とある科学の因果律   作:oh!お茶

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御坂との絡み!


9話「御坂のターン」

 

「ちょっと待ちなさい!!」

 

「ハハハ、やなこった」

 

現在、鵠沼恭弥は真昼間の学園都市を疾走中である。

後ろからの雷撃をひょいひょい躱して大通りに出た。

飲み干した『HAHAHAお茶ぁ』のペットボトルを近くの回収ロボットに投げつけどうしようか考え、

 

ーーー直後、ハッとした。

 

(うそーん(´Д` )………ペットボトル捨てなきゃよかった)

 

アホを体現したかのような第八位。

絶縁体であるペットボトルを投げ捨ててしまった事を後悔する恭弥だが、時すでに遅し。

取り敢えず直線に逃げるのはマズイと判断し、角を曲がった。

 

ちなみに普段から能力を使うという考えはない。だって詰まらないじゃん、というのが彼の言い分である。

閑話休題。

 

そして、ーーー

 

 

ドガンッッ!!

 

 

背後から爆発音が聞こえてくる。

 

えっ?と思い振り返ると何かが爆発したようで電撃少女が足止めされているのが見えた。

 

チャンスとばかりに裏路地へ飛び込み、ジグザグと適当に別れ道を選んで走り回る。

右へ曲がり、左へ曲がる曲がる、曲がる、曲がる。壁を飛び越え、ビルを飛び越える、越える、越える。

非常に複雑な経路を走り抜け、最終的に(よっしゃ!撒いたぜ!)と意気揚々に大通りへ飛び出た。

 

 

「次に見かけたら……ただじゃおかないわ」

 

「」

 

 

目の前には煙と炎を上げている爆発源と先ほどまで自分を追い回して少女の背中があった。

 

(………うそーん(´Д` )……)

 

 

 

****

 

 

名門女子中学の常盤台の制服を着込んでいる茶髪を肩までのばした少女、御坂美琴は激昂していた。

原因は目の前を疾走する少年にあった。

 

先日の夜中、もう何回目になるか分からないが、彼女は一晩で三つもの研究所を再起不能にまで破壊してきたばかりであったりする。

その訳は、『絶対能力進化(レベル6シフト)計画』という、残虐な計画を破綻に追い込む為である。

 

その計画の内容は、レベル5の第三位、『超電磁砲(レールガン)』の異名を持つ彼女から造られた二万体のクローンを第一位、一方通行(アクセラレータ)に二万通りの戦場で殺害させることで、彼を絶対能力(レベル6)という『神の答えを知る存在』まで引き上げようというものだった。

これを知った御坂美琴は愕然とした。そしてすぐに決意する。

 

ーーー実験を中止させよう。

 

 

人格破綻者の集まりなどと呼ばれているレベル5の一人であるが、御坂美琴は優しく思いやりのある少女である。

 

故に、たとえ単価十八万円の命であろうと、

たとえクローン達のアイデンティティがその実験により確立されていようと、

たとえ気味が悪いと感じてしまった自分のクローンであろうと、

御坂はそれを良しとはしない。

学園都市を敵に回す事になるとしても、彼女の意志は曲がらない。

 

施設を悉く破壊し、研究を完膚無きまでに叩き潰す事に今の彼女は全力だった。

そんな時、ポツリと聞こえたこの言葉。

 

ーーー「ん?おお、あいつと闘って生き延びたんだなぁ」

 

え?と思い振り返ればこちらを感心したように眺めている少年の姿。

 

ーーー彼は間違いなく私に言っている。

 

そう確信したのと同時に御坂の中で何かが切れた。

睡眠不足が祟ったのだろう。精神疲労が祟ったのだろう。肉体の疲労も原因の一つであろう。

 

「アンタも………あのイカレた計画に加担しているのね!!」

 

彼女は怒りに任せて雷撃を放っていた。

だが、少年は首を横に倒すことでいとも容易くそれを避けた。

 

「よっと………ん?これだけの火力があって何で銃なんか持ってたんだ?」

 

疑問を口にする恭弥だが、それが御坂の耳に届く事はない。

目を見開き、驚きを隠せない御坂。

なぜなら音速など軽く超える速度の雷撃を()()()避けたのだ。

その事実を受け入れた瞬間、彼女は思考を切り替えた。

彼に触れて直接電気を流し込む、という方針に。

 

結果、ここに学園都市限定、レベル5鬼ごっこが幕を開けた。

端からすればいい迷惑である。

 

いくら走っても詰められない距離に歯噛みするも、雷撃を放ちつつあらゆる手を考える御坂。

すると、前方の少年が突如投げたペットボトルに目が行った。

たまたまであるが、何となく気になったのだ。

 

 

ーーーいや、訂正しよう。

 

350km/hで投げ出されたペットボトルである。目が行かない方がおかしい。

 

周囲で見ていた通行人もギョッとしてそのペットボトルに視線を向けた。

 

そして、ーーー

 

 

ドガンッッ!!

 

 

ーーーゴミ回収ロボットに突き刺さり、爆発させた。

 

流石、ギャグパート。

御坂本人は至って真面目だが。

 

ゴミが飛び散りロボットの破片が宙を舞う。

それに気を取られている間に追っていた少年を見失ってしまった。

ギリ…と歯を食いしばって憎々しげに御坂は呟く。

 

「………ありふれた日常品で爆発を起こすなんてやるじゃない。完全に意表を突かれたわ。………次に見かけたら……ただじゃおかないわ」

 

ちなみに彼、鵠沼恭弥のためにも言っておこう。

彼にそんな狙いは無かった、と。

彼は普通に捨てようと思っただけなのだ。少し余裕がなく、力の加減を間違え能力をちょっと使っただけで。

結局、ゴミを撒き散らす結果となったが。

 

あらゆる行動が裏目に出る。

それがこの街の第八位である。

 

 

 

****

 

 

「次に見かけたら……ただじゃおかないわ」

 

どうやら適当に道を選び過ぎて元の場所に戻ってしまったらしい。

目の前の少女の言葉に戦慄する。

あまりの恐怖に何もできず、ただガクブル…………することはなく、ここにて能力を行使。

 

彼から外部へ漏れ出るあらゆるエネルギーをシャットアウトし、自分の中に取り込む。

微弱に漏れ出る生体電気、それに伴い形成される磁場、生命活動により放出される熱や音など。

外部へ自己の存在を知らしめる要素、それら全てを完全に断つ。

こうすることで、恭弥は果てし無く影の薄い存在となり得る。

今の彼は周囲から見て、そこら辺にあるただの無機物に近い存在であり、意識しなければ捉えられないような人間となったのだ。

 

そのままそっとその場から離れて近くのコンビニへ入って行った。

もちろん『ワカチコ。ワカチコ』と呟きながら。

 

一言言いたい。そこは『エンガチョ。エンガチョ』だろ。

汚物扱いされた御坂は涙目である。

 

 

 

****

 

 

「おろ?また会ったな、雷撃ガール」

 

「アンタ……!?」

 

夕方時、しばらく歩き回った先で、恭弥は再び御坂美琴に遭遇した。

あれから用事を終え、一休みしようと公園に入ってボロボロの自動販売機からジュースを買おうとしたら、当然の如く十八万円飲まれた時に御坂がやって来たのだ。

桁がおかしい。

 

おかげで一方通行からパクった金がパーである。

悪銭身につかず、とはこの事であろう。

というより全財産飲み込まれる前に金の投入を止める、という選択肢は無かったのか問いたい。

 

取り敢えず恭弥は全財産飲まれたのが気に食わなかったので、自動販売機に蹴りを入れた。

エネルギーを変換、種類と方向性を指定、望む現象を引き起こす。

 

結果、恭弥の飲みたかったジュース、ヤシの実サイダーが出てきた。

 

が、現象はそれだけに収まらない。

お釣りとして二十万円を引き出した。

桁がおかしい。

 

普段、目の前の自販機に蹴りを入れているとはいえ、流石にこれには御坂も頬を引き攣らせる。

 

「……それ犯罪じゃないの?」

 

「全部飲まれた分だ。それを取り戻して何が悪い」

 

恭弥はそう言うとヤシの実サイダーを一口飲む。

 

飲まれた金額は十八万円。

引き出した金額は二十万円。

しかも元々の金は第一位から掠め取ったもの。

完全に犯罪である。

 

まぁ暗部での仕事が完全にボランティア活動となっているため、上層部は恭弥のこのような些細な行動には目を瞑っているが。

 

「ふぅ、飽きたな。これやるよ」

 

「えっ!?ちょ!……っととと……

投げ渡すな!中身が零れるでしょうが!!」

 

驚きである。まだ彼は一口しか飲んでいない。

御坂は驚きつつも、投げ出された缶ジュースを中身が零れないように受け取る。

そして、少し逡巡して口を開いた。

 

「………アンタ、あのイカれた実験の関係者でしょ?」

 

「いや、違うよ。何言ってんの?アホなの?」

 

取り敢えず、恭弥は嘘を吐く。

というより判断材料が非常に少ないのだ。

 

学園都市で行われたイカれた実験など既に三桁後半まで突入しており、現在行われているものでも二桁はあるのだ。一つだけ思い当たるものがあるが、御坂がその実験の事を言っているのか、または別の実験の事を言っているのか全くわからない。

従って、面倒事は可能な限り避けたいため、無難な言葉を選んだのだ。

 

「……え、違うの?」

 

「違う違う。一応、その実験が行われている、って事は知ってるよ。俺はただ、君が一方通行と一戦交えていた所を見ただけだ。憶えてない?」

 

「えっ?………あぁ、あぁ!あの時ね!」

 

鎌をかけてみたが、どうやら考えていたものと一致したようだ。後で調べてみよう、と頭のメモに留めておく恭弥。

 

一方、恭弥の言葉に御坂は彼がたまたま実験を見かけた一般人である事を理解した。 そして、実験の内容から彼が何を言っているのか把握した。

 

ーーー恭弥はあの時見たクローンを自分だと勘違いしているのだと。

 

慌てて取り繕うその様子に恭弥は僅かに眉をひそめたが、特に気にした風もなくボケっと赤く染まる空を見上げる。

 

御坂はそれを見て、怪しまれ無かった事に安堵しつつ、彼に問答無用で電撃を放った事を思い出した。彼女の顔から血の気が引いた。

 

「あ、あの……!

さっきはいきなり攻撃してすいませんでした!」

 

「へ?………ああ、あれね。

本当だよナー。街中でいきなり雷撃放つとかバカなの?」

 

少しイラっとくるが、恭弥の尤もな言い分に何も言えず、御坂はただ反省する。

そんな様子を視界の端に収め、ま、別にいいよ、と恭弥は続ける。

 

「間違いは誰にでもあるさ。見たところ中学生だろ?

その制服……えーっと………

………『ハリボテ牧場』だっけ?」

 

「………『常盤台中学』です」

 

「ああ、そうそう、『ちくわ横丁』だろ?

名門中の名門じゃねぇか。

今後はそこの名に泥を塗らないように気を付けりゃいいさ。

間違えたあと、どうするのか。反省して改善するのか、気にせず同じ事を繰り返すのか。大事なのはそこだよ」

 

鵠沼恭弥にしては珍しくかなりマトモな事を言っている。

 

が、ある一点により果てし無く台無しになっているのがどうしようもない。

どこをどう捻ったら『常盤台中学』が『ハリボテ牧場』やら『ちくわ横丁』になるのか甚だ疑問である。

分かり切っていると思うが、そんな学校は学園都市には無い。

 

馬鹿にされてるのかと思う御坂だが、本人は相変わらずボケっと空を眺めたままであるし、実際に非は彼女にあるので頬を引き攣らせて頭を下げた。

 




\ハリボテ!/
\ちくわ!/
(´Д` )

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