死神×マフィア×魔導師 次元の破壊者   作:重要大事

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戦争前夜

次元空間 絶望の船“デゼスプワール”

 

「失礼します」

 十二使徒(エルトゥーダ)の筆頭であり、ギュスターブの側近セルピエンテは長い廊下を歩いた先にある扉を潜る。

 ギシシ、と軋む音を立てながら扉が開かれると―――そこには傷の手当を終えようとしている世界の意志ギュスターブがいた。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・セルピエンテか。何の用だ?」

セルピエンテの存在に気づいたギュスターブがゆっくりと振り返り低い声で尋ねる中、ギュスターブの包帯が取れる様にセルピエンテは心から安堵する。

「完治なさったようですね。内蔵機能もお戻りになられた様で、我ら十二使徒(エルトゥーダ)一同心より安堵(あんど)しております」

「思った以上に時間が掛かり過ぎた。すっかり体が鈍ってしまった」

 言うと、ギュスターブは重要大事の一太刀を受けたことでできた傷痕に手を当てる。

「俺の体もお前達のように斃(たお)されても自動回復できれば面倒ではないのだがな」

「人間どもに付けられた傷なら兎も角、同じ世界の意志との戦闘では致し方ありません。彼奴等(きゃつら)はそれでなくても、ドゥルガーによる加護を受けているのです。あの場であなたが消滅しなかったことの方が、むしろ天佑(てんゆう)だったと思われます」

「・・・ドゥルガーか・・・」

 世界の意志の上位に君臨するワールドウィルシステムのAIこと、ドゥルガーの名前を聞くや―――ギュスターブの表情が露骨に歪む。

「・・・二度と聞きたくない名前だ」

 かつてギュスターブが味わった絶望―――ドゥルガーは結果として、ギュスターブという男の運命を大きく左右する遠因となった。

 ノア計画の実行によってギュスターブが管理していた世界で大災害が起き、多くの命が津波によって流された。

 その上、被災地でのボランティア体験を通じて、彼はこの目で絶望の中でもがく様に力強く生きる人間達の姿に胸を締め付けられた。

 忘れたくても忘れられない負の記憶を脳裏に浮かべていると、無機質な水銀の体を持つ兵士がギュスターブの包帯をすべて巻きとった。

「・・・処置。終了致しました」

「ああ。済まない」

 包帯が取れると、ギュスターブは負傷した箇所を中心に軽く体を動かす。

「いかがですか? 動き反応等損傷時と変わりありませんか?」

「・・・そうだな」

 次の瞬間、目にも止まらぬ速さでギュスターブは兵士の体を弾き飛ばす。

 凄まじい力で弾き飛ばされた兵士は壁に衝突するや水飛沫となって飛び散った。

「・・・ダメだな。本調子ならもっと細かくできたのだが・・・・・・まぁいい。直に元に戻るだろう。連中に借りを返すのは、それからだ」

「治りたてのところを申し訳ないのですが、広間まで来ていただけませんか?」

「成果があったのか?」

 セルピエンテはギュスターブの目を見ながら、おもむろに口にする。

「進軍のための手筈(てはず)が整いました」

 

 

リュミエール

世界国家騎士団 2番隊隊舎 裏庭修行場

 

「・・・ふむ・・・」

 綱吉の虚(ホロウ)化騒動から二週間が経過したある日―――

 夜御倉シンは修行場の片隅でひとり、お茶を啜(すす)りながら突破力に長けるメンバーと中長距離に長けるメンバーが行っている訓練風景を見物していた。

 見物しがてら助言できることがあればしてあげたいという気持ちを抱いていると、背後からおもむろに近づく足音が聞こえる。

「悠々(ゆうゆう)と茶を飲みながら高みの見物か?」

 シンが声の主へと顔を向けると、現れたのはリボーンだった。

「ああ、リボーンか。イヤなに。ちょっと休憩がてら様子を見にな」

 リボーンは真顔でシンの隣に腰を下ろし、幾度となく衝突を繰り返す突破力組と中長距離組の混成試合の様子を見守る。

「ツナの虚(ホロウ)化維持の調子はどうだ?」

「今やっと10秒ちょっとだ。まだまだねっちょりシゴかないとならねぇ」

「ははは。手厳しいな」

 だが、そうは言いながらも着実に成果は上がっていた。

 この二週間で綱吉は虚(ホロウ)化保持時間を上げており、当初一護が虚(ホロウ)化を発症した際に要した時間一か月を大幅に上回る速さで虚(ホロウ)の力を制御できるようになっていった。

 生徒に対しては厳しい指導で知られるリボーンも、周りにある大切なものの存在によって内側に眠る力を開花させる綱吉の潜在的なポテンシャルに内心ワクワクしていた。辛辣(しんらつ)な言葉の中にも、そこには綱吉への父性的な愛が溢れていることをシンは気付いていた。

「レイジングハート!」

〈Sacred cluster〉

中長距離戦組の一人としてカウントされるなのはは、エクシードモードという彼女自身の魔導師としての力を最大限発揮できるバリアジャケットを見に纏い、槍型の形状に変化した愛機レイジングハート・エクセリオンの力の一端を解放―――周囲は桜色に輝く無数の拡散魔力弾が発生する。

「拡散攻撃(クラスター)来るよ、ティア! 茶渡さん! 隼人!」

「バカっ!! 気安く下の名前で呼ぶんじゃねぇよ///」

完全解除状態のなのはと対峙するのは、突破力組のスバルと茶渡。その二人とチームを組んだ中長距離組の獄寺とティアナ。

獄寺は年頃の近いスバルから下の名前で呼ばれることに激しく羞恥心を抱く中、なのはが仕掛けるセイクリッド・クラスターを迎え撃つため、左腕に装備した赤炎の矢(フレイムアロー)と併用させつつ、元々の戦い方の基本で十八番(おはこ)だったダイナマイトを体中に帯びたベルトを装着し、パイプ型の発火装置でダイナマイトに嵐の炎を灯す。

そして、なのはは無数の魔力弾を拡散させた攻撃をスバル達に仕掛け、四人はこれを迎え撃つ。

「シュ—――トッ!」

すかさずティアナが飛んでくるセイクリッド・クラスターを自分の魔力弾で撃ち落とし、その間に獄寺は嵐の炎を灯したダイナマイトと赤炎の矢(フレイムアロー)の一撃を同時に仕掛ける。

「果てろー!」

 大火力のダイナマイトが一遍に爆発。

 爆炎に包まれるなのは目掛けて赤炎の矢(フレイムアロー)が飛んでくる。

「茶渡さん!」

「おおおおおっっ!!」

 獄寺の攻撃でなのはの注意を引き付けている間に、茶渡がなのはの懐へと飛び込み、巨人の右腕(ブラソ・デレチェ・デ・ヒガンテ)による強烈な拳を叩きこむ。

 なのはは魔法の師である結界魔導師ユーノ・スクライアから直々に教わった強力無比なラウンドシールドで茶渡の巨人の右腕が繰り出す霊圧拳打(れいあつけんだ)を受け止める。

 過熱を帯びる戦い。

砂埃(すなぼこり)がしきりに吹き荒れる中、シンの隣で戦いの様子を見物していたリボーンは率直な感想を呟く。

「修行にしちゃ楽しそうにしてるじゃねぇか」

「あ。やっぱりそう見えるか?」

 父親のような目でなのは達の修行風景を見守るシンは、和らいだ表情で言葉を紡ぐ。

「―――ツナの虚(ホロウ)化以来、ボンゴレ側と六課の間がギクシャクしていたから、このままで大丈夫なのかと憂慮(ゆうりょ)していたが・・・どうやらそれは杞憂(きゆう)に終わったみたいだ」

 戦いの様子から見ても、当初見られた軋轢(あつれき)は無いように思える。それどころか、ギュスターブとの決戦に備えて死神組とボンゴレ側、魔導師組の団結が一層に高まりつつある。

「良い表情(かお)になった。結束が強まったようで何よりだ」

「・・・それが違う世界の人間同士・・・・・・でもか」

 躊躇(ためら)うことなくそう口にするリボーン。これを聞いたシンは思わず面を喰らい、苦笑しながら返事をする。

「それを言うなよ」

「・・・すまねぇ。失言だった」

「いや。いいんだ。歩む場所や世界は違っても仲間というのは良い。たとえこの事件が終息を迎えて別れのときが来たとしても、この大地で紡がれた絆はきっとな―――彼らにとってのプラスになるに違いない」

 シンは人が持つ可能性を重んじている。

 その可能性の中で、先に起こった虚無の襲撃者(ニヒツヘルシャー)事件で知り合った異世界の戦士のことを思い出す。

 自らを“絆(きずな)の完現術士(フルブリンガー)”と名乗った青年は、シンやはやて(L)達を虚無の襲撃者(ニヒツヘルシャー)による脅威から救い、桜華国の復興支援も積極的に行った。

そんな彼と心通わせたシンとはやて(L)は、青年が何よりも大切にしている人の可能性―――『絆』の力を最後まで信じたいと思った。

全く異なる次元宇宙から集まった一護達が、この機会を通じて絆を固く結び、ギュスターブと言う巨悪に立ち向かっていって欲しいと、切に願って。

「それより、例の雲の守護者・・・雲雀(ひばり)って子の消息は分かったのか?」

「ああ。なんでも、隣の倭国(わこく)ってところで如月京介(きさらぎきょうすけ)って奴に目を付けられたらしいぞ」

 さらっとリボーンが口にした人名を耳にした直後、シンは啜っていたお茶を勢い余って吹き出し、むせ返る。

「げっほ! げっほ! ・・・・・・な、如月隊長だと・・・!?」

「なんだ? マズイことでもあんのか?」

如月京介という人物についてリボーンは何も知らない。そのため、彼の詳しい性格など皆目見当がつかない。

おもむろにシンに尋ねると、罰の悪そうな様子でシンは語り出す。

「いやその・・・・・・彼は普通の国家騎士とは少々事情が違っていてな・・・・・・その・・・・・・物凄い戦闘好きだ」

桜華国の隣国―――倭国(わこく)を守護する世界国家騎士団11番隊隊長「如月京介」という男は、他の騎士達とは入団の過程が異なっていた。

嘗て賞金稼ぎとして手配されていた犯罪者や集団を次々に始末し、【鮮血王(せんけつおう)】の異名を持った京介はある事件を切っ掛けに私的な復讐を果たすため、半ば強引な形で入団試験を受けずして騎士団に入り、隊長位に就いた。

騎士らしい騎士道精神は無く、血なまぐさい戦いとその愉悦を渇望する京介の狂戦士振りは国家騎士団でも広く知れ渡っていた。

そんな狂戦士と雲雀恭弥が激突しているのだから、驚かない方が不思議だろう。

だがリボーンは、正常なリアクションのシンとは異なり―――どこか楽しそうに口元をつり上げる。

「ふん。なら雲雀にはうってつけの相手じゃねぇか」

「おいおい、冗談だろ!? 相手は百戦錬磨(ひゃくせんれんま)の強者!並み居る隊長各の中で、攻撃力と言ったら如月隊長の名が挙がるんだ! そんな人と戦わって無事に済まなかったら!?」

「雲雀は群れることを嫌う孤高の浮雲。だが、戦いを欲する飽くなき精神とそこから生まれる強さは確かだ。オレは奴を信じてる」

 普通じゃない、とシンは思った。

 マフィア界最強の赤ん坊、晴のアルコバレーノのリボーンは一歩間違えれば八つ裂きもあり得なく無い如月京介と雲雀恭弥との戦いを止めようとは思わず、むしろ今回の偶奇にして好機を最大限に生かそうとしていた。

 ある種狂気とも言えるだろう。

だが、リボーンには雲雀を犬死させるつもりなど無い。雲雀はリボーンが思っている以上に、戦いに対する本能が強く、相手が強者であればあるほど彼の中に眠る潜在能力が目覚めることを熟知していた。

「んじゃ、オレはそろそろお暇させてもらうぞ」

 言うと、リボーンはシンの元から立ち去ろうとする。

「お、おいおい。もうちょっとゆっくりしていったらどうだ? エスプレッソコーヒーもあるぞ」

「そいつはありがてーが、ツナのこともあるしな」

 好物のエスプレッソコーヒーは是非とも飲んでいきたいが、それ以上にリボーンにはやるべきことが待っている。

 生徒である綱吉のことを家庭教師として最後まで指導し、その成長を見守ることだ。

「一護ひとりに負担を懸けちまうのも忍びねぇ。オレはツナの家庭教師(かてきょー)だからな」

 綱吉の元へと戻って行ったリボーンの後姿を一瞥し、シンは雄大に広がる青空を見つめながらしみじみと思う。

(・・・二週間か・・・・・・心を癒すにはあまりに短く・・・力を蓄えるには更に短い時間だ・・・願わくば、この仮初(かりそめ)の平穏が・・・少しでも長く――――――・・・)

 

 

同時刻 桜華国 龍の谷

 

龍の谷は、桜華国領内にある渓谷で、歴史的にも自然的にも多くの遺産が存在する場所。普段から強い磁気と帯電した空気がイオン化しており、通信妨害起こりやすいため〔天然の要塞〕と形容されることがある。

その名の通り、この谷には稀少な龍が数多く生息しており、中には獰猛な種もいることから、比較的平穏な桜華国の中でも危険度の高い場所となっている。

ゆえに、心身を鍛える厳しい修行をする者の多くはこの谷に籠る。

「そら、着いたよ」

 近接戦闘組のメンバー、山本武とシグナムの両名は重要大事に連れられこの谷を訪れていた。

 二人は険しい谷を超えた先に広がる絶景と、そこに住まう稀少な龍の生態に絶句する。

「すげー・・・! 龍がそこかしこにうじゃうじゃいやがる!」

「ああ。実に壮観だな」

「ここに連れて来たのは他でもない。これまでの修行の成果を試してもらいたいんだ」

 言うと、大事は二人にあるものを手渡す。

 訝しげな表情で山本とシグナムが大事から手渡された物を見ると、それは全身が漆黒に染まる龍の絵が描かれた紙だった。

「この龍の谷にはね、角竜(かくりゅう)ディアブロスっていうまぁ怖い怖い龍が住んでいてさ・・・近頃火山の動きが活発なせいか、たびたび桜華国でも被害が出ているんだ。そこで、二人にこの龍を退治してもらおうと思って。それが言ってみれば、二人の課題であると同時にリュミエールの平和を守ること。一石二鳥で得するってわけだ!」

「なるほど。確かにいいかもしれねぇな」

「この世界に来てから大分経つが、我々は世話になりっぱなしだ。ここで恩返しをするのも悪くない話だ」

 山本もシグナムは、大事の出した提案を快く受け入れる。

 そして、獰猛かつ残忍非道とも言われる龍を征伐することを目的に―――二人は龍の谷の奥へと入って行った。

「生きて帰ってきなよー」

「ああ! 絶対勝ってやるさ!」

「ギュスターブと戦う前に犬死はせん!」

 とは言え、不安が全くないという訳ではなかった。

 山本もシグナムも龍の谷の中に入るのは今回が初めてであり、自分の身の丈を遥かに上回るモンスター、龍が数多く暮らすこの谷でディアブロスだけを征伐できるという自信半分、龍に襲われて死ぬかもしれないという不安半分というのが本当だ。

 ちなみにディアブロスは、ュミエール唯一の軍国主義国家「ディアブロ帝国」の紋章にもされており、サボテンを主食とする一方で肉食竜を上回るほど攻撃的かつプライドが非常に高く、危害を加えられたり縄張りを侵されたりすると、凄まじく猛り狂うことから【砂漠(さばく)の暴君(ぼうくん)】と呼ばれ恐れられている。

 国家騎士団の隊長各でも単独での討伐は難解と言われ、彼らの怒りに触れ重傷を負う、あるいは運悪く殉職することも稀(まれ)にある。

 そんな相手をたった二人がかりで本当に倒せるものなのか―――

 しかし、大事は全くと言うほど憂慮していない様子で、しばらくの間谷の動きを静観する。

 

 ドカ―――ン!!!

 

 唐突に強い衝撃音が耳に届いた。

 目を凝らして大事が森の中を覗くと―――

 

ドガーン! ドガーン!

 

 轟音。また轟音。

 森の木々が次から次へと倒れては、愚鈍(ぐどん)で巨大な龍が暴れ回っているのが窺える。

 紛れも無く、角竜ディアブロスだった。

 既に山本とシグナムは彼らの縄張りに足を踏み入れ、砂漠の暴君と交戦を始めていた。

「はあああ!」

 レヴァンティンの一撃をディアブロスへと仕掛けるシグナムだが―――鋼鉄の如く固く分厚いディアブロスの皮膚には、自慢の一太刀が通らない。

「くっ。金剛石(こんごうせき)を斬っている感じだ。レヴァンティンが刃こぼれをしてしまうぞ」

「けど、全部が堅い訳じゃねぇだろ。例えば・・・・・・」

 子どもらしい表情から一変、覚悟の籠った剣士の瞳を浮かべる山本は時雨金時(しぐれきんとき)に雨属性の炎を流し込み、首にぶらさげていた犬と燕の意匠を持つ刀剣上のネックレスこと、ボンゴレギア「雨のネックレスVer(バージョン).X(イクス)」に力を込める。

ネックレスが光り始めると、綱吉のナッツ同様ネックレスの中に封印されているギアアニマル「雨燕(ローンディネ・ディ・ピオッジャ)」の小次郎(こじろう)が出現。それを伴いディアブロスへ突進する。

「時雨蒼燕流(しぐれそうえんりゅう)―――特式十の型『燕特攻(スコントロ・ディ・ローンディネ)』!」

 雨の炎でコーティングした状態から水を抉る様に巻き上げながら前に飛び出した山本は、ディアブロスの巨体を飛び越え、龍の喉を斬り裂いた。

 頑丈な皮膚の中で、ディアブロスの急所と言えるのは二カ所あった。

 目と咽頭(いんとう)部分である。というのも、繊細な器官ほど周りに対する体勢は意外と脆く―――山本はそれを本能的に見抜くことでディアブロスに傷を負わせた。

「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

 咽頭を深く斬られたディアブロスは悲鳴を上げながら暴れ回り、地面を激しく振動させ、木々を倒しながら呼吸困難となって力なく倒れる。

「まっ。ざっとこんなもんだろ!」

「おまえ・・・よくあんな攻撃を思いついたな」

「たまたまっすよ。ささ、まだまだたくさんいるんだ。手抜いてると死ぬぜ」

 言うと、山本はもう一匹のギアアニマル「雨犬(カーネ・ディ・ピオッジャ)」の次郎から小刀三本を貰うと、仲間の死を切っ掛けにより一層凶暴性を増したディアブロスを凝視する。

 シグナムはこれだけの数の凶悪龍を前に、臆するどころか楽しそうにも見える山本を素直に凄いと思う反面、一種の恐怖心を抱いた。

(これが、本当に14歳の子どもだとしたら・・・・・・とんでもない逸材となるだろうな)

 内心山本の将来を秘かに期待したシグナムは、気合いを入れ直しレヴァンティンの刃に炎を灯す。

「いくぜ!」

「ああ」

 二人の異界の剣士は、一斉にディアブロスの群れの中へと飛び込み―――刃を振るう。

「「はあああああああああああああ!!!!」」

 

 

同時刻 グリーンマーク王国 草原地帯

 

「極限太陽(マキシマムキャノン)!!」

桜華国から世界樹島を超えた先にある大国―――グリーンマーク王国を修行場所に、突破力組の笹川了平ならびに、近接戦闘組の阿散井恋次は壮絶な撃ち合いを繰り広げる。

卍解状態の恋次は鈍重極まる狒狒王蛇尾丸(ひひおうざびまる)を操りながら、全身を晴の炎を帯びて全身を光り輝かせる純ボクサー姿の了平が繰り出す攻撃を躱(かわ)す。

「うおおおおおおおおおおおおおお!!!」

自らの肉体を超活性化させて身体能力を極限まで高めた了平が繰り出す極限太陽(マキシマムキャノン)は、周りにある岩を一瞬にして風化させる。

だが標的の恋次には上手い具合に躱(かわ)され、徐々に極限太陽(マキシマムキャノン)の威力も低下し始める。

「どうしたァ!! 威力が落ちてんじゃねえのか!?」

「そんなことは極限・・・ない・・・!」

 死神と人間の潜在能力のポテンシャルを比較すること自体おかしな話だが、流石の恋次も了平の人並み外れた身体能力には一目置いていた。

 茶渡に勝るとも劣らない有り余った力で狒狒王蛇尾丸(ひひおうざびまる)の頭部を受け止め、後退しながらも反撃の機会を得るや否や、拳から晴の波動を叩きこんでくる。

「は、は、は、は、は」

 疲労がたまり始めた了平の体からは多量の汗が流れ、左腕に巻き付いたカンガルーの意匠のバングルには晴の炎が二つ灯っている。

 恋次は了平のバングルの炎が意味するものをあらかじめ知っていた。だから、この機会に乗じて仕掛けられる了平の次の一撃を危惧していた。

「つらああああ!」

 岩から飛び降りると、狒狒王蛇尾丸(ひひおうざびまる)の大空で一直線に伸ばした状態から地上の了平目掛けて刃節(じんせつ)を伸ばす。

 了平は恋次の攻撃を逃れようと、蛇行しながら距離を取る。

「おらおら! 逃げてるだけじゃ、強くなれねぇぞ!!」

 バングルにチャージされたこれまでのダメージをエネルギーに変換する了平の奥の手を撃たせるわけには行かない―――恋次はとにかく了平を追い詰めることで技の発動を封じようとする。

「っ!」

 が、狒狒王蛇尾丸(ひひおうざびまる)が了平の周りを覆い囲むや否や―――了平は逃げることを止め、しっかりと地に足を着けた状態から拳を構える。

「いくぞ―――!!!」

(来るか・・・)

 千載一遇の機会が到来し、了平は晴のバングルにチャージされた死ぬ気の炎を蓄積されたエネルギーを一気に解放させ、恋次目掛けて正拳を繰り出す。

「サンシャインストレート!!!」

ストレートパンチを放つとともに、チャージした晴の炎を一気に放出―――目映い金色の光を纏った拳撃(けんげき)が恋次目掛けて飛んで行く。

「舐めるな―――!!」

 恋次は咄嗟に狒狒王蛇尾丸(ひひおうざびまる)の刃節(じんせつ)を繋ぎ合わせていた霊圧を切断し、その霊圧で繋がれた巨大な蛇尾丸(ざびまる)の骨を盾の代わりに使って了平のサンシャインストレートを受け止める。

 

 ドンッ!!

 

 爆音が上がり、空中に黒煙が舞う。

 息を切らしながら恋次の出現を警戒する了平。

 そして、黒煙が晴れるや否や―――蛇尾丸(ざびまる)の骨でサンシャインストレートを凌ぎ切った恋次が嬉々とした表情で了平を見つめる。

「へ! 惜しかったな。流石の俺も、結構マジになったぜ」

「うむ・・・やはり一筋縄ではいかぬものだな。だが、かつて恐竜の怪物と生身で戦ったこともあるのだ!恋次殿の卍解にも打ち勝ってみせる!!」

「あんまし死神舐めると、怪我じゃすまねぇぞ」

 恋次は霊圧を上昇させると、地面に散らばっている蛇尾丸(ざびまる)の巨大な骨を呼び戻して空中で刃節(じんせつ)を繋ぎ合わせる。

 そして、真下にいる了平に狙いを定めて―――

「狒骨大砲(ひこつたいほう)―――!!」

自身の霊圧を開放し、狒狒王蛇尾丸(ひひおうざびまる)の口からレーザービームの如く巨大な霊圧の砲弾を発射する。

 了平は逃げることはおろか、これを迎え撃つつもりで拳を構え、再びサンシャインカウンターをお見舞いする。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」

 金色の拳撃(けんげき)と狒狒王(ひひおう)の砲弾が、真っ向からぶつかり合うと、辺り一帯に凄まじい突風が巻き起こる。

 

 

同時刻 グランマニエ皇国 西側山岳付近

 

「はっ、はっ、はっ、はっ」

 中長距離組の一人にして、最年少の騎士―――エリオ・モンディアルは絶体絶命の危機に瀕していた。

 精神と肉体を極限まで削り続けながら、エリオと後方支援組のキャロと飛竜フリードが対峙しているのは、死神組随一の切れ者で中長距離組の石田雨竜。

 修行としてエリオに与えられた課題は、石田と徹底抗戦しこれに打ち勝つこと。キャロをバックアップに迎え既に3時間に渡って戦い続けているのだが、エリオの方が一方的に追い詰められていた。

 バリアジャケットもボロボロで、全身の筋肉は軋(きし)み、立っていることも辛い中、石田は大事からの指示のもと、エリオの成長を期待して心を鬼にする。

「はっ・・・」

 銀嶺弧雀(ぎんれいこじゃく)から無数の霊矢が飛んでくると、エリオはソニックムーブで回避しようとする。

「!」

 しかし、勢い余って足を滑らせてしまい―――岩の上から身を投げてしまう。

「うわあああああ!」

「ケリュケイオン!」

〈Holding Net〉

 キャロはエリオの真下に魔力を練って作られた網を展開し、落下するエリオの体への負担を極力和らげる。

「・・・ありがとうキャロ」

 なんとか助かったエリオだが、戦いは続いている。

 石田はメガネの位置を直し、ゆっくりとエリオとキャロの元へと歩み寄る。

「・・・キャロちゃんのお陰で命拾いはしたようだけど。ギュスターブは今の一撃で君を確実に殺していたことを想定としておこうか」

「はっ、はっ、はっ・・・・・・流石に、石田さんを相手にするのは骨が折れます。いくら考えても、あなたは僕のずっと先を読んで行動する・・・」

「―――お褒めにあずかり光栄だよ」

 口元を緩め、目を光らせると―――石田は銀嶺弧雀(ぎんれいこじゃく)より光の矢を一度に何数本とエリオ目掛けて撃ってくる。

「ストラーダ!」

〈Sonic move〉

 槍型のアームドデバイス・ストラーダを握りしめたエリオは、残っている魔力を回避に回し石田の霊弓(れいきゅう)より放たれる光の矢を逃れる。

「どうした。それで避けているつもりか? 回避速度が遅くなっているぞ! その程度が君の限界か!!」

「くっ・・・」

 日頃からなのは達によって厳しく鍛えられているエリオは、石田との修行で通常の訓練では体験しえない生と死の狭間をリアルに感じていた。

 魔力とは異なる力―――霊力を操る石田が仕掛ける霊矢の一撃一撃は、魔導師でいう非殺傷設定の概念が存在しない。真面に喰らえば怪我だけでは済まない。

 ゆえに生と死が隣り合わせのこの修行が、エリオには新鮮かつ有意義なものとして位置づけられると大事は睨(にら)んだ。

 これに反対したのはフェイトだった。彼女は保護責任者の立場から、エリオに成る丈危険が及ばないようにと嘆願(たんがん)したが、意外にもこれを拒否したのはエリオ自身だった。彼は一護達のような強い力と大きな背中を見ながら、自分もいつかこうなりたいと切望していた。そのため、多少の危険や無茶をしてでも強くなりたいと思った。

 彼の気持ちを汲んだシグナムはフェイトをどうにか納得させ、彼の可能性を信じることにした。

 そして現在―――エリオ・モンディアルは自らの限界を試すため、石田と徹底抗戦を続けている。

 石田は柔軟な発想力を持つエリオの思考の裏の裏をかいて、常に先手を取ってくる。当然エリオは後手に回り続け、結果としてエリオ自身が一方的に傷つけられていた。

 キャロがフリードとともにエリオを全力で支援するが、石田の霊圧を削ることは難儀なことだった。

(ダメだ。そろそろ本当に限界だ・・・腕も脚ももう動かなくなってきてる・・・・・・)

 加速度的に重くなる手足を必死に動かし、エリオは体を起き上がらせる。

(だけど・・・石田さんの霊圧も確実に弱まってきている・・・石田さんの矢は確かに迅(はや)いし数も多いから、躱(かわ)し続けるのは一苦労だ。いずれにしろこのままじゃ僕は石田さんに倒されて終わる・・・)

 無情にも飛んでくる光の矢を前に、エリオは軋(きし)んだ筋肉と骨を気力で動かし、キャロの補助を受けながら石田へと接近する。

(限界だ・・・石田さんの動きを止めて修行を終わらせるしか無い・・・!)

「フリード! ブラストレイ!」

 フリードが火炎で石田の集中力を欠こうとする一方、飛簾脚(ひれんきゃく)という滅却師固有の高速歩法で石田はキャロの攻撃を回避する。

 キャロとフリードが時間を稼いでいる間に、エリオは辛うじて石田の懐へと飛び込み―――

(チャンスは・・・今しか無い!)

「エリオ君! 今!」

「!」

キャロが声を上げると同時に石田の目の前にストラーダを構えたエリオが出現。目を見開き咄嗟の反応が遅れた石田目掛けて、最後の一撃を仕掛ける。

「一閃必中!」

〈Speer schneiden〉

 残りの魔力を、すべて電撃を伴うストラーダでの斬撃「シュペーアシュナイデン」へと変え―――エリオは石田目掛けてストラーダを振り下ろす。

「でりゃあああああああ!」

 

 カキン!

 

 鋭い金属音が空気中に響き渡る。

 エリオは渾身の力で振り下ろしたストラーダの一刀を、石田が隠し持っていた武器により受け止められた。

「な!」

 ストラーダが振り下ろされる直前―――石田は背中にぶら下げる形で携行していた滅却師(クインシー)唯一の刃(やいば)を持った武器「魂を切り裂くもの(ゼーレシュナイダー)」を取出し、チェーンソーの構造に酷似した霊子構成を持つ魂を切り裂くものの刃が、ストラーダの先端を受け止める。

エリオが持つ雷の魔力変換資質で変化した魔力を、魂を切り裂くもの(ゼーレシュナイダー)の刀身で弛緩(しかん)させ、空気中へと逃がした結果、エリオの斬撃から電撃が消失する。

全身全霊の力で込めた最後の一撃を容易に受け止められたことと、予想だにしなかった石田の反応にエリオは両方の意味で愕然とする。

と、直後。霊力を溜めた筒状の道具「銀筒(ぎんとう)」をひとつ取出し、それをエリオ目掛けて投げるや否や、石田はドイツ語の発音に似た滅却師(クインシー)言語で詠唱。

「銀鞭下りて五手石床に堕つ(ツィエルトクリーク・フォン・キーツ・ハルト・フィエルト)―――『五架縛(グリッツ)』」

刹那(せつな)、エリオの肩に当たった銀筒(ぎんとう)から漏れ出た霊力の力で特殊な術が発動。五つの帯がエリオの体を縛り付け身動きを封じる。

(しまった・・・! やられた!)

「エリオ君!」

 長きにわたる勝負がここに喫する。

 エリオ・モンディアルは石田雨竜の術に嵌って身動きが取れなくなったことで、敗戦。

 メガネの位置を直してから、石田はエリオに懸けた五架縛(グリッツ)を解除する。

「残念だったね。でも、久しぶりにいい勝負ができた」

 言うと、落胆気味なエリオの肩に手を乗せ―――石田は今後のエリオの成長を期待している様子で激励の言葉を掛ける。

「誇り高い騎士になってくれ給え」

 完敗したのに、何故か胸の内が温かい。むしろ、爽快感が湧き上がる。

 エリオはキャロと顔を見合わせると、泥まみれの顔で満面の笑みを浮かべ「はい!」と元気よく返事した。

 

 

同時刻 桜華国 東部丘陵地帯

 

突破力組のヴィータ、近接組のフェイト、そして何故か突破力組の戦力にカウントされているボンゴレファミリーの雷の守護者ランボはというと―――

「ランボさん、ペチャパイと一緒に遊ぶのやだもんね~」

 修行をすることはおろか、ランボはそれを放棄してヴィータのコンプレックスを突く言葉で彼女を子どもながらに残酷に罵倒する。

 黙って聞いていたヴィータはグラーフアイゼン片手に、今にもランボに殴りかかろうとする。

「誰がペチャパイ(・・・・・)だ!! ぶっとばすぞこのガキ!!」

「ヴィータ、ダメだよ。子どもの言うことなんだから」

「そうだよ。落ち着いてね」

 どんな状況でも子どもへの乱暴はしないと固く決めているフェイトと、彼女達の修行に参加していた世界の意志、星堂寺勇人(せいどうじゆうと)がヴィータを抑えつける。

「甘いんだよお前らは!! こう言う躾のなってねぇガキンチョは、しっかり教育してやらねぇとダメなんだって!!」

「で、でも・・・」

元々短気な方であるヴィータは、かねてよりランボからは事あるごとに胸のことを痛烈に指摘されてきた。その積年の恨みがここにきて爆発しそうになっていた。

「でひゃははは! ペチャパイこっちだー!」

無邪気なようで悪意を孕んでいるかの如くランボが身軽な動きでヴィータの方へと飛び込み、その勢いでヴィータの顔面にパンチを決め込む。

「ランボさんパーンチ!」

「いっで!!」

これがヴィータの神経を逆撫でする結果となった。

「てめー!!! いい加減にしろっ!!」

堪忍袋の緒が切れた瞬間、ヴィータは相手が5歳児だということを忘れるぐらいの勢いで一喝。そして怒りに我を任せてランボを投げ飛ばした。

「ぎゃっぴ!」

ランボの小さな体は地面に激突。あおむけに倒れる。

「ヴィータ! なんてことするのさ! 子どもに乱暴するなんて大人失格だよ!」

「大目に見てあげなよ! ランボはこういう奴なんだって!」

「ウルセー! 人のことペチャパイ呼ばわりしたこいつが悪いんだ!!」

 癇癪玉(かんしゃくだま)が弾けたが如く、ヴィータの怒りは収まることを知らない。

 ヴィータに投げら頭を強打したランボは涙目を浮かべながら起き上がり―――

「が・ま・ん・・・できない! ああああああああああああああ!!!」

 子どもながらにランボは大泣きをする。

 だが、ただ泣くだけなら普通の5歳児とは何ら変わりない。仮にも彼はマフィアの世界に生きる殺し屋(ヒットマン)であるから、当然の如く仕返しの精神が備わっている。

「!?」

「あああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」

 大泣きするランボのアフロヘアーから、ビリビリという音を立てながら確かに緑色に輝く雷の炎が見える。

「これって・・・」

「雷属性の死ぬ気の炎を出しているぞ!」

「なんだと?」

「バカバカ! ペチャパイのバカ! バカものどもが死ねー!」

 泣けばなく程雷の炎は巨大になり、誘電力場が形成される。

 三人が行動の読めないランボの動きに警戒を示すと―――ランボは四次元に通じるアフロヘアーに収納していた牡牛(おうし)の意匠を持つ重厚な黒いヘルムを取り出す。

「おい! 頭の中からなんか出したぞおい!!」

「牛丼(ぎゅうどん)―――!!」

 泣き叫ぶランボの呼びかけに答え、ボンゴレギア「雷のヘルムVer.X」から出現するのは―――牛丼の愛称で呼ばれている巨大で重厚な武装を施した牡牛のギアアニマル「雷牛(ブーファロ・フールミネ)」。

「う、牛!?」

「まさか、あれがランボのギアアニマル・・・?!」

「バカものども! みんな死んじゃえ!」

 雷の炎を纏った巨大な牛の頭部に乗っかったランボは、泣きながら牛丼に命令。

 牛丼は鋭い瞳で勇人達を見据えると、おもむろにその場で足を蹴って助走を付ける。

「あ、おい! まさか、突進してくんじゃねぇだろうな!!」

「そのまさかみたいだけど・・・///」

 刹那(せつな)、牛丼が一瞬にして三人の視界が消失する。

「き、消えた!」

 正確には目にも止まらぬ速さで移動したのだ。

 目映いばかりの光を纏った牛丼の電光石火は凄まじい一撃を伴った。

「「「あああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」」」

 全身に流れる高質力の電流。

 鋭い痛みが全身を駆け巡り―――ヴィータ、フェイト、勇人、そして術者であるランボの体はこんがりと焼け焦げ、全員が気を失い倒れ込む。

「「「「ぐあああ・・・・・・///」」」」

 

 

同時刻 桜華国 夜御倉邸・裏庭

 

そして、後方支援組のメンバーとして選出された朽木ルキア、クローム髑髏(どくろ)、八神はやてとリインフォースⅡ(ツヴァイ)は、夜御倉邸の中庭にて桜華国一の魔術師と対峙する。

“慈愛(じあい)の特選魔術師(とくせんまじゅつし)”という異名を持つ魔術師の名は、夜御倉はやて―――騎士甲冑(きしかっちゅう)に身を包んだ彼女は凛々しくも気品ある態度で彼女達を見る。

両者戦闘態勢が整うと、フレックスは縁側で観戦しているフゥ太、イーピン、ヴィヴィオ達に危険が及ばないことを再度確認してから彼女達に尋ねる。

「それでは、準備はよろしいでしょうか?」

「「「「はい(ですー)」」」」

「いつでも大丈夫です」

「わかりました。どうかご自愛のほどを―――」

 恭(うやうや)しく頭を垂れながら、フレックスは後ろへ下がる。

「修行とはいえ、こんな大人数を相手にするのは初めてです。それに、別世界の私と戦えることも―――」

はやて(L)は奇しくもはやてと同じ杖、シュベルトクロイツを手に取りながら、内心この修行を楽しんでいた。

それに対し、はやては漲る力を全身に滾らせ熱の籠った目ではやて(L)を見る。

「その美貌(びぼう)から何まで、この修行で色々盗ませてもらいます!」

「あら、逞(たくま)しいですね。でもそう簡単には、いかせませんよ」

 かつて経験したことのない途方もない魔力が自然と三人の肌に伝わる。

 思わず溜飲するルキアは、解放した袖白雪(そでのしらゆき)を構えながらクロームとはやてに注意を促す。

「相手はリュミエール最高の魔術師だ。油断せずに行こう」

「うん!」

「絶対やったる。リイン、アシストお願い!」

『お任せください!』

「ガンバッテ」

「クローム姉、ルキア姉、はやて姉もがんばれー!」

「がんばってくださーい!」

 そうして、いよいよ後方支援組と慈愛の特選魔術師による戦いが始まった。

 

 三世界から集まった者達が決戦に備え稽古に励む中、シンが率いる2番隊の騎士達もそのときに備え訓練に明け暮れる毎日―――

「ギュスターブを甘く見るな。しくじれば命はない」

 騎士達を指揮する立場のシンは、先ほどのゲヴァルトとの戦いで多くの隊士を失った。その後悔を胸に抱き、新たな決意と覚悟でギュスターブ達がいつ攻めて来てもいいように厳しい鍛錬を繰り返す。

「いいな、俺達にこの国の、ひいては世界の命運が掛かっていると思え! もう一度最初からだ!!」

「「「はい!!」」」

 

 

“こうして、ギュスターブとの決戦に備えて残り僅かな時間をオレたちは修行に費やした”―――

 

 

絶望の船“デゼスプワール” 中央広間

 

ギシシ、という音を立てて中央の広間へと通じる巨大な扉が開かれる。

暗黒に閉ざされた部屋の中に集められたギュスターブの肉から生まれた忠実なる下僕(げぼく)こと、十二使徒(エルトゥーダ)は―――主の到着を心待ちにしていた。

「これはこれは。ギュスターブ様」

「お待ちしておりました」

恭(うやうや)しく膝(ひざ)をついて身を低くする十二使徒(エルトゥーダ)を前に、ギュスターブは真顔を浮かべながら口を開く。

「首尾(しゅび)は?」

「盤石(ばんじゃく)にございます」

「そうか」

言うと、中央の玉座へと鎮座。

忠実なる自分の手足を前にしたギュスターブは、十二人の部下達を前に宣言する。

「・・・一週間前に話した指令を、ここに実行することを宣言する。セルピエンテ」

「はい」

「実行に移ってくれ。お前に決定権を与える。好きな者を連れていくといい」

「―――了解しました」

「すべてをリセットする瞬間(とき)が、ここに来たんだ」

 

 

 

 ついに、最終戦争が勃発する―――!?

 

 

 

 

 

 

参照・参考文献

原作:久保帯人『BLEACH 26巻』 (集英社・2007)

原作:都築真紀 作画:藤真拓哉『魔法少女リリカルなのはViVid 2巻』 (角川書店・2010)

原作:小森陽一 作画:藤堂裕『S -最後の警官- 11巻』 (小学館・2013)


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