ハイスクールD×D
~堕ちた聖女の剣~
第三十九話
「敵襲」
突如、駒王学園全体を覆い尽くす結界が張られ、その内部に閉じ込められた会談参加者達。
更に最悪の事態として朱乃、ソーナ、椿姫の三名が時間停止を受けたかのようにその動きを完全停止させてしまい、全員が立ち上がって警戒を始めた。
「これは、時間が停止したのか!?」
「その様だ……なるほど、上位存在たる魔王、大天使、堕天使総督は当然として、兵藤一誠と白龍皇は
つまり、ソーナと椿姫、朱乃はそのどれにも該当しなかった為に停止してしまったという事になる。
そして、更に事態は最悪の一途を辿るようで、学園全体に衝撃が走って大きく揺れた。
「何事なの!?」
リアスが窓の外を見ると、モノアイの文様が描かれたローブを纏った集団が次々と上空に展開された魔法陣から転移してきて、校舎へ魔術攻撃を仕掛けているのが見えた。
幸いにして校舎には防御結界が予め施してあったので、何とか防げているが、その周囲を警戒していた筈の悪魔、天使、堕天使は時間停止によって身動き取れずに次々と殺されている。
「あれは魔術師ね」
「魔術師? それってアーシアみたいな……」
外の集団を一目見ただけでセラフォルーが魔術師だと看破した。
アーチャーも外に目を向けて魔術師と、魔術を解析してみたが、どうやら以前からの疑問が解決してしまったらしい。
「なるほど……」
「あら? どうされました?」
「いや何、些細な疑問が解消された程度だ。この場では何一つ関係の無い些事だから、気にしてくれるな、大天使ガブリエル」
「そうですか? ああ、それと態々大天使などと付けなくともガブリエルで結構ですよ」
「遠慮させて貰おう、君とはそこまで親しい訳ではない」
因みにアーチャーの解決した疑問とはこの世界の魔術師の使う魔術の事についてだ。
どうやらこの世界の一般的な魔術師とはアーチャーやアーシアが使う魔術とは違って魔術回路を使用したものではないらしい。
魔術に使われている魔力はアーシアやアーチャーの使う魔力とは違って悪魔の魔力を人間に使えるよう調整したような印象を受ける。
ただ、魔術基盤が存在しているのに現代まで殆ど使われた形跡が今まで無かったのを考えると、昔は魔術回路を使った魔術師も居たのだろうが、長き時の中で失伝し、魔術回路無しでも使える魔術が魔術師の間で主流になったのだと推察出来た。
「不味いぜこれは、恐らく敵は既に会談中に侵入してきてハーフヴァンパイアの小僧を手中に収めたんだろう……その上で、小僧の
「そんな! ギャスパーが敵の手に落ちたですって!?」
「ま、不味い! あそこには小猫ちゃんも居るのに!!」
恐らく小猫も敵の手に落ちた可能性がある。彼女が普通の魔術師相手に後れを取るとは考えられないから、可能性としては数の暴力に訴えられたか。
「空にある転移魔術式を見る限り、この結界内に外から転移陣を繋いでいる者が居るようですね」
「逆に、こちらの転移用魔法陣は完全に封じられています」
ミカエルとグレイフィアの言葉から判るのは、転移魔法陣を敷いている術者が結界の外に居る以上、転移魔法陣を破壊しない限り的は増え続ける一方という事だ。
やるべき事は二つ。一つは外に居る敵集団の殲滅と上空の転移魔法陣の破壊。もう一つは捕らわれているであろうギャスパーおよび小猫を奪還して時間停止を解除する事。
「恐らくは内通者が居るのだろうが……今は詮無き事だ。それよりも動くべきだろう、リアス・グレモリー」
「ええ、分かっているわ……ただ、ギャスパーの身の安全を考えるなら小猫とのキャスリングは控えるべきね、その上で最短でギャスパー達を救出する方法があれば良いんだけど」
既に全ての
「ギャスパー・ヴラディと搭城小猫が捕らえられているであろう場所は旧校舎か……新校舎から最短で行くならば
「それなら僕かイリナさんが部長に同行するべきかな?」
「待ってくれ木場……俺が行く」
「イッセー君?」
「俺だってプロモーション使えば
「ふむ……良いかもしれないな」
「アーチャーさん!? しかし!」
「ただでさえ旧校舎は狭い上、部室の広さと障害物を考えろ、戦闘を行う場合は剣などの長物は邪魔になる可能性がある……ならば籠手による格闘戦がメインの兵藤一誠ならば小回りも利くだろう」
なるほど、それならば納得出来る。祐斗の
それならば一誠がリアスに同行する方が成功率が高いと判断してアーチャーも賛同したのだ。
「イッセー、お願い出来るかしら?」
「はい部長! 俺が居る限り、部長には指一本触れさせないですし、ギャスパーも小猫ちゃんも、必ず助けて見せます!」
「そう……なら、お兄様」
「……わかった、そちらは二人に任せよう。イッセー君、リアスを頼むよ」
「了解しました!」
早速一誠とリアスが会議室を出ようとしたのだが、それをアザゼルが止める。
「こいつを持って行け」
「これは……?」
アザゼルが差し出したのは妙な力の篭った腕輪だった。しかもそれが二つ。
「こいつは俺が開発したアイテムでな、こいつが一時的に
「それって、俺も
「可能性の話だ。あくまでなれるかはお前次第だからな、未熟なお前では対価無しではなれないだろうが、その腕輪を対価にすれば肉体を対価として差し出さずとも済む……まぁ、一種の保険とでも思っておけ」
とりあえず、万が一の時に役に立つだろうと思い、一誠は腕輪を受け取る。
そしてリアスと共に会議室を出ると、直ぐにリアスを抱きかえ、プロモーションで
「テロリストごと、ハーフヴァンパイアを吹っ飛ばせば早かったと思うんだけどね」
「口を慎め白龍皇、今の言葉は和平を結んだこの場において火種になる」
「ふぅ……じっとしているのは苦手なんだ、軽口くらい許して貰いたいね」
「なら、外に出て物騒な連中の相手をしてくれ、白龍皇が出ればやつ等も少しは乱れるはずだ」
アザゼルの指示を不適な笑みで受け止めたヴァーリは、先ほどまで寄り掛かっていた壁から離れると、背中に
上空で
「さて、サーゼクス」
「何かなアーチャー殿?」
「いつまでもこうしていた所で事態は動かん。白龍皇が動いているとはいえ、見物しているわけにもいくまい?」
「そうだね、ギャスパー君の救出が終わってからとも考えていたけど、事態は早めに終息するべきか」
「っ! サーゼクス様!」
そろそろ全員動こうかと考えた時だった。会議室内の異変に気づいたグレイフィアがサーゼクスに警戒を呼びかける。
すると、会議室の中央に小さいながらも転移魔法陣が出現した。大きさから言って、一人用と考えられる。
「御機嫌よう、現魔王サーゼクス殿、セラフォルー殿」
現れたのは褐色肌に眼鏡の女性だった。
感じられる魔力こそサーゼクスやセラフォルーにも劣るが、上級悪魔であるリアスやソーナを軽く上回っているのは確かだろう。
「あ、あなたがどうしてここに!?」
「先代レヴィアタンの血を引く者……カテレア・レヴィアタン!」
それはつまり、元々シトリー家出身だったセラフォルーに魔王の座を奪われた者、という事か。
「世界に、破壊と混沌を!」
カテレアの持つ杖の先端に膨大な魔力が収束し、一気に弾けようとしている。
咄嗟にミカエルとガブリエル、アザゼルが時間停止で動けない朱乃、ソーナ、椿姫の前に立って防御結界を展開し、祐斗、イリナ、ゼノヴィアはサーゼクスとグレイフィアが、アーチャーとアーシアはセラフォルーが防御結界で守り、次の瞬間に起きた大爆発から守った。
「三大勢力のトップ全員が共同で防御結界! ふふ、なんと見苦しいのでしょう!」
「どういうつもりだ、カテレア」
「この会談の、正に逆の考えに至っただけです。神も魔王も居ないのなら、この世界を変革すべきだと」
「っ! カテレアちゃん! やめて!! どうしてこんな……こんなことを!」
セラフォルーの悲痛の叫びに対して、同じレヴィアタンの名を持つカテレアは心底不愉快だという表情を浮かべた。
「セラフォルー……私からレヴィアタンの座を奪っておいてよくもぬけぬけと!」
セラフォルーが魔王レヴィアタンの座を奪ったとは、随分と穏やかな話ではない。だが、セラフォルーの人柄を見る限り、他人を蹴落としてまで魔王の座に座るような人物には見えないのだが。
「サーゼクス、彼女は……カテレア・レヴィアタンは本来、魔王レヴィアタンの最有力候補だったのか?」
「本来ならね……しかし、先代レヴィアタン様が亡くなられた後に新たな魔王を決める話し合いの席で、魔王は全ての悪魔の中で抜きん出た実力を持っている事が望ましいという意見が出たんだ。その際に候補者として上げられたのは私と、アジュカ、カテレア、ファルビウム、セラフォルー、クルゼイ、シャルバ、リゼヴィム、メフィストの9名だった……その内、リゼヴィムは冥界から離反、メフィストは自ら候補を降り、残りで魔王を決める事になったんだよ」
結果として新たな魔王として指名されたのはサーゼクス、セラフォルー、アジュカ、ファルビウムの四名。いずれも残った候補者の中で抜きん出た実力を兼ね備えており、大戦で活躍した功績もあっての決定だった。
「なるほど、つまり彼女はセラフォルー・レヴィアタンに実力で劣った為に魔王になれなかったという事か」
「そこの人間! 無礼な口を慎む事ね。今日この場でセラフォルーを殺し、私が新たなレヴィアタンを名乗る事になる前に、貴方から殺して差し上げましょうか?」
「カテレアちゃん……」
「……ふん、セラフォルー・レヴィアタンに実力で劣ってたが故に魔王になれなかった貴様が彼女を殺す、か……聞いているだけで哀れだな」
「そんなに死にたいのなら、殺して差し上げましょう……!」
ただの人間であれば一撃で殺せるであろう魔力弾がカテレアから放たれ、一直線にアーチャーへと向かう。
しかし、それは隣に立っていたアザゼルが光の槍で弾き飛ばした事で事なきを得た。
「やれやれ、悪魔の揉め事に巻き込まれたのかと思ったが、違うようだな」
「あなたの目的は、この世界そのものという事ですね」
「ええ、アザゼル、ミカエル。神と魔王の死を取り繕うだけの世界、この腐敗し切った世界を私達の手で再構築し、正しき指導者の下で変革するのです!」
その正しき指導者が、自分だとでも言いたげなカテレアに、自然とアザゼルから笑いが零れた。
いや、アザゼルだけではない、アーチャーからも同様に笑いが零れ、あまりにも哀れな女に憐れみの目を向ける。
「腐敗? 変革? おいおい、ここまでの事をしておいて随分と陳腐だな。そういう台詞はアニメや特撮ヒーロー物で一番最初に死ぬ敵役の台詞だぜ?」
「私を愚弄するか……っ!」
侮辱された怒りからか、カテレアの全身より膨大な魔力がオーラの如く吹き出てきた。
それを見てアザゼルも魔力を放出して、同じようにオーラのように魔力を全身に纏い最高位の堕天使の証たる6対12枚の翼を広げる。
「いいな、サーゼクス、弓兵……あいつは俺がやる」
「……カテレア、投降するつもりは無いのだな?」
「ええ、サーゼクス。あなたは良き魔王でしたが、残念ながら最高の魔王ではなかった!」
「そうか……残念だ」
交渉は決裂、これよりカテレア・レヴィアタンとアザゼルの戦いが始まる。
駒王学園で行われている戦いの様子を、近くの煙突の上から見学している者が居た。
漢服を羽織った黒髪の青年の手には聖なるオーラを纏った神々しい槍が握られており、煙突の上に座ったまま面白そうな笑みを浮かべている。
「なるほど、カテレア・レヴィアタンと戦うのはアザゼルか……となると」
青年の視線の先に居るのは、アーシアを背後にして立つアーチャーの姿。
「彼も君と同じ存在みたいだな……そうだな、せっかくだから君の全力が見てみたいし、丁度良いかもしれない」
次に青年が向けたのは自分が座っている煙突の下の地面だった。
だが、そこには地面があるだけで誰かが居るようには見えないのだけど……間違いなく、そこには居る。
「それじゃあ、行け」
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ーーーーーーーーーっ!!!!!!!」
突如現れて雄叫びを上げた『ソレ』は、2mを超える長身に、筋骨猛々しい盛り上がった筋肉を爆発的に撓らせながら手に持つ戟と呼ばれる武器を手に走り出した。
理性を感じさせない狂った目に映るのは、
いったい最後に登場したサーヴァントは何者ナンダー(棒読み)