ハイスクールD×D
~堕ちた聖女の剣~
第八十六話
「老害」
ディオドラ・アスタロトとリアス・グレモリーのレーティングゲームが一転、
今回の事件において冥界の悪魔に死者、重軽傷者は多数あったものの、ゲストとして招かれていた北欧神話のオーディンや
この事件の首謀者……そもそもの発端となった裏切り者、
更に、アスタロト家出身である現・魔王のアジュカ・ベルゼブブにも責任の追及が行く虞があったものの、他の魔王がそれを阻止、逆に責任の追及をしようとした政府の老害達は自分達が追い詰められる事となったのである。
「さて、本日の会議で議題に挙げるのは、判り切っているね?」
「勿論ですともルシファー様、ベルゼブブ様の責任問題についてでございます」
首都ルシファード、冥界の政府の悪魔が集まる議事堂では現在、先日の襲撃事件の件で会議が行われていた。
集まったのは現・四大魔王全員と、政府の老悪魔達であり、最初はアジュカに対してアスタロト家の責任の矛先を向けようと老悪魔達が議題を挙げていた。
老悪魔達の狙いは恐らく今回の騒動の責任をアシュタロト家出身であるアジュカ・ベルゼブブに押し付けて魔王を解任させ、自分達の子飼いの悪魔か、もしくは自分達に従順な悪魔を新しいベルゼブブに就任させる事だろう。だが当然そんな事、予測していたサーゼクスやセラフォルー、ファルビウムが許す訳も無く。
「いや、議題として挙げるのは裏切り者だと判明したディオドラ・アスタロトの持ってきたアーシア殿を賭けの対象とする提案を連名でサインした君達全員の退任についてだ」
「なっ!?」
サーゼクス達は老悪魔達に対して、
「馬鹿な!! それは明らかな言い掛かりですぞ!!?」
そう、言い掛かりもいい所だろう。だが、状況的に見て、そう取られてもおかしくない事なのは事実だ。
何よりも、サーゼクス達の意見に賛同している者も多数存在するのだ。
「これは我々魔王だけの意見ではない」
「
サーゼクスの言葉に続く様にファルビウム・アスモデウスの言葉に老悪魔達は狼狽えた。
内政干渉、という言葉を出そうにも干渉している訳ではなく、あくまで魔王達の意見に同意しているという体を取られているので、意味が無い。
「わ、我々を退任させたとして! 政はどうするのです!? 我々以外に、貴方方と政治を回せる者など、どこに居ると言うのですか!!?」
「う~ん、少なくともおじいちゃん達みたいな古臭い考えしか出来ない人はいらないかなぁ」
駒王協定が結ばれ、これから各神話郡とも
いつまでも悪魔至上主義という考えでは通用しないのだ。だからこそ、四大魔王は現政権の席に座る老害を排除する事に決めたのだ。
「君達に対する沙汰は追って伝える……今は大人しく牢獄に入ってくれ」
サーゼクスの言葉と共に議事堂の扉が開かれ、グレイフィア・ルキフグスを筆頭とするサーゼクスの眷属やバハムートを筆頭とするセラフォルーの眷属が雪崩込み、老悪魔達を拘束していく。
抵抗しようとした者も居るが、一人一人が最上級悪魔クラスの眷属達に、名ばかりの上級悪魔でしかなく、中級悪魔程度の実力しか無い老悪魔が敵う筈も無い。
「グゥ……! 若造共め!! 誰のお陰でその席に座る事が出来たと思っておる!! この恩知らず共が!!!」
「少なくとも、君達のお陰という事は無いよ……僕達は自分の実力で今の魔王という立場を得た。そこに第三者の介入は無い。連れていけ」
そもそも、先代魔王が死んだ際に新たな魔王を決める為、カテレアやシャルバ、クルゼレイ、リゼヴィムといった先代魔王の血筋以外の候補者を挙げる際に、この老悪魔達はサーゼクス達ではなく自分達の子飼いの悪魔を推薦していた。
サーゼクス達は自分達の実力でその候補者達を下し、今の地位に就いたのだ。老悪魔達の言葉は筋違い処か、何をトチ狂った事を言っているのやらだった。
「これで政府も少しは風通しが良くなったな、サーゼクス」
「ああ、後は彼らの後任を如何するかだ。僕らの傀儡になるようなイエスマンを入れる心算は無いけど……」
「僕達に意見出来る悪魔が、今の時代にいるかねぇ?」
そう言う意味では老悪魔達の気概は貴重と言える。とは言え、古い考え方しか出来ない者を、後任として据える心算は毛頭無い。
「仕方ないよ、後任探しは地道にやっていこう?」
「そう、だな……サーゼクス、俺とファルビウムで候補者を選定しておくが、構わないか?」
「構わないよ。セラフォルーはこれから北欧や日本神話との外交で忙しくなるからね、僕もミカエルやアザゼル、アーシア殿との窓口役がある」
「アーシア・アルジェント、ね……」
サーゼクスが口にしたアーシアの名前に、ファルビウムが何か引っかかったのか、少し思案顔だ。アーシアとはそれなりに親交のあるサーゼクスにはそれが気になり、ファルビウムに何かあったのか尋ねた。
「いやね、彼女が使う魔術って奴が少し気になったんだ……大した力は無いとは言え、上級悪魔であるディオドラをあっさり殺して見せたという聖なる炎を放った魔術、使い方次第では僕達魔王すら殺せる術のような気がするんだよねぇ……しかもシェムハザの子孫な上に、聞くところによると先祖返りを起こしているらしいし」
「確かに、その通りだが……アーシア殿は心優しい少女だ。無暗矢鱈と力を振るうような子じゃないし、そもそも彼女とは良好な関係を築けているから、心配はいらないよ」
「別に、僕は自分達にその力を向けられる事を気にしているんじゃないんだよ……ただ、彼女みたいな魔術師とやらが、
アーシアが使った聖なる炎の魔術を、敵も使えるようになったら不味い。そういう意味で、術式を知るアーシアの身辺警護をもう少し厳重にするべきではないかと、ファルビウムは言っているのだ。
人質という観点から、桐生藍華も同様にだ。もし藍華が人質に取られでもしたら、アーシアの性格を考えると、不味い。
「サーヴァント二人が居るって言っても、それは向こうも同じ。しかも知名度によって力が生前に近づくって言う話を聞く限り、正体不明のアーチャーや佐々木小次郎の殻を与えられた亡霊のアサシンと、“青髭”ジル・ド・レェや“一騎当千”呂布奉先では、2対1に持ち込まれれば負ける可能性もあり得るよ」
しかも、それぞれのマスターは聖処女ジャンヌ・ダルクの魂を継ぐ者であり、
片方は不治の傷を負っているとは言え、例えば藍華とアサシンの所に一斉に来られてしまえばアウト、間違いなくアサシンは殺され、藍華も人質として拉致されてしまう。
「サーヴァントの力を、甘く見ているつもりは無いよ。僕も先の戦いで少しだけアーチャーの戦いを見せて貰ったからね……なるほど、確かに強いと思った、並の上級悪魔なら瞬殺されるだろうなぁって、その時は思ったけど、聞けばアーチャーはバーサーカー……呂布には勝てないんだって?」
「そう、だね……一度負けているし、彼本人も勝てないと口にしていたよ」
「つまり、少なく見積もっても呂布の力は最上級悪魔クラスを見ても良いだろう……それってさ、割と不味いって理解してる? 少なく見積もって最上級クラスなんだよ?」
その気になれば、バーサーカーだけで冥界の大半を壊滅させる事も可能。それを認識して初めてサーゼクスとセラフォルーの表情が青褪めた。
「確か、白龍皇のチームにセイバーが居るという話だったな? しかもその正体はブリテンの騎士王に仕えた円卓最強の騎士、サー・ランスロットとか」
「報告によると、そうらしいね」
「アザゼルに、早めに義息子を説得するよう頼むべきだろう。セイバーという最強クラスの戦力をアーシア・アルジェントのチームに加わえるのは急務だ」
「わかった、その辺りの話をアザゼルにしておくよ」
「頼む」
政府から老害を追放出来たのは良かったが、まだまだ考えなければならない事は山の様にある。サーゼクスを始めとする魔王達は、この後も夜遅くまで会議を続け、翌日からも連日連夜忙しくなるのは決定事項だった。
次回でこの章も終わりです。
次章は……ロキ戦でしたっけ?