とある科学の因果律   作:oh!お茶

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6話「ピンチ!」

 

「………話は聞かせてもらったァ!!」

 

鵠沼恭弥はかつてないほど追い詰められていた。

いや、自ら死地へ飛び込んだと言った方が正しいかもしれない。

やはりレベル5と言えど高校生。

テンパってしまってはマトモな策など銀河系の外に吹き飛んでしまうのだろう。

完全なる己の失策に自害したくなるも、ポーカーフェイスを維持して出方を伺う。

 

暫しの沈黙。

そして、警戒を一切解かないで神裂火織が口を開いた。

 

「……貴方は何者ですか?ここ一帯には人払いの術式を施しています。普通ならまず入って来れないのですが」

 

(下手な事を口走ってみろ。その瞬間切り捨てる)

神裂の目はそう語っていた。

 

背中を伝う嫌な汗。

全力で顔面の筋肉を動かし、ポーカーフェイスを維持して言葉を選ぶ恭弥。

そして、心の底から応える。

 

「俺は……どんなことがあってもお前の味方であり続けると誓った男だ」

 

一ヶ月ほど前にやり終えたギャルゲーの言葉を引用した。

あまりにもバカバカしい答え。

恭弥本人も、(あ、これ詰んだわ)と人生をほぼ諦めかけた。

 

が、状況はめまぐるしく変わる。

未だ警戒を解かない神裂火織が口を開く前に、若干空気だった上条当麻が恭弥に問う。

 

「あんた学園都市の生徒か?なんでこんな所にいるんだ?」

 

尤もな質問。

だが、これがきっかけとなった。

 

どんなに純粋な水を用意したところで、ほんの少し塩を加えてしまうとガラリと性質が変わる。

 

先ほどまで、神裂と恭弥のみの対話であった。

間にあったのは命のかかった緊張感。それほどまでに濃密で誰も入り込む隙などない状況。

上条当麻は隅に追いやられていた、と言っても過言ではない。

 

だが、今やその上条当麻というイレギュラーにより僅かな異質がそこへ混ざり込む。

重要なのは異質の程度ではない。

混ざり込むことが重要なのだ。

この瞬間、たちまち場の空気が別のものへと切り替わった。

 

そして鵠沼恭弥はこのタイミングを逃すなどという事はしない。

恭弥にとって、会話の空気は重いものだろうと軽いものだろうと気にするものではないのだ。

彼が重視するのは切り替わるその瞬間のみ。

このような時、人は外部からの情報に無防備になる。

ある『木原』の精神誘導法を学習装置(テスタメント)によりインプットされていた恭弥は、しめたとばかりにそれを実践する。

 

「…俺はレベル5の第八位、鵠沼恭弥だ」

「「なっ!?」」

 

その告白に二人は驚愕に顔を染めたが、それに構わず恭弥は続ける。

 

「人払いの術式だかなんだか知らんが、上………空から見てるとな、人の流れが不自然の事に気づいたんだよ。

それにこの一区画に入ってくる際、何故か能力が暴走しかけたしな。

怪し〜と思って……きちゃいました」

 

面倒臭くなってきて口調がふざけたものへと変わる。

最早精神誘導など知ったこっちゃない、それが現在の彼の心情であった。

なんという投げやり感。だが残念なことにこれが第八位である。

 

「そうですか……ということは貴方は偶然ここへ来たということですね。

では気絶してもらいましょうか。

部外者は黙っていてくれると助かります!」

 

ゴッ!!

 

次の瞬間、強風が辺り一帯に吹き荒れた。

その中心には七天七刀を振り下ろす途中の体勢で止まっている神裂と、それを右手一本で受け止める恭弥の姿が。

 

「っ!?」

 

「おいおい、まぁそう慌てなさんなって。

言っただろう?『話は聞かせてもらった』『俺はお前達の味方』だと」

 

恭弥が握りしめていた七天七刀を離すと、神裂は一層警戒して間合いを開ける。

が、それを気にした風もなく、恭弥は続ける。

 

「お前らの抱えている問題、多分俺なら解決できるぜ?」

 

嘘である。

 

いや、正確に言えば分からない、と言った方が正しいだろう。

なんせ話を全く聞いていなかったのだ。どんな事で二人が揉めているのか恭弥は知らない。

解決できるかもしれないし、できないかもしれない。

 

では、なぜ再び墓穴を掘るような事をしたのか?

その理由は、

10%が『上手く誘導して話を聞き出すため』、

90%が『ノリ』である。

だが、この言葉が功を奏した。

 

「本当か!?」

「ほ、本当ですか!?」

 

まるで一ヶ月ぶりに肉を与えられたライオンのような二人の食いつきに恭弥は自信満々に頷くことで応える。

どうして自信満々なのかはこの際突っ込まないでおこう。

 

だが、まぁ無理もない話である。

両者ともに打つ手が無く、諦めの境地に足を踏み入れていたのだ。

故に突如現れた希望に、深く考えずに縋り付くのはしょうがない事だ。

 

「ああ。

とは言っても、もう少し詳しい情報が欲しいな。

ってな訳でもう一回一から話して貰っていいか?」

 

こうして鵠沼恭弥は揉め事を把握した。




何とか危機回避。

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