死神×マフィア×魔導師 次元の破壊者   作:重要大事

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魔法使いは公務員

「お前がボンゴレX世(デーチモ)・・・沢田綱吉か?」

 不意に、第三者からの声が聞こえてきた。

 綱吉と京子が声のした方に目を向けると―――黒いジャケットにレザーパンツ、首からジャラジャラとチェーンをぶら下げた二枚目の男が立っていた。

 男は不敵な笑みを浮かべながら、二人の事を見ている。

「誰だ?」

「俺はギュスターブ。世界の意志だ」

「世界の意志・・・だと? そいつがオレに何の用だ?」

「この世界のすべてをいただきに参上した」

「なに?!」

「どういうことですか?」

 ギュスターブの言葉に耳を疑う綱吉と京子。

「世界には色々と面倒な力を持った連中がいるんだが、お前はその中の一つだ。よってここで今―――」

 左手を掲げると、ギュスターブは黄土色に輝くチェーンを出現させ、それに炎を灯す。

「その命、貰い受ける」

 男の()は本気だった。

 綱吉は京子に危険が及ぶことを考慮して、彼女を下がらせようとすると―――

「ツナ!」

「10代目!」

「京子!!」

 地獄で仏と言わぬ状況となった。離れ離れになっていた獄寺達が綱吉と京子と合流を果たした。

「大丈夫か?!」

「京子ちゃん! 御無事でしたかー!」

「京子! 怪我はないか!!」

「うん」

 了平を始め、ハルやクロームらは京子が怪我なく無事な姿でいることが一先ずの救いだった。

 だが状況は至って最悪だ。綱吉と合流を果たした獄寺と山本は、眉間に皺を寄せながら、殺気に満ち満ちた眼前の男・ギュスターブを凝視する。

「な、なんだあいつは?」

「見た感じ、マフィアって訳じゃなさそうっすね・・・」

「世界の意志と名乗った」

 獄寺と山本はただならぬ気配を醸し出すギュスターブを見ながら溜飲。

 懐から、獄寺は複数のダイナマイトを取出し、山本は肩に背負っていたバットケースから何の変哲も無いように思える竹刀を取出し、それを一瞬にして特殊合金製の日本刀に変形させた。

 リボーンは綱吉の傍らに歩み寄ると、帽子をかぶり直してから低い声で警告。

「気を付けろ、ツナ」

「ああ」

「ツナ君・・・」

 ギュスターブと戦うつもりでいる綱吉のことを、京子を始めハルやイーピン、ランボが心配そうに見つめると、綱吉は振り返り見る者すべてを包み込むような優しい瞳で「大丈夫だ」と訴えかける。

 そして、了平とクロームに京子達のことを一任する。

「彼女達を頼む」

「おお! 任せろ!」

「ボス。頑張って」

 拳を握りしめた綱吉は、獄寺と山本と共に前に出る。

「お前が何者であろうと関係ない。オレの大切な仲間や街を壊す奴を、絶対に許さない・・・」

「いくぜ」

 山本の掛け声と同時に、綱吉と獄寺は一斉に動き出す。

 まず山本が前に出ると直ぐに、時雨金時(しぐれきんとき)という名の刀でギュスターブに斬り掛かり牽制。両手の鎖で山本の攻撃を受け止めると、ギュスターブは生きた蛇の様に鎖を操り反撃。

 野球と剣道で鍛え上げられた持ち前の運動神経で鎖の軌道を素早く見切った山本は下がり、中距離遠距離戦闘員である獄寺が左腕を前に翳す。

 獄寺の左腕に巻き付いた髑髏の砲門を持つ特殊な火炎放射型武器「赤炎の矢(フレイムアロー)」に、ダイナマイトを装填する。

 照準をギュスターブの中央に向け、勢いよく砲撃を浴びせる。

「果てろっ!!」

 真っ直ぐに伸びて飛んで行く赤々とした炎の砲撃。

 ギュスターブは両手の鎖を巧みに操り、炎を弾き飛ばすと手首のスナップを利かせて鎖を地面に打ち込む。

「ふん!」

 文字通り生きた蛇の如く蛇行しながら急激に速度を上げてくる鎖。地面は抉られていき、炎を纏った鎖が三人の懐に潜りこむ。

時雨蒼燕流(しぐれそうえんりゅう)守式(しゅしき)()(かた)逆巻(さかま)(あめ)』!」

 戦国の時代に生み出された殺しの剣技にして、継承者自らが「最強」を謳う時雨蒼燕流の守りの型を、山本は発動させた。

 時雨金時の刀身に青々と輝く雨属性の死ぬ気の炎を灯すと、本来は刀で水を巻き上げ、姿を隠す動作によって鎖を勢いよく中空へと弾き飛ばす。

 その隙に、綱吉が前に出て大空属性の死ぬ気の炎を纏ったグローブを高速で突きだし連続パンチを繰り出す。

「はああああ!」

 刹那(せつな)に飛び込む高速乱打を、ギュスターブはものともせずに躱していく。そして、綱吉に足払いを喰らわせると、隠し持っていた拳銃で発砲する。

「ぐああああ」

 拳銃による攻撃を受けた綱吉は地面に転がり込み、ギュスターブを険しい表情で見つめながら、射抜かれかけた箇所を手で押さえる。

「10代目!」

「ツナ!」

「ツナ君!」

「ツナさん!」

 安否を気遣うのは、何も獄寺や山本だけではない。

 黙って見ていられなくなった京子とハルが傷ついた綱吉の元へと駆け寄ろうとすると、綱吉は険しい顔を浮かべながら二人を塞き止める。

「来るな・・・来ちゃダメだ・・・!」

「てめー! 卑怯な真似しやがって! よくも10代目を!」

「覚悟はできてんだろうな?」

 ボスであり大切な友を間近で傷つけられたことに、獄寺と山本はこれまでにない怒りの感情を抱きつつ、ギュスターブを睨み付ける。

「もう我慢ならん! オレも戦うぞ!」

「ボスは私たちが護る!」

 京子達の護衛に付いていた了平とクロームも加わり、大勢は5対1という状況になった。

「ふふ。どちらがかな?」

 圧倒的な劣性と思われる状況と思われる中、ギュスターブは平静な態度を保ち続け、むしろ飛び入り参加していた了平とクロームを含む若きボンゴレ10代目ファミリーに哀れみの感情を抱く。

「うおおおおおおおおお!!!」

 獣の咆哮の如く声を上げながら、了平は突進に渾身の一撃を乗せ仕掛ける。

「いくぞ!!! 極限太陽(マキシマムキャノン)!!!」

 晴の炎を(まと)った右正拳が突き出た瞬間を見切って、ギュスターブは了平の攻撃を回避する。

 だが直後、背後から奇襲を仕掛けるのは三叉鎗を携えたクローム髑髏。

「はっ!」

 女性特有のしなやかで柔軟な動きによって、ギュスターブの懐に入り込んでは槍を縦横無尽に振う。そして一瞬の隙を突くと同時に、クロームは槍術以上に得意なスキルを発動させる。

「ん?」

 ギュスターブの足元が固形物の融解(ゆうかい)の如く、ドロドロに溶け始めるという異常な現象が起こった。勿論ギュスターブは、クロームが仕掛けたその技が「幻術(げんじゅつ)」というものであると直ぐに見抜いた。

小賢(こざか)しい」

 右手の鎖をクロームの腹部に放って、術者であるクロームを傷つけることで幻術を打ち破る。

「きゃあああ!!」

「クローム!!」

「ヤロー!」

 想像以上にギュスターブの戦闘能力は高かった。

 綱吉達は五人がかりで戦っているにも関わらず、この男に傷一つ負わすことができないのだ。

 状況はボンゴレ側が劣勢を極めていた。ギュスターブは不敵な笑みを浮かべる。

 その時―――ギュスターブの意思に従う形で、地面から湧き上がる様にして、水銀の様なものでできた名も無き兵士が複数体召喚され、綱吉達は度肝を抜く。

「こいつら・・・!?」

「どっから湧いて出やがった!」

「やれ!」

 綱吉達全員の抹殺が下された。

 口も鼻も持たない水銀に似た物質で出来た兵士達は主の命に従い、ボンゴレファミリーを根絶やしにしようと向かってくる。

 己の惨めな敗北を受け入れざるを得ないのかと、心中悲嘆していた綱吉達、だったのだが―――

「つらあああああ!!」

 土壇場になって何処からともなく現れた黒装束の少年が、大刀を振りかざして兵士達を蹴散らし、綱吉達の窮地を救った。

「なんだ?!」

「ハヒ! なんだか知らないですけど助かりました!」

 この窮地に駆けつけたのは、重要大事の導きで綱吉達の住む並行世界の「地球」へとやってきた別世界の【地球】に住まう死神代行・黒崎一護(くろさきいちご)。彼が現場に掛けつけると、程なくして他の者達も戦いに割って入って来た。

「咆えろ、蛇尾丸(ざびまる)!!」

(そめ)(まい)月白(つきしろ)!」

巨人の一撃(エル・ディレクト)!!」

光の風(リヒト・ヴィント)!」

 刃節を極限まで伸ばした恋次の刃が兵士達を蹴散らす。

 能力解放と共に猛烈な冷気で兵士達を凍らせるルキアの力。

 先の戦いで深手を負うも、織姫の献身的な治療の末、復活を遂げた茶渡泰虎(さどやすとら)が繰り出す霊圧を押し固めた大威力拳撃(けんげき)。文字通り、巨人の一撃は兵士達を水滴状に分解する。

 そして、最後の滅却師の生き残りである石田雨竜の霊子兵装「銀嶺弧雀(ぎんれいこじゃく)」からは、無数とも言える矢を前方に向けて一斉に放つ。

 地獄で仏ということわざは、こう言う状況を指すのだろう。

 綱吉達は駆けつけた一護達の応援によって危難を脱し、命辛々救われる結果となった。

 圧倒的な一護達の力を前に、言葉を失う綱吉達。そんな彼らのことを心配して、一護が近づいてきた。

「大丈夫か?」

「ああ・・・おまえは・・・」

「俺は黒崎一護。死神代行だ」

「死神・・・さん?」

 死神という言葉に誰もが怪訝そうに首をかしげる一方、ギュスターブは思わぬ者達の襲撃を受け、面白くなさそうに舌打ちをする。

「っ!」

 だが、空中から勢いよく振りかざされた刀による一撃を受け止めた際、ギュスターブは一護達をこの世界へと導いた張本人・重要大事と睨み合い、口元を露骨に歪める。

「貴様・・・」

「よう。追ってきたよ」

「どこまでもしつこい奴だ。あんな連中を仲間に加えて、本気で俺を(たお)せる口か?」

「ごちゃごちゃうるせー! 咆えろ、蛇尾丸!!!」

破道(はどう)の三十一 『赤火砲(しゃっかほう)』!」

 辛酸を舐められた恋次はギュスターブの頭部へと蛇尾丸の刀身を伸ばし、ルキアは右手を翳すと、詠唱破棄による破道をお見舞いする。

 灼熱色の赤い火球がギュスターブの懐に飛んでいく。

 ギュスターブは大事を蹴飛ばし、両手の鎖で恋次とルキアの攻撃を阻止。

「目障りな。来い! お前たち!」

 ギュスターブの掛け声ひとつで、空間に皹が入り、亜空間より姿を現したのは―――人の姿から乖離(かいり)した異形の怪人達。

「こいつら・・・!」

 一護達は挙って背筋を凍らせ、異形の怪人達を凝視する。

「俺の忠実な部下どもだ。コネホ。タウルス。ボアー。こいつらに礼儀を教えてやれ」

「「「はっ」」」

 兎と牡牛、猪の特徴を体の一部に体現したギュスターブの従者は忠実に彼の指示に従う。標的である一護達全員を嬲り殺すつもりで攻撃を仕掛ける。

「一旦逃げろ!」

 闘うこともできたが、周りには京子やハルらといった非戦闘要員が少なからずいるため、無理な交戦は避けて撤退をする方が無難と判断する中、予期せぬ戦闘要員が突如として乱入を果たす。

「僕の並盛で、何してるの?」

 黒い学ランを羽織り、両手には紫色の炎を帯びたトンファーを握りしめる男。

 綱吉達ははっきりとその人物が何者であるのかを理解する。

 雲の守護者にして、並盛最強の風紀委員長・雲雀恭弥だ。

「君達全員咬み殺す!」

「雲雀!」

「やめろー! 死ぬぞー!」

 たとえ誰であろうと、自分のカテゴリーに侵入してきた不逞の輩には容赦のない鉄槌を下そうというある種鋼の意思を持つ雲雀がコネホ達の懐に飛び込む。

「認識名称、雲雀恭弥・・・水晶体確認」

 無機質にコネホは雲雀恭弥という存在を機械的に認識。

 凄まじい勢いで飛んでくるトンファーの一撃を、コネホは優しく掌で受け止める。

「・・・!!」

 雲雀は珍しく驚いていた。

 改心の一撃を叩きこんだはずの自分のトンファーを、こうも易々と受け止めるなんて、と言いたげな瞳で目の前のコネホを見つめる。

 コネホは空いている方の手に力を込めると、弾丸の如き速度で雲雀の顔をビンタする。

 瞬く間に後ろに飛んで行った雲雀は、壁の内側に深く食い込み、内臓の一部を破損。多量の吐血を伴った。

「雲雀っー!」

「撃て。焼き払え」

 ギュスターブによる鶴の一声とともに、空に暗雲が差しかかり、雨の如く爆弾の雨が頭上から降り注ぐ。

「「「うわあああああ!!!」」」

「「「だああああああ!!!」」」

 戦争未体験者である一護達は、さながらB29による原爆投下の被害に遭っているかのような状況となる。

 理不尽なまでに頭上から投下される爆弾は、周囲の建物を粉砕し、爆炎を広げながら周囲一帯を焼き払う。

「やめろー!!」

 業を煮やした重要大事は、咄嗟に一護達に強力無比な結界を施し安全を確保すると、目的の為ならばなりふり構わず命を奪おうとする不当な輩、ギュスターブに刃を向ける。

 鎖で刀を受け止めたギュスターブは、眉間に深く皺を寄せている大事を嘲笑する。

「感情で動くんだな。世界の意志ともあろうものが」

「無意味に世界を壊しやがって・・・!」

「無意味ではない。世界の破滅は遅かれ早かれ起こり得ることだ。それを早回しにしてやったに過ぎん」

「勝手すぎない? そう言うのを唯我独尊(ゆいがどくそん)って言うんだよ!」

 怒髪天を衝く大事の渾身の一撃は、ギュスターブを退かせるには十分な威力を誇った。この世界で十分な侵略行為を完了させたギュスターブは、コネホ達を率いて次なる世界への侵略のため、空間にゲートを開く。

「どれだけおまえ達が努力しようとも、世界の崩壊は免れない。次に遭うときが、貴様達の最期だ」

 その言葉を最後に、ギュスターブと怪人達は異空間の中へと姿を消した。

「消えた!」

「チクショー・・・!」

 またしても敵の策略を止め切れず、見す見す逃亡を許してしまう形となったことに、歯がゆい思いを抱く一護達。

 そんな中、呆然と立ち尽くす重要大事のもとに、ひとり冷静な様子のリボーンが歩み寄る。

 振り返った大事は、リボーンの思考を読み取り目線を下げる。

「聞きたいことがあるんだろ?」

「ああ。こっちは事情がよく呑み込めぇことばかりだ。だが、今のではっきりした。どうやらこの世界は滅びの危機にあるっていうんだな?それについて、あの連中のことも含めて詳しく教えて貰おう」

 世界の垣根を超えて混じりあった死神とマフィア。

 そしてこの後、二つの勢力は共に世界を飛び越え―――第三の勢力との邂逅(かいこう)を果たすことになる。

 

 

 死神、マフィア、両勢力がともに生活の拠点としている地球とは異なり、次元世界において一際科学水準レベルが高い世界が、いくつも確認されている。

 時空管理局と呼ばれるいくつもの数多の世界を管理統括する組織が、次元空間という世界が浮かぶ海と、魔法文明が発達した第1管理世界【ミッドチルダ】に地上本部が据えられている。

 新暦0075年―――この年、ミッドチルダ全土を震撼させた大規模首都型テロ事件が勃発。

 世紀の天才技術者ジェイル・スカリエッティと彼が生み出した戦闘機人技術(せんとうきじんぎじゅつ)で生まれた戦闘機人集団ナンバーズによる、ミッドチルダにある時空管理局地上本部の襲撃を先駆けに起きたこの事件は、【ジェイル・スカリエッティ事件】、あるいは【JS事件】と命名され、人々の記憶と歴史に新しいページを刻んだ。

 未曾有の危機へと発展したこの事件は、管理局本局が独自に即戦力として用意したエース部隊・機動六課(きどうろくか)の活躍によって解決し、ミッドには再び平穏が訪れた。

 しかしこの事件が残した爪跡は深く、特に時空管理局は、地上本部のトップであったレジアス・ゲイズ中将の死、最高評議会(さいこうひょうぎかい)の消滅、更には裏で行われていた不正や違法研究などの公表によってその信頼を大きく欠き、ミッドに住む人々は困惑と不安、管理局への怒りを抱いていた。

 それでも局員を始め、多くの人が少しずつ世界の復興の道を歩み始めていた。

 

 

「はーい。じゃあ、午前の訓練終了―――!」

 機動六課の隊舎裏に設置された特設訓練施設において、女性の声が響き渡る。

 白い教導隊制服に身を包み、その手には魔法の杖・レイジングハート・エクセリオンを携えた茶髪のポニーテールの女性。

 彼女の名は、高町(たかまち)なのは(19)―――この機動六課で戦技教導官を務める若きエリート魔導師の一人にして、JS事件では敵側の最終兵器の撃墜を成し得た、いわばこの世界の英雄的存在だ。

 彼女のここでの役目は、前線部隊「スターズ隊」の隊長兼若手フォワードの専任教導。手塩にかけて彼女が育て上げるのは、未来への可能性を秘めた4人の男女。

 スターズ隊フロントアタッカーのスバル・ナカジマ(15)。

 同じ隊に所属するセンターガード、ティアナ・ランスター(16)。

 スターズ隊と並行して前線で戦うもう一つの実働部隊「ライトニング隊」所属のガードウィング、エリオ・モンディアル(9)。

 同じくライトニング隊に所属する大変に希少な竜召喚スキルが使えるフルバックのキャロ・ル・ルシエ(9)。

「「ぜー・・・ぜー・・・ぜー・・・」」

「「はー・・・はー・・・はー・・・」」

 生まれた場所も年齢も、その境遇さえ全く異なる四人の若者達は、事件後のハードトレーニングを無事にやり終え、ぐったりとしている。

 なのはは厳しくも温かい指導で四人に自分の持ちうるすべての技術を伝えようとしていた。満面の笑みを浮かべながら「この調子で午後も頑張ろう!」といい、一人隊舎の方へと戻って行った。

 息の乱れるフォワード四人は、密度の濃い訓練に体が動かないでいた。

「あ―――あ―――。フォワード諸君ぶったるんどるねえ」

 そんな四人のもとに、同僚であるロングアーチスタッフのアルト・クラエッタ二等陸士が歩み寄る。

「たるみもしますよ~~~」

「最近ますます訓練がキツイんだよ~~~」

 間延びした声でティアナとスバルが答えると、引きつった笑みのアルトはなのはの訓練メニューが初期に比べて遥かにレベルアップしていることを第三者の立場から実感する。

「訓練レベルどんどん上がってるもんねぇ」

「も―――なのはさんもヴィータ副隊長もすんごい元気で」

「あんな大ケガしてたのに一番先に復帰してるんですよ」

 スバル達はつくづく驚愕していた。

 なのはと同じ隊で副隊長を務める鉄槌の騎士ヴィータは、ともにJS事件で使用され「聖王のゆりかご」、と呼ばれる古代の超巨大兵器を陥落させた。

 かなりの深手を負ったにもかかわらず、二人はすぐさま現場に復帰するほどのタフさを見せつけた。

「まあレリック事件は終わったけど、みんな魔導師としてはまだまだレベルアップできるんだもんね」

「卒業までに教えることが目白押しなんだそうです」

「うれしいですが、ちょっと大変です・・・・・・」

「卒業かぁ。もう11月になるからあと半年ちょっとなんだね」

 スバルがしみじみと呟くと、ティアナ達も内心彼女と同じ心境となる。

 もともと機動六課は、正式な機動部隊というわけではなく、本局が試験的に設置を許した新設部隊。一年間という期限付きでこの部隊は運営されており、来年の四月には全員がここを卒業し、新たな道を進んでいく。

「みんな進路はもう決まってるの?」

 アルトが率直なことを四人に尋ねる。

「ん―――いまんとこエリオ以外は古巣に戻す予定」

「あたしとスバルは386部隊災害担当のフォワードに復帰ですね」

「そっか。エリオは六課が初所属だったね」

「はい」

 大方の進路が各自決まろうとしている中、アルトはティアナの顔を見て、ひとつ重大な話を思い出す。

「あ・そーだ。ティアナ」

「はい?」

「フェイトさんがティアナに相談があるんだって」

「あたしに・・・・・・?」

 

 訓練後の泥を落とし、制服に着替えたティアナは隊舎の中へと入る。

「ああティアナ。わざわざごめんね」

 そこで、ライトニング隊の隊長を務める本局所属の執務官フェイト・T(テスタロッサ)・ハラオウン(19)と、執務官補佐のシャリオ・フィニーヌ一等陸尉と顔を合わせる。

「おつかれさまです、フェイトさん。シャーリーさん」

 二人に軽く敬礼をしたティアナは、二人の目の前に座って話を聞く。

「この間スバルから聞いたんだけど、私が渡した執務官試験のテキスト、一生懸命勉強してるみたいだね」

「あ。いえ・・・・・・」

「でね。六課が解散したら私は執務官として次元航行部隊(じげんこうこうぶたい)に戻るんだけど」

 フェイトは真摯な眼差しを向けると、彼女の言葉に耳を傾けたまま怪訝そうにしているティアナに提案する。

「ティアナ。私たちと一緒に来てみる気ないかな」

「え・・・・・・」

「私の副官。執務官補佐やってみない?」

「あ・・・・・・」

 思いもよらぬ朗報だった。

 ティアナは亡き兄が叶えられなかった、執務官になることを夢見ていた。その夢を叶えるための千載一遇の機会をフェイトとシャリオが提供してくれたのだ。

「私は事務とか渉外(しょうがい)専門だし、捜査官っぽい動きをできる子がいてくれると助かるなーって」

「時期が来たら、試験勉強の時間もちゃんと取れるようにするし、ティアナが手伝ってくれたらすごく心強い」

「は・・・・・・はい・・・・・・こ・・・・・・光栄です・・・・・・」

 嬉しさ反面、ご都合主義とも思える夢の様な展開に気持ちが高揚していたティアナは身体をもぞもぞと動かしながらお礼の言葉を言う。

「まあ補佐になるための考査試験は受けなきゃならないけど、ティアナなら問題ないと思うし」

「は・・・・・・はいっ」

 

「六課解散の進路か。おまえはどうするんだ?」

 六課中庭において、ライトニング隊副隊長兼ヴォルケンリッターの将、烈火の騎士シグナムがエリオに稽古を付けながら、彼の進路について尋ねる。

「はい。まだ決めかねてる感じなんですが・・・・・・」

「フェイト隊長のご意見はどうなんだ」

 木刀のシグナムに対し、エリオは木の棒で撃ち合う。

「それがですね。実は僕とキャロ、2人で学校に通わないかって話があって・・・・・・」

「学生か! 子供らしくて健全だ。学校の制服姿もいいんじゃないか」

「そ・・・・・・そうですか? キャラはともかく僕はちょっと」

 ちなみに、エリオとキャロはフェイトがその昔保護した子供であり、いわばフェイトとエリオ、キャロは義理の親子のようなものである。そのフェイトの勧めで、学校での教育という意見があった。エリオはこの意見にやや不満げな様子だった。

「腕や魔力があっても子供は子供だ。母親の庇護(ひご)のもとにいてやるのも親孝行の形だぞ」

「そう思います。でも無理した背伸びじゃなくて、僕は僕なりに」

 刹那。エリオは棒の先をシグナムの木刀の先を掠めるようにして状態を崩し―――

「子供は子供なりに!」

 そのままシグナムの左腕の脇を突き抜ける形で、彼女の懐に一手を入れた。これには、シグナムも脱帽だった。

「やってみたいこともあるんです」

 清々しい表情でそう答えるエリオに、シグナムは「今の一撃は良かったぞ」といい、彼の気持ちを飲むことにした。

「ふむ。まあそれも子供らしいワガママの形だな」

「はいっ」

 

「そうですか。エリオがそんなことを」

 機動六課ではサイズ的な問題から、ある種の癒しの対象とされている者がいる。

 部隊長八神はやてによって作られた管制融合機・リインフォース(ツヴァイ)空曹長は、キャロから彼女のデバイス「ケリュケイオン」を預かった上で、彼女とエリオの進路についての話を聞かされていた。

「じゃあエリオのやりたいことによっては、コンビは別々になっちゃうんですかね?」

「あ、それはですね・・・フェイトさんに心配かけないようにとか六課で勉強したことを生かせるようにとか、そのへんも含めて当面はなるべく同じ場所にいようって話してます」

「そうですか―――」

「兄妹みたいなものですもんね」

「はい。それに、あの子のこともありますから」

「あの子?」

 リインは一瞬怪訝そうに首をかしげたが、直ぐにキャロが言おうとしている人物が誰なのかを理解した。

「ああ。ルーテシアたちですね」

 JS事件において、主犯格であるジェイル・スカリエッティに唆され、人造魔導師素体として彼に随行していた召喚魔導師ルーテシア・アルピーノ(9)と、リインと同種の管制融合機アギトは、機動六課と幾度か衝突。最終的には海上隔離施設の中で、逮捕されたナンバーズの数名と一緒に社会的に公正ができるように指導を受けている。

「隔離施設では、アギトやナンバーズのみんなが一緒ですけど、不安なこととかいろいろあると思いますし」

 エリオとキャロは、同じような境遇にさらされ孤独に苛まれていたルーテシアと戦い、彼女が心の内に抱えた痛み、哀しみ、その他もろもろの感情を知った。ゆえに、彼女がこの後どのような処罰を受けるのかが、気掛かりであった。

「ルーちゃんのお母さんのこととか、これからのこととか、エリオくんと2人でしっかりフォローしていこうって」

「なるほど。がんばるですよキャロ。わたしも応援するです」

「ありがとうございます♪」

 

 

ミッドチルダ 陸士108部隊

 

「で? 相談ってのはなんだ。おまえ個人の進路相談・・・・・・ってトコか?」

「ご名答です」

 機動六課部隊長八神はやては外回りの傍ら、嘗て師事したスバル・ナカジマの父親である陸士108部隊部隊長、ゲンヤ・ナカジマの元を訪れた。

「六課解散後のおまえの引き取り予約。俺のとこにまで来てんだぜ。歴史に残る未曾有の危機を救った奇跡の部隊。その設立からやってのけた指揮官っていやぁ、そりゃあどこまでも欲しいわな。どこでも好きなところに行きゃいいじゃねえか。なんかあんのか?」

 ゲンヤは嬉しそうに語り出す。短い期間とは言え、娘の様に可愛がってきた愛弟子が、ミッドチルダを震撼させた未曽有の危機を救ったのだから。師匠として、鼻が高いというのも頷ける。

 しかし、罰の悪そうな表情を浮かべながら、はやては心底意外な言葉を呟いた。

「それなんですが。部隊の指揮は、当分の間辞退しようと思ってます」

 二人の間に暫時沈黙が流れる。

 互いにお茶を飲み啜る。渋い顔を浮かべるゲンヤのことを一瞥しながら、はやては彼のリアクションに身構える。

 ゲンヤはふう~とため息をついてから、これまでのはやての右往左往とした進路選択について、率直なコメントを呟く。

「捜査官やらしときゃあ部隊を立ててぇ。部隊やらせて実績あげりゃあもうやりたくねえ。おまえのはとことん上に逆らうなぁ」

「や・・・・・・やっぱそうなりますよね?」

「いってえなにが不満だよ?」

 (いぶか)しげな顔のゲンヤに尋ねられると、はやては今回の事件で経験した部隊長の役目について、率直な感想を漏らす。

「不満とかそーゆーんやなくて。部隊長としての失態とか力不足とか。そのへんいろいろと」

 自分が認識していた以上に、一部隊の長の責任が重いものであるのか、はやては辛くも深く痛感した。

「ちびダヌキはちぶダヌキなりに、いろいろ痛感したかい」

「ま―――そーです」

 ゲンヤは内心、こうなるのではないかという事も予想していた。案の定、はやては部隊指揮を当面の間辞退すると言ってきた。

 しかしながら、彼女が自らの目標、夢をこの程度の失敗で諦めるほど軟な女性ではないということも熟知していた。

「そやけど部隊指揮の夢は、やっぱり捨てられへんですし」

 現に、はやてはお茶を啜ってから、部隊指揮について素直なコメントを呟いた。

「さーて、どうしたもんかなと師匠に相談に!」

 やれやれと内心思いながら、こうしてわざわざ遠方から足を運んでくれた弟子の相談を無下にすることも出来なかったゲンヤは、悩めるはやてに年長の立場から的確な助言する。

「ま。そんならフリーの捜査官に戻って小規模指揮や立ち上げ協力からやってきゃいいんじゃねえか。結局は責任背負って経験して、成功と失敗から学んでいくしかねーんだよ。必死こいてな」

「・・・・・はい」

 

 

ミッドチルダ 聖王医療院

 

「ごめんねヴィータちゃん。付き合ってもらっちゃって」

「別に。ついでだ」

 ゆりかごの撃墜を成し得たとはいえ、多大な負荷を肉体に蓄積させたスターズ隊の隊長陣、なのはとヴィータは検査を終えた様子で廊下を歩いている。

「検査結果どうだった?」

「おまえと大差ねえよ。ま、リハビリ含めてゆっくりやってくさ」

「でもヴィータちゃん。外から教導予約結構入ってるでしょ」

「おまえもな。ま―――六課が続いてる間は新人連中をほっとけねーし、ぼちぼちやってくさ」

「でね。ヴィータちゃんにちょっと聞いてみたいんだけど」

「あん?」

 なのはは小学生並みの身長のヴィータの背丈に合わせて身をかがめると、彼女を見ながら提案する。

「教導隊に来る気ない?」

航空戦技教導隊(おまえんとこ)に?」

「うん。どうかな? ヴィータちゃん、向いてると思うんだけど」

 なのはが所属する航空戦技教導隊は、時空管理局の武装隊の中でも超がつくエリート部隊であり、いわばトップガンの集まりがこれに当たる。なのははここ数か月におけるヴィータの教導姿勢を高く買い、彼女の新たな進路先として教導隊への入隊を推薦した。

「そーかぁ―――? 正直がらじゃねえと思うんだけどな」

 何かが違うと言わんばかりに頭を掻きまくるヴィータは、更にこんな事を呟く。

「あとはなんだ。六課を出てまでおまえと一緒ってのもなんか気持ち悪イ」

「あ―――ひどいっ」

「ま。なんつうか」

 だが、満更嫌ということも無い様子で、ヴィータはなのはの厚意に感謝する。

「一応ありがとよ。考えてはみるわ」

「うん♡」

 

「じゃあどうも。ありがとうございました―――」

「はいお大事に」

 この日、聖王医療院へ検査に訪れていたのは、なのはとヴィータの二人だけではなかった。

 JS事件で聖王のゆりかごの鍵としてスカリエッティに利用された、聖王女オリヴィエの遺伝子データから作られた人造生命体の少女・ヴィヴィオ(6)は、紆余曲折を経てなのはの正式な娘として引き取られた。

 高町ヴィヴィオとして生きることとなった彼女は、体に埋め込まれた古代遺物(ロストロギア)レリックの摘出後、聖王医療院で精密検査を受け、今日はその最終日だった。

「おつかれさまヴィヴィオ。もうすぐママがお迎えに来るからね―――」

「うん!」

 寮母のアイナ・トライトンと一緒に診察室を後にしたヴィヴィオは、ちょうど廊下の向こう側から近づいてくる、大好きな母親の姿を発見。

「あ」

「ヴィヴィオ―――!」

「ママ!」

 満面の笑みを浮かべヴィヴィオは同じく満面の笑みのなのはの胸の中に飛び込んだ。

 血の繋がりは無くても、本当の親子以上に仲睦ましい母と娘の光景を微笑ましく見つめながら、ヴィータはアイナに労いの言葉をかける。

「おつかれさまアイナさん。ヴィヴィオどーでした」

「問題なし。もうすっかり健康体だって」

 検査を終えた四人は、楽しく語り合いながら機動六課へと戻って行った。

 

 一日の業務が終わり、日も暮れたその日の夜。

 寮に戻ったスバルは、ティアナの口から例の話を聞かされた。

「執務官補佐!? すご―――い! よかったね!」

「まだ決まりじゃないわよ。考査試験もあるんだし」

 制服の上着をハンガーに掛けた後、ティアナは無造作に部屋の真ん中に散らばったスバルの服を指さし厳しく指摘。

「あー! また脱ぎっぱなし! ちゃんと片付ける!」

「うぇ・・・・・・ごめんなさいっ!」

 慌てて脱いだ服を手に取ったスバルは、さり気無く彼女の試験の日程を聞いてみる。

「試験いつ?」

「再来週本局で。前日の夕方からお休みもらえるって」

 ティアナが試験に通れば、彼女は執務官になるためのサクセスルートを歩むことになる。だがそれは同時に、スバルとのコンビ解消を余儀なくすることだった。

 しかしスバルは、いずれはこうなることを覚悟していた。それよりは、無事にティアナが夢を叶えられることを親身に祈るばかりだった。

「そっか。ティアなら受かるよね。きっと楽勝100点満点!」

「どーだかね」

 

 ゆっくりと近づいてくる「卒業」の時。

 変わってゆくもの。変わらないもの。

 それが世界の真実だと、私たちは信じていた―――

 

 

ミッドチルダ 首都クラナガン

 

「きゃあああ!!!」

「たすけてくれ―――!!」

 各々の進路が定まり始め、部隊運営の終了帰還まで4カ月を切ったある日。ミッドチルダ全体に再び未曽有の危機が訪れる。

 街に突如として溢れかえる異形の怪人達。有象無象に銀色のカーテンの向こうから現れる畏怖の存在に―――人々は恐怖し、ただただ逃げ惑う。

「クラナガンCの531ポイントで、謎の生命体が出現!」

 管制室のシャリオからの報告を聞いたなのは達は、街の様子をリアルタイムで見て唖然とする。

「なんだよこいつら?」

「怪人!?」

「ガジェットの反応は?」

「いえ。ガジェット反応は確認できません」

 JS事件で頻繁に用いられたレリック捕獲用の自律行動型魔導機械、通称ガジェットドローンと見られる反応は、一切確認されない。すなわち、これがJS事件とは全く関係のない別の事案であることは安易に予想がつく。

「まさか、ガジェットと戦闘機人以外にも新たな敵が・・・!?」

「JS事件が終わったばかりなのに・・・!」

 一難去ってまた一難。度重なる未曾有の危機を前に、苦い顔を浮かべるフォワード四人。そんな彼女達と気持ちを共有しながら、なのはは首元にぶら下げた紅い宝石型のインテリジェントデバイス、レイジングハートを握りしめ、全員に言う。

「行こう、みんな。行けばすべてがわかる」

「ほんなら、機動六課・・・出動や!」

「「「「「「「「了解!」」」」」」」」

 はやての一声で、機動六課前線メンバー全員が首都クラナガンへと向かって出動する。

 現場に到着した彼女達は戦闘用の防護服に身を包み、逃げ惑う人々に逆行して前に進む。

 そして、そこで彼女達が見た怪人の姿に目を見張る。

「なんなんだろう、あいつら?」

「金属でできているみたいですけど・・・」

 全身が重金属の様なもので構成された奇妙な怪人は、無機質に周囲のものを破壊しながらひたすら前進を続ける。

「相手がなんだろうと、人類の敵はこの手で倒す」

「みんな、いくよ!」

「「「「はい!」」」」

 戦闘態勢となった六課前線メンバーは、街の平和を乱す未知なる脅威に向かって、攻撃を開始する。

「アクセルシューター!」

「はあああ!」

 スターズ、ライトニング分隊隊長のなのはとフェイトは、空から追尾型の魔力弾攻撃と魔力刃による強力な一撃で怪人達を攻撃、粉砕する。

「ぶち抜けー!」

紫電一閃(しでんいっせん)!」

 赤いゴスロリ調の戦闘衣装、騎士甲冑に身を包んだヴィータは鉄球を複数用いて、それを手持ちのハンマー「グラーフアイゼン」で弾くことにより、怪人の体を貫く。

 一方のシグナムは、炎の魔剣「レヴァンティン」の刀身に煌々と輝く炎を纏い、それによる斬撃で敵を一網打尽にした。

「隊長陣流石!!」

「あたし達も負けてられないわよー!」

 なのは達に触発されたフォワード四人は、JS事件と日ごろの訓練で鍛え抜かれた己の得意技によって、怪人達を攻撃する。

「うりゃああああ!」

 シューティングアーツと言う特殊な体術を得意とするスバルは、勢いよくローラーブレード型のインテリジェントデバイス「マッハキャリバー」で加速しながら、右腕のリボルバーナックルからの強烈な正拳突きを叩きこみ、見事撃破。

「クロスファイアー・・・シュート!」

 精密射撃型のティアナは、拳銃型のインテリジェントデバイス「クロスミラージュ」に魔力を込めると、周囲に浮かんでいる複数の魔力弾を同時に操り、大勢の敵の懐へと着弾させる。

「でりゃあああ!」

 槍型のアームドデバイス「ストラーダ」を豪快に振るうエリオは、雷の魔力変換資質と掛け合わせることから生まれる貫通力に長ける攻撃で敵の身体を射抜き、文字通り串刺しにする。

錬鉄召喚(れんてつしょうかん)、アルケミックチェーンッ!」

 バックス系の魔法を基本としながら、自分の特技を生かした方法で敵を捕らえるキャロは、魔法陣から伸びてきた鎖で敵の動きを封じ込めると、使役竜フリードリヒによる火炎攻撃でこれを撃退する。

 怪人達が徐々に倒されていく中、フェイトは前方から歩み寄る異質な存在に気づく。

「みんな!」

 一旦全員が集まって、今一度目の前を注視する。

「あいつは・・・」

 人間ではない事は、一目瞭然だった。

 ヘビのような特徴を持つ異形の怪人は、紅色に輝く双眸で機動六課の前線メンバーを凝視する。

「現れたな! 時空管理局の魔導師・騎士の諸君!」

「おまえは?」

「私はセルピエンテ! 世界の意志に仕える偉大なる大幹部だ!」

「世界の意志?」

「聞いたことないな」

「自分で偉大なるって言っちゃう奴って、大したことないんだよね!」

 スバルが率直に思った事を口にする中、セルピエンテは不敵な笑みを浮かべるだけ。

 なのはは全員を代表して、セルピエンテに尋ねる。

「なんなんですか、その世界の意志って?」

「貴様ら時空管理局が多くの世界を管理するのと同じく、無数の並行世界を管理統括する人間を超えた存在。人間どもは畏怖の念を込めてこう呼ぶ。『神』と―――!」

「神!?」

 神と言う単語の意味は、誰もが理解できる言葉だ。だが同時に誰もが知っている。人間は神になることもできなければ、神が人間界に下ることもない。すべては神話や幻想の中の存在だと―――

 だが、セルピエンテは堂々と神が世界の意志そのものであることを公言した。

「そしてこのお方こそ・・・大いなる世界の意志・・・・・・ギュスターブ様だ!」

「ギュスターブ?!」

 刹那、銀色のオーロラが突如として現れると―――そのオーロラを潜り抜けてなのは達の前に姿を現したのは、黒いライダースーツに身を包むウルフカットの美青年。

 なのは達は、男の全身から発せられる異様な力に当てられ、無意識のうちに額から汗が流れ落ちる。

 警戒し、誰もが武器を強く握りしめる中、その男はなのは達に自己紹介をする。

「ギュスターブ・エトワールだ。覚えておけ」

「要するにあんたが、こいつらのボスって訳ね?」

「おまえらがこの世界の危機を救ったっていう、噂の機動六課の前線部隊だな?」

「だったらどうする?」

 シグナムが問いかけると、両手から黄土色の鎖を召喚し、それを剣の様に加工する。

 特注の剣を握りしめたギュスターブは、明確に殺意を表す一言を呟く。

「潰す―――」

「みんな! 気を付けて!」

「「「「はい!」」」」

 ギュスターブの攻撃に備え、全員が大勢を整える。

 次の瞬間、ギュスターブは大剣片手になのは達の元へと走り出す。

 空戦を最も得意としながら、近接戦闘も一際ずば抜けているフェイトやシグナム、飛行スキルがないフォワード四人を相手にしながら、ギュスターブは頭上から攻撃を仕掛けるなのはとヴィータにも抜け目なく炎の鎖を飛ばす。無論、なのはとヴィータは撃墜されることはなく、ギュスターブの鎖を空中で華麗に回避した。

「ほう・・・」

 それなりに彼女達の力量を図ることができたギュスターブは、フェイトとシグナムの剣閃に注意を払いながら、彼らを広い場所へと誘導。

「世界の意志の力を篤と見せてやる」

 より動きを機敏なものへとし、多人数を相手にギュスターブは孤軍奮闘。いや、むしろ機動六課メンバーの実力を上回る勢いで、白兵戦でも中距離戦でも、万能の力で対応する。

「潰れろ―――!!!」

「ハーケンセイバー!」

 逼迫する戦況。フェイトは愛機バルディッシュ・アサルトから魔力刃を放ち、ヴィータは巨大化したグラーフアイゼンのハンマーヘッドで力一杯殴りつける。

 間一髪のところをギュスターブに見切られ、攻撃は不発に終わる。

「じゃあ、これならどうだ―――」

 刹那。ギュスターブは忽然と目の前から姿を消した。

「消えた!」

 と、次の瞬間―――フォワード四人は何が起こったのかを理解する前に、瞬く間にギュスターブによって斬りつけられる。

「「「「ぐああああ!!!」」」」

「スバル! ティアナ!」

「エリオ! キャロ!」

「仲間の心配してる場合か」

 ギュスターブはなのはとヴィータ、シグナムの懐へと瞬時に潜りこみ、彼女達に一太刀を浴びせる。

「きゃあああ!」

「ぬあああ!」

「ぐああ」

「なのは! シグナム! ヴィータ!」

 幸いにもフェイトはギュスターブの攻撃を辛うじて防ぎ切った。だが、多くの者はギュスターブの動きについて行けず動揺を隠しきれない。

「どこにいるんでしょうか?!」

「落ち着いてキャロ。高速で移動してるだけだよ」

「エリオの言う通り。私には見える」

 高速戦闘を得意とするフェイトは、残像を見る感覚で、高速で動き回るギュスターブの動きを捕えると、タイミングを見計い一気に地面を蹴って前に出る。

「はあああ!」

 高速で移動する者に対して同じく高速で対応するフェイト。

 1秒間に何度も激しく衝突し、撃ち合うギュスターブとフェイト。

 辛うじて、フェイトの方に軍配が上がり、ギュスターブは彼女と距離を置く。

「やれ」

 指を鳴らすとともに、地面から湧いて出てくるのは、先ほどなのは達が斃したばかりの無機質な兵士達。

「ガジェットよりは手強そうですね」

「でも、練習通りに行けるはずだよ」

「いくぞ!」

 この街を未知なる脅威から護るため、強い正義感で以って立ち向かおうとするなのは達が、兵士に向って攻撃を加えようとした―――次の瞬間。

 

 ドカーン!

 

「なんだ!?」

 爆音とともに、何者かが乱入を果たす。

「させるかー!」

 空間の裂け目を通り抜けてきたのは、一護を筆頭とする死神&ボンゴレファミリー同盟軍13名。

「なんだあいつら?」

 自分達とさほど年も変わらない、あるいは年下の者達がいきなり現れたことに愕然とするなのは達だが、一護達はギュスターブという共通の敵を前に、気合十分な様子で攻撃を開始する。

月牙天衝(げつがてんしょう)―――!!!」

「咆えろ、蛇尾丸!!」

「舞え、袖白雪!」

 死神組を代表とする一護・恋次・ルキアの攻撃は、破竹の勢いで兵士達を圧倒する。

X(イクス)カノン!」

時雨蒼燕流(しぐれそうえんりゅう)特式(とくしき)(じゅう)(かた)燕特攻(スコントロ・ディ・ローンディネ)』!」

「マキシマム・イングラム!!」

 ボンゴレファミリー10代目ボス候補、沢田綱吉を先頭に、雨と晴の守護者である山本、了平の二人が突破口を開く。

 雨の炎を纏った燕を伴い抉るようにして突進する山本は一度に兵士達を斬り捨て、了平はイングラムと言う名に相応しい強烈な連続パンチを、抜群のフットワークからのコンボで撃ち出す。

 状況が一気に好転する。

 機動六課前線メンバーは、魔導師や騎士の範疇を超えた圧倒的な力、そしてそれを操る異能者達に言葉を失う。

「えっと・・・どうなってるの!?」

「刀を持った連中といろんな色の炎を操ってる中学生?!」

「一体どうなってるんですか、これ?!」

「まぁ、重要様と星堂寺様が連れて来た人達ですから、害はありませんよ」

 すると、不意になのは達に話しかけて来たのは―――黒い短髪にブラウンの鋭い瞳の容姿、体つきのいいサングラスの男。

「え・・・っと・・・どちら様ですか?」

「おっとこれは失礼。自称“時の迷い人”。そして、非才の身ではありますが、世界の意志のひとりとして務めさせてもらっています・・・夜御倉龍元(やみくらりゅうげん)と申す者です」

「え・・・・・・」

 

 

 

 次元を超えて混じりあう3つの世界の者達。

 世界の意志の反乱を止めるため、彼らの運命が動き出す―――!

 

 

 

 

 

 

参照・参考文献

原作:都築真紀 作画:長谷川光司『魔法少女リリカルなのはStrikerS 2巻』 (学習研究所・2008)




初回3話を投稿。以後、毎週土曜日1話分の更新となります。

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