結構適当。
「ほほう、つまり完全記憶能力がアーで、頭がポポポポーン。
魔術がバビューンとアラホラサッサ………的な?」
「訳が分からないけど多分そうだと思う」
一通り説明を終えた後の言葉である。
不安が拭いきれないが、…………いや、不安しかないが、もうこの際はレベル5という相手の脳味噌を信じる事にした上条当麻だった。
「で!どうなんですか!?」
「お、おう……」
藁にも縋る思いで神裂火織は鵠沼恭弥の手を握りしめて上目遣いで問う。
このような女性の行動に対して大して免疫のない恭弥は珍しく戸惑いつつも応えた。
「まぁ…解決できるかどうかは手元にあるカードによるね。ま、解決できそうではあるよ」
「「本当(です)か!?」」
「ああ。
一つ引っ掛かった点があるからなぁ………
一つ聞きたい。
そのインデックスっていう子は普通の子なのか?
人工的に魔術とかで作り出された子、とかじゃないよな?」
「あ、当たり前です!いきなり何を言いだすんですか!」
意図の分からないぶしつけな質問に神裂は激昂する。
それを宥めて恭弥は言う。
「おっおう…落ち着け。気分を害したなら謝るからよ。
ま、それなら打開策はあるぜ。解決できるかどうかはお前ら魔術師にかかってるけどな」
「どういうことだ?」
「えーっとだな……10万3千冊の魔道書の記憶で脳味噌の85%を使っていて、残り15%は一年の記憶しか詰められない…とか言ったっけ?」
「ああ。それがどうかしたか?」
「嘘だよ、それ」
「「なっ!?」」
根底から覆された、その事実。
言われてすんなりと信じ込んでしまったが、上条は確かに根拠が一切ない事に気付く。
科学も大して詳しくない魔術サイドがどうやってそのような数字を弾き出せるというのだろうか。
そして神裂はただ愕然とする。
今までの行動は全てそれが前提。
故に今までの行動が全て否定された事に等しかったのだ。
上条は大丈夫だろうと思い、恭弥は神裂を慮って少し間を開ける。
手を優しく握り、背中をさすって落ち着かせてから再び口を開く。
ちなみにその際の心情は、
(神裂サンにボディタッチ!最高!)
流石、ゲスい。
やはり第八位も男であったという事だ。
閑話休題。
「そだね〜、何から話そうか………
まずね、完全記憶能力、これは確かに珍しい体質だね。
けどこれはそんなに絶望的なものじゃないよ。
一年間の記憶だけで脳の15%も使うってのはあり得ないからな。
もし仮にそうなら完全記憶能力を持つ奴は6〜7年でパンクするって事になんだろ?」
「た、確かにそうですね…」
「人間の脳っては本来………えーっと……150年くらいだったか?
専門家じゃねぇから詳しい事は忘れたけど、まぁそんくらいの記憶が可能なんだよ。
詰まる所、記憶の詰め込み過ぎで脳がパンクするなんて事は脳医学上、あり得ないよ」
「ほ、本当か!?」
「ん、なんなら誰かに聞いてみれば?学園都市の教師ならある程度は知ってると思うよ」
「ですが、現に彼女は苦しんでいましたよ!?最後に私達との記憶を消す時に!」
「だからアレだよアレ。
『大きな力を持つ犬の手綱は握っていたい』ってヤツだ。
聞いた限りじゃ相当危険なものなんだろ?その10万3千冊の魔道書ってのは。
お前等のとこのトップはそんな危険因子を放って置くような間抜けた奴なのか?」
恭弥の言葉に上条は考える。
「つまり……インデックスの記憶を一年周期で消さないといけないような細工を教会側がしたってことか?」
「教会だの何だのとどういう構図かはよく分からんがそういうこった。
どうせ魔術とやらが使われているだろうから神裂サン達魔術師がそれを解析して解除、ハッピーエンド」
その言葉は二人の背中を押す大きな推進力となった。
上条当麻は立ち上がって言う。
「そうか、だからインデックスが普通の人間かどうかを聞いたんだな。
……インデックスに魔術が施されているってなら俺の領分だ。
俺の右手は
ギッと握りしめられた右手にある思いな何なのか。
(
まぁ後ででいいか)
上条の言葉に引っかかる恭弥だが、人前で堂々と
そして、神裂火織は静かに立ち上がる。
「彼らの事です。恐らくその魔術が破られた際に起動する迎撃魔術も施されているでしょう。援護します」
その鋭い眼光が見抜くものは何なのか。
今、二人の男女がたった一人の少女の為に立ち上がった。
「そういうことなら僕も協力させて貰おう。あの子がもう苦しまずに済むというなら」
違った。もう一人いた。
空気なんてものではないほどの影の薄さ。
と恭弥は思ったが、彼、ステイル=マグヌスは先ほどまで隠れていたのだ。当たり前であろう。
さて、帰ろうか、とした時にふと気が付いた。気が付いてしまった。
三人の視線が恭弥に集まっている。
その目は『お前はもう部外者なんかじゃない。一緒にインデックスを助けよう』と語っていた。
え?マジ?と頬を引き攣らせるが、空気は読める男。
ここで引いては男が廃る。
「よし、全て任せた。
……俺はお前等を見守っている!」
それでいいのか第八位。
だが、三人の脳内では以下のように変換されたこの言葉。
『よし、魔術関係は全て任せた。
……他の分野では俺がカバーできるように見守っていてやるから存分に力を振るえ!!』
上条当麻、神裂火織、ステイル=マグヌスが力強く頷いたことに戸惑うも三人に付いていくのだった。
****
現在、
上条当麻、インデックス→オロオロ
神裂火織→号泣
ステイル=マグヌス→ショボーン
鵠沼恭弥→携帯ピコピコ
事の発端は四人が上条当麻の教師、月読小萌のアパートを訪れインデックスと合流した事による。
出会った瞬間、上条を庇う様に両腕を広げて立ちはだかるインデックス。
続けて土下座して号泣しながら懺悔を始める神裂。
同様にステイルもションボリしつつ懺悔した。
ついでに言えば上条がなにやら『ちょっと長いプロローグで絶望してんじゃねぇよ』などと説教もしていた。
そして今、上記のような状況になっていた。
(『帰りが遅くなります。ご飯は作れそうにないのでコンビニ弁当で我慢してください』っと)
お母さんか、と突っ込みたくなるようなメールを『アイテム』の全員に送りつけると、すぐに返信が返ってきた。
『from:シャケ弁
アンタが飯を作ってくれた記憶がないわ
とりあえず了解
ブ・チ・コ・ロ・シ・確・定・ね☆』
『from:結局、金髪
結局、逃げたって訳ね!見つけたら爆破してやるんだから!』
『from:超超超C級
超訳が分からないメール有難うございます
超了解です
P.S. 超死ンで下さい』
『from:ジャージ
分かった。私はそんな恭弥を応援してる』
(ふむ、……『大して面白くない。全員やり直し』っと)ビァッ!!
「………へ?」
恭弥が送信を押そうとした瞬間、光線が走り携帯の上半分が消し飛んだ。
「『セントジョージの聖域』は侵入者に対しーーー」
「え?これどういう状況?」
今、右手側にはインデックスが、左手側にら上条、その後ろに神裂とステイルが。
ビームはどうやらインデックスが放ったらしい。現在進行形で上条当麻の右手に射出されているが。
上条が魔術とやらを破壊して迎撃術式とやらが発動したのね、と把握するのに大して時間はかからなかった。
「何をしているんですか!そこは危険です!」
「あ、ハイ………いっづ!?」
神裂の言葉に従いいそいそとその場を離れるが、その際に光線に触れたところ、“痛みを感じた”のだ。
おかしい。彼は全てのエネルギーを上方へ逸らそうとした筈だ。
おかしい。本来なら彼には少しのダメージもないはずだ。
(これが魔術か……)
自分の演算では間に合わないエネルギー。故に恭弥がそのことを認識するまでにそう時間はかからなかった。
実際、先ほどまで魔術とか馬鹿じゃねーの?学園都市に来てまで宗教やってんじゃねーよ、と全く信じていなかった彼である。
自分では手に負えない異能。下手をすれば待っているのは死。
逃げようと決心し、冷や汗をかきつつ窓から逃げーーー
「
「のわぁあああ!?」
ーーーられなかった。
神裂が床を切り裂いたことによりインデックスと共にコケたのだ。
痛つ、と頭と腰をさすりつつ体勢を立て直して周囲の状況を把握する恭弥。
見れば、光線は天井を突き破って空を突き抜けていた。
すると空から光の羽が舞い落ちてきた。
ふわりふわりと宙を漂い、儚げで美しく光り輝く幾つもの羽。
皆が茫然とそれを眺める。
「なんじゃこりゃ?」
そんな中、疑問に思い恭弥はそれに手を伸ばしーーー
「これは…ドラゴンブレス!?伝説にあるドラゴンの一撃と同義です!それにたった一枚でも触れてしまえば大変な事に!」
「うぉおおお!?怖ぇえええ!!危ねっ!」
一瞬でその手を引っ込めた。
神裂がいなければ今頃彼の左手は吹き飛んでいただろう。
ここは一応感謝し、彼らに協力すべき場面である。
が、もうやってられるか、と逃走ルートを探し出す恭弥。
流石、ゲスい。
しかし、すぐにインデックスが糸に吊られているかのように起き上がった。
再び光線が上条を襲う。
そこへ、
「『
ステイルが自慢の炎の巨人を上条の前に出現させる。それは目の前の、たった一人の少女を守る為に構築された魔術。今、彼の信念の塊が伝説のドラゴンの一撃を受け止めた。
「いけ!能力者!」
「うぉおおおおお!!」
ステイルの言葉が合図となり上条当麻は雄叫びをあげてインデックスの下へ駆け出す。
「警告。
第六章十三節。新たな敵兵を確認。戦闘思考を変更。戦場の検索を開始。
完了。
現状、最も難易度の高い敵兵、上条当麻の破壊を最優先します。
最も有効な魔術の組み込みに成功しました。これより特定魔術、『アルテミスの矢』を発動。」
インデックスの口から機械的な口調でそう言葉が漏れるのと同時だった。
彼女の周囲に多くの黄金の矢が何本も展開された。
「止まって下さい上条当麻!
それは動く者に照準の合わさる矢です!」
「なんだと!?」
慌てて立ち止まる上条。
あと数歩で手の届く距離にあるのにそれが果てし無く遠く感じる。
動けないことにやるせなさを感じ、歯噛みする。
そして、このままでは『魔女狩りの王』が逆算され、破壊されてしまうのも時間の問題であるため、膠着状態に陥ったことにステイルは舌打ちする。
だが、その状態は長くは続かなかった。
『魔女狩りの王』が破壊されたのではない。
ーーー黄金の矢が一斉に射出されたのだ。
上条当麻、神裂火織、ステイル=マグヌスは息を飲む。
おかしい。誰一人動いていない筈だ、と。
では誰に向かって『アルテミスの矢』は放たれたのか。
答えは悲鳴という形ですぐに出た。
「うぉおおおお!?」
そう、鵠沼恭弥である。
三人が三人とも目を見開く。
このままでは不味い状況に陥るとはいえ、それを覆すためにたった一人で一番危険な役目を引き受けたのだ。
しかも彼は魔術に関してはまるっきりのド素人。
故に三人とも彼の勇敢な行動に敬意を表し、また感謝する。
しかし、良く考えてみて欲しい。レベル5の第八位、彼がそんな自らの命を危険に曝すような行動をとるだろうか?
答えは否である。
先ほどの神裂の説明、もちろん彼が聞いていた訳がない。
つまり恭弥は逃げ出そうとしたのだ。匍匐前進で玄関に向かって。
結果、
「よっ!危ねっ!ほっ!くそっ!」
飛来する全ての矢を避け、逸らし、全てを捌く羽目になった。
もちろん能力は使っていない。使っても無駄であることは分かっているのだ。
従って、恭弥は実験の一環により得た身体能力、それをもって全てを捌ききる。
彼が生まれて初めて学園都市のドロドロとした研究に感謝した瞬間だった。
全てを知る者ならざまあみろと爆笑するところだろう。
「恭弥!ナイスだ!」
ハッとして現実に戻り、チャンスとばかりに上条はインデックスに駆け寄る。
そして、ーーーーその右手で彼女の頭に触れた。
ピキュンッ……
そんな音が聞こえた。
「――――警、こく。最終……章。第、零―――……。『首輪』、致命的な、破壊……再生、不可……消」
ブツン、とスイッチが切れたようにインデックスは意識を失う。
魔法陣が消え、それが全ての終わりを告げる。
インデックスのあどけない寝顔に一名を除いて安堵する面々。
(あ?終わったの?
……なんだこれ?訳ワカンネ)
果てし無く残念な第八位。
しかも自分が大きく戦況を覆した自覚がないのがどうしようもない。
その時、ふわりと白く輝く羽が上条とインデックスに降りそそぐ。
神裂が何かを叫んだ。
上条はそれに反応するが、羽はゆらりゆらりと宙を舞い、非情にも彼の頭に舞い落ちた。
『アルテミスの矢』
狩猟の女神アルテミスの必需品。
動く生物に照準が合わさり、その生物が息絶えるまで放たれ続ける。その間は他の生物が狙われることはない。
人間を射抜いた場合は苦痛を感じさせずに即死させるものとなる。
「黄金の矢を放つアルテミス」という修飾句の通り、古くは黄金製とされる。
設定は適当。
………原作に出てきたらどうしよう。