ハイスクールD×D~堕ちた聖女の剣~   作:剣の舞姫

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お待たせしました! ついにキャスター登場!


第六十四話 「魔術師のサーヴァント」

ハイスクールD×D

~堕ちた聖女の剣~

 

第六十四話

「魔術師のサーヴァント」

 

 誘拐現場を調査した翌日から、アーシアは部屋でアザゼルに用意して貰った資料に目を通していた。

 傍らでは同じようにアーチャーも資料を読んでいて、アサシンと藍華は二人のサポートという名目のお茶汲みをしている。

 

「アーシア殿、紅茶のお替りだ」

「あ、ありがとうございますアサシンさん……ん、紅茶淹れるの、上手になりましたねぇ」

「うむ、アーチャーの指導の賜物よ」

 

 そういえば最近、アサシンとアーチャーがキッチンで何かしているという事は気づいていたが、まさかそんなことをしていたとは。

 そんなアーチャー指導の下で鍛えられたアサシンの淹れた紅茶を楽しみつつ、アーシアは手に持っていた資料に目を落とす。

 

「何か判明したのであろうか? 私は魔術について門外漢である故、是非とも結果を知りたい所だが」

「現状判明している事はそんなに……現場でも言いましたが、クトゥルフ系の魔術と、聖剣が全ての現場で使われていることと、誘拐されているのは主に悪魔や人間の子供であるというだけですね」

 

 それも少年期の子供がメインで誘拐されている。

 

「マスター、こっちには興味深い内容が書かれているぞ」

「興味深い、ですか?」

「ああ、何でも下級天使が数名、同じクトゥルフ系魔術の使い手に殺されているらしい」

「誘拐ではなく……殺害?」

 

 悪魔や人間は誘拐だったのに、天使は殺害、この違いは何なのだろうか。普通に考えれば犯人は別人と考えるべきなのだろうが、クトゥルフ系魔術を使って殺害されたという点を考えれば、恐らくは同じ犯人なのだろうと判断できる。

 

「えっと、それってさ……犯人は天界に恨みがあるとかじゃないの?」

「む?」

 

 突然、藍華が自分の考えを口にしたので、驚いて全員が藍華に注目してみれば、彼女はアーチャーが持っていた資料を覗き込んでいる所だった。

 

「だってさ、悪魔や人間なら子供だけど誘拐してるのに、天使は誘拐してないんでしょ? もしかしたら天使の子供じゃないからとも考えたけど、でも天使だけ殺されたって資料として残してるって事は……」

「自分は天界に恨みを持っているというメッセージか」

「まぁ、マスターがなのか、サーヴァントがなのかは判らないけどね」

 

 少なくともどちらかは天界に対して恨み、憎しみを抱いている可能性が高いというのが藍華の推理だ。

 

「ふむ……」

「アーチャーさん?」

「ああ、いや……何故だろうな、この子供の誘拐という事件、生前どこかで聞いた覚えがある気がするのだが」

 

 アーチャーの生前、それは現代社会にあたる訳だが、別段子供の誘拐が珍しい時代ではない。だが、それでもアーチャーの中では何かが引っ掛かっているようだ。

 

「さて、誰から聞いた話だっただろうか……」

 

 生前の記憶の殆どを磨耗しているアーチャーでは、流石に思い出すのも無理があるようで、引っ掛かりはあっても思い出すに至る事は無い。

 故に、思考を早々に放棄したアーチャーは新しい資料を手に取って目を通し始めるのだった。

 

 

 事件が進展しないまま、ついにリアス・グレモリー眷属とソーナ・シトリー眷属のレーティングゲーム当日となった。

 この日はアザゼルとガブリエルがそれぞれのチームの監督、ルイーナは神の子を見張る者(グリゴリ)でシェムハザと共に調査中という事で事件調査に参加出来ない為、弓兵陣営と暗殺者陣営の計4人で冥界を探索している。

 

「流石に会場近くは来客が多いな……子供も多いようだ」

「ほう、ならば敵にとっては好都合な場ということか」

 

 アーチャーとアサシンの言う通り、これだけの人混みとなると、返って誘拐し易いというもの。子供も多く来ているこの場なら、動きがあるかもしれない。

 

「マスター、桐生藍華には教えているな?」

「はい、桐生さんも何とか回路を開けるようになりましたから、最低限の探知魔術を教えてますよ」

「まぁ、あたしの精度だと大掛かりな魔術を使われない限りは気付けないけどね」

 

 その点なら大丈夫だろう。敵がクトゥルフ系魔術を使うのであれば、それなりに規模は小さくとも使用魔力が大きい筈なので、藍華でも気付ける筈だ。

 

「む……どうやら、敵は間違いなくこの場で事を起こすつもりだな」

「うむ、それもこの気配は間違いなくキャスターの気配よな」

「「っ!」」

 

 ここで、サーヴァント二人が、近くにサーヴァントの気配を感じ取った。間違いなくサーヴァントが、それもキャスターのクラスで召喚された英霊が、この場に来ている。

 

「マスター、使い魔は?」

「もう飛ばしてますよ」

 

 既にアーシアは自身の髪の毛から作った簡易使い魔を数体飛ばして会場を探索している。

 

「「!」」

「これは……」

「チッ……やってくれる」

 

 それは、突然の事だった。会場前の広場の一角で、怖気の走る魔力と言えば良いのか、そんな魔力を使用された気配を感じたのだ。

 

「行くぞ」

「はい!」

「藍華殿、失礼するぞ」

「へ? きゃあ!?」

 

 走り出したアーチャーに付いて行く為、足を強化して同じく走り出すアーシアと、そんな二人に並ぶ為、まだ強化の魔術が使えない藍華を抱きかかえたアサシンが同じく駆け出した。

 一向が辿り着いたのは近くの林の中、そこには連れ去られたらしい悪魔の子供が、おぞましい醜悪な存在に抱えられている光景があった。

 

「あれは、海魔か!」

「やっぱり、クトゥルフの眷属ですか」

「うげっ……気持ち悪いわね」

「うむ、あのような醜悪な生物は生前含めて初見よ」

 

 とにかく、このままでは不味いとアーチャーが速度を上げて、走りながら投影した干将・莫耶で海魔を斬り裂いて子供を救出、そのまま子供を抱えて飛び退くのと同時に周囲から子供を取り替えそうと襲い掛かった海魔にアーシアが投擲した黒鍵が突き刺さり、激しく燃え始めた。

 

「火葬式典!」

 

 アーシアが投擲した黒鍵の刀身には火葬式典と言う式典礼装が施されている。対象に突き刺さるのと同時に式典が起動して突き刺した相手を火葬する洗礼魔術だ。

 

「ほう、見事な技よな、アーシア殿」

「はぅ、いえ……今のは鉄甲作用を失敗していますから、まだまだ未熟です」

 

 しかし、油断は出来ない。何故なら燃え尽きた海魔とは別に、新たに海魔が出現して、四人に対して敵意剥き出しで威嚇しているのだから。

 

「桐生藍華、子供を頼む」

「あ、うん」

「アーシア殿は藍華殿の護衛を任せたいが、良いか?」

「わかりました」

 

 干将・莫耶を構えるアーチャーの横にアサシンが並び、青江を鞘から抜く。そして鞘を投げ捨てて自然体の構えを取った。

 

「そろそろ姿を現したらどうだ? キャスター」

「よもや、この程度の兵で我らを相手しようなどと考えるほど、愚者ではあるまいて」

 

 すると、近くの木の陰から一人の男が現れた。恐らく霊体化していたのだろう、それをアーチャーとアサシンからの呼びかけに応えて実体化したようだ。

 

「ほほう、貴殿等が我が儀式の贄を奪った愚か者達ですか」

 

 現れたのは身長が2m近くはあろうかという長身の男だった。黒いローブを着て魔導書を手に持つ姿は正にキャスターの名を冠するに相応しいもので、ギョロ目が特徴的な大男、この男がキャスターのサーヴァントとして召喚された者のようだ。

 

「キャスターのサーヴァントで、間違いないな?」

「如何にも」

「童を攫う理由を聞かせて貰おうか」

「おや、先ほども言ったではありませんか……我が儀式の生贄、とね」

 

 何の儀式なのかは不明だが、生贄を使う辺り碌な儀式ではないだろう。

 

「別に生贄について何かを言うつもりは無い。魔術師なら生贄など別段珍しいものではない……ただ、こうして相対するサーヴァント同士が揃ったのだ、やる事など一つしかないだろう?」

「然様、我らは二人、対する貴殿は一人ではあるが、そなたには兵も都合が付けられる身の上である様子、文句はあるまい?」

「ふむ、では致し方ありませんねぇ……お相手して差し上げましょう」

 

 キャスターが手に持つ魔導書を開くと同時におぞましい魔力を発した。同時に地面から更なる海魔が召喚され、その全てがアーチャーとアサシンを威嚇する。

 

「さあ! 我が盟友から賜った黒魔術の力!! その目に焼き付けるが良い!!」

 

 襲い掛かった海魔に、アーチャーとアサシンはそれぞれの剣を構え、斬り掛かった。ただ、だからこそ二人は気付けなかったのだ……藍華が抱える、気を失った悪魔の子供の背中が、一瞬だが不自然に盛り上がったのを……。




次回はキャスターとの対決、そして三人目のマスター正式登場です。

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