とある転生者の憂鬱な日々   作:ぼけなす

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「自惚れ。それはまたの名を油断という。彼は油断していたのよ。……世界が残酷であることを」

by女神


第七十七話

銃撃戦再びである。

 

どこかのヤサイ星人のように発砲したところを足や手で逸らし、そこから発砲するが相手にも足や手で逸され、お互いかすることなく、無傷で撃ち合っていた。

 

「ってめちゃくちゃ危ないんだけど…………」

「いくらなんでもこんな広場で撃ち合いは勘弁だよぅ…………」

 

とぼやきながら召喚した『ガイアの盾』という魔道具の壁に隠れながら彼女達の戦いを見守っていた。

 

「シノン、今こそお前の雄姿を」

「見せないわよ。行けってか? あの地獄へ逝けってか?」

 

無理か。周りにいたメイドさん達もあの二人の攻防で緊急退避しているからいないし。

てか誰か彼女達を止めてください。

これじゃあ、前に進めないから。

 

そんなことをお構い無く彼女達の攻防は続く。しかも言い争いをしているし。

 

「ソラくんは渡さないわよ!! お姉ちゃんとしてあなたの好きにはさせないわ!」

「はっ、私はソラとは相思相愛の主従関係よ。今さらお姉ちゃんぶっても無駄よ」

 

普通は相思相愛の恋人じゃね?

あ、恋人はまどかって決めてたな、あいつ。

 

「そうなんだ。あ、ちなみに私の場合はお嫁さんがほむらちゃんでソラくんは愛人だよ」

「知るか。つーか浮気すんなよ。どんだけ黒いんだよ、お前」

「不倫と浮気の背徳感ってたまにいいよね、ティヒヒヒ」

「駄目だこいつ。早くなんとかしないと」

 

オレがそう言っていると広場がモノクロの世界になる。オレはシノンとまどかに触れて、時間停止の呪縛から逃れさせた。

 

「止まった? 世界が?」

「久しぶりに見るねほむらちゃんの時間停止。というかなんでソラくんには効かないのだろ?」

 

それはたぶんオレの神器(全てを開く者)のせいだろう。この神器は『概念』にも干渉できる代物だ。

『止める』という概念にオレは無意識に『解錠』させて自分だけ動けるようにしているとオレは推測している。

 

まあ前世で時間遡行もほむらに巻き込まれる形で遡ってたからな、オレ。

 

撃ち合いはさらに白熱し、ほむらとマミさんが跳んで撃っては回避、撃ち返しては回避されるという攻防を繰り返していた。

 

終いには銃弾で描かれた花のような形の線上が出来上がった。

 

「なつかしいなぁ…………。確か、これが解除された後に嵐のような銃弾に巻き込まれたんだよなぁ…………」

「よく生きていたねあんた。どうやって乗りきったの?」

「全部打ち返しただけだけど?」

「どんな人外よ!?」

 

そこまで驚くことだろうか?

 

オイ、まどか。なに人を「相変わらずの人外」って言ってんだ。オレはまだ人間やめてないぞ。

 

「はぁはぁ…………」

「ふぅふぅ…………」

 

 

 

カチャン

 

 

 

時間停止が解除され、嵐のような銃弾が襲いかかってきた。

 

 

 

ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!!

 

 

「うるさーい…………」

「持つかなこの盾。あんま耐久力あるとも言えないし」

「それを早く言いなさいよ! って貫通したわよ今!?」

 

シノンの頬に銃弾がかすったようだ。

ヤベー、そろそろこの盾がもたないな。

 

オレはドコでもドアでまどかとシノンを城外に出した。

残ったオレはこの戦いを見届けるために、迫ってきた銃弾を全て弾いた。

 

「さすがね暁美さん…………いえ、ほむら(・・・)さん」

「こちらこそ。さすが先輩ね」

 

マミさん…………記憶が…………。

 

どうやら戦いの中でマミさんは記憶を取り戻したようだ。

「ふぅ…………」と息を吐いたマミさんを見てオレも安心の息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「危ない!」

 

ほむらの声が聞こえ、顔をあげた。

そこにあったのは――――――――鮮血。

 

その血をマミさんは顔に浴びて呆然としていた。

マミさんの血でもオレの血ではない……………………朱美ほむらの血。

 

肩から切り裂かれた彼女はマミさんにもたれ掛かるように倒れた。

 

「ほむ…………らさん?」

「ぶ、じみたい…………ね…………」

 

ほむらを斬った相手は黒いパーカーを着た男で再び彼が持つ片手剣でほむらとマミさんに斬りかかろうとしたところをオレが神器で後方へ飛ばした。

 

「マミさん! 止血!」

「あ…………う…………」

「良いから早く! でないと手遅れになる!」

 

クソッ! ほむらは血を流しすぎている。早いとこ止血しないとホントにヤバい。

 

目の前の敵に集中しているとほむらが弱々しい声でオレに話しかけてきた。

 

「そ、ら…………私は平気よ…………」

「しゃべるな! 今マミさんが止血してくれている!」

「ふふ…………焦らなくて、も…………大丈夫よ。ゲホゲホ」

 

吐血するほむら。マミさんが必死で止血しているが彼女は風前の灯火。

こんな…………こんなことってありかよ!?

 

歯を食いしばっていると「そら」と声をかけられたので振り返ると、ほむらはニッコリと微笑みかけて、オレに手を伸ばしながら言葉を出す。

 

「大丈夫…………私は死なないわ…………だから泣かないで、戦って…………。みんなを――――――――

 

 

 

 

 

――――――――おね、がい…………」

 

ほむらはそう言って目を瞑り伸ばした手が地についた。

 

 

……………………なんだこの感情は。

 

前にも感じたことが――――ある。

 

「すいまやせん兄貴。仕留め損ねました」

「別にいい。おかげで戦う相手が減って好都合だ」

「あ、あなた達は指名手配犯の殺人ギルド!」

 

部下に続いて今度は三十人くらいの同じ服装の集団が現れた。

マミさんの言葉にオレは心当たりがあった。

 

殺人ギルド『スコーピオン』。

 

金で雇われればなんでも暗殺する殺人ギルドだ。つい最近、どこかの貴族を殺害して指名手配されていた。

 

「なぜあなた達が?」

「そりゃあオベイロンが俺達を雇ったからに決まっているだろ? 依頼は友江マミの暗殺だからな」

 

リーダーの男が説明するには、オレ達の襲撃を合わせて

暗殺する予定だったそうだ。オベイロンはオレ達の襲撃を見越して、雇ったそうだ。

 

「だがまあ、そこの嬢ちゃんのおかげで友江マミは疲労で長く戦えないみたいだな。おまけに治療を専念しなきゃならない状態だしな」

 

「クッ」と悔しそうに睨むマミさんを見てリーダーは下品な笑みを浮かべる。

 

「感謝すんぜ嬢ちゃん。そのお礼に真っ先殺してやるから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――今、こいつなんつった?

 

オレは神器を握る力をさらに込めながらフラリフラリと前に出た。

 

「なんだこのガキ?」

「――――…………す」

「は? なに言ってんだ?」

「どうでもいい。殺れ」

 

リーダーの指示に従い、部下がオレに向かって斬りかかる。

オレはそれを神器で受け止めて、止まったところを――――――――首に向けて手刀を放った。

 

「ガフ…………?」

「なっ…………」

 

斬りかかった部下は首を貫かれて死んだ。

 

殺したのはオレ。

それが信じられないようにリーダー達は見ていた。

 

あ、そうか。やっと思い出した…………。これはあの時と同じだ。

 

――――――――師匠を失ったときの憎悪だ

 

オレはマミさんに振り返って言い出す。

 

「マミさん…………ここから先はオレに任せてください。ほむらを連れて逃げてください」

「だけど、それだとソラくんが!」

「オレは大丈夫です。無事に帰ってきます」

「そうじゃなくて……………………わかったわ。ソラくん、一つお願いしていい?」

 

「なんですか?」と答えると彼女は辛そうな微笑みを浮かべて言った。

 

「私やみんなはいつまでもあなたの味方だから…………一人にならないで」

 

それを最後に彼女は振り返らず、ほむらを連れて逃げた。

 

 

――――――――いつまでもあなたの味方、か。

 

マミさんはオレが今からすることを理解しているのだろうな。

 

そう思うと笑みがこぼれる。自らを皮肉する笑みだ。

今からすることはマミさんには見せられない。みんなにも見せたくない。

 

――――最低最悪な所業。

 

「よくもやってくれたな」

「それはこっちの台詞だザコ共」

「ザコ共、だと…………?」

「そうだろ。快楽で殺人を犯し、殺すとしても暗殺しかしない腰抜け共をザコと言わずしてなんという?」

 

「貴様…………」と青筋を浮かべるリーダーだが、オレは気にしないし、どうでもいい。

 

だって敵だから(・・・・)

 

懺悔しても許しはしない。

後悔しても遅い。

 

ただ殺すだけ。

 

「だから安心して――――とっと死ね、ゴミ共」

 

 

さあ始めよう。

 

あの時のように。

師匠を殺されたあの時の憎悪の赴くままに。

 

「敵は皆殺しだ…………!!」

 

蹂躙が今まさに開始されたのだった。

 




反逆の物語で見せたマミVSほむらの銃撃戦のリターンマッチです。
結局、勝ったのはどちらかは微妙ですが。

そして凶刃でほむらが倒れる――――

ソラが行うことは前世の再現であり、再来です。


次回、『無血の死神』の再来


――――誰も救わない、助けない、赦しはしない

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