とある科学の因果律   作:oh!お茶

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絹旗のフラグを強化


15話「絹旗とデート①」

 

鵠沼恭弥は長財布を片手にボケっと大通りを歩いていた。

やはり無防備過ぎるほど気の抜けた様子で歩く彼だが、能力を使っているため、周りの生徒が彼に気づく事はない。

 

長財布を清掃ロボットの前に投げ捨ててとある公園に足を踏み入れる。

土曜であるため中にはそれなりの生徒達がおり、彼等の大半がカップルのようでイチャイチャしていた。

そんな彼等の戯れ(リア充ぶり)には目もくれず、恭弥はボケっとしたまま公園の中心に位置する噴水の前に来たところで能力を解除した。

 

目的の人物はまだ来ていないようなので、懐から長財布を取り出し、近くの自販機でゴーヤワサビ汁を購入してベンチに座り込む。

 

余談だが、学園都市製飲料の中で一位二位を争うほど需要のない商品である。

 

目の前の水の流れを目で追って五分ほどした頃だった。

 

「恭弥さん、超お待たせしました」

 

そんな声がしたので視線をあげると、待ち合わせしていた人物が目の前に立っていた。

いつものような痴女のような、だが至高である服装とは違い、薄緑を基調としたノースリーブのワンピースを着てお洒落に着飾っている。

 

恭弥は飲み干したゴーヤワサビ汁の空き缶を投げ捨て、口を開いた。

 

「ん、五分ぐらいしか待ってないから気にしなくていいよ。

それじゃ、行こうか。絹旗ちゃん」

 

今日、鵠沼恭弥は絹旗最愛とデートである。

爆ぜろ、リア充。

 

とは言っても、おそらく両者とも恋愛感情など抱いていないだろうが。

 

「で?どこに行きたいの?」

 

「え、えっとですね…………実は恭弥さんと…み、水着を……買いにいきたいと超思いまして……」

 

僅かに頬を赤らめてモジモジと答える絹旗。

 

…………おそらく両者とも恋愛感情など抱いていないだろうが。

 

まぁ、そんな推測、いや、事実はさておき、そう言った絹旗に対して恭弥はあっけらかんとして口を開く。

 

「あそう。じゃ、案内してくれ。水着の店なんざ何処にあるか知らねぇからな。

ま、金は出すから気にしなくていいよ」

 

なんと、あの鵠沼恭弥がそう言った。

なんと、あの鵠沼恭弥の気前が良くなった。

なんと、あの鵠沼恭弥が(おとこ)となった。

 

というのも、これには訳がある。

 

覚えておいでだろうか?二週間程前に恭弥が『アイテム』女子メンバーの下着姿をガン見した件を。

 

何があろうと電話一つで何でも殺害。

そんな彼女達が、7500カラットのダイアモンド一億個が容易く霞むほどの肉体をタダで曝すことなどあるのだろうか?

 

ーーー否である。

 

恭弥の48時間に及ぶ土下座(内47時間爆睡)と一人につき10万円の慰謝料(内40万円一方通行出資)の結果、一回だけなんでも言うことを聞く、という形で許して貰えたのだ。

 

麦野は高級コートとバッグの購入。

フレンダは高級バッグ二つの購入。

滝壺は快適そうなジャージの購入。

絹旗は今のとこら特に欲しい物がないので保留、的な形となっていた。

 

故に以前御坂美琴に最初に出会った日、彼は麦野の要求を150万円で完遂し、フレンダの要求を95万で完遂、滝壺の要求を5千円で完遂したのである。

桁が気になるが、滝壺本人が『……最高』と言っていたので気にしない恭弥だった。

 

さて、絹ちゃんはどうするのかな、と思いつつも忘れ始めていた頃に絹旗が遂に要求を出した。

 

『あの……次の土曜に……買い物に超付き合って欲しいのですが』

 

との事。

すぐに思い出し、二つ返事で了承したのが御坂迎撃の仕事の翌日のことであった。

 

そんな訳でこんな状況へと陥っているのだ。

 

「えっとですね……ここら辺だとセブンスミストが一番品揃えが超良いですね」

 

「おk、行こうか」

 

再びゴーヤワサビ汁を購入してそう言う恭弥。

美味そうにゴクゴクと音を立てて豪快に飲む。

 

「………それ超美味しいんですか?」

 

「超マズイよ」

 

「………」

 

 

 

 

****

 

 

絹旗と恭弥が水着売り場に着くと、超電磁砲(レールガン)がいた。

 

ハイ、帰りますか。

即決即断即行動。

 

という訳にはいかない。

なんせ今までの要求の中で二番目に楽なものなのだ。

しかも三番目と四番目の要求がヒドス、ということを考えれば絹旗に少しはサービスしてやろうと思うのも当たり前である。

 

(ふむ、…………『鉄壁の果実(パイナップルマン)』の人形は………よし、一つだけ持ってるな。注文しといて良かった……

『ドラゴンロア』は五発……よし、イケる!)

 

おい、ちょっと待て。

彼は一体何をしようとしているのだろうか?

全力でこう言いたい。

やめてくれ、と。

 

なんだかんだ言って、セブンスミストは幻想御手(レベルアッパー)事件で大爆発があったばかりであり、商品の被害を除いても、爆発したフロアだけで総額4,136,620円(約4百万円)の店舗被害があったのだ。

 

ここで『ドラゴンロア』を放つとどうなるか?

少なくとも衝撃波による損害は二百万円は堅いだろう。

また、そんな事件が立て続けに二度もあったとあっては、その後の集客に影響があるであろうことは間違いない。

 

詰まる所、そんな彼の行動は、集団リンチで入院し、ようやく退院したばかりの人間に全力のバックドロップを決めるようなものである。

セブンスミストが不憫でしょうがない。

 

絹旗にだけ認識できるように影を薄くすることも可能だが、そんな面倒な事をするくらいなら『ドラゴンロア』を投げつけてやろう、という迷惑極まりない決意で足を動かしていた。

 

一方、御坂美琴の顔を知らない絹旗は何か気にした風もなく、口を開いた。

 

「では超選んでくるので少し待ってて下さい。後で一言もらえると超助かります」

 

「はいよ〜」

 

絹旗と別れ、店内にボケっと突っ立って待つ恭弥。

糞マズイな、と思いつつもゴーヤワサビ汁三本目を飲み干した頃、遂に第三位のサーチに引っ掛かってしまった。

 

ズシンズシンという効果音がピッタリな雰囲気で恭弥に詰め寄る御坂。

その姿はバーバリアン。

 

「アンタ!……こんなところまで来てどういうつもりよ?」

 

見たところかなりご立腹のご様子。

それに、あの時より僅かにやつれている様子から、実験が続いていることを知ったんだなと確信する恭弥。

ま、どうでもいいけどね、と思考を放棄して答える。

 

「どうもこうもねーよ。何?俺がお前に会いに来たとでも思ってんの?バカなの?自意識過剰にも程があらぁー。

今日はあの子と買い物に来たんだっつーの」

 

そんな彼女にヤレヤレと肩を竦め、絹旗を顎で示してそう言う。

その先に御坂が視線を向けると、難しい顔をしていろいろと水着を手に取る絹旗の姿。

暗部に所属しているとは言え、仕事でない日はただの少女である。そんな無邪気な様子の絹旗に御坂は毒気を抜かれた。

 

まぁ、暗部に属している者なら、彼女が眉一つ動かさずに人命を奪うような人間であろう事はすぐに気づくだろうが、御坂美琴は表の世界で生きてきたのだ。

彼女が気づかなかった事はご愛敬。

 

そして恭弥は続ける。

 

「ま、オフってやつだ。

それに前も言っただろ?俺自身としてはお前に危害を加えるつもりは無いって。

だからそう警戒すんな。

これ以上突っ掛かって来るようだったらあのスタングレネード投げつけんぞ」

 

「…………わかったわよ……」

 

トラウマになっていたのだろうか。

恭弥がそういうと、御坂は僅かに顔を青くして食い下がった。

当面の面倒事は去ったと恭弥は力を抜いて視線を下ろす。

御坂の持つ水着に。

 

「それにしてもみこっちゃん………

お前中学生にもなってそんなガキ臭い水着選んでんのかよ」

 

「なわっ!?ちょ!し、失礼ね!

そ、そ、そんな訳ないでしょ!!」

 

慌てて取り繕う彼女に恭弥は呆れたように言う。

 

「別に他人の趣味を否定するつもりはないけどね、世間一般、って言葉があんだろ?お前がそこからズレてる事には変わりないよ。

可愛い水着、じゃなくて自分に合う水着を選んだ方がいいんじゃない?」

 

「う、うっさいわね!これはたまたま手に取っただけよ!

そんな事言われなくても分かってるわ!!」

 

「ふーん。自分がズレてる事を認識してんなら軽傷か」

 

「そっちじゃないわ!!」

 

軽口を叩き合い、カラカラと嗤う恭弥とぐぬぬと睨む御坂だが、周りの人の目はこう言っていた。

 

死ね、リア充。

 

だが、御坂美琴にはーーー本人は自分の気持ちを理解できていないだろうがーーーちゃんとした想い人がおり、一方、恭弥はとある事情によりそんな感情を抱いていないため、そんな構図には決してならないのが幸いである。

 

そして、会話が途切れた頃に御坂が重々しく口を開いた。

 

「………実験はまだ続いているわ。

結局、設備やデータは他の研究機関に移ったらしいの」

 

「あっそ。それぐらい知ってるわ。

もういい?裏の事をこんな所でベラベラ喋ってんじゃねーよ。

今回は絹旗ちゃんのターンな訳。わかる?

突然出てきてこれ以上ゴッソリ場面を取っていかないでくんね?」

 

「……………へ?」

 

「じゃね。

絹旗ちゃーん。決まったー?」

 

「は?ちょ!」

 

一気に話題が面倒な方向へ走り始めたため、速攻で話を打ち切って御坂から逃げた恭弥。

御坂の制止を振り切って店内を進んでいく。

その先では絹旗が二つの水着で悩んでいた。

 

「むむむ………この二つで超迷いますね。

……えっと……じゃあ…試着するので……その………超見てもらってもいいですか?」

 

恥じらいながら問うその姿に、そんな恥ずかしいなら見せなきゃいいじゃん、と思いつつも了承する。

 

「いいよ。ま、超投げやりなアドバイスはしてやるよ」

 

「ええ!?」

 

「ほれ、入った入った」

 

絹旗を試着実に投げ入れ、懐からゴーヤワサビ汁を取り出し飲み始めた。何故そんなにストックしているのか甚だ疑問だ。

 

 

そして、半分ほど飲んで段々胸焼けがして気持ち悪くなってきた時、カーテンが開いた。

 

「ど、どうですか?」

 

出てきたのはスカートの付いたピンクを基調としたワンピース水着姿の絹旗。

小柄な絹旗によく似合っており、恥じらいながらそう尋ねる様子が可愛らしく映る。

 

「………あれだな……一部の嗜好家達がprprしたくなりそうな感じ」

 

「………超なんですか…その評価…」

 

「ま、可愛いいよ。いいんじゃね?」

 

「……か、可愛い………」

 

「おう。じゃ、もう片方も着てみれば?」

 

「そ、そうですねっ!」

 

再び閉まるカーテン。

絹旗の表情がウキウキしたものとなっていたことを怪訝に思うも、特に気にせずゴーヤワサビ汁を一口飲んだ。

 


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