死神×マフィア×魔導師 次元の破壊者   作:重要大事

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エンド・オブ・ザ・ワールド

最初に青年が姿を現したのは、高町なのはの夢の中だった。

そして、再度出現したのは―――彼女が絶望の淵に立たされ腐りかけていたとき。

素姓も一切不明なその青年について、分かっていることがあるとすれば、名前が高町なのはの幼馴染みで魔法の師である無限書庫司書長ユーノ・スクライアと同一であり、姿形も全く一緒だということ。

だが、そのユーノはなのはが知っているユーノとは大きく異なる点がいくつもある。

なのはの知らないユーノが、次元世界で起こっている未曽有(みぞう)の危機に対して何を思い、何を考えているのか―――

 

 

某所 某邸宅リビング

 

閑静(かんせい)な住宅街に立てられた一軒家。

その家のリビングにおいて、緑色の甚平(じんべい)と上から深緑色の羽織に帽子と言う出で立ちというほんわかとした雰囲気の優男―――ユーノ・スクライアは、この家に住む男と一緒に紅茶を飲んでいる。

コースターにカップを置くと、ユーノは紅茶に映る自分の顔を見ながら口籠る。

「気になるか?」

ユーノの心情を察して、目の前に座るオレンジの頭髪を持つ男がおもむろに話しかける。

男はユーノが考えていることのおおよそを察していた。

彼は今、京子奪還のためにエンド・オブ・ザ・ワールドへと乗り込み、ギュスターブと十二使徒に最後の戦いを挑もうとしている別次元のなのは達のことを考えていた。

考えていたことを的確に言い当てられながら、ユーノは驚いた表情は見せず、柔らかい笑みを男に向け呟く。

「僕は信じていますよ。向こうのみんなを」

「けど正直なところは?」

「いや~心配が尽きませんよ♪はははは」

 なのは達の実力を軽んじている訳ではない。むしろ、ユーノは彼女達の一騎当千の実力を十分に理解していた。

 だがそれでも、ギュスターブと十二使徒の力が人間のそれを大きく上回る力であることも理解している。

 彼らの底力を信じる気持ち反面、彼女達の身の上を憂慮(ゆうりょ)している。

「エンド・オブ・ザ・ワールド、だっけか。流石の俺やツナ達も、ヤバい感じがするな」

「重要さんの話だと、一度は大変なことになっているそうですからね」

「向こうに行ったら、お前も戦うんだろ? ギュスターブって野郎と・・・」

 お茶請けのクッキーをひと口かじって男が問いかけると、「あははは・・・。」と苦笑気味にユーノは言う。

「飽く迄彼らのサポートをするだけですよ。どの道10分しか向こうにはいられないんですしね」

 言うと、ソファーの上に転がっていた柄の先が傘のように曲がった杖を手に取り、おもむろに立ち上がる。

「僕の能力の一端を分け与えて、久しぶりに―――こいつ(・・・)を使わせてもらいます」

「へへ・・・久しぶりの復活ってわけだ。帰ってきたら、元の腕が鈍ってねぇかどうか確かめさせてもらうからな」

「それは、楽しみですね♪」

 ユーノは男に満面の笑みを浮かべ、静かに家を後にした。

 男はユーノのことを父性的な眼差しで見守り、彼が自らの道を切り開いて進んでいく様を静観し、時と場合によっては、彼を今後も助けて行こうと心に誓う。

 

 

エンド・オブ・ザ・ワールド 入口

 

十二使徒(エルトゥーダ)達の戦いのどさくさ、ギュスターブに拉致された京子を救い出すため、一護達は重要大事の導きで、闇が支配する世界―――エンド・オブ・ザ・ワールドへと突入。

「到着したよ、エンド・オブ・ザ・ワールド。ここがエンド・オブ・ザ・ワールドの入口さ」

空はどんよりとした赤い大気が世界を彩り、足下を見ると無味乾燥(むみかんそう)とした白い道と灰色の石柱がありグレーの四角いブロックが無数に浮かぶ、灰色が占めるグレーの世界。

だが同時に終末を思わせる雰囲気を醸し出しており、重苦しい闇が沈殿(ちんでん)しているかの如く―――負の力に満ち溢れている。

ここは、闇によって支配されたリュミールや一護達が元いた世界―――「光の世界」と称される表舞台の裏側、対極に存在する「闇の世界」、エンド・オブ・ザ・ワールドである。

「名前の響きからもっとこう・・・荒廃した世界を想像していたんだが・・・」

「想像していたのと大分違うな」

 獄寺とシグナムは、名前の響きから安易に想像できる世界終末とはどこかズレたイメージを持つエンド・オブ・ザ・ワールドの世界観に釈然(しゃくぜん)としない感じだった。

「実を言うと、僕も予想を大きく覆されたよ」

「重要さんも初めてなんですか? 世界の意志はエンド・オブ・ザ・ワールドも管理してるんじゃないんですか?」

 ティアナが素朴な疑問をぶつけると、重要大事は誤解の無いように説明する。

「僕らが行っているのは管理ではなく監視だよ。エンド・オブ・ザ・ワールドは僕らが管理している世界である『光の世界』とは一線を画す『闇の世界』。普段闇の世界に干渉することは、厳しく禁じられているんだ」

さらに、大事は世界の意志が世界管理者(ワールド・マスター)としての役目を如何にして担うのか―――その詳細を語り出す。

「世界の意志は、ひとりひとりによって管理世界が決められている。そして、管理する世界と世界管理者(ワールド・マスター)はワールドウィルシステムの最高AIこと、ドゥルガーが選出する。だけど、世界の意志の誰もが世界管理を任されている訳ではない。『保留』って形で、何らかの理由でフリーな状態の奴もいる。僕がそのタイプさ」

「それにしても・・・嫌な空気だぜ」

 恋次は大事の話を聞きながら、険しい表情を浮かべる。

 額からは汗が滲み出ており、無意識のうちに何度も額の汗を腕で拭う。

「確かに・・・常人が正気を保っていられないってのも頷けるぜ」

 山本も恋次と同様額から冷や汗を流し、改めてエンド・オブ・ザ・ワールドという世界が自分達にとって有害なものであるかを認識。あの雲雀恭弥でさえ、少なからず指を弄っては平静を保とうとしている。

「やれやれ・・・途轍(とてつ)もなく恐ろしい場所に、京子さんはいるようですね」

 はやての後ろから聞き覚えの無い声が聞こえてきた。

 振り返ると、牛柄のシャツにサンダルを履いた美男子が天然パーマに手を当てている。

 目をぱちくりとさせたはやては、咳払いをしてから大事に問い質す。

「ちょいと質問ええですか?」

「何だい?」

「この人誰やねん!!」

 関西人顔負けの鋭いツッコミが謎の美男子に向けられると、ボンゴレファミリーはいつの間にか紛れ込んでいたその男の存在に別の意味で驚愕。

「うわああ!!! 大人ランボだ!?」

「なんで10年後のアホ牛がここにいやがる!?」

「ランボ!? この人が・・・!!」

事情を知らない死神組と魔導師組は、「やれやれ」という言葉を口癖にしながら自信満々且つ貫禄のある態度を見せつける伊達男が、15歳のランボだと聞いてショックを覚える。

普通に考えたらあり得ない話だ。

今まで一護達と接してきたランボは思慮分別も付かない5歳児で、どのような魔法や魔術を使っても、物理的に三週間足らずでランボが10年分の成長を遂げることは不可能だった。

一体、どうしてこのような結果になったのか―――その答えは大事の口から語られる。

「10年バズーカっていう一種のタイムマシーンの効果で、ランボは5分間だけ10年後の自分と入れ替わることができるんだ」

敵わない相手に出会い、忍耐が限界を超えると5歳のランボは泣きながら四次元ポケットの様な働きを持つアフロヘアーから、ボヴィーノファミリー秘伝の武器「10年バズーカ」を使用する。使用すると10年後の自分、通称「大人ランボ」と5分間入れ替わることができる。

「今回は特例として、未来から大人のランボを連れて来たよ。勿論、時間は5分経っても変わらない様にしてある。何しろ今回は、総力戦になりそうだから」

 大事の計らいで、事前に5歳のランボは10年バズーカの効果で10年後の自分と入れ替わり、大事は大人のランボを戦力して急遽(きゅうきょ)加えた。その際、5分経っても子どものランボに戻らない様に、特殊な時間停止を掛けてた。

 (ハイパー)死ぬ気モードになっていた綱吉は、京子から貰った大切なお守りをグローブの手中に収め―――決意を固める。

(京子・・・直ぐに行く)

 お守りを握り潰すくらいにぎゅっと拳を強く結んだ綱吉は、落とさないように上着の内ポケットへと収める。

「大事。京子はどこにいるんだ?」

 おもむろに、一護は京子の居場所を大事に問い質す。

「十中八九ギュスターブのアジトだろうね。奴らのアジトはエンド・オブ・ザ・ワールドのもっと奥深いところだ。走るよ!」

 掛け声とともに、大事は白いブロックに覆われた場所へと飛び降りる。

 一護達も順に彼の後に続いてブロックの上へと降りて行き、凹凸のない平坦な白い一本道の上を走り続ける。

 飛行能力を有する航空魔導師のなのは、フェイト、はやて、シグナム、ヴィータ、そして綱吉が一護達の頭上を飛行する中―――不意にフェイトがある物を発見する。

「ん?」

 グレーの四角いブロックの影で、微かに動くものがあった。

 それは生きものと言うのには常軌を逸しており、全身が黒一色に覆われた虫を彷彿とさせる触角を頭部に生やしている。

「なんだあれは?」

「人間・・・じゃないよな?」

他の者達も次々に謎の生き物がそこら中に溢れかえっていることに気づき、訝しげな表情を浮かべる。

「あいつらがこの世界の住人だよ。ただし、心を無くした抜け(・・・・・・・・・)だけど」

「心を無くしただと?」

 了平が言葉の意味に対して(いぶか)しんだ表情を浮かべると、大事はその意味を掘り下げる。

「人の心の闇が膨らみ続けて完全に闇に染まると、その心はハートレスという怪物と化す。そしてハートレスは人の心の闇に反応し、心を奪って次々と増殖してゆく」

 闇の世界の大半を占めるハートレスという存在は、人の心が闇一色に染まることで誕生する心の抜け殻である。

 希望を砕かれ、苦しみを与え尽くされ、何も考えられない廃人と化したものほど闇に堕ちやすく―――心が闇に奪われ肉体だけが残ると等しくそれはハートレスと化す。彼らは心の喪失と同時に前世の記憶と自我を失い、本能だけの怪物となる。

 しかし、(まれ)に強い心を持つ者がハートレスとなった場合、残った肉体と魂が意思を持って動き出すことがある。その場合、名前をハートレスからノーバディと変える。

 

 ドン・・・。ドン・・・。

 

 大事は微かに聞こえる物音から、急速に自分達へ迫ろうとしている危機を察知する。

「どうやら僕たちの心に気づいたみたいだよ」

 

 ―――心ヲ・・・喰ワセロ・・・

 ―――ココロ・・・欲シイ・・・

 

 不気味な声が耳からではなく、直接頭の中に入り込んでくる。

 一護達が敵の攻撃を警戒していると、白い道の下から湧き上がってくる凶悪な雰囲気を醸しだす漆黒に染まった巨人。

「なんだ!?」

「うおおおお!」

 次から次へと湧き上がる闇の巨人達は、彼らの心に直接働きかけてくる。

 ―――心ヲ・・・喰ワセロ。

 ―――オマエノ心欲シイ。

 大事は今し方目の前に出現した巨人について、一護達に説明する。

「あれが巨大なハートレスの集合体―――『ダークサイド』さ!」

「ダークサイド!?」

「あいつらは、知性は無いに等しいが―――基本的には心を奪うという本能のみで行動する」

 ダークサイドの出現に伴い、それまで大人しくしていたはずの小さなハートレス―――『ピュアブラッド』のシャドウ達も本能に従い動きだし、ダークサイドの意思に従い一護達の心を求めて動き出す。

「気を付けなよ。心無き者にとって僕らはこの上も無い餌だ! 食われない様にここを振り切るんだ!」

「ああ!」

 全速疾走で一本道を突っ切ろうとする一護達と、その頭上を飛行するなのは達。

 ダークサイドの巨大な腕が伸びていき、エンド・オブ・ザ・ワールド内に侵入してきた彼らの強い心を捕食しようとする。

 僅かな光を覆い尽くす程の巨大な影に気づいた一護達は、咄嗟にブロックの壁を伝たって移動し、なのは達は誘導弾を撃って自分達から注意を逸らそうとする。

 しかし、ダークサイドとシャドウは確実に心のみに惹かれ、それを持つ一護達を執拗に追い求める。

 逃げてもその先には別のハートレスが待ち構えており、その数はあからさまに増え続ける。

「何匹いるんだ!?」

 石田は呆れるほど数に物を言わせて自分達に迫ってくるハートレスの心を求める習性に率直な感想を漏らす。

「一気に突っ切るぞ!」

 このままでは(らち)が明かないと思った一護は、有象無象のハートレスを全力で突っ切ろうとする。

「はああああああああああああああああ」

それに応えた仲間達が彼の後に続いて全力で走り出す。

だが、進行方向に現れるダークサイドとシャドウは捕食対象である心を求めて差し迫る。

十二使徒(エルトゥーダ)とギュスターブとの戦いに備え体力を温存したいと考えていた一護達も、止む得まいと武器を手に取り―――迎撃を開始する。

「咆えろ、蛇尾丸(ざびまる)!」

「舞え、袖白雪(そでのしらゆき)!」

「光の(リヒト・ヴィント)!」

「巨人の一撃(エル・ディレクト)!」

 恋次、ルキア、石田、茶渡が繰り出す攻撃は―――有象無象(うぞうむぞう)のシャドウを瞬く間に蹴散らす。

「ビックバンアクセル!」

「赤炎の(フレイムミサイル)!!」

 ガントレットから放たれる綱吉の炎は火球となって、シャドウとダークサイドに直撃。それに便乗して、獄寺が赤炎の(フレイムアロー)の砲門をダークサイドに向け破壊力抜群のミサイルを撃ちこむ。

時雨蒼燕流(しぐれそうえんりゅう)、特式十一の型『燕の(ベッカタ・ディ・ローンディネ)』!」

極限太陽(マキシマムキャノン)!!」

 雨の炎を纏った時雨金時で、連続で鋭い突きを放ちシャドウを一掃した山本に続き、笹川了平が繰り出す太陽の拳は闇の住人であるハートレスに効果的なダメージを与える。

「サンダーセット!!」

 10年後の世界から呼び出された大人ランボは、二本の角を取出し頭に装着させた。

 何処からともなく雷が落ちてくると、100万ボルトもの電撃を二本の角に帯電させ―――その状態から勢いよく突進する。

「喰らえ、電撃角(エレットゥリコ・コルナータ)!!」

 素朴な疑問として、なぜ雷を受けてもランボが黒焦げにならず平気でいられるのか。

その答えは、ランボの特殊な体質に合った。

雷を受けてもダメージをほとんど負わない「電撃皮膚(エレットゥリコ・クオイオ)」という、生まれて直ぐに何度も雷を受けることで体質が変化して生まれる特殊体質を見に付けたランボは、その特性を生かして電撃角(エレットゥリコ・コルナータ)という技を生み出した。

「どりゃああああ!!」

無数のシャドウ目掛けて100万ボルトもの電撃が直撃。技その物は至ってシンプルだが、その実は大変高度な技であることはあまり知られていない。

「群れるものは、咬み殺す!」

 言わずと知れず、群れるものには人間問わず誰彼かまわず攻撃を行う雲雀恭弥の場合は、尋常じゃないほど数の多いシャドウが相当に気に入らない様子で―――雲属性の炎を灯したトンファーを高速で振るっては徹底的に殲滅していく。

「はあああああああ!!!」

 幻術と槍術(そうじゅつ)を駆使して戦うクロームの力が、ここにきて無意識のうちに強化されている。彼女が作り出す幻覚は光の世界で発動させたときよりも精度が高まっていた。

「エクセリオン—――ッ! バスター!」

「ザンバースラッシュ!」

 エース・オブ・エースの称号を持つ高町なのはとその親友フェイト・T(テスタロッサ)・ハラオウンは、互いの強みを最大限に発揮し―――大威力砲撃でなのはがダークサイドを撃退するように、フェイトは大剣状に変化したバルディッシュ・アサルトの魔力刃で一刀両断。

「どりゃああああああ!」

飛竜一閃(ひりゅういっせん)!!」

 ヴィータはグラーフアイゼンの第三形態「ギガントフォルム」を発動。ダークサイドとシャドウ目掛けて特大のハンマーを振り下ろす。

 一方のシグナムは、レヴァンティンの刀身を恋次の蛇尾丸の如く蛇腹(じゃばら)状に変化させると、恋次よりも精度の高い鋭い斬撃をお見舞いする。

「リボルバーシュート!」

「クロスファイアーッ! シュート!」

 先天固有スキル「ウィングロード」で滑走しながら、スバルはリボルバーナックルでシャドウに殴りかかり、頃合いを見てティアナが複数の魔力弾を仕掛け、事無く敵を殲滅(せんめつ)する。

〈Stahl Messer〉

「はああああああああああ!」

 魔力刃を鞭のように変化させたストラーダの先端で、エリオはシャドウに対し「スタールメッサー」という名の鋭い攻撃を行い、キャロがその後に続く。

「フリード、ブラストレイ!」

 巨大化した飛竜フリードリヒは大威力の火炎を口から吐き捨て、シャドウ達を瞬く間に灰と化す。

「クラウ・ソラス!」

 リインフォースⅡ(ツヴァイ)とユニゾンしたはやては十字杖「シュベルトクロイツ」の先から高速の直射砲撃を撃ちだし、シャドウを弾き飛ばすと、古代ベルカ時代に作られた大いなる遺産―――「夜天の書」に記録された広域殲滅魔法を発動する為、詠唱を行う。

「彼方より来たれ、やどりぎの枝。銀月の槍となりて、撃ち貫け。石化の槍、ミストルティン!」

三角系のベルカ魔法陣を中心に6本と、その中心から1本の最大7本の光の槍がハートレスを穿つ。

直接攻撃力は高くなく射程も短いが、追加効果として生体細胞を凝固させる「石化」を持つこの技は、心を失い生体細胞を持たないと思われるハートレスにも効果を発揮した。

 石化したハートレスは自然消滅し、粉々に砕け散る。

「行くぜ―――卍解!」

 前方の敵目掛け走りながら、一護は飛び上がって卍解。

 天鎖斬月(てんさざんげつ)の力を解放するや否や、巨大で愚鈍なダークサイド目掛けて剣を構える。

月牙(げつが)・・・!」

 霊圧を刀身に集め月牙を放とうとした瞬間、顔に違和感を覚えた。

「!」

 どういう訳か、一護の中に眠る(ホロウ)の力の証である仮面が出現。これにより、一護は力の制御が難しくなり、有り余る力を前方目掛けて放出。

天衝(てんしょう)ォォォ―――!!」

 (ホロウ)の力が混ざり合った一護の月牙は、ダークサイドはおろかこの空間そのものを破壊する力を秘めていた。

 月牙天衝が放たれた直後、辺り一帯は黒煙を上げる瓦礫の山と化し、技の威力に関して言えば光の世界で使用するものとは比べ物にならない。

 破壊の爪痕が如実に目の前に広がった。

 ダークサイドを始め無数のハートレスを退けた一護は一本道の上に下り、吃驚(きっきょう)した様子で(ホロウ)の仮面を外す。

 直後、予告なしに(ホロウ)化状態の月牙天衝を撃った一護に対して、ルキア達から抗議の声が殺到する。

「戯け! (ホロウ)化するなら、ひと声かけてからにしろ!」

「何を考えているんだ。危うく、こっちまで巻き込まれるところだったじゃないか?」

「ったく! このオレンジ頭が! オレたちを殺すつもりだったんじゃねぇだろ!?」

「ああ・・・悪りぃ」

「どうした?」

「何もしてねぇのに、仮面が勝手に出た」

「何だと?!」

 罰の悪い表情で一護が事実を述べると、聞いていたなのは達は挙って驚愕。

「あの・・・どういうことでしょうか?」

 嫌な予感がしたのか、キャロが恐る恐る大事に尋ねたところ―――彼は目を細め、眉間に皺を寄せながら推測を述べる。

「それはおそらく、エンド・オブ・ザ・ワールドの闇の力が反応したからだと思う。ここの空気は秘めた本能を呼び起こす。気を抜けば一護君とツナ君の中の力は暴走するよ」

大事曰く、一護の(ホロウ)化は闇だけが構成要素であるエンド・オブ・ザ・ワールド特有の現象であり、戦いの中で一護と綱吉の魂が闇一色に染まった直後、彼らの魂の内側に眠る魔物、即ち(ホロウ)の力がとんでもない事態を招く恐れがあると―――大事は推測した。

戦いの後、ダークサイドとシャドウは忽然(こつぜん)と姿を消した。

いや、正確には身を隠したと言うべきだろう。いずれにせよ、ギュスターブのアジトへ向かうには絶好の機会だった。

「急ごう」

「お、おい!」

 大事はエンド・オブ・ザ・ワールド内で起こった一護の(ホロウ)化現象に困惑気味の彼らを先導するため、早々に走り出す。

 仕方なく一護達も大事の後に続いて走り出すが、一人険しい表情を浮かべるのは石田だった。

「どうした石田?」

 茶渡がおもむろに声を掛けると、石田は危惧の念を抱いた様子で語り出す。

「僕らは暴走した黒崎とツナ君を知っているが、もしここが今の話の通りなら―――」

 石田の脳裏にはつい先日虚(ホロウ)化の影響で暴走した綱吉の姿と、一護が(ホロウ)の楽園である世界―――『虚圏(ウェコムンド)』で死闘を繰り広げた敵との戦いで経験した力の暴走。

 いずれにせよ、一度虚(ホロウ)化を発症した一護と綱吉にはエンド・オブ・ザ・ワールド内での暴走のリスクが極めて高い。窮すれば、彼らは敵との戦いで極めて危険な状態に陥るかもしれない―――そう考えた石田は、眼鏡の位置を直してからおもむろに呟く。

「エンド・オブ・ザ・ワールドは、黒崎とツナ君にとって危険すぎる」

 

 エンド・オブ・ザ・ワールドに侵入して早々にハートレスによるありがた迷惑な歓迎を受けた一護達はその後、画一的に整理された道をひたすらに走り続け、最深部を目指した。

 侵入してから数十分。ひたすら走り続けていた一護達だが、衝撃的な光景を目の当たりにする。

 長々と続いていた道が突然途切れ、前方には断崖絶壁が広がっている。

「おい! 道がねぇぞ!」

「いいから飛び込んで!」

 言うと、大事は躊躇(ためら)う姿勢を見せず真っ先に断崖絶壁へと飛び込む。

 一護達も大事の言葉を信じ、彼の後に続いて深い闇が広がる谷底へと身を飛び込ませ―――落ちていく。

 落ちるとすぐに、厚い紫色に覆われた(もや)のようなものが見えてきた。

 思わず溜飲する大人ランボだが、靄の中を潜り抜けたその先に―――エンド・オブ・ザ・ワールドの第二階層が出現する。

「なんだここは?」

 (もや)を抜けると、光の世界の風景を歪ませ、縦に繋げたような地形をしている摩訶不思議な空間が広がっている。無数の泡が漂っており、所々重力が小さくなったりとおかしくなっている個所がある。

「妙な感覚だ・・・」

申し訳程度に植物のようなものが生えているが、光の世界に自生している植物とは違い、生命力を排した枯草のようなものが大半を占めている。

正常な感覚を持つ一護達の予想を覆すエンド・オブ・ザ・ワールドの構造に、益々不信感を募らせ、各々は額に汗を浮かべる。

綱吉は歪んだ空間において、京子の気配を感じ取ろうとするが―――それらしい気配は感じ取ることができず不安だけが沸々と湧き上がる。

「京子はどこだ?」

 おもむろに大事に尋ねた直後、

「ここにはいないぞ」

 満を持して一護達の前に姿を現したのは、セルピエンテを始めとする全12人で構成されたギュスターブに忠実な破壊と殺戮(さつりく)の徒―――『十二使徒(エルトゥーダ)』。

「はははは」

「ようこそ、エンド・オブ・ザ・ワールドへ」

 不敵な笑みを浮かべながら、12人の使徒が一護達を厚く歓迎する。

「てめぇらか。京子を返せ!」

「返してもいいよ―――」

 刹那(せつな)、彼方より飛んでくるネイキッド・ラングが一護達に向けられる。

 咄嗟にこれを避けた一護達は、ラングを操る十二使徒(エルトゥーダ)の紅一点―――ファイサンを睨み付ける。

「お前達が私達に、協力してくれたらねー」

「ふざけるな!」

「へへ。私は鳥の十二使徒(エルトゥーダ)ファイサン。改めてよろしくっ!」

 彼女を切っ掛けに、残りの男達も挙って自らの名を語り出す。

「ラットです。はじめまして」

「タウルス・・・」

「ティグレ」

「我が名はコネホ」

「ドラケン! 貴様ら全員弱々しいぜ!」

「カバロだ! よろしくな!」

「羊の使徒―――シャーフ、と申します」

「わいはモノ! 見ての通り猿や!」

「サバーカ。犬の使徒」

「ボアー・・・野望・・・叶える」

「そして私が、偉大なる世界の意志! ギュスターブ様の腹心セルピエンテ! 軽佻浮薄(けいちょうふはく)。招かれざる客には、お引き取り願おう」

 セルピエンテが口にした直後、大空の炎で加速した綱吉が勢いよく殴りかかる。

「京子を返せ!」

 ガントレットから撃ち出す高威力のパンチは、直射砲撃の如く真っ直ぐ伸びて―――セルピエンテを始め、十二使徒(エルトゥーダ)全員に波及する。

 爆炎が上がると、真っ先に綱吉を潰しに掛かるのは―――四メートルを超える巨躯(きょく)誇る屈強な肉体を誇る巨漢だが上半身が不釣合に異常に発達した巨大な腕を持つ怪人、ボアー。

 猪を模した重厚な鎧に身を包んだボアーが力強く綱吉を踏みつぶしにかかると、瞬時に炎を逆噴射させながら後退。

「遅い!」

 だがそこへ、今度は蛇の頭部を模した両腕を鞭の様に操るセルピエンテが綱吉へと接近。

 防御に徹しようとした綱吉だが、恋次が蛇尾丸(ざびまる)の刀身で受け止める。

「咆えろ、蛇尾丸(ざびまる)!」

 刃節を伸ばしてくるや否や、セルピエンテは後ろへ下がり、今度は鎖鎌状の武器を所持しているシャーフが奇声を放ちながら勢いよく接近。

「うっしゃあああ!!!」

 鎖を使って鎌のリーチを長くするシャーフだが、クロームが咄嗟に三叉槍(さんさそう)で受け止める。

 大混戦の中、魔導師組の背後を鼠の使徒ラットが取る。

「なに!?」

 殺気を感じ振り返ったシグナムが迎撃をしようとするも、敵が近すぎる為にレヴァンティンを振り切ることが困難な状況。

「シグナム!」

 絶体絶命と思われたその時―――

「ふぎゃああ」

 石田の銀嶺弧雀(ぎんれいこじゃく)から放たれた光の矢がラットの全身を直撃する。

 ところが、直撃の瞬間―――ラットは石田の光の矢のエネルギーを自分の体へと吸収。律儀に手を合わせ「ごちそうさま!」と口にする。

「な・・・こいつ、あのときの!」

 石田は思い出した。

 最初の襲撃のとき、空座高校で戦った相手は霊子を吸収する能力を備えていた。そして、その能力を持つものが目の前にいるムーロだった。

「喰らえ、破道の三十三『蒼火墜(そうかつい)』!」

「赤炎の(フレイムサンダー)!」

「シュート!!」

 ルキア、獄寺、ティアナの三人が一斉に得意の攻撃をラットにお見舞いする。

 蒼火墜と赤炎の雷、ヴァリアブルバレットがラットの体に着弾するや否や、すべてのエネルギーを体の中へと吸収したラットは、三人から奪略したエネルギーは独自の方法で跳ね返す。

 跳ね返ったエネルギーはこの場にいる全員の体勢を崩す程の勢いだった。

 益々苛烈さを増していく戦いにおいて、大事は敵の攻撃を避けながら一護達に言う。

「気を付けて! エンド・オブ・ザ・ワールド内での十二使徒(エルトゥーダ)の力は、今までとは比じゃないから!」

「なんだって?」

 純粋な闇が支配するこの世界において、ギュスターブの闇から生まれた十二使徒(エルトゥーダ)達の力は光の世界で戦ったときの数十倍にまで跳ね上がる。

 事実、十二使徒(エルトゥーダ)達の勢いは凄まじく―――彼らの戦闘能力に対応する一護達も四苦八苦している。

「へへへへ」

「どりゃああああ!!」

「俺様と遊びましょう!!」

 縦横が真逆の空間に置いて、耐えず爆音が鳴り響く。

 十二使徒(エルトゥーダ)達の攻撃を何とか回避しながら、一護達は反撃の機会を窺う。

「巨人の一撃(エル・ディレクト)!!」

紫電一閃(しでんいっせん)!!」

「ブリューナク!」

 死神もマフィアも魔導師も、誰もがこの状況に逼迫している。

 持てる力のすべてを出しきり世界崩壊の元凶である首魁(しゅかい)とその手先を(たお)さねばならない、同時にさらわれた仲間を救出する。

 二つの使命感と欲望が入り混じった感情を胸に抱きながら、彼らは懸命に応戦する。

「水よ!! 我の意に答えよ!!」

 薙刀状の大剣を掲げながらサバーカが強く念じると、光の世界から流れ込んできた海の水が津波となって押し寄せてくる。

 ルキアとはやては得意の氷結系能力でこれを塞き止める。

「次の舞・白漣(はくれん)!」

()よ、氷結の息吹! アーテム・デス・アイセス」

 袖白雪の刀身から雪崩の如く吹き出す猛烈な冷気と、はやての広域凍結魔法が大津波を瞬時に凍らせる。

 バキ・・・。ボキ・・・。

「!?」

 だが、安心している余裕は与えて貰えなかった。

 凍結した氷の壁を突き破って、12人の使徒達が猟奇的な眼差しを向けながらロケットの如く飛んでくる。

「ははは」

「ぐああ」

 十二使徒(エルトゥーダ)一皮膚の硬いティグレの頭突きを喰らった一護は、勢い余って岩に激突。その痛みはさながら鉄球の直撃を受けた感じだった。

「一護!」

「一護君!」

 救助に向かおうとすると、綱吉となのはの前に立ちふさがるファイサンとカバロ。

「ネイキッド・ラング!!」

「ぶちのめす!!」

 ファイサンのネイキッド・ラングの標的にされたなのはは空中を縦横無尽に掛けながら、飛行能力を有するファイサンに狙いを定める。

〈Photon Smasher〉

「ファイアッ!」

 フォトンスマッシャーが撃たれると、ファイサンは手持ちのラングで砲撃を切り裂き、V字型のブーメランにして投擲。なのはは彼女の攻撃を躱しながら魔力弾で応戦。

「ナッツ!」

「ガオオオオオオオオオ!!」

 ナッツの咆哮(ほうこう)ひとつで、カバロの動きは封じられ体は瞬時に背聞かして砕け散る。

 だが、砕け散った傍から今度は大猿に変身したモノが綱吉に殴りかかる。

形態変化(カンビオ・フォルマ)!!」

 瞬時にガントレットに変形させた綱吉は、拳に炎エネルギーを充填し―――ギリギリまで引き付けてから火球を撃ち出す。

「っ!」

 その際、綱吉の心に反応した(ホロウ)の力が仮面を生み出し、(ホロウ)化した綱吉の火球がモノの体をバラバラに引き裂き彼方へと吹き飛ばす。

 

「おっと!」

 山本とエリオの二人は、遠距離からのパンチを放つことができるボアーの攻撃に苦戦。彼の腕は骨がワイヤー状になっているため、遠くからでも拳を撃てた。

 華奢な体に当たれば一瞬にして骨は砕け内臓は破裂、即死は免れない。

 二人は素早く動き回りながらボアーへと接近し、鋭い一撃を叩きこむ

時雨蒼燕流(しぐれそうえんりゅう)、攻式一の型『車軸(しゃじく)(あめ)』!!」

「スピアーアングリフ!」

 刀を両手で持ち突進し相手を突く山本の剣術と、ストラーダのヘッド後部のブーストダクトから魔力推進を行って突撃するエリオの槍術の力が合わさり、何百キロという巨体のボアーを力強く吹き飛ばす。

 

 雲雀は最強の攻撃力を誇るドラケン相手に一対一で応戦しており、雲の炎を灯したトンファーでドラケンの剣と対等に渡り合う。

「はっ! あの黒帽子の男という貴様といい、できるな! 気に入ったぜ!」

「僕もだよ。折角群れるのを我慢してこんなところまで来たんだ。僕を存分に楽しませてほしいね」

 言うと、雲雀は距離を取ってから雲のブレスレットVer.Xよりロールを召喚。

「ロール。形態変化(カンビオ・フォルマ)

 雲雀の命を受け、ロールの体は達まち紫色を帯びた光に包まれ雲雀と合体。改造長ランを纏った雲雀は、仕込みパーツでトンファーの強度を上げると、ドラケンに向かって攻撃を再開。ドラケンと雲雀は激しく撃ち合う。

「オラオラオラオラ!!」

 猛烈な勢いと速度を兼ね揃えた剣をけたたましい口調で振るうドラケンは、無表情に近い顔でトンファーを巧みに操る雲雀にとって至極喧しかった。

「いちいちうるさいよ。少し静かにさせてあげよう」

 言うと、淡々とした口調で雲雀は長ランの中から雲の炎を帯びた手錠を取出し、おもむろにドラケンに投げつけると―――雲属性の炎の特徴でもある「増殖」の効果で、手錠は複数に増殖しながらドラケンの体を頑丈に締め上げる。

「な、なんだこいつは・・・!?」

「羽交い絞めにしてあげたよ」

雲雀は猟奇的な笑みを浮かべながら動けないドラケンへと接近。トンファーの一振りで彼を吹き飛ばした。

「のああああああ!!!」

ドラケンは重力の底にあるエンド・オブ・ザ・ワールドの更に深い所へと落ちていき、雲雀も彼を追って重力の底へと向かって落ちていく。

 

「月牙! 天衝!!」

セルピエンテと交戦していた一護は月牙天衝で反撃しようとするが―――無意識のうちに(ホロウ)の仮面が現れては、そのパワー制御を狂わせる。

各々が熾烈な争いを繰り広げていると、第三階層へと続く道を発見した大事が一護達に呼びかける。

「みんな! 京子ちゃんはこの空間よりもずっと下だ!」

「なに?」

「だったらここは俺たちに任せて、さっさと行けー!」

「10代目! オレたちのことは構わず、笹川のところへ!!」

「極限京子を助けてくれ、沢田ーッ!!」

「なのは! 私たちでこいつらは何とかするから!」

「なのはさん! 行ってください!」

 恋次を始め、獄寺、了平、フェイト、スバルらの声を聞いた一護、綱吉、なのはの三人は顔を見合わせ互に頷き合う。

「分かった。いくぜ、ツナ。なのは。大事」

「ああ」

「うん」

 仲間達からの想いを託された一護、綱吉、なのはの三人は大事と一緒に第三階層を目指して重力の底に向かって落ちていく。

「いかせませんよ!」

 ボウガンを装備したシャーフは空中を滑空しながら第三階層に向おうとする四人に攻撃を仕掛けるが―――飛んで行ったボウガンははやてによって差し止められ、更にはクロームの幻術が行方を遮った。

「私とクロームちゃんが相手になるよ」

「ボスの邪魔はさせない!」

「ほう・・・秀麗(しゅうれい)な女性が二人も私のために命の花を散らせてくれるのですか。美しいことです・・・まぁ、それも悪くはないのですが、どちらかといえば私はゲヴァルトの攻撃を肩代わりしたが為に(ホロウ)化を起こしたあの少年の悲痛な叫び声の方が好きでしたけど」

「え!」

「なんやて!?」

 シャーフの言葉を聞いた瞬間、はやてとクロームは理解した。

 目の前に立ち尽くす狂気の怪人こそ、リュミエールに被害をもたらし綱吉を(ホロウ)化させる原因となった改造虚(ホロウ)ゲヴァルトを送り込んだ黒幕であると言うことを―――

「・・・ツナくんを(ホロウ)化させたのは、あんたなんやな?」

「ひどい・・・ボスにあんなことさせるなんて・・・! 絶対許さない!」

 最早遠慮は無用。

 闇に生まれ闇に生きる外道の怪人相手にはやてとクロームは躊躇(ためら)いの気持ちを一切捨て去り、全力で以ってこれを撃ち倒すことを決意する。

「ボスを傷つけた罰と!」

「リュミエールの罪なき騎士さんを殺した報いを受けてみい!」

〈全力でいきますよー!〉

 シャーフは露骨に顔を歪めつつも、何処か楽しそうな表情で鎖鎌を構える。

「あなた方の苦痛に歪むその心で、私の歪曲した魂を癒してください!!」

 

「おや・・・あなた方がお相手してくださるのですか?余程早死を望んでいるらいし・・・」

 十二使徒(エルトゥーダ)の一人、ラットが対峙しているのは石田雨竜とエリオ・モンディアル、キャロ・ル・ルシエに飛竜フリードリヒ。

 余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)とした態度を決め込むラットに対し―――石田、エリオ、キャロの三人は言う。

「それはどうかな・・・滅却師(クインシー)の誇りに懸けて、同じ相手に二度も負けるわけにはいかないからね」

「僕たちがお前達の野望を食い止める!」

「絶対に世界も! 京子さんも渡しません!」

 両者は牽制し合いながら、一瞬のうちに衝突。

 激しくぶつかり合うラットと石田達の戦いを横目に、ボアーは自分の相手である阿散井恋次を見据える。

「卍解!」

 恋次は卍解し、狒狒王蛇尾丸(ひひおうざびまる)の力を解放する。彼もまた、石田同様に最初に空座町(からくらちょう)で戦った相手であるボアーに借りを返すつもりだった。

空座町(からくらちょう)での借り、ここでまとめて・・・・・・」

 言いながら、恋次は勢いよく地面を踏むと同時に狒狒王蛇尾丸(ひひおうざびまる)の刃節をボアーへ伸ばす。

「返してやるぜっ!!」

 突進してくる蛇尾丸(ざびまる)の力を不釣り合いな上半身で受け止めたボアーは、重力の底へと沈んでいき、恋次を連れて第三階層を目指した。

 

 

エンド・オブ・ザ・ワールド 第三階層

 

重力の底を目指して進んでいた一護、綱吉、なのは、大事の四人は雲に覆われ硫酸のような黄色い湖が頂上にある山で構成された場所に到達。そこが即ち、エンド・オブ・ザ・ワールドの第三階層だった。

「ここは!?」

「ここを抜けたところに、奴らがアジトにしている場所がある!」

「この先に京子ちゃんが!?」

「今のうちだ! みんなが敵を引きつけている方が、アジトが手薄になって都合がいい!」

 三人は仲間達が自分達に託した思いを胸に、京子奪還とギュスターブ討伐に全力を尽くすことだけを考え、第三階層に到達しようとしていた―――

 

 ド―――ン!!!

 

「「「な!」」」

青天の霹靂(へきれき)

 硫酸のような黄色い湖の底から何かが吹き出しかと思えば、巨大なハートレスの結晶体―――ダークサイドの腕部が一護と綱吉、なのはの三人を鷲掴みにしようと伸びてくる。

「危ない!」

 咄嗟に大事が三人を庇ってダークサイドの攻撃を受け―――そのまま撃墜。

 左腕を強打し、出血を伴う大事が刀を手に取って起き上がろうと―――ダークサイドが地面に腕を叩きつけるなり闇の力が湧き上がり、大事の体を拘束する。

「しまッ・・・」

 バシュン!

「おおおおおお!!!!」

刹那―――ダークサイドの腕が豪快に斬り裂かれたかと思えば、(ホロウ)化した一護と綱吉、なのはの三人がダークサイド目掛けて一撃必殺の技を放つ。

「月牙―――天衝!!!」

XX(ダブルイクス) BURNER(バーナー)!!!」

「ハイペリオン―――ッ! スマッシャーッ!!!」

 (ホロウ)化状態の一護の月牙に、同じく(ホロウ)化状態の綱吉がグローブの両手から放つ特大の直射火炎砲撃「XX BURNER」、そして魔力カートリッジ三発を使用してのなのはの大威力砲撃が、ダークサイドの体を消滅させる。

 ダークサイドの消滅に伴い、湖の水が津波のごとく押し寄せる。

 一護は負傷した大事を担いで窮地を脱すると、安全な場所へと移動して直ぐに大事の容態を確かめる。

「大丈夫か、大事?」

「腕を痛めのか?」

「重要さん、私たちを庇って・・・」

 勇猛果敢に三人を庇って負傷した大事だが、本人は苦笑しながら腕の怪我は何でもないとばかりに左腕に走る痛みを誤魔化す。

「平気・・・さ! それより一護君とツナ君こそ、仮面(それ)出して大丈夫なのかい?」

「ああ。だいぶ慣れて来た」

「待ってろ。いま―――」

 綱吉が大事を介抱しようとした直後、大事は「構うな!」と力強く叫び、三人を黙らせる。

「闇の世界・・・エンド・オブ・ザ・ワールドでは、常にこんなこの痛みなのさ・・・僕の事はいい。三人は、京子ちゃんを救うことだけ考えてるんだ」

 言いながら、大事は無理に体を起こして痛む左腕を押えながら前進を始める。

「急ぐよ、一護君! ツナ君! なのは! 早くしないと、足止めしてくれてる仲間達に申し訳ないだろう!」

「お、おお」

「わかった」

「あの、あんまり無理しないで下さいね!」

 痛みを振り切り歩き出した大事のことを考えながら、一護、綱吉、なのはの三人は第三階層の奥にあるギュスターブのアジトへと向けて歩き出した。

 

 

 

 エンド・オブ・ザ・ワールド内で繰り広げられる一護達と十二使徒(エルトゥーダ)による激しい攻防。

 さらわれた京子を取り戻し、世界の破壊者―――ギュスターブの野望を食いとめることはできるのか!?

 そして、戦いの先に一護たちが知る驚愕の真実が――――――!!

 

 

 

 

 

 

参照・参考文献

原作:都築真紀 作画:藤真拓哉『魔法少女リリカルなのはViVid 3巻』 (角川書店・2011)


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