死神×マフィア×魔導師 次元の破壊者   作:重要大事

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BLEACH・REBORN・なのは組が合流します。


導かれた者達

次元の壁を超越し、いくつもの並行世界へ侵略を開始した世界の意志・ギュスターブが次なる標的として襲撃を行ったのは、魔法文明が極めて発達した世界【ミッドチルダ】。

そのミッドチルダの危機に対処するのは、時空管理局本局所属の機動部隊、通称「機動六課」の魔導師・騎士達。

ギュスターブの力を前に苦戦を強いられていた彼女達を救ったのは、先に侵略行為を受けていたが、辛うじて生き延びた【地球】の死神とマフィア。

今、この三つの世界が交わりしとき―――新たな物語が紡がれる。

 

 

 

ギュスターブの野望成就を阻むため、ボンゴレファミリーと協力して事態に対処する死神とマフィアは、なのは達の窮地を救い、目の前の敵・ギュスターブを睨み付ける。

「ギュスターブ・・・てめぇ」

「もう逃げられないぞ」

「ギュスターブ・エトワール! なぜこの世界を滅ぼそうとする!」

「「「「え!」」」」

綱吉の口から放たれた言葉に衝撃を抱くなのは達。

勿論、全くと言っていいほどギュスターブから途方もない悪意を感じなかったかと言われれば、ノーと即答する。だがしかし、よもや本当に世界を滅ぼそうとしているとは考えもしなかった。

各々がギュスターブに鋭い視線を向ける中、彼はおもむろに言う。

「言っただろ。俺は、ただ壊すだけって。人間達によって汚されたこの血みどろで理不尽な世界全てをリセットする。そのためにどれだけの犠牲が出ようが知ったことじゃない」

「カスだな、てめぇ」

 恋次がギュスターブから感じた率直な心象を、露骨に顔を歪め口にする。

彼ほどではないが、人の命を毛ほどにも感じていないギュスターブの手前勝手な考え方には、フェイトもそれ相応の嫌悪感を覚え、無意識のうちにバルディッシュを強く握りしめていた。

「なんとでも言うがいい。どの道この世界は、既に我々の手に堕ちた」

 と、意味深長な言葉を呟いた直後―――

 頭上を覆い隠す巨大な影が一護達の周りを暗くする。

「なんなの!?」

 鳥の鳴き声のような音とともに、ミッドチルダの空に突如現れる超巨大戦艦。

怪獣のような姿をした全体的に白を基調とする船には、昆虫の脚を思わせる節足が生えており、見る者に畏怖の念を抱かせる。

「大きい・・・!」

「ウソでしょう・・・ゆりかご以外に、あんな巨大船があったなんて!」

 先日、JS事件で古代の超兵器「聖王のゆりかご」を破壊したばかりであるなのは達が直面する、起こってはならない現実。

 セルピエンテは恐怖に戦くなのは達に向かって、頭上に浮かぶ船について言う。

「我々の移動要塞。絶望の船“デゼスプワール”! その力を思い知るがいい!」

 デゼスプワールは、地上目掛けて一斉砲撃を開始。

「「「「ぐああああああ!!!」」」」

「「「「だああああああ!!!」」」」

「「「「きゃあああああ!!!」」」」

 圧倒的な破壊力。

 圧倒的な質量。

 すべての生き物を蹂躙する悪魔の力を前に、異能者達は瞬く間に蹴散らされる。

「いでよ―――!!! 大幹部・十二使徒(エルトゥーダ)達!!!」

 セルピエンテが天に轟くほどの大声で声を上げると、デゼスプワールから不気味な赤い光が地上目掛けて降り注ぎ、一護達の前に現れたのは―――セルピエンテと同種の存在。

 十二支と同じ動物を模った異形の怪人達が結集。世界の垣根を超えて集合した異能者達に畏怖の念を抱かせる。

「なんだよこいつら・・・!?」

「ギュスターブに随伴する連中だよ!」

「こんなにいたのか!?」

「ていうか、なんでこんなことになっちゃったの!?」

「目障りな異能種達よ。終わりの(とき)だ」

 ギュスターブが右手を上げると、待機をしていた十二人の怪人達、十二使徒(エルトゥーダ)は凶悪な眼差しを浮かべながら、一護達の元へと向かって走り出す。

「ち!」

「やるしかない!」

 覚悟を決めてこれを応戦する一護達だが、敵の力は想像以上に手強かった。

 人間離れした姿もさることながら、人の心を持たない者にとって殺すことに対してなんら躊躇いを持たない。それが、結果として一護達を追い詰める事へと繋がる。

「「「ぐあああああ!!!」」」

「「「「だああああ!!!」」」」

「「きゃああああ!」」

 敗色濃厚。

 力がまるで通じない。

 絶望という空気が、辺り一帯に充満し始める。

「ぐ・・・・・・つよい・・・・・・」

「私たちの攻撃が・・・全然届かない・・・」

 ミッドチルダの危機を回避したばかりとはいえ、なのは達はこれほどまでの雪辱を味わったことは無かった。

 何かを護るためにある魔法の力が、何も護るものを持たない殺戮者達には一切通用しない。そして何より、心無き者達にとはどんな説得も通じない。ジェイル・スカリエッティとその従者・戦闘機人以上の脅威が、目の前に立ち塞がる。

「みなさん!」

「大丈夫か!?」

 重要大事とともにギュスターブによる世界侵略を食い止めようと奔走する世界の意志、夜御倉龍元と星堂寺勇人は、深手を負ったなのは達の元へと駆け寄る。

「これは酷い・・・龍元さん」

「はい!」

 龍元は傷の深い者達から順に特殊な結界内に入れ、非戦闘要員の井上織姫らと協力して治療に当たる。

 その間に、重要大事と星堂勇人の二名が十二使徒(エルトゥーダ)とギュスターブを相手にする。

「集中砲火だ!」

 デゼスプワールから降り注ぐ全てを焼き尽くす爆弾の雨。

 二人は爆弾の雨にも屈せず、前方目掛けて走り出す。

「「ほおおおおおお!!!!」」

 互いに剣を携えると、数に勝る十二使徒(エルトゥーダ)の攻撃を弾きながら一直線にギュスターブへと向かう。

十二使徒(エルトゥーダ)は、ギュスターブの肉と血から作られた分身。世界の意志であるギュスターブ本体さえ倒されれば、自然消滅を果たす。

「ふん―――」

 無鉄砲にもひたすら前に突き進んでくる大事と勇人に哀れみを抱くギュスターブ。彼らを帰り討とうと剣を握ろうとした、直後―――

「捕えよ、凍てつく足枷! フリーレン・フェッツェルン!」

 何者かの詠唱により、唐突に全身が氷の壁に覆われる。

「なに!?」

 ギュスターブが驚き返る中、この氷を作った術者の存在に気づいた。

 現れたのは、機動六課部隊長の八神はやてで、現在彼女は管制融合機のリインフォースⅡ(ツヴァイ)と融合状態にある。

「はやてちゃん!」

「はやて!!」

「ごめんな、遅くなって。状況が状況やから、カリムとクロノくんにリミッター外してもらって出てきたんよ」

(今のうちに、攻撃を!)

「「おう!」」

 二人の厚意に感謝しつつ、大事と勇人は凍って身動きが取れないギュスターブに、一撃必殺の威力を誇る技をお見舞いする。

勇人は獅子のペンダントを変化させたブレスレットを左手に装着し、カバーを開く。

「トライダグオン!」

勇人の体表の変化に、周囲に驚きの声が起きる。

変身した姿の名は炎の勇者『ファイヤーエン』―――周囲の声に耳を傾けることはなく、ファイヤーバード形態と呼ばれる鳥型になると、炎をまとって突撃する。

「ファイヤーバードアタック!!」

火の鳥となったファイヤーエンが、氷の壁に覆われたギュスターブへと突撃する。

「ぐううう!!!」

 炎の熱量は凄まじく、ギュスターブの肉が抉れ、骨が砕ける。

人間を超越する生命力を誇る世界の意志だが、同じ世界の意志の力に対する体制は脆い。勇人の攻撃でかなりの血と体力を消耗する。

「は!」

 この機を逃さなかった大事は、天高く飛び上がって勢いを付けると、重力によって増す速度と相乗効果で生まれる強力な一刀を振り下ろす。

(ざん)!!」

 バシュン―――。

「がああああああ」

 左肩から深く食い込んだ大事の刃は、ギュスターブに致命傷とも言うべき傷を残した。

「ギュスターブ様!!」

 コネホ達十二使徒(エルトゥーダ)は深手を負った主の元へと歩み寄り、その安否を気遣う。

 苦しい表情を浮かべるギュスターブだが、完全に息の根を止めた訳ではなかった。大急ぎで傷の再生に取り掛かっているが、世界の意志によって受けた攻撃を短時間で修復することは叶わない。

「くそ・・・・・・一旦引き上げだ!」

 ギュスターブは十二使徒達に抱えられながら、デゼスプワールへと乗り込み、世界と世界を繋ぐゲートを通ってミッドチルダを立ち去った。

 辛うじてギュスターブを退けた大事達は、簡潔にはやてに状況を説明した後、負傷した戦士達を機動六課の隊舎へと運んだ。

 

 

遺失物管理部 機動六課隊舎

 

「はい、これでおしまい」

「ああ・・・すまねぇ」

 隊舎へと運ばれた一護達は、世界の意志三人と井上織姫、そして機動六課で医務官を務めるヴォルケンリッターの湖の騎士シャマルらの治癒を受ける。

 獄寺はシャマルの治療を受けた後、自分の知り合いにもシャマルと言う名のやぶ医者がいることを思い出し、部類の女好きで医者兼殺し屋のシャマルからは想像もつかない手厚い保護に、ギャップを感じている。

「同じシャマルでもここまで違うものなんだな・・・」

「え?」

「なんでもねぇ。独り言だ」

 怪訝そうにシャマルは獄寺を見つめるが、それよりも彼女が個人的に気になったことがひとつだけあった。

(・・・それにしても・・・)

 シャマルは、自分と同じ治癒術を用いて一護らを治療している井上織姫の能力に目を付ける。

(あの子・・・織姫ちゃんだったかしら・・・・・・あの能力は一体、何・・・!? 見たこともない術みたいだけど。回復術の類とは思うけど、あの子達の中でも特に飛び抜けて異質な術・・・私に匹敵するほどの治療速度・・・加えて、あれ程の傷を見ても物怖じ一つせずにいられる精神力・・・)

 普段はロングアーチスタッフの一員として、負傷した隊員達の治療とバックアップを全面的に任されているシャマルの興味関心を強く抱かせる織姫の奇怪な能力。それは地療術と言うにはその範疇を飛び超えており、むしろ織姫の力は、今起こっている事象そのものを否定しているかのような感じだ。

 織姫が持っている『舜盾六花(しゅんしゅんりっか)』の能力は、“盾を張って拒絶する力”であり、治療に特化したこの力の名称「双天帰盾(そうてんきしゅん)」は、盾を張った内側の対象の拒絶。つまり、対象を負傷する前の状態に戻すということだ。

 その能力もさることながら、シャマルをさらに驚かせたのは彼女の並外れた強い精神力。戦闘要員ではなくとも、その精神力の強さは最早、なのは達に顔負け。感服に値するものであることは間違いない。

「さて、大方の治療が終わったところで注目!」

 手を叩きながら重要大事は、傷の手当てを終えたばかりの一護達に呼びかけ、自分の方へと視線を向けさせる。

「ギュスターブはひとまず退けた。あの傷なら、当面の間外での活動はできないだろう。だが安心はまだ早い。あいつの執念は相当なものだ。いつ襲って来るかわからない。そこで、今のうちに対策を練っておかないといけない」

「対策って・・・そんな悠長な時間はねぇだろ?」

「大丈夫。あの傷の深さから考えても、奴が動き出せるまで最低でも1カ月の猶予がある。人間に対しては強気でいられても、同じ世界の意志による攻撃を受ければ話は違ってくる」

「ですから、我々はしばらく彼らに悟られない様に別所に移動し、力を蓄えるべきなのです」

 勇人と龍元の提案を耳に、その場にいる全員が騒然とする。

「ちょっと待ってよ! 京子ちゃんやランボ達をこれ以上危険な目に遭わせられないよ!」

「そうだ! そうだ! 京子達は何の関係も無いのだからな!」

 綱吉と了平は、元来が一般人である京子やハル、子どものランボ達が血みどろの戦いに巻き込まれることを快く思わなかった。

 しかし、リボーンが客観的な状況から二人に言う。

「気持ちはわからなくもねえが・・・オレたちはある種の運命共同体だ。生きるも死ぬも、一蓮托生・・・・・・こうなったからには、誰かを巻き込まずにいられる保障はねぇぞ」

「でも! それじゃあ・・・!」

 と、綱吉が食い下がろうとした直後。「ツナ君!」という声が聞こえ、京子とハルの二人が割り切った表情を向けて来た。

「京子ちゃん・・・ハル・・・」

「ツナ君の思ってること、すごく嬉しいよ。だけどね・・・私たちにもできることがあると思うの。未来での戦いでそうだったように―――」

「ハルたちだけが除け者なんてぜーったいに許しません! ご安心ください!! デンジャラスな目に遭うのには慣れっこですから!!」

 なのは達は、僅か14歳の中学生とは思えない京子とハルから強い意志を感じた。自分達の知らない世界で、彼らは自分達と同じか、それ以上に過酷な運命に直面しながらも強く生きて来たのだ、と彼らの会話から何となく悟った。

 綱吉は不本意ではあるが、彼女達の言うことを決して無下になしなかった。

「・・・ごめんね。また勝手なこと言って、二人の気持ち無視しようとして」

「うんうん。気にしないで。ツナ君はちっとも悪くないよ」

 無意識のうちだが、綱吉と京子の間に流れる奇妙な甘い雰囲気。

決して目に見えるものではないのだが、半数以上の者達が無自覚な二人の愛を感じ取ってしまい、それに当てられる。

「クソ。なんなんだ・・・・・・妙に虫酸が走るのはどういうことだ・・・?!」

「けっ・・・まったく最近の若いもんは羨ましいな・・・チックショー」

 恋次は今にも刀を抜きそうになっていて、傍らには舌打ちをしながらそうした甘い経験には乏しいはやてが一人ブツブツと嫉妬の言葉を呟く。

「あはは・・・・・・なんかいろいろ騒がしくなってきましたね・・・」

「騒がしいって・・・どっちのこと」

「え?」

 スバルが怪訝そうにティアナの言葉に耳を傾ける。

 おもむろにティアナの方へと振り向き、彼女が見ている視線に合わせると、逼迫した状況にも関わらず無邪気に戯れるランボがそこにはいた。

「うぎゃははは!!! 今から! ここはオレっちのお城だもんね―――!!!」

「ランボ、行儀悪イ! さわいじゃダメ!」

「だ、ダメだよ! ランボ!」

 イーピンとフゥ太が(いさ)める中、常に自分が一番という考えの元で行動しているランボは、隊舎の中を縦横無尽に走り回って騒ぎ立てる。

 なのは達が困惑し始めると、慌てて綱吉や獄寺達がランボを止めに掛かる。

「こら、ランボ! おまえこんなときに何やってんだよ!」

「このアホ牛が!! てめぇ状況わかんねぇのかよ!?」

「うっさいアホ寺! おまえなんか()ねー!」

 プチン・・・。

 獄寺の堪忍袋が切れた音が聞こえた。

 前々からランボとの折り合いが悪かった獄寺だが、その我慢がついに臨界点を突破してしまい、今までに溜めてあった怒りをすべてランボにぶつけようとする。

「てめええええ・・・!!! もう勘弁ならねぇ!!! この場で果てやがれアホ牛!!!」

 取り出したのは隠し持っていたダイナマイトすべて。導火線に火が点けば、六課の隊舎は尋常ではない被害を受けるだろう。

「ちょ!! なにしようとしてるのよアンタ!?」

「それ質量兵器だぞ!! こんなところで爆発させんな!」

「獄寺を止めろ!!」

 一護達は一丸となって、暴走する獄寺を止めようとする。

「放せこのヤロー!!」

「少しは頭を冷やさぬか、戯けが!」

「そうですよ。言葉の綾というものですよ、きっと!」

「ですから、落ち着きですよー!」

「でええい!! オレを止めるな―――!!!」

 何とか、導火線に火が点く前に獄寺の暴走は収まった。

 一時はどうなるかことかと思われたが、結局綱吉が上手い具合に獄寺を説得し、リボーンがランボに手ひどい制裁を加えて、互いに非があったことを素直に認めるということでこの問題は決着した。

 下手をすれば一触即発もままならないこの状況を、傍観していた世界の意志達三人は、改めて彼らにこれからの予定を説明する。

「さぁ話を戻そう。ひとまずみんなでここを離れよう。幸いにもギュスターブはすべての世界を手に入れた訳じゃない。生き残ってる世界はそれなりにあるから、そこに移動して対策を練ろう」

「問題は、その世界をどこにするかだけど・・・」

 三人は今一度協議する。一護達全員を緊急避難させると同時に、敵の襲撃を気にすることなくじっくりと対策を練れる場所が彼らにとっての理想だ。その理想を果してくれる世界について色々話し合う中、大事が龍元を見て閃いた。

「そうだ。龍元さんの世界はどうですか?」

「リュミエールへ? なるほど、それは名案かもしれませんね」

「確かに、あそこなら安全かもしれません」

 三人の意思が一つにまとまった。

 一護達の方へと振り返り、大事が代表して行き先を発表する。

「行先は決まったよ。みんなでリュミエールに行くことにしたから」

「リュミエール?」

 それは聞きたことのない世界だった。

 時空管理局という世界を管理することを本業としているなのは達にとっても、リュミエールという世界を聞くのはこれが初めてのことだった。

「なんなんだよ、そのリュミエールって・・・?」

 山本が手を挙げて率直なことを尋ねると、龍元が答える。

「形の上ではありますが、一応は私が管理している並行世界でして・・・私にとっては故郷の様なものです。自分で言うのもなんですが、とても美しい世界ですよ」

「補足すれば、リュミエールには君達と同レベル、それ以上の戦力も存在している。いざというときには彼らにも協力を仰ぐよ。それに、いい修行相手もなるしね」

「リュミエールに行きたい人!」

「「「「はーい!!!」」」」

 大事がアンケートを取った直後、真っ先にランボとイーピン、フゥ太、それに釣られる形でヴィヴィオが元気いっぱいの返事と一緒に手を挙げた。

「はい賛成多数で決定!」

「わけもわからず手を挙げさせるな!」

「言っとくけど賛成してるの子どもだけだからね!?」

「ヴィヴィオも、ダメだよ。興味本位で手なんか挙げちゃ」

 不安と焦り、その他諸々の感情で一杯の一護達は、世界の意志達が避難先として提供する【リュミエール】という世界に信用が抱くことができなかった。

 そこで、重要大事達は実際のリュミエールを見て貰う方が早いと考え、全員が収まる様に転送魔法陣を展開させる。

「な、なんだ!?」

「これって・・・転移魔法!」

「論より証拠と言う言葉あるでしょ?みんなが思ってるような怖い所じゃないってことが、直ぐに分かるよ」

「僕ははじめてですね、リュミールに行くの」

「そうでしたか。ではこの機会に是非とも、色々見て行ってもらえるとうれしいです」

 すべての準備が整った。

 世界の意志達三人は、三つの並行世界で生き残った貴重な戦力と一般人数名を伴い、座軸をリュミエールへと合わせて、転送を開始する。

「いざゆかん、リュミエールへ!!」

「「「「「「「「「「うわああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」」」」」」」」」」

 まばゆい光とともに、一護達は魔法陣の中へと吸い込まれ、そして六課から姿を消す。

 

 

 夜御倉龍元が管理を任されている並行世界に、リュミエールと呼ばれる大地が存在する。

 現地の言葉でリュミエールとは、【光の大地】を意味しており、地球やミッドチルダとは全く異なる気候条件、原住生物が暮らしている。

 

 

「「「「「「「「「「うわああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」」」」」」」」」」

 リュミエールの空に突如として現れる巨大な転送魔法陣。

 魔法陣に吸い込まれた一護達はこの魔法陣を通って、訳もわからぬままリュミエールへと飛ばされてきた。

「いっで!」

 女性達は丁寧に扱われる一方、男性達への扱いはぞんざいだった。

 打ち所が悪かったのか、一護は尻を押さながら何かの上に乗っかっている。

「いって~な・・・! ったく、なんなんだよまったく「すみません一護さん・・・///」

 掠れるほどの小さい声が一護の下から聞こえてきた。

怪訝そうに一護が足元を覗くと、一護の下敷きになった綱吉が涙目を浮かべながら「早く退いてください~」と懇願する。

「でああああ!! だ、大丈夫かツナ!?」

「ううう・・・オレっていっつもこんな役回りなんですよ・・・///」

「てめーオレンジ頭!!! 10代目を下敷きにするとはどういうことだ!?」

「ワザとじゃねって!! ホントだからっ!!」

 綱吉=命と考えている自称ボンゴレX世(デーチモ)の右腕を主張する獄寺は、凄まじい剣幕を一護に向ける。

勿論、一護には全く悪気は無かった。単なる不可抗力だったということを必死に訴えるが、頭に血が上りやすい上に綱吉のことになる周りが見えなくなる獄寺には何を言っても無駄だった。

「てか、着いたのか・・・リュミエールに?」

「みたいですね・・・・・・」

「うわああ! 見てよ、あれ!!」

 機動六課メンバーを発端にして、死神組とボンゴレファミリーは、目の前の光景に目を見張る。

 想像を絶する美景。

 深緑の木々が風に揺られるたびに、仄かな薫風が漂う。

 何よりも特筆すべきは、どこから見ても一目でわかる天を劈く巨大な樹木。

「あれは世界樹(せかいじゅ)というものです。この世界の命の源で、母なる大地の象徴です」

「全長6000メートル以上・・・あの神々しい輝きがなんとも美しいですね」

「でも生憎観光に来たわけじゃないからね僕たち。さぁ、みんな付いて来てー! これからお世話になる人達にごあいさつに行こう!」

 大事達を先頭に、一行は彼らの後ろに付いて移動を始める。

 と、移動を始めて間もなく、ハルがある物を発見、吃驚する。

「ハヒ! なんですかあれ!?」

 全員がハルの見ている方に目線を合わせると、草原の彼方で群れを成している恐竜のような装飾のある頭部を持つ生き物が目に映る。

「あれってまさか・・・!」

「恐竜!?」

「ああ。アプトノスですよ。適応力が高くて、様々な気候でも生きられるモンスターですよ。刺激をしなければ至って大人しい生き物なんですが・・・あれから取れる霜降り質の肉は非常に美味ですよ」

「食えるのか!? あれが・・・!」

「はい」

 恐竜の姿をした生物自体を生で見たことは無い一護達にとって、食べられるという言葉が加わることで、驚愕が一層高まる。

 しかし、リュミエールに住む生き物は何もアプトノスのようなものばかりではない。立て続けに変わった生物を、道中見かけることになる。

「ツナ君、あれってシカさん?」

「でも、角がすごく大きい!」

 森の中を歩いていると、左右の角が極端に大きく発達したシカが一行の前を横切った。地球上で言えば、氷河期に絶滅したオオツノジカを彷彿とさせる。

「ガウシカといいます。それより、上にはもっとすごいものが」

 龍元が頭上を指さすと、森の上には巨大な飛翔生物が飛び交っている。

「なんだあれは?」

「竜です」

「「「竜!?」」」

「フリードさんと同じように、この辺りには竜が数多く生息しているんです。“龍の谷”と呼ばれる場所が近くにありましてね。さぁ、もう直ぐですよ」

 カルチャーショックを受ける者がほとんどだった。

 リュミエールという世界は、一護達にとって、何もかもが神秘と驚きに満ちたところ。これが一時避難ではなく観光目的だったら、どれほど今の状況を楽しめたことだろう―――

 

 歩きはじめて三十分後。

一行がたどり着いたのは、“桜華国(おうかこく)”という名で呼ばれる建国2000年を誇る大国。王制国家であるが、国王とは別に首相を置いている。

また、国家成立に携わった3つの家系・三大貴族と呼ばれるものが存在し、環境大臣・国防大臣・神官の三役の地位に代々就いてきている。

一年を通して春の陽気のような暖かさがあり、多種多様な動植物が現存する環境で、国名にもある様に桜が咲き誇っている。

国・生活・社会・環境といった分野で非常に安定した国である。

各々が見事なまでに咲き誇る桜の数々に目を奪われる中、大事達は木製の塀に囲まれた家の前に立ち止まる。

「ここです」

周りの家々と違って、日本の武家屋敷を思わせる立派な邸宅だった。

 一護達も思わず、おー! っと言ってしまう。

「デッケー家だな!」

「ルキアん家よりもデっかいかもな」

「戯け。我が家と比較するな」

「少々お待ちください。家の者に事情を説明して来ますので」

 龍元を始め、世界の意志達は先に屋敷の中へと入り、事情説明のためにその場を離れる。

 その間、一護達は屋敷に住んでいるがどんな人物なのか、単純にそのことが気になる。

「どんな人が住んでるのかな?」

「これだけの豪邸だ。相当に格式の高い人だとは思うよ」

「これ・・・表札みたい・・・」

 ぼっそとした声で呟いたのはクロームだった。

屋敷の門に書かれた表札の文字を見ると、黒い字で“夜御倉家”と書かれていた。

「なんて読むんだ? 夜に御・・・?」

「『やみくら』じゃないか?」

「あれ? それって龍元さんと一緒の・・・?」

「どういうことかしら?」

 偶然なことに、夜御倉という名字は一護達を導く世界の意志のひとり、夜御倉龍元と同じ苗字だった。これが何を意味しているのかはわからないが、単なる偶然として処理をするには些か腑に落ちないことでいっぱいだった。

 その直後、屋敷の中から龍元達が現れる。

「みなさん。お待たせしました。どうぞお入りください」

入場を許可された一護達は、夜御倉家の邸宅の中へと入って行く。

木製の門をくぐると、案の定立派な屋敷と手入れが行き届いた趣のある庭があった。それを見た一行はついつい感嘆し、周りの景観に見とれてしまう。

「庭も広いな~」

「それに手入れも行き届いている」

「極限どんな奴が住んでるのか気になってきたぞー!」

一護はおもむろに玄関の戸を開き、一番に屋敷の中へと入り込む。

「お邪魔しまーす」

屋敷の中は掃除が行き届いているのか塵一つ無く、内装も貴族と言うにはあまりに質素なものだった。

そこに現れたのは―――

「ようこそ、みなさん」

「「「「「え!?」」」」」

「遠いところをわざわざ。お越しいただきました」

 丁寧な言葉遣いと気品あふれる絶世の美女が出向えてくれたかと思えば、よく見ると容姿は八神はやてに酷似していた。

「な・・・! こ、これは・・・!?」

「「「「八神部隊長そっくり―――!!」」」」

 まるでドッペルゲンガーを見ているかのような気分だった。

はやてが自分と瓜二つの顔を持つ者の存在に驚愕する中、目の前のはやて似の女性は朗らかに微笑み自己紹介をする。

「初めまして。夜御倉(やみくら)はやてと申します。この夜御倉家の当主を務めさせてもらっております」

「と、当主!?」

「なんかすごい人が出て来たんですけど・・・!」

「でも、まさか・・・はやてちゃんと瓜二つなんて・・・!」

「そうかぁ? 瓜二つではないだろう」

 見解の相違が発生した。

 そっくりだと主張するなのは達とは違い、恋次は入念に二人のはやてを観察し、出した結論は―――

夜御倉(こっち)の方が八神(そっち)の方よりいい女だぜ」

「ムカ・・・!」

 女性として明確なる侮辱を受けたはやては額に血管を浮かび上がらせる。

「向こうのはやてと違って、リュミエールのはやての方が大人の女の魅力満載だな」

「ふが・・・///」

 だが、恋次の言葉に便乗したリボーンの台詞には怒ることができなかった。

何しろリボーンは、中身は大人でも外見は立派な赤ん坊。はやては赤ん坊に邪気を向けることができなかった。

「あ、赤ちゃんにまで馬鹿にされるって・・・・・・なんやねんもう・・・///」

 負のオーラをまとったはやては、玄関のタイルに手をつき絶望する。

「は、はやて・・・」

「なんか、かわいそうになってきたな・・・」

玄関を上がり廊下を進んでいくと、十八畳はある大きな部屋に案内された。

「こちらへどうぞ」

そこは縁側を挟んで庭に面しており、美しい桜並木と大きな池、蔵のような古い建物が一望出来た。

「フレックス。紅茶とお茶菓子を用意してくれる?」

「畏まりました、はやて(L)様」

 はやて(L)は近くに立っていた執事服に身を包んだ白髪に深緑の瞳の老人に紅茶のサービスを要求し、老人はそれに応じて部屋を出ようとうる。

「ん?!」

その際、襖側の席に座っていた綱吉は目撃した。老人の耳が自分達とは違い異様に尖っていたことを。

「あ、あの! さっきの人・・・?!」

慌てて綱吉は、はやて(L)に老人の素性を尋ねる。

「ああ。フレックス・レイヤーは我が家の筆頭執事です。エルフと言う種族なんですけどね」

「エルフだと!?」

「知ってるのか獄寺?」

「たりめーだ! オレは世界の七不思議を追う男だ! エルフっつったら、雪男にネッシーを始めとするUMA(ウーマ)と並ぶ世界の謎だー!!」

 獄寺は、無類の珍獣オタクだった。それだけならまだしも、世界各地で報告されている未確認飛行物体やそれに付随する世界の七不思議に取り憑かれた、ちょっと可愛そうな子でもある。

 意気揚々とエルフについて語る獄寺を多くの者が白けた目で見る中、彼の正面に座っていた石田がメガネの位置を直してから―――

「エルフとUMAを一色単に扱うのは、正直どうかと思うけど・・・」

「んだとモヤシ眼鏡! 文句あんのかよ!?」

「だ、誰がモヤシ眼鏡だ!! 失礼な子だな!」

 屈辱的な渾名を付けられた石田は、獄寺といがみ合い一触即発状態に。

「止めぬかタコ(ヘッド)!」

「石田も大人気ないぞ」

 機転を利かせて、了平と茶渡が仲裁に入り、最悪の事態は何とか避けられた。だが結局両者は最後まで目を合わせることは無かった。

 そんな中、なのはは大事達三人に声を掛ける。

「あの・・・私たちはここに滞在することになるんですか?」

「そうだよ。ここでなら、ギュスターブ一味に打ち勝つための対策を十分に練れる。それになにより、平和な環境にいることによって心を落ち着かせ、鬱積(うっせき)した気持ちをリフレッシュさせることが出来る」

「ご安心ください。この屋敷の人達もそうですが、私が知る限り一部を除いて、この世界の人達は皆親切ですから」

 龍元が笑顔を浮かべながら説明すると、なのは達は兎も角、マフィアであるボンゴレサイドの反応は微妙だった。

「本当に信用できんのかよ?」

「なにものも、信じることから生まれると思いますよ」

「マフィアの世界はそんな甘くねぇけどな」

「リボーン、お前な!」

「まぁでも。あんたの言う通りもしれねェな。信じることから始まるなら、信じてみるか。お前らを信じたように―――」

 一護のこの言葉が切っ掛けとなり、一先ずのところ全員は、世界の意志達とこの屋敷の人間を信じることにした。

 

その日の夕方。綱吉は庭先で一人黄昏(たそがれ)ていた。

「ふう~」

「どうしたよ、ツナ」

 溜め息をついていると、綱吉のことが気になった一護が歩み寄ってきた。

「ああ。一護さん」

「そんな溜息ばかりついてちゃ、幸せが逃げるぞ」

 一護は綱吉の隣に腰を下ろして、彼と一緒に沈む夕陽を何となく見つめる。

 すると、綱吉は不安げな表情で一護に語り出す。

「なんというか・・・とんでもないことになっちゃったな~と思って」

「ああ。そうだな」

「あの! 聞いた話だと、一護さんもオレたちみたいにこんな危機を何度も経験してるんですよね?」

「まぁ・・・それなりにな」

 それを聞いた綱吉は、自分の右手を見つめながら、若干震えた声で呟く。

「ときどきなんですけど・・・オレ、怖いんですよ。自分がしていることが・・・」

「え」

「オレは今でもマフィアのボスになるつもりはありませんし、なりたくもない。でもオレの意思とは無関係に外側から敵が攻めてくる。そのせいで大事な人達が傷つく。敵を倒さなければ自分達が生き残れない。こういう戦いの因果が・・・・・・すごく悲しくて・・・遣る瀬なくて・・・」

「ツナ・・・・・・」

 一護は綱吉の言わんとしていることを、痛いほど理解した。彼もまた綱吉と同様に、幾度も自問自答を繰り返した。

 悲しい思いを何度繰り返しておきながら、なぜ自分は戦っているのか―――と。

「気持ちはわかる。でも、これだけは分って欲しい」

 そんな長年の疑問を、一護は様々な戦いを通じてようやく自分なりの答えを模索し、それを綱吉に伝える。

「戦わない勇気は必要だが、戦わないこと全てが勇気とは言えない。俺たちは、自分にとっての大切なものを護るためには、時には戦わないといけない。そうじゃないと、自分の大切なものを根こそぎ持ってかれちまう。あのギュスターブみたいな連中にな」

「・・・・・・」

 言うと、一護は立ち上がり、決意の眼差しで空を見る。

「取り戻そうぜ。俺たちの日常を。俺たちの世界を」

 この力強い言葉に、綱吉は勇気をもらった。

そして、一護の言葉に便乗し立ち上がってはっきりした声で言う。

「―――はい!」

 

夕餉の時を迎えた。

夜御倉家では一護達をもてなす為の豪勢な料理が作られ、大広間に集まった一行はこの家の主にして、はやて(L)の夫である男から厚く歓迎の言葉を受ける。

「よく来てくれた。俺は夜御倉シン。はやて(L)の夫だ。世界の危機と聞いては、国家騎士団(こっかきしだん)として黙ってはいられない。決戦に備えて、十分に英気を養ってくれ」

 シンの言葉を聞きながら、各々は食べることに夢中になっている。

 そんな砌、エリオとキャロはシンが口にした国家騎士団というワードが気にかかった。

「国家騎士団、ですか?」

「あの、シンさんのお仕事って・・・」

「ああすまない。俺はこの世界の治安を維持する世界国家騎士団の2番隊隊長だ。人は俺の事を“不動(ふどう)龍騎士(りゅうきし)”と呼んでいる」

「随分大仰な名前だな」

「しかし、あの瞳の輝きは本物だと思うが」

 シンを始め、リュミエールには世界国家騎士団と呼ばれる治安部隊に属している騎士が多くいる。彼らはこの世界に生まれた災厄から人々を守り、その原動力はたった一つの理念に基づいている。

 “目の前の人々を命懸けで守れる事”―――それが、戦う理由のすべてである。

「さぁ、みなさん。どんどん食べてくださいね」

「はやて(L)様と一緒に、我々が力の限りを尽くしました」

 厨房から運ばれてくる多種多様な料理の数々。はやて(L)とフレックスら屋敷の食客が作った料理に、一行は舌鼓。

「おおお!!! 極限箸が止まらんぞー!!」

「ぎゃははは! ぜーんぶランボさんのものだもんねー!」

「ランボ、わがままダメ!」

「ぼくにもちょうだいよ、ランボ」

「ママ! これ本当においしいよ!」

「うん。ほんとうにおいしいね」

 笑顔が溢れかえる食卓。

 彼らの心に、失われ欠けた希望という名を持った一筋の光明が差しこんだ。

 そんな食事の中で、綱吉はエリオの食欲に驚かされていた。

「エリオ君・・・よく食べるね」

あり得ないくらいの食欲。明らかに3人前を平らげている。それでもなお、エリオの食欲は底を見せない。

「前線は食べないと持たないんですよ」

 と、エリオは言うが、やはり綱吉には到底理解し難いものだった。エネルギーを激しく消耗しても、吸収限界というものが必ずあるのだ。エリオはその吸収限界を忘れたかのようにどんどん食べ進めるのだから。

 同じように、怪物の様な胃袋を持つ少女がいた。

 スバル・ナカジマだ。

「君も随分と食欲旺盛なんだね・・・」

 小食な石田の斜向えに座るスバルは、エリオ以上に山盛りの料理を瞬く間に口に入れては、恐るべき速さでそれを消化していく。

「雨竜は随分小食なんだね?」

食欲を逆に失いつつある石田に問いかけられたスバルは、口に物を含んだ状態で言う。

「石田はシロアリみたいに貧弱だからな! あっ、間違った。モヤシ眼鏡って言うべきだったか」

「なんだと!?」

 一護が軽くからかっただけで、石田は彼らしからぬ態度でカッとなる。余程先ほど獄寺から言われた渾名が気に入らなかったのだろう。

「は!!」

そのとき―――重要大事の瞳が唐突に大きく開かれる。一護達は挙って大事へと視線を向ける。

「ど、どうした!?」

「何か感じたんですか・・・?」

「まさか、ギュスターブ!」

 世界の意志である彼が危険を感じたのであれば、今の状況では九分九厘ギュスターブが関わってくる。

「これは・・・・・・」

空気がピリピリとする。大事の次なる一声に注目する一護達。

そして、大事はゆっくりと立ち上がり――――――

「トイレが近い~~~///」

「「「「「「「「「「だああああああああああああああ!!!!」」」」」」」」」」

腹痛を起こして、そのまま屋敷のトイレに直行した。これには、一護達も転けるしかなかった。

「紛らわしいことすんなよ!」

「緊張して損した気分・・・」

 

夕食が終わると、一護達は入浴準備を始める。

「さぁ! 風呂に入るか」

「外に一般の方も使える大浴場がございますので、是非ともそちらをご利用ください」

「へぇ~、そんなものまであんのか。スゲーな!」

「おっきいお風呂、ランボさん大好きだもんね!」

「じゃあ、みんなで行ってみようか」

着替えと必要なものを持って、一行は世界国家騎士団の騎士と一般利用者が使える大浴場へと向かった。

「うわああ! すごーい!」

「リッチです~~~!」

「中世の歴史そのものを彷彿とさせるね」

国家騎士団の寮内部は、地球で言うところの中世の歴史を色濃く反映した作りとなっており、すべてにおいて清潔感溢れるものだった。

内部構造に感嘆しながら一行は今回入浴する大浴場へと向かう。

浴室の前に到着すると、ランボは元気いっぱいに走り出す。

「うぎゃぎゃ!! ランボさん、一番のりだもんね―――!!!」

「待てアホ牛!!」

 獄寺は女湯の暖簾を潜ろうとするランボを塞き止め、彼の牛柄の服を掴んで持ち上げる。

「どこにいくつもりだ?」

「放せアホ寺!! ランボさんは女湯がいいもんねー!」

「ざけんな! てめぇはオレたちと一緒に入るんだよ!!」

「やだやだ!! 京子やハルと一緒に入るんだもんね!」

 子どもらしい駄々をこねるランボだが、獄寺は決してランボの行為を許さない。一見すると理不尽なようにも思えるが、獄寺なりにランボのことを気にかけていた。

 だが、そうは思わないのが女性陣の見解だった。

「獄寺さん! ランボちゃんがイヤがってるじゃありませんか?」

 真っ先に獄寺を諌めたのは、犬猿の仲の様で割と獄寺とは相性がいい三浦ハル。彼女はランボをいじめる獄寺とは何かにつけて対立を起こしていた。

「アホ女はひっこんでろ!」

「ハヒ! 誰がアホなんですか、誰が!?」

「ごちゃごちゃウッセーンだよ! こいつは男湯に入れる!」

「やだー!! ハルたちと入るんだもんねー!!」

 泣きながらランボは獄寺の腕の中で大暴れ。強引に獄寺の腕の中から脱出を図ると、近くにいたハルの後ろに隠れる。

「無理に入れるのはよくないよ。私達は全然構わないから」

 これを見て、なのは達もランボに同情して獄寺に食い下がる。

「いいや、ダメだ! 男は男! 女は女できっちり分けるべきだぜ!」

「子どもだからと言って甘えさせるのは良くないと思うな」

 どういう訳か、石田も獄寺に味方をしてきた。異様なまでにメガネの位置を直しながら、目を光らせて―――

「え~。どうせなら仲良く入った方が楽しいじゃないの?」

「エリオ君も一緒にどう?」

「えええ!!! ちょ、僕は別にそんなつもりは・・・///」

 キャロの何気ない言葉にエリオは面を喰らってしまった。彼は以前にも、出張任務の時に女湯に入ったことがあったのだ。

「そうだよ。折角だから、エリオも一緒に入らない?」

「今のうちにたくさん見といた方がいいわよ」

 と、女性陣は寛大な措置をとってくる。エリオは顔を紅潮させると、何を言って返していいのかわからなくなった。

「待てーい!! お前らぁ!!」

 そんなエリオの助け舟となってくれたのが、常識人の一護と綱吉だった。

「その発言は些かセクハラもんだったぞ!?」

「5歳児ならともかく、エリオ君10歳ですよ!? 流石にそれはどうかと・・・!」

 フェイトは不満げに「え~」と声を漏らすが、その横であることを思いついたキャロが、満面の笑みを浮かべながら提案する。

「じゃあ、私が男湯に入るのは・・・♪「ダメに決まってるでしょう!」

即答でエリオに却下されてしまった。

「え~、どうして?」

「どうしてって・・・なにその確信犯的な目は?!」

「あんたのとこの子どもはどういう教育を受けているんだ?」

寡黙な茶渡が珍しく口を開いたかと思えば、吃驚した様子でフェイトに尋ねる。

「どうって・・・・・・私間違った育て方したかな?」

「だあ~~~もうめんどくせ~~~!」

いつまでの収拾がつかないことに苛立った恋次は、手っ取り早く事態を解決するための強硬手段に打って出た。

「うぎゃ!」

「うわあ!」

「恋次!?」

半ば強引にランボとエリオを両手に抱えると、恋次は足早に男湯へと入って行く。

「下らねぇ議論してても、時間の無駄だ。いつまで経っても風呂に入れねーからな!」

「コラー! 離せ赤パイン!!」

「誰が赤パインだって、誰が!?」

 恋次に連行されていったランボは、最後まで女湯に入ることを望んで抵抗した。その一方でエリオは、内心凄くホッとした。

「あ~あ・・・いっちゃった・・・」

「折角一緒に入れると思ったのに・・・」

「おまえらな・・・」

 女性陣が考えていることが、一護達には全く理解できなかった。

 

今回一護達が使用する露天風呂は、本来騎士達が使う西洋風のものではなく、寮から1・2分歩いた所にある一般人も入れる屋外浴場で、2番隊隊長の夜御倉シンの一声で、貸し切ることができた。

 脱衣を始める一護達。

すると、了平が茶渡の鋼の肉体に激しい興味と関心を抱く。

「おお!! 極限に鍛え上げられた素晴らしい筋肉ではないか!!! 是非とも我がボクシング部に入らんか!?」

「いや・・・それは無理だろ・・・」

「お兄さん・・・・・・茶渡さん、高校生ですよ」

 と、冷静にツッコミを入れる綱吉のことを、エリオは何故か羨ましそうに凝視する。それに気づいた綱吉が「どうしたの?」と尋ねると、エリオは率直に言う。

「えっと・・・ツナさんもよく見ると結構鍛えてますよね」

「え? そうかな・・・」

 綱吉は意外とも言うべき台詞を貰った。

 彼自身はさほど気にしていなかったのだが、一護達の評価はそれなりに高かった。

「最初なよなよしてる奴かと思ったけど、これが意外とやる奴だってわかったぜ!」

「あの(ハイパー)死ぬ気モードは、並みの力ではなかったよ」

「あはは・・・・・・どうも・・・」

(褒められてるんだよね・・・一応)

 褒められ慣れていないせいか、綱吉は素直に喜びを表現することができなかった。

 脱衣を終えた男達の中で、年少のランボが居の一番に風呂場へと向かう。

「ランボさん、いちばんだもんねー!」

「待て! 足滑らせるぞ!」

 と、ランボを気遣って恋次が止めようとした瞬間―――

 ツルッ!

「うおおおおおお!!!」

恋次は舐めるように綺麗に磨かれたタイルに足を滑らせ、豪快に頭からダイブする形で転倒した。

「れ、恋次さん!?」

「けっ。自分が足滑らしやがった」

「汚ねーケツを向けるな、ケツを!」

 ちょうど、尻の部分が一護達に見えるように転倒したせいで、恋次はこれ以上ない辱めを味わうこととなった。

 

 ポカ~~~~ン・・・・・・。

 

「あ~~~・・・きもちい~~~♪」

 戦いの疲れが一気に取れる。

 戦士達は束の間の休息に心から満足した。

「こりゃいいぜ! こんな露天風呂ははじめてだ!」

「眺めは抜群だし、お湯加減もいい感じだし、最高っすねっ!」

「あんな戦いの後とは思えないな」

「ですね~」

 露天風呂でゆっくりとお湯に浸かりながら、一護達は澄んだ夜空に浮かぶ星空を見上げながら、感傷に浸る。

 獄寺も溜息を漏らし湯の効能を全身で体験する。そんな彼の前を、ランボが尻を突き出しながら泳ぎ回る。

「ランボさんは、人魚だもんねー!」

雰囲気を壊された獄寺は、泳ぎ去るランボを怒鳴りつける。

「おめぇはアホ牛以外の何ものでもねえ!!」

「ランボさん、もぐるもんねー!」

 自由奔放なランボは、獄寺の怒号を右から左に受け流すと、一人潜水を始める。5秒経過して、水しぶきを勢いよく上げて浮かび上がる。

「ぷっはー!! どうだ、アホ寺? ランボさんは世界一だもんね!」

「けっ。それぐらいオレでもできるぜ」

「みんなで比べっこしよーぜ!」

 言いながら、何気に山本は笑顔で綱吉の肩に手を触れた。

「ええぇ!? お、オレもやるの!?」

「おもしれぇ。やってやろうじゃねぇか」

「俺はいいよ・・・そんなガキみたいなことに興味ねぇし」

冷めた態度をとる一護だが、恋次は彼の心を逆撫でする言葉をぶつけて来た。

「なんだ一護? 負けるのか怖いのか?」

「・・・ああ?」

 見え透いた挑発だということは理解していた。だが、一護は何分短絡的な性格だった。

「俺もやるぞチクショー! 誰がいちばん長く潜ってられるか競争だ!!」

「えええ―――!!」

 結局綱吉を巻き込む形で、男全員が潜りっこをすることになった。

「潜りっこだもんね! イチ、ニの・・・サン!!」

 ランボの合図とともに、綱吉以外の男達が一様に潜水を開始。泳ぎと息継ぎが得意ではない綱吉は周りの状況を見て終始困惑する。

「あ・・・オレは・・・息続かないしな・・・「ハヒ! 織姫さんのおむね、すっごく柔らかいです!!」

「な///」

 突如として、壁で隔たれた女湯からハルの声が聞こえた。

 綱吉にとっては刺激の強い言葉だったが、その後も女性陣の破廉恥満開のトークは過熱する。

「本当に大きいよね」

「こりゃ下手したら、フェイトちゃんよりも大きいんやないの?」

「え・・・///そ、そうかな・・・?」

なのはやはやても、織姫の巨乳には心底強い関心を抱いている。その事に些か羞恥心を覚える織姫。

リボーンは何も言わないが、綱吉が非常に興奮していることは見抜いていた。案の定綱吉は、行き場のない胸の高鳴りにしどろもどろしている。

「何か・・・オレは聞いてはいけない事を聞いてしまったような・・・///」

 すると、その時。

ランボは湯船から出ると、女湯とを隔てる壁を一心に上り始める。

「へへーん!」

「あ、ランボ!?」

 綱吉がランボの行動に気づいた直後、湯の中から一護達が挙って顔を出す。

「ぶっはー! お湯飲んじまったぜ!」

「なんなんだよ、一体?! ・・・って」

「ら、ランボ!!」

 ランボの行動に男達の視線が向けられる中、壁の頂まで上り切ったランボは、女湯で寛ぐ女性陣に声を掛ける。

「京子! ハル! イーピン!!」

「あれ? ランボ君」

「はひ!? ランボちゃん、危ないですよ!」

「ランボ、のぼるのダメ!」

「そんなところにいたら落ちちゃうわよ」

「早く乗りなきゃダメだよ!」

「なあああ!? あのガキ・・・ひとりだけ何してやがる!?」

「アホ牛! さっさと降りてこーい!」

 常識はずれなランボの行動に怒りを覚える反面、子どもであるランボのことを羨ましくも思う男達の呼びかけに対し、ランボはあかんべいを決め込む。

「ベー! ランボさんは、自由人なんだもんねー」

「なにが自由人だよ・・・もう我慢ならねぇ! 俺が連れ戻す!」

 恋次がランボを止めに入ろうとした途端―――

 なぜか了平が恋次の腕を強く握りしめ、彼に向って言って来た。

「ちょっと待てくれ恋次殿! そう言ってどさくさに紛れて京子の体を見るつもりじゃないだろうな!?」

「お、お兄さん!?」

「はぁ!? なんで俺がそんなことしなきゃならないんだよ!? 大体、チュー坊の身体になんざ興味ねぇよ!」

「貴様ー! 京子を馬鹿にするつもりか!?」

「してねーだろ! お前ちょっと異常だぞ!」

 シスターコンプレックス全開の了平のお門違いな怒りに対して、恋次は困惑しながら彼を何とか説得しようと試みる。

 このやりとりは、壁を通じて女湯まではっきりと届いていた。

「なんか・・・男湯がやけに騒がしいですね」

「気にするな。男という生きものはみなそうだ」

「なんでだろう・・・ルキアさんが言うとすごく説得力があるのは・・・」

「私たちの倍以上も生きてるからじゃないの・・・?」

 外見上は10代前後に見えるルキアだが、死神は現世で生きている人間以上の寿命を持っており、既に彼らの10倍は年を取っている計算になる。

「ほら、ランボ君! ちゃんと下りないとダメだよ」

「ランボ! 降りて!」

 その後何どもなのは達が説得を試みるも、ランボは塀から降りようとはしない。

「うぎゃはははは!! いい眺めだもんねー! おっぱいがそこらじゅうにいっぱいだもんねー!」

「「なあ///」」

 この単語に真っ先に反応した綱吉とエリオは、途端に沸騰してしまい、気を失ってお湯の中へと沈んでいった。

「つ、ツナ!?」

「エリオも!?」

「やれやれ。まだまだお子ちゃまだな」

 リボーンが言うとかなりシュールな事の様に聞こえるかもしれないが、綱吉とエリオが呆れるほど純な性格であることも致し方ないことだった。

「お!」

 その直後、女湯の方でふくよかな女性の胸の観察をしていたランボが、なぜかヴィータの方を凝視する。

「あ?」

 ランボの視線に気づいたヴィータが、額に汗を浮かべる。

 そして、ランボはヴィータの平面上の胸を指さし子供ながらに残酷なことを呟く。

「ペチャパイ!! ペチャパイだもんねー!」

 ブチン・・・。

「てめぇぇぇ!!! このクソガキィィ―――!! そこ降りて来い!!!」

 貧乳であることを罵られ、怒り狂ったヴィータはグラーフアイゼン片手にランボに殴りかかろうとする。スバル達は咄嗟に彼女の行動を塞き止める。

「ヴィータ副隊長!! 落ち着いて!!」

「子どもの言うことですよ!? 大目に見てあげましょう!」

「ウッセー! 人をペチャパイ呼ばわりしやがってチクショ~!」

 

 

 リュミエールに拠点を移した、死神・マフィア・魔導師組の新たな物語が始まる。

 世界の存亡を懸けた戦いに勝利し、元の世界での日常を取り戻すことが出来るのか?!

 

 

 

 

 

 

参照・参考文献

原作:久保帯人『BLEACH 21巻』 (集英社・2006)




登場用語
アプトノス
【鳥盤目 鎚尾亜目 地竜下目 トノス科 全長:約801cm 全高:約248cm 足の大きさ:約55cm】
草食性のモンスター。ハドロサウルス科(ランベオサウルス亜科)に属する恐竜のような装飾のある頭部を持つ。群れを成して生活する。適応力が高く、極端な気候の地域(雪山や凍土、火山)を除く広範囲にわたって生息している。体は大きいが体力がなく臆病で、飛竜が現れたり、群れの誰かが狩られたことに気づくと一目散に逃げていき、中には尻尾や頭突きで反撃してくるものもいるが、それはあくまで逃げた他の個体を生き残らせようとする行動である。群れにはサイズが一回り小さい子供も存在する他、リーダー格の巨大な個体も存在する。霜降り質の肉は非常に美味であり、ハンターのみならず、他のモンスターからも食料として狙われる。また、飼いならしやすい種族のため、荷物を運ぶなど、家畜として利用されている姿も見られる。
ガウシカ
【偶蹄目 ガウシカ科 全長:約250cm 全高:約242cm 足の大きさ:約25cm】
雪山に生息し、左右に大きく発達した角を持つ、オオツノシカに似たモンスター。普段はおとなしいが、危害を加えられると突進したり大きな角を振り回して攻撃してくる。上質な角は家の装飾等に珍重され、保温性の高い毛皮は防寒着の材料に適している。

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