ハイスクールD×D
~堕ちた聖女の剣~
第十六話
「使い魔とサーヴァント」
「そろそろイッセーにも使い魔が必要かしらね」
ある日、いつも通り放課後に部室に集まったオカルト研究部員達は、唐突にリアスが口にした言葉の意味を図りかねていた。
「使い魔っすか?」
「そうよ、イッセーも悪魔になって結構経つし、そろそろ自分の使い魔を持った方が良いと判断したの」
通常、悪魔は転生悪魔も含めて下級悪魔の内から使い魔を持つものらしい。
事実、リアスは幼少の頃に使い魔を手に入れているし、彼女の眷属も一誠を除いて全員が使い魔を所持している。
なので、リアスの眷属となり悪魔になってからそれなりに日が経つ一誠にも、そろそろ使い魔を持たせるべきだと判断したということだ。
「ついでにアーチャーやアーシアも使い魔を持っておく? 一応、アーチャーがアーシアの使い魔みたいなものだけど、持っておいて損は無い筈よ」
「私は遠慮しておこう。だが、アーシアはそうだな……持っておくと良いかもしれん」
「そうなんですか?」
「ああ、使い魔を偵察に使うなど、魔術師は何かと使い魔を重宝する。私とてこの様に……」
そう言って鋼で出来た鳥の使い魔を見せた。
「これに魔術で仮初の命を吹き込み、使い魔として使っている」
「へぇ、人間の魔術はそんな事が出来るのねぇ」
アーチャーが見せた使い魔を見て、リアスが関心したように鋼の鳥を覗き込んだ。
人間の魔術、とは言うが、この世界で使われている魔術がアーチャーと、そしてアーシアが使う魔術回路を使った魔術と同じ物なのかは不明なので、この時は言及しなかった。
「だが、この使い魔作成は色々と手順があるから、最初から生き物を使い魔契約で縛っておくというのも悪くはない」
アーチャーが知る魔術の知識にある使い魔は、アーチャーのように無機物に仮初の命を与えて使い魔にするというものと、適当な動物に仮契約という形で魔術を行使し、即席使い魔とするもの、それから動物の亡骸と人間霊、そして術者の肉体の一部を掛け合わせて作られるものがある。
アーチャーが普段使っているのは使い魔の中でも“道具”に分類されるものであり、動物の亡骸を使って作った使い魔は“分身”に分類される。
そして、アーチャーのようなサーヴァントや、リアス達の使い魔みたいな存在は使い魔の中では“協力者”という分類だ。
「それで、使い魔って何処で手に入れるんすか?」
「それについてはちょっと待って。実は……」
その時だった。
部室の扉をノックする音が聞こえたので、アーチャーがさり気に外の気配を観察してみれば人外の……それも悪魔の気配が二人分感じられた。
片方はリアスと同等、もう片方は恐らくは一誠達と同じ下級悪魔クラスだろうと予測していると、リアスの許可で中に入ってくる。
入ってきたのは生徒会長の支取蒼那と、それから生徒会メンバーの一人、匙元士郎という男子生徒だ。
「こんにちはリアス」
「ええ、いらっしゃいソーナ」
何でも、此処にいる支取蒼那こと、ソーナ・シトリーという悪魔はリアスの幼馴染で、幼少の頃からよく一緒に遊んだ仲らしい。
そして、この二人は境遇がとても似ている。お互いに上級悪魔であり、実家の次期当主であり、そして……互いに魔王の妹であるという事も。
「ソーナの姉も私のお兄様同様に魔王様なのよ。セラフォルー・レヴィアタン様、唯一の女性魔王であり、氷結魔法のエキスパート」
その魔王の妹であるソーナが何用なのかと思えば、彼女の方から此処に来た理由を語ってくれた。
「今日は先日新しく私の眷属となった彼の紹介と、彼の使い魔を捕獲しに行くので、あなた方と同行させて頂く為に来ました。サジ、自己紹介なさい」
「はい、会長。俺は匙元士郎、ソーナ・シトリー様の下僕になった“
一誠と同じ
だが、順番にリアスの眷属が挨拶していく中、一誠も自己紹介して握手を求め手を出したところ、匙はその手を取らずに忌々しそうに一誠を睨みつける。
「ケッ、変態3人組の一人の兵藤も悪魔になってたのかよ。しかも俺と同じ
変態3人組、それはこの駒王学園で最も有名な男子生徒3人を指す言葉だ。
その3人の男子生徒の一人が一誠であり、彼を含む3人の男子生徒は入学してからというもの、女子更衣室の覗き、教室内で女子生徒が大勢居るのにも関わらずAVの話を堂々とする、アダルト雑誌を広げて鑑賞するなど、兎に角エロい事ばかりして、学園の女子生徒の9割9分9厘から嫌われている。
彼らの行動原理は女子生徒にモテたい、けど女子にモテないから覗く、AVを見る、アダルト雑誌を読むということをしているのだが、そもそもそれが原因でモテないのだということに気づくべきだとアーチャーは常々思っていた。
「それに、何で悪魔じゃないアルジェントさんが此処に居るんだ? 人間が居て良い場所じゃないぜ此処は」
「サジ、彼女は魔王サーゼクス様直々に何処の陣営にも付かない中立の存在として認められ、裏を知る者として形式的にオカルト研究部に身を寄せているのです」
「へぇ、ならこんな変態の居るところじゃなくて、生徒会に入れば良いじゃないですか、何でオカルト研に?」
「アーシアさんの使い魔……サーヴァントであるアーチャー氏の希望で、彼が一定の信を寄せるリアスの傍に彼女を置いておく事になったのですよ」
「アーチャー?」
怪訝そうに匙はアーチャーを半眼で睨みつけると、その佇まいから凡その実力を測ろうとした。
そして、匙の目にはアーチャーが唯の人間にしか見えないのに、内包する膨大な魔力と、その鷹の目を思わせる鋭い瞳と、鍛え抜かれた筋肉から只者ではないと思ってしまう。
生まれつき悪魔の者では大抵がアーチャーを所詮は人間だと見下すだろうが、元人間の転生悪魔であればアーチャーの見た目から相当な腕の持ち主だという事が判るものらしい。
「ソーナ・シトリー、眷属の教育は確りやっておくことだ。無闇矢鱈と喧嘩を売るようでは本人と主の程度が知れるというものだ」
「……っ、そう、ですね……大変申し訳ありませんでした」
この後、匙も大人しく頭を下げたので、アーチャーからはもう何も言うことは無い。
そして、改めてリアス眷属とソーナ、匙の全員で使い魔の森と呼ばれる場所へと転移することになった。
使い魔の森に到着して、まず紹介されたのは使い魔マスターを名乗る使い魔捕獲のプロフェッショナルという男で、名をマダラタウンのザトゥージというらしい。
「……はて、生前に似た様な名前を聞いたことがあるな」
マダラタウンのザトゥージという名に何か気になることがあるのか、アーチャーは首を傾げていたが、他の面々は気にすること無くザトゥージの案内で一誠と匙、アーシアの使い魔を探すため歩き出した。
アーチャーも気持ちを切り替えてアーシアの後ろに控え、一行に続く。
「ときにザトゥージ殿、アーシアは悪魔ではなく人間の治癒属性魔術師なのだが、彼女に相応しい使い魔とすると何が良いのかね?」
「人間の魔術師が使役する使い魔か……そうだな、
「ふむ……」
水を操る使い魔というのは治癒属性のアーシアの使い魔としてはそれなりに相性が良いかもしれない。
水とは万物を司り、治癒の魔術も水の属性にカテゴリされる物もある。それ故に水を操る使い魔を持てばアーシアの治癒魔術は使い魔の水を通して格段に効率が上がる可能性も考えられた。
「他にも妖精族なんかも治癒属性にはオススメなんだぜぃ」
「妖精か……」
かのアーサー王伝説で有名なモーガン・ル・フェイも実は妖精だったという逸話があり、医術をもって病人を治療したというらしい。
その逸話があるからだろうか、妖精族というのは治癒の属性を得意とする者が多い種族として挙げられているのだ。
勿論、
「マスターはどんな使い魔をご所望かね?」
「そうですねぇ……怖いのはちょっと嫌です」
「ふむ……」
何となく周囲に目を向ければ湖を発見した。
しかも、その中央には何かが居るというのが気配で察知出来る。
「お! お前さんたちは運が良いぜぃ? どうやらウンディーネが居るらしい」
「ウンディーネといえば! 美人なお姉さんタイプが多いのがゲームでの定番!!」
確かに、一誠の言う通りウンディーネといえばファンタジー物のRPGゲームなんかでは美人な容姿で描かれていることが多い。
だが、一行の前に現れたウンディーネは……一言で言うなら、世紀末だった。
「「んなっ!?」」
美人を期待していた一誠と匙が二人揃ってあんぐりしていた。
アーチャーも実は少しだけ期待していたのだが、幼き日の幻想をぶち壊された気分で軽く頭痛のする頭を抑えている。
「生前、幼き頃にやっていたRPG……何というタイトルだったか」
いや、軽く現実逃避していた。
ザトゥージが言うには、アレは打撃に秀でたタイプのウンディーネらしいのだが、そもそもウンディーネに打撃に秀でた種は必要無い。
「でも、あれはレア度高いんだぜぃ?」
「たわけ」
アーシアも涙目でアーチャーの外套の裾を掴んでいる。
これ以上、あんな見苦しいウンディーネに用は無い。一行は少し急ぎ足でその場を去るのだった。
湖を後にした一行がまた暫く森を歩いていると、ふいにザトゥージが足を止めて近くの木を指指した。
「あれを見ろ!」
「ほう……」
アーチャーが思わず感心したのも無理は無い。
何故なら、そこに居たのはまだ小さな子供ではあるがドラゴンだったのだから。
「まさか、英霊になって初めて生の幻想種たるドラゴンを目にする機会に恵まれるとはな……これは召喚された甲斐があるというものだ」
そのドラゴンの名は
「アーチャー、ドラゴンが珍しいのかしら?」
「それはそうだ。私の生前ではドラゴンなど縁が無かったからな、実物を生で見るのは初めてだ」
そもそも、アーチャーが生きていた時代にドラゴンは殆どが絶滅したか、自身の聖域に隠れ住んでいると言われていたので、生涯ドラゴンと出会うことは無かった。
「イッセー君でしたら、赤龍帝の力がありますし、相性が良いのではないかしら?」
朱乃の言う通り、赤龍帝はこの世界でも最強クラスのドラゴンだ。
その力を持つ一誠なら、ドラゴンを使い魔にするというのは将来的なことを考えれば良いのかもしれない。
「それでしたらウチのサジもドラゴンの力を持っていますので、相性が良いのかもしれませんね」
ソーナが言うには、匙の
なるほど、確かにそれなら彼がドラゴンの使い魔を持つというのも悪くないだろう。
「あ~、でも無理かもしれないぜぃ?」
「な、何でだよ?」
「あれはオスみたいだからな、オスのドラゴンは他の種族の男が大嫌いなんだぜぃ」
「……へ?」
一誠と匙は稲妻をまともに受けて丸焦げになり、祐斗はその素早い身のこなしで避けて、アーチャーは投影した刀で雷を斬り裂いた。
「む?」
追撃があるのかと思いきや、
安心した表情でアーシアに頬を摺り寄せるその様子から、危害を加えようとする意思は見られず、むしろアーシアに懐いているようだ。
「わぁ~この子、可愛いですねぇ~」
「どうやら、マスターに懐いたようだ。良かったらマスターの使い魔にしてみてはどうだ?」
「はい! 私、この子を使い魔にします」
こうしてアーシアはドラゴンという最強の幻想種とも言うべき存在を使い魔にした。
ラッセーと名づけられたその幼きドラゴンは、後の
その後、服を溶かすスライムが現れて一誠がそれを使い魔にしようとしたが、アーシアの服まで解かされた事に怒ったアーチャーが跡形も無くスライムを消滅させたという出来事があったのだが、余談である。
そして、結果として一誠と匙が使い魔をゲット出来なかったというのもまた、余談なのであった。
次回から本格的に聖剣が登場する、かな?
まぁ、まずはイッセーの部屋で部活をする回です。