sideアリス
その日、幻想郷の有力な人材を集め、一体の人形を作った。けれどもそれは、あまりにも歪で…、私の目標としている完全自立の人形ではなく、死者を切り刻んで無理やりレミリアの姿形に似せ、魂を無理矢理に押し込んだ人形。
確かにある意味では完全自立と言えなくはないがこれが私の求めていたものかと思うと悲しくなった…。
こんな不細工なものが私の求めていたものなの?
結局、自分の作った人形が動く前に我慢できずに紅魔館から出てしまった。
あの人形を作ってから数日間、何もせずにただ日々の惰性だけで過ごす。
これは探求と研究に生きる魔法使いにはとても珍しいこと…。
前にそういった人を見たことがあったが数日で自殺してしまった。
要するに虚しくなってしまったのだ…数十、数百、数千年と続けてきた研究が終わったことに…。
――ああ、今日は人里での人形劇をする日か…。
思えば私が今も尚、生きているのは人里で私の拙い劇を喜んでくれる子供達のせいかもしれないな…。
人里に行き、激の準備をすると人々が集まってくる。
「さあ、長らくお待たせ致しました。私、アリス・マーガトロイドによる人形劇を始めさせていただきます。今日は前回より引き続き『心仮面2』―――
演出、操作、機材のチェックは完璧、目の前の子供たちもはしゃいで楽しそうだ。
あら?新しいお客さんが前のスペースに目を輝かしながら入って…レミリア人形!?
な、なんでここに?もしかして…私に会いに来た?…いけない、劇を続けないと。
レミリア人形は一先ず置いておいて、前半部分最大の見せ場、魔法によって主人公たちの戦闘に彩りを加える。
「すごーい」「きゃー」「がんばれー」「いっけー」「うぅー、負けるなー」
うん、ちょっと待とうかレミリア人形。
貴女は確かレミリアがいない間、レミリアのフリをするのが役割だと聞いたのだけれど…。
ちっちゃいレミリアよりさらに一回りちっちゃい子供たちに周りを囲まれながら一際目を輝かせている。
戦闘も佳境に入り、徐々に主人公が押されていく。
「さあ、みんな~、主人公が負けそうよ?応援してあげて!」
操作する主人公の人形も『みんな…応援をして僕に力を貸してくれ~』と言わせる。
「がんばれー」「まけるなー」「まけないで~そんなやつに負けるな~」「負けちゃやだ~」
…最早、子供たちに紛れすぎてわからない…。ねぇ相応しい魂を選ぶって言ったのは貴女よね八雲紫…、貴女レミリアが仮にも500歳以上の吸血鬼って忘れてない?
押されていた主人公はみんなから力を貰い敵を討つ、それに合わせてレミリア人形の羽がピンと立つ。あっ、後ろの子供!その羽かなりの希少素材から出来てるのよ!?折っちゃダメ…。
くっ、最後まで集中しきれなかった。それでもミスらしいミスもなかったしいいか…。
少し気落ちしながら劇の道具を片付けているとレミリア人形がやってきた。
「アリス・マーガトロイド!私はレミリア・スカーレット、紅魔館で主をしているものだ。先程の劇は素晴らしかった。」
自分の胸に手を当てるポーズ…あなたもそのポーズ好きなのね…そこらへんは本家本元と似ているわ。ま、歪なお人形とおしゃべりしようとは思わないけどね。
「そう…。」
そのまま帰ろうとする少し涙目になったレミリア人形が必死になって止めてくる。
「ま、まって…。一言、今回のことにお礼を…。」
必死になっている当たり、それが本音だろう――製作者にお礼を…か。
こうして礼に来ることも見たくない私にとっては嫌なものだし、聞いた話だと洩矢や永遠亭にも顔を出しているらしい。確かにレミリアが幻想郷に健在だと証明づけるには最適な行動だろうが私にとってはこの人形のお披露目会にしか見えない。
「いらないわ。私にとっては欠陥もいいところよ。何よりも歪すぎる。正直、一番の駄作なの。動きから何までね…。」
この子を目の前にして私も感情的になっているのだろう、知らず辛辣な言葉を投げかけてしまう。
「だが、どのように不服があったとして、あなたは既に今回、人形を公に広めた。大事なのはいつまでも認めないのではいし、そこまで言うのなら何が悪いかは分かっているのだろう?改良すればいい。」
確かに作った時点で公のものとするものとしていた。そのことに目を向けず、普段はお目にかけることのできない人形技術に目を奪われその使用用途を考えなかったのも自分。解決策もなにも私がわがままで言っているだけ…。
「それに…それに!私は感動したぞ?少なくとも私の知る人形はここまで生き生きとは動かない。それなのに製作者が認めないなんて人形に立つ瀬がないだろう?」
言いながらポツリポツリと泣いていた。そういえばこの私と話している子は人形に入る前は人だったんだっけ…。
死んで、訳も分からず人形に入れられて、それでもその体を素晴らしいものだと言ってくれて、わざわざ製作者に会いに来てくれた。
――私は何のために人形を作っていた?
――最初は神綺様の目の前で人形を動かしたら喜んでくれたから
――なんで完全自立の人形を作ろうとした?
――それで、みんなを笑顔にしたかったから…我ながらすごく単純な理由ね
じゃあ、喜んでくれたこの子の存在もまた私の目標ってことじゃない!魔法使いの悪い癖ね、研究にばかり目がいって肝心の目標を忘れてしまうなんて…。
「…分かったわ。私が言いすぎたわ。ごめんなさい…。」
目元を拭う。
「ほら、目の下が焼けじゃうでしょ?あんまり泣かないの…。」
ん?何かじーっと見られて…。
「…お母さん…。」
……なんだこの可愛い生き物は…あのレミリアの容姿で上目遣いでまだちょっと涙目でおかあさんだと?
しかも、こちらの母性本能をおちょくる様に真っ赤にしながら顔を伏せている。
「何かしら?」
益々顔を赤くしながら『うー~』とむせび泣いていたが嬉しいのだろう。
side咲夜
「お嬢様、アリス様そろそろ帰るお時間です。」
本音を言えばもっと一緒に居させてあげたいが余り『レミリア』としての範疇を超えた行動は八雲に目をつけられる。
「アリス様、ありがとうございます。」
彼女を自分の人形として認めてくれて…、あの役割は私にはできない従者には成れても母親にはなれない。
「ええ、また近いうちにパチュリーに会いにいくわ。」
要するに顔を出してくれると、
「もちろん歓迎いたします。」
「それじゃ、レミリア…また逢いましょう。」
最後に名残惜しそうにお嬢様の頭を撫で、去っていく。
いらっしゃったときは最高のおもてなしをするとしよう。未だに顔を赤くしているお嬢様の手を握りながら嬉しさのあまり涙してしまった顔を気にせず帰り道を歩いていった。
今日はアリス視点、書くのがすごく楽しい。そして久々に勘違いを書いた(笑)。
後、あまり使うことのない設定として、実はレミリア人形は能力持ちです。
能力は…『動く程度の能力』これによってスムーズに稼働することができます。地味~
補足:心仮面2=アリスの元ネタが出てきます。その元ネタの元ネタは鏡の国のアリスなんですけどね
神綺様=魔界の創造神、ある意味アリスのマザー
レミリア人形の羽=狩りで言うなら金火竜の天鱗ぐらいの希少性の物質を使ってます
次回更新は未定です。何故か最近、未定と書いて翌日更新ぐらいになってますけれど…。
ちょっと忙しいんで…火曜日に更新したいです