とある科学の因果律   作:oh!お茶

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連投しとこ。


19話「真面目回②」

 

学舎の園全域にアラームが鳴り響く。

が、二秒と経たない内にその警報は消えた。

 

「うっせ」

 

理由は至って単純。

恭弥が音のエネルギー及び、警報を鳴らす電気のエネルギーを全て別のものへと変換した為だ。

それは肉体の回復に使用するエネルギー。

呻きながら右前腕に刺さった杭を引き抜き、脇へ放り投げると、溢れ出る鮮血が滴り落ちた。

だが、それに構わず後ろを振り返って目的の人物と対面する。

 

「…え?………ちょ、ちょとぉ!?これはどういうことかしらぁ!?」

 

そこには金色の髪を腰あたりまで伸ばし、小さな肩がけバックを持つ少女。

そんな彼女は非常に警戒していた。

 

なんせ、男子禁制でありセキュリティ万全の筈の学舎の園の中に一人の少年が立ち入っており、しかも彼は、彼女に飛んで来た杭を己の右腕を犠牲にすることで止めたのだ。

ここから考えるに彼は彼女に危害を加えるような人物ではないと推測できる。

 

が、それとこれとは話が別。

警報が鳴ったということは、彼がここへ無理矢理侵入したという事になる。また、突然飛来した謎の杭に関わっているであろう事も間違いない。

そこまで考えて、少女は軽くパニックになりながらも、リモコンを恭弥に向けて警戒の色を浮かべていた。

そのボタンを一押しするだけで目の前の少年は従順な操り人形と成り果てるはずである。

 

そして、鵠沼恭弥は勿論、彼女の能力を知っている。リモコンがそれの媒体である事も知っている。

が、それを気にした風もなく、焦燥を顔に浮かべて彼は彼女に頼み込んだ。

 

「頼み事がある。この一帯にいる生徒を一人残らず避難させてくれ。

お前の力なら余裕だろ、第五位」

 

「それは…一体どういうーーー」

 

つもりぃ、と続けようとした時、別の男の声が割り込んだ。ケタケタと嗤う全人類を見下したようなその声は前方の建物の屋根の上から放たれた。

 

「カカカッ!!こりゃ驚いたって感じだ!まさか100mもしない所に第五位がいるなんてよォ!!取り敢えず死んどけって感じだわ!」

 

刹那、数多の純白の殺意が降り注ぐ。

 

第五位、食蜂操祈はただ、驚愕に顔を染める。

絶望する暇はない。

ましてや死を覚悟する暇などない。

移り行く状況について行けずただ唖然とする。

 

事態が飲み込めず、先程から硬直していた彼女の取り巻き達も急展開について行けずにただ驚愕するのみ。

 

そして、死が彼女達に牙を剥き、

 

「パァィーン」

 

ーーー緊張感のない声が聞こえた。

 

同時にバッと彼女達の視界を何か巨大な影が覆った。

それは、巨大な長方形の幕。

どうやったのかは分からないが、その幕の四隅は建物に突き刺さり完全に固定されている。

 

だが、あんな物を広げて何になるのか。

一目見ただけで分かる。あの杭の威力がどれ程のものか。

この程度の幕では速度を落とすことすらかなわないだろう。

そう思う食蜂だが、その予測とは裏腹にいつまで経っても杭は幕を貫いてこない。

 

「ムカつくけどやっぱすげぇな、アイツ。

未元物質(ダークマター)でさえも防ぎきることができる物を開発すんだからなぁ………

鉄壁の果実(こんな物)を開発すりゃ、そりゃ研究資金ガッポガポだわな」

 

恭弥はポツリと呟きながら音速を超えた速度で拳を前に放つ。

拳の持つ運動エネルギーとそれが放つ音のエネルギー、衝撃波のエネルギー。

さらに、音の壁を破った事による爆音のエネルギーと、伴う衝撃波のエネルギー。

全てを変換。

方向性を指定。

 

直後、その拳から何か不可視のものが放たれ、それは幕を容易く貫いて翼を持つ少年を遠方へと吹き飛ばした。

 

そして、そりゃどうでもいい、と恭弥は食蜂に再び向き直る。焦燥感に駆られるが、このような状況で慌てても逆効果にしかならない事を彼はわきまえている。

故に強制的に心を落ち着かせて食蜂操祈に話しかけた。

 

「自己紹介がまだだったな。

俺は八位、鵠沼恭弥だ。

まぁ、だからって訳でもないがアンタの事は知っている。それを見込んで頼んでいるんだ。

アイツとは一緒に殺し合う仲でな、ここら一帯に被害が出るから生徒達を早急に避難させてくれ。

三度目は言わないぞ、食蜂操祈」

 

真剣な眼差しで頼み込む恭弥を一瞥し、彼女は答えた。

 

「………後ででもいいわ。どういう事か説明してもらうわよぉ」

 

恭弥を信じる訳ではない。

彼女は幼少の頃から人の持つ悪意という物に触れてきた。

故に、御坂美琴の様に安易に相手を信じることなど絶対にしない。

だが、現在得られる情報から判断した場合、現状、それが最善策。

 

恭弥の頭を覗くのがベストだろう。しかし、あの翼を持つ少年が異質であろう事は見てとれた。あの程度でくたばるとは到底思えない。

二人の激戦が再開するまでにどれくらい猶予があるか分からないこんな状況で、のんびり能力を使って事態の把握など愚の骨頂。

 

兎も角、二人が敵対しているであろう事は容易に推察できるのだ。

それ故の最善策。

しかし、何も知らないまま利用されるなど彼女のプライドが許さない故に、恭弥にこう言ったのだ。

 

後で頭を覗かせろ、と。

 

そして、彼女の言葉の意味を理解した上で恭弥は力強く頷いた。

 

「おk。三分以内に頼むぞ。

(やっこさん)も来やがったしな」

 

「私の行使力を舐めないでくれる?一分もあれば充分よぉ」

 

既に彼女の能力はここら一帯の人間を全て支配していた。

徐々に減っていく人の気配に舌を巻く恭弥。

 

「……流石、学園都市最強の精神系能力者」

 

そして、食蜂の切り返しに苦笑しつつ前方を見据える。

そこには憤怒に顔を歪めた少年の姿。

どうやら威力を完全には無効化はできなかったらしく、頭からは血を流している。

それを見て恭弥は怪訝な顔をするも、食蜂自身にも避難を促すために口を開いた。

 

「お前も逃げろ。もう分かってると思うがアイツにはお前の洗脳は効かーーー」

 

次の瞬間、恭弥は食蜂を抱え上げて宙を舞う。

先ほど立っていた場所には何本もの杭が突き刺さっていた。恭弥の視線の先には怒りに染まった凄まじい形相の少年。

 

「ざっけんなよォオオオ!!中古品がァ!!

俺の手を煩わせてんじゃねェって感じだァ!!」

 

ダメージを与えられた事が余程気に障ったようで、翼を振るって膨大な風を恭弥達に向けて放つ。

地面の舗装がめくれ上がり、建物が余波で吹き飛ぶほどの爆風。

恭弥はそれを大きく退避することでやり過ごし、舌打ちしつつ食蜂に向けて言った。

 

「食蜂、スマン。ちと手荒になるぞ」

 

「えっ?」

 

返答は待たずに、彼女の位置エネルギーをいくらか取り込み、1km離れた場所の地面の上へと移動させた。

 

そして、食蜂操祈の保護という枷が外れたと言わんばかりに、

 

「はぁ………

本気とか……マジでキャラじゃねぇんだけど」

 

ゆらりと純粋なる殺意を少年へ向け、第八位が戦闘を開始する。

 

 




しいたけもフラグ建てとこ

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