ハイスクールD×D
~堕ちた聖女の剣~
第七十九話
「大神宣言」
グレモリー眷属とアスタロト眷属のレーティングゲーム当日、ゲーム見学をする事になったアーチャーとアサシン、藍華の三人はアザゼルとルイーナと共にVIPゲストルームに来ていた。
ゲストルームに入ると、そこには既に先客が二名ほど来ており、その内の一人を見たアザゼルが驚きの表情を浮かべる。
「んだよ、態々北欧からこんな所においでになるとは、よっぽど暇なんだな
「久しいの悪ガキ堕天使、あの悪ガキが今や人間を教え子に持つ教師をしてると聞いてな、揶揄うつもりで来たんじゃよ」
隻眼の老人を、アザゼルはオーディンと呼んだ。つまり、目の前にいるこの老人は、北欧神話の主神にして神槍グングニールの担い手、オーディンという事だ。
「ほほ、その二人が英霊か……なるほど、確かに“座”との繋がりを感じるわい」
「っ! ほう、流石は北欧の主神殿、その“見えぬ瞳”で私と“座”の繋がりを見たか」
オーディンがアーチャーとアサシンに目を向け、アーチャーと英霊の座の繋がりを“見えぬ瞳”で感じたらしい。普通は見えぬし気づかぬものだが、流石は北欧のとは言え、一神話の頂点に君臨する神というだけの事はある。
「なに、我が北欧を含む系列の神話からも、幾人もの英雄が“座”に登録されておる故な、興味はあったのじゃよ」
確かに、北欧神話から英霊になった英雄は数多く居る。北欧の系列で言えばアルスター神話も含むので、その数は計り知れない。
「ね、アサシン、座って何?」
「ふむ? そういえば藍華殿にはまだ話しておらなんだな。“座”というのは所謂“英霊の座”、過去・現在・未来のあらゆる時間軸からも切り離された場所に存在すると言われる英霊の本体が眠る場所の事だ」
「本体?」
「うむ、そこなアーチャーはその英霊の座に眠る本体から複製された存在、英霊召喚とは英霊本体を呼ぶのではなく、英霊の複製を“座”から呼び寄せるのだ」
「複製って事はコピーって事? じゃあ本体は何してるわけ?」
「何もしておらぬ。本体はあくまで召喚される際の複製の大本になるだけで、“座”から動く事は無い」
アサシンの説明を聞いていたアザゼルとルイーナも関心を示しているが、今はそれよりも注視するべき事がある。
アーチャーはVIPルームのモニターに映るリアス達と、その中で唯一の人間としてゲームに参加する事になったアーシアを見つめた。
「心配ですか?」
「ルイーナか……そうだな、確かに心配ではあるが、いつまでも過保護ではマスターに叱られてしまう」
「まぁ」
隣に来たルイーナが備え付けられていたティーセットで紅茶を淹れて持ってきてくれたので、遠慮くなくそれを受け取り一口飲むと、再びアーシアに目を向ける。
「あ、あの!」
「ん?」
ふと、気づけばアーチャーの傍にもう一人、確かオーディンと一緒に居た人物で、銀髪の髪が美しいこの女性は……。
「私、ロスヴァイセと申します。オーディン様のお付きで来た
「ほう……マスター、アーシア・アルジェントのサーヴァント、アーチャーだ」
そして、ブリュンヒルデとは北欧神話においてオーディンの娘の名でもある。つまり、このロスヴァイセはオーディンの娘と認識したのだが。
「あ、いえいえ! 違います! 私は確かにニーベルングの指環のロスヴァイセと同じ名ですけど、全くの無関係です!」
「そうか、それは失礼した」
本人に否定された。つまりそういう事なのだろう。
「弓兵よ、あまり我が娘の名を出さんでくれぬか? 我が怒りに触れた愚か者とは言えど、それでも亡き娘の事を思い出すのは老体に堪えるわい」
どうやらオーディンの前でブリュンヒルデの名を出すのは得策ではないようだ。殺気こそ出していないものの、若干剣呑な眼光を向けられてしまった。
「これは失礼した。何分、ロスヴァイセという名を聞いては勘違いしてしまうのも無理からぬこと故、気分を害されたのなら謝罪しよう」
「構わん。確かに我が神話の知識を持つのであればロスヴァイセの名を聞いて我が娘を連想するのは当然じゃて、しかし二度目は無いと思えよ」
「承知した」
北欧の主神オーディンにとっての弁慶の泣き所といったところか。口にするなら命懸けではあるが、一先ず弱点は掴めたので良しとする事にした。
「おい、そろそろ試合の時間だぜ。席に座れ、アーチャー」
「ああ、そうしよう」
部屋の時計を見て時間が迫っている事に気づいたアザゼルに言われるまま、アーチャーはルイーナとロスヴァイセの間の椅子に座り、ゲーム開始を待った。
そして、ついにグレモリー眷属とアスタロト眷属のレーティングゲーム開始の時間となり、両チームが控室からゲームフィールドに転移したのと同時に、異変は起こる。
「やっぱ御出でなすったな……」
まるで予期していたかのようなアザゼルの台詞。そう、ゲーム開始と同時にゲーム参加者だけでなく、観戦していたアーチャーやアザゼル達、それに他の部屋に居た魔王達もが強制的に転移させられたのだ。
「うそ、悪魔があんなに……」
「下がっていろ藍華殿、守りながら戦うには些か数が多い」
既に臨戦態勢を整えたアサシンが藍華を背後に備中青江を構え、ルイーナとロスヴァイセもそれぞれ即座に戦闘が出来るように身構えている。
勿論、アーチャーも既に赤原礼装を身に纏い、夫婦剣を投影して上空を埋め尽くすほどの悪魔の群れを睨んで居た。
「アザゼル、事情は後で聞く」
「そうしてくれると助かるぜ」
既に堕天龍の鎧を纏ったアザゼルには後程たっぷりと言い訳を聞くとして、今は急降下して襲い掛かってきた悪魔の群れを片付ける方が先だ。
「ふん!」
槍を振り下ろしてきた悪魔の一撃を避けて干将の刃を首へと滑らせれば、簡単に頭を落とせた。どうやら数が多いだけで一人一人の力は大して強くはないらしい。
「桐生藍華! 自身の周囲に結界を張れ! 君の魔力でも十分防げるレベルだ!」
「わ、わかった!!」
最近になり、ルーン魔術に適正を持つ事がわかった藍華は自身の四方へ
「ほほう? ルーン魔術か、世間一般で言えば随分とマイナーな術を使いおる」
「おいクソジジイ、感心してないでアンタも加勢しやがれ!」
「ふむ、そうじゃな。せっかくルーン魔術を見せてくれたのじゃ、少しばかりワシもテンションが上がっておる故、ちと神の一撃とやらを見せてやろうかの」
そう言って、オーディンが取り出したのは一本の槍だった。それを見たアーチャーが解析した結果、それがオーディンの宝具であると見抜いた。
「ゆくぞ、この大神オーディンが一槍、若人達の先達の一撃として網膜に焼き付けると良い!!」
オーディンの持つ神のオーラが槍に収束していく。
大神オーディンの放つその一撃は、かの光の御子の放つ一撃の原型、その一撃は決して的を射損なう事なく、因果逆転の呪いではなく、因果逆転の権能を持って放たれる最強の一撃。
「
投擲された槍は、空を覆う程の悪魔の群れを一瞬で灰燼と化した。
北欧神話の主神の一撃は、その権能は、信仰の薄れた現代であっても尚、健在であるという証を、今この場で示して見せたのだった。
次回はアーシアサイドのお話です。