死神×マフィア×魔導師 次元の破壊者   作:重要大事

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光への扉、新たなる希望

リュミエール

桜華国 某所

 

闇の世界エンド・オブ・ザ・ワールドで起こった悲劇―――ギュスターブの奸計(かんけい)により黒崎一護、並びに沢田綱吉は魂の内側に眠る魔物の力を解放。

完全虚(ホロウ)化した二人は暴走し、エンド・オブ・ザ・ワールドに存在する世界の心を崩壊寸前まで亀裂を作り、その上闇の世界の猛毒な空気をリュミエールへと流出させてしまう。

ギュスターブの狙いが発覚した時点で、ドゥルガーは主だった世界の意志達を急遽リュミエールへと集結させ、エンド・オブ・ザ・ワールドから流出した闇の空気が拡散しないように術士達の力で事態を収拾しようとする。

「破壊されたエンド・オブ・ザ・ワールドとリュミエールを結ぶ出入口から流れ出る闇の空気は、術士達の働きで鎮静化しつつあります」

リュミエールの空に大きく空いた空間の歪みの周りを取り囲むように術士達が結界を展開する傍ら、夜御倉龍元は緊急待機所として設置された天幕の中へと入り、中央の席に座しているワールドウィルシステムの管制人格ドゥルガーの人間態に状況を報告。

「リュミエールへの影響は?」

「今の所ありません」

「そうですか・・・わかりました。引き続き、迅速に結界作業を完遂するよう指揮を執ってください」

「はい」

 話の区切りがついた時点で、龍元の傍らに立っていた星堂寺勇人が口を開く。

「しかし、エンド・オブ・ザ・ワールドに一護君達が突入してたった一日で、今度は扉と鍵穴そのものが崩壊の危険にさらされるとは・・・」

「それに・・・まさか重要様とギュスターブが、入れ替わっていたなんて」

「まったく・・・」

 勇人と龍元は悔しかった。

 同じ仲間であった重要大事が倒すべき敵と入れ替わり、何食わぬ顔で自分達と長きに渡ってリュミエールで同じ時を過ごしていた。

 大事とは親しい友人であるはずの二人が、本物の大事とギュスターブが入れ替わっていることに気づいたのは、ドゥルガーから直接連絡を受けたときだった。

 結局二人は後手に回ってしまった。ゆえに、大切な友とその彼が世界から集めて来た一護達を危険な目に遭わせてしまった。こんなに悔しい思いを抱くのは初めてのことだった。

「申し上げます!」

そのとき、天幕の中にドゥルガーの側近が入ってくると、畏まった態度で報告をする。

「死神代行、黒崎一護。ボンゴレX世(デーチモ)、沢田綱吉。高町なのは一等空尉。並びに要救護者笹川京子を保護しました!」

龍元と勇人は報告を聞くや、慌てて天幕から飛び出していく。

 ドゥルガーは無表情に近い顔で軽くコクッと頷き、二人とは対照的にゆっくりと歩きはじめる。

 

早朝6時―――。

朝靄(もや)が立ち込める桜華国の草原において、エンド・オブ・ザ・ワールドから強制送還されてきた一護、綱吉、なのは、京子の三人がうつ伏せに倒れている。

完全虚(ホロウ)化し暴走していた一護と綱吉は大事の施した術の効果で(ホロウ)化が解除され、元の人間の姿に戻っていた。

いずれも衰弱した様子で、全身ボロボロの状態。

連絡を受けた夜御倉はやてを始めとする三世界組の非戦闘要員、並びに世界の意志達は一護達の元へ向かった。

「お願いだ!! どいてくれえええ!!!」

 パニックに陥っているのは沢田綱吉。

 上半身が裸に近い状態の綱吉はぐったりとした京子を抱えながら、彼女の手当てに向おうとし、そんな彼を止めるのは意識を取り戻したなのはや世界の意志達。

「ツナ君落ち着いて!!」

「京子ちゃんを! 京子ちゃんを助けないとならないんだっ!!」

「いま、救護班を呼んでいる。まずは自分の体を・・・」

「そんなの待っていられるかっ!」

 興奮した綱吉は衝動で世界の意志を殴りつける。

「押さえろ!」

歯止めがきかない彼を落ち着かせるため、荒っぽい方法で世界の意志達は綱吉を抑え込もうとする。

「放せっ!! お願いだ!! 京子ちゃんが・・・このままじゃ京子ちゃんが!!」

「おやめなさい」

 不意に周りを戒める声が聞こえた。

 声に反応した綱吉となのは、世界の意志が振り返ると―――現れたのはワールドウィルシステムの管制人格の人間態こと、ドゥルガー。

「あ、あなたは・・・?!」

「なんなんですか・・・一体!?」

「私はワールドウィルシステムの管制人格ドゥルガー。一言で言えば、世界の意志達全員の代表です」

 簡潔に自分のプロフィールを二人に説明したドゥルガーは、ギュスターブによって胸部を貫かれ、無理矢理内なる(ホロウ)の力を解放せられた一護の容態を憂慮(ゆうりょ)する。彼は綱吉やなのはと違って、未だに目を覚まそうとしないのだ。

「失礼します」

 そこへ、龍元と勇人に連れられ織姫やシャマルらが現場に到着する。

「黒崎君!」

「なのはちゃん! ツナ君!」

「シャマル先生! 京子ちゃんが!」

「京子ちゃんを助けてください!」

「わかってるわ。頑張って、京子ちゃん!」

 織姫とシャマルは協力して、一護と治療に当たることにした。

「黒崎君! しっかりして!」

 胸部を貫かれ意識を失っている一護に呼びかけながら、織姫は双天帰盾(そうてんきしゅん)の結界内に閉じ込め、治癒を行う。

 シャマルは生気を失い真っ白な肌の京子の体をクラールヴィントの補助のもと治癒魔法で何とか治療を試みる。

「京子ちゃん!」

 望みをシャマルに託し、綱吉となのはは京子の様子を見守った。

 ピキピキ・・・。

「な・・・なにこれ・・・?」

 シャマルは治癒を掛け始めるとすぐに、今まで感じたことのない違和感を覚える。

 まるで魔法を拒絶するような違和感。クラールヴィントの本体を保護している指輪に亀裂が生じる。

 ピキ・・・ピキン!

「「きゃ!」」

 一瞬の出来事だった。シャマルの愛機、風のリングクラールヴィントの外装が砕け散り、京子に掛けていた治癒の魔法が強い力で弾かれた。

「「京子ちゃん!」」

「どうして・・・!?」

 恐る恐るシャマルが京子の体をひっくり返してみると、目を見開き瞳から光を失った冷たい体の彼女がシャマルに無言で何かを伝える。

「あ・・・・・・///」

「シャマル先生・・・・・・」

「シャマルさん・・・シャマルさん!!!」

 言葉を詰まらせたシャマルになのはが嫌な予感を抱く中、綱吉は京子に治癒魔法を掛けることを突然止めてしまった彼女に詰め寄り、肩を強く揺らして必死に懇願する。

「どうしたんですか!? お願いします! お願いします!!「無駄です」

 抑揚のない無機質な声が綱吉の耳に入り込む。

 声を発したのはドゥルガーで、彼女は渋い表情で京子を見ながら綱吉となのはに包み隠さず伝える。

「その娘は、既にエンド・オブ・ザ・ワールドの空気に当てられ―――かの地の者となってしまっています。光の世界に生きる我々の力は及びません」

 光の世界と呼ばれるカテゴリーに属する生命が闇の世界に足を踏み入れた場合、生活環境が全く異なる場所、それも光とは対を為す負の力で支配された世界の空気を長く吸い過ぎた結果、京子の心は闇の世界に捕われ、光の世界の力を受け付けなくなった。

 いかなる魔法や奇跡でも、光の世界を管理する立場の世界の意志の力ですら京子の症状を治すことはできないのである。

 綱吉となのははあってはならない絶望的な事実を聞かされ、絶句する。

「そんな・・・・・・そんなこと・・・///」

「うそ・・・ですよね・・・・・・・・・///」

「すべては、あなた方の軽はずみな行動が起こしたことなのです」

 軽蔑の眼差しとも違う、世界の意志としての立場からくる厳しい言葉。

 そんな言葉をドゥルガーから掛けられた綱吉は、心が壊れたように絶望に満ちた表情を浮かべ、必死の覚悟で助けようとした大切な人を守れなかった自分自身を激しく呪った。

「あ・・・あ・・・///あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 どうしようもない残酷な現実。

 14歳の綱吉にはあまりに重すぎる仕打ちだったことだろう。

 悔しい思いで泣き叫ぶ綱吉の隣で、なのはも織姫も、そして意識を取り戻そうとしている一護の双眸(そうぼう)からも一筋の涙が零れ落ちる。

「京子ちゃぁぁぁ―――――――――――――――ん!!!!!!!!!!!!」

 

 怪我の癒えた一護、綱吉、なのはの三人は京子が眠る天幕の中で静かに項垂(うなだ)れている。

 悔恨(かいこん)の念でいっぱいの三人の前にあるベッドの中で、仮死状態の京子が静かに眠りつづける。

 死人同然の彼女を助けられなかったばかりか、ここまで一緒に戦い続けてきたかけがえのない仲間の多くをエンド・オブ・ザ・ワールドへと置いて来てしまったという激しい後悔と罪の意識が、三人の心を締め付ける。

『どうやらあなた方は、勝手な判断でエンド・オブ・ザ・ワールドへ乗り込み、騒ぎを大きくして来たようですね』

厳格に世界の意志としての使命を全うしようとするワールドウィルシステム、ドゥルガーの箴言(しんげん)が三人の脳裏を過る。

『絶対に交わることのない光と闇の世界に風穴を開け、絶対に壊すことができぬとされていた世界の扉と鍵穴を、あなた方二人の中の魔物が破壊した。それはすなわち、光の世界すべてが闇の世界と融合し―――虚無と化すること。あなた方の行動は、すべての世界の命を危険にさらすことになったのですよ』

「ぐううう・・・・・・!!」

「オレは・・・・・・オレは・・・・・・!!」

「なにもできなかった・・・・・・また・・・・・・なにも守れなかった・・・・・・///」

 震える声で、ただただ泣き続ける綱吉となのはの(てのひら)に涙が滴となって零れ落ちる。

 一護は自分の手で顔を覆い隠すと、重要大事の姿でこれまでリュミエールで時をともにした存在が、ギュスターブであるとも気づけず彼の良いように利用されていたことに、この上も無い悔しさと怒りを覚える。

「俺は・・・あいつに・・・ギュスターブの手の上で踊らされていたんだ・・・・・・く・・・くそおおおおおおおおおおお!!!」

 “世界はいつもこんなはずじゃないことばかり”―――と言われるが、まさしくこの状況こそがそうだろう。

 世界は唐突に残酷で非情な現実を突きつける。

 戦争や大災害、凶悪な犯罪に至るまですべてが気まぐれに人間の運命を翻弄する。

 順風満帆(じゅんぷうまんぱん)に見えた人間が突然人生の憂き目に遭ったり、その逆の場合も想定される。要するに、この世界に予定調和(よていちょうわ)などありはしない。

どうすることもできない現実に直面したとき、人はその現実に立ち向かうか、あるいは背を向けて逃げるかの判断を迫られるが、彼らの場合はどんな選択肢に及ぶのか―――

「失礼します」

 そのとき、天幕の外から柔らかい声が聞こえ、おもむろに振り返る。

 現れたのは夜御倉龍元とその肩に腰を下ろしたアルコバレーノ・リボーン。

「龍元さん・・・」

「リボーンも・・・」

 二人が現れてすぐ、三人は挙って目線を下げ彼らの視線から遠ざかる。

「みなさん。どうして、目を合わせないのですか?」

 優しく龍元が問いかけると、一護は綱吉となのはの気持ちを代表し、震える声で呟く。

「俺は・・・俺たちは、ルキアを・・・獄寺を・・・フェイトを・・・みんなを置いて来ちまった・・・その上京子も・・・!」

「リボーン! オレはみんなに・・・・・・///」

「ううう・・・///」

 胸に手を当て小刻みに体を震わせる中―――弱々しい三人を凝視していたリボーンが龍元の肩から降り、無表情に呟く。

「そいつがどうした?」

「え・・・」

 驚くほど呆気ない言葉が返ってきたことに、一護達は唖然とする。

「リボーン君・・・」

 なのはがおもむろに口を開いた直後、綱吉が詰め寄りリボーンに向かって強く言う。

「リボーン! みんなが、獄寺君達がエンド・オブ・ザ・ワールドに捕われたんだぞ!」

「それに大事も!! あいつは・・・俺らを逃がすために・・・!」

 一護は自分達を逃がすために最後の力を振り絞った世界の意志、重要大事の事を考えると、胸が締め付けられる。

 大事はギュスターブの奸計(かんけい)により、肉体と精神を乗っ取られた上ギュスターブだと思っていた一護達と激闘を繰り広げ、深く傷ついた。

 にもかかわらず、暴走した一護と綱吉を助け、更にはエンド・オブ・ザ・ワールドから逃がすという行動にまで至った彼の心意気にどう応えていいのかわからない。

 思い悩む一護、綱吉、なのはを見ながら、龍元とリボーンはそれぞれに言う。

「重要様は誇りある世界の意志です。その行動には覚悟があります」

「龍元の言う通りだ。あいつや獄寺達がお前らだけを逃がしたのなら、その意味をよく考えろ」

 聞いていた一護、綱吉、なのはの三人は目を見開く。

 リボーンは「邪魔したな」と一言言い、龍元の肩に乗って天幕から出て行こうとした―――次の瞬間。

「「「!」」」

 ベッドで寝ていた京子の体から淡い光が漏れ出ると、光は徐々に強くなり始め、生気を失い仮死状態だった彼女に生命力を取り戻す。

「京子ちゃん!」

「京子!!」

「京子ちゃん!」

 龍元やリボーンもこの事態に目を奪われる中、京子の体が白色から生命力に満ちた肌色に変わり、息を吹き返す。

「けっほ! げっほ!」

「京子ちゃん!!」

「おい! 京子!!」

 息を吹き返した京子を心配する一護、綱吉、なのはの三人。

 龍元は血相を変えて天幕を出ると、周りを熱心に見渡す。

「どうなさいました?」

 と、天幕の外で番をしていた勇人が声を掛けたとき―――龍元はお目当ての人物である井上織姫とシャマルを見つけ、二人を手招く。

「入ってください!」

「「はい!」」

 駆け足で天幕の中へと入った二人は、息を吹き返した京子に改めて治癒を施し、京子はエンド・オブ・ザ・ワールドの闇の力から奇跡的に解放された。

 

 夕方―――。

引き続きリュミエールではエンド・オブ・ザ・ワールドから流れ出る闇の空気の拡大を抑えるため、世界の意志達が風穴の空いた巨大な入り口付近で結界を展開している。

 その間、一護達はドゥルガーの判断に基づき夜御倉邸で軟禁状態となっていた。

屋敷の外には堅牢な結界が施されており、余程の力でない限りこの結界を破壊することは難しい。

 京子は屋敷に戻されると、ハルやイーピンらが見守る中、布団の中で安眠。ハル達も彼女の近くで眠っている。

 織姫、シャマル、フレックスの三人はハルとイーピン、フゥ太に布団をかぶせてから起こさないように物音を立てずに襖を開け、寝顔を確認してからゆっくりと閉じる。

 大広間へと向かうと、はやて(L)やシンを始め、軟禁中の一護達三人がソファーの上で思案している様子。

 

『あいつや獄寺達がお前らだけを逃がしたのなら、その意味をよく考えろ』

 

 リボーンが口にした言葉を何度も何度も頭の中で反芻(はんすう)させ、彼が自分達に何を伝えようとしたのか。そして、エンド・オブ・ザ・ワールドに捕われた大事や獄寺達が自分達に何を託したのか、その意味を思案する。

 思案した結果―――ひとつの答えを導き出した。

 三人の中に答えが出た直後、廊下を歩いてきた織姫、シャマル、フレックスが戻ってくる。

「織姫さん。シャマルさん。フレックスさん」

「井上、京子は?」

「うん。少し落ち着いたみたい。今はハルちゃん達と一緒にいる」

「織姫ちゃん。シャマル先生も、ありがとうございます」

 なのはは京子を助けるために朝から付っきりで治療に当たってくれた織姫とシャマルに深々と頭を下げ、礼を言う。

「いいえ、みんなのおかげですよ♪」

「医者として私は当然のことをしたまでよ」

「ふたりとも・・・本当にありがとうございます」

 京子が助かったことに安堵(あんど)していた綱吉は、喜びと不安を内包した声で呟き―――顎に手を当てた状態で椅子に座る。

「みなさまも色々と心労が溜まっていることと思います。フレックス。紅茶を淹れてあげてください」

「畏まりました」

 はやて(L)に会釈したフレックスは、全員分の紅茶を淹れに台所へと向かう。

 そんな中、織姫は朝とは異なりどこか吹っ切れた様子の一護、綱吉、なのはの表情から彼らの考えていることを洞察し、おもむろに尋ねる。

「黒崎君」

「ん」

「もう一度、ツナ君となのはさんと一緒に・・・行くの?」

 織姫の言葉を聞くと、綱吉となのはが敢えて口籠る中―――決意の籠った瞳で一護は「ああ」と呟く。

「ママ・・・・・・」

 再びなのはがエンド・オブ・ザ・ワールドへ向かうということを知ったヴィヴィオは、なのはの元へと歩み寄り寂しそうな瞳で彼女を見る。

 何者にも変えがたい大切な我が子を優しく抱きしめると―――なのはは目を瞑り、娘の頭を撫でながら口にする。

「ごめんね、ヴィヴィオ。寂しい思いばっかりさせて。だけど、私たちはここで逃げたりしちゃいけないと思うの」

「エンド・オブ・ザ・ワールドに飲まれたはずの京子ちゃんが、息を吹き返したんだ。獄寺君達だって助けられるはずなんだ・・・」

 綱吉がなのはの言葉に便乗して言ってくると、たちまち織姫の表情が曇り出す。

「でも、今度また・・・!」

「分かってる」

一護は織姫の不安を掻き消すように、圧を伴いながらもどこか聞いている者を安心させるような声色で言ってくる。

「行ってまた(ホロウ)化が暴走したら、今度は正真正銘世界をぶっ壊しちまうかもしれねェ・・・・・・ドゥルガーの言う通りだ。だけど、俺は二度と暴走しねぇ」

「オレも、絶対に暴走なんかしない!」

どんな結末が待ち受けているかはわからない。だがそれでも一護達は仲間を助けにエンド・オブ・ザ・ワールドへ向かうことを決意した。

しかし、エンド・オブ・ザ・ワールドで待ち受けるギュスターブの策に嵌って、(ホロウ)化するかもしれないという一抹の不安があった。一護と綱吉はそんな恐怖を抱えつつ、強い心を持ち、(ホロウ)化しないということを宣言する。

「ギュスターブは強かった・・・みんな、あいつには歯が立たなかった。それを(ホロウ)化もせずに勝てるなんて言えない! でも!! 勝たなきゃいけねぇんだ!!」

 拳を無意識のうちに強く握りしめる一護の言葉に、全員の視線が向けられる。

「そうでなきゃ―――」

「そうでなきゃ・・・」

「そうでなきゃ!」

 一護、綱吉、なのはの三人が挙ってこの場にいる者全員の方へと顔を向け―――全く同じ内容の言葉を口にする。

「「「(オレ)(私)たちに命を託してくれたみんなに顔向けできねぇ(ないよ)!!」」」

 屋敷で三人の言葉を聞いた者全員が心の中で述懐(じゅっかい)する。

 彼らの意思は、決して折れることは無い。その鋼の意思の力で、この絶望的な現実に立ち向かい、勝利を掴みとってくれるに違い―――と。

 織姫とヴィヴィオは一護となのはの胸元に顔を沈め、震える声で呟く。

「必ず・・・・・・必ず、戻ってきて」

「ママも・・・絶対に」

 そして、リボーンの場合は帽子のつばを上げると、口元を緩め綱吉に向かって―――

「死ぬ気で行って来い」

 と、言ってきた。

 周りにいる者の理解を得、ギュスターブとの最後の戦いに身を投じる覚悟を決めた一護、綱吉、なのはの三人は沈む夕陽を見ながら縁側に立ち尽くす。

 そして、中央に立つ一護は右隣の綱吉、左隣のなのはに声を掛ける。

「いくぜ。ツナ。なのは」

「「はい(うん)」」

 

 

桜華国上空 エンド・オブザ・ワールド入口付近

 

終日(ひもすがら)エンド・オブ・ザ・ワールドから流れ出る空気の拡散を防ぎつつ、闇の力が及ばないように尽力している世界の意志達。

そんな折、一護達の監視をしていた見張り役が、龍元と勇人の前に現れる。

「報告します。軟禁中の死神代行、黒崎一護。ボンゴレX世(デーチモ)、沢田綱吉。高町なのは一等空尉の三名が結界を破壊し、こちらに向かっている模様です」

「一護さん達が?」

「厄介なことになってきたな・・・龍元さん!」

「とにかく、今は穴の修復が第一です」

「わかりました。では彼らは僕が―――」

 勇人がファイヤーエンに変身して一護達の向かおうとすると、振り返った先に立っていたのは、斬月を肩に乗せた一護と(ハイパー)死ぬ気モードの綱吉、そしてエクシードモードとなったなのは。

 世界の意志達が臨戦態勢となる中、ファイヤーエンとなった勇人は眉間に皺を寄せながら三人に尋ねる。

「何の真似だい? 重要様とみんなの仇を、討ちに行くつもりかい?」

 勇人の問いかけに三人は答えず、世界の意志達を凝視する。

「ならば、尚更行かせるわけには行きません。もう一度一護さんとツナさんが暴走したら、今度は・・・」

 龍元が想定される危険性を口にした直後、一護は「卍解」と低い声で呟く。

 天鎖斬月を手にした一護は綱吉、なのはと顔を見合わせ、おもむろに龍元と勇人に告げる。

「俺たちは、仲間を助けに行くだけだ」

「みんな・・・・・・」

 

 ドン・・・。ドン・・・。

 

不意に穴の向こう側から聞こえてくる物音。

 急激に増大する闇の力に、それを抑え込んでいる術士達も冷や汗をかく。

 

 ドン・・・。ドン・・・。

 ドドン・・・。ドドン・・・。

 

「今度は何だ!?」

額に汗を滲ませ、穴の向こう側から出現する強大な力に息を飲む。

歪んだ空間に開けられた巨大な穴を通って、リュミエールへと姿を現すのは―――エンド・オブ・ザ・ワールドに生息する心を失った怪物の集合体、ハートレスのダークサイド。

ダークサイドは光の世界に溢れかえる純度の高い心に惹かれ、エンド・オブ・ザ・ワールドを飛び出してきた。

「防御態勢! ハートレスを光の世界に漏らさない様に!」

ただちにダークサイドに対して防御態勢を展開する世界の意志達。

その一瞬の隙を見計らい、一護、綱吉、なのはの三人はダークサイドが通って来たエンド・オブ・ザ・ワールドへと続く穴の中へと侵入する。

「みなさん!」

「放っておきましょう、龍元さん」

勇人は巨大なダークサイドを相手にするため、パワーダグオンに合体変形。

ロボットの姿になった状態から龍元に呼びかける。

「今は彼らを信じて自分の為すべきことをしましょう」

 と、そのとき―――リュミエールに侵入していたダークサイド目掛けて直射魔力砲撃が飛んでくる。

 世界の意志達が不振に思って振り返ると、一護達をエンド・オブ・ザ・ワールドに向かわせるため結界破壊に尽力してくれた夜御倉はやてとシンを始め、此度のリュミエール危機に集まってくれた世界国家騎士団の隊長各が一堂に会する。

「我々も手伝います!」

「騎士の誇りに懸けて、この世界は我々の手で護る! さぁいこう! 我らとこの光の大地に剣と大樹の導きを!!」

「「「「「「「「「「剣と大樹の導きを!!!!!!」」」」」」」」」」

それは、国家騎士団らしさを最も反映した言葉である。

世界の意志達ですら予期しえなかったサプライズ。

前代未聞、未曽有(みぞう)の危機にこれだけの戦力が一堂に会するとは夢にも思わなかった龍元と勇人は嬉しくなり―――胸の奥が熱くなるのを感じた。

「―――ありがとうございます!」

「では、共に戦いましょう!」

 世界の意志達と協力して、リュミエールの主要戦力は穴の向こうから出現するダークサイドの侵入を全身全霊の力でもって食い止める。

奥義(おうぎ)深淵(しんえん)!」

「響け終焉の笛!! ラグナロク ver(バージョン).U-D !!!」

 桜華国随一の戦闘力を誇るはやて(L)とシンが繰り出す最強技が、ダークサイドの侵攻を大いに阻む。

 一護達はリュミエールの人々の心遣い、彼らとともに過ごした時間、一緒に戦ったことなどを走馬灯のように思い返しながら、深淵の闇へと続く穴をひたすら下って行く。

 エンド・オブ・ザ・ワールドへ突入すると、すぐさま三人の心に惹かれた有象無象(うぞうむぞう)のダークサイドの腕が襲い掛かる。

「「「ほ(は)おおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!」」」

 ダークサイドの攻撃を躱し、三人はわき目もふらずにギュスターブが待ち受ける最下層へと向かう。

 第一階層、第二階層、第三階層のさらに下―――エンド・オブ・ザ・ワールドの最下層にはこれまでとは比べ物にならない闇と、捕われた仲間達が待っている。

 一護、綱吉、なのはの三人に迷いはない。何が何でも仲間を助け出すという固い意志と覚悟が彼らの魂を突き動かす。

 

 

『お兄ちゃん、お父さんとお母さん帰ってくる?』

ノア計画によって大津波が引き起こされ、それによって両親と家を失った現地の幼子ふたりとギュスターブは親しくなった。

基礎だけとなった家々の周りを歩きながら、近場の避難所へと向かう途中、小学校に入って間もない少女がギュスターブの手を握りながらおもむろに尋ねる。

少女の言葉が、ギュスターブの心に深く突き刺さる。

罪の意識に苛まれる中、ギュスターブは小さくて仄かに温かい少女の手をぎゅっと握り返した。

『君達の両親は違うところへ去ってしまった。これから先は二人で強く生きていかないといけないよ』

 避難所へと着くと、絶望的な状況の中を懸命にひたむきに生きようとする幼子二人をギュスターブは我が子のように大切にした。

 僅かな食料と水を分け合い、姉と弟の二人きりで強く生きる姿に感嘆とするギュスターブは彼らと時を過ごすうちにノア計画を起こした自らの罪の意識から幾ばくか解放されるようになった。

『だけど、心配しないで』

 夜になり、避難所の布団でくっついて眠る二人を寝かしつけるギュスターブ。

 もうじき眠りにつこうとする少女は、父母を失ったことに対して気丈に振る舞いつつ、双眸(そうぼう)からは涙をこぼしている。

 ギュスターブは少女と弟の体に毛布をかぶせ、二人の頭を撫でながらひとつの誓いを立てる。

『君達が希望を持てるような世界に、俺はしてみせる。約束する』

・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・

 ・・・・・・

 ・・・

 

 

エンド・オブ・ザ・ワールド 最下層

 

 第三階層を越えたさらにその下、エンド・オブ・ザ・ワールドの最下層に広がる灼熱の溶岩と濃厚な闇に覆われた不毛の世界。

 ギュスターブはこの地で、かつて心の底から護りたいと強く思った者達にまつわる記憶を夢に見ていた。

 彼らを失い、世界の意志の力も及ばない壁につきあたったことでギュスターブの心は壊れ、複雑に歪み、積年の恨みが彼を稀代(きだい)の最悪手へとしたてあげた。

 そして、この地に足を踏み入れ―――捕われの仲間達を助けに雲を突き抜けてくる三人の人物の姿を捕える。

「はっ。自ら来たか」

 暗雲を突き出た青、(だいだい)、桜色の光は溶岩に覆われた不毛の地へと降り立つ。

 ギュスターブはこの地に足を踏み入れた一護、綱吉、なのはの三人を歓迎し、地面に突き刺していた刀を手に取る。

「本当は迎えに行こうと思っていたが、こうしてまたお前らの方からやって来るとはな・・・沢田綱吉。あの娘の復讐か?」

「京子は助かった」

 それを聞き、意外そうな表情を浮かべたギュスターブは直ぐに歪んだ笑みを浮かべる。

「驚いたな。じゃあどうして戻ってきた?」

 ギュスターブの問いかけに、なのははレイジングハートの先端を突き付けるように立ち尽くし、一言呟く。

「私たちは、仲間を助けに来た。みんなを返してもらうよ!」

「助けに? はは・・・それはまた勇ましいものだ。だがお前達はここをまだ分かっていないようだな。奴らはエンド・オブ・ザ・ワールドに捕われた。見ろ」

 そのとき、一護達の目に飛び込んできたのは―――闇の力に捕われ、生命力を著しく失い体が腐りかけた仲間達が鎖に繋がれ吊るされた姿。

「チャド! 恋次!」

「獄寺! 雲雀!」

「ヴィータちゃん! ティアナ!」

「こいつらはまだ闇に染まり切っていない。助けたいなら俺を(たお)してみろ。それが一番手っ取り早い。もっとも・・・(たお)せたらの話だがな」

「おめぇは俺たちで倒す!!」

「いくよ!」

 刹那(せつな)―――地面を強く蹴り、ギュスターブに向かって飛び出した。

「ふおおおおおおおおおおおお!!!!」

 先手を切った一護は、月牙を圧縮した刀を力一杯振り下ろす。

 容易に異能の刀で斬撃を受け止めたギュスターブは、一護の下腹部に蹴りを入れ―――彼方へと飛ばす。

「ナッツ!! 形態変化(カンビオ・フォルマ)!!」

 Ⅰ世のガントレット(ミテーナ・ディ・ボンゴレ・プリーモ)を装備した綱吉は、至近距離からのビックバンアクセルでギュスターブを攻撃する。

「はあああああ!!!」

 ドカーン!! 凄まじい爆発が起こった瞬間、拳を受け止めたギュスターブは力一杯綱吉を投げ飛ばし、一護同様軽くあしらう。

「エクセリオン―――ッ!! バスター!!」

 頭上から降り注ぐ大威力の直射型魔法砲撃。

 桜色に輝くなのはのエクセリオンバスターを回避したギュスターブは、凶悪な瞳でなのはの元へと飛んで行き、刀を振りかざす。

 空中において、なのははギュスターブと激しい撃ち合いを繰り広げ、劣勢という状況に立たされながら、不屈の心で足搔きつづける。

「悲しい思いも、何もかも―――終わらせてみせる!!」

 言うと、マガジンに込められたカートリッジを三発消費し、レイジングハートの先端に魔力でできた突撃フレームを展開。

〈A.C.S. Standby〉

「あなたの絶望も哀しみも、私たちが止める! 行くよ、レイジングハート!!」

 足元から莫大な魔力を放出させ、なのははギュスターブ目掛けて突撃。

〈Strike Flame〉

「エクセリオンバスター! A.C.S! ドライブッ!!」

 魔力にブーストで、加速した瞬間―――なのはとレイジングハートはギュスターブの懐へと飛び込み、渾身の一撃を叩きこむ。

 カキンッ!

ところが、ギュスターブはストライクフレームを一瞬にして斬り裂き、なのはに対して歪んだ笑みを浮かべる。

「悪いな。終わらせるのは俺の仕事だ―――」

 途端、なのははギュスターブの異能の刀によって体を斬り裂かれる。

「がっは・・・」

「「なのは!!」」

 レイジングハートごと左肩に掛けて深く斬られたなのはは、不毛の大地へと墜落。

 咄嗟(とっさ)に一護と綱吉が彼女のクッションになったお陰で、命拾いはしたものの、既に真面に戦える状態ではなかった。

「このっ!!」

 嚇怒(かくど)した一護と綱吉は二人がかりでギュスターブに立ち向かい、拳と剣戟(けんげき)を交互に撃ち合い白兵戦を繰り広げる。

「月牙っ!!! 天衝!!!」

「バーニングアクセル!!」

 至近距離から月牙と火球が繰り出される中、異能の鎖と炎で二つの力を相殺(そうさい)させたギュスターブは、歪んだ表情で二人の体に刀傷を負わせると、負傷した二人の頭部を鷲掴みに―――大地へと向かって落ちていく。

「馬鹿が。仮面も出さずに本気で勝てると思っているのか?!」

「「ぐああああ!!」」

 髑髏(どくろ)の形をした岩に叩きつけられた二人は、なんとか体制を立て直しその後もギュスターブと攻防を繰り広げるが、圧倒的な劣勢に立たされている。

「甘いんだよ! お前らがどんな思いで挑んで来ようと、今のままじゃ通じねェ!」

 恨み、辛みの籠ったギュスターブの攻撃の前には歯が立たず、一護と綱吉は容易に傷つき大地を転がる。

「月牙、天衝!!」

 勢い余って大地から転がり落ち、溶岩の中へと落ちそうになった一護は、咄嗟(とっさ)に月牙を撃って状況を立て直す。

 大地を激しく削る圧倒的な威力を誇る一護の斬撃の余波を受けるギュスターブは歪んだ笑みを浮かべる。

「そうだ! ははははは!!!」

 月牙の威力を掻き消したギュスターブは、綱吉とともに戻ってきた一護に刀を構える。

「ぐ、ああああああ・・・!」

「どうした?! いち・・・ご・・・!!」

 一護の異変を気に掛けた綱吉もまた、自らの体の異変に険しい顔を浮かべる。

 エンド・オブ・ザ・ワールドの最下層に充満する闇の力の影響で、二人の中の(ホロウ)の力が呼び起され、彼らの理性を(むしば)み急速に仮面を生み出す。

「いち・・・ご・・・くん・・・つな・・・くん・・・」

 体を引きずり二人の元へと這って来たなのはは、(ホロウ)化暴走の危険性を(はら)んだ二人を見ながら、左肩の痛みを堪える。

「「ぐうう・・・ぐああああ!」」

 辛うじて(ホロウ)の力を拒絶した一護と綱吉だが、肉体的な疲労はピークに達しており、息もかなり上がっている。

「どうした、何を怖がっている?」

 そんな二人を嘲笑うように、ギュスターブは言葉を紡ぐ。

 一瞬で二人の背後をとったギュスターブは異能の刀を肩に担ぎながら、耳元で(ささや)き、それに反応した一護と綱吉を弄びながら、肩に手を当てる。

「知らない自分が全てを破壊してしまうかもしれないからか?」

 二人の恐怖を仰ぐと、異能の鎖で体を縛り付け一護と綱吉の体を投げ飛ばす。

「だったらこんなところまで・・・来んじゃねぇ!」

「「ぐあああああ」」

 地面に激しく叩き付けらえた二人。

 ギュスターブは鎖を操りやりたい放題に彼らの体を叩きつける。

「あの娘が助かったのも、お前達があの化け物になれたお陰だろう? あれがいねぇとお前らは何もできねぇ!!」

 恨みの斬撃を放たれ、一護と綱吉は鎖を千切られるとともに岩場に激突。

 ギュスターブの成すがままに一護達が圧倒される状況と、真面に体を動かすことができない惨めな姿になのはは憤りと、悔恨(かいこん)の念を抱く。

 身も心も疲弊(ひへい)満身創痍(そうい)な二人の体に体重をかけ、ギュスターブは冷たい眼差しで言い放つ。

「教えてやろうか。どんなに思っても叶えられない絶望の中で自分を貫けるものが何か・・・それは『怨念』なんだ」

 言うと、ギュスターブは一護と綱吉の顔を踏みつける。

「復讐心だけが俺を強くした。ほらどうした?」

 地面に亀裂が生じると、岩場の奥からドロドロに溶けた溶岩が流れ込んでき、それが偶然にも一護と綱吉の手に触れる。

「「ぐあああああああああああ!!!」」

「はははははは!!!!」

 溶岩の熱に悲鳴を上げる二人を笑いながら、ギュスターブはその場から離れる。

 爆発した溶岩は一護と綱吉を吹き飛ばし、二人が身に纏っていた衣服を灼熱の炎で焼き焦がす。

「「ぐあああ」」

 無造作に地面に叩きつけられ、勢いよく転がる。

「もっと俺を憎め! そうすればお前らも俺の様にもっと強くなれる!!」

 ギュスターブは焼け焦げた服を脱ぎ捨て、右半身がミイラ化した体をあからさまに見せつけながら一護と綱吉の憎しみを増長させる。

 おもむろに二人に近付くと、持っていた異能の刀で二人の体を斬り裂き―――身動きの取れない二人の体に鎖を巻きつけ、力任せに岩場に叩きつける。

「ははははははは!!!!!」

 狂った瞳でふたりを痛めつけたギュスターブは、空中から勢いをつけ、異能の刀二本で一護と綱吉の体を貫いた。

 グッサ・・・。

「「がああああああ」」

「一護君!!! ツナ君!!!」

 なのはの目の前でギュスターブは一護と綱吉に対して、あまりに残酷極まりない仕打ちを行う。

 挙句、二人を虚化させるため―――狂気に支配された笑みを浮かべながら呟く。

「なんならここで全員・・・皆殺しにしてやろうか?」

 

 ドクン・・・。ドクン・・・。

 

 刹那(せつな)―――魂の内側に眠る(ホロウ)の力が呼び起され、禍々(まがまが)しい霊圧を(たぎ)らせ二人の理性を取り込み、完全なる(ホロウ)の形へと変貌させようとする。

「「グ・・・グアアアアアアアアアアアアア!!!」」

 (ホロウ)に飲み込まれようとする一護と綱吉の苦しむ姿を見ながら、ギュスターブは高笑い。

「そうだ、それでいい。一度暴走した体だ! 二度目は簡単なはずだ。お前らはどうせあの化け物からは逃れられないんだ! 想いだけじゃ、どうにもなんねぇんだよ!」

 無情な言葉を突き付けるギュスターブと、そんな彼の言葉も耳に入れられないほどに苦しみ(あえ)ぐ一護と綱吉の姿に、なのはは悲壮(ひそう)に満ちた瞳で見つめる。

「一護・・・くん・・・ツナ・・・くん・・・!」

 すると、ギュスターブがなのはの元に駆け寄り、動けない彼女の体を無造作に持ち上げる。

「騒ぐな。ここからが始まりだよ」

 

 ・・・心ヲ喰ワセロ。

 ―――心・・・俺ニ喰ワセロ。

 

 脳裏に聞こえる不気味な声。

 冷や汗をかきながらなのはが周りを見渡すと、不毛の地へと突如として集まり始める有象無象の黒い巨人。

 すべて、強き心に惹かれてきたハートレスの集合体であるダークサイド。

「聞こえるか一護、ツナ。ダークサイド共はお前らの中から心が無くなりかけていることに危機感を抱いているようだぜ」

 岩場を破壊し、ダークサイドは(ホロウ)に飲まれ心を失いかけている二人の元へと急ぎ、我先にと心に食らいつこうとしている。

「すぐにお前達の心を喰らいにやってくる。(ホロウ)化して心が無くなる前に自分が喰らい尽くしたいのさ! ハートレスって存在はどこまで行っても心無き者! 無限に心を喰らい続けるしかねぇからな!」

心というものに強く惹かれるがゆえに、ハートレスが持つ摂食行為と言う本能はとりわけ強く、心が強ければ強い存在ほどハートレスを集めやすい。

 一護と綱吉はそうした強い心の持ち主ゆえにハートレスの本能を強く呼び起こした。

「ははははは! 早く怪物になれ一護! ツナ! それとも奴らに喰われるか!? 構わねぇさ、どの道お前らは永遠に繰り返すだけなんだ! 破壊と殺戮(さつりく)、あらゆる理不尽な運命に抗うこともできず、そうした理不尽の元に殺されるだけ! だけど俺ならその理不尽を超克(ちょうこく)しすべてを終わらせることができる!! さぁ、お前達の命で俺もこの世界の全てを変えられる! (ホロウ)化しろー!」

「違うよ!!」

 狂気に取り憑かれ雄弁に語っていたギュスターブの言葉に、今まで黙っていたなのはが口を開き―――きっぱりと主張する。

「命を奪って変わるものなんて何一つ無いよ・・・!!」

「ほざけ!! “敵を恨まず罪だけ憎む”ものなんぞを本気で信じている貴様らみたいな人間が何を言いやがる!!」

 なのはの言葉が気に食わなかったギュスターブは、異能の鎖で繋いだ彼女を一護と綱吉の元へと放り投げ、死の恐怖を味あわせる。

「はははは!!! 見てみろよ! その二人の姿を!!」

「・・・!!」

 目を見開き前を見ると、ほぼ九割近く完全な(ホロウ)に変身しようとしている二人が苦しみ(あえ)ぎながら、必死で抵抗を見せている。

 近くで見ると、本当に一護と綱吉なのかという疑心が強くなり、なのはは恐怖で体が硬直する。

「さぁ、どうした?! お前達が怪物となって世界の心を壊さねぇ限り、その苦しみからは逃れらねねぇぞ!!」

「誰ガ・・・ナルカヨ・・・」

 そのとき、(ホロウ)の力によって理性を抑え込まれているはずの一護がギュスターブの言葉に反応した。

「誰ガ・・・ナルカ」

 言いながら(ホロウ)の象徴たる頭の角をもぎ取り、綱吉自身も一護同様に抵抗の意思を見せ、顔を覆い尽くそうとしている仮面を剥し始める。

「想いガ通ジネェカら・・・復讐するナンテアルかヨ。ソレハただ、自分ノ苦しみを・・・周りのせいにしてるだけじゃねぇか・・・!」

「お前ハ復讐スル事で、苦しミカラ逃げてるダケダロ・・・!」

「一護君・・・ツナ君・・・」

 理性と本能のせめぎ合いを繰り返しながら、次第に理性の力で本能を抑え込もうとする一護と綱吉は、なのはの目の前で(ホロウ)化を解除しはじめ、高所に避難したギュスターブの元へと歩み出す。

「俺たちは・・・仲間を助けたい・・・!」

「だけど・・・そのために周りを犠牲にするなんてことは、しない!」

「誰かを殺したところで、新たな縁上(えんじょう)が生まれるだけ・・・こんな悲しいことは他にはないよ!!」

一護、綱吉、なのはの思いの丈がギュスターブの耳に届き、次第に苛立ちを抱くギュスターブは今にも斬りかかりたい気持ちだ。

有象無象のダークサイドが岩場に集まり始め、三人の周りを覆い囲む。

だがそんなことなど気にも留めず、一護、綱吉、なのはの三人は自分たちを見下ろすギュスターブに向かって―――

「俺は・・・!」

「オレは・・・!」

「私は・・・!」

直後、まったく同じ趣旨の言葉がギュスターブに向けられる。

「「「(オレ)(私)の魂にそう誓って・・・戦う!!!」」」

 

 ―――ドンッ!

 

 無情にも三人の頭上からダークサイドの巨大な手が振り下ろされる。

 直撃を避けられなかった三人はダークサイドの攻撃を受け、ギュスターブの目の前から姿を消した。

 暫しの沈黙がエンド・オブ・ザ・ワールド一帯の静謐(せいひつ)を保つ。

 そして、程なくしてダークサイドの手が覆いかぶさった箇所から、神々しく輝く黄金の光が漏れ出る。

 ギュスターブはこれを見て、狂ったように高笑いを浮かべる。

「ははははは! やっぱり暴走しやがった! いいぞ・・・そのままこいつらを蹴散らせ!」

 だが、暴走と言うには前回とは状況が異なっていた。

 一護と綱吉が(ホロウ)化による暴走を起こす場合、禍々しいまでの霊圧が周囲一帯に広がるのだ。対して今回はそうした霊圧は感知されず―――もっと暖かくて優しい力が三人を守っているようだった。

「!? なんだ・・・」

神々しい光は次第に強くなり始め、ダークサイドは全身を焼き尽くすまでの強い光に恐れを為して次々と退いて行く。

黄金の光は球状のドーム型へと変貌し、疲弊した三人の体を包み込む。

 

 

 気が付くと、三人は真っ白な光の中で意識を取り戻す。

 真っ先に目を開けた一護は、綱吉となのはを起こし意識を取り戻させると顔を見合わせ、この摩訶不思議(まかふしぎ)な状況に訝しむ。

『・・・なにがどうなってるんだ・・・?』

『オレたち、死んだんですかね?』

『でも、なんかそういう感じとも思えないし―――』

 と、困惑していた三人の耳に足音が聞こえてきた。

 足音に気づいた三人が光の先を見据えると、現れたのはこれまでに二度、なのはの前に姿を現し彼女の支えになって来た緑の甚平服(じんべいふく)と羽織、帽子と杖を携えた眼鏡の優男こと、ユーノ・スクライアだった。

『どうにか、間に合ったみたいだ』

『ユーノ君!!』

『なに? じゃあ、こいつが・・・!』

『でも、どうして!?』

 なのはがユーノの名前を口にすると、一護と綱吉は驚愕した様子で目の前のユーノを凝視する。

『本当はもうちょっと早く助けられれば良かったんだけど・・・なかなかうまくいかないものでさ。でも、よく諦めなかったね』

『え』

『やっぱり三人は、僕が知ってる三人だよ。一護さんもツナ君も、そしてなのはも最後まで諦めずに自分の意志を強く持てる人間だってことが、よく解った。だからこそ―――僕が三人を助けに来たんだ』

『ユーノ君・・・それじゃあ・・・』

『うん。前に約束したでしょ。“そのときが来たら助ける”って―――いまがそのときさ』

 おもむろにユーノは、六角形の紋章がデザインされた金の懐中時計を取出す。

 何かを始めようとしているユーノの行動に三人の関心が向けられると、ユーノは懐中時計の蓋を開け、青と橙と桜色に輝く小さな球状の光を放出。

『受け取って。これが僕から三人に与えることができる。この世界を救う最後の希望』

 光は三人の元へと飛んで行き、それぞれのパーソナルカラーに合わせて、一護には青の光、綱吉は橙の光、なのはは桜色の光を体に吸収する。

 刹那、目映いばかりの強烈な光を伴い、三人の意識は外へと向けられる。

 

 

 ドドドドドドドドド!!!!!

 

「ううう!!!」

 球状のドームが勢いよく破裂し、エンド・オブ・ザ・ワールドには存在しない聖なる光が照射されると、ギュスターブの周りのダークサイドが一瞬にして消滅する。

 さらに、ギュスターブに倒され闇の力に捕われていた闇の牢獄から、ルキア達が次々と解放される。

「なんだと!?」

 不審に思ったギュスターブが今一度辺りを見渡すと、土煙の向こう側から神々しい光を伴いドームの中から現れた三人の影を捕える。

 目を細くして土煙の中を覗き込むと、そこには予想外の展開が待ち受けていた。

 金色の霊圧を纏った左半身がパーツ構成で動きに干渉しない造りとなっている髑髏(どくろ)の甲冑に覆われた一護と、茶髪から金髪へと変わり漆黒のスーツにマントを羽織り、額とグローブから澄んだ大空の炎を灯す綱吉、青いカラーリングが特徴的な重剣あるいは長槍状の武装端末を左腕に装備し、その上エネルギーシールドを発生させるサイズの異なる三機の「多目的盾」と、身体に装着するアーマー状の「メインユニット」という重装甲となったサイドポニーのなのはが泰然たる態度で立ち尽くす。

「なんだ、その姿は!?」

 先ほどまで瀕死寸前だったはずの三人の変貌ぶりに、ギュスターブは大いに戸惑う。

「何をしやがった・・・」

 異能の刀を構え細い目で問いかけると、それに答えたのは一護でも綱吉でも、なのはでもない人物だった。

「命を奪わって変わるものなど何ひとつありはしない―――なのはが言ったことを覚えているかい?」

 見知らぬ声に反応し、体を捻ったギュスターブの後ろに立っていたのはユーノ。

「だ、誰だ貴様・・・!?」

「通りすがりの考古学者で駄菓子屋さ。覚えておくかい?」

「舐めてんじゃ、ねぇぞ!!」

 異能の鎖を操りユーノ目掛けて攻撃をすると―――ユーノは造作も無くこれを手持ちの直刀で受け止め、口元をつり上げる。

「な・・・!」

「鎖の使い方がなっちゃいないよ」

 ユーノが指を鳴らした途端、翡翠(ひすい)色に輝く魔法の鎖が雁字搦(がんじがら)めにギュスターブの体に巻き付き、彼の身動きを完璧に封じる。

「なんだこれは・・・! くそ!! なんで切れねぇ!」

 ユーノの仕掛けた魔法は、敵を捕縛するために用いられる拘束魔法のひとつ「チェーンバインド」―――魔導師として一定の能力を持つ者ならば誰でも使える。

 だが、世界の意志であるギュスターブの身動きを封じ込めるとなると話は別。他の魔導師とは比べ物にならない強度を誇り、ギュスターブの異能の力に対して易々と破壊されない頑丈さを誇る。

「く・・・!!」

 無数の鎖に繋がれ動きの取れない中、おもむろに一護がギュスターブに問いかける。

「―――ギュスターブ。てめぇが助けたかったっていう子どもは、仇討ちを望んでいたのか?」

「なんだと?」

一護の問いかけに対し、ギュスターブは目を細め低い声で呟く。

その直後、姿が変わった一護に触発され綱吉となのはも順に口を開く。

「こんな風に殺し合い、憎しみによる破壊を繰り返すことを望んでいたか?」

「憎しみは憎しみでは断ち切れない。あなたは、自分もその子達も―――永遠の苦しみに引きずり込んでいるんだよ」

「・・・!」

 心の内側に焦りにも似た想いが湧き上がる一方、一護は天鎖斬月の切っ先をギュスターブに突きつけ、黄金を纏った霊圧を輝かせる。

「みんなが俺たちに託したのは仇討ちじゃねぇ。てめぇを止める事だ!!」

「馬鹿な・・・止めるだと!? その姿が、そうだというのか・・・・・・なぜだ!! なぜお前達は立ちふさがる!? なぜ、こんなことが・・・・・・!」

 すると、ギュスターブの体を縛り付ける鎖を生み出した術者―――ユーノは一護達の元へと歩み寄り、清々しい表情で言ってくる。

「命の尊さを知っている者は最後まで抗い続ける・・・そういう者にこそ奇跡は起こるんだ」

「黙れ!! これは何かの間違いだ!! 世界の意志を・・・ギュスターブ・エトワールを止められる者など、誰一人としていない!!」

 強い怒りと怨念に取り憑かれたギュスターブは、ユーノが施術(せじゅつ)した無数の鎖を断ち切ると―――異能の刀で四人に斬りかかる。

「うおおおおおおおおおおおおお!!!!」

 一護、綱吉、なのは、ユーノは散開し―――それぞれが持つ世界を救う希望の力で、ギュスターブに立ち向かう。

「月牙―――天衝!!」

 金色に輝く髑髏状の霊圧が渦巻く月牙がギュスターブの体に直撃。その桁違いな威力を前に、ギュスターブの体は激しく傷つく。

「ぐあああああ!!!」

 激しく地面に叩きつけられ、その上で勢いよく転がっていくギュスターブは、自分の力を凌駕(りょうが)する存在を決して許さず、戦いの中で怨念だけを唯一の力として強くなる。

「このおおおおおおおおおお!!!」

 大火力の異能の炎の乱れ撃ちが綱吉へと向けられると、綱吉は肩に乗せていた黄金に輝くナッツの咆哮(ほうこう)で瞬時に石化させる。

「!?」

「いくぜ」

 瞬く間にギュスターブの懐に潜り込むと、彼の右腕を死ぬ気の炎とは逆の性質を持つ「死ぬ気の零地点突破・初代(ファースト)エディション」の力で凍結させ、その上で桁違いな死ぬ気の炎を纏った拳を叩きつける。

―――ゴンッ!!!

 地上高くへと吹き飛ばす程の綱吉の拳の威力は、人間の計算では到底考えられないものだった。

「があああああ!!!」

 世界の意志を凌駕する力を、一護だけではなく綱吉までもが手に入れた。

 だが、なのはもまた世界の意志を凌駕(りょうが)する力を手に入れ、これまでにやられた分を何百倍もの威力で叩き返す。

「エクサランスカノン、ヴァリアブルレイドッ! シュ―――トッ!!」

 手持ちの長槍状の魔導兵器「ストライクカノン」と、総合魔導端末「フォートレス」を用いた広範囲魔力砲撃が、ギュスターブを直撃。

 ドドドドドドドドド!!!

 砲撃の威力に圧倒されると、ギュスターブは全身の衣服をボロボロにし、顔から地面に叩きつけられる。

「がああ・・・なんつー・・・質量・・・!」

「じゃあ、(つい)でに僕のも喰らっておくかい?」

 恐怖の戦慄(せんりつ)が次から次へと奏でられる中、ギュスターブの恐怖を駆り立てるその声の持ち主こそ、ユーノ・スクライアだった。

 直刀を手にしたユーノはギュスターブを翡翠に輝く円陣に閉じ込めると、刀で円を描く様に振るい、呟く。

「“深緑月華(しんりょくげっか)”―――」

 

 ドドドドーン!!!

 

円形の結界内に閉じ込められたギュスターブを襲う、大威力の爆炎。

爆炎の威力もさることながら、一護、綱吉、なのはから受けたダメージを蓄積させたギュスターブの体はボロボロで既に立っているのもやっと。

「・・・・・・ありえねぇ・・・こんなことが・・・・・・」

 ポタポタと血の滴を流しながら、世界の意志という人間を超えた存在を脅かす力を手に入れた一護、綱吉、なのは、そしてユーノに本能的な危機感を覚える。

「俺がどれだけの思いで世界を壊そうとしてきたか・・・俺が・・・あの子達にできるせめてもの償いは・・・・・・世界の意志として・・・世界をこの手で変えることだけなんだ・・・・・・!」

「それは違うね」

 満身創痍(まんしんそうい)のギュスターブの言葉をキッパリと否定するのは、ユーノだった。

「たとえお前がノア計画でたくさんの人の命を奪うことになって、子ども達を理不尽な運命から守れなかったとしても答えは同じだ・・・・・・お前は世界の意志を名乗る資格は無い。なぜなら、世界の意志は世界を変える存在に(あら)ず。僕らは変えようとする者を止める為に集まったんだ」

「ほざけっ――――――!!!」

 怨念の力を解放し、ユーノ目掛けて無数と言うも言うべき異能の鎖を仕掛ける。

 ユーノはおもむろに目を瞑り、手に持っている直刀で軽く撫でるように飛んでくる鎖を悉く斬り捨てる。

 ギュスターブがその光景に愕然とする中、ユーノはギュスターブがそうしたように―――自分もまたギュスターブに鎖で反撃し、今一度彼の体を縛り付ける。

「一護さん! ツナ君! なのは!」

 頭上に浮かぶ三人の声を掛けると、ユーノの言葉を聞いた一護、綱吉、なのはの三人は頷きギュスターブとの勝負に決着を付ける為、最大最強の合体技をお見舞いする。

「月牙――――――天衝!!!」

XX(ダブルイクス) BUNRNER(バーナー) 超新星(スーパーノヴァ)!!!」

「全力全開! スターライト—――ッ!! ブレイカーッ!!!」

 金色色に輝く月の牙、両手グローブから放たれる煌々(こうこう)と輝く巨大な炎、桜色に染まった収束砲撃―――三人の持ちうるすべての力を結集させた超規格外な攻撃がギュスターブの体を飲み込んだ。

「のおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!」

 第四階層に広がる不毛の大地を吹き飛ばすほどの威力。

 大地が削れ、僅かな闇すら飲み込む目映い閃光が拡散する。

 攻撃の痕―――不毛の大地は文字通り更地と呼べる平らなものへと変わり果てる。

 ギュスターブは三人の合体攻撃を受け、全身から多量の湯気を上げて無造作に倒れ伏している。

 一護達が彼の再起を警戒していると、ギュスターブは何も言わずに立ち上がる。

「・・・無駄だ・・・・・・お前達の力では、世界の心を・・・闇の扉を壊す事はできても閉じることはできない・・・・・・」

 直後、第四階層の赤々とした景色が暗黒を象徴する闇一色に染まる。

 一護達がこの異変に困惑する中、最後の力を振り絞って―――ギュスターブは世界の心を閉じ込めた扉に向かって手を伸ばす。

「世界を破壊するのは、俺だっああああああああああああああ!!!」

 だがそのとき。彼の視界に突然ユーノが現れ、ギュスターブの前に立ちはだかる。

「無秩序な破壊からは、何も生まれない。憎しみから逃れられない哀れなる魂よ―――眠れ」

 直刀を振り上げたユーノは、刀身に自分の魔力光と同じ色の輝きを纏い、それを斬撃にして飛ばした。

「輝け、晩翠(ばんすい)!」

 翡翠に輝く斬撃はギュスターブの体を貫き、彼の心を(むしば)む怨念を消し去るとともに―――ギュスターブという世界の意志を消滅させる。

「な・・・ぜ・・・だ・・・・・・おれが・・・負ける・・・・・・」

 闇の中に粒子となって消えて行ったギュスターブを、ユーノはじっと見つめる。

 一護、綱吉、なのはの三人は崩壊が危ぶまれる世界の心と称される巨大な白い扉の前に集まった。

「どうするんだ?」

「この中に収斂された世界の心があるのか?」

「でも、このままじゃ壊れちゃうよ!」

 ギュスターブは(たお)されたが、収束された世界を元に戻す作業が残っている。が、一護達は世界を元に戻す方法を全く知らない。

 途方に暮れる三人の元にユーノが駆け寄り、おもむろに話しかける。

「扉を修復するのは僕がやるよ」

「なんだって?」

「ユーノ君、そんなことができるの?!」

「まぁ見てて」

 自信満々の笑みを浮かべるユーノは、一護達の不安を余所に扉へと近づき、おもむろに直刀の先を扉へと向ける。

「いくよ、相棒。闇に飲まれた世界を元に戻し、扉と鍵穴を修復する」

〈ああ。それでは参る〉

 ユーノの魂と深く繋がりを持つ何者かの声が耳に届く。ユーノは一護達の目の前で闇の飲まれた世界から闇を奪い、それを直刀へと吸収していく。

ギュスターブと十二使徒(エルトゥーダ)達に侵略された数多の世界から闇が消え、本来の光が戻り始めると―――エンド・オブ・ザ・ワールドに存在する世界の心に変化が見られる。

 神々しい光を下から湧き出し、亀裂を生じた扉と鍵穴が修復され、開きかかっていた扉がゆっくりと閉められる。

 ユーノは扉が閉められると、二度と心が壊れぬよう、厳重に扉の鍵穴に鍵を掛ける。

 鍵が掛けられたことで世界の心はその役目を全うし―――扉はエンド・オブ・ザ・ワールドから忽然(こつぜん)と姿を消した。

 呆気にとられる一護、綱吉、なのはだったが、ユーノは穏やかな表情を向けると、扉が消えたその先にある道を指さす。

「この先の向こうに、みんなの世界がある。僕の役目は終わった―――」

 言うと、ユーノは一護達とは反対方向に歩き始める。

「待って!! ユーノ君・・・!!」

 なのはが手を伸ばしてユーノに呼びかけるも、ユーノは振り向きもせず敢えて彼女を突き放すように離れ、闇の向こう側へと消えていく。

「ユーノ君っ!!!」

 と、そのとき―――

『僕じゃなくて、本来の世界の僕を気に掛けてくれると幸いかな♪』

 その言葉を最後に、ユーノの声は聞こえなくなった。

 気が付くと、一護達は元の姿に戻っており、仲間達も目を覚ましていた。

「ててて・・・って、一護!」

「10代目!! やりましたね!!」

「なのはさん、やったんですね私たち!」

 復活した仲間達は三人がギュスターブに勝利したことを悟り、歓喜の声を上げる。

 一護、綱吉、なのははこの喜びを仲間とともに噛みしめたい一方で、世界の心を修復し闇の向こう側へと消えて行ったユーノのことを考える。

「あのさ~」

 すると、重要大事が一護達に話しかける。

「世界の心は誰が・・・」

「ああ。よくわかんねぇんだけど・・・ユーノが、俺たちを助けてくれて・・・扉を修復した」

「なんだって?!」

 大事は目を見開き驚愕する。

「どうしたんですか?」

 なのはがおもむろに尋ねると、大事は驚くべき真実を公表する。

「世界の心を修復できるのは、世界の意志の中でも特異な存在―――管制人格のドゥルガー、もしくは“選ばれし光の勇者”であるキーブレードマスターだけ!」

「「「え!?」」」

 ユーノ・スクライアは、確かに扉を修復した。

 だがそれを為し遂げることができる存在は、世界の意志達の頂点に君臨するワールドウィルシステムのドゥルガーと、キーブレードと呼ばれる選ばれし光の勇者のみが扱うことを許された特殊な剣を使った場合。

 あのとき、一護達の目の前に現れたユーノは何者だったのか?

 その答えを知る者はここにはいない。

 だが、この事件を無しに彼が生まれることは無かった(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)。

 そのことを知る存在が、この中に一人だけいた――――――

 

 

事件から10年後―――

地球 イタリア 沢田邸

 

 その日、ボンゴレX世(デーチモ)を正式に継承しマフィアの壊滅に尽力する沢田綱吉は―――珍しく寝坊した。

「ツっ君。ツっ君ってば。起きて、朝だよー」

 肩まで伸びた髪を揺らしながら、24歳となった綱吉を起こすのは妻である沢田京子こと、旧姓笹川京子、24歳。

「うう・・・・・・ふぁ~~~」

 京子の優しい声に反応し、綱吉は大きく伸びをしながら目を覚ます。

「おはよう、ツっ君」

「うん。おはよう京子ちゃん」

 朝一番のキスをした二人は、寝室に差しこむ朝陽を浴びながら穏やかな時を過ごす。

「珍しくお寝坊だったみたいだね。何の夢見てたの?」

「ん~・・・昔の夢だよ。10年くらい前の・・・・・・」

 綱吉は京子を胸元に抱き寄せ、彼女の髪を愛おしそうに撫でながらおもむろに言う。

「覚えるかな・・・京子ちゃん。並行世界(パラレルワールド)の一護さんやなのは達と一緒に、ギュスターブと戦ったあの事件・・・」

「・・・うん。覚えてるよ」

「あの事件でオレは、(ホロウ)化したり・・・京子ちゃんをさらわれたり色々あったけど・・・・・・こうして君と一緒にいられる時間が本当に愛おしい」

 愛する妻の京子を固く抱きしめる綱吉は、京子の耳元で(ささや)く。

「愛してる―――これからもずっと君を守るよ」

 それに対する京子の返事は―――

「私もツっ君のこと愛してるよ。だから、私もツっ君のこと守るから―――」

 二人の枕元に置かれている数多くの写真たて。

 結婚式からファミリー同士で写したものに交じって、ギュスターブとの最終決戦で窮地を救ってくれたユーノと綱吉のツーショット写真が飾られていた。

 

 

“世界の意志”本部

 

全世界にまで及んだ未曾有(みぞう)の事件は、エンド・オブ・ザ・ワールドで繰り広げられた壮絶な戦いの末に決着。

首魁(しゅかい)ギュスターブ・エトワールは(たお)され闇に飲まれた世界はすべて再生された。

しかし、この事件は同時に世界の意志達に大きな謎を生んだ。

そう―――世界の扉を修復した『ユーノ・スクライア』という存在について。

「元・世界の意志ギュスターブ・エトワールの行為により、世界の扉ならびに鍵が破損したことで、予期せぬ事態が多々起こりましたが・・・それも直に収束のめどがつくでしょう。ただ、我々の予定調和には無かったことがひとつ・・・ユーノ・スクライアという存在についてです」

世界の意志達はドゥルガーの言葉に耳を傾けるとともに、事件後―――光の世界に突然生まれ出でた新たな世界について関心を向ける。

 ドゥルガーは自らの予言にも出てこなかった目の前の謎の世界に強い警戒を示す一方で、この世界を管理する世界の意志をこの場で選出する。

「重要大事」

「はい」

「たった今を持って、あなたをこの新しく誕生した並行世界の世界管理者(ワールド・マスター)としての権限を与えます」

「わかりました。非才の身ではありますが、全力にて―――承ります」

 新しく生まれた世界を管理する世界管理者(ワールド・マスター)として、保留状態だった重要大事が抜擢(ばってき)された。

「ギュスターブの力と互角、それ以上の力で戦ったユーノ・スクライアという存在がこの世界にいるのだとしたら・・・・・・その動向を見定める必要があります」

世界の意志であるギュスターブと同等、場合によってはそれ以上の力を持っていたユーノの力が、ドゥルガーにとって―――強いては世界の意志全体の引力か斥力(せきりょく)になるかはわからない。

だが、もしもあのユーノがこの新しく生まれ出でた世界と深いかかわりを持っていて、それが後の未来に影響を及ぼすのなら、その動向を静観する必要がある。

「――――――運命か必然か、それは誰にもわかりません。ですがこれが必然の出来事なのだとしたら、彼は必ず私たちの前にもう一度姿を現すでしょう」

 

 

 

 

翡翠(ひすい)魔導死神(まどうしにがみ)ユーノ・スクライア”がこの世界に誕生し、波乱万丈の人生の幕を開けるのは、ギュスターブ事件より7年後―――“魔導虚(ホロウロギア)事件”から。

 

 

 

死神×マフィア×魔導師 次元の破壊者

 

 

 

 

 

 

参照・参考文献

原作:都築真紀 作画:緋賀ゆかり『魔法戦記リリカルなのはForce 3巻』 (角川書店・2011)

原作:小森陽一 作画:藤堂裕『S -最後の警官- 9巻』 (小学館・2013)




ご愛読ありがとうございました。
この物語の世界観を共有した「ユーノ・スクライア外伝」もよろしくお願いします。
https://novel.syosetu.org/122916/

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