艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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長門の場合(47)

長門は渾身の力をこめて提督の足の裏を押したものの、提督は

 

「んー、まぁ、チクチクするからやっぱりちょっと凝ってるのかなあ」

 

というだけであった。

長門はがくりと頭を垂れた。

「不公平だ・・・」

「そんなに痛かったのかい?」

「うん」

「うーん・・本来押して痛い筈が無いんだけど・・あぁ、そうだ」

足をさすりながら提督を目で追うと、提督は古い段ボール箱を開けて何かを探している。

しばらく探した後、

「あぁ、あった!」

と言って帰って来た手には、1個のゴルフボールが乗っていた。

提督は濡れタオルでボールを拭きながら言った。

「出来れば畳か、カーペットの上でやって欲しいんだけどね」

「う、うむ」

提督は板の間にタオルを置き、その上にゴルフボールを置いた。

そして、

「まずは、こんな風に足で掴む」

「なんだと?」

長門はぎょっとした。

提督は器用に足の指を使ってゴルフボールを掴んで持ち上げたのである。

「掴むだけだよ?」

「なんでそんなに器用に指が動くんだ?」

「手で掴むのは簡単でしょ?」

「手と足は違う!」

「グーとパーぐらい出来るよね?」

「出来るわけ無いだろう!」

「え、じゃあ足と手で握手は?」

「何故足と握手が出来るのだ!」

「何回かやれば出来るってば。まあ良いや。掴んだ後は踏んで転がすわけですよ」

提督は片足でボールの上に立ったり、足でゴロゴロとボールを転がした。

「これをやってれば大体痛くなくなるよ。後は自分で足の裏を押して、痛ければさらに押す」

「ひ、引っ込めるんじゃなくてか?」

「そのうち痛くなくなるからさ」

「そうなのか!?痛すぎて麻痺してるんじゃないのか?」

「だって、今も普通に触れば解るし」

「むぅ」

提督は再びボールを濡れタオルで拭くと、

「はい。部屋でやってごらんよ。痛くなくなる頃には肩こりも無くなってるよ」

といって手渡したのである。

 

その夜。

 

「何してるの、姉さん?」

風呂から戻った陸奥は、長門が床に置いたゴルフボールを凝視しているのに気付いた。

「ああ、いや、提督からこれを貰ってな」

「ゴルフボールを?」

「あぁ。肩こり解消法らしい」

「ええっ!?」

陸奥の大声に長門はびくっとした。

「な、なんだ?」

「お願い教えて姉さん!ほんと困ってるの!」

「し、しかし・・」

「頑張るから!ね!ね!ね!」

長門はしばらく考えた後、

「い、痛いぞ。それでも良いのか?」

「治れば!」

長門は肩をすくめると、陸奥が肩にかけていたタオルを指差した。

「なに?」

「そのタオル、濡れてるか?」

「ええ。頭拭いたから」

「丁度良い。貸せ」

「はい」

「右足を、出せ」

「ゴルフボール使わないの?」

「その前に、これが痛いかどうかだ」

 

数分後。

 

「いっ・・・いたたたたたた!!!!!いったああああああい!」

 

という、陸奥の叫び声が戦艦寮に響き渡った。

「な、なにこの凶悪な痛さ。姉さんどんだけの力で押したのよ!」

「陸奥、自分で押してみろ。本当に軽くしか押してない」

「えー」

恐る恐る押した陸奥はすぐ手を放した。

「信じられない・・こんな力で激痛が走るなんて」

「本当に提督はどうしてこう余計な事ばかり知ってるんだ?」

「姉さん、これ、痛くなくなったら本当に肩こり治るんでしょうね?」

「提督はそう言っていた。そして痛いなら、あれを掴んだり、踏めと」

陸奥はチラリとゴルフボールを見た。

自分で押すよりはやりやすいかもしれない。

「・・・やってみる」

「勇気あるな」

「骨は拾ってね!」

「縁起でもない事を言うな」

陸奥はそっと、ボールを掴んだ。

「つ、掴めるのか陸奥!?」

「これくらいは行けるわよ?」

「つ、次は床に置いて、踏むんだ」

陸奥は土踏まずの辺りで踏み始めた。

「ふうん、あまり痛くは」

だが、ある一点で激痛が走った。

 

「・・・いいいいったああああああい!」

 

床の上で転がりまわり、両手で足を抱える陸奥を見て、長門は震えあがった。

さ、最初痛くなくて油断させ、その後激痛とはなんて悪質な。

だが、それを指揮したのは他ならぬ自分。

この痛み、陸奥にだけは負わせないぞ!

意を決した長門はグイッと踏みつけた。

最初は痛くないだろうと思って、割と勢い良く。

だが、そのポイントはジャストミートだった。

 

「◆!○☆】△~!★?」

 

絶叫に気付いた金剛達が部屋に突入してきた時、長門達は床で転げ回っていたのである。

しかし霧島は、

「あー、ゴルフボール指圧法ですね。良く効きますよ?」

そう言いながらゴルフボールの上で片足立ちして見せ、長門達を呆然とさせた。

「こっ、これは拷問の一種では無いのか!?」

「普通の健康法ですよ?」

「提督は本当の事を言ってたのか・・・」

「提督に教えてもらったんですか?」

「あ、足の裏を指でギュッと押す方法もそうなのか!?」

「そうですね。肩こり、眼精疲労、便秘や腰痛にも効きます」

それを聞いて金剛が目を輝かせた。

「Oh!腰痛はドコですか!」

霧島の眼鏡が光った。

「ちょっと右足を貸して頂けますか?」

 

皆様の予想通り、今度は金剛の絶叫が戦艦寮に響き渡ったのである。

 

右足を抱えてプルプルしている金剛を見て、霧島が頷いた。

「明日から金剛姉様が起きない場合、これで起こす事にします!」

「霧島はミーを殺す気ですカー!」

「死にませんて。よっし!明日からこれで行きましょう!」

「お願いだから止めてクダサーイ」

「だったらさっさと起きてください!」

「うー、精一杯頑張りマース・・・」

榛名が微笑んだ。

「比叡姉様、確か、肩が凝ったと仰ってましたよね・・」

比叡がブルブル震えながら榛名をそっと見た。

「・・うふふふふ」

比叡が許しを請おうとした時、霧島が立ち上がった。

「じゃ、そろそろ帰りますね。お邪魔様でした!」

パタン。

 

再び二人きりとなった長門と陸奥は顔を見合わせた。

何となく、二人の頭の中で1つの文章が思い浮かんだ。

 

 健康のためなら死んでも良い。

 

健康にこだわりすぎるのは良くないかもしれない。

そうだ。

肩凝りは確かに痛いが、死ぬほどの物ではない。

時折肩を回すくらいの方が、アレを毎日耐えるより良いではないか。

そして互いの顔を見合うと、へへへと笑った。

 

「・・寝るか」

「・・そうね」

 

同時に立ち上がった二人はそれぞれのベッドへ直行した。

そして、床につくと間髪を置かず熟睡したのである。

 

 

 


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