とある転生者の憂鬱な日々   作:ぼけなす

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「さあ始めよう。オレ達のバカ騒ぎ(戦い)を」

by神威ソラ


第六十三話

魔女結界。

 

それは魔女が造り出す趣味の部屋(プライベートルーム)のようで胃袋にあたる結界である。

そんな空間にオレとほむらは魔女となった眼帯少女と美国織莉子と相対していた。

 

「覚悟しなさい。美国…………みくに…………オリゴ糖だったかしら?」

「違うわよ。えっと…………三和オー莉子だったかしら?」

「なに言ってんだよ蒔田織莉子って言う名前だろ」

 

以上が上からほむら、巴さん、佐倉の順番でお送りする名前当てゲームである。

誰一人名前があっていないや。

 

「なんで貴女達にも忘れられてるのよ!?」

 

思わずツッコむ彼女に、三人の少女達は答える

 

「いやだってアタシ名前しか覚えてないし」

「ぶっちゃけ、覚えてもなんか意味なさそうと思って…………」

「ソラの物忘れがうつったのよ」

 

美国織莉子はプルプルと震えて、それからオレに向かって指をさして言い出す。

 

「貴方のせいよ! 彼女達、私の名前覚えてくれないじゃない!」

「えぇー…………」

 

まさに理不尽である。責任転嫁である。ひどい女である。

名付けて、RSHである。由来はローマ字からの頭文字から。

 

「そう言うなよ世紀末英雄伝説、美国織莉子さん」

「だから私はそんなアダ名――――――――ちょっと待って。貴方、今なんて?」

「えっ? 世紀末英雄伝説」

「違う。もっと先よ!」

「美国織莉子さんってところ?」

 

美国さんは涙を浮かべてオレを見る。

えっ? どしたの?

 

「やっと名前を…………名前を貴方に覚えてくれましたわ…………」

「えっ? そんなにうれしいの?」

「当たり前です! 覚えてくれないことがどんなに悲しいことか貴方にわかります!? 間違えられる気持ちがわかりますか!?」

 

過去に何があったのかどうでもいいけど、なんかトラウマがあったみたいだ。

てか、魔女も腕を口元に抑えて感動しているし。

 

「シュールな光景ね…………」

「そだねー。あ、ほむらちゃん。こっちで私達を守ってね?」

「そんなの当たり前よ、まど…………か? へ?」

 

暁美は「ヤッホー」と手をヒラヒラする鹿目を見て石のように固まった。

 

「なんでここにまどかがいるのよ!?」

「ティヒヒヒ、私の前では魔法なんてチョチョイのチョチョイだよ!」

「いや、何その某洗剤キャラみたいな言い方でナチュラルにここにいるのよ! あそこは安全だと思ってたのに!」

「いやー。でも気になって気になって、つい来ちゃった♪ ティヒ♪」

「いやついという勢いで来ないで! 心臓に悪いから!」

「許す!」

「あなたが言うの、もう一人の私!?」

 

困惑する暁美と小悪魔的笑顔で鹿目を許すほむら。

まさかこうもリアクションが違うとはな。

 

…………前世でどんだけ変わったのかよーーーくわかった。

 

「あの…………一応シリアス展開なのだから、もっとシビアになってくれかしら…………? キリカも魔女になってるのに、さっきからオロオロしてるわよ」

「いやすまん。あれが『あいつら』のスタンダードだから。ああやって場をカオスにするんだ…………いつも」

「ああ、なんてこと…………。もう諦めた目をしてるわこの人…………」

 

 

諦めを肝心なんです。

オレはそう思ってから「オホン」と息を吐き、それから言葉を続ける。

 

「さて仕切り直ししようぜ」

「いや仕切り直せるのこれ…………?」

「仕切り直ししようぜ!!」

「あ、強引だこの人」

 

 

頼むからツッコまないで。

 

さっきから後ろで暁美がほむらとまどかに何かされて悲鳴をあげてるから!

もうなんだよこのカオスは!!

 

『いやだいたいキミのせいだと私は思う』

 

「「魔女がしゃべった!?」」

 

 

この日初めて敵と一緒にツッコんだ。

いやなんで魔女が喋れるの!?

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

カオス的な現場は治まり、人語が話せるようになった眼帯少女こと呉キリカはなぜ話せるようになったのか説明する。

元々、キリカは望んで魔女になったもののようだし、あと織莉子さんを認識できるようになっていた。

 

だから喋れるのも時間の問題だったようだ。

 

さすが外史。予想外なことがあるところだ。

 

てか、前例のさやかと同じ現象だったわ。

魔女のさやかを元に戻した似たときと症状だよ、これ。

 

『とにかく仕切り直しだ織莉子! 早くしないとシリアスがまたシリアルになっちゃうよ!』

「ええ、そうね!」

「いや危惧するとこ、そこ!?」

 

どうやら織莉子さん達は自分達のペースを守りたいみたいだ。

魔女であるキリカは次々に使い魔を呼び出し、埋め尽かさんばかりと出てきた。

 

「これはちとキツいな…………。オイ、暁美。お前は鹿目を守れ。巴さんと佐倉、ゆまちゃんは使い魔を減らせてくれ」

「あなたはどうするつもり?」

「化け物には化け物が相手…………ってな」

 

オレはそう言いながら『団結せよ(コレクト)』でほむらの魔力を繋げる。

 

ほむらの魔力量は確かに多いが円環のまどかと比べるとあまり意味がない。

本来、これは魔力供給として扱われる魔法だからな。

 

 

だけど、オレは他の用途を見つけることができた。

 

「いくわよソラ。『団結せよ(コレクト)』…………開始」

 

ほむらもまたオレの魔力を繋げる。すると、オレ達に変化が起きる。

銀髪だったオレの髪が黒くなり、ほむらの黒髪が銀髪へと変わる。

 

 

――――そう、これが『団結せよ(コレクト)』の新しい使い方。

 

「名付けて『シンクロ』ってところかな?」

「あらやだ。銀髪になるなんて私も不良になったものね」

「いや自衛隊から重火器盗んでたお前は既に不良って言えるレベルじゃねぇから」

 

軽口を叩き合いながらオレ達は続けて言い出す。

 

「いくぞ相棒!」

「ええ!」

 

全ては鹿目まどかのために…………。

 

オレ達と戦いは始まった。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

シンクロ――――それはお互いに『団結せよ(コレクト)』を使い、繋いだ者の特性を得るというオレが作り出した魔法だ。

 

今のオレには『全てを開く者』だけでなく、ほむらの『時をかけるカード』の力も使える。

 

と言っても長時間の展開は無理だから早いとこ決着つけようと思う。

オレは魔女と戦い、ほむらは織莉子さんと戦うことで決めて駆け出す。

 

「【アクセル】!」

 

オレはまず時間魔法で走る速さを加速させ、魔女に向かっていく。

そのとき織莉子さんがオレに向かって水晶球の魔力弾を放つ。

 

「そうはさせないわ」

 

ほむらはそう言ってそれを『全てを開く者』の力を乗せた弓矢でキャンセルした。

キャンセルされた魔力弾は完全に消滅する。仮に巴さんのようなリボンを再利用する特性があってもこれならば、後ろからやられる心配はない。

 

「らァ!!」

 

オレはそのまま魔女に斬り込む。魔女は両手の鎌のようなもので防御した。

 

『く、ぅ…………なんて力なんだキミは!?』

「はっはっはっ、伊達に魔女の腹に突っ込んでそこから這い出たことがあるんだぜ!」

『いやそれどんな倒し方!? それ聞いたら私、どうなっちゃうの!?』

「……………………ニヤリ」

『ちょっ、何その邪悪な笑み!? 全然、救いのヒーローに見えないんだけど!?』

 

なにを誤解しているのか知らないがオレは救いのヒーローじゃありません。

敵を徹底的蹂躙する英雄です。

 

そう思いながら攻撃を続ける。

 

右から左へ、左から右へと斬りかかるがなかなか当たらない。

 

まあ、往来の魔女とは違って、女性の身体をそのまま縦に複数くっつけたスリムな魔女だから意外と速いんだよねこれが。

そうこうしていると今度は魔女がオレに斬り込む。

 

「【停止】」

 

時間は止まり、モノクロの世界へ。

 

ほむらの時間停止である。唯一の欠点はほむらと違って十秒以内しか停止できないことである。

 

オレはその場を放れてから、そのまま時間切れで停止は解除する。

魔女は目標を失ってキョロキョロするがオレは悪そうな笑みと目を光らせて、そのまま織莉子さんのところへ蹴り飛ばす。

 

うむ、会心の一撃である。

 

『うわァァァァァ織莉子避けてェェェェェ!!』

 

ほむらと撃ち合いをしていた織莉子さんがそのまま巻き込まれそうなところをその場を飛んで回避。

壁らしきものに魔女がぶつかりフラフラと立ち上がる。

 

チッ、あともう少しでまとめて潰せたのに。

 

「容赦ないわねソラ」

「当たり前だ。向かってくるヤツは徹底的に潰す。文字通りにしてやろうとしたのに運が良いヤツらだこと」

「そうね。特に彼女の予知は厄介ね。先回りされて逆に追い詰められそうになったところであなたが飛ばしてくれて助かったわ」

 

「ありがとう」と呟いてからほむらは再び構える。

どうやら相手はまだまだやるつもりだ。

 

「決着の時だ。ほむら!」

「ええ!」

 

オレはそう言って今度は織莉子さんに向かって駆け出す。

魔女のキリカはそれから守ろうと織莉子さんの前に出るが――――狙い通り。

 

「っ!? キリカ、そこから離れて!」

 

織莉子さんは予知で気づいたがもう遅い。

ほむらから放たれた弓矢が魔女に突き刺さる。

 

 

 

――――さて問題だ。この弓矢はどんな特性があったかな?

 

 

 

正解は魔女の身体の変化に現れた。

魔女の姿が消えて、グリーフシードが現れた。そして、そのグリーフシードはそのまま吸い込まれるかのように呉キリカの肉体へと還っていった。

 

「まさか…………そんな!」

「そういうことさ。オレの神器は魔女を普通の少女に戻せる力がある。そして今リンクで繋がっているほむらはそれが使えるんだよ」

 

オレはキリカからこちらへ振り向く織莉子さんに向かって、言葉を続ける。

 

「運命は線路みたいなもんだ。都合のいいような行き先にはいかないかもしれないし、線路(運命)はねじ曲げることはできない」

 

だけど、と彼は続ける。

 

「ポイントを切り替えることで何かが変わるんだ。行き着く駅(結末)が違うように――――結果は変わるんだ」

 

オレは神器を振り上げる。

 

「変えられない未来があるなら、変えられない運命があるなら――――まずそのルールをぶち壊してやるよ!!」

 

オレは織莉子さんを上から斬った。彼女はそのまま目を瞑り、そしてそのソウルジェムが彼女の身体の中へ消えた…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ソゲフさんもびっくりな決めセリフだね。私、ジュンと来ちゃった♪」

「まどか、最後の最後でそれは台無し発言よ…………」

 

鹿目の最後の発言は聞かなかったことにしたいよホント。

 

………………さて、さっさ『ヤツ(・・)』をあぶり出すか。




ソラが新しく作った魔法『シンクロ』には一応、欠点はあります。

一つは片方の魔力が尽きたり、意識が失えば解除されますし、また双方の間隔が繋がっているので片方がダメージを負えばもう片方もダメージが受けます。
当然、体力もリンクしているので早く疲労がたまります。

なので『シンクロ』はもろ刃の剣でもありますのでソラが使うことはあまりないもしれません。


次回、円環の理

――――さっさと出て来い、朱美まどか

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