウサギが所属しているコミュニティはある事情から後の無い状況に追い込まれていた。今回、彼女達が異世界からの召喚という思い切った手段に出たのも状況を打破できる人材を求めての行動だ。
(
黒ウサギは改めて召喚した4人を観察する。いきなりの状況に慌てない精神は4人とも及第点だ。
ただ一つ気掛かりな事があった。
逆廻十六夜、久遠飛鳥、春日部耀。彼等3人は主催者の触れ込み通り、強力なギフト所持者としての風格を漂わせていた。
しかし岸波白野と名乗る少年からは、そういった気配が感じられない。
ブラウンの学生服を着た、凡庸な少年。
それが黒ウサギの第一印象だ。これが街中ならば気にも留められずにすれ違っていただろう。
そのはずだというのに―――。
(何故でしょうか。あの御方は「月の兎」として最大の敬意を払わなければならない。
そんな気がするのです)
―――Interlude out
「で、呼び出されたはいいけど何で誰もいねえんだよ。この場合、招待状に書かれた箱庭の事を
説明する人間が現れるもんじゃねえのか?」
待ってくれ、十六夜。さっきも言ってたけど招待状って何のことだ?
「あら? 岸波くんはあの手紙を受け取ってないの? それならどうしてここにいるのかしら」
それは、と久遠さんに答えようとした時に気付いた。
自分は招待状の事どころか、落ちてくる前に何をしていたのか、全く覚えていない……?
「白野? 大丈夫?」
様子が可笑しい事に気付いたのか、春日部さんが心配そうに顔を覗き込んだ。
「ふうん……何か事情があるみてえだな。
その辺を含めて、そこに隠れてる奴に事情を聞くか?」
そう言って十六夜が視線を向けた先には、ビクッと震えたウサギ耳が茂みから覗いていた。
というかウサギ? 何で?
「なんだ、貴方も気付いていたの?」
「当然。これでもかくれんぼは負けなしだぜ?」
「……風上に立たれたら嫌でも分かる」
三者三様に隠れて見ていた人間に気付いていたみたいだ。
しばらくすると、愛想笑いを浮かべたウサ耳少女が茂みから出てきた。
「や、やだなあ御三人様。そんなに睨まれたら黒ウサギは怖くて死んじゃいますよ?
ええ、ウサギは古来よりストレスに弱い生き物なのです。
そんな脆弱な黒ウサギに免じて、ここは一つ穏便に御話を」
「断る」
「却下」
「お断りします」
「あっは、取りつくシマもございませんね♪」
バンザーイと言わんばかりにお手上げするウサ耳少女。だが俺はある一点のみが気になっていた。
「あ、あの何か? あまりジロジロと見つめられると黒ウサギも恥ずかしいのですが……?」
見ていたことに気付かれたみたいだ。ならば躊躇うまい。いま俺がやるべき事は―――!
「ええと。それでは、フギャ!?」
全力でウサ耳をモフる!
「ちょ、ちょいとお待ちを! 承諾なしにいきなり黒ウサギの素敵耳を触るなんて、
どういう了見ですか!?」
モフモフ。全てはこのウサ耳が悪いのですよ。モフモフモフ。あ、サラサラとして気持ちいいですね。モフモフモフモフ。
「毎日のお手入れはかかしませんから、って触るのを止めてくださいまし!」
「このウサ耳って本物?」
そう言って春日部さんは右のウサ耳の根本を掴む。
「って何で力いっぱい引き抜こうとしてるのですか!?」
「好奇心の為せる業」
「自由にも程があります!」
コラコラ、春日部さん。ウサ耳を乱暴にしてはいけない。古来よりウサギは愛でるものだ。
「ん、分かった」
「だから2人とも耳を触るのを止めて下さいってば!?」
「へえ? このウサ耳は本物なのか?」
今まで見ていた十六夜が左のウサ耳を掴む。
「……。じゃあ私も」
どうぞ久遠さん。一緒に黒ウサギの耳を愛でるとしましょう。
「ありがとう、岸波くん。それと飛鳥で結構よ、実家を飛び出してきた身ですもの」
「……私も、さん付けでなくていい」
分かったよ。飛鳥、春日部。
「ちょ、親交を深めるのは結構ですけど、
黒ウサギの耳を触るのは止めて下さいってばーっ!!」
アバター『岸波白野』作成完了。
記録データの移行にエラーが生じました。
至急、対応策を講じる必要があります。
これより、『箱庭』の観察を開始します。
プロローグを投稿して一日と経過していないのに、もうお気に入り登録をしてくれた人がいてびっくりしています。同時にすごく嬉しかったです!
白野はワケあってレベル1の状態にしました。と言っても、これから白野のギフトで活躍できる様にしていくつもりです。
それでは、ここらで失礼をば。