軍隊を手玉にとることができるレベル5。
とはいえ、それを扱う
むしろ、普段能力に頼っている分、平均より劣っていたりする。
もちろん、第四位や第七位、第八位といった例外はいるが。
(麦のんの身体ヤベェな………エロいっちゃエロいけどそっち方面じゃなくて………あれならグーパンで5mくらい人間ぶっ飛ばせるんじゃね?)
第四位の下着姿を目撃した時の恭弥の感想である。
まぁ、それはともかく、能力が使えなくなればレベル5の第三位、御坂美琴はただの女子中学生でしかない。
つまり、何がいいたいのかというと
「自殺志願者を見るような顔ね!
でもコッチは暗部で仕事してんのよ!死ぬのが怖くてやってられるかってのよ!」
(ゴメン、俺は死ぬのが怖いです)
現在、フレンダ=セイヴェルンは御坂美琴を圧倒していた。
追い詰められたように見えたフレンダは、あの後、様々な小細工をすることで御坂に善戦をした。
が、やはり
あらゆる策を全て潰され、フレンダは一時危機に陥った。
すぐにでも雷撃で撃ち抜かれる状況。
しかし、フレンダは『アイテム』のメンバーとして長い間暗部の仕事をこなしてきた身である。
そう簡単にやられる訳がない。
適当なことを口走ることで、御坂の気を逸らし、一瞬の隙をついて気体爆薬の入った小瓶を御坂に投げつけたのだ。
学園都市特製の気体爆薬―――『イグニス』。
吸っても肉体に害はないが、室内に解放されれば一気に拡散して部屋中を満たし、火花の一つで連鎖爆発を起こす代物。
御坂美琴はこれを電撃で対処した。電気に触れた気体爆薬は普通に爆発するも少量であったため、御坂にはなんのダメージもなかった。
だが、それは布石。
フレンダはそれをハッタリという形で最大限に利用する。
配管の中に詰めていた窒素ガスを部屋に解放。それを『気体爆薬』と嘯く事で、御坂美琴の能力を封じこめたのだ。
すんなりとその嘘を信じ込んだ御坂美琴は、電気を出す事が出来ないのはもちろんの事、磁力で鉄塊を操る際の摩擦で火花が出る事をも恐れ、全面的に能力が使用できなくなった。
こうして二人の戦いは肉弾戦へと移行することとなった。
結果、能力が無い分、普段から体術を磨いていたフレンダが優位に立つ。
(さてと、……ここで俺が加わるとオーバーキルだな……
ぶっちゃけ暇。どうしよっかねー)
そして今現在、フレンダが体術をもって御坂を追い詰めているが、中々決定打となる一撃はない。
御坂に若干同情している恭弥としては、できることなら彼女は殺したくないのだ。
故に、ただ黙って指を咥えているしかない。
室内に閉じ込められたため、外に出ようにも出られなく、暇な状況が続く。
暇な状況が続く。
暇な状況が続く。
段々全てがどうでも良くなってきた恭弥。
終いには、御坂を気絶させてどっかに放り投げて来ようか、と考え始めた。
そこで、戦況が大きく動いた。
御坂が攻めに転じたのだ。
能力は使わず、踏み込みの際の火花を恐れて絞め技でフレンダを抑え込む。
「だぁあああっらっしゃぁああい!!」
だが、フレンダは背負い投げの要領で御坂を投げ飛ばした。
その時、
「ヤバッ!」
彼女のスカートの中から導火線ツールに火を付けていた工具が幾つか零れ落ちた。そして、それが地面に張り巡らされていた導火線ツールの火を付けた。
「ファンタスティック!!」
と、恭弥はここで出番とばかりに能力を解除し、フレンダの右腕を掴み、導火線の上から離れるように抱き寄せる。
「ふぁへっ!?」
突然現れた彼に驚愕するも、自分の近くを走り抜けた火花を見て鳥肌がたった。
恭弥が来ていなければ彼女の身体も鉄材のように真っ二つになっていたのだから。
「あ、ありがと」
「おう、気にすんな」
「………は、はははは」
だが、これによって真実が明らかになった。盛大に火花が散ったにもかかわらず、気体爆薬はなんの反応も示さなかった。つまり、気体爆薬が室内に満たされているというのは単なる嘘。
嘘。嘘。嘘。嘘。
乾いた笑いを上げて、御坂はその身体から存分に電気を放出する。
威嚇の稲妻が彼女の周囲に迸った。
「結局、私も詰まらないハッタリに騙されたって事か……ははは、結局だって、移っちゃったかな?」
「何行ってんの?馬鹿なこと言ってないで中学生はサッサと帰りなさい」
「………誰?」
「俺が…………
訳が分からない。
こんな状況下でもふざけた対応をされる御坂が不憫である。
「……あ!……アンタ……一昨日の!?」
彼女はそんな恭弥の顔を見て、公園で会った一般人だと認識した。
何故だ?
何故、彼がここにいる?
研究には無関係ではなかったのか?
そして一つの結論が彼女の中で下される。
ーーーああ、あれも嘘だったのか。
電磁波による空間把握で存在が掴めなかった恭弥に警戒して対峙する御坂。
そんな彼女に恭弥は気軽く尋ねた。
「よっ、一昨日ぶり。こんな所で何やってんだ?」
「何って……あの実験を止めるためにこうして施設を破壊して回っているんじゃない」
「………まさか!?あの施設を破壊したのもお前か!?」
彼はどこの施設の事を言っているのだろうか?
それはもちろんファミレスの事である。
いや、それ施設じゃないだろ、というツッコミなど彼は受け付けない。
真犯人を拷問した末に殺した張本人が何を言っているのだ、というツッコミも勿論受け付けない。
だが、当然、御坂がそんな事を知る由もなく、恭弥を睨みつけて堂々と答える。
「どの施設を言っているのか分からないけど……『
その言葉に、恭弥は膝から崩れ落ちた。
何故だ。解せぬ。
「………なん……だと…?
お、おらの……シーザーサラダが……」
「「…………ん?」」
今、何か聞こえる筈のない単語が聞こえた気がした御坂は片眉を上げる。
今、再び緊張感の皆無な口調を聞いた気がしたフレンダもまた然り。
どれほどの時が流れただろうか?
五秒だけである。が、彼女達にとってはその二十倍は長く感じた五秒間だった。
未だに恭弥は動かない。
すると、ついに痺れを切らして御坂が口を開いた。
「とりあe「あ、そうだ。京都へ行こう」……へ?」
突如立ち上がった第八位。
流石に話が飛躍し過ぎである。何故ここから京都が出てくるのかはなはだ疑問だ。
フレンダさえも目を白黒させ、話の流れに付いて行けていない。
まぁ、流れなどないのだから付いて行けないのは当たり前の話であるが。
対して恭弥はうんうんと頷きながら持っていた鞄に手をのばし、
「うん、京都だ。ほらよ」
「!?」
中から何かを取り出して御坂に投げつけた。
咄嗟の事に驚きつつも、それを御坂は条件反射で撃ち落とす。
「パ、パィイインッッ!?」
「へ?」
が、それはただのぬいぐるみであった。
キャラクター名、パイナップルマン。
地球の環境を守る為、工場を破壊して敷地一面パイナップル畑に変えてしまうという、地球に優しく人類に厳しい
パイナップルに手足が生えただけの、目も口もないが何故か耳だけあるという手抜きキャラである。果たして需要はあるのか。
実際恭弥も、
(うわぁ……神裂のファッションセンス並にないわ…これは……)
と失礼な事を考えつつもドン引きしていたほどである。
そんな彼が何故悲痛な叫びを上げているのかはこの際スルーしておこう。
フレンダが、ダメだコイツ、的な無表情になった事は言うまでもない。
電撃に撃ち抜かれたそれは重力に従い、自由落下して御坂の手元へ落ちた。
御坂はなんだコイツと恭弥にドン引きしつつもある違和感を感じる。
なんだ?
何かがおかしい……
そして、すぐに気付いた。
ーーー電撃で撃ち落とした筈なのにぬいぐるみに傷一つついてない!?
直後、恭弥の声が聞こえた。
「学園都市製、特殊防撃シート『
ピー
静かに響く音がした。
皮肉な事に、つい先日フレンダが耳にしたのと同じような物だった。
刹那、劇的な轟音と光でその空間は埋めつくされた。
****
「やっほ。久しぶり」
「んん?ああ、君か。これは珍しい客が来たものだね。
何の用だい?今更実験に協力してくれる、とでも言うのかな?
まぁそれなら有難い話ではあるけどね」
「ハハハ、バカかお前。実験が嫌で脱走したモルモットが協力しに戻ってくる訳ねぇだろボケナス」
「それもそうだね。それで?何で私に会いに来たんだい?」
「お前に用なんざねーよ。バカなの?」
「一体何しに来たんだ……。
いろいろと曲者揃いのこの学園都市でも、君ほど捉えどころのない生徒はいないよ。
「俺とアイツじゃベクトルが違うしスカラー量も違うと思うけどな。
ま、それはどうでもいい。
頼りたい事があってここに来たんだよ」
「何だ。用があるじゃないか」
「お前にはねぇよ。この施設に用があって来たんだ。お前と会ったのはたまたまだな」
「……過去に自分がいた研究所に足を運んでおいてどの口が言うのかね……まぁいい。抵抗しても無駄だろうしね。
破壊してくれなければ好きに使うといい」
「じゃ、存分に学園都市の機密を見させて貰いましょうかね」
「………ハッキングならココからした事がバレないようにやってくれよ?」
「………あ、やべ。バレた。ま、DLは済んでるしいいか」
「………今とんでもない事をサラリと言わなかったかい?
まぁ昔のよしみで大目に見るけど」
「………テメェと親しい関係になった覚えはねぇんだが」
「おっと。気分を害したなら謝るよ。ま、君を育てた私としては息子のように思ってたんだけどね」
「テメェが俺に抱いている感情は慈しみでも親しみでも、ましてや愛情でもねぇだろが。ペットに抱く感情以下の…実験用のマウスに対するそれだろ」
「ま、否定はしないね。実際面白かったし」
「だろうな。
……ん?……なぁ…このぬいぐるみ……」
「ん?……ああ、それかい?パイナップルマンとかいうキャラクターらしいね。
先日統括理事長宛に送り付けられたプラスチック爆弾が入っていた人形だよ。
それが私のところにたまたま回って来てね、暇だしちょっとインスピレーションが働いたから改造してみたんだ。
君が脱走してから意欲がすっかり無くなってしまってね。こうしたダラけた研究をしている、って訳さ」
「んな背景事情なんざ知るかボケ。
これ、どういう物なんだ?」
「元々はただの人形だったよ。
けどなんかピーンときてね、お陰で研究資金ガッポガポだよ。
電気量、熱量、運動量、……外部からの衝撃等は全て受け流して、ミサイルを撃ち込んでも内側には拳で殴られた程度の衝撃しか伝えない防撃シートだよ」
「へぇ、まぁ確かに前に見た学園都市製のやつよりは性能は上だな。
けどその程度で研究資金がそんなに増えるのか?」
「いやいや、話は最後まで聞きたまえ。
ところがどっこい、それだけにとどまらないのがこのシートの凄い所さ。
外部からの衝撃にはめっぽう強い。けど内部からの衝撃にはめっぽう弱いんだ。
第二位の
「あーハイハイ。もう分かったわ。そんなん見て触りゃ分かる」
「おお!流石、私の最高傑作」
「自画自賛とかキモいよナルシスト。
要はアレか。敵の攻撃をガードしながらコッチの攻撃を一方的に、的な?」
「ま、そゆことだね。
人形にしたなら、使い道としてはタイマー式の爆弾が一番かな?多分X線検査にも引っかからないよ」
「ふーん………この人形貰っていっていいか?」
「別に構わないよ。データはあるしね。
ああ、そうそう、シートの名前は『
「あっそ。ふざけた名前だな。
商標権侵害で訴えられても知らんからな。
そんじゃもう行くわ。
ハッキングの件で捕まったら保釈金は出しといてやるよ」
「おお、それは感謝する。
ああ、あとこれも持って行きたまえ」
「ん?なんじゃそりゃ?体晶か?」
「違う違う。そんな欠陥品と一緒にしないでくれたまえ。
君の能力を最大限に引き出す物だよ。とは言っても少量なら影響はないけど、多量に服用すると流石に死ぬからそこんとこよろしく。
ま、多大なる力には危険が伴う、ってやつだね」
「ふーん。イラネ」
「ちょちょちょ!待ってよ!結構頑張って作ったんだよ!?睡眠時間15時間しか取らずに!それをそんな簡単にゴミ箱へポーイとしないでくれ」
「15時間も爆睡してどこが頑張ってんだよ。とりあえずこの街の研究員全員に土下座しろ。
ったく……相変わらずだな…
「君もだね、験体『δ-506号』。
私の名前は
「………ややこしい名前してんじゃねぇ!!」
「私は何も悪くなくない?」
「じゃあな」
「ばいば〜い」
****
「さて、…………みこっちゃんが超隙だらけなんだが超どうしよう」
現在、鵠沼恭弥は突っ立っていた。
目の前には壁に寄りかかり、なんとか立っている御坂美琴。
足元には目を回して気絶したフレンダ。
恭弥が『
特殊な小爆発を起こすことで音量、光量を増幅。共に通常のスタングレネードの20倍を誇る
常人が使えば自分も再起不能に陥る事は間違いないだろう。なぜこんなゲテモノを引っ張り出して来たのか全力で問い質したい。
勿論、そのままでは彼女達の鼓膜が破れ、完全に目が潰れるので能力を使って有る程度は抑えこんだが。
しかし、それでも彼女達がかなりの音と光にやられた事に変わりは無い。
音。
これは普通なら無害の代物であるが、爆音となれば話は別、一変してかなりの危険な物となる。
音の正体、それは振動。故に爆音にはそれなりの大きな振動が伴っている。さらに言えば、振動とは気体、液体、固体を問わず、物質が存在する限りどこまでも伝わるもの。
つまり、爆発的な振動は体内にまで響き渡るという事だ。
『ドラゴンロア』の場合、これだけでも十分大きなダメージと言える。
だが、これだけには留まらない。
何よりも一番危惧すべきは外部からもたらされた情報による精神的ショックである。
誰しも、背後から突然大きな声で驚かされた経験があるだろう。
今の御坂美琴はそれをやられたのと同じ状況である。しかも音量は核兵器並。
最悪、心臓が止まってもおかしくはなかったのだ。
だが、彼女は意識を保つ。
目が見えず、耳が聞こえない状況であっても決して挫けない。
ただ、己の信念を貫くために。
「………ふむ、多分あと五分ほどで麦のん達が来るだろな……
それまでにはみこっちゃんなら回復するか」
先ほど入った連絡から、麦野達の来るであろう時間を推測して考える恭弥。できることなら御坂と軽く話をしたい、というのが彼の気持ちである。
なので、部屋の中にある爆弾を回収し、て彼女が回復するのを待つのだった。
フレンダは放置である。
御坂迎撃は次回の序盤辺りで終わるかな。
なんかインスピレーションがあんまり働かなくなってきた………