ハイスクールD×D
~堕ちた聖女の剣~
第三十三話
「停止の吸血鬼」
リアス・グレモリーの最後の眷属、
対人恐怖症という事で封印されていたのを良い事に引き篭もり生活をエンジョイしていた彼だが、今回こうして封印解除……つまり昼間でも外に出る事になった訳で、しかしそれを外への恐怖から拒否している。
「ヴラディ……か」
「あら? アーチャー、どうかしたの?」
「いや、ヴラディという名で思い浮かぶのは吸血鬼の祖、ブラド伯爵だが……いや、それも当然か、ギャスパー・ヴラディ、今でこそ悪魔に転生しているが、彼は吸血鬼だな?」
「ええ、そうよ。この子は吸血鬼と人間のハーフでね、その生まれと所持している
なるほど、だから対人恐怖症というわけだ。
しかし、封印を施さねばならぬ程の
「リアス・グレモリー、彼の能力は?」
「そうね……見れば判るわ」
ギャスパーの方に目を向けると、一誠がいつまでも棺桶から出ようとしないギャスパーに痺れを切らしたのか、無理やり中から出そうとしている。
だが、その次の瞬間だった。ギャスパーと、アーチャー、それからアーシアを除いた全員が突然動きを止めてしまったのだ。
「ふぇええええええ!? な、何で止まってないんですかぁ!?」
「これは……」
「皆さん止まってしまいました……」
ギャスパーは他の皆が止まってる隙に近くのダンボールの中に避難していて、残るアーチャーとアーシアは周囲の止まっている皆の様子を観察する。
「これは、時間が止まっているのか……?」
「時間ですか?」
「ああ……固有時制御とはまた違う、外界へ働きかける時間停止……既に『魔法』の域の能力だな」
魔術師が目指す一つの到達点、それが『魔法』。アーチャーも魔術師だった事もあり、魔法についての知識は幾ばくかある。
第一魔法『無の否定』、これは名称だけで詳細までは知らない。
第二魔法『平行世界運営』、これについては嘗ての師の影響もあり、勉強したので詳細はそれなりに知っている。まぁ……生前にその使い手と会った事があるというのものあるが。
第三魔法『魂の物質化』、これは姉の事、聖杯戦争の事を通して学んだ事なので当然だが知っている。理解こそ不可能だが、今のこのサーヴァントという殻もまた、その魔法の一端の産物であるという事もあり、ある程度の知識はあった。
第四魔法は名称も詳細も一切が不明だ。使用者は存在しているという事までは把握しているものの、全てが謎に包まれたままアーチャーは死んでいるので、今後も知る事は無い。
最後に第五魔法『魔法・青』、生前に出会った蒼崎青子が行使している魔法という事は知っているが、詳細までは知らない。精々時間操作も内容に含まれているという程度の事は知っているが、真偽の程は確かではないのだ。
「でも、何で私とアーチャーさんは止まらなかったのでしょうか……?」
「私の場合はこの外套だろうな、これは外界からの干渉をある程度遮断してくれる。それにクラス別スキルにある対魔力と、魔術回路を開いていたのが理由だろう」
実際の所、ギャスパーの
もしギャスパーが今後、もっと実力を上げたのなら、アーチャーすら停止させる事も可能とするかもしれないが、あくまでもしもの話。
因みにアーシアの場合は素で抗魔力がアーチャーより高い。魔術回路の少なさに反してアーシアは外界からの干渉には強い耐性を持つ。
恐らくは長年の信仰心が魔術回路の活性化に伴ってアーシアに強力な抗魔力を授けたのだろうと予想するが、定かではない。
「ギャスパー・ヴラディ、このままでは埒が明かん。そろそろ時間停止を解いてもらえるか?」
「ご、ごめんなさいぃいいいいいいい!! ぼ、僕、これ制御出来ないんですぅううううううう!!!」
「……なるほど、それが原因か」
封印されていた理由が分かった。
確かに強力な能力を持つ
「む?」
すると、ようやく
一誠は何が起きたのか理解出来ず、目の前に居た筈のギャスパーを探してキョロキョロしている。
「兵藤一誠、ギャスパー・ヴラディならそこの箱の中だ」
「え? うわ! ホントだ!?」
部屋の隅にあるダンボールに隠れるギャスパーを見つけて、いつの間に移動したのかと驚いている一誠に、ようやくリアスから彼の
「今のはギャスパーが高速移動したのではなく、私たちが時間停止によって止められている間に移動したのよ。これこそがこの子の持つ
なお、本来ではギャスパーはリアスの
「ふぇ~、凄いんですねぇギャスパーさん」
「うぅうううう、僕の話なんてして欲しくないのにぃ」
とにかく、まだ自己紹介すら済んでいないのだから、何とかギャスパーにダンボールの中に入っているとは言え、アーチャー達の方を向かせたリアスは、新たな眷属やアーシア、アーチャーの紹介を始める。
「紹介するわギャスパー、彼が
「よろしくなギャスパー!」
「それと、元教会のエクソシストで、
「よろしく頼む」
「よろしくね!」
「は、はいぃいいい!」
そして、リアスの眷属ではないが、中立の立場ということで名目上リアスの保護下に入っているアーシアと、そのサーヴァントであるアーチャーの紹介に入った。
「元教会の聖女で、今は中立の立場として一緒にオカルト研究部に所属しているアーシア・アルジェント、それからそのサーヴァント……使い魔のアーチャーよ」
「よろしくお願いします」
「うむ」
「う、うぅ」
先ほど停止が効かなかった二人に、ギャスパーは若干の恐怖を感じているのか、警戒されてしまった。
アーシアが困った顔でアーチャーを見上げてきたが、そんな顔されてもアーチャーの方が困ってしまう。
「何でアーシアとアーチャーを警戒してるの? ギャスパー」
「こ、この人たち、僕の停止が全然効いてなかったんですよぉ」
「うそ……? ホントに?」
「はいぃ」
どういう事なのかとリアスが見つめてきた。
「私の着ている外套が特別製でな、外界からの干渉をある程度遮断してくれる。マスターは抗魔力が並の魔術師より高かったのが理由だろう」
「抗魔力……? それに、アーチャーの外套ってそんなに凄い物なの? 確かに悪魔である私達には凄く嫌な感じがするけど」
「抗魔力とはそのままの意味で、魔術や魔のものの外界からの干渉に対する耐性の事だ。これが高ければ高いほど洗脳や暗示といったものが効き辛くなる。それと、私の外套は簡単に言えばとある聖人の聖骸布を加工した物だな」
聖骸布と聞いて元教会出身のゼノヴィアとイリナが飛び上がった。
当然か、教会出身の人間にとって聖骸布などの聖具は大変貴重なものであり、信仰上とても大切な物なのだから。
「ど、どこでその聖骸布!?」
「知人のカレー好きシスターに貰った物だ」
「あれ? でも聖骸布なのに引き込まれる感覚が無い……?」
通常、教会出身の、それも信仰心の強い者が聖具を目にしたら、それだけで魂すら持っていかれてしまう事もある筈の聖遺物を目の前にしているのに、そんな感覚がゼノヴィアにもイリナにも無い。
いや、そもそもそれならとっくにアーシアが死んでいる筈なのに、それが起きていないというのは何故なのか。
「その辺りの理由は与り知らぬ事だ。君達の信仰が弱いとは言わないが、何か要因があるのかもしれないな」
この話はもう良いだろう。それより、今はギャスパーの話だ。
封印を解く以上、昼間もギャスパーには外に出てもらう事になるし、授業にだって普通に出なければならない。
だが、今の対人恐怖症と、対外恐怖症をなんとかしなければ、まともに外に出る事も出来ないので、それを何とかしたいのだ。
「イッセー、ギャスパーの事を頼めるかしら? 私、これから朱乃と祐斗と行く所があるから、ギャスパーを何とか外に出られるようにしてあげて?」
「了解っす!」
一誠が引き受けてくれた事に安心して、リアスは朱乃と祐斗を連れて出かけていった。
残された一誠達は、早速だがギャスパーを外に連れ出して、まずは人と接する事に慣れる訓練をする事になる。
意気揚々とギャスパーを連れて旧校舎の庭へ向かう一誠とイリナ、ゼノヴィア、小猫の後ろを歩くアーシアは、ふと違和感を感じて窓の外に目を向けた。
「マスターも気づいたか」
「はい、何か……大きな力が学園敷地内に入った気配です」
「ああ、それも魔王級の力だ……これは、私一人では厳しいな」
一先ず警戒だけはするべきだろうと、アーチャーは鋼の、アーシアは自身の髪の毛を魔力で編んで作った鳥の使い魔を放って警戒する事にした。
念のため、窓の外で毛繕いをしていたラッセーも鳥型の使い魔を追わせて警戒に出てもらい、作業を終えた二人は一誠達を追いかける。
泣き言を言っているギャスパーに、先行きの不安を感じつつも……。
次回、厨2未婚総督アザ★ゼル! 爆誕。