エンド・オブ・ザ・ワールド
第三階層 北部・丘陵地帯
エンド・オブ・ザ・ワールド内各地で続く激闘。
石田、エリオ、キャロと飛竜フリードが戦っているネズミの使徒ラッタは、厄介な相手だった。
「無駄ですよ、何度やっても!」
1200を誇る石田の圧倒的な矢の数を前に、逃げることはおろか―――体中に生じた口で光の矢を悉く飲み込む。
「くっ」
苦い顔を浮かべる石田を前に、ラットは光の矢の味に満足し腹を撫でる。
「美味ですね! そら、あなた方も是非!」
掌を石田に向け、彼から吸い取った光の矢を倍の力で跳ね返す。
その間に、空中へと飛び上がったエリオが地面に向けてストラーダの先を突き差し-――
「サンダーッ! レイジ!」
先端部から電撃を放出し、接触した対象を中心に周辺に弾ける電撃によって対象をスタン・破壊するという趣旨のこの攻撃をラットは
「でやあああああああ!!!」
だがエリオはセカンドモードとなり、噴射口を伴ったストラーダで一度空へと上がると、ブーストによって中空を一気に駆け抜けラットに突撃。
豪快な爆発が起こり、多少焦げ付いた体のラットが飛び出してくると、フリードが火炎を吐いて敵の注意を引き付ける傍ら、キャロがラットの動きを封じ込める。
「アルケミックチェーン!」
魔法陣から伸びた
「
「待てエリオ君!」
「
だが、次の瞬間―――エリオの腕ごと、ラットの顔から出現した口が彼の電気エネルギーを吸収する。
「な・・・!」
「いただきます!」
口は豪快に開くと、エリオの腕に噛み付いた。
「ぐああああああ!」
「エリオ君!」
猛烈な痛みに耐えきれず悲鳴を上げるエリオを、ラットはエネルギーを吸い取るや用済みとばかりに足蹴にする。
蹴り飛ばされたエリオを見て、石田は懐に忍ばせた
「盃よ西方に傾け(イ・シェンク・ツァイヒ)『
口上とともに
「エリオ君!」
「大丈夫か!?」
駆け足でエリオの元へと向かい、安否を気遣うと―――エリオは辛うじて無事な様子で頭に手を当てていた。
「すみません石田さん・・・助かりました」
「私を無視しないで下さいよ!」
戦闘行為は続いていた。ラットが勢いよく向かってくると、石田は「く」と言って前に出る。
「「石田さん!」」
腰元の魂を切り裂くもの(ゼーレシュナイダー)を手に取り、
「いただきます!」
魂を切り裂くもの(ゼーレシュナイダー)の刃が飛んでくると、ラットの顔から出て来た口が刃を噛み砕き、刃を構成する霊子を吸い取った。
「なんだかちょっと・・・変わった味でしたけど? そんなの、気にしないし~」
あらゆる攻撃を無に帰すラットの異能の力を前に、石田の能力も形無しだった。
「もう無駄な抵抗は止めて、潔く殺されたらどうですか?」
「その申し出は、遠慮させてもらう!」
「往生際が悪い男はいつまで経ってもモテませんよ? どうせあなた、日常生活は秋葉原で美少女フィギュアを買い漁ってる根暗なヲタクでしょう・・・」
「誰がオタクだ!! 第一、秋葉原に行くだけの交通費がないんだ!」
ラットの言葉は石田の冷静さを欠き、神経を逆撫でされる。
確かに、外見的には石田は眼鏡をかけておりオタク染みた
だが石田は趣味で秋葉原に行くことも無ければ、親と別居していることから生活が非常に困窮しており、遠出の為の資金も枯渇していた。
「石田さん、相手のペースに乗せられちゃダメです!」
「あの、落ち着きましょう!」
状況を客観的に見ていたエリオとキャロが諌めると、石田は我に返り冷静さを取り戻す。
「す、すまない。僕としたことがつい取り乱してしまった」
眼鏡の位置を微調整し―――石田はラットを凝視しながら、両隣にいる二人に呟く。
「エリオ君。キャロちゃん」
「「はい」」
「あいつを何秒足止めできる?」
この言葉の意図を、二人は瞬時に読み取った。
石田は既にラットに打ち勝つ為の算段を用意しており、それを成功させるためにエリオとキャロに協力を仰いでいるのだ。
エリオとキャロは目を合わせ、数秒の間を置いてからおもむろに呟く。
「すみません・・・僕たち二人で頑張っても20秒くらいしか・・・」
「やっぱり、短すぎましたか?」
「・・・とんでもない。充分だよ!」
内心石田は、この二人が味方であることを心強く思った。
深呼吸をして心を落ち着かせてから、石田はエリオとキャロに号令を掛ける。
「いくぞ!!」
「「はい!」」
号令とともに三人は散開。
巨大化したフリードに搭乗したキャロはフリードが吐く火炎と一緒に、なのはから教わった基礎の直射型射撃魔法をぶつける。
「ウィングシューター!」
愛機ケリュケイオンのセカンドモードにより解放される、ショートチャージでの高速多弾連射がフリードの火炎と一緒にラットへと飛んでいく。
「無駄だと言ってるでしょー」
ラットは飛来した魔力弾と火炎を体中から生じた口で吸収、吸い込んだエネルギーの倍の力で外へと放出。
「ストラーダ!」
〈Explosion〉
ブーストで空中に浮遊していたエリオはカートリッジを一発消費すると、先端部をラットに向けながら飛び込むタイミングを見計らう。
その間に、キャロが支援魔法でエリオの技を強化する。
「
〈Enchant Up Field Invade〉
「猛きその身に、力を与える祈りの光を―――」
〈Boost Up. Strike Power〉
グローブクリスタル部のサポートエンジンによって、異なるブースト・エンチャントを同時発動し、突撃と斬撃の力をストラーダに付与する。
「ツインブースト! スラッシュ&ストライク!」
キャロから託された魔法エネルギーを受諾したストラーダは、高速で突進しながらエリオの呼吸に合わせ、第三形態「フォルムⅢ(ヴィンベッターフォルムドライ)」から一撃必殺の雷電を放出。
「サンダーブレイド!」
広域に渡って拡がる雷撃がラットの全身に伝達されると―――すぐさま体中の口から電気エネルギーを吸収する。
「まだだ!」
攻撃が不発に終わっても、エリオは石田の秘策を信じて全力で時間稼ぎに徹しようと接近戦に持ち込む。
「はあああああ!」
「いい加減してくださいよ!」
ストラーダごと、ラットはエリオの小さな体を投げ飛ばす。
宙を舞うストラーダをキャッチしたエリオは、キャロと一緒にフリードの背中に乗って頭上から
「今のが奥の手だったのですか? あなた方って意外と頭悪いんですね」
「その言葉は、これを受けてからにしてもらおうか」
後ろに振り返ると、ラットの背後をいつの間にか石田が取っている。
「石田さん!」
「お願いします!」
「私の後ろを取って、それで勝ったつもりですか
「・・・ああ。そのつもりだよ」
言うと、石田は手に持っていた魂を切り裂くものを地面に突き刺す。
「なに!?」
「バカな・・・ッ。これは一体なんなのですか・・・!?」
「『
石田はエリオとキャロが戦っている間、ラットに悟られないように彼の背後を取りつつ五本ある魂を切り裂くもの(ゼーレシュナイダー)を均等な感覚で地面に突き刺す事に成功。
「だけど、あなたのその道具の霊子は私が吸い取ったはず。どうしてこの中に?」
ラットは石田が持つ霊子を自らの中に吸収したつもりだった。
すると、不敵な笑みを浮かべながら石田はその理由を話しだす。
「魂を切り裂くもの(ゼーレシュナイダー)は霊子を拡散させる敵と戦った時の為に、柄頭に霊子を溜める機能がついていてね。それを通じて一時的に刃を回復させられるんだ。それを使って地面に
「!?」
懐に手を伸ばすと、石田は一本の
「霊子を吸収して武器に返るのは、君の専売特許じゃない。
無造作に投げつけられた
次の瞬間―――魂を切り裂くもの(ゼーレシュナイダー)の柄を通って、濃縮された霊子に刺激された陣内部で大爆発が発生。
「ち・・・・・・ちくしょオオオオ!!!!」
ドカッ―――ン!!!
無残な最期を迎えたラットは、とりわけ濁った声で断末魔の悲鳴を上げ、爆発に飲み込まれた。
「やったー!」
「やりましてね、石田さん!」
「ああ。君達が味方で、本当に助かったよ」
*
第三階層 南東・岩場地帯
ボンゴレ10代目ファミリー最強の守護者にして、未知数の戦闘力を持つ男・雲雀恭弥は
「ぐっ」
風紀という二文字を背中に刻んだ改造長ラン姿の雲雀は、怪物染みた力を持つ
肉弾戦において、雲雀は得意のトンファーを用いた戦法でドラケンの顔面を殴りつけ、さらに回し蹴りを叩き込みドラケンの巨体を吹き飛ばす。
ドラケンは体勢を持ち直し、大きく口を開ける。
「
「っ! レーザー・・・!」
流石の雲雀も目を見開き驚いた様子。素早く軌道を呼んでこれを躱すと、
「
斬撃を伴った腕を振り下ろすドラケンだが、雲雀は雲の炎を
そして、不敵な笑みを浮かべ雲雀は仕込みトンファーから長いチェーンを取出し、そのチェーンでドラケンの体を縛り付けた状態から、渾身の力を込めた
巨体のドラケンを容易に吹き飛ばす雲雀の人間離れした腕力。
岩場に叩きつけられたドラケンは劣勢に立たされながら、純粋に雲雀との勝負を楽しんでいた。
「へへへ・・・やっぱ強えな。こうでなくっちゃな」
「君。その程度の力で本当に世界を壊してきたのかい?」
「壊したんじゃない。殺したのさ」
無表情でドラケンを見つめる雲雀を前に、ドラケンは口元をつり上げる。
「今から見せてやるよ。龍の使徒の
ドラケンの力に変化の兆候が現れる。
全身と両腕から大きな聖なる光と黒い影を伴った力を発生させたかと思えば、それを混合させ身に
雲雀は急激な力の上昇が見られるドラケンを「へぇ~」と言って見つめ、それなりに感心した様子で両手のトンファーを構える。
「いくぜ!」
睨み合いの末、先に動いたのはドラケンだった。
目映い光を
両手のトンファーを以てして辛うじて受け切った雲雀だが、ドラケンは容赦ない怒涛の攻撃を次々と仕掛ける。
「聖なる龍の裁きを喰らいな!!」
言うと、先ほどの一撃よりも精錬され魔力を一点に集中させた光の
力なく吹き飛ばされた雲雀は持ち前の多夫さで体勢を立て直すが、ドラケンは自身の体を「影」と化すことで回避や移動を行い、雲雀の死角を突いた攻撃に打って出る。
気配を読み取り雲雀はドラケンを迎撃しようとするが、実体を持たない影と化したドラケンの動きを捉えるとは容易ではなかった。
客観的に見えても、ドラケンの影に完全に
「影を捕えることはできぬ。大空に浮かぶ雲をその手で掴むことが難しいように」
無駄口を話さずひたすら攻撃に専念している雲雀の死角を的確に突き、その上で雲雀に一時の光明を与え、瞬時に影の力で希望を打ち砕く。
「はははは!! ちったービビれよ! ちびってもいいんだぜ!」
頭上から重い一撃を加えた途端、地面から凄まじい量の土煙が上がる。
雲雀はドラケンの攻撃で傷ついた体を起き上がらせ、それでもポーカーフェイスを保った状態でドラケンを見る。
「ふ~ん。随分早くなったもんだね」
直後、動揺はおろか微動だにしない表情の雲雀目掛けて、ドラケンが聖なる光を
「オラッ、オラ! ガード甘いんじゃねぇの! 雲雀恭弥!」
四方八方から徹底的に雲雀を痛めつけ、これまで受けた雪辱を晴らすドラケンは雲雀の腹部に光を
雲雀は腹部に刻まれた白い魔法陣の様な紋章に目をやり、紋章が刻印された直後から体の自由が無くなっている事に気づく。
「・・・なんだ・・・体が・・・動かない!」
「白き龍の爪は聖なる一撃。“
「ぐっ」
「そして、影なる龍はその姿を見せず―――」
黒き影を全身に
「確実にその獲物を狩る!」
カキン—――ッ!!
首を狙って爪を突き立てたドラケンの一撃は、寸でのところで止められる。ドラケンが目を見開く中、雲雀を守ったのは彼のギアアニマルの雲ハリネズミ、ロールだった。
“
「確実に獲物をね・・・何がだい?」
「貴様・・・」
「あまり僕を怒らせない方がいいよ」
言うと、雲雀は不敵な笑みを浮かべながら体を縛り付けていた
「が・・・な、なぜ動ける!?」
「さぁ、何故だろうね?」
お茶を濁したが如く
ドラケンは瞬時に悟った。雲雀恭弥の持つ潜在能力が、理屈や常識が一切通じないものであるということを。
「成程な。たった一人で戦って来ただけのことはある。こっちも全力の全力でやらなきゃな」
雲雀に敬意を示すつもりで、ドラケンは更に魔力を高め全身を目映いばかりの聖なる光一色に染め上げる。
「白き龍の拳は、炎さえも
白い聖なる光を込めた拳から、激しい爆発を起こす一撃―――それが、龍の使徒が備える白き龍の拳・ホーリーノヴァ。
大地を削り、暗黒さえも飲み込む白い光で雲雀恭弥を包み込む。
渾身の力で雲雀を殴りつけ、ドラケンは身も心も粉々に砕いたつもりだった。
だが、光が晴れ渡り目の前が見えるようになったとき―――ドラケンの中の予想は
真顔を浮かべ、何事も無かったかのように雲雀が凄まじい力を伴ったドラケンの拳を受け止めていた。それも、片手だけで―――
「あ・・・///」
ドラケンの最強技を片手で受け止める強者は何人もいなかった。況して、10代の子どもで成し得たものなど一人もいない。
目の前の心底あり得ない光景に絶句するドラケンに、雲雀はニードルを伴ったトンファーの一撃を豪快に
軽い
雲雀は終始無表情を保っている。
「終わってたまるか・・・・・・終わって・・・たまるか」
ドクン・・・。ドクン・・・。
「負けねぇよ」
低い声で呟いた直後、ドラケンの全身から巨大な魔力が溢れだす。魔力の解法と共に、全身に白と黒の紋様が浮き出る。
「負けられねぇんだよ。ギュスターブ様の為に―――」
「なんだ・・・この魔力は」
雲雀恭弥でさえ本能的に恐れおののく力だった。
額から一筋の汗が零れ落ちる。手には無駄に力が籠り、トンファーの持ち手が微かに震えている。
「ドラゴンフォース—――さぁ、こっからだぜ。雲雀恭弥」
龍の
「出し惜しみかい。でも、この感じ・・・強いね」
二人の間を空っ風が吹く。それを合図に、ドラケンは雲雀の元へと飛びかかる。
「うらああああ!」
雲雀の反応速度が追いつかないほど鋭い一撃。空中へと吹き飛ばした雲雀を、ドラケンは瞬時に移動し殴る、蹴るといったやり方でじっくりと痛めつける。
焦った雲雀が猛烈な勢いのもとトンファーで殴りかかるが、ドラケンは悉く
「白龍のホーリーブレス!」
距離をとってから、ドラケンは広範囲に及ぶ光の吐息で雲雀を攻撃。
「ロール!」
雲属性の「増殖」の効果で数を増やした球針態すべてでこれを回避しようとするが、威力を相殺することはおろか、先にロールの方が参ってしまい
爆発から飛び出した雲雀は傷ついたロールを左腕のブレスレットに戻し、空中に浮遊するドラケン目掛けてトンファーの連続攻撃を加える。
だが、結果は先ほどと全く同じ。ドラケンは既に雲雀の攻撃に対し絶対の体勢を手に入れた。
「白き龍の輝きは、万物を浄化せし―――」
先ほど撃った吐息によってできた巨大クレーターの中央に降り立つと、ドラケンは空中の雲雀に狙いを定め、
「ホーリーレイ!!」
両手から無数の白い聖なる閃光が放たれると、射線上の雲雀恭弥の体を無数の光で叩き、傷つける。
「ぐああああ・・・」
無造作に地面に叩きつけられ、全身血塗れな上に骨もおかしくなっていた雲雀は辛うじて意識を保って着地。不屈の闘志でドラケンに向かっていく。
「飛べよ」
燃え尽きることの無い闘志を胸に宿す雲雀の攻撃を容易に受け止めたドラケンは、大いなる影の力で雲雀を弾き飛ばす。
完膚なきまでに力の差を痛感した雲雀は生命力を失ったかのごとく、肉塊のように動かない。
痛々しく血が吹き出し、紅くなった体が戦闘の凄まじさを物語る。
「―――人間にしては、強い個体だったぜ。雲雀恭弥」
これまで多くの敵を刈り取って来たドラケンにとって、今回戦った雲雀恭弥は格別に強い個体だった。なにしろ、最強と謳われるドラゴンフォースの力を、はじめて解放させた相手なのだから。
満足な様子でドラケンは
「待ちなよ」
「!」
聞こえるはずがない声が聞こえ、恐る恐る振り返るドラケン。
あれだけの攻撃を受けておきながら、雲雀恭弥は痛々しい体で再び立ち上がる。
「思ったよりもやるね」
涼しい顔で言うと、雲雀は眠たそうに
「けど、君の癖は全部見えたよ」
「何!?」
勝ち誇った瞳と不敵な笑みで言う雲雀に、ドラケンは目を見開き溜飲。
「攻撃のタイミング、防御の時の体勢、呼吸のリズムもね」
「馬鹿な! こっちはドラゴンフォースを使ってるんだぞ!」
「ああ。大した力だね。お陰で体中が痛いよ」
雲雀としてもドラケンのドラゴンフォースの力は純粋な脅威だった。だが、その脅威を前にしても雲雀はこの状況を楽しんでいる。
「さぁ、今まで痛めつけられた分は100倍にして返してあげるよ」
トンファーに雲の炎を灯し、雲雀は自分自身の生命力と呆れるほどの闘争本能に臆している様子のドラケンに笑いかける。
「ゾクゾクしてきたかい? この極限の戦いをね―――」
「ふざけやがって・・・!」
雲雀の復活に焦燥を露わにするドラケンは、聖なる龍の力と影なる龍の力を混在した魔力を全身に滾らせる。
「ドラゴンフォースは龍と同じ力! この世にこれ以上の力があるはずがねぇんだ!!」
強い口調で言うと、右手に聖なる光を
「うりゃあああああああああああああ!」
不敵な笑みを浮かべながら、雲雀は突撃してきたドラケンの凄まじい一撃をトンファーの炎で
「完全じゃなかったんじゃないのかい?」
「ぐううううう!!!」
ここにきてドラゴンフォースと拮抗する力で渡り合えるほどの力を見せつける雲雀の潜在能力は、ドラケンでも計り知れない。そもそも、この男は本当に人間なのか―――という思いの方が驚きの大半を占めていた。
「俺の力は完全だ!! 俺はこの力で、数多の世界を殺したんだ!!」
「そうかい。だったら僕はこの力で―――」
「僕を足蹴にした君を完膚なきまでに咬み殺す」
ドンッ!
「ぶっほ!」
火炎放射の如く、雲雀のトンファーの炎が直接ドラケンの顔を殴りつける。
意表を突かれたドラケンは体勢を持ち直してから、影の龍の力を引きだし雲雀目掛けて口から黒い影の吐息を放つ。
「
「ロール」
雲雀の一声で、ロールは
「まだまだ!!」
「来なよ」
戦いが苛烈さを増す中で、雲雀は嬉々とした表情となっていく。強き者との戦いを求める飽くなき闘争本能が、ここにきて最高潮に達しようとしていた。
あらゆる意味で人間離れした能力を持ち合わせる雲雀の力と多くの世界を滅ぼしてきた
「ぐあああ!」
決してドラケンが弱い訳ではない。相手は強ければ強い程、それに応えるように実力以上に力を発揮する。
何物にも捕われず、我が道を行く浮雲―――雲雀恭弥の強さは底が知れない。
(力・・・俺の力・・・ドラゴンフォースの力が、人間如きに押されるなんて・・・!)
聖なる龍の力も圧倒し、影の龍の力でさえ押し返してくる雲雀の潜在能力。
正直言うと、ドラケンは雲雀に負けるかもしれないという恐怖に押しつぶされそうになっていた。
「くそがっ!!」
最強の龍の力を持つ使徒の沽券にかかわる事態。ドラケンは形振り構っている暇など無かった。
ゆえに、今までに使わなかった奥の手を発動して雲雀を一撃のもとに吹き飛ばすことにした。
右腕に聖なる龍の力を、左腕に影なる龍の力を最大限まで引き出し、それを今ここに、一つに合体させる。
(二つの龍の力・・・俺の全魔力を捧げ発動する、究極奥義!!)
数多くの世界を滅ぼしたときでさえ、この力を発動するまでには至らなかった。
雲雀恭弥を
対を為す二つの力が融合し、ひとつに
「
大地を風化させ、大気を轟かせる破壊の一撃が今―――雲雀へ向かって飛んで行く。
雲雀は何を思ってか、その一撃を躱そうとはしななかった。
(動かない! 死を悟ったか―――)
が、次の瞬間。
「終りだよ」
雲雀がトンファーを握りしめ、恐れることなく砲撃に向かって突進。
「
「クピイイ!!」
雲雀を守るのはギアアニマルのロールで、これまでとは比較にもならない炎の密度で防御を展開―――大地を一瞬にして風化させるドラケンの砲撃を押し流し、ドラケンの懐を確実に抑え込む。
ドカ―――ン!!!
天地轟く大爆発と振動。
爆炎の中に浮かび上がる二つの影。
満身創痍の雲雀恭弥とドラケンの両者が静かに睨み合う。
「雲雀・・・恭弥・・・・・・」
ドラケンは力の全てを出しつくし、その上で雲雀の力の前に屈した。
「人間じゃねぇ・・・・・・強すぎるぜ・・・・・・」
力尽き、無造作に前に倒れ込んだドラケンはそのまま動かなくなった。
激闘を制した最強の風紀委員長は、非常に満足のいった表情で死亡したドラケンを見ながら一言、礼を言う。
「ゾクゾクする戦いをありがとう。楽しかったよ―――龍の使徒」
*
第三階層 南西部・荒地
そして彼は非常に
ゆえに、敵に対しても万全な準備を怠っていない。
「ふふふ・・・素晴らしい
鎖鎌の刃に染みついた血を舌で舐めるシャーフは、満身創痍となって力尽きるか否かの瀬戸際に立たされていたはやてとクロームの二人を一瞥。
「ぐ・・・」
「くっ・・・」
シャーフの狡猾且つ綿密な知略を前に、二人は追い詰められていた。
「やはり女性は、傷ついたときの表情が一番美しい」
「この・・・変態!!!」
人を
「ブリューナク!!」
十字杖の先から連続して魔力弾を撃ち出すと、シャーフは容易く軌道を読んで回避。
「残念。はずれです」
「まだやっ!」
すると、シャーフの周りを複数人に増殖したはやてが取り囲んでおり、一様に魔力エネルギーをチャージしてシャーフを狙い撃ちにする。
ドドドドーン!
魔力弾を回避したシャーフは、ボウガンで複数人に増えたはやてを狙い撃ち、それらがすべてクロームの作り出した幻覚であることを見破った。
「幻覚ですか。それも分り切っていることです」
「クロームちゃん!」
はやてが呼びかけると、クロームは槍の柄を地面に突き刺す。
「!?」
シャーフの周りの地面から植物の
「負けない! 私たちはあなたなんかに!」
「女の子を
『詠唱完了! いつでもいけます!』
十字杖を天に
「遠き地にて、闇に沈め―――」
その言葉をトリガーに、バリア発生阻害能力がある球形の純粋魔力攻撃を、シャーフ目掛けて放つ。
「デアボリック・エミッション!」
凄まじい重力の奔流が、スフィアを中心として広範囲に渡って魔力攻撃を充満させる。今回は標的をシャーフ一人に絞っての攻撃だから、圧力の高い重力の渦をひとりで受けるはずだった―――
「広域空間魔法・・・ですが、惜しかったですね」
口元をつり上げたシャーフはおもむろに指を鳴らすと―――途端にデアボリック・エミッションの動きが止まり、風船が空気圧に耐えきれずに破裂するかの如く、爆発。
「「え!」」
「あなた方の戦闘データは、既に解析済み(・・・・)なのですよ」
ゲヴァルト襲撃の折、シャーフはリュミエールで修練を積んでいた三世界組の全データを事細かく分析・解析を行った。
ゆえに、はやての魔法を打ち破る公算はいくらでもあった。
「うひゃああああああああああ!!」
奇声を上げると、鎖鎌を伸ばし―――はやてとクロームの肩を斬りつける。
血吹雪を上がり、はやてはリインとユニゾンを強制解除され、クローム共々倒れ込む。
「呆気ないものですね。私と
どこまでも猟奇的で愉悦を帯びた表情で傷つく二人を見るシャーフは、一種の社会病質者のようだった。
肩を斬られたはやては出血を手で押さえながら、体中に籠った熱を放出している様子で、額からは尋常ならぬ汗をかいている。
「ひ・・・酷いことするや・・・ないの・・・」
「ですが、本当に強いです・・・・・・」
「
と、クロームが遠い地にいる特別な存在の名を口走った途端。
『やれやれ。世話のかかる子ですね、お前は―――』
「えっ」
「?」
「なんや、この感じ・・・」
この場にいる全員の頭の中に直接響き渡る謎の声。
その時、クロームの槍から藍色に輝く霧が唐突に湧き上がる。
「この霧は何でしょうか?」
「誰が相手だろうと、私の渇きを潤すことは叶いませんよ」
「クフフ・・・それはどうでしょうね」
独特な笑い方が耳につくその謎の声は、霧の中から聞こえる。
霧散していた霧がやがてひとつにまとまり始め、人の姿へと形を成していくと―――現れたのはクロームと似た雰囲気を醸しだす、藍色のパイナップルヘアーが印象的な男。
「僕に限って?」
「何!?」
「「
「
謎の男の登場にはやて、リイン、シャーフの三人が目を見開き驚愕する一方、クロームは頬を紅潮させ嬉々とした様子だ。
「ほう。ここがエンド・オブ・ザ・ワールド―――なるほど。この戦いにはうってつけかもしれませんね」
「何者ですか、あなたは?」
「クフフフ・・・自己紹介がまだでしたね。僕の名は、
言うと、骸は右眼に刻まれた「六」と数字越しに目の前の敵シャーフを凝視。
「クロームちゃん・・・あの人と知り合いなん?」
「骸様の・・・
「ということは、本人ではないのですか?」
この場に現れた六道骸は、クロームが見る分に限りなく本物に近い幻覚―――実態を持つ幻覚と言う意味の「
「クフフ・・・僕とクロームは切っても切れない繋がりを持っていましたね。これまでに起こったことの大筋は解っています。マフィアを滅ぼす前に、僕以外の存在に世界を取られるのは極めて面白くありません」
骸はその手で世界を支配しようという野心に満ちている反面、幼少期に受けた人体実験の記憶からマフィアに対して強い
シャーフはデータには無かった六道骸の存在に当初こそは驚いていたが、直ぐに彼らを受け入れ新たな標的として捕える。
「ふふふ・・・どうやらあなたの方が、少しは楽しめそうですね」
「クフフ・・・こちらも、楽しませてもらいましょうか―――
「クロームと同じだとは思わないことですよ。僕はクロームと違って、殺すことに何ら躊躇はしない。人間だろうと、怪人だろうと」
骸は魂の渇きを訴えるシャーフの心を瞬時に読み取り、彼の渇きを満足させる傍ら自らの欲望を満たすために戦う。
「このまま、
右眼の「四」という数字が瞬時に「一」に返ると、シャーフの足場が崩れ始め、骸が作り出した強い幻覚の炎が無数の柱となって現れる。
「なんちゅー芸当や!」
「これが本当に幻覚とはとても思えません・・・!」
「すごい・・・骸様はやっぱり・・・・・・!」
六道骸が作り出す魔法のそれを大きく上回るリアリティーのある幻覚に感嘆とする三人を余所に、幻覚の炎の中に閉じ込められたシャーフは「ははは」と笑う。
「ダメですよ、骸君。これでは私の魂を潤すには到底及びません」
「そうですか。では趣旨を変更しましょう。一人ではなく、四人で」
「!!」
幻覚の火柱の中から骸の意味深長な発言を聞いていたシャーフは、頭上を仰ぎ見る。
すると、肩の傷を受けて動けなかったはずのはやてが意地と根性でリインとユニゾンを果し、シャーフ目掛けて
「ブラッディーダガー!!」
炎の渦から脱出し、シャーフは素早くブラッディーダガーによる串刺しから逃れる。
鎖鎌を携え、シャーフは骸を味方に付けたはやてとクロームを見つめる。
「ふふふ・・・実に興味深いですね。先ほどまで虫の息に掛かっていたはずの彼女達が、君の登場で再び息を吹き返した。六道骸・・・あなたに興味が湧いてきましたよ」
「クフフフ・・・僕自身はあなたに一切の興味もないのですけどね」
不敵な笑みを浮かべ、互いに笑いという名の牽制を静かに行う骸とシャーフ。
「えっと・・・骸君やな?」
そんなとき、おもむろにはやてが骸に声を掛ける。
「おや? 誰かと思えば、クロームと戦っていた子ダヌキではないですか」
小馬鹿にしたようにはやてを
「はは・・・みんな揃ってタヌキ娘扱いか・・・・・・いつか絶対後悔させたる~~~!!」
『はやてちゃん。今はそんなことよりも・・・!』
「骸様・・・私・・・」
クロームは骸の救援に喜びを覚える反面、彼の前でみっともない姿を見せてしまったという
そんな彼女を見ながら、骸はどこか柔らかい笑みで見つめ、おもむろにクロームの頭を撫で始める。
「僕はお前を責める気などありませんよ。状況が状況です。あの者には、死よりも恐ろしい極上の恐怖と絶望を味わってもらいましょう」
「そうですか。では愉しませてもらいましょうか。あなたの言う絶望と恐怖で―――」
ボウガンと鎖鎌を構え、シャーフは臨戦態勢となった。
骸は「クフフ・・・」と
「舞え、ムクロウ!」
「ムクロウって・・・センスゼロやな」
率直なところ、はやては骸のネーミングセンスに懐疑する。
「
掛け声とともにムクロウは霧状に変化し、骸の手元に収まり―――西洋の魔術師を
「行きますよ。クローム。八神はやて」
「はい!」
「おっしゃ!」
『わ、私を忘れないでほしいですー!』
さり気無くリインは骸に無視されたが、骸はそのことを気にせず戦闘を開始。
「ウシャアアアア!!」
鎖鎌とボウガンの両方を器用に操り、四方八方から攻撃を仕掛けるシャーフ。
骸は戦闘スキル爆発的に高める「四」の目に変更し、接近戦においてシャーフと互角以上の力で渡り合う。
「クフフフ・・・魂が渇いているのは何もあなただけではありませんよ」
「っ!」
『僕も、渇いています』
幻覚が作り出すリアリティー溢れる広大な砂漠。
(強力な幻覚ですね。本物と区別がつかぬほどに・・・)
「さーて、質問です」
不意に聞こえた骸の声に反応し頭上を仰ぎ見ると―――大地を貫かんとする巨大な槍が突如として出現。傍らには
「砂漠に槍を落としたら、どうなるんでしょうか?」
「な!」
想像を絶する光景に言葉を失うシャーフを見下ろし、骸は幻覚とは言い難い巨大な槍をシャーフに向かって落とす。
重力に従った加速しながら高速で落ちてくる巨大な槍を、シャーフは幻覚だと自分に言い聞かせながら辛うじて受け止める。
「ぐううう! こんなもの!!」
だが、槍を
「なに!?」
『クフフフ・・・まだまだこんなものではありませんよ?』
空気に溶け込んだ骸の声に
(落ち着け。奴の幻覚に惑わされるな・・・)
「そやけど、これは幻覚とちゃうよ」
その時、実体を持ったはやてがシャーフの頭上に現れ、夜天の書片手に彼女は呪文を唱える。
「“
詠唱に従い、無限の海水が渦を巻きながら天に向かって上昇。
海水はシャーフの頭上に急速に集まっていくと、先の尖った巨大な氷塊となる。
「な・・・・・・これは・・・・・・ッ!!」
「ヘイムダル!」
ヘイムダルは氷結魔法と、氷塊を利用した重量攻撃である。
管理局法における魔導運用の可否に照らし合わせれば「極めて黒に近いグレー」に該当する魔法のため、使用には「必要なる状況」の確認と本局の許諾による許可が必要となる。
「ぐああああああ!!」
超重量級の氷塊が頭上から降り注ぎ、シャーフはその重量と圧倒的な冷気に全身が悲鳴を上げる。
「この痛みは・・・・・・本物!」
「クフフフ・・・残念ながら君は既に袋の鼠です。この幻覚空間に入ってから、君は僕とクロームの
「なに!?」
「行けますね、クローム」
「はい! 骸様!!」
はやての魔法攻撃を受けたシャーフの前に現れた骸とクロームは、互いの霧の炎を上手く混ぜ合わせる。
(二つの術者の炎が混ざり合っている・・・・・・! 何が始まろうというのだ!?)
そして、炎が上手く混ざり合うや―――二人はシャーフを
「「
幻覚空間に現れる、限りなく現に近い獰猛な怪物達。
「な・・・なんだ・・・これは・・・・・・!」
シャーフはあまりに
「渇きを、癒してあげましょう。永遠の絶望の中で―――」
「うああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」
断末魔の悲鳴とともに、シャーフは絶望の
「さらばです、羊の使徒シャーフ」
幻覚空間から抜け出た骸は、抜け殻となったシャーフに背を向ける。
「墜ちろ。そして、巡れ」
*
第三階層 南東部・砂地
その時、骸の幻覚が解かれるとともに、シャーフの気配が消えたことに気付く。
「シャーフ・・・」
「もらった!」
「はああああ!!!」
一瞬の隙を見せたセルピエンテに向かって、ルキアとティアナは突進―――
ガキン!
「「な!」」
だが、セルピエンテは二人を体中の触手で捕え宙へと浮かび上がらせる。
「どうやら・・・他の使徒達はやられてしまったようだ。少し予定と違うが、この程度は誤差のうち。計画に何ら支障は来さない」
「この!!」
「放しなさいよ!」
逆さ吊りにされ、まったく身動きが取れない二人は触手を斬ろうと刀を振るが、セルピエンテはそんな二人を不気味な笑みで見つめると、袖白雪の純白の刀身、クロスミラージュの魔力刃を触手の一振りで破壊する
「「あ!」」
「死んでもらおう!」
セルピエンテは触手に力を込め、逆さ吊りにした二人の体を圧迫する。
「「うわああああああああああ!!」」
「ああ・・・美しい声だ」
二人が力尽きると、セルピエンテはぐったりとした二人を目元付近の高さまで下す。
「さてと・・・時間を調整して、残りの・・・」
と、呟いた直後―――前触れも無く頭上から粉雪が降り始める。
「!?」
「さ、
辛うじて意識を取り戻したルキアは、折れた
グサッ!
「ぐおおおおおおおおおおおおお」
氷の刃がセルピエンテの心臓を貫くと、鎧からその下の皮膚までもが瞬時に凍結を始め、断末魔の悲鳴とともに氷解。
「朽木さん!」
「ティア!」
戦いを終えた仲間達が各所から集まり始め、セルピエンテを撃退したルキアとティアナの元へと駆け寄る。
「なんとか大丈夫だ」
「だけど、思ったよりもきつかったかな・・・」
と、その時―――
「ふふふ・・・思ったよりもやりおるな・・・」
氷解寸前のセルピエンテが、自らを打ち破ったルキアとティアナ、駆けつけた仲間達を嘲笑うかのように言葉を呟く。
「本当は貴様達を道連れにするつもりだったのだが・・・はっ。まぁいいだろう。我々がここで死ぬのは規定事項だった(・・・・・・・)のだからな」
「なに?」
「どういうことだ?」
「それは教えぬ。ふふふははは・・・」
意味深長な発言を残し、セルピエンテは氷となって砕け散る。
「なんだ・・・こいつら?」
途方もない不安がルキア達の心に湧き上がる。
果たして、セルピエンテが言った言葉の真相とは――――――!?
参照・参考文献
原作:久保帯人『BLEACH 31・42巻』 (集英社・2007、2009)
原作:都築真紀 作画:藤真拓哉『魔法少女リリカルなのはViVid 3巻』 (角川書店・2011)
原作:都築真紀 作画:緋賀ゆかり『魔法戦記リリカルなのはForce 3巻』 (角川書店・2011)