なんか思いついたら割り込んで入れるかもしれない。
九月一日。
それは夏休みが明け、新学期が始まる日。
ある者にとっては、心機一転、新しい生活の始まる日であり、またある者にとっては、宿題?ナニソレ美味しいの?という地獄の日である。
そんな良くも悪くも切り替えの日に、鵠沼恭弥は爆睡していた。
彼にとっては最早、学校?ナニソレ美味しいの?という状態であるため、新学期などなんのその。
普通に堕落という甘い蜜を享受していた。
だが、勘違いしてもらっては困る。
何も彼は引きこもりではないのだ。故にジャスト正午、彼は起床した。
そして周りを見渡して呟く。
「………皆寝てやがんな。こいつらニートか?」
どの口が言う。
とは言っても、ついつい彼がそう言ってしまうのも頷ける。
今朝の七時まで五人でゲームをしていたのでしょうがない事ではあるが、彼の視線の先には実際に麦野、絹旗、滝壺、フレンダの四人は未だ爆睡しており、起きそうにないのだ。
そんな彼女達にやれやれと溜息をついて全員の寝顔を写メる恭弥。
もちろん天井から奪った携帯である。
昨日のうちに携帯会社にハッキングして情報を弄くったため、既に契約者は彼になっていた。
(使いにく……
『寝顔ご馳走様です( ◠‿◠ )』っと)
そんな経緯で手に入れた携帯を、使いにくさから来る握り潰したい衝動を抑えつつ操作し、アイテム全員の携帯に写真を送り付けた。
それから顎に手をやってどうするか思案する。
「うーん……一人で食べに行きますかぁ」
一人で食う飯ほどつまらない物はないと恭弥は考えているため、誰かが起きていれば一緒に行くつもりだったのだが、無理矢理叩き起こした結果、食べてる途中で寝られてはたまったものではない。
結局、昼飯は仕方なしに一人で行くことにした。
幸いな事に、昨日
たまには高級な常盤台の学食でも食ってみるか、と思いつつ彼は外に出た。
****
コイントスでコンビニの握り飯か常盤台の学食か決めた結果、常盤台の学食になったため、恭弥は学食レストランがある地下街に来ていた。
何故そんなに両極端なのかはこの際突っ込まないでおこう。
財布を片手にフラフラ歩いていると、どっかで聞いたことのある、悲壮感漂う声が聞こえてきた。
「ええ! なんでだめなの!?」
「俺たち
声のする方に目を向けて見れば、魔術がどうたらとかいう事件に巻き込まれた時に会った二人がそこにはいた。
まぁ暇だったし絡もう、程度のノリで恭弥は彼等に声を掛けた。
「よっ、久しぶり。そっちの女の子は初めまして。
お前らこんなところで何口論してんの?」
「あっ!!恭弥!久しぶりなんだよ!」
そんな彼にいち早く安全ピンだらけでアイアンメイデンのような修道服を着た少女が反応した。
彼女を見て恭弥は思考を巡らせる。
(えーっと……パラドックスだっけ?相変わらずファッションセンスはゴミだな)
やはり名前は覚えていなかった。
しかも彼女への評価が酷い。
どうやって名前を聞き出そうか恭弥が考えていると、ワンテンポ遅れて上条がぎこちなく反応した。
「よ、ようっ!久しぶりだなぁ!」
このぎこちなさから、恭弥はふと思い出した。蛙顔の医者から言われたことを。
ーーー
ーーーーーー
ーーーーーーーーーーー
『あれは記憶喪失というより記憶破壊だね。思い出を忘れたのではなく物理的に破壊されてるね。
脳細胞が死んでいるからね、元には戻らないよ』
『じゃあ無くなった記憶の代わりに
『君が何を言っているのか分からないね』
ーーーーーーーーーーー
ーーーーーー
ーーー
(あー…そういやコイツ全部記憶無いんだったなぁ…)
彼がどう振る舞うつもりなのかは医者から聞いていたため、フォローしてあげようと思い、恭弥は口を開いた。
「おう。上条ちゃんにシスターちゃん。ところで何を言い争ってんだ?
なんなら第八位の恭弥くんが相談に乗るぜ」
さらりと自然な形で自己の情報を開示し、苗字を名乗らない事で呼び方を制限させる。
流石、第八位。やる時はやる男である。
二人の隣に佇む眼鏡巨乳の少女に絡めなかったが、優先順位という物を考慮して、恭弥は上条に気を利かせたのだ。
すると、インデックスは不機嫌そうに文句を垂れた。
「私は派手で豪華なものを食べてみたい、って言ったのに当麻がダメだ、って言うんだよ!!甲斐性がないんだよ!」
うわぁこいつダメ人間だ、と自分の事は棚に上げて恭弥はインデックスになんとも言えない顔を向ける。
(こんな奴が宗教やるんだから世間で悪徳商法として見られるのも頷けるな)
イギリス清教をそこらの悪質な宗教団体と同列視する恭弥。
こうして偏見というものが生まれるのである。
閑話休題。
「しょうがないだろ!
対して、うわぁ可哀想、と憐れみの顔を上条には向けた。
恭弥はレベル5であるため、莫大な奨学金が口座に振り込まれているのだ。
いや、訂正しよう。
振り込まれているはずなのだ。
何故そこが曖昧なのか。理由は単純である。
キャッシュカードを受け取ったその日の内に失くし、再発行するくらいならスリで稼ごうと、訳の分からない決意で今日まで生き抜いてきたため、自分の口座を確認できていないためだ。
結局、真相は闇の中である。
とまぁそれはさて置き、彼には莫大な奨学金が振り込まれているのだろうが、それは関係ない。
では何故上条に憐れみの眼差しを向けるのか。
(何故そこで他人から奪うという発想が湧かない!?)
と思っていたためだ。
やはりゲスかった。
何故そんな発想が湧くのか甚だ疑問である。
まぁそれはいいとして、と恭弥は考える。
明らかにインデックスが引くべき場面だが、彼女がそんな事はしないだろう事は付き合いの浅い恭弥でも分かる。
故に、二人の口論が終わりそうに無いため、しょうがなく恭弥はここでもう一人の少女、風斬氷華に話を振った。
「ハイハイ、二人ともストップ。聞いてる限りじゃお前等同居してんだろ?ならいつでも二人で食えるよな?
つーわけでココは彼女の選択に委ねてみようや。ど?」
一気にまくし立て、風斬に尋ねると、彼女はビクッとした後、おずおずとごく普通の給食のメニューを指し示した。
「私は………こっちが…いいです…」
ふと、風斬も同居しているのでは?と思った恭弥だが、二人の反応からそうではないらしい事を悟り、ホッと胸を撫で下ろした。
「ハイ決まりー」
そしてこれ以上反論が出ないように風斬の選択をゴリ押しで決定事項へ持って行く。
「ほら見なさいインデックス、これが優等生の答えというものだ」
「えー、ひょうかの好みはちょっと地味かも。私はもっと派手派手のものが食べてみたい」
しかし、どうやら杞憂だったようで上条は普通に喜んでいるため、ナイス判断、と親指を立てて風斬にサインを送った。
「食べ物は見た目じゃなくて味で選ぼうか、インデックス。あと、どさくさに紛れて常盤台中学のセットをお勧めしてんじゃねえ!風斬も地味とか言われて本気でヘコんだり考え直そうとしなくても良いから!」
が、インデックスの言葉にヘコんでそれどころではなかった風斬だった。
****
「いや〜…素朴な給食ってのも悪くない」
結局常盤台の学食ではなく、三人と同じ物を食べた恭弥。
味自体に大したこだわりは無かったため、便乗したのだ。
「不味くもないけど美味しくもなかった。うーん、どういう事なのかな。この胸の内に残る、微妙に欲求不満気味なモヤモヤは……」
そんなインデックスの評価に苦笑しつつ、恭弥はこの後の行動を考える。
「毎日食う為に作られたメニューだからな。美味い不味いより飽きられないように工夫してんだろうさ」
成る程ね、手抜き材料を使ってるからだと思ってたわ、と上条の意見に感心してから、一つの方針を打ち出した。
「お前等この後どうすんの?」
まだ帰るには早い時刻であり、恐らく三人とも遊んで行くのだろうと推測した上で尋ねたのだが、どうやら当たっていたようで、恭弥はこれにも便乗することにした。
あまりボケが思いつかなかった今回