二人の少年が対峙していた。
一人は嘲りの笑みを浮かべる少年。
一人は出血しつつも物凄い威圧感を放つ少年。
そして、後者の少年、鵠沼恭弥は頭をフル回転させ、演算を繰り広げてーーー
(絹ちゃん………最高!
抱きしめたくなるようなあの華奢な身体つき!人形みたいに丸くて可愛らしい肩!僅かに膨らむ発育途中の胸!ちっちゃいおてて!)
ーーーいるのではなく、煩悩を繰り広げていた。
瓦礫から立ち上がった恭弥は現在進行形で鼻血がドバドバ出しているのだが、これではどちらが原因なのかサッパリである。
「あまりの凄さに鼻血が止まんねぇぜ!!この一撃!俺の興味をググっと引いた!」
本当に問いたい。
どっちが原因だ。
写真の一撃か。少年の一撃か。
ハッキリして欲しい。
一方、そんな恭弥の言葉に嘲笑する少年。
翼を存分に広げ、殺意を振りまく。
「あァ?興味ィ?ハハッ!馬鹿かオマエ?
そんなん湧いたところでオマエの死はもう決まってるって感じなんだよォ!」
そんな彼を無視し、恭弥は携帯画面をガン見である。
鼻血は一向に止まらない。
もうどっちでもいいから早く止めろよ、と思うのだが、本人はそんな暇があるなら一秒でも長く見ていたいとただ見続ける。
(この健康的で華奢な身体つきが………そそる!
あぁ、神裂の水着姿も見てみたいなぁ………いや、巫女装束の方がイイかなぁ…?
麦のんって裸エプロン似合いそうだよね……)
が、時はやって来た。
彼の思考は神裂と麦野へと映り、携帯の電源を落として頭の中で妄想を繰り広げる。
そう、今こそ血を止める時。
………前言撤回。時はやって来なかった。
一秒でも長く妄想しよう、と鼻血を止める事などしない。
対して、そんな恭弥の心境を知ってか知らずか、少年は嘲笑い、言葉を続ける。
「さっきの一撃。あれを避けられないどころか無力化できない時点で俺に殺される未来しか広がってねェんだよォ!」
ゴッ!
と突風が吹き荒び、少年の右翼から人間の腕ほどの白い杭のような物がいくつも放たれる。
ここにきて漸く、恭弥は思考を切り替えて演算を開始する。
飛来する杭の運動を分析し、各エネルギーを割り出す。
そして、いつものように変換ルートを組み立て上げ、杭に触れ、ーーー
「ぐッッ!?」
ーーー容易く、貫かれた。
脇腹に巨大な穴が空く。
間違いなく致命傷。
異変に気付き、咄嗟に身体を捻っていなければ、今頃恭弥は体のど真ん中に穴が空いて心臓は吹き飛んでいただろう。
瞬時に危険と判断し、防ぐのではなく、回避することに専念する。
「あっれェ?ご自慢の能力はどうしたんですかァ、先輩ィ?」
全ての杭が地面に突き刺さり、辺りに罅を入れる。
その中、恭弥は脇腹を抑えて口から血の塊を吐き出し膝をついた。
ゴホッ!ゲホッ!と咳き込みながらクソッタレと恭弥は続ける。
「おっかしいなぁ………どうしたんだろうね」
そう呑気に返すが、恭弥の顔は動揺で引き攣っていた。
というのも、ある一つの考えが浮かんでいたのだ。それは、最悪のケース。
しかし、会話、纏う雰囲気、相手の動作、そして能力。それらを統合して下すことが可能な、現状考え得る限り最も可能性の高い推測であることには違いない。
となれば油断はできない。警戒は解けない。
相手の一挙手一投足を見逃さないよう少年の全体像を細部まで捉える。
「オイオイオイ!!なんですかァ!?その気の抜けた感じの臨戦態勢はァ!!
もう死ねって感じだなァ!!」
そんな恭弥に対し、少年はそう叫ぶと翼を大きく広げた。
そして一気に間合いを詰めて来る。
空気抵抗を完全に無視した動き。
ここで恭弥は確信する。
ーーーやっべ、死ぬわコレ。
翼が振るわれるその直前、能力を使用。
行うは位置エネルギーから位置エネルギーへの変換、つまりはエネルギー保存。脳内で十一次元の絶対座標の演算を開始。
一瞬で500mほど離れた別地点へ
だが、移動直後に建物を貫き、真横を通り抜けるいく本もの白い杭。
(あっちも俺の居場所は何となく分かるみたいだな………
反撃するにしても情報が足りん……
よし、逃げよう)
推測に関しては恐らく外れてはいないだろう。だが、そうとなると一つ疑問が残る。だからと言って無闇に手を出せば最悪死ぬ。
それ故の戦略的撤退。
背後の破壊音を分析しつつ、全力で演算を開始し、相手から離れる事に集中する。
途中、
ある程度まで上がり、残りのエネルギーを運動エネルギーとして変換し、空を飛翔する恭弥。
杭を放ちつつそれを追随する少年。
(杭の破壊力は一定っぽいな…
現在、あの杭とヤツの周囲以外における物理法則は正常。
速度はあれ以上、上げられないとみた)
杭を避け、速度を上げ下げし、建物の一部を毟り取って投げつけるが、少年はそれらに対して効率的過ぎる対応を取ることで対処する。
対して恭弥は少年の行動より発生する音、熱、電磁場、衝撃波、ありとあらゆる外部情報から的確に相手のスペックを浮き彫りにしていく。
と、そこで大通りに出る。
出てしまった。
演算と分析、そして焦りで周囲の状況を捉えることができるほどの余裕が無かったのだ。
大通りを越えたその先に見えるのは5つのお嬢様学校が共同運営する地帯、学舎の園。
(…………マズった)
そう思った。
そう思うぐらいしかできなかった。
防ごうと思うも、時すでに遅く、先程避けたばかりの不気味な白さを持つ杭がいとも容易く外壁をぶち抜いた。
俺でもシリアス書けるんだァアアアア!!
つかパッと思い付いたから使っちゃったけど、能力の応用でテレポート使えるってテラチートやん。