死神×マフィア×魔導師 次元の破壊者   作:重要大事

6 / 17
謎の肉体消失事件

リュミエール

グランマニエ皇国 山岳地帯

 

桜華国(おうかこく)から北側に約2000Kmの所に位置するグランマニエ皇国(こうこく)

皇帝が統治するこの国は他の国とは違い、グランマニエ軍とグランマニエ騎士団の二つの軍事組織を有しており、その首都であるユリスは地球で言うイギリスのロンドンを思わせる街並みだが、所々近代的な建物が建っており、ここ近年発展が(いちじる)しい。

リュミエールでも近代化が進む国であり、5大国に次ぐ先進国家である。

住民市街地から遠ざかること数キロ。自然豊かな山岳地帯に、世界国家騎士団2番隊隊長・夜御倉(やみくら)シンと彼が率いる龍騎士部隊(りゅうきしぶたい)が住民消失事件の調査のため訪れていた。

「・・・妙だな」

 辺りは嫌に静まり返っている。まるで、生き物がいないかのように、鳥のさえずる音ひとつ聞こえない。

 予定調和(よていちょうわ)から逸脱した異質な空間。

 シンはひとり別世界に迷い込んだ、そんな居心地で部下達からの報告を待つ。

「夜御倉隊長」

 しばらくして、龍騎士部隊(りゅうきしぶたい)の精鋭4人がシンの元へと戻り報告する。

「5番隊の先遣隊10名の姿がどこにもありません」

「これは一体どういうことでしょうか?」

「まさか、もう何者かの手に?!」

 既に調査に出ていたはずの5番隊所属の騎士達10名が、現地に到着して早々に行方不明となるという不測の事態が起こった。

 グランマニエ皇国は、世界国家騎士団5番隊の拠点であり、この国は彼らのテリトリー。合同捜査という形でシン達2番隊が調査に駆り出されたが―――

「近隣の部署からの連絡は?」

「今のところ、これといって変わった報告は上がっておりません。ここら一帯のマナの数値も正常値を保っています」

「やはり妙だな・・・」

「ええ。こんなことは我々も初めてです」

「あの・・・これが以前の虚無の統治者(ニヒツヘルシャー)による仕業だとしたら・・・」

「いや。それはないだろう」

「なぜそう言えるのですか?」

 怪訝(けげん)そうに一人の騎士が尋ねると、シンは記憶に新しい未曾有(みぞう)の危機を桜華国へともたらした虚無の統治者(ニヒツヘルシャー)との戦いを脳裏に浮かべ語り出す。

「俺は一度、虚無の統治者(ニヒツヘルシャー)のボス、天帝(てんてい)と一戦を交えた。奴は俺とはやて(L)の技を受け、深い傷を負った。その天帝(てんてい)随行(ずいこう)する軍の力もまた、一人の男の手によって封じられた。敵は力の底を痛感し、いずこへと消えた。当面の間はリュミエールには何も干渉してこないはずだ」

 実際、首魁(しゅかい)である天帝(てんてい)とその配下達はともに深手を負い、異空間へと逃れた後一度も桜華国へ侵攻してきたことがない。それどころか、まるで事件そのものがあったことを疑わせるように桜華国では数か月の間に着実な復興が進み、元の平和を取り戻しつつあった。

「いずれにせよ、これは虚無の統治者(ニヒツヘルシャー)のやり方ではない。他の何者かによる陰謀だとしたら、我々はその者を食い止める責任がある。引き続き、行方不明となっている先遣隊の捜索を続けよう」

「「「「はい!」」」」

 と、捜索を続行しようとした直後―――

「うわあああああ!!」

 森の奥より、子どものものと思える悲鳴が聞こえる。

 悲鳴を聞きつけ森の奥へと向かったシン達がそこで見たものは―――

「「「わああああああん!!!」」」

 三人の少年が巨大で獰猛な魔物に襲われているという光景。

「魔物か!」

「でかい・・・!」

 魔物討伐は世界国家騎士団の仕事の一つであり、その上襲われているのが民間人の中でもとりわけ力の弱い立場の子ども。

 シンは鋭い瞳を浮かべるとともに、腰に差している龍王牙(りゅうおうが)を引き抜く。

「行くぞ」

「「「「は!」」」」

 シンの号令と共に龍騎士部隊(りゅうきしぶたい)の精鋭4人が一斉に動き出す。

 数々の死地を潜り抜けて来た戦いのエキスパート達は、愛刀で愚鈍な魔物の体に傷を負わせ、魔物の動きを著しく鈍らせる。

「ギャアアアアアアアアアアアアアアアア」

 体の深い所までを斬りつけられた魔物の悲鳴はさながら山鳴り。

「うあっ」

 その山鳴りにも似た悲鳴に臆してしまった少年の一人が、蹴躓(けつまず)く。

「ひっ」

 ダメージを与えられているとは言え、魔物は未だに抵抗し激しく動き回る。

 魔物の巨大さ、強さを前に完全に腰が抜けてしまった少年は涙目を浮かべながら、自らの死を悟ろうとした。

「哀れ。俺と出会わなければ―――長生きもできただろうに」

 そんな少年の前に、龍王牙を握りしめたシンが現れる。

 人間の身の丈を容易に上回る圧倒的体躯を持つ魔物を前に、シンは威風堂々たる面構え。少年はそんなシンを凝視する。

 魔物は暴れ回るうちに、標的をシンへと変更し突進する。

 シンはおもむろに龍王牙(りゅうおうが)を構えると―――

龍刃聖籠(りゅうはせいろう)

刀身から闘気を(まと)った斬撃を放つ。

生きた龍の如く上下にうねる斬撃は、魔物の身体を飲み込みやがてその身を余すことなく食らい尽した。

一瞬の一振りで、魔物は龍の(えさ)と化す。その光景を目の当たりにした少年は目を見開きく。そして、絶望的な現実を覆した目の前の男に畏怖の念を抱く。

魔物を(たお)したシンは、刀を鞘に収め部下達全員の安全を確認する。

「全員無事か?」

「「「「はい!」」」」

 直ぐに、この度の魔物の被害を受けた子ども達の身の上を確認する。幸いなことに目立った外傷は見られず、全員は一安心。

 そんな中、シンによって命を救われた例の少年は、命を奪われずに済んだことから来る安堵感からか、「ひっ・・・うっ・・・」と力なく泣きじゃくる。

「そら、立つんだ」

 シンは少年の手を握りしめ、ゆっくりとその場に立たせる。

「うう・・・う・・・」

「名前はなんて言うんだ?」

 言うと、少年は伏せていた顔をシンの方へと向け、充血した目で彼を見ながら声を震わせ―――

「ヴぁ・・・ヴァン・・・グランツ・・・」

「ヴァンか。勇ましい名前じゃないか。泣くな!」

「ひっく・・・う・・・うあい・・・」

 無事に魔物は退治された。

 残る問題は唐突に行方不明となった先遣隊の居所だが、それは意外な形で判明する。

「隊長!」

 龍騎士部隊(りゅうきしぶたい)所属、2番隊第三席の地位に就く男・神西鎧武(じんざいがいむ)が慌てた様子で繁みの中より何かを持って走ってくる。

「どうした?」

「そこの繁みの中にこのような物が落ちていました!」

 繁みから運び込んだものに、シンは目を見開く。

騎士甲冑(きしかっちゅう)です!」

 紛れも無くそれは国家騎士団の正装であり、騎士の象徴―――騎士甲冑(きしかっちゅう)。これと全く同一の物が、10着も見つかった。

騎士甲冑(きしかっちゅう)が10着・・・」

「隊長・・・これは・・・」

「まさか、こんなことが・・・」

 目の前の事実を冷静に認識することができなかった。

 なぜなら、見つかった騎士甲冑(きしかっちゅう)と行方不明となっている5番隊の先遣隊の人数は全く一緒だったのだ。

「先遣隊の人数と・・・同じじゃないか・・・!」

「え!?」

「ですが、ただ単に脱いであったんですよ・・・そこに!?」

「何を言っているんだ! 見てみろ、この甲冑を。明らかに不自然だろ!?」

 事実を事実として認識しかねる第六席・呉島真宙(くれしままひろ)の言葉に、第四席・百目鬼高虎(どうめきたかとら)が一喝。見つかった騎士甲冑(きしかっちゅう)を指さし言及する。

「紐を締めたままどうやって甲冑を脱ぐんだ!? どうしたら、こんな不自然な脱ぎ方ができるんだ!?」

「た・・・たしかに・・・・・・・・・!」

騎士甲冑(きしかっちゅう)は全て、紐を付けた状態で脱ぎ捨てられていた。

通常、甲冑を脱ぐ際は必ず紐を緩めなければいけない。そういう当たり前の作業工程が排されており、先遣隊の騎士達の身に何があったのかが甲冑から窺い知ることができる。

 気味の悪い話だ。呉島の額から冷や汗が流れる。

百目鬼(どうめき)!」

 不測の事態を迎え、シンは直ちに行動を起こそうとする。

「5番隊と中央に連絡しろ! 住民消失で初の国家騎士の犠牲者だ!」

「はい!」

葛葉(かずらば)! 肉体を分解する未知の病原体の可能性もある! グランマニエ皇国国立技術研究所の研究員の派遣要請!」

「はい!」

神西(じんざい)!」

「はっ」

「待機中の本体に天幕を持って来させろ! 今夜はここで野営を張る」

「はっ!」

「これが国家騎士を狙う敵の仕業(しわざ)なら、いずれ狙いは国中に及ぶ筈だ。中央に近付く前に、ここで叩き潰す」

「「「「はい!!!」」」」

 命を受けた龍騎士三人は、各の役割を果たすため、シンの元を放れ各所へと向かう。

「隊長! 私は・・・」

残された呉島は自らの役割をシンに問う。

「この辺を調べる。俺とついて来い」

 言うと、シンはおどおどとしているヴァン達の方へと顔を向ける。

「君たちは直ぐに家に帰るんだ。日のあるうちにだぞ! いいな!」

 この日―――少年ヴァン・グランツが遭遇した不動の龍騎士の勇ましい姿は、その後彼自身を強く逞しい騎士へと成長させる要素となった。

 のちに、彼はグランマニエ皇国騎士団を統べる男として名を馳せることになる。

 

 

同時刻 “世界の意志”本部

 

 重要大事を始めとする三人の世界の意志達は、朝早くからリュミエールを離れ、世界の意志達が会合を開く為の場所へと向かった。

 世界の意志という呼び名は、彼ら自身の役目であると同時に、組織名としての意味合いも含んでいる。

 無数の並行世界に一人の世界の意志が現れ、それらをすべて統括・管理する上位の役職が存在する。世界の意志達はそのものを上司と扱い、その都度指示を受けている。

 重要大事を始め、星堂寺勇人、そして夜御倉龍元が薄暗い部屋の廊下を渡った先―――彼らを待っていたのは、銀色の髪を持つ清楚な雰囲気の女性。

「急な呼び出しですね」

「何かありましたか・・・ドゥルガー」

 ドゥルガー・・・それが女性の名前であり、世界の意志達を統括するただ一人の存在。

「少々厄介なことになりました」

「と、いいますと?」

 粛々(しゅくしゅく)とした態度で接する両者は互に一歩前に進むと、中央の台に映し出されるホログラムに目を向ける。そこには、ギュスターブの忠実なる配下・十二使徒(エルトゥーダ)達が暴れ回る姿が映し出される。

「負傷したギュスターブに代わって、その配下達十二使徒(エルトゥーダ)が各破壊活動を再開しました」

「なんですって?!」

「既に100近い世界が滅ぼされ、融合を開始しています。私の計算だと、このままのペースで破壊が行われれば・・・全並行世界の融合に要する時間は、ざっと数えてひと月もないでしょう」

「ひと月って・・・・・・」

「本当なんですかそれ・・・」

 長いように見えて、極めて短いタイムリミットだった。

 何もしなければ、あとひと月もしないうちにすべての並行世界が融合し、文字通り世界の秩序が破壊されるのだ。既に一護達は世界崩壊の影響で普通ではあり得ない事態に直面していた。

 死神は霊体であり、霊力を持たない人間には視認することができない。

だが綱吉達を始め多くの人間が死神の姿を視認できている。これは、世界の融合がもたらす秩序の崩壊に直結していた。このように、違える世界の法則が安易に交わることによって生じる事態・・・それが『世界の崩壊』である。

「世界の意志達が動いています。あなた方にも一度救援に向かって欲しいのです」

「わかりました」

「しかし、一護君達のことは?」

「万が一の事もあり得ますし・・・」

 大事達はギュスターブのことも考慮し、一護達の身の上を心配する。

 ドゥルガーは顎に手を添えると、数秒の間を置いたのちに口を開く。

「―――では。こうしましょう。夜御倉龍元、リュミエールはあなたが管理する世界です。あなたは自分の世界で起こっている出来事に関しては責任を持ってください」

「はい」

「くれぐれも、私情を挟むような真似は慎むことです。ただでさえ、あなたは周りの人達に深く干渉し過ぎる悪い癖があります」

 その言葉を聞き、サングラス越しに龍元は眉を(ひそ)め、絞り出すようにぼっそと呟く。

「・・・ですから私は最初から、この役目は荷が重いと。そもそも不向きだと何度も訴えてきたはずです」

ドゥルガーを始め、大事達は龍元の言葉に耳を傾ける。

顔を上げた龍元の瞳は、まるで吸い込まれそうなほど澄んでいた。龍元はドゥルガーにも、この場にいる大事と勇人にも強く自分の考えを訴える。

「私はただ純粋に、世界に生きるものすべてが幸せになってほしい! ただそれだけなんです!」

 龍元が最も恐れることは、生命が失われることから生まれる不幸全般だった。

 彼は世界の意志として役目を時折意図的に放棄し、失われた命に対して深く悲しむ人間達を救おうと、違反を犯した。即ち、特定の個人・団体に対して深く関わるという行為だ。

 だが、世界の意志は常に傍観者であり第三者の位置を遵守し続けなければならない。ドゥルガーはそのような行為を一切認めず、龍元を厳罰に処したことがある。一度ならまだしも、こうした行為が幾度も続いた。

 ドゥルガーは不幸全般を許容できない龍元の対応力に不安を抱いていた。

 箴言(しんげん)とは思いつつ、ドゥルガーは当たり前のことを当たり前のこととして受け入れがたい龍元に言い放つ。

「この世に生きるものすべてが幸せになることなどあり得ません。それはあなたの抱く幻想ですよ」

「幻想でも構いません・・・・・・私は現実の世界の理不尽な出来事を、許容することができない。幸福以外の感情を・・・・・・受け止められない!」

「致命的ですね。それでは第二のギュスターブとなりかねません」

「ドゥルガー! 言い過ぎです」

 行き過ぎた発言に、勇人はエティコラを(いさ)める。

 龍元は拳をぎゅっと握りしめると、(きびす)を返して歩き出す。

「龍元さん・・・!」

 大事が呼びかけた直後。龍元は浮き沈んでいるのか、とりわけ低い声で言う。

「私は彼らが幸せに暮らせるのなら――――――この身が砕けることがあっても構わない」

 幸せを求めるばかり、幸せでないことを許容できない龍元の背中を見守り、大事と勇人はドゥルガーの指示に従い別世界へと渡る準備を始める。

 

 武器庫で武器の選別をしていた(みぎり)、勇人が大事にふと尋ねる。

「重要様」

「なんですか?」

「なぜ、龍元さんを世界の意志に推薦(すいせん)したのですか?」

 実のところ、夜御倉龍元という存在を世界の意志として推薦したのは重要大事だった。

 世界の意志とは本来、最高決定権を持つドゥルガーに認められることによって初めて『世界の意志』と認可される。ほとんどは彼女が独断によって選定するのだが、稀に世界の意志から推薦され、そのまま世界の意志になる者がいる。

 それが夜御倉龍元だった。

 大事は龍元を推薦した理由について知りたがっている勇人に対し、答える。

「僕らの仕事は、はっきりいって苦行ですよ。厳格な第三者、傍観者であり続け―――適当な具合で世界の物語を調整する。調整された歴史の中には、若くして命を落とす者や戦争で殺される者もたくさんいる。みんながみんな幸せであるようにできるなら、この上も無く素晴らしいことだけど・・・僕らはそういう“都合のいい物語”を描いてはいけない。神様がそうしないようにね」

 時に世界は優しくもあり、残酷でもある。

 世界の意志達は大義を成すために物語に干渉し、その干渉の結果として世界に抹殺される命がある。

だがそれは至極自然なことであり、生と死が常に一定のバランスを保っていることによって、世界はちょうどいいぐらいの大きさを維持している。

 大事達はそうした重荷を背負されているが、中にはその重みに耐えられず発奮する者がいる。その典型的な例が、この一連の事件の首魁(しゅかい)ギュスターブ。そしてドゥルガーが危惧するところの龍元だった。

「ドゥルガーは、何やら警戒しているようですが・・・・・・」

「第二のギュスターブになることを恐れているっていう奴? 龍元さんはギュスターブみたいな子どもじゃない。まぁ優しすぎるのが玉に傷ですけど・・・・・・龍元さんは、そういう遣る瀬無いこともきちんと解っている人だと思ったから、この仕事が適任だと思ったんです」

「本人は“時の迷い人”とか、“幽霊”を自称していますが・・・」

「そうですね・・・正直なんであんなことを言ってるのか分からないんですよね。龍元さんは自分の事をあまり話しませんし・・・・・・ただ、彼は僕達とは明らかに何かが違うんですよね。もしかしたら、その相違が彼の幽霊という言葉に込められてるのかも知れませんね」

 考え方はそれぞれだが、世界の意志達は人間と同じように心を持つ生物。

 極めて異質な力を持ちながら、その身が人の形を保っている限り・・・いや、たとえ人の形をしていなくても、心が人間であり続ける限り彼らもまた“人”として認識される。

 

 

リュミエール

桜華国 夜御倉邸 廊下

 

「ふう~」

日も暮れた夕方。

ギュスターブとの決戦に備え力を磨くため、苛烈(かれつ)極まる修行に打ち込んでいた一護達。

この日、一護と綱吉は本番を想定した真剣勝負を行った。そして戦いを終え、たっぷりとかいた汗をシャワーで流し、大広間へと通じる長い廊下を歩いている。

「ガウガウ~」

「ほらナッツ。そんなに騒ぐなよ」

綱吉のリングの中に宿るギアアニマル・天空ライオン(レオネ・デイ・チェーリ)のナッツは彼の腕の中で暴れているが、飽く迄も綱吉とのコミュニケーションを図るための手法で、要するにじゃれている。綱吉は腕の中でじゃれるナッツの髪を優しく撫でる。

心底幸せそうにナッツは愛らしく「ガウ~」と声を上げる。

「よく懐いてるよな~。うちのライオンとは大違いだ」

「え?! 一護さんライオン飼ってるんですか!?」

「いや・・・ライオンはライオンでも、ぬいぐるみなんだけどよ・・・」

「ぬいぐるみ、ですか?」

 怪訝そうに首をかしげる綱吉に、一護は元の世界に置いてきた自分の家のライオンについて語った。

「死神が使う義魂丸(ぎこんがん)って道具があってよ。仮の魂が丸薬に秘められていて、そいつがぬいぐるみの中に入ってるんだ」

死神が現世で活動を行う際、義骸(ぎがい)という仮の肉体が支給され、(ホロウ)などの出現に備えその体に入って待機する。そして、その肉体から抜け出す際に仮の魂を入れる必要があり、それが義魂丸(ぎこんがん)という道具の用途だ。

一護の家に居候(いそうろう)するライオンのぬいぐるみ・コンの体には通常の魂魄とは異なる戦闘に特化した魂が宿っており、改造魂魄(モッド・ソウル)と呼ばれるそれは尸魂界(ソウル・ソサエティ)では禁忌とされた技術。コンはその生き残りで、とある事件を切っ掛けに一護によって救われた。

「ウゼー奴なんだけど、いないといないで変に調子が狂うしさ・・・わかるかな、この俺の気持ちが」

「ははは・・・なるほど。オレにも似たような経験がありますから」

 普段喧(やかま)しいと思っている人ほど、近くにいないと物足りない気持ちになる。

 人の心理はつくづく変わっているなと、二人が改めて認識したとき―――

「あ。ツナ君」

 たまたま廊下で、京子とすれ違った。

「京子ちゃん!」

「よっ!」

「ガウ~!」

 京子の顔を見た途端、綱吉の表情が綻ぶのは勿論、その綱吉の手の中にいたナッツもまた嬉しそうに顔を和らげる。

すると、綱吉の腕から飛び出し、京子の腕の中へと飛び込んだ。

「あれあれ? ふふふ。ナッツ君どうしたの?」

「ガウ~~~♪」

 ナッツは綱吉の人柄をそっくり写し取った性格だった。そのため、ナッツは主人である綱吉と同じかそれ以上に京子を好いていた。

京子自身、ナッツのことを深く気に入っており何の躊躇(ためら)いも無くナッツを抱きしめる。

「京子にもよく懐いてるみたいだな」

「ほんと・・・羨ましいぐらいメチャクチャに・・・」

 客観的にその光景を目にしていた綱吉は、苦笑いを浮かべながら内心ナッツに激しく嫉妬する。

(く~~~///ナッツがマジでうらやましい~~~!!! オレもナッツになりたい!!)

 好きな人の胸の中で抱きしめられるという感触を、一度でいいから味わってみたいという願望を抱きながら、綱吉は何とかその場を堪える。

 京子は程なくしてナッツを綱吉に帰した後、改めて彼と向き合う。

「今日の修行はもういいの?」

「うん。終わってシャワー浴びて来たところ」

「そっか。ちょうどお夕飯の用意ができたから、呼びに行こうと思ってたの」

「じゃあ、飯にすっか!」

 頃合いがよく、夕餉の支度が整ったことを伝えに来た京子と一緒に一護と綱吉は大広間へと向かう。

「あれ?」

 唐突に―――京子の脳裏に奇妙なビジョンが浮かんできた。

 テレビの砂嵐の様にハッキリとは見えないが、ところどころ見えてくる一護達の姿。

 一護達は一丸となって、暴れ回る何かを止めようとしている。その暴れるものの正体に、京子は驚きを隠せなかった。

(え・・・・・・なに・・・・・・これ・・・・・・・・・・・・)

「京子ちゃん?」

「どうした?」

 突然意識が無くなったように固まった京子を心配する一護と綱吉。

 そんな彼らの言葉などまるで耳に入っていない様子の京子が見ているのは―――変わり果てた姿となって暴れ回る綱吉の姿。

 その顔の左半分には、髑髏(どくろ)の様な白い仮面が付けられている。

(ツナ・・・・・・・・・・・・・・・くん・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

「京子ちゃん! 京子ちゃん!」

「え!?」

 意識が飛んでいた京子を綱吉が強く揺すると、ようやく彼女を我に返る。

「大丈夫?! 意識飛んでたよ」

「具合でも悪いのか?」

「あ・・・うんうん! 何でもないよ! ・・・行こう」

 京子は綱吉と一護に心配を掛けまいと、取り繕った態度を取り、足早に廊下を歩きはじめる。

(京子ちゃん・・・)

(なんか・・・変なことにならねぇといいけど――――――)

いつもとは様子が異なる京子に対し、綱吉と一護は一抹の不安を抱いた。

 

 

グランマニエ皇国 山岳地帯

 

時刻は夜9時を回ろうとしていた。

肉体消失事件の真相を探ろうとしていたシン達2番隊の龍騎士部隊(りゅうきしぶたい)は、国家騎士団初となる犠牲者が出たその日、事件現場で野営を張った。

天幕の前には篝火(かがりび)が灯り、それを囲むようにして百目鬼・呉島が警護に当たっていた。

そこへ、第五席の葛葉龍一(かずらばりゅういち)が帰還する。

「遅いぞ葛葉(かずらば)!」

「済まん。俺だけ直接隊舎まで行ってきたんだ。勘弁してくれ」

 言うと、葛葉は警護に当たっている呉島の元へと近づく。

「代わろう。お前は中で休め」

「何を呑気なこと言ってるんだ。お前が戻ったなら三人で見張りだ」

「一刻ごとに一人ずつ交代して休む。今は神西が中で隊長と休んでる。お前はそっちを見張れ」

「ああ・・・・・・わかった」

 三人が見張りに着いた頃、天幕の中で僅かな休憩をとっていたシンと神西の二人はというと―――

 火鉢の火で十分に体を温める傍ら、一連の事件を引き起こしている正体不明の襲撃の攻撃に備え、緊張の糸を張り巡らせている。

 そんな中、シンはとりわけ異様な悪寒を覚える。

(なんだ・・・この言い知れぬ悪寒は・・・)

 と、次の瞬間―――

「ぐあッ!?」

「がッ」

 天幕の外から断末魔の声が聞こえ、シンと神西は目を見開く。

「百目鬼達の声だ!」

「どうした!!」

 刀を携え天幕を出るシン。

 そこで彼らが目撃したのは、変わり果てた姿となった呉島と百目鬼。その二人の間に立つ、血の付いた刀を握った葛葉。

「葛葉・・・お前・・・」

 あろうことに、仲間の中に裏切り者が紛れ込んでいたとは間違っても考えたくなかった。

 葛葉はおもむろにシンと神西の方へと振り返ると―――力なく倒れ伏すと同時に、右肩を斬られ絶命する。

「神西!!」

「くッ・・・」

 葛葉は裏切り者ではなかった。だが、結果として彼は未知なる敵と戦い命を果てる。そのことを悔やみつつ、死んでいった仲間の無念を晴らすべく、シンは龍王牙(りゅうおうが)を引き抜く。

「構えろ神西! 敵はまだ近くにいる!!」

 と、その直後―――

「ぐッ!!」

「っ!」

 シンの隣に立っていた神西は無残にも顔を斬り伏せられ、一瞬にして昇天。

「神西!!」

 よく解らぬうちに四人もの隊士の命が奪い去られた。この上も無い後悔を抱くシンだが、そんなことを考えている暇を与えないような状況となる。

 

 ダン―――!

 天空より勢いよく墜落する物音。

 慌てて振り返ったその先に、シンは今までに見たことのない怪物と遭遇する。

「・・・何だ・・・・・・・・・こいつは・・・!?」

 全身を鋼鉄の鎧に身を包み、長い髪に髑髏(どくろ)を思わせる突起物が生えた白い仮面を身につけた異形の生物。

「魔物・・・・・・いや違う・・・?」

 果たしてそれを生きものと呼んでいいのか、人間といっていいのかは分からない。だがシンは直感的に危険であると言うことは認識する。

 そして、恐らくはこの異形の怪物こそが一連の事件の真犯人で、寝食をともにしてきた部下達を葬り去った張本人であることを悟った。

 と、次の瞬間―――怪物は振り返ると無機質な顔に白い仮面をシンへと向けつつ、怪物染みた咆哮(ほうこう)を上げる。

「グオオオオオオオオオオオオオオ」

 音圧と共に肌に伝わる、突き刺すような鋭い殺気にシンは額に汗を浮かべる。

「・・・成程。どうやら一連の事件の犯人は、お前であることに間違いないようだな・・・」

 龍王牙(りゅうおうが)の柄をぎゅっと握りしめ、シンは口元を釣り上げる。

「そうとわかれば、俺は何のためらいも無く貴様を斬ることができる・・・!」

 刹那(せつな)。白い仮面で顔を隠した怪物が、シンへと向かって飛んで行く。

 シンはこれを迎え撃つため、真っ向からぶつかって行った。

 

「・・・驚いたな」

この戦いの様子を、遠目から窺う者がいた。

牡羊の意匠を模した鎧に身を包んだ十二使徒(エルトゥーダ)シャーフだ。

「私の試作品と真面に戦える個体がこの世界にいたとは」

 試作品と呼ぶのは言うまでも無く怪物のことだ。その怪物と互角に渡り合っている不動の龍騎士の姿にシャーフは強い興味をそそられる。

「認識名称・・・夜御倉シン・・・不動の龍騎士・・・ですか。この世界を守護する担い手と言ったところでしょうか・・・それにつけても世界国家騎士団に、不動の龍騎士とは随分と大仰(おおぎょう)な名前ですね。だが結果的に、これは予想外の収穫となりそうです。もう少し、近くで見てみるとしましょう」

 

 

桜華国 夜御倉邸

 

シンと異形の怪物との戦いが勃発した同時刻。

自室で仕事をしていたはやて(L)は、ひしひしと伝わる途方も無い悪寒に、胸騒ぎを感じていた。

窓の外へと目を転じると、一辺の曇りもない夜空が良く映えている。だが、その表向きの平和の裏で、凶悪な力が(うごめ)いている。

(何か・・・とんでもない大きさの力がぶつかり合っている・・・未確認と――――――・・・・・・もう一つ・・・・・・・・・)

 夜御倉家の63代目当主にして、フレックス曰く歴代最高の力を持つはやて(L)は、遠方より感じる異質な力の源を確かめようと、魔力の波長を飛ばした。

 すると、グランマニエ皇国の山岳地帯で激しく衝突する二つの気配を感じる。

 一つは異形の怪物。もう一つは、はやて(L)の夫であり不動の龍騎士、夜御倉シン。

「シン様!」

 最愛の人の危機を感じ取り、はやて(L)は部屋を飛び出す。

「あれ? はやて(L)!?」

「はやて(L)さん?」

 大広間で寛いでいた一護達は血相を変えて家を飛び出そうとするはやて(L)の行動を不信がる。

「どちらへ参られるのでしょうか、はやて(L)様」

玄関へと向かったはやて(L)を待ち構えていたのは、夜御倉家に古くから仕える筆頭執事のフレックス。一護達が様子を見に来ると、フレックスは眉間に皺の寄った顔で困惑するはやて(L)を凝視する。

「・・・尋ねるまでも無いでしょうが。おやめください」

「・・・フレックス」

 何があったのか気になる一護達だが、不意に死神の霊圧を刺激する巨大な力が屋敷の方まで飛んできた。禍々(まがまが)しい霊圧とその巨大さに、死神組は挙って目を見開く。

「なんだ・・・この霊圧!?」

「霊圧って・・・・・・まさか、この世界にそんなものが!?」

「この濁り具合・・・・・・(ホロウ)の霊圧に近いぞ!」

「なんだって!?」

「それに(ホロウ)とぶつかっているのは、シンさんだ!」

「それじゃあ、早く助けに行かないと!」

「だから、はやて(L)さんは血相を変えて飛び出そうとしたんですか」

 死神組が(ホロウ)の霊圧を感じ取る以前にシンの元へと向かおうとしていたはやて(L)の行動の意図がようやく理解できたなのは達は、今一度はやて(L)の方へと目を転じる。

「フレックス。お願いそこを退いて」

 懇願するはやて(L)の言葉に対し、フレックスは「なりません」と言い、首を横に振る。

「私はシン様より、はやて(L)様の身辺をお守りするようにというお達しを受けています。どのようなことがあっても、はやて(L)様を外に行かせることはできません」

「でも・・・それじゃあシン様はどうなるの!?」

「シン様は御強い方です。きっと大丈夫にございます。はやて(L)様は、もう少しご自分の立場をご理解いただきとうございます。あなた様は、もっとご自分を大切にしてしなくてはなりませぬ」

 フレックスは事前にシンからはやて(L)の身辺を守るようにと言いつけられていた。それを言われなくても、フレックスは彼女を守る責務を負っているのだ。

 彼にとってはやて(L)は生涯に渡って仕える主であり、同時に個人的にも命を懸けて守りたいと願う女性。

 だが何よりここで重要となることは、正当な夜御倉家の当主である彼女が戦闘によって負傷するかもしれないという事故を未然に防ぐことだった。それが、即ち家と彼女自身を守る最善の方法だ。

「正当なる夜御倉家の当主である貴方様が、易々(やすやす)と血を流すべきではございません」

「でも、フレックス・・・///」

 涙ながらに嘆願(たんがん)するはやて(L)に、フレックスは毅然(きぜん)とした態度で臨んだ。

 

 その頃、山岳地帯で激しい戦闘行為を繰り広げていたシンと(ホロウ)

 不動の龍騎士の異名を持つシンの腕を持ってしても、一筋縄ではいかない(ホロウ)の力。結果としてシンは魔物とは範疇(はんちゅう)が異なる戦い慣れない相手に苦戦を強いられている。

(上手くいかんな。後手に回っている)

 体制を立て直すと、シンは殺戮(さつりく)マシーンの如く無感情に攻める(ホロウ)の刃を受け止める。

(得体が知れない。外見は曲がりになりにも魔物のような体裁(ていさい)を保ってはいるが、技の運びは・・・一護君達死神と戦っているようだ)

 一週間前にリュミエールへと避難してきた一護達死神を相手に、シンは力試しをしていた。剣を操るという上ではシンは一護達の力と互角、あるいは場合によってはそれを上回っていたが、卍解のような特殊な力を発動されたときには苦戦を強いられた。

 今戦っている(ホロウ)は、まさにそんな死神の戦い方を再現しているかのような技の運びで、一方的にシンのペースを崩してくる。

(・・・やり辛いッ!!)

 何とか(ホロウ)から距離を取って、自分のペースを取り戻そうとするシンだが―――

「夜御倉隊長!?」

 その時。後ろから名前を呼ぶ声が聞こえ、シンは吃驚(きっきょう)しながら振り返る。

「こちらで何を!? グランマニエは5番隊の管轄ですよ!」

 運の悪いことに、シンは戦いに没頭するあまり、山岳地帯を飛び越え普段5番隊の騎士達が警護している管轄へと足を踏み入れてしまった。

(しまった。管轄を超えてしまったか――――――)

 管轄領域に入ればそれだけ被害が大きくなる。そのことは何として避けたかったシンは、(ホロウ)の攻撃を受け止めこの状況を打破しようと考えた。

「!」

 だが(ホロウ)はシンの懐からすり抜けるようにして飛んで行き、状況を理解していない5番隊の隊士へと飛んで行く。

「しまっ・・・」

 仮面に生えた突起物から赤い色を帯びたエネルギーを圧縮する様子が窺え、シンは最悪の事態を想定し、声を荒げる。

「逃げろ!!!」

 

 ズド―――ン!!!

 

「!!」

夜御倉家で(ホロウ)の霊圧を感じとっていた一護達は、これまでにないぐらいの巨大な霊圧を確認した。

「このデカい霊圧は・・・・・・!」

虚閃(セロ)か!?」

 (ホロウ)の上位種である巨大な(ホロウ)大虚(メノスグランデ)』が得意とする霊圧を圧縮した砲撃―――それが『虚閃(セロ)』と呼ばれるものである。

「!」

 はやて(L)は逼迫した事態であることを理解すると、玄関からの正面突破を諦め、裏庭の方へと走り出す。

「はやて(L)さん!」

「お待ちください、はやて(L)様!!」

 フレックスが止めにかかると、はやて(L)は不意に立ち止まり、「フレックス」と言う。

全員がはやて(L)の方に視線を向けると、背中越しに彼女は語り出す。

「私は、フレックスがシン様のことや夜御倉家のこと、その先の未来のいろんな事まで多方面に考えて行動する迅速(じんそく)さは、とても素敵です。それがフレックスのいいところだと思います」

 おもむろに振り返ったはやて(L)は、凛とした瞳でフレックスを見る。

「だけど、私はフレックスではありません」

「はやて(L)様・・・」

「私にとって“自分を大切にする”っていうのは、今日できることをやり逃さないことなの。仕来(しきた)りに従って今日できることをやらないで、誰かを見殺しにした私を、明日の私は許さないと思うから」

「「「!」」」

 一護と綱吉、なのはの脳裏に電流が走った。

 はやて(L)の言葉には重みがあった。子供のような理屈に思える彼女の言葉には、それまで一護達が大切にしてきたことのすべてが詰まっていた。

 常に誰かを守りたいと心から思っていた一護が死神の力を得たこと然り、綱吉がマフィアの戦いに身を投じて初めて本気で誰かを守りたいと思ったこと然り、なのはがユーノとの出会いを経て魔法を知り、その力で人を守りたいと思ったこと然り―――すべての想いがはやて(L)の言葉に凝縮されていた。

「・・・は。確かにあんたの言う通りだぜ」

 一護は口元をつり上げると、シンの元へと向かおうとしているはやて(L)の方へとおもむろに歩み寄る。

「だったら、俺も付いて行く。相手は(ホロウ)だ。だったらそれを退治するのは死神の専売特許だからな」

 一護の言葉に便乗し、綱吉となのはも名乗りを上げる。

「オレも・・・大した力にはなれるかどうかはわからないけど、今日できることなら、オレも力になりたいです!」

「私も。魔導師としての自分の力で今日できることがあるなら、全力でお手伝いします!!」

「みなさん・・・―――ありがとうございます」

 この光景を目の当たりにしたフレックスは、何となくこうなることを予測していたかのように口元を緩める。

「―――やはり、その揺るぎない決意を私ごときの言葉で阻むことはできないようですね」

深々とフレックスははやて(L)を始め、一護達に頭を垂らす。

「はやて(L)様。皆様方。どうか、ご自愛のほどを―――」

 一護達はフレックスの気持ちを裏切らないと強く心に誓う。

 準備を整えると、一護達代表者数名はグランマニエ皇国を目指して飛び立った。

「いくぜ」

「ああ」

「うん」

 (ホロウ)であることを考慮し、死神組からは一護達全員が。ボンゴレサイドからは綱吉と獄寺、山本、了平の四人。機動六課からは、スターズ隊が出動する。

 なのはは空中を飛びながら、同じく死ぬ気の炎で空中を飛行する綱吉を見ながら、先日夢の中で受けたユーノの言葉を思い出す。

(ユーノ君が夢で言っていたこともあるし・・・念のため、ツナ君には注意を配っておこう)

 

 一護達がシンの元へと向かっていた頃合い―――

 シンは(ホロウ)が放った凄まじい威力を誇る虚閃(セロ)に、終始目を疑った。

「今のは何だ・・・一体っ・・・!?」

 一瞬にして辺りが爆発したかと思えば、不運にもそれに巻き込まれた5番隊の若き隊士は灰となり、空へと上って行った。

 生き残ったシンだが、常軌を逸した力を秘めた目の前の(ホロウ)が自分のよく知る魔物とは明らかに異なるものであることを、これではっきりさせられた。

「冗談ではないぞ。お前は魔物じゃない・・・そんな生易しいものではない・・・!!」

 龍王牙(りゅうおうが)を振りかざし、(ホロウ)へと斬りかかるシン。(ホロウ)は両手の刃でシンの一撃を受け止める。

「・・・貴様のような化け物が、リュミエールで国家騎士団(おれたち)に気取られず大暴れできる訳が無い。貴様を(かくま)っている者が居る筈だ・・・誰の差し金だ?」

 鍔迫り合いの中、(ホロウ)に問いかけるシンだが―――当然言葉を話すことができない(ホロウ)がシンの質問に答えることなどあり得ない。

「・・・答えるつもりは無いか・・・それもいいだろう。喋ろうが黙ろうが、ここで貴様を斬る事には変わりは無い」

 シンは(ホロウ)と距離を取ると、龍王牙(りゅうおうが)と一緒に腰に携えていたもう一本の愛刀に手を掛ける。

「『無月(むげつ)』!!!」

 闇の如く漆黒に染まり、黒い柄の頭に満月の如く金色の宝玉が付属した夜御倉シンが操るもう一本の刀―――無月。すべての力を無に帰すこの世に二つとない業物(ぎょうもの)

 龍王牙(りゅうおうが)無月(むげつ)の両方を手に取ったシンは、同じく両方の手を刃とする(ホロウ)に向って真正面から突進。

 

 バンッ―――!!

 

「な・・・」

斬りかかろうとしたシンの背中に走り鋭い痛みが奔る。

シンの背後に立ち尽くすのは、周りの景色に身を溶け込ませる十二使徒(エルトゥーダ)シャーフ。

 事件は、思わぬ方向にシフトする―――!!

 

 

 

 

 

 

参照・参考文献

原作:久保帯人『BLEACH 36・59・60巻』 (集英社・2008、2013)




登場人物
登場人物
神西 鎧武(じんざ がいむ)
声:松岡大介
世界国家騎士団2番隊第三席。龍騎士部隊に所属する隊士の一人で、スキンヘッドが特徴。シンと共に住民消失案件の調査をするが、見張り中、謎の虚による襲撃に遭い死亡。
百目鬼 高虎(どうめき たかとら)
声:川原元幸
世界国家騎士団2番隊第四席。龍騎士部隊に所属する隊士の一人で、茶色の長髪。シンと共に住民消失案件の調査をするが、見張り中、謎の虚による襲撃に遭い死亡。
葛葉 龍一(かずらば りゅういち)
声:高橋圭一
世界国家騎士団2番隊第五席。龍騎士部隊に所属する隊士の一人で、ハチマキと後ろに束ねた髪型が特徴。シンと共に住民消失案件の調査をするが、見張り中、謎の虚による襲撃に遭い死亡。
呉島 真宙(くれしま まひろ)
声:佐野岳
世界国家騎士団2番隊第六席。龍騎士部隊に所属する隊士の一人で、黒髪の刈上げが特徴。シンと共に住民消失案件の調査をするが、見張り中、謎の虚による襲撃に遭い死亡。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。