とある転生者の憂鬱な日々   作:ぼけなす

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「――――夢の時間は終わりに近づく」


第三十六話

(はやてサイド)

 

 

 

それは、とても幸せな世界だった。

 

シグナムはいつものように朝早く起きて、新聞を読んでいた。

その次に起きたシャマルは家事をしていた。料理はしてなかったことにちょっとホッした。

ザフィーラら狼形態で床に伏して、あくびをしていた。

最後に起きたヴィータは眠そうに顔を洗いに行って、戻ってきた。

 

いつものように朝食が始まる。幸せな一日が始まる。

 

…………せやけど、なんやろ?

 

なんか足りへん。

何かを忘れてるような…………。

 

 

『主、せめて幸せな夢の中で眠ってください。後は私があなたの願いを叶えます』

 

 

眠っているん? 私…………。

 

ああ、でもそれもええかも…………。

辛い現実よりここがええかも…………。

 

せやけど、なんか物足りへんのなんでやろ?

 

何が足りへんやろ…………。

 

私はそう考えながら、幸せな夢の世界を――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「足りないもの? それは筋肉だ!!」

 

 

 

――――ぶち壊された。というか強引に抜け出された。

 

 

「はやてよ! 足りないぞ 我という筋肉キャラが! なぜ我が出ない!?」

 

寝起きを叩き起こされたような感じな私は不機嫌になっていたので言い返した。

 

「あったりまえ!! 前の衛くんならまだしもなんや、そのキャラ! なんで変態になってんねん!?」

「変態で結構! 我が筋肉キャラであれば変態でいい!」

「肯定すんなやアホォォォォォ!!」

 

返せ! あの頃の衛くんを!

返せ! あの幸せな夢を!

 

「あの、主。今一度」

「あんたは黙っときぃ! 私はこの変態化した少年に言わなきゃあかんことあんねん!」

「よろしい。筋肉論破(マッスル・ロンパ)の始まりだ!」

「せやから、筋肉から抜け出さんかい!!」

「あの…………私は…………」

「「黙ってろ(や)」」

 

私達が真顔でそう言うと隅に行ってシクシク泣き始めた。

なんや、メンタル弱いなあの子。

 

とにかく私達はお互い譲れないものの言い争いを始めた。

 

絶対、元に戻したる!

 

 

 

 

(フェイトサイド)

 

 

 

 

幸せな世界だった。プレシア母さんがいて、リニスがいて、アルフがいて、アリシア姉さんがいる。

 

家族団欒で朝食をとり、外へ出かける。

 

私という存在が認められているようだった。

 

だけど……………………これでいいのかな?

 

何か忘れてないかな…………何か…………。

 

「せーかいだよフェイト。お姉ちゃんが花丸あげちゃう」

 

次の瞬間――――遊んでいたアリシア姉さんが魔法の槍で貫かれた。

そして、その次に母さんが。

 

次々と私の大切な人が串刺しにされた。

 

「誰が…………誰がやったの!?」

 

私はその怨敵を睨むように見た。

しかし、それはすぐに驚愕に変わった。

 

「やあやあ、久しぶりになるのかな。愛しの我が妹ちゃん」

「そんな…………だって…………」

「あんな幻想共と一緒にしないでよ。わたしが正真正銘のアリシア・テスタロッサだよん♪」

 

お茶目にウインクする彼女はとても恐ろしい何かに見えた私は尻餅をついて動けなかった。

 

「ありま。腰が抜けちゃった? もしかして感動のあまりに?」 

「いや感動のあまりに腰が抜けるって初めて聞くのだけど…………」

「それじゃあ、トイレが我慢できなくなったとか?」

「なんで是が是非でも恐ろしい何かを見てこうなったことを認めてくれないかな」

「それがお姉ちゃんクオリティだから!!」

 

「どうよ!?」と言わんばかりにサムアップするアリシア姉さん。

いや、一言感想言わせてもらうと何それなんだけど…………。

 

そんな呆れている私に姉さんは頬を掻きながら口を開いた。

 

「ま、わたしはフェイトに激励とママの遺言を伝えに着たんだよねー」

「ママのって…………もしかして母さんの?」

「イグザクトリー♪」

 

ウインクしながらアリシア姉さんが地に降りたって、私の手を引いて立たせる。

 

「あの人はわたしを生き帰らせようとして、成功した。けど、今度は帰り方がわかんないし、おまけにもう死に体だった。アルハザードの技術をもってしてもママの病気は治すことは難しく、しかも身体にとても負担がかかるものだった」

「じゃあ、母さんは…………」

「安らかに眠って埋めたよ。アルハザードにある墓場にね」

 

やっぱり、亡くなったんだ。

 

私はそれを知って絶望した。けど、そんな私に姉さんは手を握ってくれた。

 

「でもね。最期の最期にあの人は後悔してたよ。フェイト、あなたにひどいことをしたって…………」

「えっ?」

「『リニスの言う通りにしていれば良かった。フェイトをしっかり愛してやればよかった。それが唯一の未練だった』って言ってた。ママは後悔し、未練を残して逝ったんだよ。ま、わたしとしてなんで最初からそうしなかったって怒りと悲しみがあったけど」

 

そう言って背後を向いてケラケラと笑っていた。

けど、それが演技に見えた。

 

だって涙声だったから…………。

 

「だから遺言に『フェイト、今までごめんね。愛していたわ』って残した。あんまり、フェイトにとって実感わかないかもしれないけど、確かにそう言ってたよ」

 

実感したよ。私は愛されていた。

 

それがわかったとき、涙が湧いた。

だけど、力が湧いた。勇気が湧いた。

 

もう絶望しない。だから、どこまでもいける。

 

「およ? 持ち直しちゃった? んじゃ、激励はいらないかもねー」

「激励って、姉さん何を言うつもりだったの?」

「いんや、絶望してるフェイトに言いたかったんだよ。ある人が残した名言」

 

 

姉さんは一息入れて口に出した。

私はそれを聞いて別れのあいさつを済まして姉さんはここから出た。

 

姉さんは今、お世話になっている科学者のところに戻らないといけないらしかったから、別れは辛かった。

 

 

けど、姉さんの言葉は今でも思い出せる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『立って前を歩け。あなたには立派な足があるじゃないか』…………か。そうだね…………」

 

 

 

私には進むための足がある。

掴むための手がある。

胸には不屈の心がある。

 

だから私はバルディッシュを構えて、魔法を放つ。

 

「ありがとう、母さん。そして姉さん…………」

 

そう言って私は夢の世界から脱出した。




あの有名だった某漫画から抜粋した名言です。

この言葉はどん底に叩き落とされた自分達を激励しているように思います。
フェイトはこの作品のアンチ枠からたぶん抜けることでしょう。

…………ソラの敵になることに変わりありませんが。

そしてアリシアまさかの参戦。これは後の戦いの布石ななるでしょう。

次回、告白


――――忘れないでほしい。彼は変態だが、臆病な少年であると

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