死神×マフィア×魔導師 次元の破壊者   作:重要大事

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十二使徒(エルトゥーダ)強襲

リュミエール

桜華国 夜御倉邸 厨房

 

リュミエールでの避難生活を送ること三週間―――。

戦闘要員がギュスターブと十二使徒(エルトゥーダ)との決戦に備え修行をしている中、非戦闘要員である笹川京子と三浦ハルは、夜御倉家の厨房で料理をしていた。

途中、シャマルが意気揚々と「手伝いましょうか?」と言ってきたが、彼女は大の味音痴だった。そのため、ヴォルケンリッターを中心に彼女の凶行は未然に防がれた。

綱吉の(ホロウ)化を防ぐために一週間という時間、ずっと眠り続けていた京子の体もようやく元の状態に戻り始め、ハルやフレックスら食客達と一緒に料理をしていたのだが―――

(いた)っ」

「京子ちゃん!」

「大丈夫ですか?」

 京子はキャベツを千切りにしていた折、謝って包丁の刃先で指を切ってしまう。

「うん。指先に当たっただけ。血は出てないから大丈夫だよ」

 料理慣れしている京子がこうして包丁で指を切るということは、極めて珍しい。

「大丈夫ですか? やはり無理はしない方が・・・」

「ハル様の(おっしゃ)る通りです。ご無理はお体に禁物です」

 ハルとフレックスは顔を見合わせ、京子の体調が万全ではないかと憂慮(ゆうりょ)し彼女を気遣うと、京子は首を横に振って答える。

「うんうん。本当に大丈夫だよ。私なんかより、ツナ君の方がもっと大変なんだもん・・・」

 (うれ)いを帯びた表情で、京子は(ホロウ)化を発症してから今日に至る綱吉の安否を気遣った。

 魂魄自殺(こんぱくじさつ)は未然に防ぐことができたものの、綱吉はこの先も死ぬまで永遠に消えることのない魔物と付き合って行かなければならない。

誰かを護る為に自分を犠牲にすることも(いと)わず、残酷な現実に直面しても尚護る為に闘う綱吉の背中に物寂しさを抱く。

優しい綱吉が、このまま戦い続けることで自分の知らない人になってしまうのではないか―――そう思うと、京子は胸が張り裂けそうでならない。

 ハルは親友の瞳から彼女の心境を感じ取ると、おもむろに和らいだ笑みを浮かべ、京子の肩に手を乗せる。

「京子ちゃん。ツナさんたちに聞いて来てくれませんか!」

「え?」

「今日のお夕飯はハンバーグにしますけど、味付けは和風と洋風のどっちがいいですかって?」

 京子はハルが自分に対して気を遣ってくれたことを瞬時に悟った。目を見開き、どこか寂寥(せきりょう)の念を抱いているようにも見えるハルの瞳を見ながら、京子は困惑する。

「ハルちゃん・・・でも」

「京子ちゃんの顔を見るだけで、ツナさんも元気になると思いますから!」

 (くも)り気のない満面の笑み。

 ハルの気持ちが痛い程伝わってくる―――京子は自分の心が酷くこれに動揺する中、彼女が自分の為に気持ちを()んでくれたことがとても嬉しかった。

「―――ありがとう。ハルちゃん」

 素直な気持ちでハルに感謝の意を伝え、京子は綱吉達が修行をしている2番隊隊舎へと向かって走り出す。

(京子ちゃんは、やっぱりツナさんのことが・・・・・・)

 京子の背中を見送ったハルは、フレックスの隣で拳をぎゅっと握りしめると、内心京子が綱吉を好いていることを見破ってしまった自分の卑しさに腹が立った。

 ハルも京子と同じく綱吉のことを好いていた。

しかし、綱吉自身が空いているのはハルではなく京子だった。

 お互い無意識のうちに惹かれあう二人の姿を近くで見守りながら、京子の恋を応援したいという気持ち反面、ハルは綱吉への想いを完全に断ち切れない自分自身の中途半端な気持ちに羞恥心(しゅうちしん)を抱く。

(これでいいんです。お二人が幸せになってくれることが、ハルの一番のハピネスなんですから―――でも、やっぱり・・・・・・ハルはツナさんが///)

 ポタン・・・・・・。

 ハルの双眸(そうぼう)から零れ落ちる涙を、フレックスは見逃さなかった。

 フレックスは綱吉の想いをぶつけずして失恋を体験したハルの涙をそっと拭い去ると、何も言わずにハルのことを優しく抱擁。

「うう・・・・・・あああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 一瞬戸惑いを感じたハルだが、最後はフレックスの胸の中で声を荒げて大泣きをする。

 胸のうちにある綱吉への想いと親友への想いを(さら)け出すように―――

 

 

同時刻 桜華国 国境所地点

 

「よし。これでいいだろう」

世界の意志(ワールド・ウィル)―――重要大事(じゅうようだいじ)星堂寺勇人(せいどうじゆうと)夜御倉龍元(やみくらりゅうげん)の三人はギュスターブからの攻撃に備え、桜華国全体に防御膜を展開した。

「防衛対策は万全です!」

「ドゥルガーに無理言った甲斐がありましたね」

「あらゆる異能の力を完全に遮断する遮能膜(しゃのうまく)を桜華国より半径20キロ圏内に展開しました。いつギュスターブが攻めて来ても、ちょっとやそっとじゃびくともしません」

 大事達はギュスターブと十二使徒(エルトゥーダ)による攻撃に備え、桜華国を含む半径20キロ圏内を巨大な球体状の遮能膜(しゃのうまく)を張ることで、桜華国をすっぽりと包み込んだ。

 遮能膜はその名の通り、「異能の力を完全に遮断する」ものであり―――あらゆる異能の力はこの膜の前には意味を持たず、穴をあけて中に入ることはできない。

 さらに、膜は空の上から土の中まで張られているから、元来が異能の存在そのものである十二使徒(エルトゥーダ)が空から突っ込めば、彼らの体は一瞬にして崩壊する。

 防衛対策は盤石(ばんじゃく)に思われた。

「ん」

 だが、大事の隣に立つ龍元の額には微かに汗が滲んでおり、表情もどこか強張った感じだ。

「そんなに気を張らなくても大丈夫ですよ。桜華国一帯を覆ってある遮能膜(しゃのうまく)は絶対防御と言っても過言ではありません。あれは異能の力を分解する波動を常時放出しています。異能の力による攻撃では破壊は不可能。敵がそれこそ捨身の覚悟でぶつかっても来ない限り安全な筈です。もっとも、突っ込んだ瞬間にお陀仏は必至ですけど」

と、大事が口元を緩めた直後―――

「ほう」

空の上から聞き覚えのある声が聞こえた。

「成程。理に適っているな」

声を聞くなり目を見開いた大事達は、恐る恐る頭上を見上げると―――蛇の意匠を持つ重厚な鎧に身を包んだ異能者こと、十二使徒(エルトゥーダ)のセルピエンテの姿がそこにはあった。

十二使徒(エルトゥーダ)か!?」

「いつ間に・・・!!」

「貴様、なぜここに!?」

 気配すら感じさせずに大事達の頭上に立っていたセルピエンテは、不敵な笑みを浮かべる。

「ふふふ・・・知りたいか。知りたいだろうな」

「く・・・!」

 勇人は胸にぶら下げている獅子のネックスレスを手に取り力を発動させようとすると、大事は一度待ったをかける。

「落ち着いてください!! 奴はまだ上空・・・遮能膜(しゃのうまく)の外です!! こちらに何もできはしません!」

 と、大事が言った直後。龍元は露骨に顔を歪ませながら震える声で言う。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ち・・・ちがいます・・・・・・・・・」

「え」

「やつはもう・・・遮能膜(しゃのうまく)の内側にいます!!!」

 

 ドドドォン―――!!!

 

唐突に、桜華国のあちこちで、天を(つんざ)く巨大な光の柱が湧き上がる。

愕然(がくぜん)とする大事達を余所に―――セルピエンテは(うれ)いと愉悦という、相反する感情を内包した表情を浮かべる。

「・・・辛いものだな。争いというものは」

 

光柱の数は加速度的に増えていき、桜華国一帯に戦慄(せんりつ)が走る。

「何だ!?」

「敵襲か!!」

修行に没頭していた一護達も事の次第に気づき、修行を中断して周りの様子を確認すると―――

「・・・何だ・・・・・・・・・こりゃあ・・・・・・」

恋次はそれまで見たことも無い光景に言葉を失いかけた。

一同がその瞳に見るのは、山よりも高く伸びた光の柱が桜華国のあちこちから伸びており、さながらそれはバベルの塔と表現することもできただろう。

「光の柱が・・・・・・・・・」

「いや・・・あれは光ってるんじゃない・・・青い火柱だ・・・!!」

 光っているように見えたそれは、一本一本が煌々(こうこう)と燃え上がる青い炎であり、その炎が束になったことで巨大な火柱が形成された。

 石田は額に汗を浮かべながら、その火柱から途方も無く巨大で高密度の霊子を感じ取る。

「なんだこれは・・・・・・一本一本がとんでもない霊子濃度だぞ・・・」

「それだけやあらへん。他にも魔力や死ぬ気の炎も混ざっとる・・・・・・!!」

 霊子に交じって、火柱にはなのは達の世界で言う魔力や綱吉達にとってなじみ深い力―――死ぬ気の炎も混在している。

 リュミエールにはマナと呼ばれるものが充満しており、そのマナは世界の中心に(そび)える母なる樹木―――世界樹(せかいじゅ)から供給されている。

 火柱が立った瞬間から、加速度的に周囲のマナが吸収されていることに気づいた夜御倉はやてとシンは、血相を変えた様子で一護達の前から走り出す。

「あっ!!」

「シンさん!」

「はやて(L)さんも!!」

「どこ行くつもりだよ、お前ら!!」

「火柱の根元へ!! 恐らくはあの下に敵軍の幹部格が居る筈です!!」

「一刻の猶予(ゆうよ)も無い! 我々は桜華国と民を守らねばならぬ!!」

 言うと、両者は火柱の根元に向かって移動を開始。

 二人が早々に敵の元へと向かった直後―――綱吉は拳に力を()め、哀しみと怒りを内包した表情を浮かべる。

「・・・ひどいことするよ・・・」

「ツナ」

「こんな美しい世界を・・・・・・ギュスターブは壊そうとする・・・・・・許さない・・・・・・」

 普段は温厚なはずの綱吉から明確な殺気を覚える。

 震える声で綱吉は目の前で起こっている破壊の現象を見ると、双眸(そうぼう)に涙を宿しながらギュスターブに対する激しい怒りを口にする。

「オレはギュスターブを許さない!!! あいつはオレたちが倒す!!!」

「10代目・・・その通りですね!」

「おお! オレたちも同じ気持ちだったぞ!」

「みんなで火柱の所へ向かいましょう!」

「おっしゃー! 決着つけてやるぜ!」

 全員の気持ちが一つになった。

 ついに、ギュスターブと十二使徒との戦いに終止符を打つときがやってきたのだ。

 各々はこれまでの修行の日々を思い出し、三週間という短い時間の中で紡いだ絆と鍛え上げた力を存分に発揮してやろうと強い思い、そして奪われた自分達の世界を取り戻そうという気持ちを胸に宿す。

 なのはは愛娘のヴィヴィオを見ながら、彼女の目をじっと見ながら不安げなヴィヴィオに挨拶をする。

「ヴィヴィオ。ママ、行ってくるね」

「うん」

 この戦いはJS事件とは比較にもならないような血戦(けっせん)となり得るかもしれない。万が一なのはが戦いに敗れ、ヴィヴィオの元に二度と戻って来ないという不安の方が大きい。

 だが、それでもヴィヴィオはそんな不安を押し殺し、大好きな母が生きて帰ってくれるという希望だけを信じ―――なのはに対して満面の笑みで答える。

「行ってらっしゃい、ママ。絶対戻って来てね」

「うん。約束するよ」

 二人は親子の絆を確かめあうように、固い指切りをした。

 

 

 逃げ惑う桜華国の住民達を蹂躙する侵略者十二使徒(エルトゥーダ)と、国の存亡を懸けて戦う国家騎士団と自警団(じけいだん)の人間。

「破壊! 破壊! 破壊!」

 無機質に愛銃「ネイキッド・バスター」で攻撃する兎の十二使徒(エルトゥーダ)コネホ。そのコネホの攻撃に対して、戦っていた騎士団と自警団が次々に撃たれ倒れ、動かぬ肉塊(にくかい)となってコネホに踏まれていく。

「いよう人間どもォ。天敵様のお出ましだぜぇ」

 セルピエンテに連れられリュミエールへと進軍してきた十二使徒(エルトゥーダ)の一人にして、猿の意匠の鎧に身を包む怪人―――モノ。

「グアアアアアアアアアアアアアアア」

 咆哮(ほうこう)を上げると、たちまち体が巨大化し大猿(おおざる)へと変貌。

 前方目掛けて山鳴りにも似た声を上げるや否や、騎士達を守る甲冑(かっちゅう)が吹き飛ぶだけでなく、皮膚を瞬時に風化(ふうか)させ無残な白骨を多数に作り出す。

 仲間が瞬時に骨と化す様をあからさまに見せつけられた騎士達は、恐怖のあまり戦意喪失。

 モノは元の姿に戻ると、邪悪な瞳を彼らに向けて言い放つ。

(おのの)け、愚民共。これより、我ら十二使徒(エルトゥーダ)がお前達とこの世界を粛正する」

「うわ・・・うわあああ!!」

 死を恐怖した騎士の多くが武器を捨てて敵前逃亡を決め込む。

 無理もない話だ。数か月前に起こった虚無の統治者(ニヒツヘルシャー)事件とゲヴァルトによる肉体消失事件が重なったこともあり、騎士達は心の奥底でいつ自分が死ぬかもしれないという感情を隠し持っていた。

 それがここにきて、パンパンに脹れあがった風船が一気に弾けるようにして―――膨張した恐怖心が破裂した。

「退くな!! 退くなお前ら!!」

 次々と敵前逃亡を決め込む騎士がほとんどの中、恐怖に足が竦みながらも戦う意志を貫く騎士が逃げる仲間に呼びかける。

「我ら世界国家騎士団の使命はその命を護る事では無い!! 命を捨てて民とこの世界の安寧(あんねい)を護る事だろう!!」

 寝食を共にしてきた仲間に強く呼び掛けるも、騎士達は命欲しさにその場から姿を消す。

「退くなァアア!!!」

 込み上げる諸々の想いを叫び声で表現すると、戦う意思を最後まで貫いた騎士は敵と刺し違える覚悟を抱き、剣を振り上げたままモノの懐へと走り出す。

 狂気を宿した瞳を若い騎士に向けると、モノは今一度変身してこれを迎え撃とうとする―――

 ドンッ!

 だが、攻撃をしようとした矢先―――両者の間目掛けて飛んできた青白い斬撃。

 恐る恐る騎士は斬撃が飛んできた方へと顔を向けると、屋根の上に立っていたのは自隊の隊長であり希望の一人でもある夜御倉シン。

「よくぞ言った。それでこそ誇り高き国家騎士団の騎士だ」

「や・・・夜御倉隊長・・・!!」

「あとは任せて退がっていろ」

 シンは最後まで退かずにモノと戦おうとした騎士を誇りと称し、部下の安全を最優先に考え彼を下がらせると、家族同然の様に接してきた仲間を葬り去ったモノに対して殺意の(こも)った瞳で見ながら、龍王牙(りゅうおうが)を構える。

「あなただけではありませんよ」

「オレたちもいるぜ」

 そこへ、戦おうとしたシンの応援に駆けつけてくれたのが山本とシグナムだった。

 空から降りて来た二人を一瞥し、シンは一緒に戦う仲間がいることへの安心感で胸がいっぱいになる。

「―――やはり、仲間がいるというのは何とも頼もしい限りだな」

 

 シン達が居る場所から200メートル離れた東の地区―――

「やあああっ」

 十二使徒(エルトゥーダ)の紅一点にして、その実は残忍かつ凶悪な鳥の意匠を持つ鎧を見に(まと)う怪人―――ファイサンは、騎士も一般人もお構いなく遠近両用に仕える武器「ネイキッド・ラング」で切り裂く。

 剣として扱える以外に、V字に開いてブーメランのように投げることも可能なネイキッド・ラングを、遠くにあるものも正確に見通せる目を利かせてファイサンは後者の使い方で次々と対象を切り刻む。

 投擲(とうてき)後、手元に返ってきたラングを剣として扱い目の前の敵を斬ろうとした瞬間、強い力によって抑えつけられる。

 ファイサンの腕を抑え込んだのは、彼女よりも遥かに背丈の大きく頭に狼の耳を生やしたヴォルケンリッターの守り要にして後方支援組のメンバー、盾の守護獣(しゅごじゅう)ザフィーラ。

「・・・こんな少女までもが賊軍の戦士なのか・・・!」

 目を細めながらザフィーラは率直な感想を漏らす。

「わぁお。誰かと思ったら魔導師組のワンちゃんか。こんな毛むくじゃらのワンちゃんまで投入してるなんて、ズイブン人手不足なんだね管理局って!」

 言うと、ファイサンはザフィーラの手を振り払い、ネイキッド・ラングを大きく振りかぶって投擲(とうてき)

「えええい!!」

 高速回転しながらネイキッド・ラングはザフィーラ目掛けて飛んでくる。

「ぐ・・・のおおおおお!!!」

 ザフィーラは自慢の防御力でこれを受け止めるが、その力は凄まじく―――彼の防御を打ち破る程の威力を誇った。

「はははは!! どう、わたしのネイキッド・ラングの威力を思い知った!」

 無邪気に笑いながらも、内心では敵を殲滅(せんめつ)することに執念を燃やすファイサンは、深手を負ったザフィーラの首に狙いを定め、再度ネイキッド・ラングを構える。

 窮地(きゅうち)に立たされたザフィーラは、正に絶体絶命。

 と、その時―――空中から飛翔体(ひしょうたい)がファイサン目掛けて急速に接近。

 現れたのは巨大ハンマー形態のグラーフアイゼンを抱えたヴィータだった。

「ぶち抜け―――!!!」

 頭上から振り下ろされる巨大な鉄槌(てっつい)

 皮一枚のところでファイサンはヴィータの攻撃を回避し、ザフィーラの前に続々と駆けつける仲間―――フェイト、ルキアを見据える。

「へぇ・・・三体一ってわけだね。頭数揃えればわたしを倒せると思ったら・・・詰めが甘いんじゃないの?」

 冷ややかな笑いを目の前のフェイト達に向けたファイサンは、ネイキッド・ラングを剣の形に戻し、改めて対峙する。

 

「つらああああああああああ!!」

阿散井恋次は、十二使徒(エルトゥーダ)の一人で牛の意匠を持つ鎧に身を包んだ怪人―――タウルスと交戦。

巨大な棍棒(こんぼう)を武器とするタウルスは幸いにも動きが緩慢(かんまん)であるから、恋次は積極的に攻撃を仕掛ける。

()えろ、蛇尾丸(ざびまる)!」

蛇尾丸(ざびまる)刃節(じんせつ)を伸ばしてタウルスの急所へと攻撃を試みるが、咄嗟(とっさ)棍棒(こんぼう)に当てさせ仕掛けを繰り出し爆発させる。

「なに!?」

「うおおおおおおお!!!」

 両手に持つ巨大棍棒(こんぼう)を振りかざし、タウルスは空中から恋次を叩き落とす。

「のああああ!」

 桁違いな破壊力に恋次は多大な負荷を体に負わされるも、気力で痛みをこらえて体を起き上がらせ―――差し違えることも(いと)わぬ覚悟で敵に向かっていく。

「この・・・舐めるな!!」

 

「が・・・」

 突破力組のスバルと茶渡、了平は圧倒的な攻撃力を誇る十二使徒(エルトゥーダ)の力に屈服しそうになっていた。

「くはあぁ~~~~~~~~~辛れえ~~~!! つれーつれーつれーつれーつれーつれーつれーつれーつれーつれーぜ!!」

 この三人を一方的に痛めつけている龍の意匠を持つ鎧に覆われた巨躯(きょく)の怪人―――ドラケンは声高らかに、この状況を辛いと連呼しながら非常に楽しんでいた。

「弱ぇーってのはつれーなあオイ、突一ども!!」

(く・・・こんな事があるのか・・・)

 辛うじて意識を保っていた三人は、修行の成果を無情にも打ち砕くドラケンと自分達の現在の力量に愕然(がくぜん)とする。

「力の差が大きすぎるよ・・・!」

「まるで歯が立たんとはこのことだ・・・・・・・・・」

「ふふ。俺は十二使徒(エルトゥーダ)一の攻撃力を誇る龍の力を宿した化身。龍とはすなわち絶対的な力の象徴!! 敵も味方も獣でも、恐れをなしてしまう」

 言いながら、ドラケンは身の丈に匹敵する巨大な矛を作り出し、満身創痍(まんしんそうい)となった突破力組三人に向かって構える。

「絶望の淵に沈め!」

 次の瞬間―――エネルギーを凝縮した矛を勢いよく振りかぶり、ドラケンは前方目掛けて投げつけた。

「ふん!!」

 この距離では(かわ)すことはおろか、直撃は避けられない―――茶渡達は非力な自分達を呪いながら、死を覚悟して目を瞑る。

 

 ドンッ!!

 

 だが、直撃の寸前。

どこからともなく飛んできたエネルギー弾がドラケンの矛の軌道を逸らした。

 怪訝(けげん)そうに銃弾が飛んできた方へ眼を向けると、ドラケンの前に現れたのは―――黒帽子に黒服という出で立ちという格好のどこか冷たい雰囲気を放つ男。

 了平を除いて茶渡とスバルもドラケンと同様訝(いぶか)しんだ様子で男を見る中、0.05秒以下の速さでドラケンに攻撃を仕掛けた男はおもむろに呟く。

CHAOS(カオス)だな」

「ああ? 誰だ貴様・・・」

 眉間(みけん)(しわ)を寄せながら険しい顔で素姓の分からぬ男に尋ねるドラケンに、男は不敵な笑みを浮かべる。

「ふん。オレを(たお)せたら教えてやってもいいが」

「てめぇ・・・・・・」

 ドラケンの神経を逆撫でする言葉を口にした男は、一瞬のうちにドラケンの視界から姿を消すと、負傷した三人を安全な場所へと移動させる。

「大丈夫か?」

「えっと・・・どちらさまでしょうか・・・?」

 唐突に自分達の前に現れ、そして命の危機から救った男の存在に皆目見当がつかないスバルだが―――おもむろに肩を叩かれ振り返ると、了平が意を決して言う。

「リボーンだ」

「え・・・・・・ええええええええええええええ!!!!」

 空気を振動させるほどの大きな声だった。

 二頭身の赤ん坊の姿から一変、呪いが解かれ大人の姿へと戻ったリボーンの変貌(へんぼう)ぶりに驚愕した。

 アルコバレーノの呪いを受ける前、リボーンは殺し屋として活躍しており、その実力はアルコバレーノ最強を誇った。

 世界の意志の働きかけで、リボーンは一時的に呪いを解かれて元の姿へと戻り、リュミエールの戦線に参上した。

 口元を緩めたリボーンは「直ぐに戻る」と言って、ドラケンの元へと戻って行った。

「おらあああああああああ!」

猛烈な怒りを露わにリボーンへ攻撃を仕掛けるドラケンに対し、極めて冷静にドラケンの動きを読みながら的確に攻撃を開始するリボーンは、瞬時に銃口から弾を撃ちだしドラケンを牽制(けんせい)しつつ、事前に撃った弾を―――頃合いを見て放つ。

CHAOS(カオス) SHOT(ショット)!!」

ドンッ!!

地面が盛り上がったかと思えば、ドラケンの懐から飛び出した二つの弾丸が彼の体に貫通する。

「ぐあああああああ!!!! 貴様あああああ!!!!」

内臓を撃たれた痛みに(もだ)えながら、ドラケンは怒りに我を任せて闇雲にリボーンを攻撃し続ける。

リボーンが戦っている間、スバルは終始呆気にとられた様子で口を大きく開けるばかり。

「わ・・・・・・わたしは夢を見てるのかな・・・・・・」

「気持ちが分かるが・・・現実だ」

「それにしても、相変わらず出鱈目(でたらめ)な戦闘力だ!」

 

「でやああああああ!!!」

 エリオ・モンディアルは現在、キャロと石田、織姫と組んで虎の意匠を持つ鎧を(まと)いし十二使徒(エルトゥーダ)―――ティグレと交戦。

 斬撃の際、魔力によって周囲の空気を圧縮・加速した空気の刃「ルフトメッサー」をティグレに飛ばすも、ティグレの体は酷く頑丈で、瞬時にルフトメッサーを弾き飛ばす。

()っ!」

孤天斬盾(こてんざんしゅん)、私は拒絶する!」

「シューティングレイ!」

 石田と織姫、キャロの三人が同時攻撃を仕掛ける。だが結果は同じ―――ティグレの皮膚は四人の攻撃に対して絶対の態勢を持っていた。

「何だ、あいつの硬さは!?」

「こっちの攻撃が全然通じないなんて!」

「ふふふ・・・俺の皮膚は十二使徒(エルトゥーダ)一の硬度を誇ってるんだ。それともお前達の攻撃力が低すぎるのか?」

「言ってくれますね・・・」

「ちょっと悔しい・・・」

 ティグレの言葉に触発された四人は、余裕の笑みを浮かべる目の前の敵を絶対に討ち取ると固く誓う。

 石田は腰に携行していた魂を切り裂くもの(ゼーレシュナイダー)を銀嶺弧雀(ぎんれいこじゃく)と併用するつもりで、光の矢の代わりに装填(そうてん)する。

滅却師(クインシー)の誇りに懸けて―――生きて帰れると思うな、十二使徒(エルトゥーダ)

 

「ふおおおおおおおおおおおお!!」

 斬月片手に雄叫びを上げ、十二使徒(エルトゥーダ)の一人に突進するのは死神代行黒崎一護。

 既に卍解した一護は、高速で近づき高威力の斬撃を仕掛ける中、以前の戦闘で一護と戦った犬の鎧を身に(まと)った怪人―――サバーカは、薙刀の形状で長柄の先に幅の広い直刀の大剣を巧みに操り一護と鍔迫り合いとなる。

 一方、(ハイパー)死ぬ気モードの綱吉はチャクラムの様な刃物を武器として操る馬の意匠を持つ鎧を着こなす十二使徒(エルトゥーダ)―――カバロに肉薄している。

「ぬはははは! そんなものでしまいか?」

「く・・・」

 パワーで綱吉を押してくるカバロに対し、右手のグローブから体を支える安定性に優れた大空の「(じゅう)」の炎を噴射し、左手のグローブには推進力と破壊力を兼ね揃えた大空の「(ごう)」の炎を纏ったパンチで反撃。

「はああ!」

 皮一枚で回避したカバロは、助走をつけてから綱吉の元へと突進しようとする。

〈Chain Bind〉

 直後、桜色に輝く鎖がイエグァの体を縛り付けたかと思えば―――空中からエクシードモードのなのはが特大の砲撃をお見舞いする。

「ストライク・スターズ!」

 並外れた魔力量と周囲の魔力素を集束する特技を持つなのはならではの大魔力砲撃が、カバロの体をまるまる飲み込む。

「ぐああああ」

 砲撃に飲み込まれたカバロはそれなりにダメージを喰らったが、直ぐに起き上がってなのはに狙いを変えて攻撃を加えようとする―――

「!!」

 刹那(せつな)―――ガントレットの形に形態変化(カンヴィオ・フォルマ)したナッツを右腕に装備し、その上虚(ホロウ)の仮面を付けた状態の綱吉が飛びかかる。

「バーニングアクセル!」

 ビックバンアクセルよりも高出力で速力の付いた火炎拳打(かえんけんだ)を放った。

 (ホロウ)化の影響で力が桁違いに上がった綱吉の拳打(けんだ)は、カバロの鎧を打ち砕く。

「だあああああ!!!!」

「カバロ!」

 サバーカはカバロが綱吉の攻撃をまともに受けたことに驚愕しながら、一護との戦闘は分が悪いと判断し、標的をなのはと綱吉に変更。大剣片手に二人に向かって突進する。

「ロール」

 が、その直後―――どこからともなく飛んできた巨大な針の鉄球がサバーカの体に激突、串刺しとなった。

「な、なに!?」

「これは・・・まさか!」

綱吉が見覚えのある技だと思い後ろに振り返ると―――この時を待ちわびた様に、改造長ランを見に(まと)ったボンゴレ10代目ファミリー雲の守護者、雲雀恭弥(ひばりきょうや)が現れる。

「やぁ。随分と楽しそうなことになっているね」

「「雲雀・・・!」」

「雲雀君!」

「僕にもやらせてよ」

 言うと、雲雀はボンゴレギア「雲のブレスレットVer.X」から召喚したギアアニマル「雲ハリネズミ(ポルコスピーノ・ヌーヴォラ)」こと、ロールでサバーカとカバロの二人を一遍に攻撃しながら、強化した仕込みトンファーに雲属性の炎を灯し得意の接近戦に持ち込む。

 猟奇的な笑みを浮かべる雲雀の攻撃を受け止めるサバーカは、加速度的に強くなっていくトンファーの一撃を耐え続ける。

「この世界も存外悪くないものでね。退屈を持て余していた僕の前に、如月京介(きさらぎきょうすけ)っていう最高級の相手が現れたんだよ」

 雲雀はこの世界での日常を、ほとんどすべて世界国家騎士団11番隊隊長で戦闘狂―――如月京介との血なまぐさい戦いに興じていた。

生と死を懸けた極限の戦いを味わった末、雲雀は一護達が目を見張るほどの強さを無自覚のうちに手に入れた。

「あれは実に楽しい戦いだった・・・さて。君達は僕を楽しませてくれるんだろうね?」

「このガキがああ!!!」

 カバロはふたつのチャクラム状の武器を操り、サバーカに加勢する。

 一護達は雲雀をサポートする形で、カバロの攻撃を受け止める。

「僕の獲物だよ。邪魔するなら君らから咬み殺すよ?」

「あ、あのね・・・この状況でそんなこと言ってる場合かな?!」

「とにかく、こいつらをぶっ倒す分には手を貸すぜ。おまえが何と言おうとな」

「いくぜ」

 不承不承(ふしょうぶしょう)ではあるが、雲雀も一先ずのところ三人が自分の戦いの邪魔をしない分には戦闘行為を認め、標的であるサバーカに再び肉薄。激しい撃ち合いを繰り返す。

 対する一護、綱吉、なのはの三人はカバロを倒すため共闘の姿勢を貫く。

月牙天衝(げつがてんしょう)!!」

X(イクス)カノン!」

「エクセリオン—――ッ! バスター!!!」

 

 

 桜華国各所で勃発した十二使徒(エルトゥーダ)と一護達による激しい戦い。

 事態収拾のために動いていた世界の意志、重要大事と星堂寺勇人、夜御倉龍元の三人は十二使徒(エルトゥーダ)によって破壊された街を駆け巡っては人々を避難させる、あるいは防御膜を張って被害を食い止めようとしていた。

 ギャアアアアア!!!

 だがその時、鳥の鳴き声にも似た音が空気中に響き渡った。

 恐る恐る頭上を見上げると、空間を引き裂いて現れる節足を持つ骸骨を模した巨大な戦艦こと―――絶望の船“デゼスプワール”がリュミールへと侵入した。

「デゼスプワールです!!」

「いけない!!」

 デゼスプワールは節足を開くと、桜華国の大地に向かって爆撃を開始。

 爆発が起こるたびに緑豊かな大地は消し飛び、逃げ惑う人々の恐怖は最高潮に達する。

 前回、一護達はこの巨大戦艦の力に為す術を持たなかった。このままではまた同じことが繰り返されるだけ―――そう思った世界の意志のひとり、星堂寺勇人は胸に熱い思いを抱き、口にする。

「これ以上・・・リュミエールの大地で好き勝手にさせるか!!」

 首からぶら下げたペンダントを握りしめ全速力で前に走り出すと、勇人は「トライダグオン!」と声高に叫んでから、炎を模した鎧の戦士・ファイヤーエンに変身。更にそこから超絶的な変化を遂げる。

「ファイヤーストラスト!」

ファイヤーエンの呼びかけに答え、何処からともなく一台のパトカーが召喚され―――彼はこれに乗りこんだ。

融合合体(ゆうごうがったい)!!」

パトカーの上にホログラムのファイヤーエンが出現し、ファイヤーストラトスはその形状を変化させる。

ボンネットが脚部へと変化し、ドアから車体後部にかけて腕へと変形。

最後に肩アーマーが開いて頭部が出現し、胸部には星型の紋章が出現する。

機体の変形に伴い、ファイヤーエンのホログラムが巨大化し、魂が宿る様に融合する。

「ダグッ!  ファイヤー!!」

星堂寺勇人こと、ファイヤーエンはファイヤーストラスと融合合体することで、赤き炎の勇者『ダグファイヤー』へと姿を変えた。

「なんだあれは!?」

「おおお!! 極限よくわからんが、すごいものが出てきたなー!!」

 困惑と興奮の感情を抱く一護達の反応を余所に、ダグファイヤーは前方の空に浮かぶ巨大要塞デゼスプワールを見る。

「ファイヤーブラスター! スターバーン!」

両腕の装甲内に収納された二丁拳銃を構え、胸部にはエネルギーをため込む。

そして、十分にエネルギーが溜め込まれると―――「シュート!!」と言ってデゼスプワールを攻撃する。

三つの攻撃を受け、若干デゼスプワールの動きが鈍ったその隙を見て、ダグファイヤーはショベルカー型のビークルマシーン―――『ファイヤーショベル』を召喚、合体する。

剛力合体(ごうりきがったい)!!」

ショベルの上にダグファイヤーを載せながら、ファイヤーショベルは変形を開始する。

両側に開いたショベルと操縦席部分が、本体の両側に移動して固定される。

後部に倒れていた上半身が起き上がり、キャタピラ部分にたたまれていた脚部が伸び、同時に腕部も伸びる。

胸部が開き頭部ユニットが出現すると、ダグファイヤーは空いた胸部に搭乗する。

胸部にティラノサウルスかドラゴンの様な装甲を備え、右肩にはショベルを武器に持つ―――赤き剛力のロボが誕生する。

「パワーッ! ダグオンッ!!」

デゼスプワールに勝るとも劣らない巨大ロボット―――パワーダグオンはパキパキパキ、と指を鳴らしてからデゼスプワールへと突っ込んだ。

パワーダグオン目掛けて砲撃を開始するデゼスプワールだが、巨大ロボットとは思えない軽い身のこなしで砲撃を避けていくパワーダグオンが、ショベル部分に装備した巨大ドリルで攻撃する。

「パワードリルアーム!!」

高速回転するパワードリルアームで、頑丈なデゼスプワールの装甲に穴を空けると、防御力と飛行能力が顕しく低下したデゼスプワールに止めを差す。

「行くぜ、無限砲(むげんほう)!」

言うと、パワーダグオンの前に現れる巨大な大砲。

その大砲を左肩に設置されているコネクタを介して装着すると、桁違いなエネルギーがパワーダグオンの体に流れ込む。

砲撃の為のエネルギーを無限砲に蓄えると、パワーショベルアームをアンカーとし、発射に備える。

「ターゲットマーク・セットオン・・・ファイヤー!!!」

デゼスプワール目掛けて発射された虹色に輝く砲撃は、デゼスプワールの機体を飲み込み、跡形も無く蒸発させた。

大爆発が起き、数多の世界を蹂躙(じゅうりん)してきた悪魔の兵器はパワーダグオンの力によって倒された。

「よっしゃー!!」

「やりやがった!」

「あのロボットかっこいいです!!」

 各所で戦っていた一護達、並びに生き残っていた騎士達は敵の母艦が破壊されたことに歓喜の声を上げる。

 だが、喜んでいたのも束の間。

「うわああ!」

風を切るかの如く、突風が巻き上がったかと思えば、リュミエールの空に現れたのは、この事件の首謀者であるあの男だった。

「見ろ!」

「あいつは!」

 満を持して一護達の前に姿を現した、世界の意志―――ギュスターブ・エトワール。

「久方ぶりだな。死に損ない共」

「ギュスターブ!」

「と・・・!」

 空中に浮かぶギュスターブを睨み付ける一護達だが、何やら彼の腕に中に見慣れた人物が担がれている。

 目を凝らして見ると、一護達は絶句する。

 ギュスターブの手の中には、気を失った京子が収まっていた。

「京子ちゃん!!」

「京子!!」

 綱吉を始め、了平の態度が一変。大きな動揺が連鎖反応で広がった。

「京子!! 京子!!!」

「笹川をどうするつもりだ!」

「どうして京子さんを!?」

「人の戦艦ぶっ壊したからな・・・損害賠償の形としてこちらで預からせてもらうぞ」

「ふざけんじゃねぇ!!」

「あんた! 何様のつもりよ!!」

 人道に反したギュスターブの行為に、リュミエール中から非難の声が向けられる。

 向けられる罵詈雑言(ばりぞうごん)の声を右から左に受け流したギュスターブは、各所で戦っていた十二使徒(エルトゥーダ)を呼び戻す。

「去らばだ。滅びの瞬間(とき)に恐怖しながら待ちわびろ」

 ギュスターブが指をパチンと鳴らした瞬間―――各所で上がっていた火柱が大爆発を起こし、一護達の周りへと飛来する。

 ドガン! ドーン!

「「「「「「「「「「うわあああああああああああ!!!」」」」」」」」」」

 ドドドン! ドーン!

「「「「「だあああああああああああああ」」」」」

爆炎に包まれる桜華国の大地を仰ぎ見ながら、ギュスターブは十二使徒(エルトゥーダ)と気絶した京子を連れてリュミエールから立ち去ろうとする。

「行くぞ」

「「「「「「「「は!」」」」」」」

 破壊と殺戮(さつりく)の限りを尽くした十二使徒(エルトゥーダ)はギュスターブに随伴(ずいはん)し、デゼスプワールが出現した空間の裂け目へと戻ろうとする。

 しかし、それをさせまいと高速で近づいてくる存在がギュスターブを横切り、姿を現す。

 額に大空の炎を灯し、右肩にギアアニマルのナッツを担いだボンゴレX世(デーチモ)を継承する少年―――沢田綱吉だ。

「随分勝手だな」

 綱吉は京子を連れ戻しにやってきた。

 ギュスターブと十二使徒(エルトゥーダ)は前方に立ちふさがる綱吉と対峙する。

「う・・・ここは・・・あ!」

 しばらくして、ギュスターブの腕の中で気を失っていた京子が意識を取り戻し、自分が置かれている状況を瞬時に理解する。

「京子!」

「ツナ君!」

「いま、行く」

 両手に煌々(こうこう)と輝く純度の高い大空の炎を宿した綱吉は、(ホロウ)化してさらに炎の質力を高める。

「京子は渡さない!」

十二使徒(エルトゥーダ)達が綱吉に向かって攻撃を始めると、グローブの炎を逆噴射させながら空中で蛇行する。

「ほおおおおおおおおおおお」

敵の攻撃を回避しつつ、着実にギュスターブへと接近する綱吉。

辛うじて爆発から逃れた一護達は、空中の綱吉と京子の身を案じる。

「ツナ!」

「沢田!」

「もらっ―――」

ギュスターブの懐へと潜りこんだ綱吉の拳打(けんだ)が入ろうとした、次の瞬間。

グサっ―――!

「ぐっは・・・」

ギュスターブの衣服から伸びた鋭利な鎖が綱吉の腸を引き裂く。

「あああ!!!」

目の前で綱吉が傷つく姿を目撃してしまった京子は、仮面が砕け、力なく手を伸ばしながら自分を助けようとする綱吉を見ながら涙を浮かべる。

「ツナ君・・・ツナ君!!」

綱吉が手を伸ばすように、京子も自分の手を綱吉に伸ばすが―――綱吉は京子の横を通り過ぎながら重力に従い落下する。

「ツナ君!!!」

 朦朧(もうろう)とする意識で綱吉は最後まで京子に向かって手を伸ばし続けたが、彼女との距離は加速度的に広がり―――とうとうその姿さえも見えなくなっていく。

「いやああああああああああああ!!!」

 ギュスターブは十二使徒(エルトゥーダ)を伴い、京子を拉致。暗黒が広がる亜空間へと消えて行った。

「ツナ!」

 一護は落下してくる綱吉を空中で捕獲。その安否を気遣う。

「ツナ! しっかりしろ、ツナ―――!!」

 

 

桜華国 夜御倉邸 大広間

 

 十二使徒(エルトゥーダ)達によってもたらされた桜華国全土の被害は深刻だった。

 東西南北における死傷者数は、民間人103名。国家騎士団関係者120名。

重症者数300名。破壊された家屋の数は200棟以上にも上るという―――過去類を見ない未曾有(みぞう)の被害を受けた。

ギュスターブ一味によってもたらされた被害があまりに大きすぎたため、ワールドウィルシステムと補完関係にある『惑星型巨大記録装置』―――“ジェネレーションシステム”のAIプログラムで世界の修正者、通称「エティコラ」は超法規的な措置として―――亡くなった死傷者の蘇生と壊された建物の修復を敢行。

世界の意志達も全面的に復興作業に取り掛かる一方で、十二使徒(エルトゥーダ)との戦いで負傷した綱吉は現在、夜御倉邸で治療を受けていた。

固唾を飲んで全員が見守る中、シャマルと織姫は治療を終え、顔を(ほころ)ばす。

「もう大丈夫」

「直に意識が戻るわ」

 全員が安堵(あんど)のため息を漏らし、胸を撫で下ろす。だが、結果は散々たるものだった。

「しかし・・・何たる様だ」

「だらしねーったらありゃしねぇぜ!」

 一護達は厳しい修行をしたにもかかわらず、十二使徒(エルトゥーダ)達の凶行を止めることができず、桜華国に対して甚大な被害を与えてしまったばかりか―――ギュスターブに京子を拉致されてしまったことに憤りを感じる。

「そう悲観的にならないでよ」

(ふすま)の向こう側から声が聞こえた。現れたのは、外での作業を終えたばかりの世界の意志達三人。

「不意打ちとはいえ、世界の意志が三人もいて防げなかったんだ」

「お恥ずかしい話です・・・」

「面目ありません」

了平は命よりも大切な妹を連れていかれたことにショックを隠し切れない様子だった。大事達が現れるや否や、凄まじい剣幕で問い質す。

「京子は!? 極限京子はどこにつれて行かれた!!」

大事は了平に胸ぐらを掴まれた状態から、たった今掴んだばかりの情報を口外する。

「どうやら、ギュスターブ達と一緒にエンド・オブ・ザ・ワールドに連れて行かれたみたいなんだ」

「なんだよそれ?」

「世界の闇の中心に存在しているといわれる、他の世界よりも強力な闇の力に支配された場所。すべてを闇に還すほどの強大さと重圧感を放っている。ギュスターブは破壊したすべての世界をそこに集約するつもりなんだろう」

「そ、そんなデンジャラスなところに京子ちゃんは連れて行かれちゃったんですか・・・///」

「だったら・・・」

 その時、苦しそうにしながらも綱吉が直り立ての体をゆっくりと起こし始める。

「ツナ!」

「おい、大丈夫か!?」

 全員が綱吉の状態を気遣う中―――織姫とシャマルの介助を受けながら、彼は覚悟の(こも)った瞳を大事に向ける。

「だったら、オレたちをエンド・オブ・ザ・ワールドへ連れてって! でないと・・・京子ちゃんが・・・」

「死ぬだろうね」

「え!」

「なんだと!?」

 あっさりとした口調で聞き捨てならない言葉を口にした大事に、全員の視線が向けられる。

「エンド・オブ・ザ・ワールドの闇の空気は常人には猛毒だ。早く助けないと、彼女は確実に死ぬ―――」

「くうう・・・」

 歯を食いしばり、状況が逼迫(ひっぱく)していることを突き付けられた綱吉は露骨に顔を歪める。

「どちらにせよ、エンド・オブ・ザ・ワールドは並大抵の神経じゃ耐えられない場所だよ」

「オレは行く! なんとしてでも京子ちゃんを助けないと!」

「沢田の言う通りだ! 京子をそんなところに一人置いておくわけにはゆかぬ! オレは極限にギュスターブにプンスカだ!!」

「今更聞くまでもねぇだろ。俺たちはあいつを倒すために集まった。仲間がさらわれたのなら、絶対に助け出す」

 一護が全員の気持ちを代弁すると、大事は勇人と龍元と顔を見合わせ、口元を緩める。

「―――そっか。みんながその気なら、連れて行ってもいいよ。どこまでも幼稚なギュスターブに、喝を入れてやろう」

「僕も行きます!」

「私も」

 勇人と龍元も一緒に乗り込もうと懇願すると、大事は首を横に振る。

「いいえ。勇人君と龍元さんここに残って、非戦闘員の人達の警護を」

 大事はもしものことを考え、勇人と龍元の二人はこの場に残すべきと判断。説得力のある賢明な判断だと感じた勇人と龍元は、大事の言葉を飲み承諾。

 その直後、織姫やシャマル、ザフィーラも自らの役割がこのリュミエールに残ることだと悟った。

「私も、シャマルさんとザフィーラさんと一緒にこっちで怪我人の手当てをするよ」

「わかった」

「ほんなら、残ったみんなで乗り込もう。エンド・オブ・ザ・ワールドへ」

 綱吉は救出に向かう直前―――懐からあるものを取り出す。

 取り出したのは、「交通安全」と書かれた魚の絵柄が刺繍(ししゅう)されたお守り。

かつて、京子が自分のために作ってくれたもので、大事な戦いがあるとき綱吉はこれを常備している。

「待ってて・・・京子ちゃん。必ず助けるから」

 死んでも京子を取り戻すということを誓った綱吉は、お守りを手の中でぎゅっと握りしめる。

 

 

 光から隔絶された暗闇。

 湿気を孕んだ黴臭(かびくさ)い部屋の中央に鎮座する世界崩壊の元凶―――ギュスターブ。

 傍らには牢獄に捕われ、眠りにつく京子の姿。

そこへ、ギュスターブに忠実に仕える十二使徒(エルトゥーダ)セルピエンテが、報告に参上する。

「ギュスターブ様。重要大事が黒崎一護以下数十名の戦力を引き連れ、エンド・オブ・ザ・ワールドに入ったようでございます」

「そうか・・・じゃあそろそろ実行に移すとしよう。十二使徒(エルトゥーダ)全員を連れて奴らを出迎えてやれ」

「はい」

 セルピエンテは静かにその場を後にし、一護達を迎え撃つための準備に向かう。

 玉座に座りながらギュスターブはひとり、不敵な笑みを浮かべる。

「ここまで来い、黒崎一護。沢田綱吉。お前たち(・・・・)の力で―――俺の野望は成就する」

 

 

 

 ギュスターブが成就としている世界の融合による全並行世界の崩壊。その裏に隠された彼の言葉の真意とは・・・

 

 

 

 

 

 

参照・参考文献

原作:都築真紀 作画:藤真拓哉『魔法少女リリカルなのはViVid 3巻』 (角川書店・2011)

原作:都築真紀 作画:緋賀ゆかり『魔法戦記リリカルなのはForce 4巻』 (角川書店・2011)

原作:久保帯人『BLEACH 56・57巻』 (集英社・2012)


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