雪が降りそうな夜空にて、三人の少年少女達と銀髪の女性が空中に浮いていた。
一人の少年と少女はボロボロでもう一人の少年は疲労で息を荒げている。女性はまだまだ余裕そうである。
ピリピリとした空気である。
そんな一触即発な状況の中に、飛行魔法を付与されたオレ達はそこに割り込む形で女性の前に現れた。
「綺麗な夜空になにしているのかな? あいにく今日はクリスマスイブだから良い子は帰るのが一番だぜ?」
「我が友!?」
「神威!?」
後ろの二人の驚愕の声を無視し、オレは神器をバトンのように回していると女性が聞いてきた。
「お前がソラか…………。主がお前のことに驚かされていたみたいだが全くその通りだ。お前の魔法はこちらの技術ではあまり使えない」
「真似事ができる辺りで充分なんだけどな。それで圧倒してたし。…………んで、大人しくしてくれないってお願いの返答は?」
「ノーだ。我が主の願いを叶えるため、お前も眠れ」
そう言って女性はオレに向けて雷のマジック――――『ボルト』を放つ。
オレの得意魔法を使えるのか…………。
オレはその攻撃を避けず、そのままにしていた。
なぜかって? 答えはすぐに起きた。
「君ごときの魔法じゃあ、ボクの盾は貫けないよー?」
千香は障壁でオレに向けられた魔法を防いだ。信頼できる戦友は揃っている。だから負ける気なんて全くない。
と、その前に…………。
「衛ーちょっとこっちに」
「我が友! 前だ!」
衛の声がした直後、そこで前を向くと、銀髪の女性がオレに本を向けて――――――――そしてオレはフェイトと同じように吸収された。
え、マジで? どうしよ。
☆☆☆
いつの間にか眠っていた。目を開けた。
そこには――――――――
――――死んだ師匠が目の前にいた。
めったに見せない笑みを浮かべてオレを撫でてくれた。
そういえば、子どもの頃によく頭を撫でられていたな。
――――目の前にバラバラに別れる前の優しい両親がいた。
その人達は優しい笑みを浮かべてオレを見てくれた。
そういえば、こうやって泣いてたオレを慰めてくれたっけ。
そこは幸せという夢のような世界だった。亡くなった友達もいた。亡くなった戦友がいた。
師匠はオレをまた撫でてくれた。
嬉しかった。そして――――――――
「消えろ幻想」
――――ムカついた。オレは神器を召喚し、師匠を切り裂いた。両親も切り裂いた。
彼らは「なぜ!?」という表情をしていた。そんなの簡単な話だろ。
「さんざん嫌というほどオレは現実を見てきた。だからこそ、幸せなこの世界が憎い。嫉妬するほどムカつく。だから全て壊す」
子どもの頃にあった理想と心は既に捨てた。殺された。
そう、オレは英雄。
「『無血の死神のソラ』だ」
全てを壊した後、オレはドコでもドアを展開して夢の世界から出た。
☆☆☆
「ただいまー」
「あ。おかえりー」
いつも通りにそういうとまどかは返事してくれた。
そんなまどかの返事を聞くと、銀髪の女性が驚いていた。
オイオイ、帰ってみるとさやかとシグナムが戦っており、他の連中も守護騎士達と戦っていた。
まどかの説明によると、管制人格の女性がオレ達を倒すために召喚したらしい。
どうやら蒐集した魔力から神器使い達の情報を得て、それを判断した上で召喚したようだ。ご苦労なことだ。
「なぜお前がここに!?」
「普通にドア開けて帰って来たのだけど?」
「普通じゃない! お前は幸せな夢を望まないのか!?」
「夢? ああ。あれのことね。ムカつくほど良い夢だったかもね。否定しない。あれは深層心理の願望かもな」
だけど、とオレは続ける。
「オレの夢はこいつらと馬鹿やって、笑って、泣いて、怒って、喜んでいられる今このときを生きてることだ。幸福な幻想ごときでオレは眠ってたまるかよ!」
そう言うと女性は悔しそうに歯を食い縛る。
んで、まどか。「プロポーズされちゃった…………!」とか言って頬を抑えてブンブン首を振るな。
プロポーズじゃねぇからな。…………そうだからな!
「うぅ、やっとソラくんのデレが見れて私は幸せだよぅー…………」
「はぁ、もういいや。衛ー、ちょっといいかー?」
衛はザフィーラと戦っていた。ザフィーラを蹴り飛ばした彼はこちらに振り向く。
「今、ザフィーラと筋肉で語り合っておる!! あとで――――って我が友!?」
「ちょっと八神起こして来て」
「しかし、そんなことが」
「できるからさっさと起こしてこい。異論は認めん」
オレはそう言って神器を衛に投げ渡した。
「お前が行きたい場所を思い浮かべろ。そしたらそれは応えてくれる」
「行きたい…………場所」
衛は目を瞑り、神器をなにもない空間に向けた。ザフィーラが妨害しようとするが、杏子が加勢にきて防がれる。
「我は、我が望むのは――――はやての夢」
ガチャリと音がしてドコでもドアが展開された。
「その扉に飛び込め! 八神がきっといるはずだから!」
オレの声に答えるかのように、衛はドアに飛び込んだ。
ドアは光の粒子となって消えて行った。
「まさか……その力で…………」
「そ。オレは吸収されても、すぐに出られるの。理解した」
「ならば、お前から消すまで」
物騒なことを言ってたくさんの魔法陣を展開する。
やれやれ、仕方ない……………………本気でいくか。
「まどか、『コネクト』って魔法知ってるか?」
「確か、千香ちゃんが自身の魔力を他者に供給させる魔法だって。はっ、まさか。ソラくんは私に魔力奴隷になれと!? だめだよ! 奴隷はソラくんの専売特許なんだよ!?」
「専売特許じゃないし、奴隷になれとか一言も言ってないし、とりあえず自重しろ!」
頭にチョッブを入れてから、オレは自分の魔力とまどかの魔力のラインを繋げる。
まあ、魔力タンクって意味なら間違ってないが。
「今回出すとっておきは、はっきり言って
「そうなの? でも大丈夫なの? ソラくんのとっておきってちょっと危険な気がする…………」
鋭いな。確かにリスクはある。なんせ、アレは筋肉痛を引き起こす神器だから。
「大丈夫。無茶はするけど、死にはしないさ」
そう言って頭を撫でて安心させる。さてと…………。
「待たせたな」
「なに、お前のとっておきが気になったからな。お前の神器はカギのような剣と知っている。確かに概念にすら干渉できるその力は危険だが、当たらなければ意味がない」
確かにそうだ。それは師匠にも指摘された。
だからこそのとっておき。
――――オレのもう一つの
「来い――――『閃光の衣』」
オレの声と共に、祭礼儀ように使われそうな黄色のマントが纏われる。光を表したようなマントである。
「馬鹿な…………神器は一人一つまでのはずだと!」
「後天的に得る人がいるんだよ。まあだいたいそれは奪った神器か、継承された神器さ」
オレの師匠は死ぬ直前にオレに神器を継承した。
『閃光』の名を持つこの神器を。その意思を。
「いくぜ」
オレは神器を構えて、銀髪の女性に突っ込んだ。
ソラが望むものはもうそこにありました。
だから幻想ではなく、現実を求めたのです。
彼は現実がどういうものかよく知っているから、今を大切にしたいのです。
次回、戦いと夢の中で再会。
――――彼は英雄だ。ならば魔王という名の公式チートに負ける道理などない……はず