その身に咲くは剣の花   作:ヤマダ・Y・モエ

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投稿が遅れて申し訳ありません。
大学生活が始まり、一人生活が始まると何かとこれを書く時間というものがあまりなく、こうして遅れてしまったわけです。
いざとなればストックしてある三つを週一で投稿します。
そうですね、一週間に一度の割合で水曜の夜九時ジャストに投稿されていたら、「あ、作者は忙しいんだな」と思ってください。


第十二話

 

 外出許可は意外にもあっさりと取れた。

 紫蘭が頼んだら俺と同時にすぐだった。本人は「まあ、あたしにもコネがあんのよ」と言っていたな。教師から即座に外出許可取れるとは一体どんなコネなのだ。

 どんなコネだろうと、外出許可が取れたことは喜ばしい事だ。期間は一日。森で野宿して早朝に霊術院に戻るという予定だ。そこで瞬歩の鍛錬をするのだ。確かに、森の中で瞬歩をするのは意外と難しい。俺が瞬歩を覚えたての頃、木に頭をぶつけたのが良い例だ。少しでも加減を間違えると木にぶつかってとても痛い。だから、瞬歩の鍛錬をするにはもってこいの場所だ。

 

「さあ! 早く行くわよ!」

 

 紫蘭は外出許可を取れたその日から機嫌がいい。森での野宿が楽しみなのだろうか。実際に生活していた俺だから言うが、狩りが終わると本当に何もやる事が無い。やる事と言ったら刀を手に馴染ませ、ひたすら振るぐらいだ。その延長で邪魔な木を問題ない範囲で斬り倒したりもしていたな。それぐらいだ。偶に仕掛けた罠の補修に行ったりもするがそれも週に一回ぐらいの頻度で、それも終わってしまえばあとは寝るだけという、実は学院生活よりも簡素な生活だ。まあしかし、常に命の危険と隣り合わせという生活はそれだけで日々の生活が濃くなるのだがな。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 俺が以前住んでいた森とは別の森に着いた。俺の住んでいた森は以前のあの戦いで焼け、今は生物が住める所では無くなってしまっていた。退院してすぐに森に向かったのだが、俺の予想をはるかに超えて真っ黒だった。コンブの火力を侮った訳ではないが、これほど被害が出るとは思わなかった。この森が再生するのに百年は掛かると思うと、若干申し訳ない気持ちと共に故郷を無くしたような寂寥感を感じた。

 俺の気持ちはどうでもいいが、以上の理由から今日野宿する森は俺も知らない別の森である。知らない森でも勝手は同じだと思われるのでそこまで問題としていないがな。とりあえず拠点に出来るような広い場所を探してそこに荷物を置く。俺は浅打、紫蘭は……色々。女は荷物が多いと出掛ける前に清之介が言っていたがどうやら本当の事らしい。しかし、色々と言っても紫蘭の事だ。大方その荷物の中身は包丁やまな板と言った料理に使う物や、手拭いなどの実用品ばかりだろう。

 

「じゃあ、早速瞬歩の鍛錬ね」

 

 荷物を置いて焚火の用意をし、早速瞬歩の鍛錬に入る。と言っても、ただ瞬歩するのも面白くない為、序でに昼食で食べる為の食料集めも兼ねる。

 

「そうね。じゃあ、獲れた食料に応じて得点を付けましょうか。キノコや木の実は一点。肉は二点ね。魚はちょっと難しいから三点にしましょう」

 

 肉が二点か。つまり、兎を重点的に狩れば効率がいいということだな。肉も増えて点も増える。まさに一石二鳥だ。

 

「あ、でも減点があった方が面白いわね。じゃ、兎を狩ったら減点十点ね」

 

 と、ここで何故か紫蘭から兎禁止令が出た。何故だ。立派な栄養源をみすみす見逃すとは一体何を考えているんだこいつは。兎は肉だぞ。肉が目の前をうろついていたら捕まえて食べるだろ、普通。

 いくらなんでも狩猟生活の常識をブチ壊すようなこの意見は俺も否定せざるを得なかった。

 

「……え、却下? いや、待ちなさいよ。じゃあ、何? アンタは兎を狩ってそれを食べるっていうの?」

 

 肯定。

 というか、肉が目の前を歩いていたら食べるだろ常識的に考えて。無論、そこに種類による差別は無い。俺は本当に切羽詰まっていたら人間の肉も食べれる自信がある。流石にそれは本当に死にそうなときだけだが。

 

「お、落ち着きなさい。冷静になって考えてみれば分かる筈よ。兎を狩るよりも猪や熊を狩った方が肉の量は多いのよ? それに、何もあたし達はずっと此処で暮らす訳じゃないわ。今日一日、今日一日だけなのよ? なら小さいのチマチマ狩るよりは大きいの一匹狩った方がいいと思わない?」

 

 その意見はご尤もだが、それだと初めに言った勝負方法が意味の無い物になると思うのだが。得点を競うということはそれなりの獲物の量が必要になるのだが、今日一日分の食料となると紫蘭が言ったように猪や熊を狩ってくれば済む話だ。得点で競い合う意味が無くなる。その辺りの事を紫蘭は理解して言っているのか? いや、理解していないだろうな。今も「完全論破!」と俺に指を突き付け胸を張っているのだから。紫蘭らしくない。こんな自分の発言と矛盾する様な事を言ってしまうほど焦燥するとは。……いや、待て。そもそも何故彼女は焦っているのだ? 先のやり取りに何か焦る要素があったか? ただ兎を狩るか狩らないかでどうしてここまで焦り、話しをややこしくするのだ?

 

「とりあえず、兎を狩ったら減点よ。いいわね?」

 

 また兎を狩らないように念押しか。これではまるで兎を守っているようにも感じるな。

 ……ああ、成程。そういうことか。

 答えに達した。そういう事なら、今後長期に渡って狩猟生活するのであれば許されない事だが、たった一日の狩猟生活、それぐらいの選り好みは多めに見よう。

 

「な、なによ、その生温かい目は……」

 

 いや何、いつも鍛錬鍛錬と周りの女に比べるまでも無く女っ気のない紫蘭だったが、こうして女らしい一面を見ると思わず暖かい気持ちになるのだ。なんというか、あれだ、ほっこりする。

 

「き、気持ち悪いわね……。早く狩りに行くわよ!」

 

 そういうと紫蘭はズンズンと一人で狩りに行ってしまった。張りきるのは構わないが、森は意外と迷いやすい為、拠点から出ていく時にはそこらの木に分かるように印をつけていかなくてはならないのだが、大丈夫なのだろうか。まあ、紫蘭の事だ。何も考えなしには飛び出さないだろう。……大丈夫だとは思うが、一応、念の為に印をつけておくか。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「あははっ! 大量、大量よ!」

 

 瞬歩を駆使しての狩りは結果だけで言えば紫蘭の圧勝だった。

 紫蘭の得点、十八点。対する俺は四点だ。どうしてここまで大差が付いたのか。それは獲った獲物の違いだ。紫蘭はキノコや木の実が十五個、魚が一匹。俺は猪と熊、合わせて二匹。いくら俺の方が得物が大きくても得点では紫蘭の圧勝である。勝負に勝って試合に負けるとはこのことか。

 いやしかし、まさかこんな勝ち方があったとは。俺は肉に捕らわれ過ぎていたのかもしれない。俺が矛盾と言った彼女の発言は彼女の中では別段おかしなものではなかったということか。キノコや木の実であれば十個以上あったとしても食べきれる量だ。紫蘭は初めからこの手段で勝つ気だったのだろう。

 しかし、勝ったのは数字上だけの話だ。実際にこれを食べろと言われたら、俺は食べれない事は無いが、進んで食べてみたいとは思わないな。

 

「ちょっと、何やってんのよ。あたしの採ってきたキノコを二つに分けて。……え、コレ毒なの?」

 

 キノコと木の実を合わせて十五個、その内の七個が毒入りだ。食べたら笑いが止まらなくなるものや、痺れて動けなくなるもの、その時々で違う症状がでるもの、刺激を与えたら爆発するもの、様々な危険物が勢揃いだ。よくここまで危険物を集めたものだと逆に感心してしまう。

 

「へぇ、これが毒キノコなの。アンタは食べた事があるわけ?」

 

 勿論だ。笑ったり痺れたり忙しい時期もあった。今や懐かしき良い思い出だ。

 

「そこでなんで思い出に浸れるのか分からないのだけど、まあいいわ。それより、この猪と熊って血抜きしてあるの?」

 

 背負った時に血が付くからまだやっていないな。

 食事の準備で一番何が厄介かというと、それは血抜きだ。血の臭いで獣が集まり、よく戦闘になったりもしたな。それとは関係なく、今は片腕の為、色々作業の効率が悪いというのもある。片腕で動物を木から紐を使ってぶら下げるのはとてもやり難い。口を使わなければとてもじゃないが紐も結べない。

 なので、今日はこの作業を紫蘭に一任しようと思う。何、首を斬り落として紐で吊るすだけだ。難しい作業じゃない。

 

「いや、別に良いんだけど、その間アンタは何をすんのよ?」

 

 何をするの、か。それは勿論、血の臭いによって集まってくる獣たちの対処だ。斬ればそれによってまた血が流れ、獣が寄ってきてしまう為、素手で相手をしなければならない。と言っても、まったく問題は無い。片腕でも首を圧し折ったり、背骨を叩き折るぐらいはできる。兎に角、なるべく血を流させないように追い払うか殺さなくてはならない。

 

「そう。あ、血抜きしてる間、あたしもそれ手伝って良い? 白打の良い鍛錬になりそう」

 

 血抜きをするのなら問題は無い。それに、獣に囲まれた状態での白打は確かに良い鍛錬になるだろう。反射神経も鍛えられる。少なくとも、俺の白打の師匠はこの獣たちだった。

 

その後、予想通り狼や熊など、多くの獣が集まってきたが、俺と紫蘭は白打に戦闘不能にして追い払った。安全が確保できるまで戦ったので、かなり多く戦ったが、お互い無傷で無事拠点に戻る事が出来た。

 

「動物の連携を嘗めてたわ……。アンタが斬術や白打が得意な理由がちょっとだけ分かった気がする」

 

 紫蘭は疲れていたが、逆にこんなもので疲れていたら森で一夜は過ごせない。夜になって焚火が消えてしまった時には再び焚火を付ける間もなく獣たちと連戦連闘だ。日が昇っているうちは殺さないように追い払う余裕はあっても、夜にはそんな余裕などない。獣がこちらとの実力差が分かるまでずっと戦い続けなければならない。正直、初めの頃は生きた心地がしなかった。

 

血抜きが終われば後は簡単だ。毛皮を剥ぎ、内臓を取り、ばらす。これだけである。内臓を取るという作業も血抜きに次いで面倒な作業だが、内臓は紫蘭の『赤火砲』で焼いたり『衝』で吹き飛ばす。こうしておけば獣は寄って来ないし、吹き飛ばした内臓は獣が勝手に処理してくれる。

こうして飯の準備を終え、他の獣に奪われないように高い木の上に乗せておく。

 

「さてっと。じゃ、本格的に瞬歩の鍛錬、始めましょうか」

 

 一日だけの森での野宿生活は、まだ始まったばかりである。

 

 

 

 

 

本日の収穫

・猪の肉

・熊の肉

・食べれるキノコ

・毒キノコ

・食べれる木の実

・毒入り木の実

・紫蘭の新たな一面

 


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