とある転生者の憂鬱な日々   作:ぼけなす

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「予想外デス」

by神威ソラ


第七十三話

(マミサイド)

 

 

私達は今この国を騒がしている不法侵入者を追い込むことができた。

彼らがなんのためこの国に入ってきたのかはわからないが、姫様の婚姻ももうじきであるため、不穏な存在は無くした方がよいとアバロン様は仰ったため、メイドである私やシノンも参加することになった。

 

シノンは私の一つ下の同期で、彼女が得意とするのは狙撃である。侵入者を路地裏に追い込みそこで彼女の狙撃で意識を奪う算段だったが、相手は私達より上手だったようだ。

 

なんと簡単に回避されてしまったのだ。

 

侵入者の一人は私のことを知っていたが、私は知らない。そう答えると彼は…………なんでか泣き始めた。

 

トラウマ――――というか地雷を踏んだようだ。

その結果、私は周りから白い目で見られてしまった。

 

え? 私が悪いの?

 

てか、あなたどんだけメンタルが豆腐なのよと言いたくなったが、彼は泣き言のように口を開いた。

 

「もうやだよぅ…………。今朝からまどかにお尻を撫でられるし、ほむらにはマーキングと表して踏まれるし、さやかと杏子は助けてくれないし、いつもセクハラばかりしてくる千香がいなくてヤッホーイだったのに……………………最悪だよぅ…………」

「あなた達いったいこの子に何してたのよ!」

 

彼はもう幼児退行していた。

そのことを批判するかのように赤髪の女の子と青髪の女の子に指をさした。

 

「いや……それはあたし達が悪いわけじゃ…………」

「主にまどかとほむらが原因じゃ…………」

「言い訳無用! こうなるほどになるくらいほったらかしにしてたあなた達も同罪です!」

 

「うっ」と罰が悪そうに顔を逸らす彼女達。反省はしているようだ。

私はそれを確認してから精神が幼児化した銀髪の少年の頭を抱きしめる。

 

「もう大丈夫よ。お姉ちゃんがいるから安心しなさい」

「うぅ…………お姉ちゃん…………オレ…………オレ」

「思いきり泣いていいのよ。我慢しなくていいのよ。だけど泣き終わったらウジウジせずに元気になりなさい。男の子だから…………ね?」

「うぁぁぁぁん!!」

 

顔に似合わないくらいのみっともなく彼は泣き始めた。

 

とても辛かったのだろう。

とても苦しかったのだろう。

 

私達のそんなやり取りに赤髪の女の子や青髪の女の子だけでなく、騎士のみなさんも感動して涙を浮かべてハンカチを拭いていた。

 

もう大丈夫だから。お姉ちゃんが慰めてあげるからね?

 

私はそう思いながら胸の中で彼の背中を優しく撫でて、慰めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや、なにこの茶番。マミ先輩、なに敵を慰めてるのですか?」

「黙りなさいシノン。彼を最優先に慰めなければならないのよ。お姉ちゃんとしての使命が私をそうさせるのよ」

「いや、知らんがな…………」

 

なぜかシノンに呆れられるはめになった。私のどこが悪いのだろうか?

というかなんで私はこの子のことを『弟』と思っているのだろうか?

 

そんなことを思っていると黒髪の少女とピンクの髪の少女が現れた。

それから優しい声で泣きじゃくる少年に話しかける。

 

「ソラくんー? なーにマミさんのところで泣いてるのかなー?」

「お仕置きの時間よ」

 

ビクッと銀髪の少年は反応し、彼は私の胸から離れて一目散に逃げ出そうとしていた。

しかし、彼は黒髪の少女が投げた鎖で身体を拘束されてしまった。彼の顔はとても蒼白でガタガタ震えていた。

 

「あは♪ 震えちゃってかーわいい♪」

「いじめがいがあるわぁ…………」

 

恍惚した顔で二人の少女は震える少年を見つめていた。

 

…………なぜか知らないけどどこかで見たことある光景だと思った。

 

あと、少年の震えた姿にキュンッときたのは秘密だ。

「嫌だ…………嫌だ…………」と少年は呟くが無情にも鎖を引かれていき、彼女達の元へ着いた。

 

「いくわよ、さやか、杏子。ソラも回収したし。後はキリトと合流するわよ」

「はいよ」

「なんかこれでいいのかな感があるのだけどさやかちゃんはもう気にしないことにした」

 

杏子とさやかという少女達は微妙な表情で彼女達のところへ飛んで向かった。

 

「助けてお姉ちゃん!」

 

…………その言葉を聞いたとき私は思わずマスケット銃の引き金を引いた。

魔弾は黒髪少女の元に向かったが、魔力の弓矢で弾かれた。

 

「どういうつもりかしら友江マミ。あなたには『コレ』と関係ないはずよ」

「え? まさかの『コレ』扱い?」

「ソラくんが怯えてるじゃない。いったい何をしたらそうなるのか教えてほしいわね」

「あれ? なんで敵の子の名前知ってるの?」

 

度々入るシノンのツッコミに私は足元への発砲という脅迫で黙らせる。

人の会話中は余計なツッコミはいらないのよシノン?

 

「さっさとその子を解放しなさい。でないとお姉ちゃんは許さないわよ?」

「あら、ソラの名前ですら覚えてない人が今更、お姉ちゃんぶるなんてね…………。どうかしてるわね」

「どうかしてるのは認めてあげるわ。だからさっさと解放しなさい、黒い子」

「お断りよ」

「離しなさい。聞こえないのかしら?」

 

お互い青筋を浮かべて睨み合う私達。視線が火花が散るような幻想を私は感じた。

騎士のみなさんやシノンもなぜかオロオロと困った表情をしていた。

 

すると向こうから足音が聞こえてきた。どうやら私達の援軍が来たようだ。

黒髪の少女は残念な表情で嘆息を吐いた。

 

「ほむ…………どうやら時間切れね。次に会った時があなたの年貢の納め時よ」

「上等よ。私はお姉ちゃんよ。弟を必ず悪女から救いだしてみせるわ!!」

 

宣言するかのように私はマスケット銃を彼女に向ける。彼女は口角をあげて「楽しみにしてるわよ」と答えて仲間を連れて去った。

その時聞こえたソラくんの悲鳴が私の心を締め付ける。

 

「必ず救いだしてみせるわ…………待っててね! ソラくん!!」

「なにこのドラマみたいな展開は!? てか、あの男の子がヒロインポジション!?」

 

ツッコんだシノンに私がマスケット銃の引き金を引いたことに罪悪感がなかった。私は悪くないもの♪

 

 

 

 

 

(ソラサイド)

 

 

 

 

 

ハッ! オレはいったい何を!?

 

気がつくとそこは大理石でできた建物ばかりの古代ギリシャのような町にいた。

どうやら知らない間にほむら達に連れて来られたようだ。

 

「気がついたか? よかった。さっきのお前はなんか…………その…………」

「言わないでくれ…………たまにああなるんだ…………」

「たまに!?」

 

大体小四の夏辺り頃に起きるようになった。なつかしい。その時はよくマミさんに慰めてもらっていた。

 

あの人の母性が半端ないのは気のせいではないと思う。

そういえばなぜか心が軽いな…………。誰かに慰めてもらったのかな?

 

「いや確かにあの胸で慰めてもらったからうらやま…………ゲフンゲフン。癒されて当然だろ」

「癒されていたのか? なーんか記憶にないんだけど…………」

 

オレはそう思いながら巻かれた鎖を力技で引きちぎり、身体を鳴らす。

 

それからキリトに状況を聞き出した。

オレ達は一度態勢を立て直すために、天空都市『アインクラッド』に移動したらしい。

そこは様々な事情で移住せざる得ない人達や種族が集まるところで、軍隊は連合組織と名乗って活動しているらしい。

 

なるほど、つまりここはキリトの根城ということだろう。

 

…………ところで、いつの間に巻かれてたんだオレ?

 

「それは…………いや思い出さなくていい。俺から見ても黒歴史確定だから…………」

「やめて。その気まずい顔で同情するのはやめて」

 

正直辛いです、と呟いているとどこかへ出かけていたまどか達が帰ってきた。

傍らには赤毛の無精髭を生やしたオジサンらしき人物がいた。

 

「まどか、お前それはないだろ。そんなオッサンに乗りかえるなんて初体験を共有した身が悲しい…………」

「安心して。私はソラくんとほむらちゃん一筋だから。というかハーレムエンドを目指しているから攻略しても見捨てないよ」

「オイオイ言いたい放題だな…………。って誰がオッサンだ。オレはまだ二十歳だ。てか、まどかちゃんの野望が凄まじいし、逞しいなオイ」

 

それがデフォだからな、まどかは。伊達に詢子さんの娘だったわけである。

 

「話が脱線したがこいつはクライン。俺の仲間さ」

「クライム? 犯罪者が仲間とはキリトも悪よのう」

「いやクラインだから。犯罪者のクライムじゃないから」

 

失礼。大体初対面は名前をよく間違えるのがオレである。

 

こんなことになったのは戦争後だからなぁ…………。人をあんまり信じられなくなってた時期だし。

 

「そんでそんなクラインがオレになんのようだ?」

「別にとって食おうってわけじゃねぇからそんなに警戒すんなって」

「どちらかと言えば私が食べる方だけど」

「まどかちゃんは静かにしような…………」

 

ゲンナリとした表情でクラインはそう言った。

歩きながら理由を聞くと、どうやらまどかから小一時間の自慢話とほむらの萌えポイントを歩きながらしたらしい。

 

あまりの残念美少女に彼は第一印象が台無しだ、とぼやいていた。

 

「それはご苦労なこった。だから安心してこのまま犠牲になれ」

「すんなりと犠牲とか言いやがった!? いや助けろよ! あの自慢話の無限ループから!!」

「知らなかったのか? 魔王からは逃げられないのだ」

「知らねぇよ!!」

 

クラインがツッコむが無視する。いや魔王から逃れられないのは事実だし。

 

そんなやり取りしていると目的地に着いた。

その中に入ってからキリトは渋い顔でオレ達と一緒にいたがなんでだろ?

 

オレ達が謁見の間らしきものに着くとオレを含めたまどか達の顔がピシッと固まった。

 

理由はそう目の前の人物。

 

 

――――艶やかな白い髪

――――ビキニ水着のような服装で、情熱の人特有の褐色肌

 

――――スタイルも抜群だ。毛というものは毛は足にはないそんな――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――…………漢女。

 

(おとこ)のような女性ではなく、女性のような(おとこ)である。

 

スタイル抜群? そんなもん筋肉モリモリのダイナマイトボディに決まってるだろ。

 

杏子「スゲー…………」

ほむら「確かにこれはスゴいとか言いようがないわね…………」

さやか「あまりのイロモノさにさやかちゃんはあんぐり…………」

まどか「スゴく…………いいね、その筋肉!」

 

「「「まどか!?」」」

 

筋肉フェチのヤツには魅力的なボディだろう。そういえばあいつのタイプって細マッチョだったっけ?

肥満体型にあえてなろうかと最近考え始める今日この頃である。

 

「それでクライン。あの座ってる化け物は何者だ?」

「誰が化け物ですってェェェェェ!? しどい! アタシは純粋な漢女(おとめ)なのに!!」

「鑑見てこい」

 

即倒するほどの迫力満点のジュ○シックパークが見られるから。

 

「彼…………じゃなかった。彼女はうちの連合の最高責任者のジャンヌダルク三世だ…………」

 

キリトはゲンナリとした顔で答えた。なんとなくだが、これが連合を治めるリーダーというのはさすがにひどい。

 

漢女がリーダーで始まる軍隊ってどんな強くて変態な組織だよ。

 

「これがジャンヌダルクって…………」と呟くほむらと「しかも三世って…………いやなにこの180度違う、三世は」と愕然するさやかを尻目にまどかに杏子は首を傾げながら聞いてきた。

 

「じゃんぬって誰だ? どっかで聞いたことあるな」

「私、知ってるよ。よく縄プレーで興奮しながら国に勝利をもたらして、魔女と蔑まれてからも罵倒に興奮しながら逝った人だよ、杏子ちゃん」

「そうなのか!?」

「嘘を教えるなよ!! ――――あ、いや待て…………そういえばあの人も魔法少女だったから、事実…………かも?」

「やめて。あたしの知るジャンヌダルクが別の何かになるからやめて」

 

さやかに肩を揺さぶられながらオレは「それは保証できない」と呟くのだった。

とりあえず、言わせてもらうよ。

 

「歓迎するわよん♪ ウフン」

 

作者、ちょっと楽屋に来い。

 

そう思いながらジャンヌから放たれたウィンクという暴風を受けるのだった。




ヒースクリフと思った? 残念、漢女でした!!

まさかのまさかのイロモノニューカマーの登場です。マッスルでオカマな彼女には最早敵はいない!

…………いやホントそう思うのは自分だけかな?

まあ、それはさておき。

次回、オベイロンの野望

――――最早、危機はこの世界だけでは済まない

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