ハイスクールD×D
~堕ちた聖女の剣~
第二十三話
「決戦、地獄の番犬」
駒王学園校門前には学園全体を覆う結界を張るソーナ率いる生徒会役員が揃っていた。
コカビエルは既に学園敷地内……グラウンドにて構えているらしく、バルパー・ガリレイ、それから聖剣使いとして確認されているフリード・セルゼンも居るとの事だ。
「リアス、魔王様に今回の事、報告すべきじゃないかしら?」
「……駄目よ、お兄様にはなるべく心配を掛けたくないし、あなただってそう思ったからレヴィアタン様に報告しなかったんじゃないの?」
「しなかったわけじゃないわ。貴女の意見を聞いて、それから報告するつもりだったのよ、事は私たちで対処出来る範疇を超えてるから、魔王様に頼んで援軍を遣してもらうべきだわ」
リアス・グレモリーの兄であるサーゼクス・ルシファーと、ソーナ・シトリーの姉であるセラフォルー・レヴィアタン、二人の魔王に援軍を要請すれば少なくとも最上級クラスの援軍が派遣される。
コカビエル相手であれば、もしかしたら魔王本人か、その眷属が出張ってくる可能性もあるので、援軍は呼ぶべきだとソーナは主張するが、リアスはこの街を任されている以上、その責任は自分で果たすべきだと援軍を呼ばないと主張していた。
「リアス・グレモリー、君の責任問題は確かに理解出来るが、援軍は呼ぶべきだ。相手は伝説の堕天使である以上、自分の力を過信するのは危険だろう。そうだな? 姫島朱乃」
「ええ、アーチャーさんの仰る通りですわ、リアス。悪いけど、魔王様には私から既に報告して援軍を手配しているわ」
「朱乃!」
「リアス、理解して。ソーナ会長も仰ってるけど、事は既にリアス一人の問題じゃないの、魔王様に援軍を求めるのは間違いじゃないわ」
「……そう、ね」
コカビエルとの戦いはリアス眷属とアーチャー、アーシア、ゼノヴィア、イリナのみで行われる。
結界維持をしなければならないソーナ眷属が戦力として加算されない以上、援軍を求めるのは当然、リアスの個人的な気持ちは残念ながらこの場では無視せざるを得ない。
「大局を見誤るなよリアス・グレモリー、私達のすべき事はコカビエルを私達の手で倒す事ではなく、この街を守る事だ。その為に打てる手段があるのなら、そこに私情を挟むのは以ての外だ」
「そうね…ごめんなさい、私が間違ってたわ」
「それで良い、それよりソーナ・シトリー、結界の強度はどの程度だ?」
「流石にコカビエルクラスの全力を完全に閉じ込めるのは難しいですね、ですがそれでも数秒程度であれば何とか外に被害が出ないように抑えることは可能かと」
「数秒か……了解した、ならば誰かシトリー眷属の使い魔を一緒に連れて行きたい。その使い魔を通して中の様子を見てもらい、結界の出力を調整してなんとか持続時間を長引かせるよう心掛けるんだ」
「では、わたしの使い魔を……」
そう言って梟の使い魔を差し出したのはソーナの隣に立っていたメガネの少女、生徒会副会長の真羅椿姫だった。
「では、すまないが君は結界維持をしながら中の様子の把握と、都度ソーナ・シトリー達への指示を頼む」
「はい」
これで準備は完了だ。
一行は結界に開けられた入り口から校庭に入る。中は結界の影響で空が紫色になっており、その結界の張られているギリギリの高度にご丁寧に椅子を浮かべて座るコカビエルの姿が見える。
「ようやく来たかサーゼクスの妹、それに聖剣使いと……ほう、元聖女殿も一緒とはな。貴様らは運が良い、もう少しで聖剣エクスカリバーが完全ではないものの、再びこの世に姿を現す事になる」
見れば、グラウンドの一角ではバルパー・ガリレイと思われる初老の男が奪ったエクスカリバーを集めて何やら儀式を行っており、その傍らにはフリードも居る。
「貴様らが来たという事はサーゼクスかセラフォルー辺りも間もなく来るだろう……貴様らでもまぁ、余興くらいにはなるか」
そう呟いて、コカビエルは光の槍を一本、体育館に落とした。
体育館に光の槍が着弾した刹那、体育館は大爆発と共に消滅して、跡形も無く消えてしまう。
「体育館が……っ!?」
あまりに規格外な威力に一誠が驚いているが、聖書に記されるほど長き時を生きた最上級堕天使、この程度は普通だと考えるべきだ。
「エクスカリバーの統合にはまだ少し時間が掛かるのでな、折角来てもらって遊び相手が居ないのも失礼か……そうだな、俺のペットと遊んでいて貰おうか!」
コカビエルの座る椅子の下から放たれた光がグラウンドの一角に突き刺さり、大穴を開けた。
その穴の中は空洞ではなく灼熱、地獄に通ずる鬼門であるというのは見るからに明らかであり、そこから光とともに現れたのは三つの首を持つ獣、ケルベロスだ。
「ケルベロスですって!?」
「ケルベロス!? 部長、朱乃さん、それって……」
「冥界の門に生息する、地獄の番犬ですわ」
「地獄の、番犬……」
ケルベロスの威容にアーシアが呑まれ掛けている。咄嗟にアーチャーがアーシアの前に立ってケルベロスから放たれる威圧の盾になる事で何とかアーシアの意識を保てたが、ケルベロスは全部で三体が穴から出てきている。
正直、早急に片付けなければアーシアの負担になってしまうだろう。
「リアス・グレモリー、君と姫島朱乃、塔城小猫で一匹、頼めるか?」
「ええ、任せなさい」
「なるべく早く済ませますわ」
「……大丈夫です」
「ゼノヴィア、紫藤イリナ、兵藤一誠がもう一匹を」
「任せろ」
「頑張るよ」
「うっす!」
残る一匹はアーチャーとアーシアで何とでもなる。相手がケルベロスだというのなら、絶対的な手札もアーチャーにはあるのだから。
「来るぞ! 散開!!」
アーチャーの掛け声と共に全員が割り当てられたケルベロスへと向かって行った。
アーチャーも自身が相手をする事になるケルベロスへと干将・莫耶を構えて走り、吐き出された炎を避けながら真下へ滑り込みながら胴体に刃を入れる。
「「「ギャオオアアア!!」」」
「躾の成ってないペットだ、どうやら伝説の堕天使は躾が苦手らしいな」
踏み潰そうとするケルベロスの足を斬り付けながら回避してジャンプ、干将の刃をケルベロスの首の一つに叩き込んだ。
「む……」
まるで鋼を斬ろうとしたかのような感触があった。
眉間に皺を寄せるアーチャーへケルベロスの別の頭が炎を吐いたが、斬り付けた頭を踏み台にジャンプして回避すると、空中で干将・莫耶をブーメランの如く投げる。
「I am the bone of my sword」
再び、アーチャーの両手に干将・莫耶が投影され、それもまた投げる。合計4本の刃は回転しながらお互いに引き合うように間に居るケルベロスへ殺到して、刃がその身体に触れた時だった。
「
大爆発、干将・莫耶に込められた神秘が暴発して爆発がケルベロスを襲う。
「「「グ、ガァアアアアア!!!?」」」
「耳障りな鳴き声だ」
三度、アーチャーの手に投影された干将・莫耶を構えて、アーチャーは走り出す。
「鶴翼(しんぎ)、欠落ヲ不ラズ(むけつにしてばんじゃく)」
走りながら両手の剣を後ろ手に交差させると、その刃は光に包まれ短剣だった筈の刀身が長剣をも凌駕する巨大な翼を彷彿とさせる刃へと変化した。
「心技(ちから)、泰山ニ至リ(やまをぬき)、心技(つるぎ)、黄河ヲ渡ル(みずをわかつ)」
再びケルベロスが吐いた炎を大きく飛び上がる事で回避したアーチャーは、オーバーエッジと化した干将・莫耶を翼の如く構え、落下の勢いを付ける。
「唯名(せいめい)、別天ニ納メ(りきゅうにとどき)」
振り下ろした刃はケルベロスの三つある頭の内の真ん中、その頭の左右にある頭との間に入り、分厚い毛皮を物ともせず斬り裂いた。
「両雄(われら)、共ニ命ヲ別ツ(ともにてんをいだかず)!!」
最後に、着地したアーチャーがケルベロスの胴体を二刀で斬り裂きながら走りぬき、ケルベロスは鮮血を撒き散らしながら絶命する。
「鶴翼三連……」
鶴翼三連、干将・莫耶を長く愛用してきたアーチャーが、数々の戦いの中で編み出したアーチャーオリジナルの剣技だ。
干将・莫耶が投影品だという利点を利用して開発されたそれは、完全なアーチャー専用の技として、これまで多くの敵を葬ってきたアーチャーが絶対の信頼を寄せる必殺と言えよう。
「アーチャーさん! 後ろです!!」
「ぬっ!?」
「「「ギャアアオオオオオ!!!!」」」
どうやら、ゼノヴィア達と戦っていたケルベロスが三人を振り切って仲間を殺したアーチャーに襲い掛かってきたらしい。
鶴翼三連を使って崩壊した干将・莫耶は既に魔力へと霧散して消えている今、次にアーチャーが打つべき手は一つ。
「
アーチャーの手に投影されるは巨大な大理石で形作られた斧剣。
それは、神話の再現だった。
「
古代ギリシャ神話において、最も有名であろう大英雄ヘラクレスが担いし武技にして、かの大英雄が誇る最強宝具。
神話において、与えられし12の試練の一つ、ケルベロスを倒し、生け捕りにした大英雄の御技が、時代を超え、世界を超え、今ここに再現される。
「
斧剣から放たれた九つの光の剣閃、それは大英雄に彼らの先祖が敗れたように、その肉体を穿ち、無数の肉片へと散らし、敗北した。
次回こそは木場君と聖剣の因縁の決着です。