まだまだスランプ脱出はなってませんが、何とか書けました。
※5/15 一部追記しました。
ハイスクールD×D
~堕ちた聖女の剣~
第七十八話
「悪魔の思惑」
ライダー戦から数日後、グレモリー眷属とアスタロト眷属のレーティングゲームの日程が近づいてきたある日の事だった。
いつも通り放課後はオカルト研究部の部室で過ごしているアーシアの下へアザゼルが一通の手紙を持ってきたのだ。
当然だが何事なのかとリアス達も集まってきて、手紙の内容を知っているのかアザゼルは実に苦々しい顔をしている。
「ディオドラの野郎、やってくれやがったぜ」
「ディオドラですって?」
「まぁ、読んでみろよ……正直口にするのも胸糞悪くなる」
言われてアーシアが開いた手紙をリアス達も後ろから覗き込む形で読み始めた。そして、読んですぐに後悔する。
そこに書かれていたのは、冥界の悪魔政府上層部の大半が連名のサインと共に、アーシア・アルジェント代表を今度のグレモリー眷属とアスタロト眷属のレーティングゲームにグレモリー眷属側として参加を要請するというものだった。
もし負けた場合はアーシア・アルジェント代表は中立勢力を解体しディオドラ・アスタロトの眷属になる事、と書かれている。
「ふざけんじゃねぇ!! 何様のつもりだよコイツら!!」
「政府のお偉い様のつもりなんだろうよ。どうせアーシアが、つか人間が魔王と同等の立場にあるってのが気に食わないからディオドラが持ってきたアーシアを眷族にするっていうアイディアに便乗したって所か。まぁ、そもそもアーシアを中立勢力代表として認めたのはあくまで三大勢力のトップの間での決定であって、下が納得してねぇのも頷ける話だ。んで、もしリアスが負ければアーシアは中立勢力を解体して唯の人間にするって寸法だな」
しかも、アーシアを今の立場から引き摺り下ろしたいと考えている悪魔政府上層部の大半……四大魔王を除くほぼ全ての老悪魔が連盟でサインしているから、これは例え魔王であっても撤回させる事は出来ない。
そもそも、アザゼルが言った通り、アーシアが中立勢力代表になった事について、まだ天使陣営であれば教会が、悪魔陣営であれば大半の貴族が納得していないので、そこを突かれると痛いのだ。
トップが決めた事だからと強引に納得させたのでは組織としては独裁そのもの、ミカエルもサーゼクスも時間を掛けて説得する予定だったのが裏目に出た。
「勿論、拒否権はある。だが、もし拒否するのであれば悪魔政権は中立勢力の存在も、その代表であるアーシア・アルジェントの存在も認めないと言って来ている。つまり、拒否したが最後、サーゼクス達の意見を無視してでもアーシアを不穏組織の人間として指名手配も考えるって事だ」
最悪の場合は、三大勢力の和平にも影響が出てくる可能性がある。
更に言うなら参加に際してアーシアには制限が掛けられており、サーヴァントの参加を禁止として、他の中立勢力のメンバーも一切参戦を禁じるということだ。
つまり、ディオドラとのレーティングゲームにアーチャーや藍華、アサシンを参戦させる事は出来ないという事になる。
「どうするアーシア? これは正直、不利が過ぎる。確かにリアス達も強くなったが、恐らくディオドラは何か罠を張っている筈だ……確実にお前を手に入れる為にな。勿論、サーゼクスとセラフォルーも手を打っているぜ、リアスが勝てば悪魔陣営は完全にアーシアを中立代表として認める事になるし、この提案をしてきたディオドラとサインしてる老悪魔共には然るべき処罰を与えると四大魔王の連盟でサインした書類もある」
「……」
アザゼルに尋ねられ、アーシアは暫し思い悩む。ふと、アーチャーの方へチラッと目を向けて、何かを決めたのか真っ直ぐアザゼルと向かい合った。
「私、参加します」
「……良いのか?」
「はい、ここで逃げれば桐生さんにも迷惑が掛かりますし……何より、私は強くなると決めたんです。ここで逃げるわけにはいきません」
「そう、か」
アーシアの決意は固かった。ならばアザゼルがこれ以上何かを言うのも無粋だと思って何か言おうとしていた一誠やリアスを視線で制した。
「アーチャー、お前さんはどうする? 参加は不可能って事だから俺達と一緒に観戦するか? 桐生やアサシンもよ」
「……ああ、世話になろう」
暫し考えた後、アーチャーは短くだが答えた。
本当ならアーシアだけを出場させたくなどない。マスターを守るのがサーヴァントの役目だというのに、これではその役目を果たせるわけがないのだ。
だが、アーシアは出場すると決めた。マスターを守るのがサーヴァントの役目なら、同時にマスターの意向に従うのもまたサーヴァントの役目、従うほかない。
部活が終わり、アーシアとイリナ、それからアーチャーの3人は帰路に着いていた。
歩きながら三人が話題にしているのは、先ほどのディオドラとのレーティングゲームにアーシアが強制的に組み込まれた件について。
「絶対、何かあるよね」
「ああ、間違いなく何かあるだろうな。それが悪魔政権側なのか、それともディオドラ・アスタロトなのか……あるいは両方か」
とにかく、アーシアの存在が目障りな悪魔政権とアーシアを手に入れたいディオドラの利害が一致しているのは確かだ。
「マスター、今度ばかりは私が傍に居ない状況になってしまうが、何か策はあるのか?」
「……その、一応は」
そう言ってアーシアが取り出した物を見て、アーチャーは「ほう……」と関心したような声を漏らし、イリナは悪魔としての本能からそれが危険だと思ったのか顔を顰めた。
「これは、私が作った対魔効果のあるオリジナルの魔術礼装です」
「マスターのオリジナルか……いつの間にそんなものを」
その礼装の効果を聞いて、なるほど確かに切り札としては有効だと二人は思った。この礼装があれば万が一の時、アーチャーが居なくとも対処は出来るし、令呪で呼び出す為の時間稼ぎも可能だ。
「それから、投影品ではないオリジナルの黒鍵も何とか作れましたので、後で強度とか見てもらえますか?」
「分かった、確認させてもらおう」
着実に魔術師として仕上がりつつあるアーシアに、アーチャーはサーヴァントとして、そして魔術の師として感慨深い思いがある。
まだ召喚された当初は魔術の魔の字もしらない、ただ誰かを癒す力があるだけの小娘に過ぎなかったアーシアが、今では魔術師として一流とは決して言えないまでも、十分サーヴァントのマスターとして恥ずかしくない魔術師に成長していた。
「凄いよねアーシアさん、もう立派に一人前だよ!」
「ああ、少し前までは半人前と言った所だったが、今では一人前の魔術師を名乗って問題無いだろうな」
「はぅ……わ、私なんてまだまだです。もっと研究して、もっともっと魔術の腕を上げないといけませんから」
研究熱心なのは良い事だが、自己評価が低いのは頂けない。特にアーチャーにとって、己のマスターがそんな自己評価を低くしているのは、認められないのだ。
「そこまで自分を低く見る必要は無い。君は前と比べれば私は君がマスターである事を誇れる。君がマスターだからこそ、私は最強のサーヴァントだと自信を持って名乗れよう」
例え、ステータスが低く、他のサーヴァントに比べて弱い部類に入るアーチャーだが、それでも己こそが最強だと言えるのは、間違いなくアーシアの存在が理由だ。
アーシア・アルジェントは遠坂凛や岸波白野、藤丸立香といった歴代のアーチャーのマスターと比べれば確かに劣っているだろう。
だが、それでも彼女達に負けない何かがアーシアにはあった。それは、生来の聖女としての気質、魂の気高さだ。
その気質、魂の気高さは歴代の聖女達に勝るとも劣らない。かの聖女マルタや聖処女ジャンヌ・ダルクにすら迫るものがある。
「でも、本当に今だからこそ言うよ、私ね……同じ修道女としてアーシアさんを尊敬してる。確かに魔女として追放されたと聞いた時はあれだったけど、今は、お友達として言わせて貰うなら、アーシアさんは間違いなく最高の聖女様よ」
「イリナさん……」
「アーシアさんは私やゼノヴィアにとって、現代を生きる最高の聖女様、それだけは覚えておいてね」
イリナとゼノヴィアにとって、アーシアは例え魔女として教会を追放されていようと、アーシアこそが最高の聖女だ。
友達としてアーシアと触れ合う中で、アーシア・アルジェントという人物を知ったからこそ、断言出来るのだ。アーシア・アルジェントは例え魔女として追放されていようと、例え聖女の称号を剥奪されていようと、間違いなく彼女こそが聖女なのだと。
「だから、アーシアさんの事は私とゼノヴィアが必ず守る。アーチャーさんが傍に居られない分、私とゼノヴィアが絶対に守るから」
そう言ったイリナの両腕には、無数の紐が結ばれていた。これは、アーチャーに頼んで投影して貰った無数の
レーティングゲームに向けて、イリナもまた、己に出来る事を突き詰めているのだろう。
「アーチャーさんも安心して、アーシアさんは、絶対に守るから」
「……ふむ、では信頼させて貰おう。マスターの友人である、君とゼノヴィアを」
悪魔としてのイリナとゼノヴィアではない、アーシアの友人であるイリナとゼノヴィアを、アーチャーは信頼する事にした。この二人なら、友人を守るという約束を違える事は無いと、アーチャーも信用している。
良き従者、良き友人に恵まれた聖女は、きっとこの先の試練を乗り越えられるだろう。それだけの力が、仲間が居るのだから。
そして、ついに……ディオドラ・アスタロトとのレーティングゲーム当日を、迎えようとしていた。
次回はついにディオドラとのゲームの日。
始まりますよ、色々と。