お盆休みサイコー。
ハイスクールD×D
~堕ちた聖女の剣~
第八十二話
「エクソシストとシスター」
フリード・セルゼンは元々は教会の戦士育成機関の一つ、「シグルド機関」によって生み出された試験管ベビーだった。
英雄シグルドの真の末裔を生み出す計画によって生み出され、教会の戦士として育成されたが、様々な実験の結果、失敗作の烙印を押されてしまった。
しかし、そこからフリードは幼いながらも努力して教会最年少エクソシストとしてヴァチカンに所属、師匠のダヴィード・サッロと行動を共にする中で戦果を挙げていく。
そして、ダヴィードの下で任務に従事していたフリードのパートナーとしてサポートのシスターが宛がわれたのはフリードが12歳の時だった。その時に宛がわれたシスターが、シスター・クリス……当時エクソシストのサポートシスターとしては最年少だったクリス・アンジェリーニだ。
フリードとクリス、同い年だった事、お互いに最年少同士という事もあって早い段階で打ち解けて、相性も良かったのだろう、師匠であるダヴィードから見ても最高のパートナー関係にあった。
次第に思春期でもあった二人はお互いに恋心を抱き、いつしか公私共にパートナー関係になったのも無理からぬ事だったのだろう。だが、そんな二人に悲劇が起きて、フリードは後に教会を追放される事になる。
「イリナ、詳しいな」
「いや、結構有名な話よ? 寧ろ何でゼノヴィアは知らないのよ」
「む、いや……」
イリナが語ったフリードとクリスの出会いからの話を聞いて、この場の全員が思ったのは、本当にそれはフリードの話なのだろうか、という事だった。
皆が知るフリード・セルゼンという男は、一言で言えば狂人、殺人の快楽に侵された快楽殺人者という認識なのだから。
「その話の続きは、教会が作った話だろうにぃ?」
話の続き、それは教会三人娘もよく知っている。フリードが大勢のエクソシスト達を、仲間を殺して教会を追放された。だが、フリードが言うにはそれは教会の作り話だと言う。
「ある日、この女は突然行方不明になった。俺っちも師匠も、当然だけど探して探して、それでも見つからなかったのに、ある日突然だった……師匠が別任務で居なかった時、俺っちも任務で仲間のエクソシストと悪魔退治に出ていた時だったよ……この女が俺っちの前に現れたのは。しかも、その時にはもう……悪魔に転生してやがった」
そう、突然行方不明になったクリスとフリードが再会した時には、既にクリスは悪魔に転生していた。つまり、その時には既にディオドラの眷属になってしまっていたのだ。
「多分、あの時こいつと一緒に居た悪魔はアスタロト家の縁者なんだろうにぃ……少なくとも50人を超える上級悪魔を前に、仲間は全員殺されちった」
本来なら、フリードもそこで殺される筈だったのに、何故か生き残ってしまい、教会に戻ってみれば殺された仲間はフリードがクリスの行方不明で気が狂ってしまった事により、フリード自身の手で殺された事にされてしまった。
「あの時の司教は、おそらく悪魔と繋がってたんでしょうねぇ。噂によるとあの時の翌年に断罪されたとかって話だし」
ともかく、それからのフリードはと言うと、はぐれエクソシストとして放浪する人生を歩む事となった。その胸に、クリスを自身の手で殺すという誓いを抱きながら。
「んで? テメェは言い訳の一つでもするかい? 今更殺す事は変わらないけど、言い訳の一つくらい聞いても良いぜ? 俺っちってば神父様だからにぃ」
フリードの話だけを聞けば、なるほどクリスが突然裏切ったようにも思える。だが、クリスが何故、突然行方不明になり、悪魔に転生してフリードの前に現れたのか、それが分からない。
全員の視線がクリスの方を向く。クリスの表情から怯えの感情は消え、何処か達観したかのような、遠い目をして虚空を眺めていた。
「……あの日、皆さんが言う私が行方不明になった日……私はいつもの様に礼拝をして、フリード君のサポートの前に昼食の材料の買い出しにと思って街に出かけたんです」
クリスが語るのは、シスター・クリス行方不明事件の真相だった。
彼女が行方不明になった日、昼食の食材の買い出しで街に出たクリスだったが、買い物を終えて教会に帰る途中、人里から少し離れた所でクリスは……突然背後に現れた男に森の中に連れ込まれた。
「それが、ディオドラ様……ディオドラ・アスタロトでした。そして私は……あの男に、レイプされたんです」
泣きながら助けを求めるクリスを嘲笑うように犯し続けたディオドラは、最後にクリスの首を絞めて殺害し、その死体に
「ひでぇ……」
「……最低です」
一誠と小猫が呟いた。二人の感想は、恐らくこの場に居る全員共通のものだろう。当然だが英雄としての気質が高いライダーも憤怒の表情を浮かべる程、聞いていて気分の悪くなる話だった。
「その後は、ディオドラに脅されました……フリード君を殺されたくなければ、言う通りに行動しろと」
その結果が、フリードの語った事に繋がるのだろう。
「フリード、君は彼女を殺すのかい? この話を聞いて、それでも彼女を、殺せるって言うのかい?」
祐斗がフリードに問いかけた。今の話を聞いて、クリスが自分の意思で悪魔に転生した訳ではなく、ましてやフリードを裏切るつもりは全く無かったのだと知って、それでも彼女を殺すのかと。
「……気づいてたさ。当然じゃねぇの、俺っちはクリスのパートナーだったんだぜ? コイツが自分の意思で悪魔に転生する訳が無い、裏切る訳がない、んなもん誰に言われなくても、俺っちが気付かない筈が無いっての……!」
寧ろ、パートナーだからこそ、クリスの身に何かがあった。そう気付いていたからこそ、フリードはずっとクリスを探していたのだ。
「だったら……」
「うるせぇよ外野!! 俺っちとコイツの問題に、外野が口出しするなや!! コイツを殺すのは、コイツのパートナーである俺っちの最後の慈悲だ!! 悪魔としてのコイツを、俺っちの手で終わらせる……それが俺っちが、クリスのパートナーとしてしてやれる最後の慈悲だ!」
初めて見せた感情的になったフリードに、説得しようとしていた祐斗は言葉を失った。そしてクリスの顔を見て悟ってしまった。……何故ならクリスは、既に覚悟を決めた人間の表情でフリードを見上げていたのだから。
「終わらせて、フリード君……私、君になら、殺されても良いから」
「……っ、馬鹿野郎が……あばよ」
止める、間が無かった。止める為に走り出そうとした一誠やアーシアが動く前に、フリードの持つ魔剣リジルの刃が、クリスの首を、落としたのだから。
「……」
吹き出す血を浴びて真っ赤に染まりながら、フリードは静かに逆十字にしていた胸の十字架を正十字に戻して祈っていた。
リアス達にダメージを与えている事も承知の上で、それでも望まず悪魔に転生させられたパートナーが、安らかに眠れるようにと。
「……おう、祈りは終わったか? マスター」
「……へへ、すまないねぇ旦那」
祈りを終えて、目を開けたフリードの表情は、いつも通りの狂人の相貌だった。目的を終えて、最早用は無くなったのか、早々に立ち去ろうとする。
「フリードさん」
「あん?」
「シスター・クリスの御遺体は、駒王町の教会で埋葬させて頂いても、良いですか?」
「……好きにしな」
今度こそ本当に、フリードとライダーは立ち去った。残されたアーシア達はクリスの遺体を結界で保存し、簡単にだがアーシアが防腐魔術を掛けておいた。
「アーシア……ディオドラの事は、貴女に任せるわ。元聖女として、嘗ての聖女候補だった彼女に行った蛮行のツケ、確りを払わせてあげなさい」
「……はい」
防腐魔術を掛けながら、切断された首を繋いでいたアーシアは、安らかな顔で永遠の眠りについたクリスの金色の髪を一撫ですると、立ち上がって太腿のホルダーから黒鍵を取り出した。
「ディオドラ・アスタロトさん……あなたには、慈悲は与えません」
この日、この時、初めてアーシアは、他者の命を奪う覚悟を決めた。ディオドラ・アスタロトという、許し難き悪を、己の手で殺すと。
……心優しき聖女の、初めての必殺の誓いだった。
次回はついにディオドラ・フルボッコ……おや?