とある科学の因果律   作:oh!お茶

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文章が雑になってきたな、と少し思ったのでちょっとだけ……ちょっとだけ、気を付けてみました。


28話「現実を見ろ!」

恭弥が目玉を粉砕した直後、

 

ドォオオオオオォォォ……

 

と重々しい音が響き、地面が揺れる。それと同時に地下街の照明が一斉に消えて隔壁が降り、自動的に地上と繋がる出口が潰された。

それも、生徒達の避難が完全に済んでいない状況で、だ。

 

「えっ!?何!?」「ちょっと押さないでよ!」「嘘っ!?」「待って!!」「おい!出してくれ!」

 

当然の如く地下に残った彼等はパニックに陥った。

隔壁を強く叩く音と怒号、そして悲鳴が上条達のいる場所にまで大きく聞こえてくるほどであり、非常にまずい状況になった事を上条はすぐに把握する。

 

パニック状態にある集団とは、精神的に不安定な状況にある人間の集団であり、非常に危険なものなのだ。

その状態が長く続く、または些細な出来事が起こる、といった事でその集団にある人間は生存本能が剥き出しとなる。

それが引き起こすのは、ーーー最も起こり易い物として暴力が挙げられるがーーー更なる混沌を呼び込む災厄であり、結果としてパニックに拍車がかかるという負のスパイラルが生まれてしまう。そして更なる災厄の発生。いわば、核反応が連鎖して起こる事で多大な害をもたらす核爆弾の様なものである。

 

故に上条はすぐに方針を打ち出す。

 

「インデックス、風斬と何処かに隠れててくれ!」

 

魔術師、しかも殺しの専門家(ネセサリウス)が攻めて来たというのなら、並の能力者や警備員(アンチスキル)が敵うはずがない。それに今回狙われているのは自分達。ならば幻想殺し(イマジンブレイカー)を持つ自分が前線に出るべきだ、と上条は決断を下した。

だが、明らかに戦闘力が十にも満たないであろう少女二人は連れて行けないし、パニック集団に合流させてもまずいだけである。故に彼は二人に隠れていろ、と指示を出した。

 

「オッケー!」

 

「いや、待てよ。お前は残ろうぜ」

 

勿論、帰ろうとした恭弥(戦力)は右手で引き止めたが。

 

だが、それを良しとしない人物が一人。

 

「当麻と恭弥こそ、ひょうかと隠れてて。敵が魔術師なら私の仕事なんだよ!」

 

そう、十万三千冊の魔道書を所持する少女、インデックスである。

魔術の使用法が書かれたものであり、一般人が目を通せば廃人確定という書物の十万三千冊全てを、知識として持つ彼女はいわば魔術のエキスパート。

対して、上条当麻は特異な右手(イマジンブレイカー)を持つだけの“平凡な学生”であるのだ。

超能力者(恭弥)を連れて行くとはいえ、魔術に関してドの付くような素人である上条が戦地へ飛び込んで行くのを、彼女が了承するはずが無かった。

 

そして、実際にインデックスの言い分はもっともだと恭弥は思う。

能力を使う際に様々な情報を必要とする彼であるから人一倍強く認識するのであるが、情報というものは莫大な武器であると恭弥は考えていた。故に、敵の事を全く知らない状況で突っ走ろうとしている今の上条の姿は蛮勇以外の何物にも見えなかったのだ。

 

「何言ってんだ!お前の細腕じゃ喧嘩なんて出来ないだろ!」

 

だが、恭弥は上条の考えも理解できていた。

今、戦地へ(おもむ)かんとしているのは、記憶を破壊されてまで、そして、その事を隠し通してまで守り抜いて来た少女である。

それに普段の戦闘力はゴミだと神裂から聞いていた恭弥。

上条の立場であったなら、誰でも彼と同じ行動をとっただろう事は容易に想像できた。

実際、上条同様、彼女の姿もただのマセガキにしか見えなかったのである。

 

まぁ詰まる所どっちもどっち、といった形であり、自分の意見を押し通さなければ気が済まない子供の言い合いとしか彼の目には映らなかったのである。

そんな冷めた彼とは反対に、頑固な二人はどんどんとヒートアップしていく。

このままでは延々と口論が繰り広げられそうだな、と思った恭弥はやれやれと苦笑し、一つ提案した。

 

「あのさ………もう帰んね?」

 

それはこの科学の街である学園都市で、二桁にも満たない、魔術に関わった経験のある者の内の一人の言葉としては最低の一言だった。

やはりどんな時もブレない。

 

「「( ゚д゚)…………は?」」

 

硬直、からの声帯を震わせるだけの問いを放つ上条とインデックス。そんな二人に恭弥は鼻で嗤って答える。

彼にとっては、先ほどまで聞いていた二人の幼稚な口論など一笑に付すものだ。故に、彼はここらで、拍手喝采を浴びるような高尚な一言というものを二人に教えてやろうと思っていた。

 

その一言というのは、正真正銘の天才(レベル5)の一言。自分の脳味噌が奥底に保有する、莫大な存在感を持つであろう言葉。

思考を完全に切り捨て、レベル5の脳味噌が司る思考の奥底にあるものを原形を保ったまま浮き彫りにしようとする。

 

 

 

 

つまり、ノープランであった。

 

 

第八位、実はバカなのか?

 

 

だが、神は彼を見捨てなかった。

 

ビビッと彼の脳裏を思考の電気が走る。

 

そう、浮かんだのだ。

 

奇跡的に。

 

言葉が。

 

 

「だってお前等さー、良く考えてみろよ?魔法だぜ、魔法」

 

そこまで言って一度言葉を切る恭弥。彼が何が言いたいのか分からない二人は首を傾げる。

すると、カッ!と目を見開いて恭弥は怒鳴った。

 

「………そんなのあるわけないだろうがッッ!!ガキかお前等!?現実を見ろッッ!!」

 

何言ってんのこの人?

これが上条の心境である。

 

「いや、お前こそ現実を見ろよ!?魔術を目の当たりにしただろ!?」

 

「馬鹿野郎!あんなん手品だ!現実逃避してんじゃねぇ!!」

 

いや、マジ何言ってんのこの人?

これがインデックスの心境である。

 

「現実逃避してるのは恭弥かも!!」

 

「胡散臭い宗教にどっぷり浸かった貴様の言うことなど聞く耳持たんわ!!」

 

「イギリス清教はイギリスの国教なんだよ!?」

 

なんだかんだでスイッチが入ってしまった恭弥の参戦により、上条、インデックス、恭弥の間にある空気はどんどんとヒートアップしていく。

先ほどまで冷めていた彼は何処へやら。

 

一方、それを一歩離れた所から見ていた少女、風斬氷華。

さっきからオカルトの話ばっかしてるけど……マジ何言ってんのこの人達?

これが彼女の心境であった。

 

何の話をしているのかサッパリだが、尋ねたくとも場の空気と引っ込み思案な性格が災いして、なかなか尋ねられない。

 

なのでそれは後回しにし、とにかくヒートアップした場を鎮めようと、彼女は思い切って口を開いた。

 

「あ、あの!良くわからないですけど……何か私に手伝える事は……」

 

「「無い!!」」

 

バッサリと切り捨てられた。

 

「二人を現実に引き戻せ!」

 

「「お前が戻って来いよ!?」」

 

上条とインデックスの即答に若干気圧(けお)されビクッとするも、役に立てない事から項垂れる彼女。

恭弥は論外。

 

つまりは、三人の間に漂う熱は一向に収まらなかった。

 

直後、

 

 

カッカッカッカッカッカッカッ………

 

 

誰かが小走りに接近してくる足音が目の前の暗がりの奥から聞こえて来た。

そこでハッとして気を引き締める上条、インデックス。

あらゆるものを飲み込まんとする闇が前方には広がり、足音の不気味さをより一層引き立てて二人の警戒心を底上げする。

ほぼ全ての生徒は隔壁付近に集まった筈なのだ。ならば今、此方へ向かって来ている人物は何者なのか。

 

魔術師。

この言葉が二人の脳内に反響する。

 

そして二人が次の行動に出ようとしたその時、一人の少年が彼等の前に出た。

 

 

ーーーとびきりの笑顔で。

 

 

ーーー力強く親指を立てて。

 

 

「安心しろ。

般若心経なら全部頭に入ってるぜ!!」

 

これが先ほどまで『現実を見ろ』と言っていた男の言葉である。

レベル5の脳味噌ならばもっと他の使い道があっただろうに。

 

そんな彼の言葉で、

 

(やっぱコイツ当てになんねぇ)

 

奇しくも上条とインデックスの心が一つになった瞬間であった。

 

「幽霊なわけあるか!だから現実を直視しろって!」

 

「おべふっ」

 

邪魔だと言わんばかりに恭弥を脇に弾き飛ばしつつ、キッと敵が来るであろう方向を睨み付け、表情を引き締めて二人の少女の前に進み出る上条。

 

「隠れろ!インデックス!」

「当麻!逃げて!」

 

だが、彼と同様にインデックスも、上条と風斬を庇う様に前に出た。

 

結果、

 

「「うわっ!?」」

 

ぶつかってバランスを崩し、二人してその場に倒れ込んでしまった。

そしてその際に、インデックスの抱えていた三毛猫、スフィンクスが鳴き声を上げる。

 

先ほどより大分静かになった空間で、その声は良く響き、地下を駆けていた二人の少女、御坂美琴と白井黒子の耳に入ったのだった。

 

「あら?猫の鳴き声が聞こえませんでしたか?」

 

「え、ええ…」

 

(……!!…この気配はみこっちゃん!!逃げよ!)

 

場違いな猫の鳴き声に興味を惹かれて上条達の場所へ駆ける彼女達。

そしてその気配を察知した恭弥は、面倒事など御免だと言わんばかりに一目散に逃げ出した。

 

流石、ゲスい。

 


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