とある転生者の憂鬱な日々   作:ぼけなす

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「彼は英雄。だけど始まりは――――復讐者。知らなかったのかい?」

by天ヶ瀬千香


第八十二話

宴会から翌日のことだ。オレは捜していたバカを見つけることができたが、どうも千香はオレに合わせたい人がいるそうなので今日でこの異世界とはお別れだ。

 

宴会が終わった後にキリトはゲッソリと枯れていた辺り、また襲われたのでなかろうかとオレは推測する。

 

まあ証拠もないから真実は闇の中だけど。

 

それからシリカはどうもアインクラッドに住むつもりらしい。キリトと離れたくないと言っていたが、彼女の目が獣のようになっていたのは気のせいだと思いたい。

「略奪愛…………寝取る…………」とブツブツ言っていた発言は聞かなかったことにしたい。

 

…………キリト、お前に幸あれと心底祈っておく。

 

シノンはまあ連合の傭兵になると言っていた。彼女なら、名のある狙撃手になるだろう。

 

さてアスナとキリトがどうなったかと言うと、まあ相変わらずということだ。

普段は大人しいがなんらかのスイッチが入ると、変態化するアスナに日々恐れることだそうだ。

 

キリト、マジ強く生きろとオレは別れ際に言っておいた。彼がさめざめ泣いたのは無理はないと思った。

 

変態化したアスナとジャンヌという化け物と一緒に仕事をする毎日はゴリゴリ削れるだろうしな…………。

 

 

――――まあ、なんにせよ。

 

 

ここで冒険した日々は良いも悪いも思い出となるものだった。

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

千香と一緒にきたところはどこかの研究所だった。

彼女に着いていき、たどり着いたのは異質な実験室。

 

そこには千香の会わせたい人が居座っていた。

 

「ようこそ、神器使いの諸君。歓迎するよ!」

 

紫色の白衣を着たいかにもマッドな感じの男性がオレ達を歓迎するように、声をあげる。オレはまどか達の前に出て、彼に第一声をかけた。

 

「あんたが千香が会わせたいヤツ?」

「いかにもそうだとも。私はジェイル・スカリエッティ。悪の天才科学者を勤めている」

「なんですと? なら、シ○ッカーいるのか、シ○ッカーが」

「残念ながら黒いタイツ団体を雇える資金はないので雇ってないのだよ」

「ショッ○ーって傭兵なんだ。てっきり雇用制の団体かと」

「その代わりと言ってはなんだがターミネータークラスのロボットをたくさん造っているよ」

「なにそのショッカーよりえげつないオーバーキル軍団」

「元々、宴会用に用意したものだったが使われる機会がなくて、再利用しただけさ」

「宴会で何するつもりだったんだよ……」

 

「ククク…………」と笑うスカさん。絶対ろくなことじゃないと思った。

 

「本題に入ろうではないか。ソラくん、君の力を貸してほしい」

「断る。見ず知らずの相手に手を貸すほど暇じゃないんでな」

 

オレはそう言って背中を向ける。次のスカさんの言葉でオレは足を止めることになる。

 

「管理局。君はこれを潰したい。そうじゃないのかね?」

「………………………………」

「君達の絆を引き裂こうとし、そして私腹で君達の力を手に入れようと手を出した愚か者達。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――君はこのままで済ますつもりじゃない。天ヶ瀬千香という最後の仲間を入れた君が次にすることは管理局の『破壊』ではないかね?」

 

オレはその言葉を聞いてうつむいたまま――――――笑みを浮かべた。

なるほど…………ああ、そうだ…………。

 

「さすがスカさんってところか。オレの次の目的はお見通しってことか…………」

「ククク、天才をナメてはいけないよ、少年くん」

「そうだな。どこかでお前のこと甘く見ていたようだ。認めよう。お前は天才だ。だからこそ、余計に信用できない。天才がオレの力を貸してほしいだと頼むなど何かがあるに決まっている」

「ククク…………確かにそうだが千香くんの友人であるこの私は君や君の仲間に危害に加えるつもりなど毛頭ないさ。約束しよう」

 

千香の友達、ねー…………。

 

なるほど、それは『信用』できるな…………。

理由は千香が通常通り(・・・・)ということだからだ。それは千香に全く危害がなかったと意味する。この人が千香を保護したことを証明しているのだ。

 

オレは手をスカさんに差し出す。スカさんはそれに応じて握手した。

 

「オレは『無血の死神』の神威ソラだ。お前はオレの味方であると信じよう」

 

オレの言葉を聞いてスカさんは笑う。オレもつい笑みを浮かべてしまった。

 

 

 

…………やっとあの組織に復讐(リベンジ)できるのだから。

 

 

 

オレ達が会話している時、まどか達はずっと静かだった。どこか納得できてなさそうな表情をしていたのは仕方ないとオレは思う。

オレが今からすることはテロだからだ。

 

「別にまどか達は参加しなくていいぞ。これはオレの私怨だからな」

「…………だから大人しくしてろと? バカにしないでソラ。私はあなたの相棒。そうでしょ?」

 

ほむらはオレの目を見て言った。確かに覚悟がある目だ。

どうやら協力してくれるようだ。

 

「うーん、お姉ちゃんとしては間違ったことは正すべきだけどソラくん。止まる…………つもりはないでしょ?」

「はい…………」

「なら、止めないわ。危ないことは絶対しないと約束してくれなきゃ許さないわよ?」

 

下の子を注意するようにマミさんはオレに言う。

オレがすることを納得したわけじゃないが、尊重するつもりみたいだ。

 

「あたしとしてはソラが良いんなら良いや。別に止める理由とかないし」

「さやか、それ思考停止の考えだから」

「許さん。このさやかちゃんが悪の組織を滅ぼしてくれようぞ」

「いや、どちらかと言えばこっちが悪だから」

 

という軽い漫才でさやかは協力に了承する。軽そうに見えて実は彼女の目が真剣なのはオレだけが知る事実である。

 

「アタシはソラが無事で美味しい飯が食えたら別に良いよ。ま、要するにアタシ達にとって邪魔者は排除するってことさ」

「頼りにしてるぞ、杏子」

 

「応」と答えてオレは杏子の手にハイタッチ。こいつとの友情は変わらずだ。

 

……たまに愛情になるけど。

 

最後のまどかであるが俯いたまま悩んでいた。オレがこれからすることに対しての葛藤があるのだろうな。

そんなまどかにオレは彼女の頭をポンポンと叩く。

 

「ソラ、くん?」

「別にオレは管理局の全ての人間を抹殺するつもりはないさ。オレ達の命を狙う輩か、害なす存在のみは例外で、オレは基本殺しはしないよ」

 

管理局は敵だ。だから前世のオレは彼らを躊躇なく皆殺しにするだろう。

だけど、まどか達がいるとなぜか考えが少し甘くなる。

 

別に殺す必要はないと思ってしまう。

 

…………ハァ、これじゃあ。戦場では生き残れないな。

 

オレはそう思っているとまどかは手を握って言う。

 

「私も協力するよ。だから無茶しないで…………」

 

オレが頷くとパァッと花のような笑顔を向ける。ほむらがオレの背後に回り、まどかからオレを引き離す。

 

「なにしやがる」

「私の許可なくまどかとラブコメ始めることは許さないわ」

「嫉妬かよ?」

「ええ、そうよ。まどかとあなたに対してね」

 

それはそれでかわいらしいこと。

てか、さっきから背中に柔らかいものが当たっているんだが。

 

「当てているのよ。ムラムラしたかしら?」

「むらむらってなんぞ? てか、まどかさんや。なぜ鼻血を出して、鼻息を荒くして近づいているのかな?」

「だって…………ほむらちゃんで拘束されたソラくんがいれば…………ムラムラせずにはいられないもん!!」

「これがムラムラか。そしてオレはまどかを迎撃する」

 

オレとまどかの仁義無き戦い――――という名のキス阻止戦が始まった。キスしようと迫るまどかの顔を押さえつける。

こちらが負ければ襲われる。こちらが勝てば安心……………………ではなく背後にいるほむらの縄の餌食となる。

 

どうやらアイコンタクトでオレを襲う算段を立て、結託していたようだ。

 

なにこのバッドエンド確実の勝負。てか、襲う側なら普通逆じゃね?

 

「ふむ、これが彼らのデフォルトなのかね、千香くん」

「うん、基本。ソラが襲われて、セクハラされて、壊れていくところで杏子かマミさんに癒されるという循環しているんだよ」

「なるほど…………ある意味サイクルされている。ところで千香くん、その写真とムチは何かね?」

「このムチでほむほむがソラを女王様プレイされてる様子を撮ろうかと」

「ククク、さすが私の友人。おのれの欲望に躊躇はないね!!」

 

いや助けろよ、お前ら。

オレはそう思いながらこの状況の脱出の仕方を考えるのだった。

 

 

 

ちなみに救出されたのはマミさんがオレごとティロった時である。あの人、たまに笑顔でとんでもないことしてくるよ。

 

 

 

 

(??サイド)

 

 

 

 

とある世界の荒野にて、銀髪のお下げの少女は空を見上げていた。彼女の手には緑樹色の細い剣が握られていた。

 

彼女はこの世界の住人でもないし、ましてや『赤ん坊から始まった命』ではなかった。

 

 

――――――――転生者。

 

 

彼女を表すならそういう存在だろう。

 

「どこにいるの…………『兄さん』」

 

 

一ノ瀬シイ(・・・・・)はやや暗い空を見つめながらそう呟くのだった。




最後の転生者です。そしてストライカーズからは視点がバラバラでソラが主人公じゃないときがあります。もちろんオリキャラが出てきます。


次回、閑話。悲劇

――――ある世界の少年が……邪悪な存在になった。

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