とある転生者の憂鬱な日々   作:ぼけなす

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「彼が戻ってきた。救わないし、赦さない最強の断罪者が」

by女神


第七十八話

蹂躙する。オレは周りを切り捨てる。

 

神器だけでなく拳を凶器に変え、貫き、抉り出して殺し。

時には普通の剣を握り、五体不満足へと変える。

 

オレの顔は返り血で汚れ、紅く染まっていた。

 

周りが逃げる――――だがお構い無しに切り捨てる。

周りが命乞いをする――――だが許さず切り捨てる。

 

大人しい龍の逆鱗に触れてしまった愚か者達は希望を踏みにじられ、絶望へと貶(おとし)められた。

 

「こ、こんなことが…………」

 

最後に残ったのは『スコーピオン』のリーダー。

 

もはや戦意はなく、怯えた表情になっていた。

 

「…………死神らしくない殺し方をしてしまったな。まあいいか。どうせ昔の話だし」

「死神…………まさか、お前はむけつ――――…………」

 

 

一閃。

 

 

神器で縦から斬るとリーダーは人形のように崩れ落ちた。

残されたのは顔は血で汚れ、身体は血で汚れていない――――『死神』のみ。

 

「スマホ、スマホっと…………」

 

オレはまどかに連絡をとるため、ラインを送る。

返信にはほむらが治療のため、マミさんと一緒に医者のところに向かっているらしい。

 

…………予断を許さない状況らしい。

 

『そっか。んじゃ、ほむらを任せたぞお姫様』

『ソラくん…………どうするつもり?』

『ちょっと目的変更。オベイロンの野望は阻止するよ。けど――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――敵対するヤツは皆殺しだ』

 

オレはそう伝えるとスマホを仕舞って一息をついた。

 

やれやれ…………ホントに面倒だ。

 

「う、ォォォォォ!!」

「うるさい」

 

ボキィ!!

 

背後から来た残党の首へ蹴りを入れた。ボキィと嫌な音を立てて、そいつは絶命した。

 

「さてと…………連合の助太刀するか。一応、味方だし」

 

敵は殺すけどな、と誰も生きていない広場でそう告げた。

 

 

 

 

 

 

――――さあ、始めようか。最低最悪の争いを。

 

 

 

 

(キリトサイド)

 

 

 

 

俺とアーサーの戦いはかれこれ一時間くらいになった。

何合も斬り合ったがこれだけは確信があった――――

 

 

 

 

 

 

――――勝てる気がしない、と。

 

 

二刀流を駆使しても、意表をついても全て防がれ、反撃されて力負けしてしまう。

 

まるで『アーサーには勝てない』というルールがあるかのように。

勝敗の壁が俺の前にあるかのように。

 

「クソッ…………はぁはぁ」

「若いながらなかなかの剣技だ。しかしそれでも私には勝てない」

 

約束されし勝利(エクスカリバー)

 

その白き光を放つ剣がアーサーの持つ神器だ。

 

この神器には『絶対に勝つ』という概念があり、持ち主に『敗北』はないという能力がある。

つまりアーサーには力『負け』、打ち『負ける』という文字がないのだ。

 

 

ジャンケンで絶対に負けないようにアーサーは負けないのだ。

 

「私には『敗北』という文字がないのだが、まさか執念だけでこうも長く戦えるとは…………」

 

だがこれまで、とアーサーは告げた。

 

そうだ。俺の身体は切り傷で血が流れ、服もズタボロ。

満身創痍な状態なのだ。

 

アーサーは神器を振りかぶる。

 

クソッ…………これまでか。

 

アスナを救うためにこれまで戦ってきた。諦めず、ただ前へ前へと進んできた。

 

だけど、どうしようもない。なぜなら相手は絶対に『負けない』相手なのだ。

 

歯を食いしばりながら悔やみ、俺に断罪の剣が迫る――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベチャッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アーサーの顔に何かが当たり、汚れた。それは血で汚れた人体の一部である――――腕。

誰かの腕がアーサーに当たったのだ。

 

「そいつを殺すのだけは勘弁な。そいつは味方だから(・・・・・・・・・)

 

俺はそいつのことを知っていた。

その人物はそう言ったが、いつものようなやる気がなさそうな感じはなく、あるのは――――――――

 

 

 

 

――――冷たい殺意

 

その姿に俺は思わず叫びたくなったが我慢した。

 

…………だってそうだろ? そいつが引きずっていたのは動かなくなった兵士の死体なのだから。

 

「…………その者が貴公が殺したのか?」

「ああ。賊め賊めとかうるさかったから見せしめに片腕をその辺の剣で切り落として神器で殺した。ま、おかげで周りも戦意損失してくれてこちらが殺すのにも楽にはかどったよ」

「戦意無き者まで殺したのか、貴様!」

「ああそうだけど…………悪い?」

 

ソラは無表情で言った。それを聞いてゾッとした。

自分がしたことに悪びれることなく、正しいのだと断言するかのように。

 

俺が知る神威ソラじゃない気がした。まるで歴戦の猛者で、恐怖を与える死神。

なぜか味方なのに恐ろしいと思った。

 

「ここはもう戦場だ。立つ者全てが戦士だ。駒だ。軍師は勝利へ導き、王は兵を鼓舞させる。ならば兵の役割はなんだ?」

 

そんなの決まってるとソラは続けてそう言った。

 

「敵を排除することだ。敵対する者は殺す。女だろうが子どもだろうが関係ない。立つ者全てが戦士なのだから、殺されて当然だ」

 

納得できなかったが…………ソラの言葉は否定できなかった。戦場に立つ者全てが戦士だ。

 

だからそこで殺されても当然であり、相手を殺してしまうのも当たり前だ。

たとえ親族であろうと友人であろうと恋人であろうと、敵であれば自分か他のヤツの手にかかって殺されるだろう。

 

…………なぜなら戦争の(相手)だから。

 

「貴様が手にかけたその者はこの国の未来を思って志願した者だぞ。親族や恋人のために戦おうとした者をよくも…………」

「だから、何? 素直に殺されてろってことか? ふざけるな、偽善ヤロー。それならこいつを殺して自分が生きるに決まってる」

「外道め…………」

「よく言われるよ。んで、これからも言われ続けるつもりさ」

 

ソラは動かなくなった妖精を投げ捨て、神器を構える。

 

「青い瞳、カギのような神器……………………貴様、まさか『無血の死神』か?」

「どっちでもいいだろ。そいつはもう死んでるのだから。…………ま、そうだな。その異名をもう一度持つのも悪くない」

 

もう一度…………持つ?

 

どういうことか聞こうとするとソラは答えた。

 

「『無血の死神ソラ』の転生体、神威ソラ。要するに『無血の死神』そのものってことさ」

 

 

『無血の死神』…………って確か神器使い達の戦争に返り血を浴びず、戦場を駆け抜けた英雄じゃないか!

まさかその英雄の生まれ変わりがソラなのか!?

 

「なるほど…………それはなかなか厄介な…………!」

「ま、今はどうでもいいから置いといてお前に言いたいことは一言。

 

 

 

――――――――安心してとっと死ね」

 

そう言ってソラはアーサーへ斬りかかる。

今まさに死神と騎士の戦いが始まったのだった。




キリトはアーサーの神器の力で敗北しました。ソラはどうなるかはわかりませんが彼を信じて待ちましょう。

ちなみにほむらの安否は未だ不明です。元の戻ったソラがもたらすものは果たして…………。


次回、神器使いの戦い

――――武器は己の魂と身体のみ。それが神器使い達の戦い

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