とある転生者の憂鬱な日々   作:ぼけなす

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「容赦ない人達でした。どんなことがあったらああなるのかしら…………」

by巴マミ


第五十七話

外史――――――――それは想いによって作られた歴史。

 

例えば、織田信長が生きていたらとか、豊臣秀吉の祖先が天下を取り続けていたらとかなど、たくさんの人の想像と願いによって作られる。

 

その世界は一種の物語みたいなものなので、終わりを迎えると消滅するらしい。

そして、消滅したその世界からまた新たな外史が生まれるという循環された仕組みとなっている。

 

謂わば、正史が樹木とすれば外史は葉っぱみたいなもんだ。枯れたらまた新しいものが作られるというわけだ。

 

「そんな話、信じられないわ。…………彼女達が作られた存在だなんて」

 

ベランダに出てオレはほむらに外史について話した。

さすがに外史の住人にこの話をするのは気が引けるし、信じてもらえず変人扱いされるかもしれない。

 

そして、ほむらは外史について信じられないようだ。

 

それもそうだ。想いによって存在する世界なんて見たことも聞いたこともないもんな。

 

「じゃあ、いつどこで生まれたか覚えているのか、両親の顔とか覚えているのか聞いてみろよ」

「わかったわ」

 

ほむらにそう言うと彼女はリビングに入って暁美と美樹と聞いていた。

すると、暁美と美樹は首を傾げて「うーん」と考え込んでいた。

 

「ド忘れしたのかしら」と暁美はそんな解釈して納得していた。美樹も同じように頷く。

 

ほむらは「ありがとう」と言ってオレの元に帰ってきた。

 

「…………本当だったわ。|彼女達は両親の名前や生まれた場所も覚えてなかったわ《・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・》」

 

そう、これが外史の特徴である。

登場人物以外の人物は設定だけしかなく、その人個人は存在しないのだ。

 

 

『鹿目以外の両親は設定でしかない』

 

 

これがここが外史(物語)の世界であると証明している。

 

「さすがの私も前世でどこに生まれたのか、両親の名前も覚えているわよ。だけど彼女達は知らないのね?」

「ああ。読者(第三者)視点からして余分な情報だったから、切り落とされているんだよ。両親の個人情報は別になくても大丈夫だからな」

「…………なるほど。それでここが物語の世界であると仮定すると、どうなるの?」

 

ほむらの疑問にオレは柵に背中を預けながら、夜空を見上げるようにして答えた。

 

「オレとほむらが『登場人物』という枠に当てはまっていることになる。だから、ほむらは憑依しなかったんだ。『朱美ほむら』という登場人物だから」

「なるほど…………」

「それに外史は終わるまで出られないんだ。見ろよ。いくら神器を使っても見滝原や風見野以外の場所へ行けるドコでもドアが現れない」

 

そう言いながらオレはアメリカ行きなどのドコでもドアを展開しようとするが、ウンともスンとも言わない。

それもそうだ。この世界には風見野と見滝原しかないのだからな。

 

「厄介ね」とほむらは呟いて目を瞑り、考え込む。

 

「ま、外史がどうとかという話はこの際どうでもいい。オレとほむらが存在するって言う事実があればそれだけでいい。問題はまどかだ」

「まどかが問題?」

「ああ。あいつの場合よくわからないんだ。外史がこうしてオレやほむらを登場人物と認めて存在しているが、未だにあいつと会っていないからどんな状態なのかわからないんだ」

 

外史はあくまで平行世界だから憑依しているのか、はたまた別の何かになっている可能性がある。

 

「あいつはかつて円環の理という概念だった。お前と違ってあの概念化は実体がない。最悪、そうなっている可能性もないとは言えない」

「そんな…………」

「でも元に戻せるはずだ。この外史に来てからお前、反逆の力が戻ってないか?」

 

そう、こいつから僅かだが恐ろしい感じがする。

前世で感じたものだ。

 

ほむらは試しにオレの手を握り、何かを念じる。

 

すると、だんだんオレの身長がほむらより小さく……………………って。

 

「なにすんねん!」

「試しにソラの身長をあの頃に戻したいと念じたらそうなったの」

「なんで試そうと思ったんだ!?」

「なつかしいし、かわいいから♪」

「オイこら離せ。抱きつくな!」

 

スリスリ頬ずりし始めるほむら。柔らかいものがオレの腕に当たっているが、小さくされたのであんまり喜べない心情だった。

ちなみにその後、オレはほむらに鹿目達の前に出されて彼女達にいろいろされた。

 

頭撫でるな、頬擦りするな、プニプニすんな!

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

翌日、暁美の家に泊まらせてもらいオレとほむらは探索に出かけた。

 

朝になるとオレの身体は元通りになっていた。

どうやら理を覆すと言っても、僅かしかないため持続性がないようだ。

 

だけど、ほむら曰く、まどかを実体化させることは可能なようだ。

悪魔の力ってマジ便利。

 

 

ちなみに外史の設定をまとめるとこうだ。

 

1『神威ソラ』と『朱美ほむら』という登場人物として存在している

 

2『朱美ほむら』は若干ながらの反逆の力を持つ

 

3『朱美まどか』が『鹿目まどか』として存在しているのか、円環の理として概念化しているか不明

 

 

よってステータスダウンはない。むしろほむらがパワーアップしたくらいだ。

 

「まずどこにいくつもりなの?」

 

ほむらがオレにそう聞くとオレは「町に行って泊まれる場所を探す」と答える。

 

暁美にこれ以上の迷惑をかけたくないからだ。

一応、オレ達は女神のおかげでお金に心配することはないが、寝床となる場所がない。

加えてまだ中学生に上がる前だからホテルなどで泊まれるところない。

 

妥当なところになると廃墟の工場になるな。

 

「いやよ。こんな美少女を工場なんかに寝かせるつもり?」

「地の文読むなよ。つか、仕方ないだろ。第一、オレ達は本来保護者がいないからホテルに止まれない立場なんだぞ。最悪通報されるぞ」

「そこはあなたの魔法でなんとかしなさいよ。催眠やら洗脳やらの」

「とんでもないこと言い出すな。てか、それはあくまで最終手段だからな?」

 

と言ってもホテルにチェックインできないわけでもない。オレかほむらが変身魔法で大人になれば良い話だ。

だけど、オレはまだしもほむらは時間操作以外の魔法が不器用のため、持続時間がかなり短いそうだ。

 

オレの場合、神器の燃費のことを考えないといけないからあまり使いたくない。

もし、またあのコスプレお嬢様と戦うことになれば、エンスト状態になってしまう可能性があるからな。

 

「こうなったら佐倉杏子のホテルを乗っ取るわよ。放浪娘のくせに泊まってる場所は無駄に豪華だから大丈夫のはずよ」

「なに恐ろしいこと言っちゃてるの、この子………………おっ?」

 

魔女結界が現れた路地裏があった。

 

誰かが戦っているとなると、杏子かマミさんくらいだな。

暁美はなんかまどか達と出かけてここにはいないし。

 

「というわけで」

「突入ね」

 

二人のどちらかは知らないけど、助太刀しますか。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

魔女は既に倒されていた。

 

えっ? なんでそんなことがわかるかって?

 

なんかそれらしき細切れの残骸があったんだもん。

 

そして戦っていたのはマミさんだったが血を流して地に伏していた。

出血がひどくないが時間の問題かもしれない。

 

そんな彼女の前に黒い衣装を着て眼帯をつけた魔法少女が立っていた。血がついてる鍵爪があるとなると、マミさんを傷つけた犯人らしいな。

 

「あれー? なんで一般人がここにいるのかな?」

「別にここは関係者以外立ち入り禁止じゃねぇだろ。オレ達がここに来ようが勝手だろ」

「何しにきたの?」

「そこに倒れてる巨乳な姉さんを引き取りにきた。一応、親族だから」

 

嘘を言って誤魔化そうとして近づこうとしたが、鍵爪を向けられた。

チッ、駄目だったか。穏便に済ませたかったのだけどなぁ。

 

「てか、巴マミさんで会ってる? ソックリさんじゃないよね?」

「正真正銘本人よ…………あなた達はいったい…………」

 

瀕死の巴さんに聞かれたのでオレ達は顔を見合わせて、それから答えた。

 

「通りすがりです」

「この駄犬の飼い主よ」

「オイこら。なに初対面にあらぬ誤解を植えつけようとしてんだよ!」

「あら、違うのかしら。なら、奴隷で手を打ちましょう」

「いや大して変わってねぇだろ! 犬から人間になっただけだろ!?」

「そう、私の名前は朱美ほむら。…………ソラを隷属させないと不安になっちゃう女王様よ」

「あらやだ。この子かわいい」

 

指をモジモジさせながら答えるほむらにグッときた。

さっきのセリフがなければ…………さっきのセリフさえなければよかったのに!

 

「もーいいかーい?」

「まーだだよ。後、五時間くらい待っててくれ」

「そんなに待てないよ」

 

眼帯魔法少女は律儀に待っててくれたが、どうやらこれ以上は待ってくれないようだ。

 

「あ、ヤベ。どうしようほむら。今日の寝床探してないや。このまま戦って夜になってたらどうしよう」

「なら、公園で寝ましょう。布団はソラ、あなたよ」

「ワーイ、助かったー♪ …………あれ? それってオレは冷たいベンチか地面で寝てろってこと?」

「レディに地べたで眠れというのかしら。生意気ね布団の分際で」

「ほむらのドSさに全国の男子諸君は泣いた」

 

軽口を叩きながらさめざめ泣いたフリをしていると眼帯魔法少女――――もうめんどいから眼帯少女でいいや。

 

眼帯少女がオレ達に向かってきた。

 

「私を無視するなァァァァァ! 後、眼帯じゃなくて呉キリカだ!」

「クレヨンきりか? なんだその某人気漫画と同じ名前は」

「呉キリカだっての! もう怒った!」

 

「細切れにしてやるー!」と叫びながら眼帯少女が迫ってきた。

「やれやれ」と嘆息吐きながら余所見していたオレに巴さんが「危ない」と叫ぶ。

 

ほむらさんや、一発たのまー。

 

「了解」

「「へっ?」」

 

巴さんと眼帯少女がすっとぼけた声をあげた。

 

理由は明白。

 

ほむらの神器からマシンガンが出てきたから。

 

「蜂の巣にしてやるわ」

「えっ、ちょっ、待って!」

 

眼帯少女の言葉は虚しくもマシンガンが容赦なく火をふいた。

彼女はその銃弾の嵐が終わるまで背中を向けて逃げるしかなかった。

 

「おースゲー。マシンガンの弾を一つも当たらず避けてやがる」

「死ね。とにかく死ね。今すぐ死ね!」

 

両手のマシンガンを眼帯少女に向けながらほむらはそう叫んでいた。

平行世界とは言え、彼女は鹿目まどかを失うことは嫌らしい。

 

だから容赦しない。まどかのためなら問答無用で敵を排除する。

 

それがほむらちゃんクオリティである。

 

「あ、巴さん。あのいかにも厨二そうな眼帯少女の目的わかる?」

「えっと……彼女は魔法少女狩りの犯人で…………ってそんなことより、あの人ホントに暁美さん!? めちゃくちゃ楽しそうに撃ってるのだけど!?」

「…………あれは暁美ほむらじゃありません。『朱美ほむら』というあなたの知る彼女から180度逆走して誕生した最強のシスコンです」

「同じ名前っぽいけどなんか違うのが納得!」

 

よかった。こっちのマミさんもわかってくれて何よりだ。

友江マミさんの場合だったら、『あらあら、ほむらさんったらあんなにお茶目に』ってものすごく的外れなコメントするからな。

 

こっちのマミさんの常識がなんか新鮮に感じるのはオレはもう末期なのかな?

 

「さあ泣き叫びなさい! 恐怖で震えながら逃げ惑いなさい! そして私を楽しませなさい! あはははははは♪」

「…………あれは私の知る暁美さんじゃないわね、ホント。どこをどう育ったらあんなぶっ飛んだキャラになるのかしら」

 

ほむらの暴走は、苦笑しかできない巴さんの太鼓判が押されるほどのキャラ崩壊だそうだ。

 

「あいつ、日頃からストレス溜まっていたのかねー。見ろ、厨二がシマウマのようだ」

「誰がシマウマだ! てか、相方のあんた止めろよ!」

「ヤなこった。めんどいし、厨二ヤローの命令を聞くのがシャクだ」

「誰が厨二だ! 私はノーマルだ!」

「なん…………だと」

「お前あとでぶっ殺す!」

 

物騒なことを言うが涙目で現在進行形で逃げてる彼女に恐怖心どころか説得力の欠片もないな。

 

「えっと、く…………くー…………なんだっけ? もう眼帯少女より厨二少女の方がいいかな」

「オイこらァ! 人の名前をものの数分で忘れるなよ!」

「いやーオレってどうでもいいことは覚えてないんだよねー。そんなことより、ほむらが本気になったよ?」

 

「えっ?」とほむらに振り返る眼帯少女。ほむらの両手にあるのはマシンガンではなくロケットランチャーが握られていた。

そしてトリガーが引かれて発射。眼帯少女が爆風で見えなくなった。

 

「呉さんが死んだ!?」

「この人でなし!」

「ほほほほ、勝てばいいのよ勝てば♪」

 

ほむらさんマジ外道なり。

どこぞのマダムのように笑うほむらにオレはノリでツッコんだ。巴さんはマジだけど。

 

「もうやだ…………こいつら…………」

 

爆風が晴れたときいたのは、頭がチリヂリヘアーとなって涙を浮かべた眼帯少女だった。

 

えっ、生きてるの? なんで?




というわけでほむほむ無双開幕。この作品のほむらは容赦がありません。自重しません。

ちなみに外史のルールをまとめますと

1 本来の歴史とは少し違う。例えば性別など
2 抑止の存在はいないため改変行為は可能。しかしこの世界は物語の世界のため必ず終末を迎えて消滅する。そこから新たな物語が生誕する
3 来訪者には『登場人物』としての役割を与えられる。例えば三国時代のとある少年は『天の御遣い』という役割を与えられ、英雄を支える役目を与えられた。よって来訪者であるソラ達には『改変者』という役割が与えられた模様。美国織莉子は『改変者』の起こす行動は予知できるが起こされる事象は予知できない。

以上が外史のルールです。もしかするとわかりにくいところはあると思いますが、ご都合主義というわけで納得してください。

次回、狂気

――――彼が狂ってないと誰が思っていたのだろうか

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