〈RRB〉の面々が素材アイテムには味があるということを知ってから数日、〈大災害〉後に初めて〈RRB〉ギルドハウスには活気が戻っていた。
日中の戦闘訓練が終わってからは各人がアキバで手に入る素材系食料アイテムを持ち寄ってどれがおいしいか食べ比べをしたりして穏やかな時間を過ごしていた。
りんごやらみかんやら果物を持ってきてはそのジューシーな味わいに感動したり、生の魚を持ってきては生臭ぇと笑いあったり、調子に乗って生肉をそのまま食べては腹を壊したりしていた。
味のある食事には人を朗らかにする力がある、〈大災害〉から10日以上を湿気たせんべいで過ごしてきた俺たちはそれを如実に感じていた。
しかし、そんな時間も長くは続かなかった。
素材アイテムには大手ギルドたちが味のある素材アイテム、果実類を次々買占め始めたのだ。
そのしわよせはすぐに市場に表れて味のあるアイテムは直に手に入らなくなった。
素材アイテムが手に入らなくった小規模ギルド同士の諍いも増えつつある。
幸いにも〈大災害〉以前から料理人のサブ職のレベル上げをしていたうるうがあまった素材アイテムを銀行に突っ込んでいたため、まったく果実類にありつけなくなったわけではないが銀行に預けていた数にも限りがあるこの状態も長くは続かないだろう。
このころになるとアキバの街も初期のような狂騒はなりをひそめて、秩序のようなものが生まれつつあった。
しかし、それは先ほどの素材アイテム買占めの例の用に単に大規模ギルドが幅を効かせ、その陰で小規模ギルドのものが縮こまって生活するようになったというだけでしかなく街の雰囲気は悪いままでこの街が抱えている問題が解決されたわけではなく、俺たちのような小規模ギルドには都合の悪い風に進んでいった。
狩場も稼げるような狩場は大手が占有するようになり、幸い〈RRB〉はには戦闘訓練が他ギルドに比べて先行していたお蔭でも概ね戦闘に関しては習熟し終わってアキバ近郊の狩場にうまみはなくなっていたが、いまでは他の小規模ギルドはたいしておいしくない沸きもまばらな狩場にしかありつけなくなっている。
また、いくつかのギルドが〈EXPポット〉を初心者たちを監禁し巻き上げている問題も何一つ進展はしていない。
まきびさんが出席する小規模ギルド連合の会合でも議題には上がっているようだが手の打ちようもなく積み重なっている課題案件の山によって後回しにされている。
この前のまきびさんの告白の後も相談は続けているが未だ解決法は見いだせてはいなかった。
また、戦闘訓練の練度も慣れるにつれてゲーム時代の動きを再現しやすくなっていき劇的に上達し、アキバ近郊のレベル帯で遭遇するモンスター相手にはだんだんと歯ごたえを感じなくなってきていた。
常に集団行動を行っている少人数ギルド故の利点としてギルド内の情報共有が密なおかげで一人が知ったことはすぐにギルド員全員に知れ渡ることでそれをもとに新しい情報が発見されるため、情報の発見速度も早い方だろうと思われた。ギルドメニューを経由せずに行うスキルの使用法の発見及びそこから発展していくつかの応用的なスキルの使用法が発見された。
戦闘訓練も進みアキバの街がそんな情勢だったころ、〈RRB〉は再度纏まって今後の方針を決める話し合いを行うこととなった。
ミナミ組は今回も〈念話〉での参加となる。
いつも通りにまきびさんが話の口火を切る。
「それでは今日も話し合いを始めるよ。
今回の議題は今後の狩りをどうするかだね
現状おいしい狩場の多くは大手に占有され始めている状態だ。
アキバ近郊の高レベル狩場となると数が少ないから大手戦闘ギルド〈D.D.D〉や〈黒剣騎士団〉〈シルバーソード〉なんかの連中とかち合うことになってくる。
そうなった時、この人数じゃあどう考えても勝ち目はないからね。
だから、これからどうしようかっていう方針をこれから決めようと思う
ミナミの子たちも似たような状況だと聞いているから一緒に考えようか
じゃあ今回も時計回りで回していくよ、はい、ムサシ君から」
ムサシはどことなく下っ端臭のする話し方をする狼牙族の少年でクラスは武士だ。
「うーん、そうっすねえ。
戦闘訓練をいったん中断してその時間を俺たちと似たような状況のギルドとの調整に回すのはどうっすか?
他のギルドと連携して狩場を確保するとかしない限りアキバにいる限りはどうしようもない気がしますし」
一理あるかもしれない。
俺たちは朝から夕まで一日の殆どを狩りに回している。
そんな状態であるから〈大災害〉後の各ギルドとの調整などは殆どできていないのだ。
「まあ、それも一案かな。
案の検討についてはいったん回し終わって全部意見を出してからにしようか
つぎはうるうだね」
うるうはまじめな感じのする狐尾族の少女で森呪遣いだ。
まじめな感じというか実際真面目なんだろう、自分の頭を整理するためか今もメモを取りながら話している。
「えーと、私は……そうですねえ……。
んー、やっぱり、面倒でも遠くの狩場まで足を伸ばすしかないんじゃないでしょうか。
外では他のギルドと連携して狩場を確保できてもそれで大手ギルドとの軋轢を生んだら、アキバの街に居づらくなるんじゃないかと思います」
確かに。
あくまでも狩りは今後この世界で不自由をしない為にしているんだから、それで不自由を生んでは仕方がない。
釈然としないけど良い狩場を確保するというリターンとほかの大手ギルドを敵に回すリスクが釣り合っていないかもしれない。
「じゃあ、次。
花藍ちゃんよろしく。」
花藍(からん)は結構男勝りな性格をしたドワーフの少女でクラスは武闘家だ。
実は彼女は俺たちの中で戦闘システムに対する適応が一番早く、早々に敵を殴り飛ばしていた。
現実でも人を殴るくらいの喧嘩くらいはみんなしたことがあるだろうから、勝手がわかりやすかったのかもしれない。
「あたしは大手の縄張りとか気にする必要はないと思います!
だいたいムカつくんですよね、一人ではそんな勇気なんてないのに大勢が群れるといい気になるってのは。
数を頼みに好き勝手にスペースを延々と占有して、ここは私たちの縄張りだぞ、それがルールだ。
入ってくるなよみたいな女々しいことぬかすのは。
そんな女々しいこという男どもは殴っても許されますって」
結構女の子の意見にしては血の気が多い感じだ。
というかそれだと人数差でまけるからって話し合いをしてたんだけどなあ。
ただ、気持ちはわからなくもない。
「まあまあ、気持ちはわかるけどね。
次はmikuriさんだね。」
mikuriは盗剣士でヒューマンの青年だ。
〈エルダー・テイル〉歴は10年超の最古参でまきびさんとの付き合いも長いらしい。
年長の風格を持つ、まきびさんと二人で〈RRB〉の年少組の保護者役を務めている。
「そうだな、やはり大手ギルドと対立するのはうまくない。
何とかして話をつけて彼らの狩りに混ぜてもらうのがいいんじゃないか?
一ギルド一つの狩場を保有しているならリソースは有り余ってるだろう」
確かにそれも手ではあるか。
「はい、次。
伊兵衛」
伊兵衛は魔法適正の高い法儀族の妖術師だ。
彼はこのギルドの最年少で、だからか結構直情的なものの考え方をする。
今も不機嫌さを隠さない様子で話し始めた。
「それだと要は大手の奴らの下に入るってことだろ。
いやだぞ、俺はそんなの。
かっこ悪いじゃん、狩場競争で勝てないから入れてくださいって泣きつくなんてさ」
「それもそうだ、かっこ悪いね」
頷いて同意するまきびさん。
「いや、かっこ悪いがそれは仕方のないことでだなあ」
「反論はあとで……だよ、mikuri。
次、R.P」
R.Pは伊兵衛の一つ上でヒューマンの暗殺者の少年だ。
狙撃手のロールプレイをしていて饒舌なのは狙撃手のイメージに反するということで普段は殆ど話さない。
寡黙な狙撃手のロールプレイなんてのは渋いおじさんがやるならともかく少年がやっているとかっこいいというよりは背伸びしているかわいい少年といった感じがする。
その為、年少の伊兵衛ともども女性陣のおもちゃにされている。
ムサシから伊兵衛までの6人が〈大災害〉前は1つの固定パーティーとして活動していた。
俺たち〈RRB〉の保有する戦力である3つのパーティーと1人の内の1つだ。
「……」
「寡黙ぶるロールプレイはいいから」
「伊兵衛と同じだと思う。
寡黙な狙撃手が困ったことがあるからと人を頼るのはイメージに合わない」
ロールプレイするためにどうあるべきかってことかい。
まあマイペースを貫いていていいと思うよ、うん。
「じゃあ、次はヤナダ君ね。」
お、俺の番か。
これまでの例に倣っておくと俺はハーフアルヴで付与術師だ。
〈大災害〉前まではカンナとコンビでパーティーを組んでいた。
「まあ、とりあえず狩場に関しては独力でアキバ近郊を確保することは無理だと考えた方がいいと思います。
たとえ、今確保できたとしても徐々に活気を取り戻した人たちが狩りにでることもふえるでしょうし、アキバ周辺の狩場事情は悪化していくでしょう」
ん、なんか最初にまきびさんが説明していたことと結局は同じことを言ってる気がするぞ?
誰にも指摘されないように祈っておこう。
「はい、アキバ組はラストね、カンナちゃん」
カンナはヒューマンの神祇官で俺とは小学校からの付き合いだ。
付き合いのはじめはこいつが小学校で〈エルダー・テイル〉の〈冒険者〉のイラストを描いていたところを俺が発見して話しかけたところから始まった真正のゲーム廃人どうしであり長いこと二人で馬鹿をやっている。
「いっそ一旦拠点をアキバから移しませんか?
別にアキバ近郊にしかモンスターが湧かない訳でもないですし。
どうもアキバだとギルド間のしがらみからは逃れられないみたいなので。
ここにいて〈冒険者〉の醜いやり口を見続けて不快な思いをするよりはいいと思いますけど」
カンナの大胆な提案に〈RRB〉の面々は皆、一瞬呆気にとられた。
だが確かに考えてみるとそちらの方が精神衛生上いいように思える。
〈EXPポット〉監禁などの問題で苦しんでいる初心者たちを見捨てることになるが、俺たちにはどうしようもない以上アキバに留まっておろおろしていても仕方がない。
ただ、アキバから逃げ出すような恰好になるため、伊兵衛とR.Pは納得しないかもしれない。
そう思ってそちらを見ると不満ですと顔に書いてある二人の姿があった。
「なるほど、それもありかな。
と、ちょっと待ってくれ、ミナミの子たちも何か言いたいことがあるようだ」
何やらミナミのユージンたちはまきびさんに何かを伝えているようでまきびさんは時折相槌をいれながら話を聞いている様子だった。
〈念話〉をするときは結構多くの人間が電話に出るときの癖がでて少し高く声が変わり、見えもしないのに身振り手振りをしたりするがまきびさんもそういった人の一人らしい。
しばらくして話し終わったのか前に向き直る。
「ミナミは何やらきな臭くなってきているらしくてね、ユージンたちもミナミを離れたいらしい。
私たちがアキバを離れるのならちょうどいいから合流しないかとのことだ。
〈大災害〉当初は街道沿いに出現する低レベルモンスターでさえ狩れるかわからなかったから、戦えるようになった以上合流を躊躇する必要はあるまい。
となると待ち合わせ場所としてはこちらとあちらの中間地点としてハママツの街あたりがいいだろう。
それにもともとうちは旅行ギルドだからね。
この〈エルダー・テイル〉の世界を実際に旅してみるのも面白いし、旅行誌を再開した時にもいいネタになるだろう」
ふむ、なるほど。
これならば対外的にちょうどいい名目も立つ。
混乱しているアキバの街から逃げたという誹りも最小限に抑えられるだろう。
他のギルドの人も合流したいのならば一緒に連れてきてやるといえば恩も売れる。
「うん、いいんじゃないか?」
皆が賛成の意を示す。
伊兵衛とR.Pはすこし不満そうにしているが、西に居る仲間と合流することも大事だとはわかってはいるのか反対はしなかった。
「では、〈RRB〉の面々でこの世界初の旅行はハママツ行きで決まりだね。
バナナはおやつに入らないから注意しておくれよ?」
これからの方針はユージンたちミナミ組と合流するために一路ハママツへ移動するということに決まりまきびさんの冗談を締めに方針会議は終了した。
アキバから逃亡する主人公たち
完全な逃げ腰に熱血な人たちからは喝を入れられそうです