とある転生者の憂鬱な日々   作:ぼけなす

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「理不尽だった。圧倒的だった。そんな彼に私は『恐い』と思った」

by巴マミ


第五十九話

魔女結界が徐々に崩壊していた。その幻想的な空間が壊れ始める光景はどこか、夢を叶えられなかった少女達の絶望を表しているかのようだった。

 

そんな空間の中で、オレの神器と眼帯少女の鍵爪が金属音と火花が散る。

 

優勢劣勢なのは明白であった。

 

「どうしたどうした? お前の愛はその程度か!」

「ガハッ!」

 

開いた横腹に蹴り込み、眼帯少女を空中から叩き落とした。

優勢なのはオレだった。

 

その要因は二つ。

 

一つはこの魔女結界はジャングルジムのようになっているため、上手く飛び回れること。

 

二つ目は――――戦いの経験。

 

一応、言っておくがオレは強化魔法をかけているが今は、眼帯少女とは同じ速さだ。

 

だが、こいつは魔法少女狩りを暗殺的なやり方ばかりをしていたのか、それとも戦闘が早く終わらせていたのかわからないが、戦いの経験がまだまだ浅い。

 

だから、身体スペックは互角だったが経験の差で翻弄されているののだ。

 

常に自分より強い相手と戦う毎日だったオレが日の浅い未熟な小娘に負けるはずがないのだ。

慢心してないけど。

 

「くっそォォォォォ!!」

 

激昂しながら闇雲に斬りかかる眼帯少女。

 

ぬるい。鍵爪を受け流して開いた胴体に掌底を叩き込む。

 

咳き込む隙にオレは眼帯少女に斬りかかるが、彼女は上手く身体を捻り、転がってから立ち上がる。

魔法少女って頑丈というかゾンビ体質だから普通のようにはいかないよなぁ。

 

「私は負けるはずはいかない! 愛の力が負けるはずが!」

 

はぁ…………またか。さっきから愛だ、愛の力だって。

 

「お前さあ、愛の力が万能だと思っているけど、それ大きな勘違いだぞ」

「なんだと!? 私の愛を否定するのか!?」

「いや否定しないよ。むしろ『良いんじゃね』って思っている」

 

だけど、とオレは続けてから駆け出す。あっという間に眼帯少女の前に着き、言った。

 

「なんでもかんでもそんな幻想が通用すると思うな。圧倒的で、理不尽な存在の前ではお前の愛は――――――通用しない」

 

そんなご都合主義を否定するかのように眼帯少女をそのまま力強く蹴り飛ばした。今のであいつの肋骨はやられたな。

 

後はどう料理するか――――――――

 

「むっ?」

 

そう考えているといきなり水晶球がオレに向かってきた。それを切り裂き無力化するといつの間にか壁までいた彼女の姿がない。

 

「またお会いしましたね神威ソラ」

 

その声はつい最近に聞いた覚えのあるヤツだった。

 

そう、確か…………えっと、そうだ!

 

「マッスルグレネードともえさん!!」

「全然違います!!」

 

おや、違った。どちらさまだっけ?

 

「美国織莉子です! 貴方、本当に私の名前を覚えてないのですね!?」

「あ、悪い。なんか織莉子って名前珍しいし、ぶっちゃけ覚えにくいんだよね」

「覚えにくいからってどこをどう思い出せばマッスルグレネードという単語が出てくるのですか!?」

 

ツッコむ美国なんたらさんはもはや涙目である。

そんなに覚えててほしいの?

 

「そうじゃありません…………そうじゃ…………ないもん…………」

「ヤベー幼児退行しちゃってるよあの人」

「どこかキュンと来るわね。ギャップ萌えってヤツかしら」

 

ほむらの感想には同意である。というわけでこれからもビシビシいじってやるから覚悟されよ。

 

「いじらないでほしいわ! これ以上シリアスを台無しにしないで! 私の立場ないじゃない!」

「織莉子…………既にシリアスはあの黒髪で殺されてるよ…………」

 

瀕死の状態でありながらツッコむとはあっぱれな眼帯少女である。

 

「くっ、今日のところは退かせてもらうわ! 次はこうは行かないわよ!」

「はいはい、じゃあな○サシとコジ○ウ。次はニャー○連れて来いよ」

「ロケ○ト団じゃないわよ!!」

 

そう言って立ち去る前にオレはほむらに頼んで、神器からRPGを出してもらった。

 

「くらえ」

「えっ?」

「ちょっ、また――――――――」

 

トリガーを引いて発射。凄まじい音と爆風と共に魔女結界は完全に消えた。

たぶん、あいつらは生きている気もするな。

 

だってバズーカ砲で生き残っているし。

 

「おいほむら。これだけマジ殺しの威力じゃん。なんでRPGだけは殺傷設定なんだ?」

「さあ? 古来からRPGは最強の兵器だからじゃないかしら」

「いやそんな逸話ないから。古来じゃなくて文明兵器だから」

「マジになった文明だからこそ、成せる威力じゃないかしら」

「把握」

「把握じゃないわよ!」

 

軽口を言ってると巴さんがやっと口を開いた。

 

「なに平然と、逃げようとする人達に撃ってるのあなた達!」

「知るか。こちとら逃げ出す相手もお構い無しにぶっ飛ばすのがポリシーだ。敵には容赦せぬ。それに敵前逃亡をはかったヤツらの落ち度だ。これが軍なら軍法会議モノだぞ」

「軍は関係ないわよきっと! てか、あなた達何者なのホント!?」

 

何者かと巴さんに聞かれた。なのでオレ達は同時に一緒の答えを出した。

 

「「通りすがりの小卒です」」

「嘘おっしゃい!」

 

なぜかオレ達は傷負いの人に説教されることになった。

解せぬ…………。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

巴さんを治療した後、オレ達は彼女を家まで運び、オレ達について説明した。

 

「平行世界の住人なんて…………あまり実感がわかないわ」

「って言っても事実だしなぁ。オレ達の神器が証拠だし」

 

オレが唸りながら考え込むとほむらがチョンチョンと肩をつつく。

 

「だったら巴マミの技名ノートに載ってた名前全て言ってあげたらどうかしら」

「朱美さんなんでそのことを知ってるのかしら!?」

 

あ、ここのマミさんも厨二なんだ。

オレ達の知るマミさんなら笑って懐かしむが、ここのマミさんはあたふたしていてなんか子どもっぽい。

 

そんなに恥ずかしいなら処分すればいいじゃん。

 

まあ、そのノートに乗ってる名前全て覚えてるけど。

 

「えっとまずは最初に思い付いた技名は」

「やめて! 信じるから。信じるからこれ以上は言わないで! 羞恥心でソウルジェムが濁ってきてるから!」

「あら、新しいわねそれ。ソラ、続行しなさい。キュウべぇですら知らない事実を知るチャンスよ」

「よしきた」

「きゃあァァァァァァァァァァ!!」

 

 

その後、羞恥心でマジでソウルジェムが濁り出し、魔女化寸前までいったところでグリーフシードで浄化した。

 

羞恥心でグリーフシード使うはめになろうとは予想外だ。

 

 

 

閑話休題

 

 

 

「グスン…………もうやだこの人達…………」

 

巴さんマジ泣きでオレを睨む。いやオレのせいかよ。

 

「ひどい男ね。あなたこそ女の敵よ」

「まさかの裏切りにオレのハートはブレイク。巴さん、胸借りていい?」

「なっ、精神的の次は肉体的に辱しめるつもりなのね!? エロ同人誌みたいに!」

「いや、しねぇからね。てか、ここのマミさん結構耳年増じゃね?」

 

同人誌らしきモノがあったし、しかもタイトルが『禁断の愛 ~バラは散る~』といういかにもオレの貞操が危なそうである。

 

なぜか知らないけど、尻がムズムズしたし。

 

「さて冗談はこれぐらいにして、巴さん。一つ提案あるけどいい?」

「何かしら?」

「魔法少女…………やめたくない?」

 

オレの言葉に巴さんは目を開いて、困惑した顔になる。

 

そりゃそうだよな。

 

彼女にとって魔法少女は誇りあるモノである。

が、その同時に――――――――恐怖の象徴である。

 

常に命をかけなければ魔女とは戦えない。そんな恐怖と戦い続けた彼女にとってオレの言葉は甘美なものである。

 

「…………お断りするわ。助けてもらったとは言え、あなたの言葉はまだ信用できない」

 

まあそうなるわな。まだ説明してないもの。

 

「まあそう言いなさんな。最後まで説明を聞いてから考えてもいいだろ?」

 

オレの言葉に巴さんは耳を立て始める。

 

 

さてオレが説明することはどうやって魔法少女を普通の少女に戻せるのか?

 

『普通の』とは言えないがそれでも魔女化するリスクはなくなるし、魔力の代わりに生命力で魔法が使える体質になるだけだ。

 

オレの神器――――『全てを開く者』で、まずソウルジェムの機能から魂を解放する。

例えるならソウルジェムは卵と考える。そして、その卵の中身を魂と考える。

 

 

もし卵を割ればその魂がグチャグチャになってしまう――――――――つまりその魂が死ぬと考えればいい。

 

では割らずに取り出すにはどうすればいいのか?

 

簡単な話だ――――『箱のように開ければいい』。

 

卵に箱のように開けるという概念を与えれば、それは卵の形をした箱と同じ機能になり、その中身を取り出せる。

後は取り出された黄身()はどうなるか?

 

肉体と魂には精神という糸で繋がっている。ゆえにその糸が肉体へ引っ張られていき、あるべき形に戻る。

 

こうして魔法少女は普通の少女に戻れる。

 

肉体さえあれば魔女でも元に戻せる。これは前世のさやかに実証済みである。

 

しかし、魔法少女とは違い、最悪のデメリットがある。

 

魔女の場合、魂はグリーフシードになっているため、その器にグリーフシードを入れて封印するという仕組みになっている。

しかし、それは臭いものに蓋をしたことであるため、魔女特有の殺人衝動、破壊衝動が起こりやすく、人間社会で生きている中でそれは致命的である。

最悪、理性を失って暴走することもあり加えて、器である肉体が弾けとんで魔女化するという事態がある。

 

まあ、その人もまた魔法が使えるわけだが。

 

「そんな力があるなんて…………。それに魔女が魔法少女のなれの果てだなんて…………それじゃあ私は…………」

 

また濁り始める巴さん。

というわけでほむらさんや。お願いします。

 

「了解」

 

バチン!!

 

ほむらはそう言って巴さんにビンタした。

えっ、励ましてってお願いしたのになんで?

 

「巴マミ、確かにあなたは今まで人間だった魔女達を討伐してきたわ。けれど、彼女達にはもう理性はないし、考える力もない。絶望を振り撒く災厄に成り下がってしまったのよ。だからあなたが負い目を感じる必要はないわ」

「けど…………! 私は!」

「そうね。あなたには負い目になるかもしれない。だからこそ、生きるのよ」

「生きるですって…………?」

 

ほむらの言葉に巴さんは耳を傾けた。

 

「そうよ。今まで殺してきた魔女、魔法少女だった人達は生きることができなくなった。ならば誰がその想いを受け継ぐの? あなたが死ねばその生きたかった想いを誰が受け継ぐの?」

「あ…………」

 

ほむらは巴さんの手を、まるで子どもを諭す親のように握り語りかける。

 

「生きなさい。魔女になんかならず、彼女達のために」

「グスッ…………あけみ……さん……」

 

巴さんは涙を流す。その涙を隠すようにほむらは彼女の頭を抱きしめる。

 

まるで親子のような光景にオレはしばらくじっと見守るのだった――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ってなんだこの蚊帳の外感。ドラマ展開にオレは寂しくなる」

「なら、こっちに来なさい。…………いじめ(愛し)てあげるわ」

「慰めてよ」

 

そんなこんなで巴さんが泣き止むまで軽口を叩いているのだった。




ちなみにソラはそうやってさやかを元に戻しました。
結局のところさやかは救われた――――というわけではありませんが人間として生きることはできたかもしれません。

まあ抑止の存在によって殺されましたが。

次回、再会とほのぼの会話

――――再会したら子持ちだった…………?

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