つか、TVじゃねぇなら最初からそう言って欲しかったですよ。
ハイスクールD×D
~堕ちた聖女の剣~
第五十一話
「若手悪魔」
「まずはお礼申し上げる。急な会合であるのにも関わらずよくぞ集まってくれた、次世代を担う若手の者達よ。今回、こうした場を設けたのは君達にお互いの存在の確認と、将来を競う者の認知をしてもらう為、そしていずれ君達が名を挙げた時に訪れるであろう我々悪魔政府の重鎮や他勢力のVIPとの顔合わせに、早いうちから慣れて貰うのが目的だ」
サーゼクスの言葉に、若手悪魔と、その眷属達は皆が慎重な面持ちで傾聴している。四大魔王の一人であるサーゼクス・ルシファーの言葉を、一字一句たりとも聞き逃さないよう、全員がサーゼクスに注目していた。
「(む……?)」
だが、そんな中で一人だけサーゼクスを見ていない者が居る事にアーチャーだけが気づいた。若手悪魔の一人……眷属ではなく、王の立場であろう一人の男が、サーゼクスではなく、アーシアの方に視線を向けているのだ。
「一つ、質問をよろしいでしょうか? サーゼクス様」
「なんだね? サイラオーグ・バアル」
手を上げてサーゼクスへ質問を告げたのは大王バアル家の次期当主にして、リアスとサーゼクスにとっては従兄弟に当たる上級悪魔、サイラオーグ・バアルだ。
「ほう」
「アーチャーさん?」
「いや何……あの男、上級悪魔という割りに魔力を感じられないが……随分と鍛え上げられた肉体と実力を持っていると感心しただけだ」
ひと目見ただけでアーチャーには判った。あのサイラオーグという悪魔、魔力こそこの場の誰よりも、それこそ一誠よりも少ないどころか、魔力そのものを持ち合わせていないが、その代わりに肉体を極限まで鍛え上げている。
あの鋼の如き筋肉から放たれる拳はたとえ上級悪魔が自慢の魔力をフルに使って防御をしたところで紙屑同然に貫通しうるであろう事は簡単に予想出来た。
「我々、若手悪魔もいずれは
「ふむ……私達としては、出来れば君達を巻き込みたくはない」
確かに、この場には
しかし、サーゼクスとセラフォルー、ガブリエル、ミカエル、アザゼル、アーチャーの考えとしては、前回は運が良かっただけに過ぎないというものだ。
それに比べれば、いくら才能に溢れ、眷属の質も良いリアスとソーナであろうと、言い方は悪いが所詮はまだまだ未熟な上級悪魔でしかない。
「敵は強大だ。前回の戦いでリアスとソーナが生き残れたのも運が良かっただけに過ぎない。そんな相手に、今の悪魔社会にとって宝とも言うべき君達若手を投入して失う事にでもなれば、それこそ悪魔にとって大きな損失だ。まだまだ発展途上の君達は段階を踏み、確実に強くなってくれ」
その言葉を聞いて、サイラオーグは何も言えなくなったのか静かに一歩引いて質問を終えた。
「さて、長話が過ぎてしまったようだ。だが、これだけは言わせて欲しい……私を含め、四大魔王は全員、君達には大いに期待を寄せている。だから、私達と、そしてこの場に集って頂いた各勢力のVIP達、それから政府重鎮の者達の前で聞かせては貰えないか? 君達の夢、目標、野望……将来を担う君達が、どんな悪魔になる事を胸に秘めているのか、それを聞かせて欲しい」
その言葉に真っ先に反応したのは、先ほど一歩下がったサイラオーグだった。もう一度一歩前に出て、誰よりも先に己が夢、目標を声高々に宣言する。
「俺の夢は、魔王になる事が夢です!」
政府の重鎮や魔王、各勢力のVIP達を前にして、堂々と目の前に居る魔王からいずれはその座を頂戴すると宣言した。
その大胆さ、気概、何よりその夢を何一つ恥じる事無く、恐れる事無く宣言したサイラオーグに、誰もが感嘆を漏らす。
「ほう、大王家から魔王か……すさまじい夢であるな」
「俺が魔王になって欲しい。それほどの男であれば、自然と俺が魔王になるでしょう。そうでなければ、所詮はその程度の男だったというだけの話です」
サイラオーグが魔王になるに相応しい男であるのかは、民衆が決める事であり、己はその為に鍛えぬくのみ。もしそれで民衆の心を掴む事が出来なければ所詮サイラオーグという悪魔は魔王の器ではなかった。それだけの事だと、サイラオーグは断言した。
実に清々しい。単純明快で、それでいて誰もが聞いていて聞き心地の良い言葉だ。ここまで単純でありながらも、真理とも言える言葉を平然と口に出来る辺り、サイラオーグという悪魔が、若手ナンバー1と呼ばれているのも頷ける。
「私の目標はレーティングゲームの覇者となり、愛する眷属と共に精進する。それが現在一番近い目標です」
リアスの目標はレーティングゲームの覇者……つまりトップに立つという事。
つまりそれは、現在のレーティングゲームの覇者であるディハウザー・ベリアルも、いずれはゲームで下すと魔王達の目の前で宣言した事になるのだ。
「私の夢、目標は……冥界にレーティングゲームの学校を建てる事です」
続けてソーナが口にした目標を聞いて、魔王達以外の冥界政府の役人達……つまり老悪魔達が全員首を傾げた。
彼らにはソーナの言っている事の意味が理解出来なかったようで、随分と見当違いなことを聞き返している。
「レーティングゲームの学校なら既にあるではないか。君とて人間界の学校へ進学するまではその学校に通っていた筈だが?」
「いえ、そういった貴族や特例ある悪魔、上級悪魔だけが通える学校ではなく、平民、下級悪魔、転生悪魔、そんな悪魔であれば誰でも身分、階級に関係無く平等に学ぶ事の出来る学校……私の夢は、そんな学校を作る事です」
良い目標だ。それが四大魔王全員と、アザゼル、ガブリエル、アーシア、アーチャー全員の見解だった。
しかし、他の冥界政府の役人達にとってはソーナの口にした目標はただのジョークとしか受け取らなかった様で、皆が爆笑し、嘲笑う。
「く、くははははははは!!! 何だその目標は! シトリー家次期当主というのは随分とジョークが上手いのだな!」
「平民や下級悪魔、ましてや転生悪魔如きが平等? 冗談にしては随分と笑えるではないか!!」
「そのような戯言、このような戯れの場だからこそ口に出来て良いが、公式の場では口にせん方が良いぞ? ククク……」
悪魔の社会は完全な貴族主義社会、貴族や魔王といった上流階級の上級、最上級悪魔には満足いく教育が施されるが、中級や下級悪魔、それから他種族からの転生悪魔は教育を受けるに値しないとして見下される事が殆どだ。
ソーナはそれを何とかしたいと思っているのだが、老悪魔達から見れば気に掛ける必要すら無い者に教育を受けさせるというソーナの目標は、戯言にしか聞こえない。
「私は、本気です」
「本気であるのなら、なおさら考えを改めよソーナ・シトリー。たとえ冥界が変革期に入っていようと、上級悪魔が下級、転生悪魔を見定め、下の者は力を示して伸し上がるのが常。上級悪魔は常に気高く、下級悪魔、転生悪魔は常に卑しく、それが悪魔にとっての常識。決して上級悪魔が下の者を教え導くなどあってはならないのだ! それを、乙女の夢物語であっても本気だと口にするなど旧家の顔丸つぶれも良いところですぞ」
老悪魔達の言葉を聞いていて、アーシアの表情に微かな不快感が浮かんだ。何故、夢や目標を語れと言ったのにも関わらず、それを頭から否定し、尚且つ大勢の目の前で嘲笑うのか。
変革期に入っているのなら尚更ソーナの目標は大事にせねばならない筈なのに、これでは変革期に入るのを否定し、今までの旧体制を維持しようとしているのが明白だ。
『マスター、今から言う言葉をそのまま君の言葉でサーゼクスに伝えろ』
「? は、はい……サーゼクス・ルシファー様」
「何かな? アーシア・アルジェント殿」
アーシアがサーゼクスの名を口にした瞬間、この場の全員が口を噤んだ。ソーナが笑われた事に反論しようとした匙も、それは同様だ。
「私は、私やアザゼル様、ガブリエル様はこのような若手悪魔を嘲笑う為の場に態々呼ばれて来たのでしょうか?」
「……アーシアさんの言う通りです。私も、将来ある若者を嘲笑う場に呼ばれたとあれば遺憾の意を表明せざるを得ません」
「ああ、全くだ。そこんとこはどうなんだ? サーゼクス、セラフォルー、アジュカ、ファルビウム」
アーシアの言葉にガブリエルとアザゼルも賛同して、魔王の意見を求めた。だが、魔王の何れかが発言する前に空気の読めない老悪魔が口を挟んでくる。
「口を慎め人間如きが!!」
「劣等種族如きが魔王様に意見しようなどと、身の程知らずも大概にしろ!!」
「そもそも、何故我ら悪魔に搾取される為だけに存在する人間がレヴィアタン様の隣に座っているのか、理解出来ん! 魔王様、これはこの無礼な人間をこの場から追い出すべきですぞ!!」
口々にアーシアを追い出せ。いや、魔王様に意見した無礼者の劣等種はこの場で処刑するべきだ。等々と老悪魔が発言するも、それはサーゼクスの一喝にて強制的に黙らされる事となった。
「これ以上、アーシア・アルジェント殿に無礼な発言は控えていただこうか」
「そうだねぇ。アーシアちゃんは人間とは言え、中立勢力代表としてこの場に来ているんだから、立場上は私たち魔王、大天使、堕天使総督と同等なんだから、お爺ちゃん達こそ身の程知らずは口を慎むべきだよ~」
身の程知らずは老悪魔の方だと、サーゼクスとセラフォルーは反論し、アジュカとファルビウムも言葉にはしないが、老悪魔を冷めた目で睨んでいる。
いくらサーゼクス達より永き時を生きてきた老悪魔達であろうと、実力という点で言えば超越者と呼ばれているサーゼクスとアジュカは元より、その二人に劣るセラフォルーとファルビウムの足元にも及ばない老悪魔達は、睨まれた時点で顔色を真っ青に染めて怯えてしまった。
「さて、すまなかった。アーシア殿、アザゼル、ガブリエル、うちの政府の者が大変不愉快なものを見せてしまった」
「本当にごめんね☆」
正式に謝罪をアーシア、アザゼル、ガブリエルが受け取った事で、会合は続くことになった。
ディオドラ・アスタロト、シーグヴァイラ・アガレス、ゼファードル・グラシャラボラスの目標を聞き終えた後、ついにメインとなる話をする事になったのだ。
「君達にはライバル達の実力を知っておく機会を与えたいと思っている。そこで、若手悪魔同士でのレーティングゲームをリーグ形式で開催することになった」
「最初の組み合わせはソーナちゃん率いるシトリー眷属とリアスちゃん率いるグレモリー眷属の試合と、ディオドラ君率いるアスタロト眷属とシーグヴァイラちゃん率いるアガレス眷属の試合、サイラオーグ君率いるバアル眷属とゼファードル君率いるグラシャラボラス眷属の試合だよ☆」
組み合わせが発表されて、特に戦意が高まったのはリアスとソーナだった。お互いに幼馴染であり、幼少時から何かと競い合ってきた生まれついてのライバル同士である二人、ここに来てついにレーティングゲームによる対決が実現する事になったのだ。
「試合は一ヵ月後、それまで各自存分に修練を積み、素晴らしい試合を見せてくれ」
こうして、若手悪魔によるレーティングゲームのリーグ戦が決定して会合は幕を閉じた。
この後、行われるのは老悪魔達を除いた魔王達とアザゼル、ガブリエル、アーシア、アーチャーによる会議のみ。
次回はちょいと御堅い話になります。