死神×マフィア×魔導師 次元の破壊者   作:重要大事

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なのはの夢に現れる人物とは・・・


夢の警告

次元空間 絶望の船“デゼスプワール”

 

あらゆる世界が浮かぶ次元空間。時空管理局は大海(たいかい)の如く広大なその場所を指して『次元の海』と称している。

その次元の海を上下にうねりながら航海する一隻(いっせき)巨大戦艦(きょだいせんかん)

世界の意志・ギュスターブとその配下・十二使徒(エルトゥーダ)の移動拠点『絶望の(デゼスプワール)』が次元の海を漂っている。

「大いなる世界の意志、ギュスターブ様!」

 中央の広間に集まった十二支の動物を司る異形の怪人達。

 その12人の参謀役を務める蛇の使徒・セルピエンテが号令を掛けると、11人の使徒達が挙って頭を下げ、仕える主の到着を待つ。

 閉じられていた扉が開かれる。

 松葉杖(まつばつえ)を突きながら、全身に深い傷を負った満身創痍(まんしんそうい)の世界の意志、ギュスターブが使徒達の前に姿を現す。

セルピエンテの保護を受けながら、中央の玉座へと鎮座したギュスターブは険しい顔を浮かべていた。

「ギュスターブ様。お怪我のほどは?」

「見てわからないか? 肋骨(ろっこつ)が折れて、おまけに内臓もいくつか潰された。これで元気なはずがないだろ?」

 セルピエンテを殺気の(こも)った瞳でギュスターブは睨み付ける。蛇であるはずのセルピエンテは、まるで蛇に(にら)まれた居心地だった。主に頭を()れながら静かに所定の位置へと下がる。

 そんな醜態(しゅうたい)を見ていた十二使徒(エルトゥーダ)の一人、ティグレがセルピエンテを見ながら嘲笑(ちょうしょう)する。

「ふふふ・・・失言だったな。セルピエンテ」

「貴様は黙っていろ、ティグレ!」

 十二使徒(エルトゥーダ)同士。決して仲がいい訳ではない。彼らが結束を保っていられるのは、主であるギュスターブの力あってのことだった。互に協調意識というものは持っていない。

「俺は当面の間破壊活動は行えない。だが、生意気にも俺達に刃向う者へは、きっちりとお礼参りをしてやらねば・・・・・・」

 ギュスターブが受けた屈辱は大きかった。一度は滅ぼしかけたはずの一護達が重要大事らの手により結束し、自分に刃向ってきた。それに加え、同じ世界の意志である重要大事らの攻撃が如実に体に影響を及ぼし、当初の予定を大きく変更せざるを得なくなってしまった。ギュスターブは何としても一護達に一泡を吹かせてやりたい、そう思った時だ。

(わたくし)に妙案があります」

 名乗りを上げたのは、牡羊(おひつじ)をモチーフにしたような(よろい)をまとった怪人。

「ほう・・・言ってみろ。シャーフ」

 その怪人・シャーフの言葉を聞き入れたギュスターブが発言を許可すると、シャーフはおもむろに主へと近づく。

「少々お耳を拝借」

 他の使徒達には聞こえぬぐらいの小さな声で自らの考えを伝える。

話を聞いたギュスターブは、口元を釣り上げシャーフの考えに同調する。

「なるほど。異なる世界の違える法則を交えることで、内部から世界の崩壊を助長する・・・悪くない話だ。この作戦に賛成の者は挙手(きょしゅ)を願おう」

 挙手を求めた途端、一様に使徒全員がギュスターブに釣られて挙手をする。

 使徒達にとってギュスターブの言葉は絶対だ。たとえ使徒同士が対立関係にあったとしても、ギュスターブを仲介して彼が気に入るのであれば全員がその方針に従う。シャーフはその特性を利用した。

 全員が異議なしという形で話がまとまる。ギュスターブは側で(うやうや)しく膝をついて(ひか)えるシャーフの方へ顔を向ける。

「では、作戦は貴様に一任する。シャーフ」

「お任せください。シャーフの心は、常にギュスターブ様とともに」

 言うと、シャーフは作戦を実行に移すため一人だけ広間を後にする。

 彼が居なくなった後、ギュスターブは松葉杖を突きながらゆっくりと体を持ち上げ、この場に居合わせた11人の使徒達に声高らかに語った。

「お前達の強みは、何度やられても(よみがえ)るしぶとい再生能力にある。すべての世界を滅ぼすまで、命を惜しむな。死ぬ気で行け!」

「「「「「「「「「「「「は!」」」」」」」」」」」」

 

 

 リュミエールへと逃れた一行は、一日を終え眠りについていた。

 高町なのはは、深い眠りの中で不思議な体験を果たす。

「うう・・・・・・」

虚ろな目をゆっくりと開けると、暗闇の中で彼女の身体がふわふわと浮いている。

「ここは・・・・・・?」

寝間着姿の彼女は暗黒が支配する周りの景色を見渡した。

どこまでも漆黒の闇に包まれているその世界は、決して居心地が悪いものではなかった。むしろ、長らく光の世界で戦い続けてきた彼女を優しく包み込んでくれるような、温かさを内包している。

「夢見てるのかな、私・・・・・・」

とはいえ状況はよく解らないのは確か。なのははふわふわと体を浮遊させながら闇の中を徘徊(はいかい)する。

「あれ?」

 その時。何者も存在しない闇の中に、一筋の光明が差しこんだ。光明は人影の様な姿をしており、なのはは無性に気になった。

「誰だろう・・・・・・」

 この闇の中にたったひとつだけ存在する光。

 その光が人間の姿をしているなら、その正体を確かめたい。そんな当たり前の疑問を抱えながらおもむろに人影に近付くと、彼女は意外な人物と遭遇する。

 仄かな光を全身に纏う深緑色の羽織(はおり)に緑の作務衣(さむえ)とツートンカラーの帽子を被る、クリーム色の長髪を幾ばくか色褪(いろあ)せたリボンで結んだ優男。

なのはが目を丸くして見つめていると、その人物は振り返り、柔らかい表情で笑いかける。

「やぁ。なのは」

「ユーノ君?」

 その人物―――ユーノ・スクライアは、高町なのはを魔法の世界へと誘うきっかけを作った青年にして、なのは個人にとっては掛け替えのない存在。

無限書庫(むげんしょこ)の司書長兼考古学者として名を()せる彼が、どうしてこんなところにいるのか? そして何より―――どうしてこんな奇妙な服装に身を包んでいるのか? なのはは不思議で仕方なかった。

「どうしたの、その格好?」

「はは。やっぱりツッコまずにはいられないよね。でも、今はそんなことはどうでもいいんだ。それより君にどうしても伝えておきたいことがあってね」

「え?」

 怪訝(けげん)そうにユーノを見るなのはに対し、ユーノは真剣な眼差しを向けている。

「外の世界で、世界の意志による反乱が起きてることは僕も知ってる。知り合いから事の顛末(てんまつ)の一部を聞いてるからね」

「どういうこと?」

「何とかして、なのはや一護さんたちを助けたいんだけど・・・時間的な制約があってね。そっちの世界に入られるのは・・・精々10分間が限度なんだ」

「えーっと・・・ユーノ君?」

「伝えたいことは星のようにたくさんあるんだけど、もうじき君はこの微睡(まどろみ)から目が覚める。そうなったら、君は僕の声を聞くことはできなくなる」

「そうなの?」

 ユーノはどこか(うれ)いを帯びた複雑な表情を浮かべている。

なのはは自分が知っているユーノとは雰囲気が若干異なる目の前のユーノを見つめながら、率直なことを聞く。

「というか、あなたは本当に私の知ってるユーノ君なの? 私の知ってるユーノ君は、重要さんたちが時間を止めてあるから、動けないでいるはずなのに・・・」

 リュミエールへと逃れる際、ギュスターブによる被害から人々を護るため、世界の意志たちは一護・綱吉が過ごしていた【地球】と、なのはたちが暮らす【ミッドチルダ】の時間を上司の合意に基づき停止させた。これにより、生き物は例外なく活動時間が止まり、動けなくなった。

「種と仕掛けは、自ずから重要さんが知ってる。でも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それに勇人(ゆうと)君に龍元(りゅうげん)さんもね」

 その言葉にどんな意味が込められているかはわからない。だがひとつだけ彼女が理解したことがあるとすれば、目の前にいるユーノは世界の意志たちの存在を知ると同時に、自分たちを助けようとしていることを。

「よくわからないけど・・・ユーノ君は私たちの力になってくれるの?」

「もちろん。僕はいつだって、なのはたちの味方だよ」

 その言葉に嘘も偽りの気持ちも含まれていない。自分の知っているユーノとは異なるが、目の前のユーノもなのはがよく知る優しい笑顔を浮かべている。それを見れば、なのははどんなことでもユーノを信じることができる。

 と、その直後―――なのはの体が唐突に光り始め、光子と一緒に彼女の身体が上へ昇り始める。

「あれ? どうなってるの、これ?」

微睡(まどろみ)の時が終わるみたいだ。もう、こうして逢うのは叶わないかもしれない。だから、ひとつだけなのはにお願いがある」

「え?」

 ユーノは微睡から目を覚まそうとしているなのはの両手を優しく握りしめ、最低限伝えたかったことの中身を話す。

「もうすぐツナ君は、自分の世界では決して経験することのなかった苦しみを、味わうことになる。それを止める手段は、残念ながら無いんだ。あの優しいツナ君は、生まれたときから・・・血の流れに逆らえず、マフィアって言う望まぬ世界に生きる宿命を負い、彼自身の意思とは無関係に望まぬ戦いを続けてきたんだ。何があっても、ツナ君とその時の自分を受け入れてやって欲しい。それから、何より―――」

 憂いの瞳をなのはに向けながら、そっと彼女の手を離したユーノは、宙へと昇って行くなのはを見ながら言葉を残す。

「何より、なのは達みんなが幸せであるように―――」

「ユーノ君・・・待って・・・待って―――!!!」

 闇の中に溶けていくユーノの方へ限界まで手を伸ばす。

だが、なのはの手はユーノには届かず、自らは光の粒子となって現実の世界へと送還されていく。

 

 

「ユーノ君・・・!」

目が覚めて飛び起きると、なのはは右手を差し出していた。

奇妙な体験だった。夢とは思えないほどリアルな感触が残っている。

夢と現の間を彷徨(さまよ)った感覚のなのはは、隣ですやすやと寝息を立てて眠るヴィヴィオの姿を確認してから、軽く頭に手を乗せ考える。

(なんだったんだろう・・・・・・ユーノ君・・・・・・)

 一体あのとき、ユーノは自分に何を伝えようとしたのか。

何の目的で、自分に接触して来たのか。

考えても仕方がなかったなのはは、眠気覚ましの朝日を浴びた。

 

「ユーノが夢に?」

「うん。やけにリアルだった感じ・・・」

全員が起床した後、朝食の席でなのはは今朝方見た夢のことを赤裸々に打ち明けた。

「誰だよそいつ?」

 フェイトとの会話を聞いていた一護が何気なく質問をぶつけると、はやてがタヌキの耳を頭から生やした状態で―――

「なのはちゃんの恋人♪」

「な/// 違うもん!! そんなんじゃないもん!!」

恋人という単語に過剰な反応を示すなのはのことを、機動六課メンバーが微笑ましく見守っているのは、ある意味お約束だ。

一方で、死神組とボンゴレ側はユーノに関する情報を持っていなかったため、六課メンバーの反応の意味がイマイチ理解できない。

「どうせそのユーノって男も、チャラチャラした奴なんだろ?」

「ユーノ君はそんな人じゃないですよ!」

恋次がユーノのイメージを自分の中で勝手に創り上げると、それを聞いたなのはは間髪入れずに抗議する。

「じゃあ何なんだよ一体?」

「だから・・・ユーノ君は私の幼馴染で、魔法の先生で、無限書庫を開拓整理した伝説の司書長の・・・・・・」

 客観的な観点からユーノについてのプロフィールを口にするなのはだが、やがて話が途切れ、右手と左手の人差し指を立てながらもじもじとする。

「の、なんですか?」

「続きが聞きたいっす」

 綱吉と山本が催促をするも、なのはは相変わらずもじもじし続ける。

「だから、の・・・・・・の・・・・・・!」

「せやから恋人やって♪」

「はやてちゃん!!!」

 真っ赤な顔でなのはははやてを怒鳴りつけるが、本人は飄々としている。それどころか、周りにいる全員が都合の悪い敵となって徹底的に攻め立てる。

「いい加減認めちまえよ。別に付き合っててもあたしら今更驚かねーし」

「というよりも、どうして付き合ってないんですか?」

「付き合っているとかいないとかそういう問題じゃなくて!!! 私とユーノ君は普通の幼馴染みだもん。そう言う変な感情というものはもとよりなくてね・・・///」

「でもこの間、ヴィヴィオを連れてユーノ君と遊園地に行ったんでしょう?」

「ただの友だちでそこまですると思うか?」

 六課メンバーが一護達に意見を求めたところ、客観的な立場で話を聞いていた彼らも唸り声を上げながら、真剣に考える。

「確かに言われればそうだな・・・彼氏でもない奴と遊園地にはいかねぇよな!」

「そうですかね? 私は別に気にしないですけど」

「ハルも同意見です」

「ほらね! 友だちなんだよ、ユーノ君とは! それ以上の関係は期待しないでね!」

一般的な女子よりも些か感覚のズレが生じている京子とハルを味方に付け、なのはが身の潔白(けっぱく)を主張するかのようにユーノとの関係は何もないと強く主張する。

そんな彼女を横目に、リボーンが口を挟む。

「その言い方だと、まるでオレたちにそれ以上の関係であることを望んでるみたいじゃねぇか」

「え!!」

 リボーンのまさかの一言に、なのはの顔は凍りつく。赤ん坊である彼が自分でも気づいていない心の内を見透かされた様で、なんだか怖かった。

「で、そのユーノ君が何を言ってきたんだい?」

 一連の話を聞いていた世界の意志達三人が再度、なのはから詳しい話を聞き出す。

「あ。えっと・・・よくわからないことがあったんですけど、なんだかツナ君のことを心配していたような・・・」

「オレを?」

「なんでツナと会ったことがないそいつが、ツナの心配をするんだ?」

「それもよくわからないんだけど・・・兎に角、ツナ君の身に危険が及ぶとか・・・何があっても受け入れて欲しいとか・・・そんなことを言っていたの」

 微睡(まどろみ)の中でなのはがユーノから伝えられたその内容は、この場に居合わせた全員を困惑させる。

「どういうことだろう?」

「ツナさんの身に、何かデンジャラスなことが起こるのでしょうか!」

「えー!? オレなにしたって言うの?!」

 身に覚えのない危機が迫ろうとしていると聞いて、齢14歳の綱吉が平静を保っていられるはずがなく、おどおどとし始める。

 そこへ、朝の業務を終えた夜御倉家の当主・夜御倉はやてが一護達の元へとやってくる。

「みなさん、おはようございます」

「お。大人の女な方のはやて(L)」

「「おはようございます!」」

「どうかなさいましたか?」

はやて(L)は場の雰囲気から、何かがあったことを悟った。

「実は、なのは君が奇妙な夢を見たとのことだ」

 腕組みをしながら話を聞いていたシンは、事の経緯をはやて(L)に赤裸々に伝える。

「夢・・・そうですか」

 どういう訳か、夢という言葉を聞いたはやて(L)の表情がやや物憂き気味だった。一護達全員は(いぶか)しげに顔を見合わせる。

「はやて(L)さん?」

「浮かない顔ですが、何かあったのでしょうか?」

 すると、はやて(L)は真剣な眼差しで語り始める。

「あなた方がここへ来る前・・・変わった夢を見ました。以前この世界の危機を救ってくれた、とある世界の方からの緊急のメッセージの様なものです」

「メッセージ?」

「その方は私に言ってきました。“間もなく、この世界に恐ろしい災厄が振りかかる。そのとき、異界の地より訪れし大空の少年は瘴気(しょうき)に犯され心を失い、異形の徒へと姿を変える”と―――」

「それって・・・」

「ツナのことじゃ・・・!?」

 なのはから聞いたものと内容が通じる話だった。大空と言う単語から連想されるものとして、正当なボンゴレX世(デーチモ)として継承権を与えられた綱吉の方へと視線が移る。

「オレが・・・心を失う?!」

 訳の分からない予言の内容に戸惑いを抱くと同時に、綱吉は段々怖くなってきた。

「どう思いますか、重要様」

 綱吉のことを気に掛ける龍元は、重要大事に意見を求める。

「ん~~~・・・確かに引っかかりはしますね。なのはの夢の中に出てきたユーノ君然(しか)り、はやて(L)さんの夢に出て来た人のメッセージ然り・・・一見するとまったく別なことを言っているように見えて、実は共通して同じことを主張している」

重要大事は不安げな顔の綱吉を見つめ、全員に注意勧告をする。

「大空の少年―――比喩(ひゆ)としてそれがツナ君を指しているのなら、もしかしたら、僕らが考えている以上に恐ろしいことが起こる可能性はある。用心はしておこう」

「リュミエールが、再び邪悪な力に襲われるのか?」

未曾有の事態が起こる可能性があると聞かされた瞬間、シンの表情は険しくなる。

以前にも、リュミエールは“天帝(てんてい)”と名乗る巨大な力を有する存在とその配下によって蹂躙(じゅうりん)されかけた。たくさんの命が消え、戦地となった桜華国(おうかこく)の国土の多くは焼け野原と化した。そんな記憶に新しい凄惨な事件をシンは思い出した。

「まだ分りません。しかし・・・・・・」

「ギュスターブは、僕らよりも一手先を読んでいるのかもしれない――――――事を急がねばならないか」

 敵の動向が気になる世界の意志達。

 その一方で、京子は秘かに綱吉の身の上が心配する。

(ツナ君・・・・・・)

 胸元でギュッと両手を握りしめる彼女。このまま何もなければ良いという淡い希望が打ち砕かれぬ様、天に向かって切に祈る。

 

 

リュミエール 世界樹島

 

リュミエールにおける世界誕生の地にして、生命発祥の地である聖域『世界樹島(せかいじゅとう)』。

(はる)(いにしえ)よりリュミエールで育んできた母なる大樹・世界樹が存在し、原生植物(げんせいしょくぶつ)が今も当時の姿と変わらぬ姿で生息しているこの島に、異界の者が降り立った。

「―――成程。素晴らしい自然だ。些か滅ぼすには心苦しいかもしれませんね」

 牡羊の意匠を宿した鎧に身を包む頬骨(ほおぼね)が若干凹んだ痩躯(そうく)の男。

 十二使徒(エルトゥーダ)のひとり、シャーフが人間に姿を変えた状態である。

「それでは、実験を開始いたしましょう。ふふふ・・・…・」

 光の大地へと降り立った暗黒の使徒が奏でる恐怖の旋律(せんりつ)

 今、静かに未曾有(みぞう)の危機が訪れようとしている―――――・・・

 

 

同時刻 世界国家騎士団2番隊隊舎前

 

朝食後、一護達数名はシンに連れられ世界国家騎士団の2番隊隊舎へと向かう。

シンの厚意で、知られざる国家騎士団の仕事ぶりを見学させてもらうことになった。

凛々(りり)しさに満ち溢れる騎士甲冑(きしかっちゅう)に身を包んだシンの後ろにつく一護達。エリオは彼の大きな背中に心惹(こころひ)かれながら、おもむろに質問をする。

「あの・・・シンさんは普段、国家騎士団のお仕事をされてるんですよね?」

「ああ、そうだ。今日は特別に俺の職場と仲間達を紹介しよう。世界の意志との戦いは血戦になりそうだからな。俺たちも、できる限りの協力はしようと思っている」

「シンさん・・・ほんまに、ありがとうございます!」

 代表してはやてが深く首を垂れると、シンは意外そうな顔を浮かべると直ぐに、「ははは」と(ほが)らかな笑みとなる。

「それにしても、まさかはやてが二人とはな」

 はやてへと振り返ったシンは、はやての頭をすっぽりと覆い隠すほどの大きな手を乗せてきた。

「あ・・・///」

「俺はなんだか得をした気分だな」

 爽やかな笑顔と、父性に満ち溢れたシン。

「あう・・・///」

はやては紅潮した顔を押さえながら後退。みなのいる前で気恥ずかしそうに萎れる。

「何照れてんだよお前?」

「だ、だって・・・かっこよくあらへんですか♡」

 悩殺だった。

 八神はやては夜御倉シンの魅力に、心を射抜かれた。

「完璧に惚れたみたいっすね」

「ははは・・・・・・」

 思わぬ形で恋をする者が現れたことに、この場に居合わせた者たちは何とコメントをしていいのか分からなくなった。

 それから間もなくして、一護たちは2番隊隊舎裏にある屋外訓練場を訪れる。

「みんなー! おはよう」

 力強く挨拶をしてきたシンの声に反応し、剣の鍛錬に明け暮れていた2番隊全騎士達が挙ってシンに向かって敬礼。

「「「おはようございます、夜御倉隊長!」」」

「「「おはようございます」」」

 この光景に一護達は唖然とする。同時に、シンの人望の厚さを思い知る。

「聞いてくれ。今日はみんなに紹介したい人達がいる。ここにいる彼らは、世界の意志と名乗る巨悪からの襲撃を受け、異世界よりこのリュミエールに逃れてきた者達だ。何分この世界の事で色々と戸惑っていると思うから、親身になって接して欲しい」

「「「「「はい!」」」」」

「みんなも忌憚(きたん)なく、我々にわからないことは聞いてくれ」

「あ、はい! ありがとうございます!」

 一護達はシンと2番隊の騎士達全員に深く首を垂れる。

「さて。これから実戦訓練をしようと思うのだが・・・どうだろう」

 不意にシンは一護達の方へと向き直り、若干口元を釣り上げ、そして言う。

「俺とやってみたい奴はいるか?」

「「「「え!?」」」」

「世界の意志は強いのだろう? 強い相手と戦うのなら、己を鍛え上げるほか道は無い。客観的な話・・・戦争なんてものは、勝ち残った者が強いというのが論理だ。今よりさらに強い自分へと成長し、高みを目指す。そのことだけが自分と仲間の身を護るただ一つの道だ!」

 不動の龍騎士の異名を持ち、これまで数多くの死地を潜り抜けて来た歴戦の猛者の口から語られる力説。凛々しく誇り高い騎士・夜御倉シンの姿に、隊士達はおろか一護達も素直に感嘆。

「く~~~シンさん!!」

「すっげ―――!! 超カッケーっすね!!」

「素晴らしい騎士道精神・・・感服いたしました!」

 胸の高鳴りが収まらなかった。

 シグナムは騎士として、これほどまでに心から賛美し、強く戦いたいと思った人間と出会わせたのは今回が初めてのことだった。

 他の誰よりも先に前に出ると、凛としていながらも輝いた瞳でシンを見る。

「ヴォルケンリッターが将、シグナムと申します。非才の身ではありますが、お手合わせを願えますか?」

「そうか。君が一番手か・・・・・・いいだろう。こちらも騎士の誇りに恥じぬよう、全力で相手をする」

 二人の間に、突風が吹きすさぶ。

 古代ベルカを生き抜いた魔導の騎士と、光の大地リュミエールに生まれその平和を守り続けた不動の龍騎士が―――真っ向勝負。

 自然と全員の視線が二人の方へと向けられる。

 固唾を飲んで見守る一護達と騎士達を余所に、二人の騎士は互いの愛刀を手に衝突の瞬間を見計らい、構えを取る。

「いくぞ、レヴァンティン!」

Ja(はい)

 調子は最高。シグナムの魔剣レヴァンティンの刀身に煌々と炎が燃え滾る。

 シンは自分の愛刀である龍王牙(りゅうおうが)を鞘からゆっくりと抜き放ち、刀身に映る自分の顔を一瞥してから鋭い目を向ける。

「その実力、見極めさせてもらうぞ」

 二人の闘志と闘志がぶつかり合う。

 見ているだけでも手に汗握る展開が繰り広げられる中、興奮を覚えるのは何もシグナムばかりではない。

了平は先ほどから口喧しく「おおお!」と叫んでいる。

「おおお! 極限熱い戦いになりそうだ!」

「どっちが勝つかなー」

「歴戦の猛者と猛者の戦いだ。どっちが勝ってもおかしくはねぇと思うな」

 互いに一流の剣士である以上、どちらに軍配が上がっても不思議ではない。

この戦いに勝っても負けても、それはギュスターブ達との戦いで味わうような絶望的な敗北感ではない爽快(そうかい)なものを得られるはずだ。

 そして、いよいよ―――二人の騎士が己のすべてをぶつけ合うため、愛刀とともに地面を蹴って前に出る。

「はああああああああああああ!!!」

「おおおおおおおおおおおおお!!!」

 威勢のいい声を上げる二人の身体からは、目に見える赤と青のオーラが全身を包み込んでいる。

一護達の目の前で、渾身の一撃が振り下ろされる。

紫電一閃(しでんいっせん)!!」

蒼破刃(そうはじん)!!」

 二つの力と力が真正面から衝突した瞬間――――――嵐でも起こったかのような凄まじい突風が隊舎一帯に拡散した。

 

 

同時刻 桜華国東部 戦没者慰霊碑前

 

夜御倉はやてと一緒に綱吉、リボーン、なのは、スバル、ティアナ、京子、ハルの七人は夜御倉邸より歩いて10分の場所に設置された慰霊碑の前にやってきた。

「あの・・・ここは?」

 おもむろに綱吉が尋ねると、はやて(L)は戦没者達の名前を一通り確認してから、両手に持っていた花束を静かに供え言う。

「―――数か月前に、桜華国全土を襲った虚無の統治者(ニヒツヘルシャー)と名乗る一団との戦いで、命を落とした英霊(えいれい)達が眠る場所です。ここには、シン様の副官だった人の魂も一緒に眠っています」

 慰霊碑に刻まれた文字を辿るはやて(L)。その中にあった『臥龍岡邦半蔵寿(ながおかはんぞうくにひさ)』と書かれた文字に指を止め、物憂き顔で更に言う。

「全国からの支援を受け、元の生活を取り戻しつつある桜華国ですが、復興はまだ続いているのです。失った命は二度と戻りはしません。ですが私たちは・・・辛くとも前に進むしかないのです。生き残った私たちにできることは、死んでしまった方々の分まで、しっかりと地面に足を付け、この世界で天寿(てんじゅ)を全うするまで生き続けることなのですから」

「はやて(L)さん・・・・・・」

「私たちがここを訪れる前に、そんな事件があったんですね・・・」

 ギュスターブとの戦いで元いた世界を襲撃された綱吉達は、どんな思いではやて(L)やシンが自分達を迎え入れてくれたのかを理解した。

 彼らは以前にも多くの仲間を戦争によって失っている。自分達とは比べ物にならない心の痛みを味わっている。にもかかわらず、気丈に振る舞い右も左もわからない自分達を、親身になって世話をしてくる。

 その心の寛大さには、綱吉達は勿論リボーンですら感服する。

 綱吉達もはやて(L)と一緒に戦没者に粛々と参拝。多くの御霊が成仏してくれるようにと祈り手を合わせる。

 参拝が終わると、綱吉は不意にあることが気になり呟く。

「そういえば・・・雲雀さんはどうしたんだろう?」

 ボンゴレ雲の守護者にして、孤高を愛する男・雲雀恭弥もまたリュミエールへと逃れていた。しかし彼は綱吉達とは行動をともにせず、夜御倉邸から忽然と姿を消した。

世界の意志達が放任主義的な態度をとる中、綱吉は今まで誰も気にしていなかったことを気に掛けた。

「あいつなら一人でも大丈夫だろ。ほっとけ」

「でも、ここは地球じゃないし・・・危険なモンスターだっていっぱいいるんでしょ?」

「確かに危険なモンスターもいるにはいますが・・・この辺りは比較的おとなしい生物が多い土地ですから」

「そもそもな話、どうして雲雀君ってみんなと一緒にいたくないの?」

 率直な疑問をぶつけるなのは。この問いかけに、綱吉は正直に答える。

「群れるのが嫌いなんです・・・老若男女(ろうにゃくなんにょ)問わず、容赦ないんですあの人・・・」

「ついでに弱い奴も嫌いだぞ」

 リボーンが真顔で補足説明をする。

なのは達は雲雀の性格を知った直後に引き攣った顔となる。

「うわぁ~・・・その子性格的に破綻(はたん)してない?!」

「社会的にかなり問題があるわよね・・・」

「でも、学ランに風紀員って腕章があったような・・・」

 一度だけ、なのはは雲雀の格好を見たことがある。彼はどんなことがあっても、学ランを上から羽織り、腕には風紀委員の腕章を身につけている。

「並盛最強の風紀委員長は、同時に不良の頂点に君臨する最恐の支配者なんですよ・・・」

 途方も無く遠い眼差しで綱吉が答えると、なのは達は自ずと彼が若くして抱える気苦労というものを何となく理解した。

「よくわかんないけど・・・大変なんだね・・・」

「ですがそう考えると、一番大変なのはむしろこの子達じゃないでしょうか?」

 言うと、ティアナは一緒にいた京子とハルの方へと振り返り、彼女達を見る。

「はひ? ハルたちは全然ノープロブレムですよ!」

「私たち、すべてを受け入れようって決めたんです」

「そうですか・・・強いのですね、あなた達は」

 若干14歳の少女だが、京子とハルの芯の強さは折り紙つきだった。

 京子はどこまでも広く青々とした空を見つめながら、それと綱吉の心を照らし合わせおもむろに語り出す。

「私たちはただ、自分にできることをやっているだけですよ。でもときどき・・・大切な人が傷つく姿を想像して、怖くなることもあります。そのとき、私はこう思います・・・・・・“どうして私には戦う力がないのかな”・・・って」

「京子ちゃん・・・」

 それは京子の本音でもあった。

 綱吉は図らずもマフィアとは一切関係のない京子とハルを血なまぐさい戦いの中に巻き込んでしまったことを、本気で後悔する。

 だが京子達は綱吉の優しさを知っているからこそ、こんな風に言ってきた。

「でもハルちゃんと一緒に信じることにしたんです。どんなことがあっても、ツナ君達のことを信じるって」

「だから、ハルたちは何も怖くありませんよ!」

 決して作り笑いなどではない。

 純粋に二人は、綱吉のことを心から信頼していた。それが却って、綱吉の心を強く締め付ける。

 ポタン・・・・・・。

「あれ、ツナ君?」

 なのはは綱吉の瞳から零れ落ちる涙に気づき、他の者達も一様に彼の瞳から流れ落ちるそれを凝視する。

「どうしちゃったの急に?」

「ツナ君?」

「ごめん・・・・・・/// なんか・・・・・・いろいろと・・・溢れ出しそうで・・・・・・涙が止まんなくて・・・・・・///」

 啜り泣く綱吉は声を震わせる。

 真顔でリボーンが見つめる中、綱吉は涙を拭うと彼女達に背を向ける。

「ちょっとその辺散歩して来る!」

 男としてのプライドか、涙を見せたくないとばかりに綱吉はその場を立ち去った。

 なのはは夢の中でユーノが言っていた言葉の意味が、ようやく理解できた。

(ユーノ君が言ってたとおりだ・・・・・・マフィアのボスとは思えないぐらい、優しい子なんだな)

 

 

 死神・ボンゴレファミリー・機動六課メンバーのリュミエール避難から七日が経過した。

 

 

「「「あああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」」」

悲痛に叫ぶ者達。

嘗て経験したことのない苦しみを味わう彼らは、人の気を逸した悲鳴を上げるとすぐに、体が液体のように飛び散り、着ていた服だけを残して跡形も無く消えてしまう。

この現象を観察していた一人の男と人の身を保たない異形の徒は、冷静に今回のことをレポートにまとめる。

「・・・成程。一般人では原型を留めることもままならないようですね・・・」

〈如何なさいますか? 実験を中止されますか?〉

「いいえ。もうしばらく、これを続けましょう」

 

 

桜華国 夜御倉邸 大広間

 

「ぐはははは!!! ランボさんのものだもんねー!」

「待てアホ牛!!! 人の朝飯横取りすんじゃねぇ!!」

ギュスターブとの戦闘から一週間を迎えた。

避難地であるリュミエールでの生活にも慣れ始めた一護達は、いつもと変わらぬ喧騒とした朝食を摂っていた。

「べえぇ! アホ寺にはこいつがお似合いだもんねー!」

ランボは獄寺の朝食のおかずを取り上げ、それを取り戻そうと追いかけまわす獄寺におしりをペンペンと叩くと、さらに舌を出す。

癇癪(かんしゃく)持ちの獄寺をわざと刺激するランボは、自分のお皿から目刺一匹を手に取り、それを無造作に獄寺の方へと投げつける。

取り上げられたのはアジの開き。獄寺は渡された目刺を尻尾の先から手に取り、この上もない怒りでいっぱいとなる。

「ア・ホ・ウ・シが・・・・・・てめぇ!!! 灰になりてーか!!」

 怒髪天を衝く獄寺の怒号が響き渡る。

 懐からダイナマイトを多量に取り出すや否や、ティアナの鋭いチョップが腹部へと叩きこまれる。

 ぐっへ、という声を上げる獄寺にティアナは些か殺気立った様子で怒鳴りつける。

「まったく。朝からウッサイわね!」

「いってーな! 何すんだよ!」

「子ども相手になにムキになってるのよ。たかだが魚一匹で大袈裟なんだから」

「ふん! ツンデレ女がでしゃばってるんじゃぇよ」

 この発言が失言となった。

「誰がツンデレ(・・・・)ですって、誰が―――!!!」

ティアナは「ツンデレ」という言葉に過剰に反応し、問答無用で獄寺を土下座させると、彼の尻に足を乗せて制裁を加える。

「いてててて!!! てめぇ、ちったー女らしくしろ!」

「うっさい、このバカ寺!!」

 異界に住む者達の交流が思わぬものを生み出した。

 ティアナが獄寺を蹂躙(じゅうりん)する様は、ボンゴレファミリーと六課メンバーに多大な衝撃を与える。

「てぃ、ティアが・・・新たな思考に目覚めちゃった・・・」

「とはいえ、すっかりボンゴレとも馴染んだみたいだな」

「でも喧嘩はよくないと思いますけどね・・・」

 客観的に状況を観察していたなのはは、暴走するティアナを止めようと仲裁に入る。

「ほら、ティアナ。暴力はいけないよ、暴力は」

「ですがこいつが・・・」

「けっ。ザマーみろ」

「ムカ!」

「獄寺君もダメだよ。ほら、二人ともお互いに謝って」

「アホか。誰がこんな暴力女に謝るもんか!」

「暴力女ってあんたねぇ・・・!」

女性に対する尊厳はおろか、まるで足蹴にする大柄な獄寺の態度にティアナの血管が切れそうになった―――

「ふっが!!」

その直後。リボーンが真顔で獄寺の顔面に食い込むように両足蹴りを叩きこむ。

獄寺はリボーンからの手ひどい仕打ちを前に一発KO。見る者に戦慄を与える。

「り・・・リボーン君・・・///」

「女に対する礼儀がなっちゃいねェ奴には、存在する価値すらねぇ」

「な、なにもそこまでしなくても・・・!?」

「一緒に戦うはずなのに、身内同士で潰し合ってる感じなのはオレだけ・・・」

「いや。俺も同じことを考えていた」

 基本的にツッコミキャラの立ち位置にある一護と綱吉は、互いに打ち解け合い、決戦に備えた戦闘訓練も頻繁に行う仲となっていた。

そして不思議とボケをかます周りに対するツッコミのタイミングも酷似していた。

「お―――」

 そこへ、大荷物を抱えた甲冑姿のシンが大広間へと現れ、エリオとフゥ太が挨拶。

「おはようございます!」

「シンさん、おはよう!」

「ああ。おはよう、エリオ。フゥ太。みんなもおはよう」

「あれ? 今日は早いんですか?」

「ちょっとな。グランマニエ皇国(こうこく)で起こった変死事件についての調査に出かけるんだ」

「変死事件?」

一様に皆の関心が向けられる。

シンは現時点で解っている変死事件に関する情報の一部を教える。

「ここ一週間程、グランマニエ皇国の住人が消える事件が続発している。原因は不明だ」

「消える? どこかへいなくなっちゃうってことですか?」

「アホか。それだったら蒸発って言うだろ。大体蒸発だったら、原因なんか知るかよ。そいつの勝手だ」

 と、ハルの素朴な疑問もいつもの調子で獄寺が返答。

「そうではないんだ。“消える”んだ。服だけを残して跡形も無くな」

 シンは首を横に振ってから、人差し指を立て「消える」の部分を強調。クロームが「え・・・」と、声を漏らし言葉を失う。

「死んでいるならその痕跡がはっきりと残る。服も含めてな。だが単なる死亡ではない。いわば、生きたまま人の形を保ったようになって消滅した(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)。そうとうしか考えられない」

「生きたまま人の形を保てなく・・・ですか?」

 言っている言葉の意味が理解できず、織姫は疑問符を浮かべる。

「理解できなくても無理はない。俺も詳しくはわからないんだ。こんな事は初めてだからな。ともかく、それの原因を調べる為にこれから現地へ向かう。君達は、俺の事は構わず精進していて欲しい」

 荷物を抱え、屋敷を後にしようとする。

 玄関へと向かうと、見送りをするためはやて(L)とフレックスが立ち尽くしている。

「シン様」

「どうかご自愛のほどを」

「ああ。わかっている。行ってくるよ」

 こっそりとこの様子を眺望していた一護達は、玄関先でシンとはやて(L)が互いを愛おしげに見つめ合い、口づけをする光景を目撃。

 これには、見ていた者の(ほとん)どが顔を真っ赤に染め上げ、はやては「おおお―――!!!」と言って、異様なまでに興奮する。

「見た見た! ちょーラブラブやないの~~~、こっちの私とシンさん♡」

「朝から熱いな」

「にゃはは。なんだか羨ましいよね♪」

「なのははユーノとそのうちやるんでしょう?」

「にゃ!!! な、なんでそういうことになるわけ!?」

「ママ。ユーノ君と仲良しさんだもんねー♪」

「ヴィヴィオまで~~~/// だから、ユーノ君とはなんともないただのお友だちなんだってあ―――!!!」

 

 

 こんな風に平和な日常を送っていた彼らだが、その日の夜に訪れるとある出来事が、ひとりの少年の運命を変えてしまう―――

 

 

 

 

 

 

参照・参考文献

原作:久保帯人『BLEACH 36巻』 (集英社・2008)




登場用語
世界樹(せかいじゅ)
リュミエールに存在する、世界を生み出したとされる巨大な樹の事。世界樹、或いは「母なる大樹」とも呼ばれる。地図上ではほぼ中央に位置する世界樹島にある。全ての生命の源であり、魔術の発動に欠かせないエネルギー〔マナ〕を生み出し、世界中に供給・循環させている。神話や文献では、世界と全ての生命は世界樹の被創造物であり、世界樹は全ての生命と調和を成しながら成長するとされている。今現在、世界樹とそれがある世界樹島、およびその周辺海域は完全保護区域に指定されている。また、リュミエールの主な宗教である世界樹信仰の発祥地であり、世界樹の傍には4000年以上前に築かれた世界樹大神殿がある。
世界国家騎士団(せかいこっかきしだん)
「リュミエール」を守護する国際平和維持組織。元々は320年前に勃発し、20年間に渡り繰り広げられた第1次世界戦争の終結後に組織された〔国際青年騎士団〕通称・国際騎士団だったが、今からおよそ150年前に騎士団改編を行った際に名称も変更したことで生まれた。昔は1番隊から22番隊まであったが、改編やとある事件などにより、現在は1番隊から11番隊までの計11部隊によって構成されている。また、護廷十三隊と同様に隊毎に特色と隊章を持つ。世界国家騎士団全体としての団旗は剣と双翼をモチーフにしており、〔世界の守護と飛躍〕を意味する。それぞれの意味としては、剣の上に描かれた円は世界、剣は騎士と守護、双翼が飛躍を象徴している。また隊によっては、専門の部署や部隊と協力関係にある場合がある。入団するには1つの必須項目と2つの入団条件を満たす必要がある。必須項目は、必ず国家騎士証と言う騎士に関する資格を持っている事。入団条件は2つの内どちらか一方を満たす必要がある。
・年に1度開かれる入団試験で合格する事。
・リュミエール11ヶ所に置かれている騎士学校での8年分のカリキュラムを全て修了した上、卒業最終試験で1000点満点中850点以上で合格する事(卒業認可点数は700点以上)。
そして、時空管理局における管理局法にあたる〔世界国家騎士団活動規約〕(通称・騎士団規約)と言われる条文があり、中でも、〔自由〕・〔平等〕・〔共存〕・〔繋がり〕の4つを4大原理と呼んでいる。ただし、時空管理局のように独自に司法機関を有しているわけでなく、はたまた国際裁判所に従属しているわけでもない。あくまで国際法と騎士団規約に基づき活動する完全独立執行部隊としての色合いが濃い。実力主義の組織であり、それなりの能力があれば10代でも隊長クラスになることができる。(ただし、魔物討伐以外での戦闘で15歳未満の者の参加は禁じられている。また、18歳未満の者に対しては親又は3等身以内の親類から全戦闘への不参加要請があった場合はそれに従う)

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