ハイスクールD×D
~堕ちた聖女の剣~
第六十一話
「二つの禁手」
人工神器である
その効果は
アーシアの魔力が増えた事で、当然だがその影響はアーチャーにも及ぶ。一部のステータスがワンランクアップしただけでなく、アーチャー本来の宝具も1分間だけなら使用可能となったのだから。
「これは、嬉しい誤算だ」
「む!? 速度が、上がったのか」
「どうやらマスターの魔力が増えたお陰だろうな、敏捷値と筋力値のステータスがワンランクアップしている」
セイバーの剣を回避する速度が上がった。セイバーの剣に己の剣を叩き付ける威力が上がった。セイバーという実力者に対しては微々たる差でしかないのかもしれないが、それでもアーチャーにとっては戦いの選択肢が増えた事で先ほどよりも戦いやすくなったと言えるだろう。
「
「ほう?」
モラルタ・ベガルタを消しながら後方へ飛び退いたアーチャーは一本の剣を投影する。それに対するセイバーは追おうかとも考えたが、アーチャーが投影した剣を見て冑の下で面白そうな物を見たと言わんばかりに笑みを浮かべた。
何故なら、アーチャーが投影した剣は、巨大な岩を削り出して作られた斧のようにも見える無骨過ぎる斧剣だったのだから。
「憑依経験、共感完了…
それは、あるいは皮肉と呼べるのかもしれない。とある世界では、バーサーカーのサーヴァントとして呼ばれた男が、その10年後にバーサーカーのサーヴァントとして呼ばれた男の御技を、目にするのだから。
「
九つの閃光がセイバーに襲い掛かる。だが、セイバーは冷静に両手にあるロングソードと莫耶を閃光に向けて奔らせて迎え撃った。
更に、セイバーの左手に握られる莫耶に引かれるように地面に転がる干将が動き、セイバーは莫耶を巧みに動かす事で干将の動きを操って襲い掛かる閃光の一つに対する盾とする。
「っ!」
「グゥッ!?」
しかし、流石に大英雄の御技を完全に迎撃するのはセイバーほどの騎士であっても難しかったのか、本人は傷こそ負わなかったものの、持っていたロングソードと莫耶、それに飛来した干将が粉々に砕け散る。
「ほう、貴殿の剣は勿論だが、私が用意してきた剣も、宝具とは言わないまでも、相当の業物だったのだが、なるほどナインライブズ……ギリシャの大英雄ヘラクレスの御技か。貴殿は中々愉快な英霊だな、アルスター神話のフェルグスが担いし魔剣カラドボルグ、輝く貌のディルムッドのモラルタとベガルタ、それに先ほどまで使わせて頂いた中華系の宝具、そしてギリシャ神話のヘラクレスの御技と……手癖の悪い私が言うのも何だが、貴殿も中々どうして節操がない」
剣だろうが槍だろうが、木の枝だろうが己が武器としてしまうセイバーと、剣だろうが槍だろうが宝具だろうが武器を選ばないアーチャー、なるほどこの二人はある意味で似ているとも言えるかもしれない。
「ふん、口の回る男だ。己が私の天敵だと気づいていてよく言う」
「そう言う貴殿とて天敵たる私を相手に先ほどから臆する事が無いな。今もその胸の内では私を突破する方法を検討していると見たが?」
「さて、それは実際に試してみないことには何とも言えないな」
そう言いながら、アーチャーが新たに投影した剣は所謂、日本刀だった。それも、剣士であるセイバーだからこそ、その刀の魅力から目を離せなくなる程、美しい刀だ。
「見事、としか言えぬ剣だ……東洋の剣、カタナと言ったか? これほど美しいものなのか」
すると、アーチャーは折角投影した刀をセイバーに投げ渡し、自分は再び干将・莫耶を投影して構えた。
刀はセイバーが手にした段階で先ほどの莫耶やロングソードと同じ様に漆黒に染まり、刀身には赤いラインが血管の如く浮かび上がる。
「ぬ? これは……」
「気づいたか」
「妖刀だったか、なるほどコレは……」
刀を手にしてから、セイバーに変化が起きた。肉体的な変化は無いのだが、そこではなく……見ているものの認識に起きた変化だ。
今までは、アーチャーとリアス、アーシア、タンニーン、一誠、小猫を敵として認識していたのに、今はそれに加えて仲間である筈の黒歌と美猴まで敵と認識し掛けている。
「その刀は繁慶という銘でな……その刀を手にした者は、その刀の魅力に魅入られ家臣全てを斬り殺したという逸話を持つ妖刀だ」
その逸話から、繁慶という刀は手渡される、献上される等の譲渡が行われると、受け取った側を狂わせて同士討ちをさせる同胞殺しの呪いと概念を秘めた概念武装となった。
「なるほど、だが……っ!!」
「……流石にランクの低い宝具では無駄か」
セイバーが気合と魔力を高めた瞬間、セイバーの精神を汚染しようとしていた呪いは打ち消されてしまった。
それを見てアーチャーは元々期待していなかったのか、冷静に双剣を構えて次の一手を講じるのだった。
人工神器とはいえ、
恐らく、活性化した堕天使の血の影響で、アーシアに人外の身体能力を与えて、それが魔術で更に強化されているようだ。
「行きます!」
一瞬だった。一瞬で、アーシアは黒歌との距離を詰めて左手のフォーリンで薙ぎ払おうとしたのだが、残念な事に黒歌はアーシアの動きを完全には捉えられずとも、戦闘行為自体が初めてであるアーシアの単調な動きは読めてしまったらしく、斬撃は避けられてしまった。
「にゃん、聖女ちゃん戦闘行為は初めてかしら? 動きが読みやすいにゃん」
「うぅ……な、ならこれで!!」
右手の籠手の両サイドにあるアームが横に伸びて弓の形になり、光の弦が張られる。そして、アーシアが腰の鞘にフォーリンを納めた後、左手で弦を引くと堕天使特有の光の槍が矢の形となって形成された。
「ならこっちも、仙術妖術のミックス攻撃行くにゃん!!」
「えぇい!」
黒歌の背後に現れた陣から妖術仙術ミックスの気弾が放たれ、アーシアが撃った光の矢は途中で分裂を繰り返して気弾と同数の矢となる。
気弾と光の矢がぶつかり互いを消滅させていく中、アーシアは煙の向こうに消える黒歌へ向けて左足太股のベルトに固定していた黒鍵を投擲した。
黒歌もそれに気づいていたのか防御魔法で防御したのだが……。
「にゃぁっ!?」
アーシアの細腕から投擲されたとは思えないほどの衝撃によって吹き飛ばされ、背後の木に背中を叩き付けられてしまった。
「ケホッ……今の、何にゃん?」
「教えません!」
アーシアと黒歌が戦っている光景を見て、一誠は更に焦っていた。アーシアの戦う光景は本当に危なっかしいとしか言えず、見ていてハラハラするのだ。
だから、取り返しのつかないことになる前に、自分が出るべきなのに、
「くそっ! どうしたら
自分に足りない何か、変化する、大きく変わる何か……そう思って周囲を見渡した時、一誠の目に映ったのは、主であるリアス・グレモリーの、大胆に開いたドレスの胸元から覗く美しく魅惑的な谷間だった。
「そうだ……おっぱいだ」
『お、おい相棒? ……まさか、お前』
「イッセー?」
ドライグとリアスが訝しげな声を上げるが、一誠はそんなこと気にするでもなくリアスの胸……おっぱいをガン見する。
「部長……お願いがあります」
「何かしら?」
「俺が
「……何を、したら良いの?」
「……おっぱいを、突かせてください!」
空気が、確かに凍った気がした。戦っているアーシアと黒歌、アーチャーとセイバー、美猴とタンニーンはもちろん、小猫は無表情の中に軽蔑の眼差しが混ざる。
だけど、リアスはそんな中で一誠の言いたい事を理解していた。伊達に一誠の家に住んではいない。一誠の趣味趣向は知っているし、一誠がリアスの胸に並々ならぬ興味を持っていることだって気づいていた。
確かに、同年代の男子にそんな視線を向けられれば恥ずかしい年頃のリアスだが、それでも一誠ならという気持ちは確かにある。
まだまだ未熟で、エッチで、変態で、熱くて、仲間想いで、誰よりも自分をグレモリー家次期当主ではなく、リアス・グレモリーという一人の少女として見てくれる一誠ならば、この胸を預ける覚悟は、出来ているのだ。
「分かったわイッセー、それで貴方が
そう言って、リアスはドレスの胸元をはだけて、一緒にブラジャーも押し上げる。露わになったリアスの乳房は一誠の目の前でたわわに揺れた。
「部長、良いんですね?俺、部長のおっぱい、その桜色のポッチを押しちゃうんですよ!?」
「っ! は、早くなさい! ……恥かしいじゃないの」
「う、うっす!」
戦闘の最中、本当に何をしているのだろうかと、セイバーの猛攻を何とか受け流しながらアーチャーは思う。
同じく、黒歌と戦うアーシアも、それにタンニーンも、まじめに戦っているのが何故だろうか、馬鹿らしくなってきた。
「おっさん! アーシア! 俺が部長の乳を突く間、時間稼ぎ任せたぜ!!」
嫌な時間稼ぎもあったものだ。
まぁ、とにかく時間稼ぎを始めようとしたアーシアとタンニーンだったが、ふと一誠が再びおかしな言動をしてくるものだから困った。
「おっさん!」
「何だ! 何かあったのか!?」
「右のおっぱいと左のおっぱい、どっちを突いたら良いと思う!?」
「馬鹿野郎!! 右も左も同じだ!! いいからさっさと乳を突いて至れ!!!」
「ふっざけんな!! 右と左が同じなわけ無いだろぅ!! 大切なんだよ……っ! 俺の大切なファーストブザーなんだぞ!! まじめに考えろ!!!」
むしろお前がまじめに考えろと、そう言いたくなるタンニーンだったが、一誠がこれほど女性の胸に執着を持っているのなら、逆にそれに合わせた方が建設的かと思い至り(決して、面倒になったとかじゃない)、一誠に答えを指し示す。
「なら、両方とも突つけ!」
「っ!! りょ、両……方……だと?」
何かの衝撃が奔ったかのように一誠の動きが止まり、そしてゆっくりとリアスの方を振り向いた彼の目は、良いのか? と聞いていた。
もう恥かしさがピークに達したのか、リアスは目を閉じて頬を真っ赤にしながら何度も無言で頷く事で返事とする。
「っ! じゃ、じゃあ……行きます!」
そして、今までリアス以外の誰も触れた事が無い胸の頂きに、一誠の指が触れ、そのまま押し込まれた瞬間、スイッチは……押された。
「ゃ……ん」
「っ! 鳴った!!」
次の瞬間、一誠の全身から赤いオーラが膨大な魔力と共に噴出して右手の甲には
「うぉおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
【Welsh Dragon Balance Breaker!!!!!!!】
『至ったぁ! 本当に至りやがったぞ!! おめでとう相棒! いやぁ、だが酷いもんだ。そろそろ俺は本格的に泣くぞ相棒よぉ』
一誠の姿は瞬く間に赤い光と共に全身が赤い鎧に包まれ、そして背中からは赤いドラゴンの翼が生えて広げられた。
溢れ出す魔力は周囲の木々を揺らし、タンニーンやアーチャー、セイバー、アーシア、黒歌、美猴は一誠の姿を見て息を呑む。
「
ある意味、惨状とも言える空気だったが、兎に角一誠はついに至った。だが、時間稼がなくてもリアスのおっぱい突かせとけば簡単に至ったのではないかと思った者も居たのだが、その者の名は、語る必要も無いだろう。
次回、黒歌撤退になるのですが、アーチャーとセイバーの戦いも佳境……さて、アーチャーは無事なのだろうか。