真剣で私に恋しなさい! MA   作:x.i.o.n

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皆さん長らくお待たせしました
今回は美哉達は戦いません
それではどうぞ!


第15話~第1・2試合開始~

 

――第1試合 九鬼軍対松永軍

 

九鬼軍の主力のメンバーは忍足あずみに紋様、英雄様や助っ人枠での参加となった桐山鯉他従者2名

 

智将に葵冬馬、その護衛としてユキがいる

 

桐山鯉や忍足あずみなどの強力な将はいるものの絶対的な決定力を持たない九鬼はそのカリスマで持って最大勢力を持つに至っている

 

武力こそが全てではないという典型例とも言えるだろう

 

対する松永軍はマスタークラスである松永燕を筆頭に学園の有力者数名を従えている

 

いずれも他者とはあまり群れない一匹狼な連中たちだ

 

その中で異彩を放つのは板垣辰子に板垣亜巳、そして……

 

「まさかあやつが参加してくるとはのう」

 

「フン、最近の川神の強い気に中てられて血が騒いだのか、野獣よ」

 

四隅に散らばって審判をしている学長と師匠が呟く

 

そう、最後の外部助っ人最後の1人は釈迦堂刑部その人だった

 

これには誰もが予想できず試合前にルー先生が釈迦堂さんに詰め寄ったほどだ

 

え、釈迦堂さん就職したんじゃなかったのかって?

 

何でも『店が改装するってんで暇になっちまったんですわ』とのこと

 

運がいいというか悪いというか

 

でも、これで松永軍の決定力は大幅に上がることになった

 

基礎が疎かと言ってもそこら辺の学生風情が釈迦堂さん相手に勝てる筈もない

 

桐山とあずみが束になって掛かっても足止めが限界だろう

 

となると勝負の行方は燕さんをどう抑えつつ相手の旗を倒せるかにかかっている

 

これがもし大将を倒せだった場合、九鬼に勝ち目はなかっただろう

 

せいぜい壊滅判定に持ち込む他なかった

 

両軍布陣が整いあとは試合開始の合図を待つばかりとなった

 

「では、両者これより試合を開始する」

 

開始の合図を上げるのは天姉だ

 

笛を片手にもう片方の手を垂直に伸ばす

 

「試合……開始!」

 

ピーッという笛の音を合図に両軍が一斉に動き始めた

 

まずは松永軍がある程度の陣を敷きつつ九鬼軍に突っ込んでいく

 

それに対し九鬼軍は木製の大盾を前方に展開し、その後ろから弓兵部隊が松永軍に斉射を開始する

 

しかし……

 

「当たりませんねぇ」

 

「みんな足が速いのだー」

 

ユキと葵がぼやいた通り彼らの足の速度は尋常ではなかった

 

松永軍の構成人員の殆どが運動系部員でその中でも運動神経の良い人間を取り揃えている

 

更に少人数の部隊であるためその速力は並みの軍では到底追い付けない速度になっていた

 

「背後に回り込んで!」

 

「周囲に方形陣を敷いてください」

 

燕先輩の指示で松永軍兵士が九鬼軍の背後を取ろうとするもそれよりも先に葵の指示通りに九鬼軍の兵士たちが方形陣を敷く

 

普通の学生レベルじゃない練度だ

 

恐らく何日もかけて兵を調練したに違いない

 

「こりゃ強固な守りですわ」

 

「うーん、ここまで練度が高いなんてちょっと想定外かなぁ」

 

釈迦堂さんが言う通り九鬼の守りは強固なものになっていた

 

周りを先ほどの大盾部隊が囲み歩兵たちの侵入を阻む

 

その分、攻勢に出にくいという面があるものの弓兵部隊がじわりじわりと松永軍の戦力を削っていってる

 

燕さんは旗の近くでそれを見守っていたがやがて意を決したように釈迦堂さんの方へ顔を向けた

 

「アレ……突破できます?」

 

「それくらいはお安い御用だ嬢ちゃん」

 

釈迦堂さんは一つ頷くと腕に気を纏わせ始めた

 

アレは釈迦堂さんの得意技のリングだろう

 

「そら、喰らいな!」

 

全力ではないものの師範代レベルのリングは相当な威力になる

 

あれを受けては木製の盾なんて一瞬のうちに粉々になってしまう

 

「そう簡単にはやらせねぇよ!」

 

飛んできたリングにあずみが陣の中から跳躍してリング目掛けて石礫を投げた

 

ただの石礫ではなく爆薬が仕込んである石礫だ

 

リングと石礫が接触した瞬間石礫は爆発する

 

しかし、その程度のことでリングは止まらない

 

「それでは私の出番ですね」

 

次にリングの前に現れたのは桐山鯉

 

序列こそは40番台であるものの彼の足は壁を超えるかもしれないとまで言われている

 

その足技で以ってリングを上方へと蹴り飛ばした

 

「おいおい、マジかよ」

 

かなり威力を絞ったとはいえ上へ弾かれるとは思っていなかったのだろう

 

釈迦堂さんは少々驚いたような顔をしていた

 

でも、鯉単体の力だけでリングを上へ弾けたんじゃない

 

あずみの石礫が多少なりともリングの勢いを減衰させたからこそできたことでもあった

 

「遠距離からの攻撃が無理なら……」

 

釈迦堂さんが構えを取ると一瞬で鯉に肉薄した

 

「グッ!」

 

さしもの鯉といえど釈迦堂さんに接近されてしまってはそう長くは持たない

 

圧倒的な拳の乱打が少しずつ鯉の守りを破ってきていた

 

「忍足流・剣舞五連!」

 

そんな鯉と釈迦堂さんの攻防にあずみが横合いから奥義で以って割り込んできた

 

あずみの必殺技ともいえる剣舞五連はあまりの速度にほとんど同時にも見える攻撃だ

 

「おっと」

 

そんな攻撃も釈迦堂さんには当たらない

 

一気に後ろへ飛び退けることであずみの攻撃を避けた

 

それでも鯉から釈迦堂さんを遠ざけることができた

 

「助かりました」

 

「気にすんな」

 

鯉の隣に立ったあずみさんに鯉が礼を言うとなんでもないような顔で返されていた

 

鯉は苦笑いで返していたけど…

 

「ならこれでどうだ? 川神流無双正拳突き!」

 

そうこうしている間に釈迦堂さんが空けていた距離を詰めて来ていた

 

しかも川神流の奥義でもある正拳突き

 

あの技は一見ただの右ストレートにしか見えないが威力は桁違いに高く、多くの武道家達を屠ってきた必殺技でもある

 

右ストレートのみで敵を屠るというその豪快さから姉さんが好んで良く使う技でもある

 

「その技なら…」

 

「…データにあります!」

 

一瞬で左右に別れるあずみと鯉の2人

 

姉さんが多用する技だけあってその技については既に豊富なデータが九鬼にはある

 

例え矛先がどちらかに向いてももう一方が釈迦堂さんに攻撃できるというわけだ

 

「だろうと思ったよ、だが……」

 

「ッ!?」

 

「むっ!」

 

左右に避けた二人に対して釈迦堂さんが分身し、二人に肉薄した

 

恐らくあれは気で作った人形

 

っていうか……

 

「私の技を盗んだんだあの人」

 

釈迦堂さんの才能は師匠すらも認めたものだ

 

だからこそ盗むことができたんだろう

 

分身と本体があずみと鯉の両方に迫り、正拳突きが直撃した

 

その圧倒的な威力に2人は後方へ弾き飛ばされる

 

「これで邪魔が無くなったぞ、そら!」

 

蹴りの一撃で大盾を持つ生徒を弾き飛ばす

 

一応加減はしてあるみたいで盾は粉々に砕け散ったけど持っていた人間に怪我はあまりなかった

 

「やらせるな! 皆で囲んで倒せ!」

 

「おいおい、そんなんで俺を倒せるとでも?」

 

四方から釈迦堂さんを取り囲んで生徒たちが攻撃を仕掛ける

 

しかし攻撃が当たったとしても大してダメージが通らない釈迦堂さんに九鬼軍の兵士たちの士気は確実に落ち込んでいるのが分かった

 

釈迦堂さんはどんどん旗に近づいていき遂には傍近くまで接近を許してしまっていた

 

「手間取ったがこれで終いだ!」

 

突き出された拳に旗を守る者は誰もおらず、そのまま旗は釈迦堂さんによって折られた

 

「勝負あり! 勝者松永軍!」

 

天姉の声が戦場に響き渡り第1試合はこれにて決着となった

 

勝った松永軍には勝者の拍手を

 

負けた九鬼軍にも健闘の拍手が送られていた

 

「続いて第2試合を行います、試合に出る生徒は所定の位置に集合してください」

 

アナウンスが聞こえると途端に会場の皆がざわめき始める

 

なぜなら次は川神軍対源氏軍だからだ

 

武神対英雄の戦いは余程見物なんだろう

 

「あーモモ先輩、はしゃいじゃってまぁ」

 

キャップが校庭にいる姉さんを見つけたらしく少々呆れた顔で呟いた

 

姉さんの顔を見てみると新しい玩具を見つけたみたいな顔をしていた

 

これには皆もキャップと同じ意見らしく苦笑いする者、肩を竦める者、モモ先輩らしいと言う者とそれぞれが思い思いの反応をしてみせた

 

「それでは第2試合を始めるぞ」

 

おっと、そろそろ第2試合みたいだ

 

じっくりと観察させてもらうとしよう

 

――第2試合 川神軍対源氏軍

 

川神軍の戦力は姉さんと揚羽様の二枚看板に一般の兵士は姉さんのファンたちで構成されている

 

他の軍よりも個々の戦力にバラつきがあるものの共通しているのは全員が姉さんのファンであるということ

 

つまり並々ならぬ信念を持っているということで、内に秘める爆発力は6軍の中でも1番だろう

 

しかし、主だった将はおらず恐らくは全軍を揚羽様が統括なされるらしい

 

揚羽様の傍には小十郎も控えていた

 

対する源氏軍は義経・弁慶・与一の三枚看板

 

配下の将も腕自慢ばかりで小隊長クラスの人間もおり、6軍の中でも非常にバランスが取れているチームでもある

 

「それでは第2試合……開始!」

 

天姉の合図で試合は開始された

 

まず動いたのは姉さんだった

 

姉さんに部隊を運用する能力はあまりない

 

よってその役目は単体での遊撃にある

 

1人義経軍に突っ込んでいき、道中の敵を全て無視して義経達の元まで一気に走り抜けた

 

「やはり来たか!」

 

「義経ちゃん遊びましょー♪」

 

満面笑みを浮かべた姉さんが真っ先に向かったのは義経

 

前々から戦いたかった故に一番初めに向かっていく

 

「そうは問屋が卸さない!」

 

義経の後方から凄まじい威力を持った弓が姉さんに放たれた

 

与一の持つ強弓から放たれた弓は防刃加工してある装甲すらも貫き通す威力を持っている

 

その弓を首を傾けることで避けた後、姉さんは後ろへ弾き飛ばされた

 

「弁慶の錫杖か」

 

矢に隠れて同時に投げられた錫杖が姉さんの腹に直撃し、後方まで後退させられたらしい

 

少々顔を顰めながらも姉さんにはあまりダメージはいってない

 

当たった瞬間に後ろへ飛んだことでダメージを逃がしたんだ

 

「3対1か……いいねぇそうでなくちゃ面白くない」

 

姉さんの顔がニヤリと笑みを浮かべる

 

心の底から楽しそうな顔だ

 

そんな姉さんを見て弁慶は義経を守るようにして姉さんと相対した

 

「まぁ、戦うのは私と与一だけどね」

 

「そう簡単に義経をやらせるわけにはいかねぇよ」

 

「ちぇ、まぁでも私はお前たちとも戦ってみたかったんだ!」

 

弁慶と与一の言葉に少しだけ姉さんは残念そうな笑みを浮かべる

 

それも一瞬だけだったがそれでも姉さんは楽しそうな笑みを再び浮かべた

 

「弁慶、与一! 頼んだぞ!」

 

義経はというと彼女達を姉さんに任せ自分は敵の陣地に攻め込むことにしたようだ

 

それもそうだろう、この戦いも気になりはするがそれでも彼女一人に旗まで近づかれ過ぎてしまっている

 

自分も一刻も早く攻め込まなければ兵士を削られじり貧になる可能性だってあった

 

そう考えた義経は兵士を引き連れ前線へと駆けていった

 

「じゃあ……」

 

「やるぜ……」

 

与一は弓に矢を番え、弁慶は素手の状態で構えを取った

 

錫杖は弁慶と姉さんの立っている位置からちょうど真ん中の位置にある

 

迂闊に取りに行けばそれこそ姉さんに一撃で屠られるだろう

 

「まずはこれからだ! 川神流無双正拳突き!」

 

先ほど釈迦堂さんが見せた川神流無双正拳突き

 

その速度は加減していた釈迦堂さんのよりも数段早く繰り出された

 

「力なら負けないぞ、と!」

 

弁慶も拳を繰り出し姉さんの拳に合わせた

 

――ドコォォン!

 

力と力のぶつかり合いが私達のいる客席まで響いてきた

 

力だけなら弁慶は姉さんクラスとまで言われている

 

だから力比べで弁慶が姉さんに引けをとることはありえない

 

「ほぅ、流石は武蔵坊弁慶と言ったところか」

 

「そっちこそ…流石は武神と言ったところですね」

 

互いが地面に陥没ができるほど足に力を入れて踏ん張り押し合っている

 

そこに一条の光が舞い込んできた

 

「ッ! 矢…与一か!」

 

与一から放たれる矢は京のそれよりも精密性は劣るものの威力と飛距離だけなら五弓一だ

 

さしもの姉さんも当たればただでは済まない

 

溜まらず後ろへ後退する

 

その隙を弁慶は見逃さない

 

好機と見るや凄まじい勢いで距離を詰め姉さんを掴みに行った

 

「おっ」

 

「源氏式……パワースラム!!」

 

着地の瞬間を狙われた姉さんは逃げることが出来ずそのまま弁慶に掴まれパワースラムを決められた

 

弁慶の真骨頂は力だけではなく、その技のキレにあった

 

普段からゆらーっとしている彼女は本気を出して技を繰り出すと普段の倍以上に早く見える

 

その速度に反応が追い付かず普通の敵なら今のパワースラムで決まるはずだ

 

「今のは早かったな、驚いたぞ」

 

しかし相手は姉さんだ

 

武神という名は伊達ではなく体力も常人の数十倍はある

 

今のだって効いてはいるはずだがそれでも何ともないという顔をしていた

 

「続けていくぞ!」

 

更に与一は矢を番え弦を引き絞る

 

姉さんクラスに通用する矢を放つ為にはそれなりの溜めが必要となる

 

その時間は凡そ30秒

 

それだけの時間を要する為に弁慶はその間は何としても与一に攻撃がいかないようにする必要がある

 

「ちょっとあの連携は厄介だな、じゃあこれはどうだ! 川神流致死蛍!」

 

姉さんの周囲に無数の光弾が出現した

 

更に姉さんはその光弾を与一目掛けて射出する

 

弁慶はすぐさま足元にあった錫杖を拾い上げ与一に当たりそうな光弾のみを撃ち落とした

 

撃ち落とした光弾は派手に爆発して弁慶たちの周りが一瞬だけ煙に包まれるものの弁慶が錫杖を回し煙を吹き飛ばした

 

「少しでも目を眩ませられれば充分だ! 川神流奥義! 天の鎚!」

 

煙が晴れた後、姉さんは高く跳躍することで一瞬でも弁慶たちからその身を隠すことに成功した

 

そしてその勢いのまま弁慶たちの頭上から天の鎚を繰り出す

 

要するに凄まじい勢いを乗せた踵落としを繰り出した

 

与一目掛けて放たれたソレは弁慶が錫杖を盾にすることによって受け止められた

 

「グッ…!」

 

しかし、姉さんの力に落下の勢いを乗せられたソレは確実に弁慶の体制を崩すことに成功していた

 

「川神流奥義・地の剣!」

 

弁慶の錫杖に乗せた足をそのまま軸足として使い回し蹴りを繰り出す

 

これも川神の奥義であるために使用すれば相当なダメージが弁慶へと向かう

 

「させるかよ!」

 

蹴りが弁慶に当たる刹那、与一から放たれた矢が姉さんの足に直撃する

 

繰り出される足の勢いを逆に利用され与一の矢はとてつもないダメージを姉さんに叩きこんだ

 

「流石は英雄のクローン、楽しいなぁ」

 

「良く言うぜ……こっちは一杯一杯だって言うのにな」

 

ダメージを受けてもなお姉さんの笑みは崩れない

 

なぜならあの人には……

 

「瞬間回復」

 

あの奥義があるからだ

 

瞬間回復は気で細胞分裂を急速に促すことによって劇的な超回復を行うことが出来る技だ

 

更に厄介なのは姉さんの場合、体の傷だけではなく体力をも回復してしまうといったところだろう

 

あの技を封じる手段は2つしかない

 

1つは気を消耗させ続け瞬間回復を行えるだけの気力をなくすこと

 

2つ目はなんらかの手段を講じて回復機能を使えなくすること

 

この二つだけだ

 

「マジかよ……」

 

「これはいよいよって所だねぇ」

 

姉さんの傷が治っていく姿を見てさしもの弁慶たちも驚愕せずにはいられなかった

 

彼女達には前もって姉さんの瞬間回復については教えられている

 

しかし、話で聞くのと実際に見るのとでは天と地ほどの差があった

 

ましてやそれが自分たちが苦労して与えた傷であれば尚更だった

 

瞬間回復は自分の傷や体力を回復させるだけでなく傷を与えられた相手にも精神的ダメージを与えるという付随効果もある

 

何せ自分の努力が無に帰す様をまざまざと見せつけられるのだから

 

分かりやすく言うとあと一歩でラスボスを倒せるところを敵にべホマを使われた、という感じだろう

 

「更にギアを上げていくぞ!」

 

「クッ!」

 

姉さんは尻上がりに調子を上げていくスロースターター気質だ

 

このまま放っておけば遠からぬうちに弁慶たちの負けが決定する

 

その前に姉さんに致命的なダメージを与えるほかない

 

瞬間回復を封じる手立ては実の所もう一つある

 

それは姉さんの体力を一気にゼロまで持っていくことで姉さんの意識を飛ばし、瞬間回復そのものを使えなくするということだ

 

それでもあの姉さんにそんな真似をできる輩は1人としていないためにその可能性は望みが薄かったが

 

それでもやるしかなかった

 

「与一、どれくらいで出来る?」

 

「5分……いや2分くれ」

 

「分かった」

 

弁慶と与一は小声で何事か確認すると頷き合った

 

弁慶はそのまま錫杖を手に再び姉さんへと向かっていく

 

与一は矢を一本だけ番えて弦を引き絞った

 

「ん……」

 

姉さんも弁慶たちの気迫が変わったことを感じ取ったのか今まで浮かべていた笑みが消えて真剣そのものといった表情をしていた

 

そして三度弁慶と姉さんはぶつかり合った

 

キレキレの錫杖捌きで姉さんを牽制しつつもダメージを与えていく弁慶に姉さんはそれをあえてソレを受け強引に技をねじ込んでくる

 

互いに受けるダメージは同じ、違うのは小さく積み重ねるか大きいのを一気にやるかの違いだけだった

 

そんな姉さんたちの試合は周りの観客をも魅せ、圧倒する

 

ほとんどの人間が空いた口が塞がっていない

 

何しろあの姉さんに真っ向から戦える人間なぞ最近では燕さん以外にはなかったからだ

 

しかも彼女と違って弁慶は姉さんに着実にダメージを負わしている

 

もしかするとという期待とやはり彼女達もという落胆が綯い交ぜになって他の事に意識を向けることができていないんだろう

 

いつまでも続くと思っていたその攻防はやがて終止符が打たれる

 

「姉御!」

 

「よいさ!」

 

与一の呼びかけに応えた弁慶が一際強く錫杖を姉さんに突き入れ弾き飛ばす

 

空中へと打ち上げられた姉さんに弁慶は更に追い打ちをかけるべく自らも跳躍した

 

「射出角修正……いくぞ」

 

「くらえ……紫電」

 

「……一閃!」

 

跳躍する弁慶に合わせて放たれた矢は凄まじい速度で以って姉さんに直撃する

 

更に間髪入れずに弁慶が錫杖で刺さった矢に突きを入れることでその威力を何倍にも引き上げた

 

「カ……ハッ!」

 

弁慶と与一の協力奥義が直撃した姉さんは肺の中にあった空気を吐き出していた

 

与一必殺の矢に弁慶の強力が備わった奥義

 

直撃をすれば姉さんとてただでは済まないだろう

 

観客の皆が弁慶たちの勝利を確信した瞬間、弁慶の錫杖に姉さんの手が伸ばされた

 

そして弁慶の錫杖を引っ掴んだ姉さんはそのまま与一目掛けて弁慶を投げ飛ばした

 

「グァッ!」

 

「くっ」

 

残心の途中で動くことが遅れた与一に躱す術はなく身体で弁慶を受け止めることになった与一

 

弁慶も多少のダメージはあったようで顔が苦悶の表情になっていた

 

「まぁ、私だって何の対策もしてなかったわけじゃないさ」

 

弁慶たちの傍に着地した姉さんは服の下からジャソプを取り出した

 

それには与一の矢が刺さっておりあれが緩衝剤として機能し、ダメージを減少させたらしい

 

「さぁ、トドメだ!」

 

姉さんが振り上げた拳はそのまま弁慶たちへと振り下ろされ……

 

「そこまで!」

 

天姉によってその拳を止められていた

 

驚いた顔をする姉さんに事情を察している天姉は事情を説明する

 

「試合は終了だ百代。今から判定に入る」

 

「え……」

 

その時の姉さんの顔は玩具を取り上げられた子供のような顔だった

 

ちょっと可愛い……

 

対して弁慶たちはホッとしたような顔をしていた

 

誰だって痛いのは嫌だからね

 

判定の結果、軍の損害状況を鑑みて川神軍の勝利ということになった

 

義経も懸命に軍を動かしていたが揚羽様相手では積み上げてきたキャリアが違った

 

その差で源氏軍は敗北を喫したものの内容を見れば及第点と言ったところだろう

 

何せ姉さん相手に旗を折られなかったのだから

 

「よし、次は俺達の番だぜ!」

 

「普段の恨みを此処で晴らすチャンスだぞ!」

 

『応!!』

 

私の軍も先ほどの戦いに魅せられてしまったようで、普段よりも士気が向上していた

 

動機はかなり不純なものであるものの士気が高いのはいいことだ

 

多分……

 

「いくぜ野郎ども!」

 

そんなキャップの掛け声と共に私たちは戦場の中へと足を踏み入れて行った

 

to be continued....





上手く書けているか不安ですがどうでしたでしょうか?
とりあえず更新ペースは1,2週間に1話という感じなりそうです
次回は第3試合などが書けていければと思っています

また次回お会いしましょう
ではでは!

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