とある転生者の憂鬱な日々   作:ぼけなす

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「負けない。絶対勝つ」

by神威ソラ


第七十九話

鳴り響く金属音。オレとアーサーの剣戟は火花が散るくらいの打ち合いだった。

アーサーが斬りかかればオレはそれを受け流し、オレが斬り込めばアーサーはそれを防ぐ。

 

奇襲も、意表をつくこともない純粋な剣術だけの勝負をオレはしていた。

 

「んっ?」

「気づいたようだがもう遅い。『約束されし勝利』!!」

 

アーサーの神器を受け止めていたオレだったが、急に押し負けてしまい後方へ飛ばされた。オレは足に地をつけて滑走させ、ようやく止まった。

 

「力負けしたのか…………?」

「どうだかな!」

 

アーサーがオレへ斬り込む。それを防御せずにヒラリヒラリと回避に専念した。

なぜか防御すれば押しきられる予感があったのだ。

 

この直感は長年培われた経験から感じてるものだ。

毒の神器を人目見たときこんな感じだったな。

 

「ソラ、そいつの神器は『絶対に勝つ』という概念が付与されてる!! 純粋な勝負を挑むな!」

 

なるほど、剣術がオレより上のキリトが負けた理由がわかった。受け流すことしかできず、攻めれば押し返される。

確かにそれは勝てないわな。

 

「だからどうした…………って話だ!」

「むぅ!?」

 

オレとアーサーの神器がぶつかりあったが今度は力負けせずに相討ちの形でオレ達は後方へ少し飛んだ。

驚いたヤツの顔はオレを見ているが、オレは気にせず斬りかかる。

 

再び力勝負になった同じ結果という形でオレ達は距離をとった。

 

「なぜだ…………なぜ私の神器が効かぬ!?」

 

オレとの力勝負が納得できないのか、アーサーはオレに向かってそう叫びながら斬り込む。

確かに神器の能力は世界のルールと言ってもいいくらい絶対だ。

 

だけどアーサーは見過ごしている事実がある。それをヤツに向かって突きつけた。

 

「見過ごしている事実がある…………だと?」

「『絶対に勝てる』。確かにこれは持ち主が敗北することはありえない。だけど、それはオレが敗北に繋がるとは限らない」

「なぜだ? 勝負とは勝つか負けるかの戦いのはず…………」

「それはトランプなどのカードゲームとかの話だ。今、オレが言いたいのは『なんでお前が勝つ=オレが負ける』って定義ができてることだよ」

 

例えばの話、オレとアーサーがジャンケンをするとしよう。アーサーは神器の力でオレに全勝する。それは確定事項だ。

 

――――だが、オレは『全てのジャンケンに敗北』したわけではない。

 

ジャンケンにはアイコという引き分けがあるように、敗北も勝利もないルールがあるのだ。

 

『絶対に勝つ』=『絶対に負けない』というのがアーサーならば。

『アーサーに絶対に勝てない』=『アーサーに絶対に負ける』というわけではないのだ。

 

「というのがお前の『約束されし勝利』をオレの神器を使わずの攻略方法だ」

「…………待て、貴様。まだ神器の力を使ってないだと?」

「オレの神器ってかなーり燃費が悪いんだ。ここに来るまで結構使っちゃって、後数十回くらいしか使えない」

 

だけどお前を殺せるには充分だ、とオレはアーサーに神器を向けていった。

別になめてるつもりはない。

 

アーサーは強い。手加減すれば殺されるのはオレだ。だからオレは今を全力で戦っている。…………全力で殺しにかからないと勝てない。

 

「ならば使わせてみせよう!」

「上等だコラ!!」

 

アーサーが左からの逆袈裟斬りを放ち、オレは右斜めに神器を構えて受け流し、開いた胴体に蹴りを入れる。

アーサーは自身の足でそれを防御したので、オレはすぐさま掌底を打ち込む。

 

アーサーは肺から息を出されて後退したが、カウンターに腹へ蹴りを入れられてオレも息を吐き出された。

 

「くらえ!!」

 

体勢を立て直したアーサーの横一閃。

 

 

――――防御すれば間違いなく飛ばされる

――――神器(全てを開く者)を使えば使用回数が限られる

 

ならば、とオレはそれを受け流す構えをとりながら、少し跳躍し、身体を地面に平行した。

 

迫ってきた斬撃の勢いを利用して回転してから着地した。

 

「なんと!?」

「伊達に自分より力強いヤツと戦ってねぇよ!!」

 

オレはすぐさまアーサーへ飛び込み、アーサーが防御の体勢に入ったところでアーサーに向けて神器を投げた。

アーサーは神器(得物)を投げたことに驚きながら、それを防ぎ神器を飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――狙い通りに動いてくれて助かった。

 

 

オレはすぐさま横一閃の構えをとり、召喚術を発動。

アーサーはオレの神器(全てを開く者)に釘付けだったので出遅れた。

 

釘付けだった神器は消えて、オレの手元に現れ、それを握る。

 

「うらァァァァァ!!」

 

オレの全身全霊の斬撃をアーサーは間に合い、ガードした。

 

ニヤリと笑うアーサーだがまだ終わってない!!

オレはここで『全てを開く者』の力でアーサーの『絶対に勝つ』という概念を解錠でキャンセルした。

 

つまり今このとき『約束されし勝利』はただの剣となったのだ。ではオレの全身全霊の斬撃が直撃したアーサーの神器はどうなるか?

 

当然、弾き飛ばされた。驚愕してるアーサーに向けてオレはヤツの身体を数回斬り込む。その数回の斬撃で手足の動きを封印し、そしてアーサーの『約束されし勝利』の召喚を封印した。

 

「バカな…………この神器は…………」

「そう。お前の主人が保有している扉の元となった神器だよ」

 

オレは倒れたアーサーに向けて、神器を向ける。

 

「くっ…………私が…………私が負けるなど」

「ありえないってか? 残念だ。『ありえない…………なんてことはありえない』。オレがお前に絶対に負けるなど『ありえない』」

 

そう否定しながら突き刺した。アーサーの身体から魂を切り離した。

 

 

「ざまあみろ。過信ヤローが」

 

 

オレはそう思いながら人形になってしまった騎士を冷たく見るのだった。




アーサー死亡。残りはオベイロンというバカ一人。
まあ、もう結末は決まってるけど。

次回、結末

――――この物語はシリアスで終わる、とは限らない

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