「結局さ、水着って魅せつけるのが目的だから誰もいないプライベートプール行っても意味ないってゆーかぁ」
「でも市民プールや海水浴場は超混んでて、泳ぐスペースなんて超ありませんが」
フレンダと絹旗はまだ命のある構成員の息の根をサクサク止めながらそんな話をしていた。
恭弥は離れたところで銃を振り回して乱射している。レベル5なら能力使えよと思う四人だが、基本、やる気のない時は適当にやる彼である。
そんな彼を尻目に彼女達の会話は続く。
「滝壺はどう思う?」
「ん……浮いて漂うスペースが有ればどっちでもいいよ」
「あ……そう」
「というか、フレンダ。恭弥さんがいるじゃないですか」
そんな言葉に三人の視線が自然と恭弥に集まる。
「うぉおおお!?危ねっ!人に銃向けてんじゃねぇよ!」ヒィッ
「ハッ!避けたな?避けたって事は危ないって事だ。つまりお前の能力は完璧じゃねぇんだろ!!」ドヤァ
「なんだと!?バカな!?」ガーン
「オラァ食らえ!!」BANG
「ピキューン」エッヘン
「ガァアアア!!な、なんで銃弾が……」パタリ
「ゴメン、俺の能力に穴なんて無いんだ」スマヌー
何をしている第八位。
何故こんな状況下で悠然と敵と漫才をしているのか。
フレンダと絹旗は白い目を彼に向け、一瞬で無表情になった。
が、良く良く見ると、ふざけているようで恭弥がかなり的確に相手を始末している事に気付いた。
回りながら乱射した銃弾は一発も外れる事なく相手の眉間にぶち込まれ、放った蹴りや拳は首の骨を粉砕し、確実に息の根を止めている。
おそらくこの中で麦野に次いで二番目に多く敵を始末しているだろう。
しかも隠れて四人を狙撃しようとする者を優先的に殺していっているではないか。なんという気配りの良さ。
更に言えば、これは余談だが、恭弥はそれなりに整った顔立ちをしている。
そう、彼はあのアホくさい要素さえ抜ければ、強く、そこそこイケメンで気が利くという中々にイイ男なのだ。
まぁそのアホくさい要素がかなり大きな部分を占めているため、あんな風になっているのだが。
「……こうして見ると悪くないかも」
「……恭弥さん、超優しいですしね」
絹旗はふと思い出す。先ほどのファミレスでの一件を。
ーーー
ーーーーーーーー
爆弾が爆発する0.5秒前に麦野、絹旗は行動を開始した。
麦野は隣にいたフレンダを引き寄せ『
二人はの安全は間違いないだろう。
対して絹旗は『
もうすぐにでも爆弾は爆発するだろう。
絹旗の能力はその名の通り、窒素の壁をその身に纏うものであり、あらゆる攻撃からその身を守ることが出来るものである。しかし、その際の衝撃まで無力化できる訳ではない。
故に彼女は直後に訪れるであろう衝撃に身を固めて備えた。
ーーー滝壺を完全に守りきれるか分からない。だが、死なせはしない。
そんな時、声が聞こえた。
あまりの集中力に感覚が研ぎ澄まされていたのだろうか。
静かに優しく心に染み入る、澄んだ声。
「安心しろ。俺が守ってやる」
その声が聞こえたとともに力が抜ける。
恭弥が何かした訳ではない。
絹旗に意図があってそうしたのでもない。
根拠はどこにも無いのだけれど、ただ、彼女は心の底から安心したのだ。
気を失っていた訳ではない。
周りの状況がしっかりと把握できなかっただけだ。
気が付けば絹旗は皆とファミレスの外にいた。
「なんで爆発を抑え無かった?
テメェなら全て無力化することも可能だっただろ?」
半ギレの麦野にヘラヘラと恭弥は答える。
「多分ねー……どっかで見てる奴がいると思うよー。
つか爆発直前に怪しーヤツがチラリと見えたからね。
そいつから色々聞き出したいと思わない?
爆発しなかったら今頃ここら辺から離れてるよ」
「………暗部の人間が口を割るとでも思ってんのか?」
「そのために拷問って概念があるんじゃねぇか。
取り敢えずシーザーサラダやるから頭冷やせ。
情報がなきゃ動けないことに変わりはねぇんだからよ。
俺が拷問をする。もし聞き出せなかったら幾らでもビーム食らってやるからさ」
こちらの集合場所に爆弾を仕掛けられたということは、こちらの動きが敵に知られていた、ということだ。
暗部の通信はそれぞれ異なる独自の複雑な方法を通して行われる。
故にそれが盗聴されることなどそうそう無い。
では、何故知られた?
それが意味するのは、裏切り者の存在。
ということは、裏組織の拠点、取引場所、装備、etc.与えられた情報は全てダミーの可能性がある。
それを理解できないほど、彼女達『アイテム』は生ぬるいチームではない。
それ故、恭弥の言葉に麦野は押し黙る。
彼の言い分は正しい。確かに、情報が無い事には動けない事に変わりはないのだ。
動けないことに苛立ちつつも、現状を理解できるからこそ、麦野は黙る。
対して、恭弥は今まで見たことのない優しい笑顔を彼女達に向けて、
「ま、全員無事だったんだ。一先ず、めでたしめでたし」
ーーーーーーーー
ーーー
学園都市の暗部という腐った世界で何か暖かいものを感じた彼女達。
「アダッ!足の小指打った!痛っ!痛っ!」
そんな彼女達の心が奇しくも一致した。
………やっぱりねーわ、と思う。
能力使えよ第八位。
「ま、まぁ恭弥には下着姿見られてる訳だしぃ……今更ってゆーか」
「そうですか。私は……少しだけ超考えて水着選びましょうかな……」
「あっ!やっぱり絹旗は恭弥が気になってる訳!?」
「ち、超違います!フレンダこそ超気になってるでしょう!?」
「そ、そんな訳ない訳よ!」
絹旗の切り返しに慌てて取り繕うフレンダ。
ジトっとした絹旗の視線に耐えきれず、明後日の方向を見やる。
すると、その視線の先には
「オラオラオラァ!ゲロっちまった方が身の為dうぉおおお!?それ毒物じゃねぇか!危ねっ!」
最後の生き残りとじゃれあう少年の姿。
うん、やっぱりないかな、と思うフレンダであった。
すると、パンパンと麦野が手を叩いて注目を集める。
「はーい、仕事中に駄弁らない。早速だけど新しい依頼がきたわ。
取り敢えず今日はもう帰るわよ」
「え?何ですか?」
どうやら新しい仕事が続けて入ったようだ。
ついでに言っておくと、爆発後の電話は恭弥が拷問して聞き出した情報と同じ内容の物だったらしい。
閑話休題。
「うーん…謎の侵略者インベーダーからの施設防衛……ってところかなぁ」
麦野は楽しむように、そう言った。
****
レベル5の第三位、御坂美琴の施設破壊は、終盤に差し迫っていた。
『
何日間にも及ぶ徹夜で心身ともにボロボロの御坂美琴だったが、彼女はレベル5の
電子機器によるセキュリティなど一枚の紙っぺらに等しい。最後の施設破壊も容易く終えられるだろう。
これにて『
ーーーという訳にはいかなかった。
なんせ
それほどまでに重要な目的。
ーーー
これのためにどれほどの命が犠牲となったのか。
どれほど莫大な金額が動いたのか。
どれほど多大な時間が消費されたのか。
『たったこれだけのために、』
なんて生易しいものではない。
これに比べれば世界各国の最重要国家機密などゴミに等しい。
そんな目的の内、
故に、『アイテム』に施設防衛の依頼が舞い込んだ。
暗部は学園都市の殺しの
彼女達に護衛を頼むことで研究者達は残り2つの施設に残るデータを無事に他の施設に移動させ、再度実験を行えるように環境を整える事にしたのだ。
その仕事の打ち合わせをしている中、
「
恭弥はポツリと呟きながら御坂美琴の顔写真を見て彼女に同情する。
結局、彼は昨日のうちに適当な施設を利用する事で『
現在狙われ続けているのはどこもそれ関連の施設ばかり。
犯人が
一昨日の昼間に会ったばかりの少女が纏う雰囲気は、闇に生きている人間のものではなかった。つまり、表の世界で伸び伸びと生きてきた純粋な少女だということだ。
そこから導き出される結論は一つ。
とある線からこの実験の事を知り、表の世界で生きて来たからこそ純粋なる善意で彼女はこの実験を潰そうとしているということ。
最近暗部に入ったばかりの恭弥ではあるが、元々の生まれは社会の最底辺、ドブのような闇の中なのだ。
それ故、彼は暗部に属する者と同じくこの世界の残酷さを知っている。
それ故、彼は無防備にこの世界に足を踏み入れてきた少女に同情する。
一方通行に対しては、プチプチ二万体も相手にしてバカじゃねーの、と呆れていたが。
「ま、やることは待ち伏せして迎え撃つ、って事だけよ」
「超問題なのは相手が襲撃する可能性のある施設が二箇所あるってことですね」
「はーい!じゃあ、片方には私一人で行く!」
皆の会話に意識を戻すと、フレンダがそう言って名乗り出たところだった。
その真意は、撃破ボーナス分のギャラを貰う為である。
流石、がめつい。
それを聞いた麦野と絹旗は、苦笑してそれをヤレヤレと肩を竦める。
「まぁいいわ。それじゃ、頼んだわよ?」
「まっかせてよ!」
意気込み、胸を張って答えるフレンダ。そこからは速やかに役割が振り分けられ、フレンダと恭弥を一つの施設に、他はもう一方の施設に行く事になった。
恭弥が付いてくる事に若干渋ったフレンダだが、ボーナスの総取り、かつ命が最優先との事でそれを了承した。
フレンダは特に能力は持っていないが、卓越した爆弾使いである。
しかし、それでも相手が能力者となれば万が一の事を考えざるを得ない。しかも単騎で乗り込んでくる程だ。
かなりの使い手であることは容易に想像つく。
その旨をさりげなく伝えると、フレンダは瞬時に首を縦に振った。
そして麦野が恭弥に告げる。
「ああそうそう、恭弥」
「What?」
「こちらがある程度済んだらそっちに向かうから。
リーダーとして状況は把握したいからね。そゆことで宜しく」
「OK」
最後に皆に対して麦野は締めくくる。
「定時連絡は必ず入れること。侵入者が来た場合もまた然り。
それじゃ、仕事を始めましょう」
彼女の言葉を皮切りに、『アイテム』は行動を開始した。