ハイスクールD×D
~堕ちた聖女の剣~
第十三話
「蹂躙される不死」
切って落とされた錬鉄の英雄と不死の悪魔の一騎打ち。
悉くを灰燼に帰す炎を放ち牽制するライザーを、アーチャーは右手に持つハルペーとは別に、左手に新しく投影した聖剣で斬り払い掻き消しながらライザーの懐へと潜り込み、ハルペーを一閃する。
「がっ!? ああああああ!?」
ハルペーの刃がライザーの右腰から左肩に掛けて斬り裂き、不死の能力が発動しない為、傷口から鮮血が噴出した。
更に畳み掛けるように左手の聖剣で左腰から右肩に掛けて斬り裂いてやれば、痛みに耐えられなくなったのか、ライザーが後方へと飛び退く。
「な、何なんだ……っ! 貴様のその二本の剣、ただの聖剣じゃないのか!?」
不死の能力が発動しない。こんな事、今までありえなかった。
たとえ聖剣で斬られようと、相当な苦痛はあれど再生するのがライザーたちフェニックスの能力であり、再生しないという事は本来、あり得ないはずなのだ。
「簡単な話だ。この二本の聖剣は言わば不死殺しと能力殺しの力を持っている。それで君の不死の能力を無効化しているに過ぎん」
「不死殺しと能力殺しだと!? 馬鹿な! そんな物、存在する訳が……!」
「ギリシャ神話の英雄、勇者ペルセウスが女怪メデューサを倒した際、その首を斬り落としたと伝えられる聖剣ハルペー、ローランの歌にて登場する英雄、ローランの親友にしてフランス軍の知将オリヴィエの愛剣として名高き聖剣オートクレール、そう言えば君も理解出来よう?」
「ば、馬鹿な……そんな神話や伝説に登場する聖剣を、何故人間風情が……いや、そもそもハルペーを教会側が発見したなどという話、聞いた事が無い!! オートクレールだって今の持ち主は紫藤という男だと聞いている!!」
この世界ではそうなのだろう。アーチャーが生前過ごしていた世界でもハルペーは見つかっていないが、オートクレールは聖堂教会にて発見され埋葬機関の第5位の『王冠』が保有している。
生前、縁あって第7位の『弓』と共に『王冠』に会った際、投影宝具を見せるのと、いくつかの依頼に協力するという交換条件と共に彼の持つ発掘された秘宝を複数見せて貰ったのだ。
「さて、ライザー・フェニックス……こちらは君の天敵がある。その上でまだ、戦うつもりかね?」
「当然だ! 人間風情に、上級悪魔の……フェニックス侯爵家の俺が、負けるなどあってはならん!!」
「そうか、ならば……そのプライドを抱いたまま無様を晒して敗北するが良い」
その言葉の次の瞬間、ライザーは背後からの衝撃を受けた。
何事かと見れば、自分の腹部、胸、足、腕、至る所から刃が生えており、背中を見れば刃のものであろう剣の柄が大量にあるではないか。
「がぁあああああああ!?」
「安心したまえ、それらは全て名も無き聖剣だが、不死殺しの能力は無い。もっとも、宝具級には至らない聖剣ばかりでも、聖剣である以上、悪魔の君にはダメージが大きいだろう」
これもまた、生前の話になるが、魔術協会、聖堂教会双方に狙われ、戦う中で教会から来た襲撃者が持っていた無銘の聖剣を解析し、丘に貯蔵したものだ。
あの頃はまだアーチャーの……エミヤシロウの能力が完全にバレる前であり、エミヤシロウの前に彼の初見の剣を見せる危険性を把握される前だったため、随分と多くの剣を解析させて貰った。
「こ、こんなもの!!」
一度、全身を炎に変えて剣を消し炭に変え、再度再生したライザーは再生しても消えていないハルペーとオートクレールに付けられた傷に舌打ちしながらアーチャーを睨みつける。
対峙するアーチャーは涼しい顔をしたままハルペーとオートクレールを構え、いつでも動ける体勢を整えていた。
「消し炭にしてやる……いや、灰すら残ると思うなよ人間!!」
ライザーを中心に炎が発生し、それが渦となって広がりだした。
このまま広がればアーチャーはおろか、その後方に居るリアスやアーシアをも飲み込んでしまうであろう炎の渦は、始めにアーチャーを飲み込もうと迫り来る。
だが、あと僅かでアーチャーは炎に飲み込まれるというのに、特に焦るような素振りは見せず、冷静に一本の剣を空中に投影し、そのまま地面に突き刺した。
「馬鹿が! 今更その程度の聖剣でこの炎を止められると思うな!!」
ハルペーでもオートクレールでもない剣だったので、ライザーはそのまま剣ごとアーチャーを消し炭にしようと炎を広げた。
だが、その炎は地面に突き刺さる剣に触れた瞬間、まるで斬り裂かれたように炎が分断され、アーチャーと、その後ろの二人の左右を通り抜けて行く。
「なっ!?」
「甘いな、これは日本神話の神、イザナギが火の神カグツチを殺した際に用いられた神殺しの神剣十拳剣だ。こと炎を斬るという点において私の持ちうる宝具の中では最強を誇る剣に、神ならざる貴様の炎が通用すると思うな」
因みに、これでアーシアの魔力が尽きてしまったため、アーチャーはこれ以上の剣の投影を自前の魔力を使う他無くなってしまった。
もっとも、これ以上剣を投影する必要は無さそうなので、特に問題らしい問題とは言えないだろう。
「く、くそっ! ならば!!」
炎を再び掌から発生させて、アーチャーではなくリアスとアーシアを狙って放つライザーだが、オートクレールを地面に刺して十拳剣を引き抜いたアーチャーが炎を斬り裂いたので、二人に被害は無い。
寧ろ、ライザーはその行動によって自分の首を絞めた事になるのだが、勿論そんな事に気がつく筈も無く、忌々しげにアーチャーと、アーチャーが投影した三本の剣を睨み付けている。
「もう終わらせるとするか」
「何っ!?」
「貴様の相手をしていては、アーシアの教育に悪そうなのでな」
そう言うと、アーチャーは再度ライザーに接近した。
その速度はライザーの眷属である
簡単に懐に潜り込んだアーチャーはオートクレールをライザーの腹部に突き刺し、ハルペーで全身至る所を斬りつける。
悪魔であるライザーは再生能力を封じられ全身から大量の血を流しながら聖剣のダメージによる煙を発生させ、オートクレールを引き抜かれると、その場に倒れてしまった。
倒れても尚、アーチャーを見上げながら睨み付けていたライザーだが、アーチャーがオートクレールの切っ先をライザーの顔に向けているのを見て表情を恐怖の色に染める。
「ま、待て! やめろ……貴様判っているのか!? この結婚は、悪魔の未来を左右するものだ!! 人間である貴様がそれを妨害するなど、あってはならない事だという事を!! それに、俺は侯爵家の嫡男だぞ!? その俺を人間の貴様が殺せば、即座に悪魔から命を狙われるんだ!!」
「御託はそれだけか? ならば……早々に死ね」
「ひっ! ひぎゃああああああああああ!!!!」
振り下ろされたオートクレールの刃は真っ直ぐライザーの顔に向かい、そのまま頬を掠めてライザーの直ぐ横の地面に突き刺さった。
ショックで気絶したライザーはそのままその場から消えてしまい、直後にアナウンスが流れる。それはゲームの終了を意味するアナウンスだ。
『ライザー様、
「……すまないなリアス・グレモリー、君の獲物を私が横取りしてしまう形になって」
「いいえ、構わないわ。色々と聞きたい事もあるけど、でもまずは……ありがとう」
「何、アーシアを狙われた以上は、当然の仕事だ」
こうして、ライザー・フェニックスとリアス・グレモリーのレーティングゲームはリアスの勝利という形で決着となった。
この試合を見ていたグレモリー公爵はリアスの勝利を喜ぶと同時に、今後のフェニックス家との関係で頭を悩ませ、フェニックス侯爵は息子が敗れたというのに特に怒りといった感情は無く、逆にこの敗北が息子を成長させるのではないかと、期待をしている。
そして、今回この試合を見ているVIPたる魔王ルシファーは、勝利を齎したアーチャーを見て、興味深そうにしていた。
「彼、中々面白いね……是非とも悪魔側の味方で居てもらいたいものだ。少しばかり、話もしてみたいよ」
今はアーシア・アルジェントという一人の人間にのみ従うアーチャーだが、ルシファーはアーシアを……延いてはアーチャーを悪魔側に引き入れる事を検討する。
アーチャーの力は、人間個人が持っているには余りに危険過ぎるが故に、他の陣営……天使や堕天使側に取られる前に悪魔側に引き入れなければいけない。
勿論、最悪の場合は……排除する事も視野に入れて。
イッセーの
次回は遂にダブル諏訪部さん……間違えた、アーチャーとサーゼクスの対面です!