死神×マフィア×魔導師 次元の破壊者   作:重要大事

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衝突する力と想い(前編)

エンド・オブ・ザ・ワールド 第三階層

 

 雲をつき破って現れる巨大な狒狒王(ひひおう)の頭部。

 空中を蛇行する狒狒王蛇尾丸(ひひおうざびまる)を操る阿散井恋次は、十二使徒(エルトゥーダ)の一人―――ボアーと交戦。「うおおおおおお!!」

 気合十分に声を上げながら蛇尾丸(ざびまる)刃節(じんせつ)を伸ばしてくる恋次の攻撃を、ボアーは並外れた怪力で受け止め持ち堪える。

「これ・・・効かない」

たどたどしい言葉を紡ぎながら口元を歪めると―――狒狒王蛇尾丸(ひひおうざびまる)の口元を握りしめた状態から恋次の卍解ごと彼の体を持ち上げ「うおおおお!」と言って投げ飛ばす。

「まだまだ!」

エンド・オブ・ザ・ワールド内に充満している霊子に酷似した物質を足場にし、逆さ吊りの状態から恋次はボアー目掛けて豪快な一撃を放つ。

狒骨大砲(ひこつたいほう)!」

 口腔内から怒涛の如く放出された赤色に輝く霊圧の砲撃が、ボアーの体を直撃。

 砲撃の勢いを受け止めることはできず、硫酸のような色を持つ黄色の湖へと墜落する。

 ジュージュー、という音を立てていることから湖の水には硫酸と同じような強い溶解作用があることが窺える。

 大地に下りた恋次がボアーの出現を警戒していると、全身から多量の湯気を上げながら辛うじて全身が赤く(ただ)れたボアーが湖から顔を出す。

「く・・・くそ!」

 恋次の卍解の技の中で、現状では狒骨大砲(ひこつたいほう)が最も威力が大きく破壊力に長けている。その技の直撃を受け、かつ溶ける水に全身を浸かっていながら―――ボアーはしぶとく立ち塞がる。

「・・・お前・・・許さない!」

皮膚が赤く(ただ)れ体中から湯気を上げるボアーの表情は、明確な怒りと殺意に満ちている。

恋次はボアーの体から上がる湯気と辛そうにしている様子から、背後にある水との因果関係に気づく。

「あの黄色い水の所為か? 効いてる・・・だったらもう一発!」

 敵が弱っている隙を見計らい、すぐさま第二発目の狒骨大砲を仕掛けようと試みるも、次の瞬間―――ボアーは一瞬にして恋次の懐に飛び込んできたかと思えば、狒狒王蛇尾丸(ひひおうざびまる)の口腔内でチャージされていた霊圧の塊目掛けてパンチを繰り出す。

 ドーン!!

 霊圧が内部爆発を起こし、狒狒王蛇尾丸(ひひおうざびまる)の体がバラバラに飛び散った。

「な・・・」

「次、おまえ!」

 言うと、不釣り合いに巨大化した腕を以てして恋次の体を殴りつけ、ワイヤー状の骨を利用しながら空中へと放り上げる。

「ぐあああああ」

 想像を絶する圧力が腹部を中心に加わり、恋次の内臓は次第に圧力に耐え切れずに破裂する。

 強い衝撃を味わい、更には地面に体を強打した恋次の体はボロボロだった。

 ボアーは激しい身体的負荷で身動きが取れない恋次の体目掛けて飛び上り、空中から重力に上乗せした体重を負荷―――更なる苦痛を恋次に与える。

「がっは・・・」

 何百キロという巨躯(きょく)が持つ元々の重さと位置エネルギーを相乗させ下腹部を中心に圧力が加わり、恋次の臓物は瞬時に破裂―――多量の吐血を伴い絶体絶命。

「おわり!」

 止めを差そうと、ボアーは右腕をおもむろに振り上げるが―――

「おわりは、てめーだ!」

恋次は気力を振り絞り、柄だけとなった刀に力を込め、切っ先を地面に突き刺す。

次の瞬間―――白い煙を伴った突風のようなものが地面から吹き出すと、バラバラに飛び散った狒狒王蛇尾丸(ひひおうざびまる)のパーツが浮上する。

異変に気付いたボアーが本能的に危険を感じた直後、恋次は意地の一撃を仕掛ける。

狒牙(ひが)ッ!! 絶咬(ぜっこう)ォォォッ!!」

節の途切れた蛇尾丸(ざびまる)の刀身を一斉に相手に突き立てる、刀身を折られたときの奥の手―――「狒牙絶咬(ひがぜっこう)」。折れた斬魄刀が突然攻撃を仕掛けてくる為、相手の意表を衝いたり隙を作り出すには効果的だが、傷ついた蛇尾丸に無理を強いるために斬魄刀本体への負担が大きく、連続しては使えない。

だが、結果としてボアーの意表を突くことに成功した恋次の攻撃は無防備状態のボアーの全身目掛けて飛んで行き、その肉体を完膚なきまでに串刺した。

「ぐあああああああ」

串刺しという無残な最期を遂げたボアーの悲惨な断末魔を聞きながら、恋次は口元をつり上げる。

「へへへ・・・蛇尾丸(ざびまる)、舐めんなよ」

 

 

第三階層 北東・山脈地帯

 

 恋次がボアーを打ち破った同時刻―――鉄槌の騎士ヴィータと獄寺隼人、大人ランボの三人は屹立(きつりつ)した山脈地帯で激しい打ち合いを繰り広げている。

 相手は、十二使徒(エルトゥーダ)随一の防御力を誇る虎の使徒ティグレ。

「テートリヒ・シュラーク!!」

 ヴィータの愛機“(くろがね)伯爵(はくしゃく)グラーフアイゼン”による単純な魔力打撃でティグレの体を殴りつけると、鎧の硬さもさることながら皮膚自体が金剛石(こんごうせき)の如く硬化したティグレにはまるで形無し。

「ハッ!」

 グラーフアイゼンの打撃にも屈しない頑強な体を絶対の防御としてあからさまに見せつけるティグレは、鋼鉄製の鍵爪(かぎづめ)を用いてヴィータの甲冑を切り裂く。

「ぐああああ!!」

 甲冑を切り裂くと同時にヴィータの薄い肌を引き剥がし、大量出血をもたらし―――力一杯彼女の体を投げ飛ばす。

「赤チビ!」

「ヴィータさん!」

 獄寺と大人ランボは負傷したヴィータの元へと駆け寄り、彼女の身を案じる。

「ハハハハハハッ!!! 何遍も言わせんな!! 俺の皮膚は十二使徒(エルトゥーダ)最高硬度だ!!! てめえら人間の武器で傷を負わせられる訳が無えんだよ!!!」

「く・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・なんということだ・・・・・・!」

 例えるなら、ティグレは厚い鎧の下に更に鎧を着こなしている感じだ。あらゆる物理的エネルギーを伴った攻撃を瞬時に弾き返すばかりか、その体を貫通させることを許さない―――真面にダメージを負わせることが不可能に近かった。

 絶望という言葉が獄寺と大人ランボの脳裏に過る傍ら、出血を伴いながらヴィータは意地の力で立ち上がり、グラーフアイゼン片手にティグレに物申す。

「・・・ごちゃごちゃウルセーんだよ・・・・・・! 十二使徒(エルトゥーダ)最高硬度だか何だか知らねえけど・・・・・・あたしと鉄の伯爵グラーフアイゼンの手に掛かって・・・砕けねぇものは・・・」

 と、言いかけた瞬間―――ヴィータの体が前に倒れかける。

「おっと!」

 咄嗟に大人ランボが彼女の体を支えると、支えられた状態からヴィータはティグレを睨みつけるように見つめ、諦めていない表情で口元を緩める。

「この世に万にひとつもありゃしねぇ・・・」

「赤チビ・・・・・・ああ。てめぇの言う通りだぜ」

 ヴィータの何気ない一言が諦めかけていた獄寺の勇気と闘志に炎を燃やす。

立ち上がった獄寺は、腰に装備してあるボンゴレギア「嵐のバックルVer.X」からギアアニマル「嵐猫(ガット・テンペスタ)」の(うり)を呼び出し、肩に乗せる。

「たとえお前がどれだけの絶望をオレたちにぶつけてこようが関係ねぇ。オレたちは必ずてめぇらをぶっ倒す! そして、笹川とオレたちの世界を取り戻してみせるぜ!!」

 その言葉に触発され、大人ランボも口元を緩めおもむろに呟く。

「やれやれ・・・こんな怖い体験は正直オレの趣味じゃないんですが・・・・・・男には、避けては通れない戦いがあるものだ。そして、それが今だというなら―――やるしかない」

 本来は臆病者で格好つけてばかりいる大人ランボも、この時には確かな覚悟をその瞳に宿していた。

 三人の気持ちがひとつになり始めるのを見て、ティグレは面白くなさそうに「ちっ」と舌打ちをする。

「実におめでたい頭してやがるな。まぁいいさ―――そんなにいうなら嫌っていうほど味あわせてやろうか。望み通りの『絶望』をな」

 次の瞬間、ティグレは両腕に装備した鍵爪を地面に向けて突き刺し、全身に漲るエネルギーを流し込んで、火山の如く爆発させる。

 猛烈な揺れを伴いながら地面が捲り上がり、獄寺達に迫りくる。

 三人は高く飛び上がってこれを避けると、互いにアイコンタクトを送ってから三方向に散らばった。

「瓜!! 形態変化(カンビオ・フォルマ)だ!!」

声高に叫ぶ獄寺の呼びかけに答え、瓜は「ニャアアア!!!」と鳴きながらナッツやロールと同様に肉体の形状を変化させ、獄寺の全身に装備される武器となる。

体中にダイナマイトを帯びたベルトを装着し、パイプ型の発火装置を加えた獄寺は、「ハリケーンボム隼人」の異名を誇るダイナマイト使いとなって、怒涛の反撃を始める。

「2倍ボム!!」

 通常時、両手に8本のダイナマイトを所持して敵にぶつけるのがダイナマイトを使ったときの獄寺の基本戦術。それを、一度に倍の16本に増やしての攻撃は過激そのもの。

 ティグレの直接的なダメージにはならないものの、嵐属性の炎の特徴である「分解」作用を持ったダイナマイトの爆撃は凄まじき、ティグレに攻撃のタイミングを鈍らせる。

「小賢しい真似しやがって・・・!」

 頭で策を巡らせるよりも、手っ取り早く端的に勝負を付けることを好むティグレは獄寺の攻撃の意図を深く考えず―――爆撃から逃れ空中から攻撃を仕掛ける。

「アイアンクロー!!」

「させるか!! 牛丼、来るんだ!!」

 攻撃の直前、ボンゴレギア「雷のヘルムVer.X」を被った大人ランボが、雷を伴ったヘルムの紋章からギアアニマルの牛丼を召喚。

「ぬおおおお!!!!」

 牛丼は猛烈な勢いでティグレに向かって突進し、彼の体を吹き飛ばす。

「ヴィータさん!!」

「ナイスだ、大人ランボ!! いくぞ、アイゼン! ロードカートリッジ!!」

〈Exposion. Raketeform〉

 大人ランボが攻撃の機会を作ってくれたことに感謝しつつ、ヴィータはグラーフアイゼンに魔力カートリッジを消費させ、ロケットの噴射を利用しながら回転の遠心力とともに―――ティグレ目掛けて打撃を行う。

「ラケーテンッ! ハンマー!!」

 全身全霊の力を込めて殴りかかったヴィータだが、ティグレはヴィータのハンマーヘッドを寸でのところで鷲掴みにし、勢いよく突撃してきた彼女の攻撃を受け止める。

「な!!」

「「なに!?」」

 目の前の光景に疑心するヴィータ、獄寺、大人ランボと歪んだ笑みを浮かべるティグレ。

「どりゃああ!!」

「うわあああああ!!」

 100万馬力の力でヴィータの体を獄寺と大人ランボへと投げつけ、射線上に立っていた獄寺と大人ランボの元へヴィータが勢いよく飛んでくる。

 彼女の体を受け止めた二人は威力を殺すことができず、そのまま後ろへと吹き飛び、全身を打ち付けながら―――戦いを諦めずに再度立ち上がる。

「アホ牛!! てめぇの本気はそんなもんじゃねぇだろ!! 形態変化(カンビオ・フォルマ)だ!!」

「わ、わかりました! ぎゅ、牛丼!!」

 半ば獄寺に脅される形ではあるが、大人ランボは牛丼に呼びかけ「形態変化(カンビオ・フォルマ)!」と叫ぶ。

 牡牛(おうし)は唸り声を上げながら凄まじい電圧を帯びた状態でランボの体へと吸着し―――牛の角がついた重厚な鎧へと変化する。

「うおおおお!!」

 だが、この鎧は少々重すぎるのが欠点だ。大人ランボの華奢(きゃしゃ)な体ではこれを扱うことは困難であり、鎧の重さに耐えきれずに尻もちをつく。

「いててて・・・やっぱりこれはオレには重すぎますよ」

「このアホ牛!! んなこと言って場合か!! 状況よく見ろ状況!!」

「この野郎!! ガキンチョのときはガキンチョなりにムカついたが、大人になったらヘタレに成り下がったのか!?」

「ひいい・・・///お、落ち着いてくださいよヴィータさん! イマは言い争ってる場合では・・・」

「誰のせーでキレてると思ってるんだ!!!」

 ヘタレな大人ランボの言動は逐一獄寺とヴィータの神経を逆撫でさせる。

 ティグレという敵が目の前にいるにも関わらず、それを無視して不毛な言い争いを繰り広げていると―――案の定、敵の攻撃を許してしまう。

「ハハハハ!!! 本当にこんなおめでたい連中は初めてだ!!」

「やべっ! 瓜!!」

 咄嗟に瓜に呼びかけると、ティグレの顔面に爆弾と化した瓜が現れ―――彼の視界を覆い隠すと同時に、爆発。

 ドカーン!!

「グアアアアア!!! 目があああああ!!!」

 瓜自身を爆弾と化して相手に予想外の方角から爆発させる「瓜ボム」の効果は、絶大だった。

頑丈な鎧と皮膚を持つティグレと言え、繊細な目を傷つけられれば話は別で―――今までに味わった事の無い苦痛が急襲。

 この隙に、ヴィータは大人ランボと協力して一気に止めを差そうとする。

「ちゃんと合わせろよ! 大人ランボ!!」

「べ、ベストを尽くします・・・」

 鬼のような形相で大人ランボを見るヴィータに、終始引き()った顔の大人ランボは雷のボンゴレギアの本来の力を解放する。

「ワイドホーン!!!」

 鎧の重さで千鳥足気味の大人ランボはヴィータに怒られたくないという一心から、地面に足を着いて踏ん張ると、胸部のレバーで角の形状を調整し横長めに設定。

「電撃コイル(コルナ・モッラ・エレットロ・ショック)!!」

さらに角の先端の螺旋状の部分がコイルの役割を果たし、電撃コイル(コルナ・モッラ・エレットロ・ショック)で雷の炎を通し―――地面に含まれる無数の砂鉄を引きつけ、それを電圧で溶かし硬化させる。そうして、超鋼鉄の角を作り上げることに成功する。

「エレットトゥリコ・アイアンホーン!!!」

 雷の炎を帯びた超電圧の角を構えた大人ランボの頭上には、ヴィータが浮遊している。

「鉄槌の騎士ヴィータの本気を見せてやる!! アイゼン!!!」

〈Zerstörougs Hammer〉

 内蔵された魔力カートリッジを三発ロードし、グラーフアイゼンの形状を変化させる。

 通常のギガントフォームに加え、巨大なハンマーヘッドにはドリルが付随されている。これこそ、鉄槌の騎士ヴィータがJS事件において、古代兵器(ロストロギア)「聖王のゆりかご」内で使用した最強にして最後の力。

先端に込められた魔力をドリルという回転機構によって一点に集中して(ひね)り込まれ、防御と装甲を抜けた衝撃と回転を与えられた魔力が対象内部へと拡散、内部から破壊し尽くす。

「シェアシュテールングスハンマー!!!」

 鉄槌の騎士最強の一撃が繰り出され、破壊対象であるティグレ目掛けて巨大で強烈なハンマーの一撃が振りかかる。

 目の痛みを堪えながらティグレはこれを受け止める、だが思いのほか質量が大きく―――徐々に体が後退し始める。

「ぐ・・・・・・!」

 堅い皮膚を食い破ろうとするアイゼンのドリルの回転速度がカートリッジの消費とともに上がっていく。その度に、溶鉱炉での作業を彷彿(ほうふつ)とさせる多量の火花が飛び散る。

「今だ!!」

 ヴィータがティグレを抑え込んでいるその隙に、タイミングを見計らっていた大人ランボが雷の炎を帯びた二本の角を敵に向け、全速力で突進する。

「うおおおおおおおおおおおおお!!!!」

 荒れ狂う牡牛の如く。

大人ランボを止められる者は誰もいない。

「喰らいやがれ!! 電撃鉄の(フェッロ・コルナ・エレットロ・ショック)!!!」

電撃コイル角で作りだした超鋼鉄の角「エレットゥリコ・アイアンホーン」を二本の巨大な槍に収束し、自身の突進と共に打ち放つ必殺技。

角は大人ランボが砂鉄を練って作った鉄の角はただの鉄ではなく、大空の7属性で「硬化」の作用を持つ雷の炎でコーティングした超鋼鉄製。

その一撃は、激しい一撃を秘めた雷電(らいでん)。向かうところ敵なし。

「ぐああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」

 シェアシュテールングスハンマーに気を取られる余り、大人ランボによる攻撃態勢を疎かにしていたティグレは、激しい雷の一撃を全身に浴びながら、最高硬度と自負していた体を―――電撃を帯びた鉄の角に貫かれ、空しく散って行った。

 三人の力を見くびった末に玉砕され、粉砕する。

 ティグレを打ち破った直後―――多量の魔力と気力を使い果たしたヴィータと大人ランボはぐったりとした様子で腰を下ろし、獄寺は二人の働きを労った。

「やったぜ!! 正直最悪な組み合わせだと思っていたんだけどよ!!」

「ふん!あたしを誰だと思ってるんだ・・・ま。でも正直な話、ちったー見直したぜ・・・大人ランボ」

「くか~~~~~~」

 折角ヴィータが素直な気持ちで大人ランボの事を褒めたのに、気力を使い果たした彼は眠りこけている。

10年経っても自分のペースを崩さないある意味凄い大人ランボの対応に、二人は感嘆と呆れを含んだ溜め息を漏らす。

 

 

第三階層 西部・空中

 

「はあああああ!!」

「どりゃあああ!!」

 厚い雲に覆われた第三階層の制空権(せいくうけん)を懸けて激しく衝突し合う金色と紅色に輝く二つの光。

フェイト・T(テスタロッサ)・ハラオウンと十二使徒(エルトゥーダ)ファイサンが目にも止まらぬ速さで撃ち合いを繰り広げている。

一進一退の攻防。バルディッシュ・アサルトとネイキッド・ラングの刀身が衝突を繰り返す度、火花が散る。

フェイトは体を捻らせ体勢を整えると白兵戦でファイサンを向かっていくが、ファイサンもフェイトと対等以上の力でぶつかってくるため、拮抗状態が続く。

「ネイキッド・ラング!」

 ファイサンは剣状にしたラングで力強く斬りかかり、シールドの展開が間に合わないため、フェイトは腕の装甲に魔力を圧縮する。

〈Thunder Arm〉

 金色色に輝く雷の装甲でファイサンの斬撃を凌ごうとするが、その表情は険しい。

「くうう・・・・・・」

 装甲が威力に耐えきれず爆発した瞬間、フェイトは空中に放り投げられながらファイサンから距離を取ろうと今よりも高い位置へと飛翔。

 逃げる彼女を追いかけようとファイサンも鎧の下に折りたたまれていた翼を広げ、最高速度で飛び上がる。

 空中における二つの力のぶつかり合いが、幾度となく繰り返される。

〈Plasma Lancer〉

 フェイトは得意技のひとつである高速直射魔力弾を形成、ファイサンへと撃ち出す。

「ファイアッ!」

 プラズマランサーは、高速で接近してくるファイサン目掛けて飛んでいくと―――それを(かわ)したファイサンをその後何度も標的に定め飛び続ける。

 環状魔法陣を使用した加速発射システムを装備し、遠隔操作による再照準・発射を可能としているこの技の性質は、ファイサンにとって面倒極まりないものだった。

 (いささ)(わずら)わしいと思ったファイサンは、両翼を名一杯広がるや、大量の羽根を矢のように一斉に放つ。

「ガトリング・フェザー!!」

 プラズマランサーと衝突した羽根は着弾と同時に爆発。同威力の力と力が衝突を起こしたことで、フェイトの技は相殺(そうさい)された。

 苦い顔を浮かべながら、フェイトはバルディッシュの先端に魔力刃を形成。ファイサン目掛けて突進する。

「はあああああああああああ!!!」

 振り下ろされる金色の斧の一撃を、ラングで受け止めたファイサンは戦いを通じて理解したフェイトの攻撃について率直な感想を述べる。

「あなたの攻撃には殺意が籠ってない! そんな生半可な気持ちじゃ、わたしには勝てないよ!!」

 フェイト・T・ハラオウンの攻撃は、確かに強力だった。だが、一護や綱吉達とは決定的に異なる点がひとつ存在する。

 どの攻撃においても「殺意」と言うものが籠っていないことだ。

 元々純粋な魔導師である彼女やなのは達にとって主流なのは「相手を傷つけずに制圧する」というスタンスで、「相手を殺すつもりで傷つけ制圧すること」ではない。古代ベルカの騎士であるシグナムらヴォルケンリッターとは異なり、敵であっても相手を傷つけるという行為自体に躊躇(ためら)いを抱いてしまうのだ。

 同じ年の位の一護や綱吉達の場合は、かなり状況が特殊な事情もあるが―――十二使徒(エルトゥーダ)との戦いにおいて彼らは(わず)かながらに殺意を抱いていた。それが結果として、十二使徒(エルトゥーダ)(たお)す力に繋がっている。

 ファイサンは戦いにおいて確保による制圧を信条とするフェイトの心に揺すりを掛けると、一瞬の隙を窺うと同時に背後へと回り込みラングの一撃を食わせる。

「がっは!」

 背中を斬られたフェイトはバランスを崩して地面へと下降する。

「楽に()かせてあげる!」

 彼女の息の根を止めようとするファイサンが、嬉々とした表情を浮かべながらラング片手にフェイトに接近。

「ソニック―――!!」

〈Sonic Form〉

 フェイトは元々薄い装甲を極限まで薄くし、防御を捨てた分速力を極限まで高めた「真・ソニックフォーム」へと変化。

 ファイサンのラングを皮一枚で受け流し、光の速さの如く移動する。

「はあああああああああ!!!」

 

 ドカーン!!

 

 捨て身の覚悟で大剣状にしたバルディッシュの刀身でファイサンを叩きつけると―――凄まじい爆音を伴った。

 爆炎から姿を現した両者の装甲は焦げ付いており、真・ソニックフォームになったことが災いしてか、フェイトの肉体へのダメージの方がファイサンよりも酷かった。

「は、は、は、は、は」

 全身が焼け焦げただけでなく、素肌に近い場所ほど出血が酷く、彼女自身の(ひたい)からも血が噴き出している。

 ファイサンは痛めた肩を押えながら、フェイトのとった行動を蛮勇(ばんゆう)ではなく勇敢と認識―――彼女を認めた。

「・・・・・・成程。肉を切らせて骨を断つって訳だね。薄い装甲にしたから、てっきり死に急いだのかとばかり思っていたけど―――あなた、結構なギャンブラーだね」

「褒め言葉として受け取っておく。だけど、私は負けるわけにはいかない!」

〈Riot Blade〉

 フェイトはバルディッシュのフルドライブに当たるフォースフォーム「ライオットブレード」の発動に踏み切った。

魔力カートリッジが装填されたマグナムが高速回転すると、現状のザンバーよりも細身の片刃の長剣が形成される。

ライオットブレードは高密度に圧縮された魔力刃は高い切断力を誇るのみでなく、刀身に伴う高圧電流により、防御の上からでも電撃によるダメージを伝達する。

また、そのサイズは、フェイトの高速機動を生かしきるためのバランスが取られている―――正に彼女の戦い方に合せて作り上げられた最強の切り札である。

「へぇ~勝つ気満々だ。いいよ、そっちがその気ならわたしだって―――」

 言うと、ファイサンは鎧の下に折りたたまれていたもう二つの翼を出現させ、計四つの翼を広げながら勝気な表情を浮かべる。

「心底本気でいかせてもらうから」

 互いに持ちうる力全てを尽くして戦うことになった。

 両者は一歩前に足を踏み出すや否や、空中で火花を散らしながら今までとは比較にさえならない速さで衝突。

己の矜持(きょうじ)あるいは意地のような感情を懸ける姿勢は、人間も十二使徒(エルトゥーダ)も大差はなく―――フェイトは仲間と世界を救うため、ファイサンはギュスターブの野望成就のために力を尽くす。

衝突の中で、翼を四枚に増やしたファイサンの方が若干素早く、フェイトの軽い体をラングの一振りで吹き飛ばす。

「へへっ! ちょっと軽すぎるでしょ!! ビュンビュン飛ばされちゃってさ!! ちゃんとご飯食べるの!? 攻撃が当てにくくて仕方ないんだけど!!」

 岩山に激突したフェイトを罵倒しながら、ファイサンは彼女の元へと接近。

「それとも怖くて逃げてるだけかな? ねェ!?」

岩山にめり込んだ体を起こし、派手に吹き出る額の血を拭いキッパリ「逃げてなんか―――いない!」と断言。

体を叩き起こすと、フェイトは二本のライオットブレードを連結させて大剣としたフォーム「ライオットザンバー・カラミティ」を披露(ひろう)し―――巨大な魔力刃を持ってしてファイサンの防御力を打ち破るだけの力で斬りかかる。

「はああああああ!!!」

 ラングの刀身で受け止めるファイサンは、ライオットザンバーから加わる凄まじい圧力に耐えながら徐々に表情を険しくする。

「・・・ぐ・・・・・・・・・ッ」

「これ以上戦っても、何の意味はない。ここで大人しく降参して――――――」

 と、次元犯罪者を検挙するときの感覚でファイサンに投降を求めたのが命取りだった。

 刹那、ファイサンの姿がフェイトの視界から消えたと思えば、彼女はフェイトの背後を取っていた。

「っ!」

「ネイキッド・・・ッ!」

 フェイトが殺気を感じて後ろに振り返った直後、キジの脚を持つファイサンの回し蹴りが急襲。

「スパ―――イクッ!!」

「ああっ!!」

 (なまり)のように重く、そして鋭い一撃がフェイトの体を叩きつける。

 ネイキッド・スパイクの直撃を受けたフェイトは撃墜され―――陥没した地面の中心で大の字になって倒れ伏す。

「く・・・・・・」

 背骨を中心に骨のあちこちが(きし)み、真面に動かすことができない。

 ファイサンはゆっくりと彼女の元へと降り立つと、戦いの意味について言及してきたフェイトに言い返す。

「あなたは戦いに意味なんてものを求めてるんだ。ふ~ん・・・私はさ、十二使徒(エルトゥーダ)っていう命令される側の立場だからイマイチよくわからないんだけどさ。ギュスターブ様がやれっていうなら、私はあの方の手となり足となって働くだけだし」

兵は上の命令に絶対服従であり、自分の意志に関わらず上が行けと言ったら行き、撃てと言ったら撃つ。兵一人一人には内心の自由はあるが、戦うこと自体の多くは本人の意思によるものではない。

対して、将の場合は君主や元首に、戦を始める進言ができ、作戦立案もできる。軍事政権や軍部の力の強い国であれば自分の兵士を使って、思うが儘にできる。即ち、将には戦いの意義や意味を考え、それに即した行動をとることが許されている。当然その分だけ責任も重く、戦に勝てば大きな名誉を手に入れるし、逆に負ければ内外から大いに非難され、詰め腹を切ることになる。

十二使徒(エルトゥーダ)にとって、将であるギュスターブの命令は常に絶対であり彼の手足となって働くことが、彼らの至高の喜びである。ゆえに、戦いの意思を求めること自体がナンセンスなのである。

「それが・・・・・罪も無い多くの命を奪うことになっても・・・何にも感じないのか!?」

「愚問だね。兵は将の命令にさえ忠実であればそれでいい。だから、私は躊躇(ためら)わない―――殺すことに」

 フェイトは罪なき多くの命を無慈悲に奪うファイサンの責任能力を言及するが、問いかけたところで彼女が人間的な情に流される訳ではなかった。

 グサッ!

「ぐああ・・・」

 動けないフェイトの腹部に、ファイサンの無情なラングの刀身が突き刺さる。

 何とも言えない苦痛にもがく様をファイサンは冷たい眼差しで見つめる。

「気が付いてる?あなた、攻撃の瞬間-――無意識のうちにブレーキを掛けてるんだよ?最初にわたし言ったよね。生半可な気持ちじゃ、わたしには勝てないよって」

 言うと、突き刺したラングを強引に抜き取って天に翳すように振り上げ―――感情の籠っていない冷徹な眼差しで呟く。

「死んじゃってよ」

「しまっ・・・・・・」

 追い詰められたフェイト目掛けて、ファイサンのラングが勢いよく振り下ろされる。

 

 バシュ―――!

 

「がっ・・・・・・」

背中に走った鋭い感覚。

ファイサンの背中がフェイトの目の前で血吹雪を上げる。

あまりに突然のことに呆気にとられるフェイトの目の前で、ファイサンは命の華を散らし、力なく倒れると体を肉塊と化して動かなくなった。

「い、今のは・・・」

 状況が分からず酷く困惑するフェイトだが、そこへ現れたのは―――

「大丈夫か、フェイト?」

 声に反応して前を見ると、見知らぬ男が立っていた。

 リュミエールの世界国家騎士団の隊長が身に(まと)うマントと甲冑を見に付け、左腰に龍王牙(りゅうおうが)を携行する茶髪に鮮やかな翡翠の瞳、鋭い目付きに引き締まった顔の男性がフェイトを凝視している。

「あの・・・・・あなたは・・・ううう!」

「通りすがりの騎士だ」

 男は肉体的ダメージが大きく辛そうにしているフェイトへと歩み寄り、彼女の傷の具合を確かめる。

「待っていろ。直ぐに治療する」

「治療って・・・何をするつもりです?」

 すると、男はおもむろに瞳を閉じ―――呪文を唱える。

「万物に宿りし生命の息吹よ、今此処に。リザレクション」

 白色の魔法陣が足元に浮かび上がると、神秘的な光を伴った治癒の魔術がフェイトの傷ついた体を癒していく。

「あ」

 出血が収まり、ジリジリと肉体を苦しめていた痛みがすっかり消え、消費した魔力も大幅に回復する。

「これで楽になったはずだ」

「傷が・・・塞がってる。魔力も戻ってる・・・」

「ここから先は、君が頑張るんだ」

 フェイトの頑張りに期待しているような口ぶりで、男は彼女の元から立ち去ろうとする。

「あ、あの!」

 咄嗟(とっさ)にフェイトは男のことを呼び止め、お礼と一緒に素朴に思ったことを尋ねる。

「ありがとうございます。その・・・あなたの名前は!?」

 すると、男はフェイトの元へと振り返り、その名を口にする。

「龍児。夜御倉龍児(やみくらりゅうじ)だ」

「夜御倉って・・・・・・もしかして、あなた!?」

「母様と父様に、よろしくと伝えてくれ―――」

 龍児は柔らかい笑みを浮かべると、光の粒子となって天へと上っていった。

 フェイトは自分の窮地を救ってくれた男の正体が、この戦いの未来に生まれてくる夜御倉シンとはやて(L)の息子であることを悟り、いつかまた巡り合える日が来ることを願い、笑みを浮かべる。

 

 

第三階層 北北東 荒地

 

「うおおおおおお!!!!」

 十二使徒(エルトゥーダ)の一人、棍棒(こんぼう)使いのタウルスは突一(とついち)三人組―――茶渡、了平、スバルを相手に自慢のパワーで徹底抗戦。

「出でよ、漢我流(カンガリュウ)!!」

タウルスの棍棒を(かわ)した了平は、晴のバングルVer.Xからギアアニマル「晴カンガルー(カングーロ・デル・セレーノ)」こと、愛称「漢我流」を召喚。

晴属性の炎を耳に帯びた金色の装甲を施したカンガルーが召喚されると、了平はすかさず形態変化(カンビオ・フォルマ)を促す。

「我流!! 形態変化(カンビオ・フォルマ)!!」

 唸り声を上げる我流は神々しい光を放ちながら、了平の肉体と合体。

 ヘッドギアと晴グローブ(セレーノ・グラブ)を装備し、全身を金色色に輝かせるボクサー姿の了平が闇に覆われたエンド・オブ・ザ・ワールドに日輪の如く光をもたらす。

「でりゃあああああああ!」

 了平目掛けて棍棒を振りかざすタウルス。敢えて攻撃を避けることをせず、直撃を甘んじて受け入れた了平は肉体的負荷をバングルにチャージするための炎として活用。

 タウルスの一撃を受けたことで、一度に2つの晴の炎がチャージされ、了平はそこですかさず鉄をも砕く正拳突きを叩きこむ。

「サンシャインカウンター!!!」

 カウンターパンチを放つとともに、チャージされた2割の晴の炎エネルギーが一気に放出。タウルスを吹き飛ばす。

「ぬおおおおおおお!!!」

 安易に攻撃を仕掛けたことで了平のサンシャインカウンターの餌食となったタウルス。そこへ、ウイングロードを通ってスバルが接近し―――リボルバーナックルを構える。

「リボルバー・・・!」

笑止(しょうし)!」

 二度も同じ(てつ)を踏まないと、タウルスは棍棒二本を勢いよく振り切り突風を起こし、スバルを吹き飛ばす。

「まだまだ!!」

 空中で体を捻って体勢を整えると、青色に輝く近代ベルカ式魔法陣を展開。

「ギア・エクセリオン!!」

 ローラーブレード型の愛機マッハキャリバーの左右に青白く輝く翼が生える。

マッハキャリバーのフルドライブモードにして、魔導師としての力と戦闘機人(せんとうきじん)としての彼女の力の全てを運用する事が可能になっている。

「うおおおおおおおおおお!!」

 ナックルスピナーの回転速度を爆発的に高め、さらにマッハキャリバーの速力を限界ギリギリまで引き出した状態から、スバルは渾身の一撃を叩きこむ。

振動拳(しんどうけん)!!!」

 タウルスの棍棒目掛けて放たれたその技は、戦闘機人の素体として生み出されたスバル・ナカジマが持っている先天固有技能(インフィーレントスキル)

 四肢末端部からの振動波発生により、対象に共振現象(きょうしんげんしょう)を発生させ、粉砕することを(むね)とした破壊技術「振動破砕(しんどうはさい)」によって放出する振動エネルギーをマッハキャリバーと協力して放出せずに拳の周囲に圧縮。ナックルスピナーとの回転で、螺旋(らせん)動作を与えた振動エネルギーを対象に向かって撃ち込み、破壊する、収束された球形のエネルギーは、任意の範囲空間のみを破壊することが可能。

 バリ・・・バキン!!

 タウルス自慢の棍棒二つが無残にも粉砕され、その欠片が周囲に散らばった。

「な・・・・・・」

 この技は、場合によっては茶渡と了平の拳に匹敵、あるいはそれ以上の力を持っているとも言える。

対象の外装・装甲のみならず、内部で護られた骨格・機械部品といった「脆くて固い」部位にも瞬時に到達し、共振によって破砕する―――ゆえに棍棒の破砕など造作もない。

 武器を破壊され無防備状態となったところを、機会を窺っていた茶渡が巨大な盾のごとく変化した巨人の右腕(ブラソ・デレチャ・デ・ヒガンテ)による一撃を叩きこむ。

「巨人の一撃(エル・ディレクト)!!」

 爆裂爆砕。

 大地を削りながらタウルスは茶渡の拳の威力に押され吹き飛ぶ。

 土煙が上がる中、三人は万が一に備え警戒する。

 徐々に煙が晴れていくと、鎧が砕かれ丸裸となったタウルスが形相を浮かべながら三人の前に姿を現す。

「き・・・さ・・・ま・・・ら・・・・・・!!!」

「うぇ! 効いてない・・・!?」

「そんなハズはない!」

「鈍い方なのか。どっちにしても、あまり良い状況じゃないな」

「許さん・・・絶対に許さん!!!」

 嚇怒(かくど)したタウルスは、鋼鉄の如く変化した拳をギンギンと言う音を立てながら叩きつけ、その硬さをあからさまに三人に伝える。

 そして、次の瞬間―――瞬く間に移動するとともに、目にも止まらぬパンチで三人の急所を拳で的確に射抜く。

「「「がっは・・・!!」」」

 三人の急所に放り込まれた拳の力は凄まじく、内臓を潰され豪快に吐血。同時に周囲の岩場に吹き飛び全身を強打する。

「ふははははははは!!! 脆いな。そんな事では何も護れんぞ。そう、己の命さえもな―――」

先程の一撃を受け、全身の神経が酷く傷ついた三人は朦朧(もうろう)とした意識の中、タウルスの言葉に耳を傾ける。

「貴様達は丸腰だ。丸腰の者が戦場に踏み入れば、死は確実。そうして生き延びてこれたのか不思議で仕方ない。貴様達が何を思って丸腰で戦っているのかは分からぬ・・・だがひとつだけ言えることがあるとすれば、貴様達が(ことごと)く人間というものを理解していないということだ」

 タウルスは動けなくなった三人のうち、茶渡の方へと近づくと―――おもむろに彼の巨体を持ち上げ胸ぐらを掴み呟く。

「野生動物は本能で生きている。食べたい時に食べ寝たい時に寝る・・・しかし、彼等にはルールがある。必要以上に欲しがらない・・・うらやんだりもしなければ嫉妬もしない。嘘もつかない。だが人間は違う! 自分の為に、欲の為にどんな事でもする! 俺から言わせれば人間こそ獣! いやケダモノ! ケダモノが跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)する世界を守って何になる? 裏切られ、見殺しにされるだけの世界がそんなに美しいか?」

 厭世的(えんせいてき)なタウルスの弁舌を耳に入れると、瀕死寸前の茶渡は拳に力を込め、おもむろに口にした言葉は―――

「それでも・・・・・・守りたいのさ。これ以上、俺たちの世界やその他の世界がお前達に(けが)されないようにな・・・・・・!!」

「俺の目には、お前も世界を(けが)した連中と同じに見える!!」

 激昂(げっこう)したタウルスは茶渡目掛けて全身全霊の力を拳に乗せて撃ち放つ。

 茶渡は一瞬のタイミングを見計らい、タウルスの拳を避け―――左腕に宿る攻撃の力の象徴、「悪魔の左腕(ブラソ・イスキエルダ・デル・ディアブロ)」を解放。

「うおおおおおおおおおおおおお!!!!」

 拳に圧縮した霊圧をタウルスの腹部に叩きつけながら突進し、タウルスの体を岩場に叩きつける。

「ぐうううううう!!!!」

「了平!! スバル!!」

「「うおお(はい)!!」」

 茶渡の呼びかけに答えた了平とスバルは、最後の力を振り絞り―――今まで喰らったダメージを何倍にも返すつもりで、岩場に固定されたタウルスへと拳の一撃を撃ち込む。

一撃筆倒(いちげきひっとう)―――ッ!!!」

 フルドライブ状態から、スバルはなのはの得意技である直射砲撃を拳から撃ち出す。

「ディバイン―――ッ! バスター!!!」

 飛距離こそ短いが、確実にそれはタウルスの肉体に直撃。

「うぬおおおおお!!!」

「いくぞ!!! 貴様の拳を受けてチャージされた10個の晴の炎を、すべてこの一撃に乗せて撃つ!!」

 バングルにチャージされた全炎エネルギーを右拳に圧縮し、逃げも隠れもせず堂々としたボクシングを披露することを信条とした、笹川了平の一撃必殺の拳が今―――放たれた。

「これがオレのボクシングだ!!! 極限(マキシマム)サンシャインカウンター!!!!」

 どのような逆境も己の体を以てして砕き、ファミリーを明るく照らす日輪であることを使命として持つボンゴレ晴の守護者が放つそれは―――正に言葉通りの意味だった。

「のあああああああ!!!」

 チャージされた10の晴の炎エネルギーが一極集中し、日輪の如く凄まじい光を帯びた黄色のカウンターパンチがスバルの技に相乗する。

 そして、最後に茶渡が全霊圧を左腕の拳に収束―――すべてを破壊する悪魔の力をここに解き放つ。

「魔人の一撃(ラ・ムエルテ)―――!!!」

 

 ドンッ!!!

 

口を開けた髑髏(どくろ)のような形になるようにタウルスと岩壁を粉砕。

ここに、己の拳を武器とする突一三人組の勝利が確定する。

 

 

第三階層 北西・砂地

 

黄色の厚い雲に覆われた第三階層の奥へ進むと、広大な砂漠が地平線の彼方まで広がっている。

その砂漠に足を付ける二人の戦士。

熱き魂を胸に秘めしヴォルケンリッターが将シグナムと犬の十二使徒(エルトゥーダ)サバーカ。

奇しくも二人の武器は形状の違いこそあれ、一様に剣を所持している。

「これより先へは、通せんな」

サバーカは薙刀(なぎなた)に近い横幅の広い大剣を構え、シグナムに物申す。

「お前達はギュスターブ様の崇高なる使命において最も邪悪な病原体だ。それも、毒にも薬にもならない至極使い物にならない、な」

 自分達によって有害な存在であり、且つどのような使い方をしても自分達の考えを受け入れ恭順する姿勢を持たない三世界から集まった者達を病原体と形容。

 これに対するシグナムの回答は―――

「病原体か・・・・・・随分な物言い、と言いたいところだが。私自身のこれまでの所業を考えると、あながちウソとも言えん」

シグナムが言う所業―――かつて、闇の書と恐れられた古代ベルカ時代のロストロギアの守護騎士プログラムとして、完成と同時にすぐさま暴走を繰り返す闇の書の力となるリンカーコア収集のため、自らの意思とは関係なく敵を手に掛けてきた。

「だが、それを背負うのは我等だけで十分。主はやてや他の者達を病原体扱いするその物言いは、撤回してもらおう」

抗えず、覆り様のない運命を受け入れ、いつか壊れて果てるときを待っていた彼女だったが―――最後の夜天の書の主となった八神はやてとその友人であるなのは達によって、自らを縛り付けていた因果という名の鎖が解かれ、自由の身となった。

 犯した過ちを背負い、心より護りたい者と一緒に御身(おんみ)を尽くすことを誓った彼女は、自分と大切な者達を等しく病原体と(ののし)るサバーカを許せなかった。

「我々からすれば同じ病原体だ。お前達の思想や信条など興味はない。病原体は死滅させる―――それだけだ」

 シグナムは鞘からレヴァンティンを抜き放つと、カートリッジを一発ロードし、刀身に炎を灯す。

「どうしても、通してもらうつもりはないようだな」

(くど)い。さあ始めるぞ、烈火の騎士シグナム! 貴公の好きな殺し合いだ!!!」

 体中に漲る力を解き放ち、圧倒的な威圧感で以ってシグナムを威嚇するサバーカの物言いにシグナムは訂正を求める。

「心躍る真剣勝負は好むが、殺し合いは―――私の趣味ではない!!」

 刹那。剣士達は足を踏み出し、瞬きを許さぬ速さで衝突。

「はあああああ!!」

「でいやあああ!!」

 空中へと飛翔した二人は、それぞれのパーソナルカラーを伴った光球となってぶつかり合い、(しのぎ)を削る。

「く・・・」

 一度空中に足を止めたシグナムは、激しい打ち合いの中で斬られた箇所を手で押さえ、険しい表情でサバーカを凝視。

 シグナムとほぼ同じぐらいの傷を負いながら、その表情を崩すことはおろか何も感じていないかのようなサバーカの無表情は―――彼女に恐怖と戦慄を与える。

「ふむ。歴戦の猛者と言われることはある。一筋縄ではいかぬか」

 互いに牽制し合い、間合いに入らぬよう細心の注意を配る。

 剣の腕が達人の域にまで到達している者同士の戦いでは、如何に間合いを制するかが勝敗のカギとなる。

 シグナムはこの短時間にサバーカの間合いを分析し、さらには彼が振るう剣の性質と微妙な筋肉の癖なども事細かく頭に叩き込み、一瞬の隙を見て勢いよく踏み込む。

「はあああ!!」

 踏み込んできたシグナムの剣を愛刀で受け止めると、サバーカは左腕の装甲に仕込んでいた合金製のニードルをシグナムの腹部に刺し込み、意表を突く。

(合金のニードル! くそ・・・体が痺れて感覚が―――)

 ニードルの先端には神経を麻痺させる毒が塗られており、傷口付近から急速に毒が体に回り出し、彼女の指先の感覚をおかしくする。

硬化装甲(こうかそうこう)ッ!」

 全身の装甲をより強化させ、シグナムの剣閃に備える。

「おおおおっ!」

 サバーカに毒を打たれたシグナムは険しい顔を浮かべながら、愛刀レヴァンティンの刀身を振り上げる。

「レヴァンティン!」

〈Exposion〉

 カートリッジを一発消費し、烈火の炎を刀身に燃やしたシグナムは完全に手の感覚が無くなる前に、サバーカとの勝負を付けようと―――渾身の一撃を叩きこむ。

紫電(しでん)―――! 一閃(いっせん)!」

 煌々と燃え上がる豪快な炎が空中に拡散。

 炎の渦の中に閉じ込められたサバーカは大剣でシグナムの剣を押えながら、灼熱地獄に耐えている。

「う・・・おおおっ!!」

 同じ灼熱地獄を味わいながら、シグナムの勢いは衰えるどころか、より一段と力を上げている。流石のサバーカも、自らの演算結果を上回るシグナムの力に驚愕した。

(何という炎熱! これだけの潜在能力を隠していたとは・・・だが、この程度なら―――!)

 サバーカは右腕の装甲から短剣を取出し、空いている左手でそれを握りシグナムの心臓目掛けて刺突(つき)を加えようとする。

 バキッ—――!

 だが短剣が彼女の心臓を貫くことは無かった。

 シグナムは懐に飛び込んできたサバーカの短剣を、咄嗟(とっさ)に左手で受け止め、掌を貫かれながらもしっかりと抑え込んだ。

「馬鹿な!? 素手で―――」

「悪いな。お前達がリュミエールを攻めてくる間、こちらは存分に技術を磨いたものでな。終わりだ―――」

 シグナムは刀身に灯った炎を燃やし続け、その状態から新たな剣技を披露する。

魔神剣(まじんけん)(かい)!!!」

 縦に大きく炸裂する衝撃波を伴った火炎砲撃をサバーカへと放ち、地面に墜落していくサバーカの息の根を止める。

「おおおおっ!!!!!!」

「馬鹿なあああああああああああああああああ!!!!!」

 全身を切り刻まれ、挙句業火(ごうか)に焼き尽くされたサバーカの肉片が炭となり―――無味乾燥とした砂漠の大地に散らばった。

 

 

同時刻 第三階層 東部

 

「破壊! 破壊! 破壊!」

十二使徒(エルトゥーダ)達が確実に数を減らしていく中、第三階層の東部で激闘を繰り広げているのは―――山本武と兎の使徒コネホ。

「時雨蒼燕流、守式四の型『五風十雨(ごふうじゅうう)』!」

コネホが所持する拳銃ネイキッド・バスターから発射される0.03秒の銃弾を、相手の呼吸に合わせて剣を(かわ)す回避奥義により、山本は正確無比な弾道を三本の小刀を使った炎の推進力により超高速で避ける。

「そこだッ!」

 三本の小刀から噴射される雨の炎でコネホの懐に飛び込んだ山本は、時雨金時の刀身を勢いよく振りかざす。

 直後、コネホは肘からニードルを射出―――山本の心臓を狙い撃つ。

「おっと!」

 皮一枚のところでこれを避けた山本は、コネホのもとから離れ距離を取って牽制(けんせい)

「思った以上につえーな。まるで動きが読めねぇ。いや・・・読みたくてもお前だけは他の連中と違って、心の機微が伝わらねぇ。まるでロボットと戦ってる感じだ」

 コネホは攻撃から何まで兎に角機械的だった。

 人間的な感情は一切なく、敵を殲滅(せんめつ)する為だけに戦っているロボットそのもの。感情の無い相手ゆえに躊躇(ちゅうちょ)なく戦える半面、心の機微を読み取ることが難しいため出方を窺うことが極めて困難だった。

「山本武・・・粒子反応健在。破壊!」

 生体粒子反応が消滅しない限り、コネホは執拗に攻撃を続行する。

「時雨蒼燕流、守式七の型『繁吹(しぶき)(あめ)』!」

 雨の炎を纏った時雨金時で水を回転するように炎を巻き上げ、コネホの攻撃を防ぐと―――山本に銃口を向けたコネホが怒涛の如く、銃弾を浴びせる。

「ネイキッド・バスター! 無限斉射!」

 ドドドドドドドドドドド!!!

 規格外な威力。

 ドドドドドドドドドドド!!!

圧倒的な弾数。

ネイキッド・バスターから放たれる無限の銃弾が、山本に攻撃の隙を許さない。

 小刀三本片手に、炎エネルギーの大半を推進力に回す山本の後ろから容赦なく飛んでくる破壊の砲撃。

「ちょっ・・・ちょっと待てよ!! こんな技反則だぜ!?」

「破壊! 破壊! 破壊!」

「ちっ。何を言っても無駄だったな」

 敵の殲滅(せんめつ)を誰よりも忠実に実行する、それがコネホだ。ギュスターブ以外の如何なる言葉はこの怪人には全く通じない。

 山本は岩陰に隠れると、空中に浮遊している雨燕の小次郎に呼びかける。

「小次郎、形態変化(カンビオ・フォルマ)!!」

 掛け声と同時に、小次郎は山本と合体。

 山本自身は白い和服に黒い晒しを巻いた装束となり、両手は籠手(こて)を巻いた二刀流を所持するというスタイルになる。

「いくぜ、次郎。小次郎」

 刀の形に形態変化(カンビオ・フォルマ)したギアアニマルに呼びかけ、山本は岩陰から飛び出しコネホへと突っ込んだ。

「破壊!!」

 ネイキッド・バスターから放たれる嵐の如く激しい一撃を高速で回避しながら、山本はコネホの頭上へと飛び上がり、小次郎が変化した右手の刀を振り上げる。

氷雨(ひさめ)!」

 極限にまで雨の炎を硬化させた斬撃を放つと、斬撃はたちまち小さな氷塊となって降り注ぐ。

 コネホはこれを得意の早撃ちで撃ち落とす。

(たき)(まい)!」

 今度は左手に持った次郎が変化した刀に雨の炎を灯し、それを大きく振るう。

 すると、滝のように降らせた雨の炎をスクリーンのようにして、複数の姿に映しコネホの目を惑わせる。

「「「本物のオレはどいつだ?」」」

「すべて、破壊する!!」

 鎧の下に隠された砲門を解放するとともに、一切の躊躇(ちゅうちょ)なくコネホは破壊に徹する。

 複数の砲撃がスクリーンに放たれると、瞬時に爆発。爆風の中から飛び出した山本がコネホの背後を取る。

「こっちだ!」

 コネホが振り返るや、山本は次郎が携行している小刀三本と一緒に左手の刀から雨の炎を勢いよく放出する。

九頭竜(くずりゅう)川崩(かわくず)れ!」

 三本の小刀を軸に、雨の炎が灯った刀は氾濫する川の急流の如く、九つの頭を持つ龍となってコネホを飲み込もうと襲い掛かる。

 氷雨、滝の舞、そして九頭竜・川崩れはいずれも山本が考案したものではなく、初代雨の守護者で世紀無双(せいきむそう)と謳われた「朝利雨月(あさりうげつ)」との戦闘で拝借した。

 豪快な大技を前に、コネホは攻撃の手を休めなかった。

 だが単純な規模と威力だけでは、九つの頭を持つ雨の龍には敵う訳もなく―――そのまま押し流されてしまう。

「のおおおお!!」

 雨の炎に押し流されたコネホは大地を削りながら、岩場に激突。

 山本は怯んで動けなくなっているこの機会を逃さず、一気に畳み掛ける。

「時雨蒼燕流―――総集奥義(そうしゅうおうぎ)!」

 刹那(せつな)、小刀三本と右手の長刀、時雨蒼燕流を使った時雨蒼燕流の全てのまとめの型をコネホに叩き込む。

時雨之化(じうのか)!」

 瞬く間に雨の炎と斬撃がコネホの全身に叩き込まれると、コネホの動きは著しく低下し、大変ギコチナイ―――それこそ、ロボットの様な動きとなった。

「俺の活動エネルギーが低下! 非常事態!」

「驚いたか?」

 山本は鈍くなったコネホの頭上から、仕掛けた技の性質をご高説。

「時雨蒼燕流総集奥義“時雨之化(じうのか)”はお前をただ斬ったんじゃなく、雨の『鎮静』の炎でお前の動きを活動停止の寸前まで鈍らせたのさ」

言うと、山本は左手の刀を(さや)に収め、右手の刀を両手で握りしめる。

そして、コネホに向かって突撃。

「お前を斃すのは時雨之化(じうのか)じゃない。オレが親父から貰った時雨蒼燕流はいつだって―――完全無欠! 最強無敵だ!!」

 瞳に宿る時雨蒼燕流への熱い思いと、仲間を救うという確かな覚悟。

「時雨蒼燕流、攻式八の型―――篠突(しのつ)(あめ)!!」

 激しい炎を(まと)った斬撃とともに、コネホの体を空中へと放り上げた。

「俺の粒子反応・・・消失・・・・・・破壊!!」

 地面に叩きつけられたコネホは、ジリジリと電気を放電しながら最後の言葉を残し―――爆散。

 勝者は、ボンゴレ雨の守護者―――山本武に決定。

 

 

 

 

 

 

参照・参考文献

原作:久保帯人『BLEACH 17・35巻』 (集英社・2005、2008)

原作:都築真紀 作画:藤真拓哉『魔法少女リリカルなのはViVid 3巻』 (角川書店・2011)

原作:都築真紀 作画:緋賀ゆかり『魔法戦記リリカルなのはForce 5巻』 (角川書店・2012)

原作:小森陽一 作画:藤堂裕『S -最後の警官- 8・10巻』 (小学館・2012、2013)


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